1.《ネタバレ》 シリーズのショーランナーを務めてきたボー・ウィリモンが本シーズンより降板したとのことですが、その抜けた穴の大きさを実感させられるシーズン5でした。面白いことには面白いのですが、普通に見られる平均作レベルに落ちてしまったという印象であり、非常にポテンシャルの高い本シリーズに要求される水準には達していません。
本シーズンは大統領選が描かれる前半パートと、フランクが過去に犯してきた不正や犯罪行為がついに周知のこととなり追及に晒される後半パートに大分されますが、どちらのパートにおいても「フランクが追い込まれる→ありえない対応策で危機を乗り切る」という展開に単調さがあり、危機また危機で煽れば煽るほど緊張感が失われるという負のスパイラルに陥っています。致命的だったのはフランク側の対応策に知性や意外性が欠けていたことであり、臭い物にはフタをする、都合の悪い奴は殺すという対応は本シリーズに求められているものからはかけ離れています。勢いと緻密さが奇跡的な配合となっていた前シーズンから緻密さが抜け落ちてしまったという印象であり、ボー・ウィリモンの偉大さをつくづく感じさせられました。
また、シリーズの名物であった視聴者に対する語り掛けも随分と様変わりしています。節目節目で一言二言毒のある発言をすることが本シリーズにおける語り掛けの良さだったのですが、本作では視聴者相手にダラダラと状況説明をするようになり、もはや「世にも奇妙な物語」のタモリみたいになっています。こちらでもかなり興を削がれました。
キャラクター劇としてもイマイチで、何人かのキャラクターが別人のようになっています。
まずフランク。確かに彼は腹に一物持った悪人ですが、それでもその最終目標は「自分の手でレガシーを作ること」であり、実際にシーズン3では福祉政策の大転換に挑んでいました。達成のための手段を選ばないという姿勢にこそ問題はあれど、そもそもの目標は公益性を伴ったものであり、だからこそ視聴者はこの人物を愛していたはず。しかし本シーズンではそうした目標すら失い、ただ権力にしがみつくだけの私利私欲の塊と化しています。挙句に、自分は表舞台から消え去り、国民人気のあるクレア政権に対する院政を敷いて権力を維持すると言い出す始末であり、これではシリーズを通して彼が批判してきた金の亡者達と大差ありません。最低限の美学すら失ったフランクを、私は支持できませんでした。
次にクレア。彼女とトム・イェイツの関係性は欲求不満を紛らわせるための愛人という上から目線のものであり、その冷徹さの中にこそ彼女の超越性が宿っていたというのに、本作ではトムにハートまで持っていかれた様子を見せるために、彼女の魅力が随分と失われています。トムはトムで、自分の立ち位置を瞬時に理解する知性を持ちながらも、退廃性に身をゆだねてフランクの犬・クレアの愛人に成り下がっているという実に味のあるキャラクターだったはずなのに、本作では単なるエロキャラに見えてしまっています。挙句に、あのみっともない最期ですから、魅力あるキャラに随分と勿体ない扱いをしたものだと残念な気分になりました。
そして、一番変化が激しかったのが選挙参謀・リアン・ハーヴェイであり、融通の利かないキレ者だったはずの彼女が、本作では「私を切らないでください」と懇願するだけの被害者キャラに成り下がっています。強者同士の蹴落とし合いが見どころの本作に、弱者キャラは不要です。