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161.  疑惑の影(1943) 《ネタバレ》 
ワルツの場面から一転、乱雑な裏町の様子が映し出される。陰鬱な顔で葉巻をくわえベッドに横たわる男。床にはお金が散らばる。大家が来て、知人が訪ねて来たという。誰にも住所は教えてないのに。刑事と察した男は窓から刑事を見てつぶやく。「証拠は何も無いはずだ」掴みはOK。観客の興味を引く術を心得ている。◆娘チャーリーに共感する立場からすれば、恐怖は十分感じられる。叔父のことを敬愛するが故に疑惑を持ち、殺人犯と判明し、誰にも打ち明けられず、自分の命も狙われる。殺人犯と共に暮らす恐怖とやるせなさ。図書館に走るシーンでハラハラさえるのはさすがだ。一方犯人に共感する立場に立てば、解せない事が多い。殺人の新聞記事を不自然に隠し、疑惑を招く。証拠となる指輪を不用意にプレゼントし、取り返した後も処理しない。目が悪いとか捨てようがないという伏線が欲しい。娘殺害のための階段の細工や排気ガスの充満した車庫に閉じ込めるトリックも稚拙。最後の無計画で衝動的な殺害アクションと墓穴は平凡。それに冷静に考えれば指輪は決定的な証拠とはなりえない。娘を殺す動機が薄い。犯人の心の闇が十分に描けていないと思う。未亡人に対する悪意を吐露したり、冒頭シーンで精神的に疲弊した様子を見せるくらい。世間の荒波に揉まれたシーンや未亡人殺害シーンを省いているので、人間像が分りづらいのだ。観客に犯人と分った時点で、犯行シーンを挿入すれば良かったと思う。◆犯罪心理サスペンスにしては、展開がスマートすぎる。もう少しひつこさ、あくどさが欲しい。特に未亡人殺しの詳細が不明のままなのが不満。叔父が殺人者であることが重要で詳細の提示は不要と考えたのだろう。だが警察は叔父を追ってくる。手がかりは無いらしいが、彼が容疑者なのはどういう理由でか?写真を目撃者に見せると言っていたがどうなったか?東部で犯人と疑われた男が飛行機のプロペラに飛び込ん死んだ。それで事件解決では、あまりにもなおざりすぎる。そして突然の刑事の娘へのプロポーズ。取ってつけた恋愛パートは完全に失敗している。◆サブキャラがだれも丁寧に描かれていて賞賛に値する。二人の子供は言うまでもない。推理小説マニアで少しぼんやりした隣人などは魅力的だ。息抜きにはうってつけの存在。娘の同級生だった酒場のウエイトレスも印象的だ。彼女は娘の身近にある影の部分の象徴だ。
[DVD(字幕)] 7点(2011-02-14 05:24:41)
162.  マイノリティ・リポート 《ネタバレ》 
【犯罪予知装置】殺人の被害者と加害者の名前と発生時間は分るが場所は不明。名前は顔認証で分るとしても時間はどうして知るの?未発生の犯罪で逮捕は人権無視。両者に警告をすれば良い。お互い気を付けるでしょう。保護するのも良い。殺人が起きても犯人はすぐ逮捕できる。◆予知者三人の同意はとれているのか?そこをクリアしないと人権無視。【未来社会】あちこちで勝手に網膜認証があり、勝手にCMが始まるプライバシー無視社会は非現実的。目玉移植は体内の拒絶反応があり難しい。コンタクトや義眼でごまかせそう。ロックされた車からはすぐに脱出可能。動く花などの小ネタは不要。◆犯罪予備者を弁明の余地も与えず監禁する制度に問題。刑務所では無く、カプセルの中で眠らされると反省する機会も無い。【目玉】ヤクの売人に目玉が無い。目玉交換手術。網膜認証。目玉っぽい木玉。管理社会のメタファー?【予知者アガサ】自分の母の殺人に関して知っていたのなら、警察に言いなさい。自分を拉致した捜査官アンダートン(A)の味方なのは何故?予知協力がいやなら言えば良いのに。色んな事が分るようだが、それならAの息子ショーンの行方を捜してくれ。【アガサの母親アン殺害】黒幕は殺人者を雇った。男が未然に逮捕されたあと同じ格好、同じ方法で殺害。でも顔と名前と時間は分る筈。それはエコー(残響)として破棄される。黒幕はデータも消したが、マイノリティリポートとしてアガサの頭に保存されていた。それをAが引き出して解決。見事。【Aの殺人】黒幕にお金で頼まれた男がAの息子の殺害犯のふりをして自ら殺されるように誘う。家族へお金を渡したいから。Aは殺害を留まるが、男はAの銃の引き金を無理やり引く。自殺。これはAが予知を知らなければ起きないことで、最大の矛盾点。予知があったから確認しに現場に行った。黒幕はどうやってあの場所にAが出現することをあらかじめ知ったのか?【息抜き場面】殺人サスペンスでは、ヨガや目玉コロコロなどの笑う場面は不要。息抜きなら休息するなどほっとする場面を作れば良い。【Aの妻ララ】目玉一つで簡単にセキュリティを破って侵入、職員を銃で脅してAを救出。不自然。元警官だったなどの伏線が欲しい。殺人ゼロ社会を目指すなら先ず銃規制せよ。【その他】黒幕が小じんまり。しかも殺人ゼロ社会を目指した善意による殺人。だからカタルシス無し。悪を悪として描け。 
[DVD(字幕)] 7点(2011-01-26 04:46:38)
163.  夢(1990) 《ネタバレ》 
【日照り雨】軒先のセットは氏の家を再現したもの。黒沢氏の父は元軍人で厳しかった。家の厳しさよりも怖ろしいもの見たさの好奇心がまさった子供時代。虹はあこがれで冒険の象徴。人生の冒険の始まり。日照雨は「蜘蛛巣城」の森のシーンにつながる。【桃畑】4男4女の中で育つ。16歳で夭折した姉への追慕。伐採された桃の木の精霊との交感。伐採されたのは氏の幼年時代。涙が流れる。家族愛にも経済的にも恵まれた家庭環境であったことが窺い知れる。【雪あらし】努力すれば報われるという氏の人生哲学。雪山登山は困難を極める映画作りの象徴。雪女は母性の象徴。「雪は暖かい、氷は熱い」は、逆境こそが人生の糧になるということ。母親には甘えることができたようだ。画家を目指して挫折。映画界に入り、監督になれたのは33歳。天才ではなく努力の人だった。【トンネル】氏は体が弱く、兵役経験無しだが戦死は身近だった。さまよう戦死者の魂。戦争の無意味さと残酷さ。