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【製作国 : アメリカ 抽出】 >> 製作国別レビュー統計
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1.  パシフィック・リム 《ネタバレ》 
異星人が次々と送りだしてくる怪獣を、人が巨大メカを操縦して撃退する本格的怪獣映画。最新技術を駆使して、怪獣とメカの戦いという“絵空事”を大真面目で製作するという姿勢に心打たれた。それも日本と米国の怪獣・メカ文化の伝統に則っており、「怪獣・メカ好き」の心の琴線に触れる作品に仕上がっている。監督は間違いなく“少年の心”を持っている。視覚的には文句なし。巨大感、重量感、臨場感が見事に体現できている。怪獣とメカが巻き上げる水飛沫や土埃を細部まで描き、複数の照明で明暗を際立たせ、前景に鳥、魚、車など尺度の分かる物を配し、雨、雪、火の粉を降らせて奥行きを出している。飛び道具はほとんど使用せず、肉弾戦で闘うことにこだわりがある。体感型の映画で、特撮の見本だ。戦闘場面の迫力ありすぎて見落としがちだが、人物描写にも時間を割いている。家族との死別、精神的外傷の克服、育ての親と子のつながり、怪獣への復讐心、恋愛、協調と信頼の大切さを学ぶ、仲の悪い者が仲直りする、引退操縦士の復帰、病気を隠す、自己犠牲と盛り込んでいる。特に、二人が同期しないと操縦出来ないなど、協調と信頼に重きを置いている。人類が力を合わせて怪獣を倒すという命題の象徴だ。加えて、生物博士、数理博士、闇商人という個性豊かな人物が登場する。彼等に諧謔や道化の役割を持たせて、観客に一息つかせ、同時に世界観を広げることに成功している。彼等は安直な脇役ではなく、怪獣の最大の秘密を探し当てるという重要な役目を果たす。特に新味は無いが、どの人物も手際よく描きわけている。核兵器で倒せるのなら核ミサイルで攻撃せよ、海底に核弾頭を運ぶのなら潜水艦だろう、怪獣防護壁が脆弱すぎる等の点には目をつぶるしかない。説明の無い部分はそういう世界観だと納得して観るしかない。それぞれのメカに個性があり、メカ愛があるのは分かるが、怪獣愛は日本人のそれとは違う。日本の怪獣は、恐怖と破壊をもたらし、忌み嫌われるだけの存在ではなく、恐竜や爬虫類が巨大化した生物でもない。どの生物とも違い、さほど醜くなく、造形美を供え、どこか愛嬌があって、人間味さえ感じられる。その人形を部屋に飾って置きたくなるものだ。本作品では「人類の危機」を強調する余りか、怪獣を醜悪に描きすぎている。殺害方法も血腥く、むごたらしい。本当の怪獣は、応援したくなるもので、死ぬ怪獣に憐みを持つのが日本人だ。
[DVD(字幕)] 10点(2015-02-09 04:59:15)(良:2票)
2.  タワーリング・インフェルノ 《ネタバレ》 
超高層ビルで火災が発生し、逃げ場の無い最上階の人達をどう救助するかというパニック映画。パニック映画ということを忘れさせてくれるほど濃厚な人間劇が展開される。特撮よりこちらの方が白眉だ。死を覚悟し、自分は詐欺師であると告白する老詐欺師。それを聞いて「知っていたわ」と許す未亡人。鎮火後、老詐欺師は未亡人を探すが、彼女は転落死しており、助かった猫を渡される。これだけで一本の映画になる。密かな恋愛関係にあった上司と秘書。気付いたときは煙が充満していた。「昔は短距離選手だった」と、助けを呼びに駈け出した上司は火達磨になり、秘書も炎上転落する。二人の恋愛は誰にも知れることなく終わった。バーテンダーは非常時でも平常心で仕事をこなし、子供の面倒もみる。地味だが忘れがたい存在だ。火災の原因は、ビルのオーナーの娘婿が施工した手抜き工事と電線を規格以下に変更した所為だ。だがこれには、オーナーから経費節減を迫られ、実際、オーナーはビル建設で娘婿以上の上前をはねているという背景があり複雑だ。設計者ダグは、設計責任者でありながら数週間も旅行に出ていた。火災が発生してからスプリンクラーが動作しないとか、廃棄セメントで非常扉が開かないことを発見しても遅いのである。それでも彼は八面六臂の活躍で、人々の救助にあたる。その中には彼の恋人もいる。消防隊長は給水塔の爆破を命じられるが、戻る手段のない危険な任務だ。男らしく唯々諾々と従うが、胸底では自分の運命を呪ったことだろう。火災が次々と延焼拡大し、それに従って救出手段が変るところが事新しい。内部エレベーター、展望エレベーター、屋上に救助ヘリ、隣のビルへワイヤーで吊るす救命籠、ヘリでエレベーターを吊り下げる。極めつけは給水塔の爆破による鎮火だ。よく思い付いたものと思う。この奇抜な着想がこの作品に命を吹き込んでいる。数分間に渡る爆発散水場面は圧巻である。火災原因が手抜き工事という人災という点が怖ろしい。対岸の火事ではなく、身近な問題として感じられるのだ。この点が、今日でもこの作品が新鮮さを失わない要因だろう。「今日は二百人の死者で幸運だった。いつか一万人以上の死者が出るだろう」の言葉には現実味がある。色褪せることのない傑作だ。文化の違いを感じたのは、事務所に寝台があり、情事を楽しんでいる点。違和感があるのは、女性が椅子で窓硝子を叩き割るところ。
[映画館(字幕)] 10点(2015-01-13 23:01:21)(良:1票)
3.  チャップリンの独裁者 《ネタバレ》 
恐怖の独裁者ヒットラーを徹底的に茶化す。稀代の喜劇王チャップリンの面目躍如たる作品だ。 政治を風刺した映画の中で最も完成度が高く、永遠に語り継がれる作品だろう。 作品の本質は喜劇。そこは世界に冠たる喜劇王のこと、千姿万態の職人芸で何度も笑わせてくれる。最後の感動的な演説を度外視しても十分楽しめる作品に仕上がっている。特に世界地図の風船が爆発する場面はぞっとするほど風刺が利いている。 チャップリンは、喜劇と悲劇は表裏一体であることを信条として作品に体現してきた。ここでの悲劇は個人的なものではなく、「人類愛と民主主義の消滅」という人類の悲劇だ。 製作当時、民主主義撲滅と民族浄化を掲げるナチス・ドイツによる世界蹂躙戦争によって、人類愛と民主主義は危機に瀕していた。それに対する心の叫びが最後の演説となった。役を捨てて素をさらけ出すという禁じ手を用いてまでも訴える必要を感じたのは、それだけ危機感を募らせており、一有名人として世界に訴える責任を感じていたからだろう。