1. 南京!南京!
非常に優れた戦争映画であり、また南京虐殺という(日中国民にとっては特別な意味を持つ)史実を扱った作品としても突出していると思う。冒頭では南京城から逃げ出そうとする中国兵士とそれを阻止しようとする中国(国民党)兵士の衝突が描かれ、(日本人と中国人の戦いが描かれるのであろうという)観客の予想を裏切ってくる。戦闘シーン(この作品ではそれほど多いわけではない)の描き方も派手ではないが非常にリアルだ。当時の武器や兵器に詳しいわけではないが、かなり忠実に再現したのではないだろうか。またこの映画についての情報でよく言われたことだが、日本兵の描き方が、同種の中国映画にありがちな「日本鬼子」的ではなく、非常に「人間的」に描かれている点もこの作品の質を高めている。戦友たちと無邪気に笑い合い、時に現地の子供に優しさをも示す、「普通の人間」すなわち、戦争がなければ市井の庶民として穏やかに暮らしていたであろう兵士たちが、なぜ残虐な行為に手を染めたか、という部分に焦点を当てている。また中国人側の描き方も非常に良かった。怒り・悲しみ・絶望の(そして、多くはないが喜びや希望の)表情が、主要キャストだけでなくエキストラに近い登場人物たちに満ち溢れているが、ともすれば扇情的になりがちな話をモノクロの画面で抑制的に描くことでよりいっそう胸に残るものになっている。この作品が世界各国で高い評価を受けたのは、単に南京事件というエキセントリックな題材だからではなく、それを通じて「人間(特に英題にもある、人間の“生と死”)」が描かれており、ゆえに一史実の映画という枠を超えた普遍性を獲得したからだと思う。■ちなみに自分はこの作品を有志による上映会で観ることが出来たが、今の所日本での劇場公開の予定はない。南京事件絡みの映画では、過去にスクリーン切り裂き事件なども起こっており、配給会社が躊躇するのも無理はないようにも思えるが、残念でならない。日本人として、過去の汚点から目を逸らすべきではないべきではない、というのもあるが、同時にこのような素晴らしい作品が国内で観ることが出来ない、というのは大きな「損失」と思うから。■<付記>これは直接映画とは関係ないが、日本では南京事件(南京大虐殺)について「中国(連合国)の捏造」とか「二十万人しかいない都市で三十万人も殺せるはずがない」といった否定論がネットなどでも溢れている。南京事件(あるいは南京事件否定論)自体について関心を持たれた方は、非常に優れたサイト(「南京事件-日中戦争・小さな資料集」http://www.geocities.jp/yu77799/)があるので、参照して頂きたい。 [映画館(邦画)] 10点(2011-08-28 12:39:17) |
2. 靖国 YASUKUNI
《ネタバレ》 結論から言うと、非常に面白かった。観る前に内容に関する情報を色々見聞きしていたのだけれど、それでも面白さが損なわれなかったのは、ひとえに映画の力、作り手の力量だろう。そもそも「靖国」という題材、「靖国」をめぐる状況が(不謹慎と思われるかもしれないが)非常に面白い。例えば、靖国に抗議して式典に乱入する若者が登場する。彼は靖国支持者たちに取り押さえられ、ボコボコにされる。彼は日本人なのだが、中国人と勘違いした中年の支持者は彼に対し延々と「中国へ帰れ、この野郎」と(最初は怒鳴るように、徐々に呪文でも呟くかのように)繰り返す。一方リンチにあった若者は「救急車に乗ったら」という周りの声にも耳を貸さず「こんなの(日本の侵略によって被害国にもたらされた傷に比べれば)大したことない」と激昂しながら叫ぶ。そのような凄惨な状況の中、式典会場の「君が代斉唱」が粛々と鳴り響く・・・というシーンはまるでよく出来た不条理劇のようだし、非常に「映画的」だ。また、この映画に登場する人物の、例えば先に述べた若者、終戦記念日に軍服姿で参拝する右翼風の人々や元軍人と思しき老人たちの姿。彼らはいたって真剣なのだが、一方でその真剣さゆえにどこか滑稽さも漂わせている。■こうした要素だけで映画を作れば、或いはキワモノ的な作品にもなったかもしれない。