彼らの死に誰も責任を取らない。戦後すぐ反省をこめて撮った「わが青春に悔なし」の頃の夢か。爆弾を巻いた犬は特攻の象徴。若く散った特攻隊員の魂が氏の良心を激しく吠え立てる。【鴉】尊敬するゴッホ。画の修行時代ゴッホの画を見たあとでは全てのものがゴッホのタッチに見えたという。「どんな自然も美しい。自我を失くすと自然は夢のように絵になる。そのためには機関車のように働く」映画作りに共通する言葉。ゴッホを追うのは画家になりたいという望み。飛び立つ鴉は魂の解放の象徴。【赤冨士】「生きものの記録」と同趣旨。人間は自然の一部であることを忘れ、科学で便利さを追求し続ける人間の愚かさ。氏が子供時代、父の生家の秋田で生活した経験が影響している。自然と共存する人たちの生きざまを知ったのは貴重な経験。 【鬼哭】核汚染により鬼と化してしまった人間の地獄絵図。鬼の苦悩は氏の苦悩そのもの。人間と自然を心より愛しているが故に現実の人間に対する怒りと煩悶は強い。氏の人類への警告は生半可なものではない。 【水車のある村】 水車は自然を利用する人間の知恵の象徴。理想郷を描く。石に添える花の挿話は体験談。葬式の歌は、自然と調和して生きている人たちへの賛歌。103歳の老人は老境に達した氏の理想の姿。初恋の人は青春の象徴。その葬儀で嘆き悲しむ代わりに、喜び祝い行進する。すでに死を受容する心境にある。
[DVD(邦画)] 7点(2011-01-24 10:27:12)(良:2票)
164.  カラーパープル(1985) 《ネタバレ》 
【違和感】①苦労知らずの白人男性監督が昔の黒人女性の過酷な人生を描く。②手紙が届かないというが、義父や親類や知人に頼めばいい。学校の先生や友達もいるでしょうに。教会宛に事情を説明して出せば、手渡しで届けてくれると思う。そうしなくともアフリカに立つ前に一度は訪ねなさい。比較的恵まれた生活をしているのだから。③主人公セリーの夫がネティの手紙を後生大事にしまっておくのは何故?焼き捨てるでしょ。④夫のキャラが、美人歌手シャグが登場してから別人のように変化してしまう。虐待キャラから憎めない男に変身。⑤セリーの子供をネティが育てるなんて、偶然が過ぎる。⑥自立した筈なのに実父の遺産が転がり込んで商売を始める。その商売がズボン店で、それまでの彼女と縁が無い。良い話が台無し。⑦セリーは父に強姦されて子供を産んだと思っていたが、実の父では無く義父だった。彼女は妹と子供と再会し、遺産を受け取る。シャグは神父の父と和解する。強い女ソフィアは夫と元の鞘に戻る。セリーの夫は改心してセリーと妹の再会を助ける。何もかもうまく収まり過ぎ。余韻が残らない。【感想】描く対象が絞り切れず、締まりが無い。単純な女一代ものにすればいいのに、他の女性の人生や時代を描こうとして冗長的。一本の映画で描ける内容は限られている。クライマックスが手紙を読むところなので、その余韻で家を出、再会させてすぐに終わればすっきりした。ゴスペル場面など不要。◆骨子は、父や夫によって人権を無視され、教育も受けず、虐待され続けた女が、自立した女性と出会うことにより、魂が目覚め、生きる喜びを知り、自立すること。映画では夫に対する怒りが協調され、女の成長過程が十分描けていない。刃物を突きつけ、罵り、他人に頼って家出するのが自立だろうか。感動が薄いのはこのため。再会が感動のクライマックスとしてもそれは成長した結果の神様からのご褒美ようなもの。原作は感動的、監督は天才、映像は詩的、演技は文句なし、でも脚本の出来が悪ければ、良い映画にならない好例。原作の矛盾点を改善し、無駄なキャラを削り、ラストも改変するくらいでないと成功しない。小説と映画は別物だからだ。小説では自由に表現できる心理描写も映画では科白と映像で表現しなければならない。おのずと構成に違いが出てくる。極端な話、シャグを主人公にすればもっと起伏にとんだ物語になったろう。
[DVD(字幕)] 7点(2011-01-20 06:15:27)
165.  コレクター(1965) 《ネタバレ》 
男は社会的不適格者でも病的変質者でもない。元銀行員であり、通常の社会生活は営める。両親がおらず、貧乏で育ち、孤独な青年。人見知りが強く、対人関係が苦手で、人から嘲笑される人生をおくってきた。美人画学生Mに片思いしているが、声をかけることもできず、遠くから眺めて、崇拝しているだけだ。趣味は蝶の採集。そんな男にクジが当り、金持ちになる。地下室のある家を購入。蝶の採集をまねてMを捕獲し、自分への愛が育つのを待つことにする。◆男が欲しかったのは性的関係ではなく、愛だ。あるいは性的不能者なのかも知れないが。いずれにせよ、人間を虫のように扱って監禁し、人間らしく愛してくれというのは無茶な要求だ。愛されずに育ったせいで、愛というものを理解できず、人を真に愛することが出来ない。「ライ麦畑でつかまえて」を読んでも人の心の痛みが分らない。ピカソの画集を見ても、その創造性を理解できない。人に愛されたかったら、愛される人間にならなければならない。男はMを愛しているといってもそれは上辺のことだけに過ぎない。◆好きな女を監禁して、自分の思うようにしたいと妄想するのは珍しくない。この作品では、性的関係は強制せず、「自然に愛が芽生えてくるまで待つ」というところが新しい。愛欲よりも愛情に飢えている。妄想の視点が違うのだ。どのような成育歴により、このような歪んだ精神になったのか、また男が昔からどんなにMを崇拝していたかなどが十分に描かれていないので、単なる変質者に観られてしまう恐れがある。男は常に無表情で不気味、その内面でどれほど愛に飢えているのかを描いていないのが最大の欠点だろう。男の苦悩、心の叫びが見えてこない。不条理、理解不能を前提としながらも、いつしか男に同情してしまうほど人間が描けていれば成功しただろう。男を罰する終わり方にすれば少しは共感できた。◆虚弱な男なので、隙を見て鈍器のようなもので後頭部を殴って逃げ出せば良いと思う。お風呂に入ったとき熱湯をぶっかけるとか、暖炉の焚火を利用して放火するのも良い作戦。廊下を突き落すのもグッド。こういう男は懲らしめて矯正しないとタメ。もっと知的に攻略したいのなら、散歩したいとか、ドライブしたいとか、仮病を使うとかして外に出る機会をつくること。相手は気弱で、すでにかなり譲歩しているので強気に出れば可能。自殺未遂という手もある。
