1. 華麗なるギャツビー(2013)
《ネタバレ》 “世界で唯一ピンクのスーツを着こなせる男”ジェイ・ギャツビー=ロバート・レッドフォード版から約40年後に、彼の功績を継いだのはレオナルド・ディカプリオでした。ディカプリオはロバート・レッドフォード版が製作された1974年生まれ、これも何かの因縁ですかね。 『ムーランルージュ』のバズ・ラーマンが撮ったのでちょっと期待しましたが、ギャツビー邸の乱痴気パーティーのシークエンスは意外なほど短く、そしてラーマンにしては大人しげだった印象があります。そういったミュージカル的な要素は最小限で、ガッツリとドラマ部分に注力したって感じです。このころのディカプリオ演技に嵌まりこんでいたというか力み返っていた頃なので、熱演ではあることは否定できないがあの眉間に皺を寄せる表情だけはなんか鬱陶しくなっちゃいます。脚本自体もギャツビーの悲恋物語という要素が強くなっています。デイジー=キャリー・マリガンは74年版のミア・ファローより遥かに良かったかなと思います。ミア・ファローのデイジーは最後にはギャツビーを冷酷に見捨てた嫌な女という印象でしたが、キャリー・マリガンは最後まで社会的な地位を捨ててギャツビーのもとに走るかの葛藤に苦しむデイジー像だったんじゃないかと思いました。 レッドフォードの74年版とは上映時間はほぼ一緒なんですが、本作の方がダイジェスト感は希薄で掘り下げた物語になっていたと思いますよ。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2025-06-06 22:40:25)《新規》 |
2. スーパーフライ(1972)
《ネタバレ》 実は『黒いジャガー』のゴードン・パークスが監督した映画だと私はずっと勘違いしていまして、メガホンをとったのは息子のJrの方でした。親父のゴードンは調べてみると写真家、詩人・小説家、音楽家とけっこう多才な人物だったみたいで驚きました。息子の方は飛行機事故にあって80年代まで生きのびることは出来なかったのは残念でした。 この映画は、麻薬の売人として成功した主人公がなぜか足を洗って引退するために最後の大勝負に挑むというのがストーリーですが、いくら70年代とは言っても倫理観の欠片もないお話しには辟易とさせられます。まるで煙草のようにコカインを吸いまくる登場人物たちには、観ているほうが感覚を麻痺させられそうです。これは当時のハーレムの実態だったのかもしれませんが、当時の観客だった青少年には悪影響を与えたことは十分考えられます。確かにカーティス・メイフィールドの音楽はしびれるほどカッコよいけど、歌詞はもう滅茶苦茶ダークで引いてしまいます。「俺たち黒人は今まで虐げられてきたから、反社会的な行動をしても許されるしそれがカッコよいんだ」という驕りが透けていて、とてもじゃないけど共感出来ません。まあ大したアクションもなく典型的なB級ブラックスプロイテーション映画だと思うんだが、『死ぬまでに観たい映画1001本』に選出されるなど近年に評価が高まっているそうな。比べるのもなんなんだが、同時期の東映ヤクザ映画の方がよっぽど出来がイイと思いますよ、こういう麻薬に甘い米国の大衆文化はほんと困ったもんです。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2025-05-27 23:06:48) |
3. アウトサイダー(1983)
《ネタバレ》 『ワン・フロム・ザ・ハート』が大コケして破産の窮地に陥ったコッポラが、小品ながらも再起をかけて撮った作品。父のカーマインをはじめ三人の子供と家族総動員で苦境に立ち向かったという感じですが、あのスティービー・ワンダーの名曲"Stay Gold"がカーマインがこの映画のために作曲したオリジナル楽曲だったとは恥ずかしながら知りませんでした。 いわゆるYAと称された若手スターが総出演なんですが、今となって見るとほんと凄い顔ぶれでほとんどがオーディションで選ばれた面々、ラルフ・マッチオなんてこれがデビュー作ですからねえ。この中でもっとも成功しているのはもちろんトム・クルーズですが、初登場シーンでいきなり爆転(もっともこのシーン撮影では歯を折ったそうです)を見せるけど、ほとんど目立たないキャラだったとしか言いようがないです。いちおうグリーサーとソッシュという2グループの構想が軸となっているけど、パトリック・スウェイジ、ロブ・ロウ、C・トーマス・ハウエル三兄弟の物語がこの映画の主題なのは観てのとおりです。ここまで濃密な関係性の男兄弟というのも映画の中としても珍しいぐらいで、ロブ・ロウとC・トーマス・ハウエルが同じベッドで寝てるところなんか、ちょっとゾワってしたぐらいです。そういえばこの映画にはそこはかとなくゲイ的な要素が強めな気がするのですが、いかがでしょうか? コッポラ映画となると脚本やストーリーがどうしても注目されがちですが、彼の作品にはどれも独特の映像美があることを見逃してはなりません。本作でもまさに『風と共に去りぬ』を彷彿される美しい夕焼けや朝焼けのシーンには眼を奪われてしまいます。この美しい映像に"Stay Gold"が被さってくるのは、もう堪りませんぜ。あとちょっと気になったところは、1965年という時代設定なのに黒人やアジア系などがチョイ役を含めてまったく登場しないところでしょうか。かといって登場させると『地獄の黙示録』みたいにアジア人蔑視なんて非難を浴びせられるし、やっぱしそういう面ではコッポラは癖のある映画作家なのかもしれません。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2025-05-24 22:26:51) |