いわば止むに止まれぬ良心の吐露だ。世界中に独裁主義の暗雲が吹き荒れる中、その心情は察するに余りある。 映画の成功の要因の一つに、最初と最後に演説を対比させる構成の妙がある。一方は意味不明のでたらめ語、一方は床屋役を捨て去って真摯に人類愛を説き、天国の母に希望を誓うチャップリンの心の声。この対比により両者の違いが際立つ。 映画は床屋の戦闘場面で始まる。これは被害者である床屋も、かつては戦争に加担する兵士だったという皮肉を込めている。政治に流されたままで、自ら声を出して民主主義のために戦わなければ、いつかは戦争に巻き込まれてしまうという危惧と反省の表明だ。 映画中盤で、ユダヤの女性が親衛隊に親切にされて驚く場面がある。人種は違っても、同じ人間だから同情もすれば、共感もする。困った人を見ると助けたい。そこには希望がある。最後の演説がなくとも、同様の趣旨がきちんと描かれている。 常に市井の人々の視線で作品を撮り続けてきた巨匠だからこそなしえた作品であるに違いない。躊躇せずに「偉大な作品」と呼べる。 気になる点は、床屋が20年間も保管されていた点、風船の場面の切り替えで足の位置が合わない点、ナチスを想起させるワグナーのローエングリンを演説の最後に使った点。 
[DVD(字幕)] 10点(2014-09-01 17:28:03)
4.  ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還 - スペシャル・エクステンデッド・エディション - 《ネタバレ》 
CGによる特撮効果の長所・美点が遺憾なく発揮されたファンタジーの最高峰。 単純な戦記ものに留まらず、独自の世界観が具現され、複雑な人間ドラマ・心理ドラマを基底に展開し、人間の本質に迫る重厚で深みのある作品となっている。これを越える作品は当分現れないだろう。あえて穿った見方をしてみる。 ◆最大の疑問は、闇の冥王サウロンと指輪の関係。「指輪が破壊されるとサウロンも滅びる」のはどうしてか?あっけなさすぎるではないか。且つ、王国の城と土地まで崩壊、地下に埋没してしまうという理由が説明されていない。指輪にはサウロンの魂(生命力)が宿っているが、サウロンの魂は指輪なしでも復活したはず。両者が同時に滅びるほどの強い絆を持つ運命共同体であるならば、サウロンは指輪のありかを常に知り得るはずだ。誰かが指輪をしたときだけ知り得るとしても、ゴラムもバギンズも何度か指輪をはめたはずである。どうして存在と場所を知られずにすんだのか。指輪の方ではサウロンに近づくと重くなることから、確実にサウロンの居場所を把握しているのに。また指輪が滅びの火口に近づいているのを知りながら、どうして防御を固めないのか。危機管理がなっていない。 ◆ゴラムは、指輪をホビットのバギンズに盗まれたとどうして知ったのか?知りながら、どうして60年間もほうっておいたのか。 ◆魔法使いガンドルフが大鷲(鷲の王)を使えるのならば、最初から指輪運びに利用すればよいものを。運び人は欲望の少ないホビットでないと務まらないので、彼を大鷲に乗せて火口近くまで運べば、ことは速やかに進んだと思われる。もし発見されたとしても戦闘能力は龍よりも上なので、安心はできる。少なくとも道に不案内なホビットが徒歩でいくより確実な方法だろう。 ◆悪の賢者サルマンは、戦闘要員として、何万ものウルク=ハイ(新種のオーク)を土中から製造する。進退極まったアラゴルンが援助を求めたのが「死者の軍団」。これらは「限りある生命」を超越した存在なので、彼らが活躍しようが、戦死しようが感情移入しにくい。「限りある生命」の大切さを教える物語であってほしい。 ◆サルマンは、手下に塔から突き落とされて串刺し死するが、あっけなさすぎである。 ◆樹木の精「エント」の造形がかっこよくない。ここだけ、まるで安っぽい漫画だ。
[DVD(字幕)] 10点(2012-11-11 15:39:27)
5.  キング・コング(1933) 《ネタバレ》 
無駄のない構成に感服。まずスカル島に到着するまでの序章がテンポよい。ジャングル映画監督の特異な性格が示され、運よく不遇の美女タレントがスカウトされ、恋を知らなかった荒くれ船員が美女と恋に落ちる。次に原住民との遭遇⇒美女が原住民にさらわれる⇒コングが美女を連れ去る⇒美女奪回のため島の奥地へ⇒恐竜との遭遇⇒コングと恐竜達との壮絶バトル展開⇒美女奪還⇒コング捕獲と休む暇がない。ここで終わっても冒険物語は成立する。当時流行していたジャングルもの、南洋ものと呼ばれる小説や映画の多くがそうだった。本作は、このあとコングをニューヨークに連れていくことで名作となりえた。「コングを見世物にして金儲けする」という人間の欲望、これを描くのにニューヨークはぴったりの街である。自然との調和を忘れ、欲望に溺れ、堕落した人間達に、神の使いであるコングが天罰を加える。経済発展を謳歌していた米国で世界恐慌が発生した直後の制作で、コングは当時の人が無意識に持っていた罪意識の象徴として映ったのに違いない。これが現在にも通じることで、今でも色褪せない理由の一つがここにあると思う。美女を取り戻したコングは高層ビルの天辺に避難する。だがそこに安住の地はない。文明の利器である飛行機と機関銃が襲い掛かる。スカル島では怖いものなしだったコングもこれには勝てず、墜落死する。人間を襲った罪として、今度はコングが罰せられたのだ。欲望とそれを律する心のせめぎあいを見事に表現している。もう一つの主題は恋愛という不思議さ。いくらコングが美女を愛しても、その愛が報われることはない。コングは美女の守護者であると同時に永遠の失恋者。美女に恋しても相手は振り向いてもくれない経験を持つ男性は多い筈で、身につまされる。野獣のコング相手に感情移入できる所以だ。失恋男の哀れさが憐みを誘う。美女に惚れなければこのような悲劇は起きなかった。「飛行機ではない、美女が野獣を仕留めたのだ」の詞は的を得ている。副題の「the eighth wonder of the world」はコングであり、恋愛である。鑑賞後冒頭の諺がしみじみと想起された。「預言者曰く。見よ、野獣は美女の顔を見て、殺そうとして伸ばした腕を止めた。その日以来野獣は死んだも同然となった」野獣でさえもこうだ。どんな人間でも美を愛でる優しさ、人間らしさを持つ。コングよ安らかに眠れ!