[DVD(字幕)] 7点(2011-01-18 19:46:40)
166.  将軍の娘/エリザベス・キャンベル 《ネタバレ》 
冒頭の謎の提示は見事。次期大統領を目指す大物将軍は退役間近。そんな折将軍の娘大尉が強姦され殺される事件が発生。将軍は犯罪捜査官にFBIが来る三日以内に犯人を挙げろと命令。いかにも怪しそうな目で威圧する副官。大きな陰謀が隠されているに違いないと思わせる演出。人間関係も込み入っていて、捜査官と娘、捜査官と将軍に接点がある。そして捜査官とその相棒が元恋人。◆事件の真相は誰にも想像できないものだった。なんと強姦は自作自演。理由はこうだ。士官学校に入った将軍の娘は優秀すぎるが故に男の嫉妬を買い、演習中に暴行、輪姦された。学校と父親は、学校の名誉と娘の将来のために事件をもみ消した。娘は父親に見放されたと思い、父親を憎んだ。そして精神を病み復讐を企てる。その方法は部隊中の男と寝て醜聞をまき散らすというもの。将軍は彼女に最後通牒をつきつけた。軍隊を辞めるか、治療を受けるか。娘は夜中に父親を呼び出して輪姦の場面を再現。「もみ消し」を取り消すことを迫った。だが将軍は立ち去った。そこへケント大佐が登場。彼は娘に片思いしていたので後をつけてきたのだ。娘は誰も愛せなかったので冷淡だった。罵倒された大佐は娘を絞殺。こうして奇妙な殺人現場が出来上がった。そこへ副官が登場。将軍が犯人と思い込み、事件の隠ぺいを図る。捜査が真相に近づくと、大佐は情報を握っている娘の上官ムーアを自殺に見せかけて殺した。◆唖然、茫然、驚愕。そりゃあないでしょうの連続。娘はどうして退学しなかったのか。仲間から暴行・輪姦され、性病を移され、子供を堕胎し、鬱病にかかった。それで学校にいられるわけがない。それに士官学校のエリートが将軍の娘を輪姦するというリスクを負うだろうか。発覚すれば身の破滅は間違いない。何より娘の反逆ぶりが度を越している。SM趣味、誰とでも寝る、強姦の再現。娘が精神に異常をきたしているとしても、捜査官に対して親切だったし、非常に知的であるという矛盾がある。娘は父にただ誤って欲しかったのか。犯人の行動も不審。誰とでも寝る女に「彼女に全てを捧げるつもりだった」などと片思いするだろうか?最後の行動も意味不明。捜査官を呼び出して、地雷があると警告し、自ら地雷を踏んで自殺。◆将軍が捜査官に捜査妨害で起訴されたのは痛快。殺人を示唆する血染めの猫の演出は見事。ところで娘の強姦現場再現を手伝ったのは誰?一人じゃ無理でしょ。
[DVD(字幕)] 7点(2011-01-18 05:51:19)
167.  郵便配達は二度ベルを鳴らす(1946) 《ネタバレ》 
女の過去は語られていないが貧困の内に育ったのは間違いない。それ故に、愛や自由よりも生活の安定を求め、一回りも二回りも年上の風貌の上がらない男性と結婚。場末のハンバーグショップを経営しながら、店を大きくすることを夢見ている。放浪好きの男が店員として入ると、その荒々しい男性的魅力にひかれる。二人は情愛を交すが、亭主が居ては幸せにはなれない。一度は駆け落ちを決意するが、断念する。女が根無し草のような貧困生活に耐えられないのだ。放浪を好む男と安定を望む女ではうまく暮らせる筈がない。二人は愛というより欲望でつながっていた。欲望の炎に焼かれながら過ごす二人にやがて殺意が芽生える。亭主さえいなくなれば!どちらともなく言い出した最初の計画は未遂に終わる。事件にもならず、ほっとする二人。男は出てゆく。だが運命の魔手が男を亭主と再会させ、店に戻す。ぎこちない復縁。そこへ亭主が店を売り、田舎に引き籠ると言い出す。田舎で姉と同居し、姉の介護をしろという。二人は躊躇無く殺害を決意。殺害は成功したが、裁判で検事の計略にはまり、二人は反目。しかし弁護士の奇策で無罪を勝ち取る。二人は店を続けるが、疑心暗鬼の雲が晴れない。弁護士の元事務員に脅迫されたりする。女は出てゆこうとするが男に止められる。女は男の愛を試すため、遠泳に誘う。「ここでなら私を殺しても誰も見てないわ」ここで初めて精神的に結ばれる二人。あとは幸せな生活が待っているはずだった。しかし帰りの車で事故を起こし、女は死亡。あらんことか男は罪に問われ、死刑宣告を受ける。無実を主張する男に検事は言う。「女の手紙が見つかり、お前との姦通が証明された。女殺しでは無罪でも、亭主殺しでは有罪だ」女殺しでは無罪と聞いて男はほっとする。死ねば一緒になれるという望みが出来たからだ。奇妙な形で結実した男女の愛の姿が斬新だ。「郵便配達は二度ベルを鳴らす」という題名だが、郵便配達とは神慮のことだろう。神は念を押してベルを鳴らす郵便夫のように罪を決して見逃さないのだ。罪を犯せば罰が下る。二人の愛が成就するためには死をもって贖う必要があった。無知と貧困とエゴにより引き起こされた罪だが、それによって真の愛に気づく二人。皮肉な運命だ。女は口紅を落として登場し、口紅を落として死ぬ。口紅は欲望の象徴。小粋な演出が光る。
[DVD(字幕)] 7点(2011-01-16 21:40:05)
168.  IT/イット〈TVM〉 《ネタバレ》 