4. ユーズド・カー
《ネタバレ》 道路を挟んで向かい合う双子の兄弟が経営する中古車屋の骨肉の争い、と言ったらなんかオドロオドロしますがそれを徹底的におバカなコメディに仕立て上げたって感じかな。のっけから羽振りが良いほうの弟が兄を実質的に死に追いやって店を乗っ取ろうとする、これはかなりシリアスな展開ですが、部下のカート・ラッセルたちがその死体を売り物の中古車に乗せて店内敷地に埋めてしまう、これはてっきりこの映画はブラックジョークなストーリーなのかと思っちゃいますよ。この口八丁手八丁な敏腕営業マンであるカート・ラッセルが実に面白いキャラなんだが、こいつらが繰り出すフットボール試合や大統領演説(!)を電波ジャックして下品なCMを流すというアホな作戦、あまりにバカバカしくて突っ込みを入れるのも忘れるぐらいです。ラストの『赤い河』か『トランザム7000』のパクりとしか思えない中古車大暴走、これがやりたくて書かれたストーリーなんだろうなと、容易に想像できますね。 この映画はジョン・ミリアスの企画だったのをスピルバーグ&ゼメキスが引き継いだ形で、二人も初期のころは迷走気味だったんですね。『BTTF』でドク・エメットは、あのデロリアンをこの映画の後でこのカート・ラッセルの店で12,000ドルで購入したと、ゼメキスらの仲間内での設定になっているそうです。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2025-05-15 21:40:00) |
5. ザ・スイッチ
《ネタバレ》 原題の“Freaky”から大林宣彦の『転校生』の元ネタで入れ替わりコメディの始祖である『フリーキー・フライデー』を思い起こされるが、実際のところ製作者は『フリーキー・フライデー』のホラー・コメディのつもりで撮っていたそうで、ご丁寧に当初のタイトルは『フリーキー・フライデー・ザ・13th』だったんだって。シリアルキラーのヴィンス・ボーンの中身がJKになっちゃうというかなり突飛なアイデアなんだが、大男のボーンのおネエ演技がこれまた上手いんだよな。シリアルキラーが入り込んだJKが殺しまくるというのは今までに観たことあるような絵面なだけに、無精ひげ生やした大男のボーンが際立っていたと思いますよ。いくら中身がシリアルキラーだと言っても身体はあくまでJKなんで体力は劣っていて格闘戦では簡単に負けちゃうというところなんかは、確かにそうだよね、って納得してしまいます。中身がJK男の方はお約束の下半身ネタになるわけですが、これは入れ替わりものの定番ですね。ストーリー自体はこれでもジュブナイルを意識したような感じです。それにしてもかなりユルユルな脚本で、とくにラストのヴィンス・ボーンの復活なんかは「これはいったいどうなってるんだ?」と頭を傾げてしまいました。 あの傑作『ハッピー・デス・デイ』シリーズと同じ製作陣なんで期待しましたが、思ったほど才気が感じられず普通のスラッシャー・コメディだったかな思いました。それより早く『ハッピー・デス・デイ』シリーズ三作目を撮ってほしいなぁ… [CS・衛星(字幕)] 6点(2025-04-30 22:09:13) |
6. キングスマン: ファースト・エージェント
《ネタバレ》 この作品は『キングスマン』シリーズの前日譚かと思って観始めたが、こりゃ完全にスピンオフですよね。いきなりボーア戦争で大英帝国がナチスに先だって建てた強制収用所が登場、その後の展開も史実を巧みにフィクション化した小ネタが満載の脚本は、歴史マニアをも唸らせる脚本は秀逸でした。もっともマタ・ハリがウィルソン大統領にハニートラップを仕掛けて脅迫するなんてのは、ちょっと悪ノリが過ぎた感もありますがね(笑)。ヴィルヘルム二世・ジョージ五世・ニコライ二世の三君主をトム・ホランダーに三役で演じさせるというのは、なかなかぶっ飛んだアイデアだったと思います。実際のところ三人ともヴィクトリア女王の孫でいとこ同士、とくにジョージ五世とニコライ二世は双子かというぐらいのそっくりさんだったという史実を上手く織り込んだ演出でした。フランツ・フェルディナンド大公暗殺犯のガヴリロ・プリンツィプと怪僧ラスプーチンやマタ・ハリが闇の組織のメンバーで首領の指示のもと第一次世界大戦を引き起こさせて大英帝国を窮地に追い込むという陰謀論丸出しのストーリーも、実際に起こった数々のイベントを巧みに落とし込んでいるので愉しめましたし、おまけに実はレーニンそしてヒトラーまでもがメンバーだったとは!こりゃあ史上最悪の陰謀組織じゃないですか(笑)。でもそんな組織のボスがみみっちい動機の復讐が目的だったとは、小物感が半端無かったのがちょっと残念でした。でもやっぱラスプーチンがいちばんキャラが立ってましたね、あのコサックダンスを取り入れたようなレイフ・ファインズとの剣の決闘は、この映画の最大の見せ場だったと思います。レイフ・ファインズもリーアム・ニーソン顔負けのアクション・シーンを見せてくれて、新たな熟年アクション・スターの登場だったのかも。マシュー・ヴォーンの演出も前二作の様な羽目を外すようなところもなく、極めてオーソドックスだったんじゃないかな。まあ肩の凝らない愉しめる映画だと思いますよ。このスピンオフもシリーズ化するのもアリかな。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2025-04-27 23:10:00) |