[DVD(字幕)] 10点(2012-07-01 01:27:53)(良:3票)
6.  アバター(2009) 《ネタバレ》 
キャメロン監督は前作「タイタニック」のあと、ドラマ「ダークエンジェル」を製作して一線を退き、3D技術の開発に意欲を燃やした。苦節10年で技術が完成、ようやく製作された本映画。予告ではダメ映画の予感がしたが、実際観てみると驚嘆するほどの出来栄えに溜飲が下がる思いがした。脱帽である。娯楽性と芸術性、人間ドラマが融合した完璧に近い脚本に拍手。バランスの取り具合が絶妙なのだ。ハリウッド娯楽SF作品によくあるジョークやおしゃらけなど微塵もない真摯な作品で、どちらが善悪ともいいがたく、自然と共生するとはどういうことかを深く考えさせる哲学的な要素が作品に深みを加えている。脊髄損傷で歩行できない主人公が、アバタープログラムにより、自由に動けるようになり、新し人生に踏み込むという設定がよい。それだけでカタルシスを得られるのだ。トルークマクト(大龍)や父から貰う弓矢などの伏線もうまい。そしてキャメロン監督が得意な、しつこいほど続く戦闘シーンも健在で嬉しくなる。これが成功の第一の要因。次は美術。異星の多種多様な生物群、自然景観が美しい。どれも独創性が高く、大変洗練されている。龍に乗った飛翔シーンだけも一大スペクタクルである。これを見るだけでも価値があろうというもの。そして3D技術の見事さ。映画史上に残る金字塔を打ち立てたと思う。3D元年と言われるが、これを超える作品がいつ出てくるのやら。2Dを含めても、何年も待たされそうだ。■不満もある。「もののけ姫」「ナウシカ」「ダンスウィズウルブス」のいいとこどりのように見える。大佐やおばか上司など悪者キャラが典型的すぎる。もっと人間味を出せばずっと良くなった。彼らの言い分に斟酌すべき要素を持たせ、時に良心の呵責を起こさせるなど人間臭さを出すべきだったろう。これでは「もののけ姫」「ナウシカ」の表面しかなぞっていないと言われても仕方がない。力と力の戦いになりすぎているのは残念。自然と人間との戦いという要素がもっとあれば、壮大な抒情詩になっただろう。樹同士のネットワークや女博士が死んでエイワと一緒になったなどの伏線は張られていたのだから。動物たちが援軍に来るだけでは物足らない。最後は大団円というわけではなく、あれではまた地球から攻めてくるなと不安が残る。続編への伏線なのだろうか。■文句なしの10点。この映画を映画館で見たことを誇りに思います。
[映画館(字幕)] 10点(2010-03-03 11:53:31)
7.  エクソシスト ディレクターズカット版 《ネタバレ》 
ホラー映画を全世界に知らしめた金字塔的作品。考古学者のメリン神父は、イラクで悪魔像や聖コインを発掘。悪魔が復活し、エクソシストとして再びと対決する日が近いのを知る。犬のケンカ、片目の男、突然の馬車の出現、夕日の中での悪魔像との対峙など演出が冴える。カラス神父はボクサーで精神科に学ぶが、神父の道を選んだ。だが今は、信仰の危機を抱えている。ホームレスの声に耳も貸さない。老母はぼろアパートで健康不安を抱え、独り暮らし。ある日倒れて病院に運ばれたが、精神病棟。私立病院に入院させるお金がないのだ。母にののしられ、親子の断絶。続く母の孤独死。神は存在するのか?カラスの心の善と悪の闘いが、映画の大きなモチーフ。リーガンは女優の娘で経済的にも恵まれ、明るい性格。だが父親の不在(離婚)が暗い影を落す。父に取って代わろうとするバーグ(監督)を気にし、父を電話でののしる母の声に心を痛める。母クリスは娘を狂おしいほどに愛しており、娘を何とか助けたいと様々な療法を試みるが、どれも成功しない。精神的に追い詰められてゆく様子が詳細に描かれる。彼女の悩み、苦しみが見るものを感情移入させる。母子の愛情物語でもある。カラス神父はクリスに相談されるが、憑依を信じない。リーガンの口から母の声、ホームレスの声を聞くが、半信半疑。悪魔が聖水に騙されたふりをすると、憑依ではないと結論づける。信仰のゆらぎが判断を鈍らせているのだ。だが、テープの逆回転で悪魔が少女を殺そうとしているのを知り、少女がお腹に水ぶくれの文字で助けてと必死に訴えるのを目にすると、信仰が蘇り、対決を決意。メリル神父登場。悪魔との壮絶な闘いに自信を失うカラス。「あんないい子なのにどうして憑依されるのか?」メリルが答える。「我々を絶望させるためだ。自分が獣のように心が醜く、神の愛に値しないと思わせるため」誰の心にも悪魔が忍びこむ隙がある。この映画の本当の怖さはここにある。再び信仰を取り戻すカラスだが、メリルは持病の心臓発作で死ぬ。カラスは少女を助けるため、唯一できることをする。自分の身を犠牲にするのだ。カラス神父の魂の救済の物語でもある。刑事もいい味を出している。残念なのは、たった二人で儀式を行ったこと。大勢ですれば、もっと盛り上がった。ところで、テープ解析する部屋の看板に「TASUKETE!」と書いてあるのに気づいただろうか?