【IT】実態が無く、見る側の恐怖を具現化したもの。それでもナイフを渡すことくらいはできる。ピエロの姿で現れることが多い。特定の人物にのみ見える。池、小川、水路、下水道、水に関係するところに出現する事が多い。7人が特によく目撃するのは彼らが”弱虫”で怖がりだから。恐怖におびえた人間を食べて生きている。バラバラ殺人が多い。巣に捕えて、蓄えておくこともある。特定人(ヘンリー)に憑りついてその人を意のままに動かすことが出来る。その姿を見たことや記憶は徐々に薄れてゆく。ITの影響は町全体に及び、過去の忌まわしい事件も人々の記憶から失われている。正確に30年周期で出現。ITは実態が無いが、本体は存在する。本体は蜘蛛に似た化け物。【弱点】①団結に弱い。恐怖が薄れるから。②銀の弾に弱い。その人の思い込みによる事で、信じることができれば何でも効果がある。【大人の七人】①一人が監視役として残り、他は町を出た。町を出るとITの影響が薄れ、トラウマを克服し、再対決可能まで心の成長を促すため。②残った一人はITの影響で死の考えに憑りつかれ、10年前に自殺をしそうになった事がある。そのとき下水道で銀の弾を発見し、記憶を取り戻した。③全員独身か、結婚していても子供がいない。子供がいるとその子はITに憑りつかれてしまうため。無意識に回避している。④トラウマを克服できなかった一人は、恐怖から自殺。⑤子供の頃にはITに吸引器の酸が武器になったが、再対決では効かなかった。信じる心が足らなかったからだろう。⑥ベヴァリーは暴力的な父への恐怖を、暴力的な恋人と決別することで克服できた。⑦ビルは銀色の自転車でITから逃れることが出来たと信じていたので、最後自転車で恋人を正気に戻すことが出来た。【感想】スティーブン・キングの幼少体験が濃く投影された作品。子供たちの演技は文句なし。幼少時の原始的な恐怖、実態がつかめず徐々に迫ってくる恐怖が見事に描写できてる。大人になってからのキャラに魅力が無い。対決するために町に戻ってきたのに、どんちゃん騒ぎなどして、緊張感が途絶するのが残念。対決ムードになってない。対決するのは分っているのに、最後近くまで弱腰なのも欠点。化け物の造詣が平凡。対決もあっけなく終了。制作がCG技術が確立されていない時期なので仕方が無いか。余韻の残るエンディングは秀逸。
[DVD(字幕)] 7点(2010-12-30 03:39:29)(良:2票)
169.  イヴの総て 《ネタバレ》 
【イヴの計画】劇場に屯し、劇作家の妻に声をかけ、彼女のとりなしで女優マーゴに近づく。マーゴのツテで、女優としてデビューを図る。その後演出家か劇作家と結婚する。 【イヴの嘘と脅迫】夫が戦死などの同情をひく経歴はでたらめ。ビール会社の社長の愛人だった。劇作家の妻にガス欠の秘密(イヴを代理出演させるためのいたずら)をばらすと脅迫し、新作の主役をもらえるように依頼。公演前日隣人に「ナーバスになり公演をキャンセルする」と嘘の電話をかけてもらい劇作家を呼び出す。「劇作家からプロポーズされた」と批評家に嘘をつく。 【イヴの誤算】代理公演が成功したのち、つい口走った本音(マーゴ批判)が記事になり、マーゴ達から嫌われ、排除される。批評家は早くから嘘の経歴を見抜いており、誰とも結婚は許されず、彼の言いなりとなる。 【感想】イヴの罪と罰の物語。イヴは嘘と脅迫が功を奏して、あこがれの舞台スターになったが、批評家に嘘がばれ、彼の言いなりとなる。見どころはイヴが無垢な顔して、虚実取り混ぜ巧みに四人に取り入り、女優としてデビューに至るまでの経緯。徐々に虚飾がはがれてゆくところがサスペンスになっています。そのあとの四人との心理戦も見ごたえあり。 ◆ところで冷静に考えてみれば、イヴはあんな謀略を駆使する必要は無いと思いましたね。若くて、美貌で、何より実力があるのですから、普通にオーディション受ければ成功するでしょ。「音楽のような、火のような」演技で魅せればいい。だからこそ劇は大成功を収め、賞も戴けたわけです。実力も伴わないのに無理にスターにのし上がる話でないと成立しない話と思いましたよ。実力の世界なのだから、観客や批評家を唸らせる演技をした者がキラー(勝者)でしょう。誠意に欠ける嘘や行為があっても、実力があってスターになるのだから問題はないわけです。芸能界とはそういうものです。 ◆失望したのはイヴの演技の場面が全く無い事。話だけで終わらせている。オーディションの場面さえも省略。どこか空虚に感じました。裏話だけに終始しては本当の舞台は語れないでしょう。ピアノを弾かないピアニストと同じ。ところでスターを夢見る未婚女性が、結婚していたと嘘をつくかな? ◆名優ベティ・デイヴィスの演技はさすがです。実年齢以上に老けているのは残念ですが、泣いたり、叫んだり、怒ったり、甘えたり、見ていて楽しいです。
[DVD(字幕)] 7点(2010-12-27 18:20:37)
170.  チェンジリング(2008) 《ネタバレ》 
【実話】ウォルター・コリンズは9歳。犯人の甥で共犯者のサンフォードは16歳。拉致された少年達は性的虐待を受け、性的対象として客を取らされていた。それで逃亡出来ても家に帰りたくない心理が働いた。犯人は子供を誘拐するときにはサンフォードではなく、鬼畜の母親が手助けをしている。母親は終身刑。サンフォードは少年院。死体は生石灰と共に埋めたので骨の断片しか残っていなかった。埋葬場所とは別に3人の少年の死体が発見されている。犯人は裁判ではあいまいな供述に終始したが、収監後に罪の重さを悟り、詳細な告白をしている。偽証少年は継母との折り合いが悪く、家に帰りたくなかったのが家での動機。母親は事件の7年後に死亡。【感想】そもそも自分の子供を間違えることがあるだろうか?9年一緒に暮らして、5ケ月離れただけである。顔は違う、身長は7センチも低い。家族や親戚、少年を知っている誰に訊ねても、違うと明白に答えるだろう。映画でも教師や医者が証言している。母親は、最初に出会ったときにはっきりと拒否すべきだった。子供の問い詰め方も甘い。また完全に違うと確信したあとで、新聞に少年の写真を載せてもらい、両親に名乗り出てもらえばよかった。警察も病院も態度や手口があまりにもあくど過ぎる。あきらかに演出過多である。◆殺人事件が発覚してからは物語が動き出した。警察の腐敗体質が明らかになり、対警察の司法対決となる。正義感にあふれる牧師や弁護士、まともな刑事も登場する。◆コリンズが生きているかどうか。映画では逃亡しているが、そのときサンフォードも一緒に車に乗って追いかけている。彼なら顛末を知っているはずである。映画では子供だが、実際は16歳。捕まえたか、逃がしたかくらいは覚えている筈だ。これは希望を持たせるための演出。犯人の極悪母親を出さなかったり、実際にはいない生還した子供が出したり、監督は食わせ者だ。「脚本の95%は実話」という宣伝文句の95%は嘘。売れる映画作りに徹している。主演女優は、老けすぎ。【疑問点】①初対面で母親が違うと言っているのに警察が無理強い。②誘拐の日に子供の面倒を見るのを頼まれた知人が登場しない。③狭い電話交換所でローラースケート。④母親化粧が濃すぎ。寝起きの顔も化粧。⑤アカデミー賞の予想ができるくらい映画を見てる。子供とは見に行けなかったのに。
