1. オブリビオン(2013)
《ネタバレ》 誰もが理想とするような洗練された生活を送っている主人公ジャック。快適な住居、便利なテクノロジー、自由な時間、美しいパートナー。 その明るく清潔な空間に、なんとなく紛れ込んでいる「嫌な感じ」の醸し方がとても上手いと思った。本作に特徴的なドローンも、デザインは親しみやすいのに不愉快なノイズをまきちらしているせいで、どうにも通じ合えそうもない暗い予感を抱かせる。 映画としては深いテーマ性も秘めていて、日々大量生産される「わたし」との決別を実直に描いてはいるものの、この作品自体が日々、粗製濫造されている娯楽映画の域を抜け出ておらず、その自虐的な構図が悲しい。 [地上波(吹替)] 7点(2016-09-04 14:35:38)(良:2票) |
2. ノーカントリー
《ネタバレ》 一攫千金のチャンス、自由と闘争、栄光と挫折―― この映画はアメリカの大地に点々と続く血痕を辿っていけば、当然出くわすだろう風景なのかもしれない。 バビエル・バルデム演じるアントン・シガー は冷酷な追跡者だ。その振る舞いは、ギャングの報復というよりかは、ビジネスマンの代金取り立てのようでかえって不気味だ。主人公は、まとわりつく影を必死で振り切ろうとするが、どうやっても逃げきれない。その日常にぽっかり浮かぶ狂気は「ファーゴ」に通ずるものがあると感じた。 どうして人はコインに運命を託そうとするのだろうか。それとも運命を託すに値するほどコインが大きくなりすぎてしまったのだろうか。残虐な暴力描写は俗悪だが、コーエン兄弟の鋭敏な批判精神は信頼できる。 [DVD(吹替)] 7点(2016-08-26 22:17:25) |
3. ハード キャンディ(2005)
《ネタバレ》 出会い系サイトで知り合った写真家と14歳の少女。男は甘い言葉で少女を誘惑するが、すべては偶然を装って仕組まれた少女の罠だった。 復讐劇というほど目的に定まりもなく、むしろどちらに正義があるのか、行ったり来たりの曖昧な浮遊感が漂う。一枚の写真のような単色な空間と、奥行きを欠いた時間。閉ざされた回路の中で増幅していく男の罪悪感は、普段被写体を切り取る側の写真家が、逆に写真によって切り取られていくような痛みだろうか。彼の平穏は少女によって激しくかきまぜられ、徐々に秘められた記憶が浮かび上がってくる。 一見、残虐性を売りにした映画のようにみえるが肉体的な描写はあまり強調されていない。銃声が鳴り響き、ナイフが握られ、首にきつくロープがかかるものの、終わってみれば「下の毛しか剃られていない」みたいな肩すかしには閉口させられる。何か起きそうなのに何も起きない。繰り返されるのは根拠のない痛みの拡大と縮小であって、見えない敵と戦わされているようなある種の脱力感ばかりが募る。 [DVD(吹替)] 5点(2016-08-11 09:13:01) |
4. 逃走車
《ネタバレ》 妻を迎えに行くために空港で借りた一台のレンタカー。しかしそれは手違いで用意されてしまった別の車だった。助手席から見つかる謎の拳銃。後部座席には手足を縛られた見知らぬ女が……。突然、国家レベルの陰謀に巻き込まれてしまった主人公は徐々に抜き差しならない状況へと追い込まれていく。 サスペンス仕立てとはなっているものの、作品の牽引力としてはテーマ性より視覚にうったえかけるところが大きい 。近頃よくみられるフラットに加工されたデジタル映像は美しいが、映画というよりはまるで次世代ゲーム機の映像でも眺めているかのようでワクワクしない。 映像だけでなく全体的に感覚的な表現が多いせいで、つかみどころがなく夢のようにぼんやりしている。 主人公ですら、いったいどこの誰で、どういう職業なのか説明はないし、迎えにいくはずの妻の姿もなぜか最後まで登場しない。もはや完全にひらきなおっているのだろう。だが、あえて本作ではそういった現代映画の避けられないあいまいさの中に積極的に活路を見出そうとしたのだと思いたい。 たとえばそれは本作の特徴である斬新なカメラワーク。 視点のほとんどが車内からとなっている点にもあらわれているように思う。主人公がガラス越しに眺めるヨハネスブルグの風景は、車内で巻き起こる事件とは対照的に徹底的にリアリティが削ぎ落とされている。その土地に暮らしている人の生活の匂いは遮断され、その表面的な美しさだけがしつこく強調されている。 また、主人公が道を尋ねようと窓から呼びかける声はうまく届かないし、逆に内側に忍び込んでくる他人の手にはナイフやピストルが握られている。 つまり一枚の窓ガラスを隔てることで内と外のコントラストを意図的に作り出し、(不本意ながら使わざるを得なかった)あいまいな映像や表現を外側へと追いやることによって異なる世界とうまくコミュニケーションできない主人公の孤立感を際立たせようとしたのではないか。 ところで、映画を見終わったあとにタイトルが「逃走者」ではなく「逃走車」となっているのに気がつきハッとさせられた。たしかに細かな違いだけどその方が作品に忠実だと思う。なんだか気の利いたシャレのように思えてきてちょっとクスっときた。 [地上波(吹替)] 5点(2016-03-05 11:07:00) |