7. 荒野の隠し井戸
《ネタバレ》 軍の倉庫には金塊が50キロ保管されていたが、隣接する靴職人の店からトンネルを掘り、倉庫番の曹長の手引きによってまんまと盗み出されてしまった。一味の一人が金塊を隠したが、ギャンブラーのジェームズ・コバーンと酒場で揉めて射殺されてしまう。かすめ盗った20ドル札に書かれた地図から金塊の隠し場所に気が付いたコバーンは、町の保安官の自慢の愛馬を奪って隠し場所に向かう。かくしてコバーン・保安官・コバーンに手籠めにされた男勝りの保安官の娘・本来の金塊強奪犯たちが四つもどえになって金塊の奪い合いが始まるのであった。 まったくと言って良いほど無名の西部劇コメディですけど、テンポも良く短い尺の中で二転三転するストーリーはなかなか愉しめました。なんといってもジェームズ・コバーンの飄々としたコメディ演技がシャレてます。バンバンと銃撃するシーンはあるけど、意外なことに序盤でコバーンが決闘で倒す一人の他に死人が皆無というところもイイですね。『OK牧場の決闘』風に各キャラクターの解説や心情を、カントリーミュージックで延々とナレーションするのも洒落ています。音楽担当は若き日のデイヴ・グルーシンで、グルーシンと言えば洒落た雰囲気の音楽というイメージなのにこんなコテコテのカントリーミュージックもできるとは、さすが多才です。クレジットはありませんが、ブレイク・エドワースがプロデューサーとして参加している影響も大きかったのかな。 とはいっても観る機会も少ないほとんどカルト的な映画ですが、観たら決して損はないと思いますよ。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2025-04-21 23:26:11) |
8. シビル・ウォー アメリカ最後の日
《ネタバレ》 英国人のアレックス・ガーランドだからこそ、こういう洒落にならないような際どい題材の作品が撮れたのだろうと思います。〝米国で内戦が発生!”というでかいテーマを非常にミニマムな視点でしかもロードムービーとして撮っていますが、しょうじきなんで内戦が勃発する事態に至ったのか現在の情勢はどうなっているのかなどの基本的にオミットしているので、ワシントンDCへと向かう四人の視点でしか情勢が判らないようになっています。反乱軍としてタッグを組んでいるのがカルフォルニア州とテキサス州というちょっと現実にはあり得ないけど、リアルな米国の政治情勢を織り込んで刺激が強くならないようにという配慮があったんでしょうね。だからワシントンに近づいていっても何がどうなっているのかさっぱりで、どうやら政府軍は敗北しそうでそうなったら大統領は殺されることになりそうだということぐらい。その代わりに四人は道中で様々な理由で虐殺された一般市民を見ることになるわけで、まさに合衆国は北斗の拳の世界の様な修羅の国になっているということです。それでも途中には〝国が内戦状態であることを見ない”という現実逃避に走って平穏な暮らしが続いている町もあるわけです。設定では反乱側は全米50州中の19州、つまりいちおう連邦政府を支持する州の方が多いことになっていますが、きっと様子見というか傍観しているだけの国民が多いということなんでしょうね。主人公たちは報道カメラマンにTV記者そしてNYタイムズの記者でいわゆるオールド・メディアの奮闘を描いているとも取れますが、このSNS全盛の時代にはちょっと現実離れしている感も無きにあらずです。見習いカメラマン的な立ち位置のジェシーがニコンのアナログモデルを愛用していて屋外で使用できるキット(そんな優れモノがあったとは知らなんだ)を使用してフィルムを現像するシーンがあるところなんか、監督の意思が伺えたような気がしました。ラストの展開なんかトランプが観たら激怒することは間違い無しですが、さすがにハリウッドではあの写真のショットで幕を閉じるなんてことは、絶対ムリでしょうね。それにしても久しぶりにキルスティン・ダンストの出演作を観た気がしますが、すっかり歳相応のおばさん顔になっていましたね、これはイイ意味での誉め言葉ですけど。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2025-04-19 22:58:47) |
9. フランケンシュタイン(1994)