[DVD(字幕)] 10点(2009-10-13 12:29:59)(良:2票)
8.  エイリアン2/完全版 《ネタバレ》 
「息をもつかせぬ」「手に汗にぎる」という形容詞がこれほどぴったりする映画はない。前半の長い”ため”、後半の危機に継ぐ危機の連続。心臓が持ちません。SFアクション映画の最高峰。少女が重要な役割を果たす。前作の事件から生還したリプリーだが、人工睡眠で57年も経過。娘は66歳で既に死亡。「11歳の誕生日までに帰ると約束したのに」と涙する。悪夢にうなされる毎日。”悪夢”と対決するために、再びLV426惑星へ。唯一の生存者の少女を発見。娘を思い出したリプリーは母親の顔に。偵察機が墜落して、みな絶望していたとき、「基地に戻ったほうがよい、彼らは夜にやってくるから」と大人顔負けのアドバイスをする少女。だが夜は悪夢を見るので眠れないと怯える。リプリーは自分と同様悪夢に悩む少女に共感を抱く。「怖くないわ」「大人はどうして嘘をつくの?誰も守ってくれなかった」「どこへも行かないわ、約束する」「神に誓って?」「神に誓って」安心して眠る少女。自分の娘との約束のこともあり、リプリーはこの約束を命をかけて守ります。少女は守られるだけではなく、空気孔を道案内するなど活躍。派手なアクションシーンにばかり目が向きがちですが、こうした人間ドラマもよく描かれています。もう一つ。男勝りのバスケスは最初から隊長を臆病者呼ばわり。でも隊長は最後に勇気を見せ、彼女を助けに戻ります。が、果たせず、自爆する二人。重なった手が友情の印。そして、この自爆が少女がエイリアンに攫われる起因になるという無駄のない”つなぎ”。本当にうまい!又二作越しのリプリーと合成人間との仲直りというドラマも見逃せません。残念なのはバークのキャラ。彼はお金のために仲間の生命を奪うのも厭いませんが、そういう冷徹な人間として描かれていなかったので、違和感があります。冷酷で傲慢であるという性格の伏線が欲しかったです。あと母船が無人だったり、ビショップが最初の攻撃の間ずっと姿を見せないのが気になりました。女性がこれほど活躍するのはこれ以前に例がなく、女性賛美の映画ともいえます。
[DVD(吹替)] 10点(2009-10-04 06:14:19)(良:1票)
9.  チャップリンの殺人狂時代 《ネタバレ》 
ヴェルドゥは30年間真面目に銀行に勤めていたが、戦争による不況のあおりでクビになり、苦悩と混乱の中、妻子を養うためのビジネスとして殺人を選ぶ。偶然出会った娘を毒薬の実験に使おうと食事に誘う。娘は彼と似た境遇だった。戦争で不治の病となった夫の世話をしていたが、お金に窮し、窃盗をして入獄。入獄中に夫は死亡した。愛を信じないというヴェルドゥに娘は言う。「愛は犠牲、母が子に感じるように。愛を信じる、子供のように。夫のことは信仰で生きがいだった。夫のためなら殺人だってしたわ。愛は信実で深いもの」ヴェルドゥは苦笑する。それは彼がかつて信じていた愛だったから。「愛を信じすぎてはいけない。冷たい世間と闘わなくては」と忠告。娘は答える「希望を失いかけていたけど改めて信じたくなった。冷たくて醜い世間だけど親切が美しくするわ」娘に自分の姿を見たヴェルドゥは殺人をやめ、金銭を恵む。数年後に再会。ヴェルドゥは株で破産し、妻子を失っていた。娘は軍需産業の社長の愛人となり、裕福な生活を送っていた。ヴェルドゥは言う。「今の方が幸せ。恐怖と不安から逃れられるから。悪夢の世界から覚めた気分。失意は心の感覚を麻痺させる。人生を捨てたい気分だ」娘は言う。「人生を捨ててはだめ。人生に退屈はないわ。運命に従って生きるのよ」ヴェルドゥはこの運命の言葉に従い自首する。裁判で「みなさんにすぐに会いますよ」と発言するが、これは同じ罪悪の時代を生きているので、死後行き着く先は同じという意味。死刑前に今まで飲んだことがないと言ってラム酒を飲むが、これは好奇心が残っていることで、人生に希望を失っていないこと。ラム酒は希望の象徴。それを飲んだあと、陽が射して明るくなる。愛を信じる心を取り戻した瞬間だ。心憎い演出である。娘とヴェルドゥはコインの表と裏、善と悪、太陽と夜。両者の運命に戦争が大きく関わることで、戦争を支持する社会への強烈な風刺となっている。数百万人単位で人が死ぬ戦争を批判するには、大量殺人をしてみせる必要があった。毒には毒をである。実在した殺人鬼の話を元に、ここまで昇華させるのは天才の所業。たっぷりの毒と笑いと愛を堪能あれ。孤高の人、チャップリンでしか成し得ない不滅の偉業である。
[ビデオ(字幕)] 10点(2009-09-24 23:13:48)
10.  2001年宇宙の旅 《ネタバレ》 
人類の叡知を遥かに越えた未知の高度知的生命体がある。「神」に近いが、「神」では誤解を招くのでXと仮称する。Xは400万年以上前に地球に飛来し、第1モノリスを設置。Xが地球に生命の芽を植えつけたのかは不明。BC400万年に原人が第1モノリスを発見し、触れた。これでモノリスが原人の意識に作用し、原人は知的進化を遂げ、道具を使うようになる。道具の象徴である骨を投げると瞬時に宇宙船に変貌する。Xにとって数百万年は一瞬のこと。月で第2モノリスを発見。人が触れると(太陽に触れると)木星に信号を発した。第2モノリスは、人類が月に到達するレベルにまで進化したことを第3モノリスに知らせる発信機。木星探査の宇宙船が木星に近づく。探査目的はモノリスだが、添乗員には秘密。パニックを恐れたためだ。探査目的の秘密と、添乗員の命令に従うことは相反するので、宇宙船を制御する万能コンピュータHALは矛盾を抱えた。故に異常をきたし、エラーを起こす。添乗員が自分の抹殺を企んでいるのを知ると、逆に彼らを抹殺しようとする。ボウマンはただ一人生き残り、HALの切り離しに成功。そのとき本当の探査目的を知る。宇宙船が第3モノリスに近づくとスターゲイトが開き、異次元空間(他銀河)に移動、ボウマンは肉体を離れ、意識だけの状態に。そこでは時間軸がゆがみ、高齢の自分、死の直前の自分もいた。来世では宇宙を漂う赤ん坊に。人類は新たなる進化の段階を迎え、肉体を持たず、意識だけの知的存在に。それの象徴としてスターチャイルドが映し出される。HALの反乱は、万能を誇る人類の叡知もいまだ不完全であることの象徴。だから進化しなければならないのだ。この映画の最大の特徴は、神に近い知的生命体が人類を産み、進化させているという概念の提示。これは衝撃的。鑑賞後そら恐ろしいほどの畏敬の念に打たれるのは、それが同時に神の存在も身近に感じさせるからだ。会話や解説は極力廃し、映像と音により無意識に直接働きかける斬新な手法。数百万年単位で繰り広げられる、人類の誕生と進化の壮大な物語。美しいデザインと高い芸術性。宇宙船が子宮なら、HALは母。母を越えて、新しい人類の誕生。象徴性に富む内容。Xの概念が、実際の人類の意識の進化に貢献しているように思える。今もなお観る者に衝撃を与え続ける。映画を越えた映画、傑作中の傑作。最大の賛辞を込めて言おう。この映画がモノリスそのものなのだ!