[DVD(字幕)] 7点(2010-12-24 09:53:59)
171.  サーカス(1928) 《ネタバレ》 
魅力の無いヒロインだ。娘は義父から虐待同然の扱いを受けて、泣くばかり。チャップリン(C)に優しくされて好意を持つが、好意どまり。占いで好きな人が近くにいると暗示を受け、ハンサムな綱渡り師が現れると恋のとりこになる。しかし再び義父に叱責されると、サーカスを出てゆくCに「連れてって」と懇願する。Cが綱渡り師を連れてくると喜び、プロポーズを受諾、義父の元へ戻る。一人では何もできず、知能は幼児並み。◆恋のパートも弱い。Cが娘に会ったとき一目惚れしなかった。お金を稼ぐのは自分のためで、娘のためでは無い。したがって良く練られたラストシーンだが、ペーソスが薄い。◆Cの映画ではリアルな女性像は描かれない。女性は類型的、あくまでお飾りにすぎない。可憐だが、独立心が無く、誰かの助けを必要としている不幸な存在。簡単に言えば、不幸な境遇にある幼い娘。◆自立した女性が登場するのは「モダンタイムズ」から。演じたポーレットはCの3番目の妻となる。若く見えるがCと出会った時点で離婚経験があった。彼女は私生活でも活発で、好奇心旺盛、面倒見が良かったらしい。Cと離婚した妻の元にいた息子達とが週末に会えるように取り計らったのも彼女。彼女の存在がCに与えた影響は大きい。◆フロイトの分析によれば、「Cは非常に単純な人間で、不遇だった少年時代を忘れられず、何度も演じ続けている」とのこと。Cは完璧主義者だが完璧な人間ではない。Cは自分が弱者だと感じていたので、自分よりも弱者に対して深く同情してしまう。世間を脅威と感じており、恐れていた。弱い者しか信用できなかったとも言える。助けを必要とする娘、子供、動物などには強い同情を抱くが、成熟した大人に対しては恐れを抱いていたのだろう。自分に狂気の血が流れているのではなかと恐れ、母親のことも周囲には隠していた。◆ドタバタ喜劇の基本は追っかけとばかりに、追っかけシーンが繰り返される。笑われているのに、本人はそのことに気づかない。本人は周囲を笑わせる気が無いのがおかしい。子供のお菓子を盗む食いするシーンに6週間もかけ、綱渡りは700回以上もやったという。完璧主義の極致、芸人魂の発露である。Cは得意げに演じているが、他の出演者は楽しそうには見えない。ヒロイン以外の共演者を育てるつもりなどないのだろう。良くも悪くもCのCによるCのための映画である。
[ビデオ(字幕)] 7点(2010-12-14 14:26:57)
172.  熱いトタン屋根の猫 《ネタバレ》 
【制作メモ】リズ26歳。妻役に惚れ込み自ら売り込む。制作中に夫が不慮の事故で逝去。1月程撮影中断、心痛で5キロ痩せる。前半の肉感的なセクシーさが後半には無いのはそのため。原作では次男と親友はゲイの関係だが、当時のプロダクション・コードの規定でそれは表現できなかった。自信ゲイであった原作者はこれに激怒。【次男】裕福な家庭に育ち、両親から愛され、美貌の妻を娶り、アメフトの花形選手。だが幼馴染で相互依存関係だった親友の自殺で人生が暗転。妻と親友の不倫を疑い、死に関係していると怪しみ、同居離婚状態。父親から愛されたことがないと感じ、愚昧な兄夫婦を蔑視。世界は虚偽に満ち溢れていると思い込み、失職、アル中に。【父】傲慢、専制タイプ。浮浪者の父を恥と思う。がむしゃらに働いて成功を収めた。妻を愛したことは無い。長男とは馬が合わず、次男を溺愛する。余命幾許も無いことを知らされる。【長男】従順、小心者。父に愛されず。美男美女の弟夫婦と対照するように正反対に描かれる。【感想】密室劇のような重苦しさ。回想シーンを挟まず、すべて会話により進行。鑑賞後爽快感が少ないのはそのため。◆表向きは仲良しだが、心の底では愛しあっていない家族。父の余命が宣告される。常に自信満々の父も死に直面し、さすがに落ち込む。そこに感情の隙間が生まれ、人生を絶望している次男と心を通わせることができた。そもそも余命を知るきっかけは、次男のことを心配し、真相を解明しようと懸命になったことだった。◆父は父を恥と感じていたが、本当は愛し、愛されて幸福であったことを思い出す。妻から愛されていないと感じていたが、そうではないと気づく。子供を愛していたと思っていたが、上辺だけだったと思い当たる。◆次男は親友の死を妻のせいにしてきた。だがそれは自分に責任があることを認めないための逃避だった。◆長男は父の愛を得られなかった腹いせに父の財産を狙っていたが、父のことを本当に愛していたことを知る。◆意表をつくのが次男妻から父への妊娠しているという嘘のプレゼント。虚偽だが相手を思いやっての嘘は美しい。父は嘘と知りつつ喜ぶ。長男も受け入れる。虚偽もまんざらではないと気づいた次男は妻を許す。この閃きが原作を名作たらしめている一因だろう。人生や家族関係は難しいが、このような奇跡も起こり得るのもまた人生である。
[DVD(字幕)] 7点(2010-12-03 14:48:28)
173.  街の灯(1931) 《ネタバレ》 