《ネタバレ》 メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』は、学生のころ英文購読の教材だったので読みとおしたことがありました。フランケンシュタインが創り出した怪物が哲学的な語りをすることに、妙に違和感を持ってしまったという記憶があります。原作に忠実に撮ったというこのケネス・ブラナー版を再見して、その違和感が甦ってきました。処刑者の頭部というか脳をくっつけて創られたクリーチャーがやっとFriendという言葉を理解できるぐらいの段階なのに、フランケンシュタインの研究ノートを読解して終いには愛を求めるようになる過程が、いくらフィクションとは言っても不自然な気がします。そもそもシェリーは科学否定的な思想の持ち主だったので、小説の中でもクリーチャーという存在の科学的な辻褄合わせには興味が無かったんじゃないかな。 このケネス・ブラナーの『フランケンシュタイン』は一言で要約すれば“グロいメロドラマ”ということになるのかな。デ・ニーロが演じるクリーチャーは、史上もっともグロいフランケンシュタインのクリーチャーだったと思います。このクリーチャーのパブリックイメージはボリス・カーロフ版であるのは間違いないけど、デ・ニーロのクリーチャーはボロを纏ったホームレスにしか見えないのが難点だな。でも登場時には生々しかった縫い目が終盤にはかなり薄くなっているところが、生身の肉体が素材だけあって妙にリアルです。ヘレナ・ボナム=カーターのエリザベスは、自分的にはミスキャストじゃないかと思います。このエリザベスには清楚な感じが皆無なので、私が抱くエリザベスというキャラとは隔たりがあり過ぎるのも原因かな。ラストで凄まじいメイクの女クリーチャーにされちゃうのはさすがに可哀そうだったかな、そういやティム・バートン作品なんかでも酷いメイクされがちだし、意外と彼女自身がこういうのが好きなのかも(笑)。 『ドラキュラ』を撮ったコッポラが本作ではプロデューサーにまわったわけですが、この作品では監督のケネス・ブラナーの撮り方には満足できずにかなりもめたらしいです。まあもしコッポラが監督にまわっていたら、こんなに音楽過多なメロドラマにはならなかったでしょうね。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2025-04-09 22:33:00) |
10. ジョニーは戦場へ行った
《ネタバレ》 反骨の脚本家ダルトン・トランボが監督として製作した唯一の作品で、自作の小説の映像化です。1939年に書かれた小説で第二次大戦時と朝鮮戦争の間はその強烈な反戦性で出版されなかったそうですが、大戦中の差し止めは政府による発禁処分じゃなくてトランボ自身の判断によるものだったそうです。当時は共産主義シンパだったトランボがソ連を攻めているナチス・ドイツと戦う米国の戦争努力を邪魔したくなかったからだったのが本心みたいで、主義者にありがちなこういうダブスタはなんか嫌ですね。私はこの映画は史上最恐の反戦映画の一つだと思っています(もう一本は『火垂るの墓』)。初見はたしか中学生の時だったと思いますが、あまりの衝撃に永い間トラウマになって、その後ソフト化されたりして観る機会が増えたけど、どうしても再見する勇気がなかったほどです。 トランボが原作を書いたのは新聞に載ったカナダ軍将校の悲惨な運命に触発されたからですが、実はこの記事は事実を歪曲したほとんどフェイクニュースだったみたいです。でも江戸川乱歩の『芋虫』みたいな人間芋虫みたいになってしまったジョニーの過酷な運命は、考えるほどにこれほどダウナーな気分にしてくれるストーリーはないんじゃないかと思います。手足や顔、そして五感をすべて失ってしまっても生きるしかない人生なんて、身の毛もよだつというよりももはや想像することすら困難です。つまり「肉体を失って意識だけの存在になっても、それは果たして人間と呼べるのだろうか?」という問いでもあり、そうなってしまったらもはや『禁断の惑星』のイドの怪物となんら変わりのない存在なのかもしれません。 現実の病院での監禁生活がモノクロで、過去の思い出や頭に浮かぶ幻想はカラーという演出が効果的です。その思い出と幻想にクロスオーバーするように登場するイエス・キリスト=ドナルド・サザーランドのキャラが秀逸、神の子のくせに誰も救えず単なる黄泉の国への案内人程度の存在なのがキリスト教への強烈な皮肉になっています。けっきょくモールス信号というジョニーが外界とコミュニケーションを取れる唯一の手段を教えてくれたのが、死んだ父親の霊魂だったということも宗教の無力さを強調していたような気がしました。でもそのジョニーがやっと発することのできたメッセージが“SOS”と〝kill Me”だったという結末は、あまりにも悲惨でした… あまり人にお奨めする気にはなり難い種類の作品ですが、死ぬまでに一度は観てこのストーリーが持つテーマを考えてみるだけの価値はあると思います。 [映画館(字幕)] 9点(2025-04-03 23:31:13) |
11. 夢のチョコレート工場
《ネタバレ》 この映画は、ティム・バートンの2005年のリメイクを観ているかどうかが、微妙に評価に影響を与えているみたいですね。ちなみに私はバートン版はまだ観ていません。それでも大体のプロットは知ってはいましたが、このオリジナル版がミュージカル仕立てだったとは知りませんでした。最初のシークエンスでお菓子屋の店主が歌う”キャンディマン”を聴いたら、これがすぐに『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』でジェニファー・ティリーがオーディションで歌った下手な曲だと合点しました。なんせあのジェニファー・ティリーのオーディションのシーンは未だに鮮明に記憶に残っていますからね。サミー・デイヴィス・Jrもこの曲がお気に入りで、彼のライブでの定番曲だったそうで、米国じゃスタンダード・ナンバーと言える存在みたいです。