[DVD(字幕)] 10点(2009-09-24 09:00:15)(笑:2票) (良:8票)
11.  エデンの東(1955) 《ネタバレ》 
父は信心深く、理想・道徳主義者。自分を抑え付けて生きるのが正しいと信じている。家族にもそれを強いた為、妻は出て行き、キャルはひねくれた。人の為の理想事業は失敗。戦争には反対しない愛国主義者。が、徴兵委員となり、若者を戦場へ送る役を担うことで矛盾を抱える。 兄アダムは父の鋳型にはまった人間。弟を嫌うが、表面上は仲良し。アブラを愛しているが、彼女に理想の母親像を求めているだけ。戦争は反人道的と嫌悪。父以上の理想主義。だが非力で、民衆に襲われた独人靴屋を助けられず、恋人の愛が弟に傾いたことを知ると強引に婚約宣言。母の実態を知ると自暴自棄になり、自分を傷つけるため戦場へ。実態は最ももろい人間。 キャルは自分は悪い子であると思いながら育った。彼の行動原理は父に愛されたいということと、自分を知るための母親探し。思春期の若者の未熟さ、危うさ、不安定さ、粗暴さ、繊細さを併せ持ち、とても人間臭い。母を受容し、父を救う大金を得るために戦争を利用する。 アブラは愛を知る人間。少女のとき父の再婚が許せず、指輪を捨てるが、それを機に父を許せるようになった。心が傷ついたことで、父を理想の存在とみず、一人の人間として受容出来たのだ。アダムを愛しているが、その人間性に退屈さも感じてもいる。本音を語り合った泣き笑いが出来ないのだ。 母は自由奔放な人間。何より束縛を嫌う。夫から逃げ出し、恐らく売春婦に身をやつした。一切の愛を断ち切り、事業の鬼と化し、売春宿を経営。キャルがお金を無心に来たときに初めて母親らしい一面を見せる。泣ける場面だ。 キャルの復讐の結果、兄は戦場へ、父は卒中に。キャルは家を去ろうとする。アブラは訴える。「愛されないことより辛いことはありません。キャルを許してあげてとはいいません。彼に何かを求めてあげてください」愛の本質だ。対等の立場でなければ、本当の愛は生まれず、求められてこそ自分の価値に気が付く。 看護婦は結果としてグッジョブ。彼女への共通の怒りが父子の和解の端緒となった。ささいなことでも和解の糸口となれるというよい見本で、秀逸の演出。 アダムは訓練中に、父の事を知って戻ってくるだろう。キャルを許すだろうか?和解した二人の姿を見れば当然許すだろう。だが、アブラの愛は戻らない。靴屋が戦死通知を読む場面など、反戦映画としても出色。
[DVD(字幕)] 10点(2009-05-03 09:00:44)(良:2票)
12.  ザ・ロック 《ネタバレ》 
完成度の高い娯楽アクション作品と思います。敵が強ければ強いほど面白くなるのですが、ここでは米国の現役海兵隊員、ボスのハメルはベトナム戦争の英雄。反乱に到った経緯も描かれており感情移入できます。少女を逃がしてやったり、侵入兵士に情けをかけてやったり、人情派でもあります。これが「ダイ・ハード」などの善悪完全対決型映画と違うところ。 これを迎えうつ正義の味方が、ちょと頼りなくて、ビートルズマニアのFBI化学兵器スペシャリストのグッドスピード。個性があっていいですね。妊娠している婚約者が人質同然となります。二人が愛し合っているのを丁寧に描いていますから、感情移入しますね。 そして成功の鍵を握る人物が、刑務所にいる老いた元英国諜報部員メイスン。占拠された場所がアルカトラスで、そこをかつて脱出したことがある経験の持ち主。この設定は秀逸。今回は脱出ではなく、侵入という奇抜さ。後半で牢屋からの脱出方法も見せてくれます。最初は協力をこばみ、脱走をします。が、ただ逃げるのではなく娘に会うためというのが泣かせます。やがて捕まり、グッドスピードに恩義を感じたのと、娘がやはり人質同然となることから協力するようになります。そしてこの人物が超人的な活躍を見せるのですから、誰しもこの人物にも感情移入してしまうでしょう。彼が刑務所に入れられた経緯にも同情できるようになっています。 侵入してすぐに二人だけになってしまうのですが、その後の展開はややご都合主義が見え隠れしますね。ここがちょっと残念なところ。それでも何度訪れる危機を何とか乗り切ってゆく姿には魅せられます。 最後のミサイルの発射になってからも緊張感は持続します。一発目がハメルの心変わりで逸れて海底へ、二番目はロケットマン。グッドスピードの成功の連絡が遅れて、味方のプラズマ弾が命中しますが、奇跡的に助かります。これもメイソンを逃がす口実になります。実に、うまいですね。 そして最後の味付として、フーバーFBI長官の秘密のマイクロフィルムがあります。 興味がありますね。 難点をいえば、あの毒ガスの装填方法でしょう。葡萄のようにぶらさげた状態にしておく理由がありません。誤爆を防ぐために、しっかりと固定されていなければなりません。 とはいえ、さまざまの伏線がいかされていることを考慮し、この点数です。
[ビデオ(吹替)] 10点(2009-02-02 03:04:31)(良:2票)
13.  ゼロ・グラビティ 《ネタバレ》 
女性宇宙飛行士ライアンが、宇宙災害から生還を果たす物語。無重力状態をほぼ完璧に再現した新撮影技術は実に天晴れ。視点がぐるぐる回る長回し撮影の末に保護帽の中に入る躍動的な演出も斬新で面白い。背景、構図、角度、美しく魅せる技量に長けている。ライアンは娘の死後、無信仰、仕事一筋で通してきた。人間関係も希薄で、同僚マットの出身地や目の色も知らない。船外活動中に、宇宙塵が衝突して船が損傷、彼女は衝撃で宇宙に放り出される。マットに捕獲され、駅まで到達するも、壁に衝突して飛ばされそうになり、かろうじて紐に捕まるが、二人では助からないと悟ったマットは「必ず生還しろ」と、自ら手を離す。漸く船に乗り込むも、燃料切。諦めた時マットの幻影が現れ、「娘は死んだ。最大の悲劇だ。だが、もう逃げるな。くよくよせず旅を楽しめ。生還して大地を踏みしめろ」と鼓舞する。死を覚悟した時、マットを思い出し、自らの命を犠牲にまでして助けてくれた気持ちを無駄にはできないと感じた瞬間、生への強い執着が芽生えたのだ。