1. 反則王
それでもやっぱりヘッド・ロックから抜けられない。人生ってこういうもんですよね、情けない会社員の皆さん。映画について、僕にはこれ以上言葉を継ぐことができません。この作品にシンパシーを感じる人と友達になりたいです。ぜひ。 [DVD(字幕)] 9点(2005-11-26 23:12:05) |
2. MUSA-武士-
アン・ソンギが久々にかっこいい。それだけでも満足。最近は話題作でもほとんど助演、仮に主演級でも渋い引き立て役になっていた感のあるアン・ソンギですが、この映画のチン・リプは『於宇同』のカルメ並みにかっこいい。例えがとても古くてすみません。カルメは手裏剣の名手でしたが、チン・リプは弓の達人。この設定がまたいいです。これだけかっこいいアン・ソンギを見るのは、『永遠なる帝国』以来。また、これは物語がいいんですよ。歴史を動かした人物の話ではなく、明に流刑されて孤立した高麗の武士達が、ただ帰国するために生死をかけて戦うという、単純なストーリー。そこにあるのは、国に帰りたいという一心と、武士の尊厳だけ。ちょっと前までは韓国の大作と聞くだけで、どうせしょぼいんでしょ、っていう先入観があったものです。『ブラザーフッド』や『MUSA-武士-』で、すっかりそういう先入観はなくなってしまいました。満足。 [DVD(字幕)] 7点(2005-11-26 23:02:17)(良:3票) |
3. おばあちゃんの家
《ネタバレ》 この寓話に多くの人の共感が得られたということは、実はみんな根はいい人なんだろうなと、単純な僕は見事にだまされてしまうわけです。イ・ジョンヒャンは巧みなストーリー・テラーでした。セリフが少ない映画で、しかも意図的な長回しのようなカットもそれほどありません。だから説教臭くない。単純ななエピソードを淡々と繋いでこれだけの説得力、すごい作品です。『美術館の隣の動物園』は語り口が巧すぎて、テクニシャンの印象ばかりが強く残ってしまいましたが、この映画は違いました。冒頭の、男の子がソウルから田舎に向かうバスに揺られる場面。最後の、感傷的な演出を抑えて、おばあちゃんが泰然とした足取りで家路につく場面。監督の罠は、始めから終わりまで鮮やかです。あなたもだまされてみて下さい。だまされた僕はとてもすがすがしい気分です。 [DVD(字幕)] 8点(2005-11-26 22:51:10) |
4. スプリング・イン・ホームタウン
思いっきりアートですねえ。『旅人は休まない』や『達磨はなぜ東へ行ったのか』も真っ青。映画の特徴は、というか、観始めてまず辛くなるのは、その首尾一貫したロングショットです。登場人物の顔色が全くわかりません。ユ・オソンは一体どこに出ているんでしょう。アン・ソンギという大御所が出演しているのに、クローズアップはふたりの少年が廃屋を壁の穴から覗き込む場面だけという徹底ぶり。いやはや。ロングショットは、朝鮮戦争と同時代を生きていない監督が物語の客観性を追及した結果なんでしょうけど、それにしてもこの演出は観客に集中力を要求し続けます。また、話を省略して字幕に語らせるという手法もとっているため、頭をフル回転して解釈し続けなければなりません。これは創る側も観る側も、頭の切れる人向けの作品です。冬ソナから韓流に乗った人には、まず受けないだろうなあ。 [映画館(字幕)] 5点(2005-11-26 22:43:31) |
5. パイラン
《ネタバレ》 浅田次郎の原作には、妻の死後、チンピラが彼女の生き様に心動かされる蓋然性が、読者に次第に沁み込んでくる説得力がありました。映画のパイランは洗濯屋に住み込みで働くことになりますが、原作では売春宿で客を取る仕事をさせられます。救いようのない、落ちるところまで落ちた環境で、彼に宛てた手紙の中に「みんなやさしいです」と何度も述懐していたことに、チンピラも読者も共感を覚えるわけです。親切なおばちゃんが居る洗濯屋という設定は、この鮮やかさをぼかしちゃっているように思えてなりません。また、やっぱり殺人事件は必要ないんじゃないかなと思います。と、辛口のレビューになってしまいましたが、結構好きな作品だったりして。映画前半で徹底的に情けないチンピラを演出することで、後半、彼女の思いが彼の琴線に触れていく過程を、より感動的なものにしているように思えました。満足。 [DVD(字幕)] 7点(2005-11-26 22:36:10) |
6. ハッピーエンド
《ネタバレ》 なんとも、どこから話して良いものか、説明のしにくい映画です。僕は善人そうだけど情けない男についついシンパシーを覚えてしまうので、まずは単純に旦那がかわいそうに思えます。ですがこの作品、妻はもちろん、不倫相手の男も、ロクな結末を迎えることができません。不倫の行く末は、いかんともしがたい悲劇でした。ラスト、赤ん坊と寄り添って昼寝していた夫が、目を覚ましてぼうっとする場面。彼のその日の残り時間の長さ、明日から続く果てしない人生の長さに、圧倒されて気力が全く湧いてこないという状態。日常って重いですよねえ。 [DVD(字幕)] 5点(2005-11-26 22:27:46) |
7. H[エイチ]