日本ではなぜか未公開でバートン版が世に出るまで知名度が低かったのが不思議なくらいです。 確かに現在の眼で見ればセット撮影など古臭さを感じるのはやむを得ないですが、独特のブラックな作風は当時の基準から見れば斬新だったんじゃないかな。本作を児童向け映画に分類しちゃうのはちょっと観方が浅い様な気がしますね、だいいちチャーリー以外の4人の子供たちはある意味この世から抹殺されてしまったとさえ思える節もあるんじゃないでしょうか。招待された親子たちに向けるジーン・ワイルダー=ウィリー・ワンカの眼差しには冷やかなものがあるし、完全にサイコパス的な世捨て人風味が印象的です。ウンパ・ルンパたちのダンスや歌も、微笑ましいという感じじゃなくどちらかというと不気味な感じです。もし自分がこの映画をリアルタイムで観ていたら、きっと軽いトラウマが残ったことでしょう。まあこのストーリーは、本格的なミュージカル舞台にしたら面白いんじゃないでしょうか。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2025-03-28 22:43:02) |
12. ビートルジュース
《ネタバレ》 ティム・バートンの最初期の作品ですが、ある意味でバートンの世界観が彼のフィルモグラフィ中でもっとも色濃いんじゃないかと思います。でもWikiによるとそもそもはマイケル・マクダウェルが書いたオリジナル脚本が製作のきっかけで、脚本自体にはバートンは関わっていないみたいです。でもビートルジュースやゴーストたちの造形や見せ方には彼のアイデアが詰まっていて、これでバートンの世界観が確立したんじゃないかと思います。よく考えると幸福なカップルが事故で死んでしまってその後に幽霊になって自宅だった家の住人を追い出そうとする、まるでニコール・キッドマンの『アザーズ』の同じおどろおどろしいプロットなんだけど、これをブラックユーモアでここまで奇天烈なストーリーにしちゃったところがバートンの非凡なところです。生前のアダムがなぜか造っていた町のジオラマが、ビートルジュースが蘇る異世界と繋がっているという不思議な世界観は、バートンらしくて好きです。尺のほぼ半分過ぎまで実は登場しなかったマイケル・キートンの怪演がまた強烈で、セリフのほとんどがキートンのアドリブだったそうでこれにはびっくりします。ウィノナ・ライダーのゴス趣味娘も、その後の彼女のパブリックイメージを確立させたんじゃないかと思います。自分にいちばんのツボだったのは、エビのディナーでのバナナ・ボート・ソングのシークエンスで、何度観てもほんと笑ってしまいます。この映画はスタンダードになってその後アニメやミュージカル舞台にもなりましたが、いちばん驚くのは36年も経ってからティム・バートンが続編を撮ったことでしょう。マイケル・キートンやウィノナ・ライダーなどのオリジナルキャストというのも凄いですが、さすがにジェフリー・ジョーンズは出演できなかったみたいですけどね(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2025-03-25 23:10:41) |
13. ミザリー
《ネタバレ》 自分が今まで観た中で、おそらくもっとも“痛み”“激痛”という感覚を実体験させられたような気分にしてくれた映画です。銃で撃たれたり刃物で刺されたりすることは普通の人生では経験することはまずないが、自分は未体験だが交通事故などで骨折することは実生活で遭遇する可能性はあるわけで、その痛みが想像できてしまうわけです。まして足首にくさびを挿んでごついハンマーでへし折られるなんて…あのあり得ない角度で折れ曲がった足首を見せられたら、たぶん映画館では観客から悲鳴が上がったことでしょう。この映画も主演オファーを拒否した男優スターの顔ぶれを見ると錚々たる面々で、やっぱこんな酷い目に遭う役は躊躇しちゃうんでしょうね。その中にジャック・ニコルソンもいたそうで、『シャイニング』で狂ってゆく作家を演じた彼が今度は狂気の読者にいたぶられる作家を演じるなんて、想像しただけで笑えてきます。 ロブ・ライナーの演出とウイリアム・ゴールドマンの脚本は、登場人物が少ないながらも上手に伏線を張っていて飽きさせないものがあります。とくにライナーは全作品を観て研究しただけあって、たしかに往年のヒッチコックを彷彿させるサスペンスの盛り上げ方でした。私は原作未読ですけど、ポール・シェルダンの薬物中毒歴のオミットや原作にない保安官リチャード・ファーンズワースの存在など、かなり独自の脚色があるみたいですがスティーヴン・キングはこの映画がいたくお気に入りのようです。それはやはりキャシー・ベイツの出演が大きかったみたいですね、彼は本作後もベイツのために二本もオリジナル・ストーリーを書いて映像化してるぐらいですから。確かに狂っているけど純真な乙女チックな表情を時折見せるところなど、その緩急の付け方が舞台女優出身らしく上手いと思います。最後に〆られる女性ヴィランが登場する映画は珍しくないけど、本作のベイツほどボコボコ(とくに顔)される女優は観たことないって感じでした。ポール・シェルダン=ジェームズ・カーンも、これは後期ジェームズ・カーンの代表作として永く記憶される演技だったと思います。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2025-03-22 23:21:33) |