そして、仲間と娘の死を乗り越え、「結果はどうであれ、これは最高の旅」という境地に達し、生まれ変わっていく。それを、赤ん坊の声が聞こえたり、彼女が胎児の姿を取ったり、羊水に見立てた水中を泳いだりと、暗喩的に表現する。生還した彼女は、弱った筋肉で辛うじて自分の体重を支え、立ち上がり、大地を踏みしめる。重力が無ければ生命は生まれないのだ。尚、マットの毛深い男の落ちは、マルディグラ・ココナッツのことだろう。人ではなかったという話。残念な点。ライアンが避難命令にすぐに従わずに遅れたので宇宙塵に襲われ、マットが宇宙遊泳を楽しんでいたので燃料切れとなったが、こういう描写は不要で、二人に過失が無いように描くべきだ。過失があると、感情移入しにくい。早くからライアン一人しか居なくなるので、結論が見えてしまう。複数人居て、次々に脱落していく筋書の方が望ましい。マットは助けるべきだと思う。彼の犠牲があって生還出来たのでは寂しい。瀕死の彼を助けて無事生還出来れば最高の幕切れが迎えられただろう。宇宙塵に二度襲われるが、塵は爆発で加速しているので同じ軌道にならないと思う。時速8万㎞なら彼方に飛び去る。国際駅も中国駅も無人で、中国船が大気圏突入間際まで低高度になっていることの説明がない。無重力なのに髪が逆立たない。マックが超人的すぎる。
[DVD(字幕)] 9点(2015-02-11 22:42:54)
14.  現金に体を張れ 《ネタバレ》 
大胆不適な競馬場強盗事件を扱った犯罪映画。刑務所を出所したばかりのジョニーは昔の仲間を集め、一発逆転を狙った強盗を策謀する。仲間は、内通者であるバーテンダーと馬券窓口係、競馬場を警備する警察官、それに資金提供者。他に馬の射撃手と暴れ役を雇う。周到に準備された計画は完璧の筈だった。しかし、初期の段階で窓口係が妻に計画の一部を漏らしたことから計画は綻びを見せ始める。これで視聴者は、どのような計画か、どのように破綻するか、という二重の緊迫感を持って見守ることになる。憎い演出。着々と進めらていく準備の様子が丹念に描かれていく。同時進行している事象は時間を繰り返すという丁寧さだ。人物の性格描写を最小限にしているのでとんとん拍子に進む。といって人物描写に手抜きはない。ジョニーは服役中も待っていてくれた恋人との結婚を決意している。バーテンダーには病気の妻がいる。窓口係は浮気性な妻をお金でつなぎとめようとしている。警官は借金で首が回らない。資金提供者はジョニーの境遇に同情している。射撃手も暴れ役もそ金が欲しい事情がある。根っからの悪人はおらず、ある程度の同情が得られる設定で、視聴者はいつしか計画の成功を願うようになる。計画の破綻がほんの数秒で処理されるという斬新さ。銃声の後の動かない死体の山。映画史上に残る名場面だ。重傷を負った窓口係は、自宅までたどり着き、裏切り者の妻に弾を撃ちこんで力尽きる。現金を持ったジョニーは飛行機で高跳びを図るが、偶然居合わせた犬のある行動によって、総てが烏有に帰す。大量の札束が風に飛ばされる画は鮮烈だ。逮捕を想像させて了る最終場面も心憎い。滅びの美学がある。敗因は、計画が狂って、大金を運ばなければならなくなったこと。目立たない中古鞄を買ったが、鍵が壊れていた。不運である。馬を撃たせたのは、観客と警備員の注意を逸らすためである。暴れ役の人の良さと暴れっぷりの格差がよい。射撃手は本当に傷痍軍人という設定にした方がよかった。お守りの蹄鉄で車がパンクして射殺されるという皮肉もよい。残念なのはジョニーの恋人の登場が少ないこと。彼は恋人との結婚の為に一世一代の賭けに出た。二人の感情をより盛り込んだ内容にすれば、最後の場面はずっと衝撃的なものに映っただろう。実際、窓口係の夫婦の感情描写は十分にできているのである。淡々とし過ぎるきらいがあるが、傑作だ。
[DVD(字幕)] 9点(2015-01-17 00:27:57)
15.  フード・インク 《ネタバレ》 
米国の食品産業の問題点を取り上げた作品。通常の経済の仕組みでは、消費者の需要が先にあり、生産者がそれを供給する。しかし米国では違う。農業が高度に工業化され、メジャー食糧企業による寡占状態にある市場では、供給が需要に先行する。安くて栄養豊かで、しかし健康には決して優しくない食品が市場を席巻する。味が良くて、健康にも良い有機農は、値段が高くて太刀打ちできない。悪貨が良貨を駆逐している状態だ。お金の無い人は安価な食品を選ぶしかない。肉が野菜より安価なので、肉中心の食生活になり、結果健康被害に陥り、ひいては国の医療費を圧迫する。 食糧問題は最終的にコーンの問題にたどり着く。農薬耐性のある遺伝子組み換え種子を用い、農薬と化学肥料を使って大量生産し、政府が助成金をつけて世界一安値にした上で、大量に輸出する。輸入した国の農業は壊滅的な打撃を受け、畜産業は飼料をコーンに依存するようになる。恐ろしいのは、食糧メジャー企業が、お金にものを言わせ、政府、裁判官なども牛耳っていることだ。風評被害法なるものを成立させ、商品や会社に批判も言えない。「要らぬ不安を与えるから遺伝子組み換えの表示はしないほうがいい」という主張がまかり通る。反対するものは徹底的に叩く。風に飛ばされた遺伝子組み換え作物と自然交雑した近隣のコーン農家に対して、特許のある種子を保存したとして、巨額の損害賠償を請求する。裁判になると費用がかかるので、結局泣き寝入りするしかない。 メジャー企業は、商品の心象が悪くなるという理由で、家畜の飼育や屠殺の様子を見せない。消費者は聾桟敷におかれている。 「食品は一円でも安ければそちらの方を買う」という未成熟な消費者から脱却したいものだ。安いのには、それだけの理由があるのだ。それを知った上で、賢い消費をしたいものだ。良質の実録映画である。
[DVD(字幕)] 9点(2014-11-29 23:38:05)
16.  猿の惑星 《ネタバレ》 