《ネタバレ》 『CURE』と『羊たちの沈黙』を混ぜたような話で、映像もなかなかスタイリッシュなんですけど、なんだか底が浅い。キャラクターの描き込みが不十分でしょ。特に女刑事のほう、恋人がなぜ死なないといけなかったのか、その説明が足りないために、なんで彼女がここまで表情を殺して過去にわだかまっているのか、観てる側にはほとんど伝わってきません。しかも劇中でこれといった活躍もしないくせに、ラストであんな行動に出るもんだから、動機がさっぱり分からない。猟奇殺人という設定だけで、それなりに興味を引く物語にはなるじゃないですか。犯人側の描き方を猟奇という言葉で片付けちゃうような話であればあるほど、それに巻き込まれる人々に焦点を当てていかないと、陳腐で御都合主義な筋書きにしかならないんですよ。映像がほど良くかっこいいくせに、物語にはほとんど魅力を感じることができませんでした。残念。 [DVD(字幕)] 3点(2005-11-26 22:22:09) |
8. 春香伝(2000)
作品の特徴は、何といってもパンソリによって物語が進行することです。パンソリの名唱のライブ映像を観ていて、映画はライブ聴衆に思い描かれる想像なのではないかと錯覚するような、そんな感じなんですよ。それでいてこの溜飲が下がる痛快なハッピーエンドでしょ。面白いですよ、これ。イム・グォンテクはどうしてもアート系の範疇に入れちゃいがちなんでしょうけど、この映画、『キルソドム』や『風の丘を越えて~西便制』よりもずっと好きです。だって面白いもん。 [DVD(字幕)] 7点(2005-11-26 22:15:26) |
9. ラブストーリー
《ネタバレ》 ともすれば観客の涙をあざとく狙ったメロドラマに転落しかねない要素を、ぎりぎりのところで大衆の共感に変えてしまうセンス、クァク・ジェヨンってすごい人ですね。フンコロガシで出会って、お化け屋敷で仲良くなって、次第にお互いの正体がばれていくという過程の、なんとも素朴で正直なエピソードがとてもいい。監督の目には昔の人のほうが、感情をそのまま素直に表現していたと映っているんですね。並行して描かれる現代の娘の恋愛のほうが、よっぽどもどかしいわけです。これがもどかしい分、相手の気持ちが分かった瞬間の主人公の表情、雨の中をずぶ濡れで走っていく場面がとても鮮やかに残りました。でも『ラブストーリー』っていう邦題はどんなもんでしょうね。こんな平凡な名前しか付けれないのなら、原題そのままでも良かったんじゃないかな。ペ・チャンホの同名の映画もあるから、紛らわしいって思ってる韓国映画ファン(マニア?)って多いのでは。 [DVD(字幕)] 7点(2005-11-26 22:10:19) |
10. 殺人の追憶
現実のファソン連続殺人事件自体が解決していないため、映画で犯人像に迫ることは難しい。観る前から、最後まで犯人は分からないってことがばれているのも、この映画にはとても不利な条件ですよね。しかし、観応えは十分。犯人の心情に迫ることを放棄した演出は、必然的に刑事の葛藤を徐々にあぶり出していきます。地元の刑事とソウルから来た刑事、ふたりの顔つきが、時間の進行とともに変わっていくところは圧巻です。傍若無人と沈着冷静、対立する立場で登場したふたりは、一方はやるせなさに絶望し、他方は反対に暴走し始め、次第にその立場が入れ替わりつつバランスを失っていく。青空の下、完璧なまでの、平和でのどかな風景が印象的でした。 [DVD(字幕)] 7点(2005-11-26 22:00:30)(良:1票) |
11. ほえる犬は噛まない
この物語のあらすじを書こうとすると、割と簡単に書けます。でもきっと、観る前にそれを読んでも何の話だかさっぱり分からない。たとえ最後まで観ても、これがまた、何の話だったのかよく分からない。そんな一品です。映画には韓国現代社会を印象付ける事柄が満載。ポシンタン、賄賂、規則を守らない、手抜き工事、などなど。それらが全然押し付けがましく描かれない。こういうスマートな表現方法もあるわけです。人生、そんなにうまく行くことはないんだよね。こんなことばかりだよね。わかるわかる。観終わった後、観客からつぶやき声が聞こえてきそうな映画。切なさでは『反則王』に少しかなわないと思いますが、映像にポンポンまくしたてられて、ポカンと口を開けたまま話が終わって、ちょっとペーソスが残る、そんな大人の味わいです。人によってはつまらないかも知れないけど、何度か観たい作品。満足。 [DVD(字幕)] 7点(2005-11-26 21:45:55) |
12. 四月の雪
絶望に至る展開があまりにも出来すぎた話なので、嫌悪感さえおぼえるほどリアルな恋愛を描いていた『春の日は過ぎゆく』よりは、趣こそ異なるものの『八月のクリスマス』を思わせるおとぎ話といえるかも知れません。前2作と違う点としては、これまでホ・ジノはあくまで男性の視点で物語を構成していたものと思ってましたが、今回はむしろソン・イェジンが演じたソヨンのほうに重心が置かれているような印象を持ちました。また狙ったようなロングショットは影を潜め、逆に主演のふたりを接写する構図が多いのも印象的でした。この傷ついたふたりが再生する物語、観る人によってはっきり好みが分かれてしまうでしょう。でも僕はDVDで後何回かは観るんだろうな。事故を起こした伴侶に対して何を思い、その考えはどこへ移ろい、いかにして前に進むのか。ホ・ジノのファンであることを差し引いても、素直に良い映画だと思いますよ。ここでの評価は残念ながらちょっと低めなんですけどねえ。 [映画館(字幕)] 8点(2005-11-07 01:38:45) |