14. アミスタッド
《ネタバレ》 アミスタッド号をめぐる奴隷貿易事件はあくまでスペインやポルトガルの奴隷貿易が根本の問題なんだけど、それが当時まだ奴隷制度を維持していた米国に重い課題を突きつけたのは事実でしょう。現実に米国内での奴隷解放運動に燃料投下したような節もあり、いわば同じスピルバーグ作品『リンカーン』は本作の続編の感もあります。『カラーパープル』も含めて奴隷制度問題は、実はスピルバーグのライフワークの一つだったのかもしれませんね。日本ではそろそろ黒船が来襲して幕末近しという時代なのに、欧州では奴隷制度をまだ維持していた国があったというのは驚いてもいいんじゃないかな。でもスペインやポルトガルではあくまで植民地での制度だったけど、米国だけは国内の重要な社会制度の一つだったんですから、罪深いものです。この映画ではそれまでさんざんやらかしていた”ブリカス”大英帝国だけが正義の味方みたいな感じになってるのは、奴隷貿易を取り締まったことは史実なんだけどちょっと腹が立ちます。でも考えてみると、最近のチャイナマフィアがミャンマーでやってることを考えると、こういうことは過去の出来事だと言い切ることは出来ませんね。 最初のころ、シンケたちアフリカ人の言葉に英語字幕がずっと付かなくて、このままで押し通すのかとなんか不安になりました。でもこの映画の隠れテーマは、互いに言語が通じない人種がどうやってコミュニケーションを取れるようになるかということだった思います。それが例え言語が同じであっても理解させるのが難儀な法廷闘争をするということに、この映画の面白味があったと感じます。まあ説教臭いというか、聖書の挿絵を見るだけでキリスト教を理解し始めるというのは、ちょっとなんだかなあとは思いましたけどね。最後は法廷映画でお決まりの大弁論というか演説でしたが、名優アンソニー・ホプキンスですからそりゃ格調高い仕上がりで思わず聴き入ってしまいました。やっぱ演説は名優にやらせるのが一番ですね。モーガン・フリーマンが演じたキャラは本作主要キャストで唯一の架空人物だそうですが、妙に存在感が薄くて活躍が見れなかったのは残念。 悲惨なお話しだったけど、当時のスピルバーグの残酷風味は『プライベート・ライアン』や『シンドラーのリスト』に比べたら薄かった感はあります。まあ本作は出来の良い法廷劇として観るのが正解だと思います。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2025-03-16 22:04:14) |
15. 眼下の敵
《ネタバレ》 『Uボート』が世に出るまで、潜水艦映画の最高傑作と目されていた作品かな。単純な戦闘ではなく、潜水艦戦の特徴である心理的な駆け引きを重視した初めての映画だと言えます。それにしてもつくづく思い知らされるのは、潜水艦戦における欧米人のしつこさとねちっこさです。実戦でも12時間以上Uボートが駆逐艦に追い回されて撃沈されたという実例もあり、熱くなり易いが冷めるのはやい日本人には到底向いているとは言い難い戦いですよ。 50年代のハリウッド戦争映画としては珍しい部類の、まったく女性が登場しない漢くさい映画です。駆逐艦ヘインズは実際に当時まだ現役だった二次大戦当時の艦を使って撮影されており、とくに爆雷投下のシーンの迫力はかなりのもので、あそこまで高く水柱が上がるものだとは知りませんでした。半面セットで撮影されたUボート艦内は実物よりも広くて妙に綺麗で実感に乏しいところが難点、後年の『Uボート』のごみごみした閉所恐怖症には耐え難い狭さと比べて見れば一目瞭然です。あと艦内に専属コックみたいなキャラがいたのもヘンで、第二次大戦のどこの国の潜水艦でもそんな人員を置く余裕はなかったと思いますよ。ラストの展開はなんか綺麗ごとの様な感じでちょっとピンと来ないのですが、やっぱこういう幕の閉め方じゃないとすっきりしませんよね。クルト・ユルゲンスは本作がこれがハリウッド映画初出演ですが、これ以降ドイツ軍人と言えばこの人、って感じの欠かせない存在になってゆきます。彼とロバート・ミッチャムはその後『史上最大の作戦』にともに出演しますけど、まあこれはシークエンスは別で絡みはなく共演とは言い難いかな。 ナチス体制に反感を持つ艦長・艦長とは友人同士のような関係の部下NO,2の存在・コチコチのナチス信奉者の若い士官・艦内でレコードをかけての大合唱・緊張に耐えられなくなった兵が一時的に錯乱する、実はこれらの要素は『Uボート』で形を多少変えてそっくり再現されているんですよ。『Uボート』は原作小説も含めて本作の影響をかなり受けていることに気づいた次第です。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2025-03-13 22:37:05) |
16. ジュマンジ