SF映画史上燦然と輝く屈指の名作。衝撃の最終場面がつとに有名だ。 戦争を繰りかえす人類をこれほど痛烈に、辛辣に、壮大な規模で批評した作品は他に知らない。冒頭の独白は、最後を見てから振り返ると、胸締めつけられる。「宇宙では、人間のエゴが空しい、寂しくなる。宇宙の奇跡である人類、偉大な生物人類、相変わらず互いに戦い、子供を飢えさせているか?」悲しいことだが、現代にも通じる箴言だ。 テイラーを科学者肌の温厚な性格にせず、やや粗暴で闘争心旺盛な性格にしたのは、人間の愚かさを強調する演出だろう。彼が戦争で滅亡した先文明人の象徴となっている。 作品が面白いのは“驚き”が連続するからだ。宇宙船の墜落事故。女性飛行士の死。人間による服を奪われる。馬に乗った猿による人間狩り。喉が傷つき話せない。もう一人の宇宙飛行士の脳外科手術。銃、カメラ、宗教など人間に類似する猿の文明。ザイアス博士は頑迷蒙昧なのではなく、すべてを知っていた。高度文明の危険さを理解していたからである。そして、衝撃の最終場面。畳み掛ける展開で飽きさせない。時代背景も重要だ。当時世界は冷戦の緊張下にり、核戦争の恐怖が蔓延していた。そこにこの映画は、戦争の愚かさと文明滅亡の恐怖を示し、人類に警鐘を鳴らした。その意義は大きい。核戦争が避けられた理由の一つに、この映画が挙げられるかもしれない。そうなら、世界文明遺産に指定する価値がある。 不備な点もある。二千年にしては猿の進化が早すぎる。人間が話せない理由が不明。調査で土壌は何も育たないというが、植物はある。調査で放射能汚染は無いというが、核戦争はなかったのか?猿が英語を話すなら、地球とすぐ分る。これが最大の疑問点だが、これは原作を改変した功罪だ。原作との違いを挙げる。不時着した星は地球ではない。ロケットは湖に沈まない。猿は猿語を話し、姿は地球の猿と違う。自由の女神は出て来ないが、別の衝撃の最終場面がある。 最後に、「『猿の惑星』は原作者ピエール·ブールが日本の捕虜になった経験を基にして書かれた」は、都市伝説である。仏語版ウィキペディアに、彼は、仏領インドシナで、親ナチス・ヴィシー政権への抵抗運動に参加したが、1942年に仏軍に捕まり、重労働を課せられ、2年後に脱走したとある。「戦場にかける橋」が実状とはかけはなれた内容であることもこれで説明がつく。捕虜の経験は無いのだ。
[DVD(字幕)] 9点(2014-09-12 16:49:51)(良:1票)
17.  ベン・ハー(1959) 《ネタバレ》 
史劇の最高峰に位置する伝説の作品。ローマによるユダヤ属州の圧政、かつての親友への怨讐、ガレー船による戦闘、四頭馬車競争、癩病、キリストの奇跡と内容は盛りだくさんだ。変容の物語としても読める。 ベンハーは、友人メッサラの姦計により冤罪をこうむり、ユダヤ豪族からガレー船の漕ぎ手という奴隷身分に堕とされるが、臥薪嘗胆の末、海戦中に助けた司令官の養子に迎えられてアリエス二世となり、宿願の帰郷を果たす。ベンハーは、最初はメッサラとの再会を喜び旧交を温めることを望んでいたが、密告を要求されたため断交する。奴隷になってからはメッサラへの復讐心に燃えるが、メッサラの死後は圧政の根源であるローマ帝国への反抗へと怒りの矛先が変わる。しかし、磔上のイエス・キリストの「敵を許す」という箴言に触れ、心から怒りの感情が消えるのを覚える。魂の浄化である。変容は他にもある。ベンハーはメッサラに復讐するつもり、つまり殺害する気でいたが、それが四頭立て馬車競争にすり替わる。メッサラが事故死したので復讐を果たした結果となった。物語は途中までベンハーの復讐譚だが、終幕はキリスト受難劇へと変貌する。これらの劇的な展開が感動を呼ぶ最大の要因だろう。映画では触れられていないが、二人が短気なのが災いの元だ。密告をめぐる諍い程度で絶交することはない。かつての親友でもあるし、お互いに立場上の利用価値も高いのだから。瓦落下事件のとき、メッサラはベンハーに恩を売って友情を回復させることもできたし、母妹の助命を条件に密告させる方法もあった。短慮が身を滅ぼす結果となった。気になる点がある。ベンハーが奴隷になってもエスターからもらった指輪をはめている。エスターの父親が急に登場しなくなる。メッサラが、ベンハーが自分の母妹は死んだものと思っていることを知っている。キリストに帰依してないのに母娘の癩病が瞬時に治る。尚原作では、メッサラはベンハーの財産を奪い、エスターの父親に現金の在処を尋問して下半身不随にしてしまう。馬車競争の時アラブの族長が賭けを申し出たのは、財産を奪い返す意味があった。メッサラは馬車競争事故を生き延び、ベンハーに刺客を送る執念を見せる。ベンハーと、東方三博士のバルタザールの娘との間に艶聞がある。1925年映画ではキリストは死んだ赤ん坊を蘇生させる。
[DVD(字幕)] 9点(2014-08-30 14:55:18)
18.  河(1951) 《ネタバレ》 
河は悠久を流れる時間の象徴であり、人々が交差する人生の象徴だ。インドのベンガルを舞台に恋を夢みる三人の少女と、青年との出会いと別れの物語。ハリエットは詩人と作家を夢見ている。隣家の親戚で米国から来たジョンにのぼせあがってしまう。自分を印象づけようとあれこれ策を講じるが袖にされる。大人びたバレリーはジョンに魅かれつつも「片脚」などと残酷なことも言う。ジョンから冷酷なことを言われるが最後は和解する。メラニーはインド人とイギリス人の混血で、西洋学校を卒業して家に戻ると服や生活をインド式に改めた。ジョンに魅力を感じるが、西洋人を理解できず、彼女に思いを寄せるインド青年とも距離を置く。そんな自分が嫌いだ。ジョンは傷痍軍人。戦争中は「英雄」だが、戦後はよそ者扱いされ、傷心のうちにインドに流れてきた。義足の醜態をバレリーに見られ、つい怒鳴ってしまう。自棄になりインドを去ることを決めるが、メラニーからあるがままの自分を受け入れるように忠告される。そんな時ハリエットの弟が蛇に咬まれて死んだ。隣家の主は「大人は子供を学校に押し込めくだらん戒律を教える。抵抗の余地もなく戦争に駆り立て無邪気な彼らを殺戮する。真実の世界は子供たちのもの。木を登り草を転げまわる。子供達は蟻、自由に飛ぶ鳥、動物は恥じたりしない。