オープニングが出色。塑像のオープニングセレモニーの幕が開いたらFが寝ていて、早々に追い出される。これだけでFは浮浪者で、社会と関わりを持たず、社会にとって異物でしかないことがわかる。ただ歩いているだけで新聞売りの少年にからかわれる始末。◆そんなFが二人の人間を助ける。一人はお金持ちM。Mが自殺しようとしたのを偶然助けた。Mは酔ったときだけ彼を覚えていて、親友として扱い、金銭援助も惜しまない。だが素面では何も覚えていない。都合のいいときだけ良い顔をする世間を象徴するようだ。◆もう一人は盲目の花売り娘K。きっかけはKがFをお金持ちだと勘違いしたことから。Kが貧しく、祖母との二人暮らしだと知ったFは真面目に働いてお金を稼ぎ、生活の援助をしようとする。人間は頼られると期待に沿いたいと願うもの。まして美しい娘やである。ここでFと社会との関わりができる。だが元来不器用な彼は仕事が続かない。Mと再会して大金を貰いKに渡すが、警察には泥棒扱いされ逮捕される。◆【喜劇から感動へ】Fが刑務所を出てからはシリアス路線。Fはみすぼらしい身形で、顔に精気はなく、新聞売りの少年に対してもやり返せない。そこへ偶然Kと再会。Fは瞬時に理解する。目の手術が成功したことと、花の店を構えて成功していること。Kから目が離せないF。労苦は一瞬にして報われたのだ。Kは浮浪者に一目惚れされたと勘違いする。小銭を恵もうとして手に触れて、Fの正体を知る。名乗りを上げるF。真実を知ってショックを隠しきれないK。落ちぶれたFの姿はKにとって理解できないものだろう。しかしその優しい眼差しは隠されたFの真心と誠意を照らしだしているように見える。◆ちょっとして親切心がその人の人生を変えてしまうことがある。貧しい者が、より恵まれない人のために努力する姿は美しい。一方で「成功したのはお金持ちが気まぐれでくれたお金のお陰に過ぎない」という強烈な皮肉も籠められている。社会矛盾を鋭く衝いているのだ。「City Lights」=Lightは人間のこと。お互い支え合って(照らしあって)ささやかに生きている社会のこと。◆ご都合主義が目立つが、当時の映画としてはこんなもの。サイレントでは複雑な展開や心理描写など望めない。喜劇と感動を融合させ、単なる「喜劇王」から「天才チャップリン」へと変貌を遂げた記念碑的作品。
[ビデオ(字幕)] 7点(2010-08-02 15:52:40)
174.  シャーロットのおくりもの(2006) 《ネタバレ》 
◆平凡、普通であることがキーワード。「普通の生活の中に起きる奇跡」が主題。ごく普通の町の普通の農家の普通の子豚の奇跡の物語。「平凡なものがタイミングよく二つ揃うと、お互いが輝きだすことがある。子ブタと臭い納屋のように」それぞれは平凡でも、両者に絆が出来れば奇跡が起こることがある。 ◆発育不良で殺されそうになる子豚の生命が少女によって救われる。「私が育てる」小さな生命を助けたい素直な心の叫び。これが最初の奇跡。ウィルバーと名付けられて人格が生じる。 ◆納屋の動物達は皆元気がなかった。でも子豚が泥遊びをしたり、無邪気に「遊ぼうよ」と話しかけてくることによって心を開くようになり、元気を取り戻してゆく。これが第二の奇跡。 ◆子豚は嫌われものの蜘蛛と友達になる。「君は美しいよ」無邪気さの中に真実を見抜く眼がある。蜘蛛の美しさは生命の美しさそのもの。蜘蛛は初めて友を得て喜ぶが、彼女は子豚を導く母のような存在でもあった。 ◆やがて子豚は家畜の運命を知る。冬まで生きられないのだ。蜘蛛は誓う。私が助けてみせると。そして奇跡を起こす。巣に「たいした子豚」という文字を編んで。 ◆あくまで子豚は普通の豚だが、蜘蛛にとっては”特別”な存在。両者に絆が出来たからだ。星の王子様ときつねとの関係と同じ。 ◆人間にとって家畜とは、その命を断って、人の命を継ぐもの。だが家畜の立場に立てば、そうは割り切れない。「食べられる生命の問題」に簡単な答などない。蜘蛛は生きるために蝿を獲る。そして生命と引替えに卵を産む。卵から子供が生まれた。子豚に死と新しい生命の連環を示した。生命の問題に対して間接的な回答を提示したのだ。これが最後の奇跡。主人公はあくまで蜘蛛。子豚は受け身なだけ。◆誰でもいつか死ぬ運命。故に「生きていること」は奇跡。生命の躍動する日常はどんなに平凡に見えても奇跡に充ちている。だからこそ我々は毎日を大切に生きなければならない。これが原作者のメッセージ。監督がこれを理解していないのは残念。少女にボーイフレンドを作らせたり、大人が心ない発言をするなど、不要な要素を混入したので主題が解りにくい。原作では少女が動物達の話を完全に理解できるのだが。名作童話が平凡、普通の映画になったのは皮肉か。ただCGは素晴らしく、子供たちに是非見せてあげたい。
[DVD(字幕)] 7点(2010-07-20 23:30:02)
175.  太陽の帝国(1987) 《ネタバレ》 
冒頭場面は、揚子江に漂う棺桶を軍艦が蹴散らす。最終場面は揚子江に漂うジムの鞄。川は時の流れ、棺桶は死、鞄はジムの少年らしい心の象徴。死と共に戦争がやってきて、ジムの少年らしい心を奪っていった。それは時代の流れであり、個人にはどうすることもできない。「太陽の帝国」とは、多感で夢見がちであり、ロマンと冒険を求める少年の心のことである。戦闘機マニアの少年が、戦争が始まっても敵国の戦闘機に思いを寄せるのは実に子供らしい。しかし戦後には、もう何かにあこがれる心を持ってはいない。一足飛びに「大人の打算世界への精神的脱皮」を強制させられたのだ。不憫でならない。原作者は「奪われた少年時代」を批判するわけではなく、乾ききった目で淡々と述する。事実としては、原作者は捕虜収容所を家族と一緒に過ごした。独りだったとするのは体験の異常さを強調するためだろう。監督は原作に忠実でありすぎた。その為観客は肩すかしを食い、感動できない。主題が解りにくいのだ。 【肩すかし】①ジムは日本軍に入りたいと言い、あこがれの零戦を撫でて飛行兵に敬礼していたのに、米軍のP51ムスタングに狂喜乱舞する。②米国人ベイシーとの友情物語と思って観ていると、ベイシーはジムを利用しているだけ。蘇州行の車に乗せようとしなかったし、地雷地帯に行かせるし、脱走も置いてきぼり。③少年と日本人との友情物語と思って観ていると、最後までナカダ(伊武)とは心が通じないし、唯一心の通じていた少年兵は頓死。④ジムの成長物語として観ていると、生存のためとはいえその世知辛い世渡りぶりは痛い。心が豊かになるのではなく、空虚になり崩壊してゆく。⑤反戦映画として観ると、戦争の悲惨さは最低限にしか表現されていない。爆撃シーンでは死も記号的。原爆を神の写真などと変容させている。⑥家族との愛情物語かと思って観ると、ジムは家族の顔も思い出せない。再会時の父親の存在の薄さ。 【日本人】美しい映像が際立つ。夕日が美しい。火花が背後の零戦が美しい。P51の爆撃場面、原爆の火が美しい。音楽も美しい。ベイシーや医者も躍動している。だが日本人だけは美しくない。トラックから降りてすぐに石を持たせて運べなどとは言わない。飛行場に重機関銃も高射砲もない。少年飛行兵がとってつけたように殺される場面は失笑。