《ネタバレ》 いやあ、うっかりしてました。20年ぶりぐらいに観直したけど、『アマデウス』のサリエリに激似の父ちゃんと狂人ハンターのヴァン・べルトが同じ俳優が演じていたとは!何でもヴァン・べルトは違う俳優が演じるはずだったのがぽしゃったのでジョナサン・ハイドに話が回ってきたとのこと。彼は「二役はしんどい」と断っていたが、よく脚本を読むと父ちゃんは出番が少ないちょい役みたいなので引き受けたそうです。倍になったかは知らんがギャラは確実に増えただろうから良かったね(笑)。米国の有名な批評家が「子供が観るには怖すぎる映画だ」と評したそうですが、いやー判ってませんね、このストーリーは大人に向けたファンタジーなんですよ。ラストで遂にゲームを上がらせて「ジュマンジ!」と叫ぶと、二人でゲームを始めた26年前の少年時代に戻っていて運命を変えたしくじりを修正してゆき、最後にはジュディとピーターの姉弟と再びめぐり合って事故死するはずだった両親を救う。これは誰もが一度は経験する「あの時にああしていればこんな境遇にならなかったのに…」という後悔を癒す大人のファンタジーなんです。そしてアランを抑圧する父性の象徴であるヴァン・ベルトに打ち勝ち父と和解するところも、教訓地味てはいるけど良い結末だと思います。そういう意味ではこの映画は『バック・トゥー・ザ・フューチャーPART2』や『ワンス・アポン・イン・ハリウッド』と共通している部分があると言えます。まあとは言え、まるでジェットコースターのようにゲームから飛び出してくる災難には、CG黎明期なので動きとかには今の眼で見るときついところがあるにせよ、十分に愉しませてくれると思います。ジュディを演じたキルスティン・ダンストはまだ13歳、“オーディション全勝伝説”の真っ最中だった頃でやっぱ輝いていますね。彼女はやはり10代が全盛期だったんじゃないかな、これは子役出身俳優に付き物のアルアルですけどね。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2025-03-07 22:45:09) |
17. ランボー
《ネタバレ》 シルベスター・スタローンと言えばロッキーかランボーかというぐらいランボーのキャラ・イメージが強いけど、第一作がスタローンが主役に決まるまでのゴタゴタは色々あったみたいです。ランボー役候補だった男優は、イーストウッドに始まりジェームズ・ガーナー、アル・パチーノに加えてなんとダスティン・ホフマンまで、彼らすべてに断られた挙句にスティーヴ・マックイーンには受けてもらえそうだったけど、彼の死によっておじゃんに。おまけにトラウトマン大佐役もカーク・ダグラスにオファーするけどこれも失敗。当時ヒット作に恵まれてなかったスタローンに決まったのは、プランBどころかプランFぐらいだったみたいです(笑)。たしかにこの第一作はその後のランボー・シリーズと大違いで、けっこうカタルシスには遠い暗いストーリーなので、ドル箱スターたちに断れまくったのは納得できます。 たしかに言えるのは、このベトナム帰還兵のジョン・ランボーという男は、PTSDだかなんだか知らいないけど何が目的で暴れたのかは理解不能です。もっともランボーが保安官に眼をつけられて逮捕されるのもまったく理解できない、米国の田舎では地元民じゃない人間というだけでしょっぴけるというのも衝撃。ストーリーはここからノンストップで進行してゆくので息もつけないけど、考えて観ればおそろしく単純なお話ですよね。終盤ではガソリン・スタンドごと町の中心部を吹っ飛ばすし、いくら元グリーン・ベレー隊員と言ってもあれだけの武装警官に囲まれれば射殺されちゃうでしょ。でも80年代スタローンのアイコンとなったM60機関銃を腰だめで撃ちまくる姿を見せられれば、こいつなら一個師団相手でも生きのびそうな迫力に圧倒されます。またこの映画は、主要キャラには男性しかいない男臭いお話でもあります。原作小説ではランボーはトラウトマン大佐に射殺されて終わるそうですが、完全にPTSD発症で廃人のようになって連行される本作のラストも、なんだかなあと言う感想になっちゃいます。 米国では興業的には失敗作となりましたが、スタローンが乗っ取ったような形で続編が撮られてヒット・シリーズになるとはこの時点では誰も予想しなかったでしょうね。でも自分はアメリカン・ジャスティスの権化と化した不死身のランボーよりも、孤独に苦しむ本作のランボーの方が好きです。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2025-02-25 22:57:40) |
18. バラキ
《ネタバレ》 『ゴッドファーザー』の様なエモさの欠片もない、いわばアメリカ版実録マフィア映画の始祖とも言うべき存在かな。ジョセフ・バラキという米上院公聴会で初めてマフィア=コーザノストラの存在を証言した人物の映画化という訳ですが、はっきり言ってこの人マフィア歴は長いけど所詮下っ端に過ぎず、全米マフィア組織の上層部の様なことを知っていたわけじゃない。だけどこの証言によって闇に包まれていたマフィアの存在が周知となったという意義があったと言われています。 ストーリーは、刑務所でジェノヴェーゼ=リノ・ヴァンチェラに命を狙われるようになったバラキ=チャールズ・ブロンソンが、FBI捜査官に自分のマフィア歴を語るという構成で、大部分のパートがバラキの回想シーンとなります。これによってNYマフィアの歴史を判り易く伝えようとしますが、如何せんそんなに派手なアクションやドラマがあるわけじゃなくて平板というか退屈な展開となりました。同じマフィア構成員の告白をもとにした『グッドフェローズ』と比べれば、映画としての出来の違いが実感されます。