重要なのはネズミの誕生や木の葉が池に落ちること」と金言を漏らす。弟の死に責任を感じたハリエットは家を飛び出し、舟で川を下るが、漁師に助けられてあっけなく家出は終る。迎えに来たジョンに「人の心は生死を繰り返す」と諭され、「君の詩は西暦4000年でも残っているかも」と誉められると嬉しくなり愛を告白し、おでこに接吻をもらう。ジョンは「手を貸せよ。片脚だぞ」と義足の負い目を払拭する。春の祭の時、ハリエットの家に新生児が誕生した。感動する三人。原作が素晴らしさを生かしきっている。優美なインドの風景と文化が堪能できる。特にディワリ祭とホーリー祭は必見だ。少女の初恋・成長物語だけではなく、文明とは何かを問いかける深い内容になっている。自然や神に対する畏敬の念を失わずに、伝統に則って生きるインド人の素朴な生きざまには共鳴を受ける。インドに行きたくなった。「10分前は赤ちゃんはいなかった」と感動する感性は見習いたいもの。演技力のなさで青年の苦悩は伝わらなかったのは残念。秀作です。
[DVD(字幕)] 9点(2014-05-18 22:24:39)
19.  シュガー・ラッシュ 《ネタバレ》 
登場人物がゲーム・キャラクターと、完全に子供向けの設定で、期待はできないと思いつつ鑑賞した。が、予想に反して、後半から張られた伏線が次々と回収され、ぐんぐんと惹き込まれた。鑑賞後感も爽快で、秀作である。 悪役ラルフは物を破壊する役目に対する嫌悪感と、善役フェリックス達から仲間外れにされている疎外感にと悩み、自分を失う。そして心機一転、ヒーローのメダルの獲得を目指す。メダルは何とか獲得できたが、紛失してしまう。それを拾った少女ヴァネロペは、カーレースに出て優勝するという夢があり、メダルをコインの代替えにして出場権を得る。優勝すればメダルが貰えるので、二人は一致団結して優勝を勝ち取ろうとする。この二人の友情を描くのが物語の本流だ。これを阻む者としてキャンディ大王がいる。大王によればヴァネロペは欠陥品で、彼女がレースに出ればゲーム機が壊れていると見なされ、廃棄処分になってしまい、そうなればヴァネロペは生き残れない。だがそれは表向きの説明で、裏には驚異の姦計が隠されていた。本当の理由は、実は大王の正体はゲームを乗っ取ったよそ者で、全員の過去を変えていたのだ。ゲームの本来の主人公はヴァネロぺだった。ここから物語は俄然沸騰してくる。もう一つ物語の面白さに貢献しているのは、真の脅威、サイ・バグの存在だ。これが増殖すると本当にゲーム機が壊れてしまう。この設定によって真剣味が増し、感情移入する。。たかがゲームじゃないかと高を括っていられなくなるのだ。 フェリックス達もラルフが居なくなったことで、ゲームが成立しなくなり、ラルフの存在意義の大きさに始めて気づく。ラルフを探しに行ったフェリックスの活躍とラルフとの友情も見逃せない。その上、サイ・バグを生涯の仇として狙う、悲劇のカルホーン女軍曹を登場させ、観客を釘づけにする。加えてフェリックスとカルホーンの恋愛要素も加わるのだから鉄壁だ。全く無駄がない。主要人物四人が縦糸と横糸のように濃密に絡み合い、多彩な物語を紡ぎ出し、脇キャラも存在意義を失わない。アニメのお手本のような脚本で、感心しきりである。難を言えば、キャンディ大王に最後まで改悛の情が見られないこと。
[DVD(字幕)] 9点(2014-02-02 20:53:28)(良:1票)
20.  LOOPER/ルーパー 《ネタバレ》 
素晴らしい脚本だ。タイムマシンをマフィアものに適応する新視点。SF、暴力の姿を借りているが主題は「人間愛」で、真摯な命題を含む。謎の出し方が巧みで、最後までサスペンスが持続する。タイムマシンがマフィアの処刑に使われるという奇抜な設定。処刑人ルーパーの無機質な仕事・生活ぶり。将来の自分を処刑する苛酷な運命。未来でレインメイカーという素性不明のボスが君臨し、ループを閉じる。ヤングジョー(YJ)はオールドジョー(OJ)を処刑したが、そのYJが未来で妻を殺され、未来を変えるために再びYJの元へ現れるというパラレル世界の提示。子供のシド(未来のレインメイカー)が「ママを死なせちゃった。止められなかった。今のママは本当のママじゃない」と口走る。シドの驚異的なTK(念動力)。YJの最後の意外な選択。と中だるみがない。一見無関係に見えるシドの母サラの登場場面が多いのは、実は「母」が隠れた命題だからだ。YJが悪に染まったのは母親の育児放棄が原因で、育ての親のボスに恩義を感じている。優しい母の思い出は、頭を撫でられたこと。それで売春婦に頭を撫でてもらう。エンディングでサラが死体のYJの頭を撫でるが、これはサラが母親として再生したことを示す。サラが母の自覚をもち愛情深くシドを育てることで、シドがレインメイカーとなる運命は消滅する。結果、現在から消滅したOJは妻と平穏に暮らす。YJは、シドがレインメイカーとわかったとき殺害しようとしたが断念した。情が移ったからだ。サラと肉体関係を持つことで彼女をより深く知ることができた。OJはレインメイカー候補の、結果として無垢な子供を殺し、組織メンバーも大勢殺し、シドも殺そうとした。それでも未来は変えられなかった。未来を変えたのは、YJの愛を信じる信念だ。YJは自身の生い立ちと母親との関係を鑑み、サラとシドが母子の絆を取り戻すことが最上の結末であると知り、二人にはそれが出来ると信じた。だから自分の命を捧げた。キッドが育ての親のボスに対して想像以上の愛情を感じているのも命題を補完している。不要と思えたウエイトレスが後に意味をもつなど、無駄な場面がない。フランス行きを中国行きに変えたのは、未来(OJの処刑)が現代を変えることの象徴。残念なのは低予算のため、舞台を麦畑にしたこと。麦畑の隣に簡易食堂があったり、女手ひとつの農場など無理がある。TKの必然性は薄い。
[DVD(字幕)] 9点(2013-08-03 18:17:36)
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