[DVD(字幕)] 7点(2010-07-06 10:48:04)
176.  バッファロー'66 《ネタバレ》 
【ビリー】父親には反発し、母親とは心が通わない。同級生に好きな女の子がいたが相手にされずじまい。女には奥手。裸を見られたくないなど神経質。酒、麻薬と無縁。愚図のグーンが親友。行動は行き当たりばったり。ボウリングの腕はプロ並。金も無いのに大金を地元チームに賭け大損。その償いで他人の罪をかぶり5年間の禁固刑。両親には結婚し、働いていると嘘。母を思いやる気持ちは強い。女を拉致し、妻として紹介。自分に絶望し、八百長選手を殺して自殺すると計画。 【母】アメフト依存症。ビリーを産まなければ地元チームの優勝場面が見れたのにと悔やむ。子供のチョコアレルギーを忘れるなど子への関心薄い。 【父】元歌手。ビリーの愛犬を殺す。短気。フォークが自分の方を向いているなどと難癖。 【女】まさにムーンチャイルド。踊りはヘタ、頭は悪そう。いつでも逃走できるのに従順。孤独で一人暮らしか。想像力は豊か。男の心を読み取る能力に長けている。風呂に押しかけるなど押しが強い。 【感想】奇妙なボーイ・ミーツ・ガールもの。あんな奇妙な女がいる?自分を拉致したムショ出男を愛するなんて。男は無害とすぐに見破ったのでしょう。愛は奇跡を生みますね。アイデアは秀逸。「あなたは世界一優しい男でハンサム」は優しさから出た言葉。女の愛情が男の殺伐とした心を癒し、殺人を思いとどまらせた。初めて無条件で愛され、ようやく自分の居場所を見つけた男。女の身上が語られないのは残念。人生に退屈しているのは明白。女は彼に何を求めたのか。最初は同情心から。徐々に彼の優しさ、心の弱さ、純粋さを見抜いたようだ。嫉妬も手伝い、母性をくすぐられたのだろう。車の運転できないし、恋には純真で、両親に反発しつつも愛し、粗暴で繊細、まるで子供だもの。女は自分を頼ってくれる人を欲していた。「かわいい駄目さ」は魅力がある。心に傷を持つ者同士は共感しやすい。冒頭トイレを探すシーンはギャグ?それともうまくいかない男の人生の暗示?。リアリティに欠けのが惜しい、いっそミュージカルにしたら。どちらかが自己犠牲を見せる場面があればよかった。四人いるのに三人しか映さない食卓シーンは興ざめ。ラストの銃撃シーンの3Dもどきもインパクト無し。写真は死後両親に送るものだが、誰が送付するのか。それに死ねばすぐに両親に知れる筈。やっぱりかわいいね。今後二人で成長してゆけそうです。
[DVD(字幕)] 7点(2010-06-10 13:37:38)(良:1票)
177.  エアポート’75 《ネタバレ》 
①空港で誰かを待つ女。男が現れ、熱い抱擁と接吻。向こうで話そう、と歩きだす。だがその会話は別れ話だった。スチュワーデスと元パイロットで現航空会社の職員の二人は、すれ違いの毎日を送り、もう6年間も婚約中。これ以上一晩でも待てないという女と仕事の都合で30分しか時間が取れないという男。結局物別れに終わる二人。その後女の乗ったジャンボ機が事故で操縦者がいなくなり、女が操縦するはめに。最後は男がヘリからジャンボ機に乗りこんで無事に着陸させることに成功。男は女に結婚を申し込む。これがメインとなる話の筋。②もう一つは飛行機会社の副社長の活躍。事故機には妻と息子が乗り合わせている。興味半分で取材、報道しようとするTVレポーターに反発。各方面にテキパキと指示を出し、なんとか飛行機を無事着陸させようと悪戦苦闘する。③2つの筋に加えて、いくつかの群像劇が用意されている。引退したハリウッド女優、亡くなった副機長の恋人のスチュワーデス、端役の役者、病気の少女、心やさしいシスター二人組、犬を持ち込んだ女など。だが彼らの人生の掘り下げが浅く、十分に機能していない。生きるか死ぬかの大危機に直面しているのである。もっと感情的になり、パニックになる人も出てくるだろう。皆大人し過ぎるのだ。④操縦士がいなくなれば、先ず乗客に操縦経験者がいるか尋ねるのが普通。経験者がいなくても、男達何人かで協力して操縦するだろう。それに穴が開いたのなら気圧の関係で気流が外に向かい、中のものは外へ出る。現に副操縦者は投げ出された。そんな状況下で女性が操縦するのは難しい。機内も気圧が低くなり、酸素マスクが必要となる筈。この辺りの事故描写が甘く、手に汗握る展開とはいかない。ところで飛ばされた空軍パイロットはどうなったのか。パラシュートは装着してなかったのだから。事故当時飛行機はソルトレイクで着陸態勢に入っていた。それからぐるっと回ってソルトレイクに戻ってきたのだろうか。⑤油漏れもあり、ブレーキが効きにくいという障害もあった。だが、物足らない。タイヤが降りないとか、滑走路が霧で見えないとか、第二の危機があればよかった。そう思うのは現代の「危機を煽るハリウッド映画」を見すぎた弊害だろうか。昔はパニック映画でものんびりしていたんですね。古き良き時代を象徴する映画ともいえそうです。そう思って観れば悪くない出来です。
[ビデオ(吹替)] 7点(2010-06-06 11:12:32)
178.  2012(2009) 《ネタバレ》 