5. トゥルーライズ
《ネタバレ》 一見すると普通のスパイアクション映画だが、不倫現場に特殊部隊が突入したり、パパがハリアー機を操縦して娘を迎えにいったりなど、随所にコメディ要素も散りばめられていて楽しい。 子供の思いつきをそのまま形にしたかのようなアクションシーンはド派手で爽快。今ほどCGに頼っていないので映像にも力があるように思う。 馬に乗って街を駆け抜ければ、その肉感や荒い呼吸がスクリーンから伝わってくるし、オートバイで高級ホテル内を走り回れば見ている方も本物の罪悪感を覚える。 従来のアクション映画では、勇敢に敵と戦う「男性」主人公の目線だけから描かれるものがほとんどで「女性」はただ、後ろの方のページで助けを待つだけの存在でしかなかった。本作では男性視点と女性視点が交互にからみあってストーリーが進行する点がひとつの工夫となっている。 平凡なセールスマンのはずの夫がバリバリ敵をなぎ倒していく姿に「ランボーみたい」とため息をつく妻。平凡な専業主婦のはずの妻が娼婦のようなポールダンスを踊り、思わず目をそむける夫。これは映画なのか現実なのか?交錯するトゥルーとライズにとまどいながらもお互いの本当の姿が少しずつ見えてくる。ぎこちなさや相互不信を乗り越えて再会を目指す夫婦の姿が切実に、かつユーモラスに描かれていると思う。 [地上波(吹替)] 6点(2016-01-07 20:59:29)(良:1票) |
6. エリジウム
残念ながら主人公の戦う姿勢に共感できなかった。 主人公マックスは特権階級が支配する「天国のカギ」にアクセスしたうえで、クーデター的な市民解放を目指す。 たしかに真実や不死の力が一部の人間に独占される世界は間違っているのかもしれない。しかしだからといってそれを大げさに空からバラまくようなやり方が本当に正しい解放だといえるだろうか。 主人公は安易な戦い方を選択したと思う。その捨て鉢な態度から伝わってくるのは愛情ではなく憎しみであり、祈りではなく絶望である。すべての市民にわけへだてなく与えられるようになった「不死」は新しい時代の怠惰や隷属を意味するもののように思えてならない。 この監督は映画の厳しさに真剣に向きあおうとはせず、表現の前におびえ、その力を疑った。とってつけたようなハッピーエンドも娯楽映画に埋没する監督の自己弁護にしかきこえない。 [DVD(吹替)] 4点(2016-01-01 11:08:23) |
7. ブレア・ウィッチ・プロジェクト
見る人を選ぶ映画だと思うが自分は面白く見た。大学生が森で撮影したビデオテープをそのまま流すだけといった手法は斬新さをこえて挑発的にすら感じるが、醜怪なモンスター、猟奇的な殺人鬼といったホラーの定番から離れて、すぐそばにある恐怖の姿をリアルに描きたかったのだろうと思う。 ただし、リアリティを追及しているわりにはどこか薄っぺらい。恐怖に深みがない。 主人公たちが迷っている森も、よく見るとそれほど深く険しい場所ではない。その辺の雑木林で器材を組んでいる撮影班の姿が目に浮かんできて主人公たちの絶望の深さと対比させると笑える。 彼らが何に対して怖がっているのか、その正体がはっきりしないのがこの映画の特徴といえる。現れるのはネズミの死骸や積み上げられた石など思わせぶりな周辺物だけ。時間が経つにつれて必要以上に強調されていく不快な怒声と泣き声。恐怖そのものが恐怖として増幅していくのみで根っこがない。 絶望的な状況下でもビデオカメラを手放さない女性に向けられたセリフ。「なぜ君がビデオが好きなのかわかった、現実じゃないからさ。フィルター越しの現実でしかない 」 製作者がなりふり構わず追及したはずのリアリティは、皮肉にもフィルター越しのリアリティにとどまってしまっているように思えてならない。 [DVD(吹替)] 7点(2015-12-24 14:40:15) |