あと、マフィア構成員だけじゃなく登場キャラがみなアメリカ人っぽくないと思ったら、実際にマフィアの妨害があってい大部分がイタリア人俳優を使ってローマで撮影されたそうです。まあ実際のところ、ジェノベーゼとバラキが獄死してようやく映画化出来たってくらいですからね。出番はブロンソンより遥かに少なかったけど、リノ・ヴァンチェラの存在感は圧倒的でした。この人はもう顔からしてマフィア顔ですから、怖いぐらいです。でも実際のジェノベーゼは大戦中にイタリアで逮捕されて強制送還されているのに、この映画では戦後麻薬ルートを確立させて悠々自適で帰国したようになっているのはどうしたことかな。まだ色々と忖度しないといけないことが多々あったのかもしれません。洋の東西を問わず、実録犯罪もの映画は難しいところがありますね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2025-02-19 22:52:48) |
19. サタデー・ナイト・フィーバー
《ネタバレ》 ご存じジョン・トラボルタの出世作にしてディスコ映画の金字塔です。自分はもちろん70年代のディスコ界隈なんて経験していませんが、こうやって観直してみると当時のディスコダンスは本場のNYでも現在のクラブ・シーンとは大違いでかなり社交ダンス的な感じだったんですね。イタリア系の無学な塗料店員を演じるトラボルタと家族そして彼の仲間たちも、能天気なディスコ映画の予想を裏切るほどしっかりとキャラ付けされています。思ったよりトラボルタのダンス・シーンが少なかったのですが、さすがに彼が踊りだすと場の雰囲気がガラッと変わってしまうのが強烈な印象です。その半面、やはり相方ステファニー役のダンスは見劣りがして、劇中で名手トニーが惚れこむような才能があるようには見えません。この女優はヒロインとしてはやけに老けてるよなと思ったらなんと撮影時34歳!二十歳という設定のトニーの相手役としては違和感ありありでした。ほんとなんでこの人がキャスティングされたのかは訝しむところで、やはりジェニファー・ビールスぐらいのスキルがないとねえ。あとこのステファニーが劇中でやたらとトニーにマウントとるのが不快で、最後まで単に性格悪い女としか思えなかったです。まあトニーもダンス以外はガキ丸出しって感じでしたがね、と言ってもラストでは多少は成長の成長の兆しが見えたので良しとしますか。でもそうなるとトニーがソデにした女アネットがとてもいじらしくて可哀そうになってきます。トニーたちが橋の欄干から落ちたふりをしてドッキリをアネットに仕掛けるところは、彼女が口をあんぐり開けてちょっと見たことないような迫真のリアクションを見せるので「凄い演技だ」と感心したのですが、なんとアネット役にはその展開を知らせずに撮影してまさに本当のドッキリだったそうです、そりゃあんな表情になるわな(笑)。この映画で感情移入出来たのはアネットと神父を辞めたトニーの兄フランク、そしてトニーの勤め先のオーナーぐらいだった気がします。 能天気なミュージカルっぽい映画と思ってみたら肩透かしを喰うでしょうが、意外と底辺に近い存在の若者の苦悩が伝わるストーリーだったのは確かです。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2025-02-16 22:48:33) |
20. キュア ~禁断の隔離病棟~
《ネタバレ》 スイスの古城にある謎のオカルトチックな診療所、この診療所内の雰囲気からしてあの怪作『ケロッグ博士』をミステリー・ホラーに仕立てたような感じです。老人ばかりの入所者たちの成れの果てを観ると、これまた『コーマ』を思い起こさせてくれます。この診療所のウリはやたらと飲ませられる水とウナギで、とくに前半はテンポが良く謎が深められるような伏線が張りまくられていて期待が高まります。山頂に建つ古城から見渡せる山並みが綺麗で眼を見張りますが、実はこの山々はCGなんだそうで知ってしまってちょっとがっかりでした。この映画は凝った映像が多くて、監督の拘りが感じられます。主演のデイン・デハーンの顔相がストーリーが進むに連れて病的さが増してゆくのも印象的、彼が意にそまぬ奇怪な治療を受けるところは、もう拷問ホラーです。さすがにあの歯に穴を開けられるところは、神経が逆なでされて眼をそむけてしまいました。画的には色々と見どころがあるんだけど、詰め込み過ぎて長尺になってしまったストーリーには首をかしげたくなる部分が多々あります。ロックハートが水槽やトイレで見たウナギ群は彼が見た幻視だとは理解できますが、これが有機的にストーリーに結びついているかと言うと首を傾げざるを得ないです。彼の父親の眼前での自殺というトラウマも伏線なのかと思いきや、けっきょくストーリーにはなんも絡まず、ムダだったとしか言えないですね。まあ中盤あたりでヴォルマー所長やハンナの正体には気づくでしょうが、最期がゾンビ映画みたいになっちゃったのは白けました。やっぱ『シャッターアイランド』みたいな幕の閉め方の方が自分は好みです。あとこんなの見せられたらウナギがしばらく喰えなくなっちゃうよ、最も最近はあまりに値が張るので滅多に喰えないですけどね(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2025-02-13 21:35:15) |