ディザスター映画としては最高の出来。都市や大地の破壊を描くCGパートは迫力満点で、見る価値あり。だが人間ドラマは厚みがない。 ■そもそも余計なものが多い。マヤの予言とか、マヤの集団自殺とか、ダイアナ妃のトンネルとか、子供の名前がノアとか。どんどんB級になってゆく。都市が破壊されているのに電話がつながりすぎ。 ■人類愛パートは大統領とエイドリアン。ぱっとしないですね。大統領は残っても何の役にも立たないし、津波が来る15分前に乗客を乗せる決断にも疑問あり。■民衆の反乱もしょぼい。軍人などに反乱させれば盛り上がったのに。そうすれば正義の味方が登場する余地があった。 ■家族愛パートは作家とロシア富豪家族。離婚家族が再結束するワンパターン。作家と富豪、ゴードン医師と富豪の妻が知り合いなど、ご都合主義が目立つ。飛行場で飛行機に乗れないときに、大型ジェット機が見つかって、使用人がたまたま運転できたりとかはその最たるもの。 ■クライマックスは作家が命をはって障害物を除去する場面ですが、これは自分の播いたタネなので感情移入できず。ドアが閉まらないとエンジンがかからないってどういうシステム?無理やり感が強い。 ■ノアの箱船を最初は宇宙船にみせかけていたが、実際には津波に耐える船でしかなく、落胆でした。あんなのなら空母や豪華客船を改造すればできますし、潜水艦を使えばもっと安心です。それに中国奥地の高山の洞窟で船を使って、どうやって出港するのか?津波を待つ?ばかばかしい。港で作って早めに出港させとけばいいんです。人や物資はあとで運べばいいでしょう。遊覧していて、いざとなったら水中に潜るというシステムでもいいでしょう。あんなものなら各国で沢山作れますよ。 ■乗車券を売って富豪からお金を集めてましたが、これはおかしい。47国の国際協力事業なのでお金は潤沢にあるはず。刷ればいんですから。それに募集なんかしてたら秘密がすぐバレます。秘密を知った博士を暗殺していることと矛盾します。一方で遺伝子で選ばれた人の様子が描かれていないのはどうしたことか? ■冒頭の雨の中、少年が船で遊んでいる場面、あれは映画の後半を示唆するものとして印象的でした。 ■ぶっとんだDJオヤジ最高!個性があり、映画に活力を与えている。 
[映画館(字幕)] 7点(2010-02-26 11:32:01)(良:1票)
179.  都会の牙(1950) 《ネタバレ》 
暗黒フィルム(フィルム・ノアール)の佳作。話が転換する場面で、渦がでたり、毒が光ったり、前方の敵の拳銃の弾が横や後ろから飛んできたり、いかにも安っぽくB級だが、展開の疾走感が心地よく、観て損はない。昨今のジェットコースタームービーを思わせる脚本の勝利だ。会計士のビグローは何者かに毒を飲まされた。医者からあと一日か二日、せいぜい一週間の命と宣言される。絶望し、恋人の元に戻って残りの人生を癒されながら過ごすかと思いきや、猛然と走り出し、犯人探しにやっきとなる。傍題をつけるとすれば「走る会計士」、それくらい走り回っている。出会う人物がみんな怪しいのはご愛嬌。黒幕はギャングのボス、メイジャック。ピグローを誘拐させ、自宅に連れてこさせ、余計な説明をする。放っておいてもすぐ死ぬ運命なのに殺害を命じる。この手下がお約束のドジ。ピグローには安々と逃げられ、警察に射殺される。真相はこうだった。メイジャックは過去にイリジウムの不正取引をした。表向きは彼の甥ジョージ・レイノルズ(本名レイモンド・マクビアン)とフィリップの取引になっている。不正に感づいたフィリップはレイノルズを探すが、見つからない。実は、レイノルズは5ヶ月前に亡くなっていた。警察も不正に気づき、フィリップを尋問し、追及した。釈放されたフィリップは公正証書を作成していたのを思い出し、ビグローに連絡をとるが、あいにくと旅行で留守。どういうわけか、ビグロウの秘書に理由を明かさない。滞在先を教えてもらうが、翌日には自殺偽装で殺されてしまった。フィリップの妻もギャングの仲間だった。実行犯は、メイジャックの手下のホリディ(フィリップの会社の社員)。ホリディは証人を消すため、ジャズバーでピグローに毒を飲ませた。ここのジャズ・バンドが非常にクールで最高のスイングを聞かせてくれる。真相を解明しピグローは、会社から出てきたホリディを射殺。警察で真相を話し、恋人の名を口にすると、果てる。親玉は警察が逮捕してくれるだろう。主人公の人間ドラマが薄く作品に重さはない。離婚暦がある以外、どういう人生を歩んできたか不明だし、恋人への態度にも一貫性がない。恋人の嫉妬とか、バーでのナンパシーンは不要だった。二人は深く愛し合っているのが良い。数日しか命がないという設定が、緊張感をいやが上にも高める。悪者は余計なことをして墓穴を掘るのはサスペンスの黄金律?  
[DVD(字幕)] 7点(2009-10-26 21:13:51)
180.  アリバイなき男 《ネタバレ》 
古いミステリー作品としては拾い物。観て損はない。元警察官のボスが立てた完全犯罪が興味深い。お互いに顔を知らないチンピラ三人を集め、現金輸送車強奪を決行する。銀行の隣の店に止まる花屋の車とそっくり同じ車を用意し、カムフラージュする。警察は花屋の車を追うので時間稼ぎができる。四人はマスクをしているためお互いの顔を知らない。金はほとぼりが冷めるまで隠匿しておく。実は紙幣の番号は知られており、そのことを知っているボスは警察に三人を逮捕させ、保険会社から出る高額報酬を目的としていたのだ。ボスはかつて担当した事件で誤解され、強制解雇された過去があり、警察をうらんでいた。だがボスの計画は少しずつ。それは嫌疑をかけられた花屋のジョーが、自らの潔癖を晴らすために事件の真相を調べ始めたからだ。わずかな手がかりだけを頼りにメキシコに飛び、犯人の一人にたどり着く。このあたりまで無理がなく、脚本は冴えている。その人物は運悪く警察に射殺されてしまうが、その人物になり代わってボスの指定した場所に出向く。お互い疑心暗鬼の三人。ボスはジョーの正体が分からない。最高に盛り上がるサスペンス。それにジョーとボスの娘との恋愛がからむ。ラストは”ぬるい”が、最後まで持続する緊張感は見事。尺は短かめ。ボスとその娘、ジョーの過去を紹介し、その人間像を深く掘り下げれば名作になり得ただろう。ボスにもジョーにも”古傷”があるのだが、未消化のまま終る。ジョーと娘との恋も唐突すぎる。だから感動しきれない。リメイクしてほしい作品。
[DVD(字幕)] 7点(2009-10-25 02:08:42)(良:1票)
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