しかし、そうした靖国神社をめぐる喧騒とは対照的な「靖国刀」を打つ老刀匠の姿を登場させることで、そのような作品になることは回避される。長きに渡って刀を打ち続けた「職人」に監督は静かに語りかけ、カメラはあまり饒舌でない刀匠の姿をじっくりと捉える。彼のいわば「静」的なシーンと、前述の「動」のシーンとが交互に登場することで、映画にメリハリと躍動感を与えている。■そしてこの映画は、靖国神社が「お国の為に戦って」死んだ人々、批判的立場から言えば「侵略戦争に加担した」人々の魂を祀り、顕彰するための神社である、という側面にも当然言及する。それこそが上映前に物議をかもし、一部の人々に「反日映画」と言わしめた部分なのだが、少なくとも自分にはこの作品が「反日」とは思えなかった(そもそも「反日」という表現が多分に恣意的で曖昧だし、仮に「反日」映画であったとしても構わないとは思うが)。確かにこの作品には、遺族の合祀に反対する台湾人や僧侶も登場するが、一方でごくごく普通のおじさん、おばさんが靖国神社や小泉元首相の支持を語るシーンもあり、単純に靖国神社や日本という国を非難し断罪するような作品にはなっていない。■この映画をめぐる議論で「はたして中立的な映画と言えるのか?」という主張が見られたが、そもそも映画(だけでなく様々なジャンルで)が「中立的」である必要はないし、実際厳密な意味で中立的であることは不可能であろう。この作品もその意味において「中立的」ではないが、多面的・重層的な作りになっていると思う。「英霊」を祀る靖国に涙する人がいる一方で、怒りの涙を流す人がいる。刀匠が打つ刀は優れた芸術品であると同時にかつては多くの人々をあやめた道具でもある。こうした様々な側面を捉えたからこそ、この「靖国」は「映画」として素晴らしいし、かつ観た者を「靖国」という、非常に込み入った状況と向かい合わせる、エンタテインメント性と社会性を見事に両立させた稀有なドキュメンタリー映画になり得たのだろう。 [映画館(邦画)] 9点(2008-06-02 19:39:20)(良:4票) |
3. カンフーハッスル
前々から思ってたけど、やっぱチャウ・シンチーってヘタレだ。そんな彼がヘタレ力(へたれぢから:アホアホパワー、もしくは関係ねえよパワー、とも言う)とカンフー映画に対する愛をこれでもかとばかりに注ぎ込んだこの作品。同じくヘタレのワタクシは笑いながら号泣するしかないのだ。 8点(2005-01-20 18:22:26)(良:2票) |
4. 變臉~この櫂に手をそえて~
なんだよちくしょお。孤独な老人と、何度も売られた薄幸の少女って、何てずっけえ(注:茨城弁で“ずるい”の意)設定なんだあ!しかも見え見えのお涙頂戴なストーリー展開、意ー地やけンなあ、全く(注2:意地やける=茨城弁で“腹が立つ”の意)・・・泣いちゃったじゃないか。真面目な話、演出はベタベタだし、最後に将軍が改心するところなんかご都合主義もいいとこだあ、とか思うけど(深読みすれば、今でも官僚・役人の腐敗が横行しているという中国に対するアンチテーゼなのかもしんないけどね)、なんだかんだいって「自己犠牲を厭わない情愛」ってやつには弱いのだ。困ったもんだ。 8点(2004-10-27 18:28:51) |
5. ションヤンの酒家(みせ)
むむ。バツイチで、家族のさまざまなトラブルを抱えながらも、開放政策の中国の刻々と変わる社会情勢の中でたくましく、したたかに生き抜こうとするヒロイン・ションヤン。こういう女性を描いた映画をきちんと受け止めるには、ワタクシのケツは青過ぎるっす。これを観た女性の意見が聞きたいな。映画としては、「山の郵便配達」もそうだったけれど、色の使い方がとてもセクシーな感じでした。 7点(2004-09-16 22:00:16) |
6. 10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス
まるで世界の一流シェフの料理を一口ずつしか食べさせてくれない、みたいな「もっと、腹一杯食わせろー!」と言いたくなる感じはあるけど、その分よ~く噛んで味わえば良いわけで(というか、最近は映画でも食べ物でも、「噛まないでも食べられる」ものが多すぎるのだ)、後からじわじわ余韻が来る感じかな。人によってどの作品が良かったかは違うと思うし、またそれを話し合ったりするのも楽しいと思う。僕としてはジム・ジャームッシュ、スパイク・リー、チェン・カイコーの作品が割と好き。でもやっぱ凄い!と思ったのはヴィクトル・エリセのかな。音と映像のリズムがまるで韻律を持った詩の様で、まさにめくるめく映像体験。ちなみにエリセというと10年に一度のペースでしか作品を発表しない作家、というイメージがあるけれど、これは意図的なものでないらしい。実際、前作「マルメロの陽光」以降にもいくつか企画があったらしいのだけれど(恐らくは予算の都合などで)、ポシャってしまったらしい。うむむ、もしどっかの企業がエリセの新作をバックアップしたら、絶対世界中の映画ファンに感謝されると思うけど・・・ライブドアの社長さん、どうかなあ?スペインの物価は分からんけど、きっと10億円くらいあれば充分だと思うし、同い年のよしみでお願いしますよお。 7点(2004-07-31 15:56:13)(笑:1票) (良:1票) |
7. 阿片戦争(1997)
冒頭で「独立した民族になって初めて、屈辱の歴史と向き合える」という意味の言葉が出てくるのだけれど、そうだろうなあ、と納得。普通の敗戦ではなく、要は国ごとヤク中にされた挙句、弱腰な態度に付け込まれて負けちゃった訳だから。中国で作られた作品だけど、割と冷静に史実を描いていたように思えます。個人的には(唐人お吉のように)イギリス人のご機嫌取りの為に人身御供にされた女性が処刑されてしまうところが心に残りました。それにしても・・・確かに阿片戦争に至るまでのイギリスの態度は酷いと思うのだけれど、もし香港がイギリスに取られていなかったら、後の香港映画の盛り上がりはなかったかもしれない訳で、何だか歴史の皮肉のようなものを感じます。 7点(2004-06-07 16:18:37) |
8. 乳泉村の子
うーーーーーん。いや、いい映画だとは思うんですよ。特に「犬坊」が3~4歳位の時のエピソードは涙無くしては観られないし。ただなあ、現代の日本のシーンにどぉーも違和感を覚えてしまって・・・。なんか「おしんチック」というか・・・。いわゆる中国残留孤児って心情的になかなか複雑な問題があると思うし、そう単純に「涙の再会」にはならないんじゃないの?と思ってしまいました。ま、徳を積んだお坊さんだから、と言われてしまうとそれまでですが・・・。しかし繰り返しになるけど、子供時代の「犬坊」役の子はホンット可愛いです。 6点(2004-03-23 18:31:59) |
9. 桃源鎮
何の予備知識もなくたまたまBSで観たんですけど(っていうマクラが多いな、我ながら。いや、BS-NHKのミッドナイトシネマって結構掘り出し物が多いのよ)チェーホフの「カメレオン」という短編を思い出させるような内容で、面白かったです。日和見主義のお豆腐屋さんがもの悲しかったです。あのお父さんを非難するのは簡単だけど、そうしなくては生きていけないような社会ではしょうがないと思います。まだ観ていないんですけど小津安二郎の「生まれてはみたけれど」ってこんな感じなのかなーと思いました。 8点(2003-11-23 18:07:14) |
10. 秋菊の物語
うっ・・・皆さん、高評価なのに、申し訳ないです。こういう映画の味わい方とか楽しみ方が、まだいまいち分かってないのかもしれないです。山に籠って修行してきます。 5点(2003-11-21 18:38:07) |
11. 菊豆/チュイトウ
チャン・イーモウの作品っていわゆる「幸せ三部作」しか観てなかったんで、ちょっとびっくり。前半は谷崎作品のような純愛・変態スレスレ話だし、後半はドロドロの情念話になってくし・・・。その手の話は今まであんまり観てなかったんで、そういう意味では面白かったです。 7点(2003-11-21 18:34:34) |
12. ただいま
仮出所の主人公が刑務所から自宅に戻るところは、一種のロードムービーのようでした。17年という刑期(逆算すると1981年~98年位か?)の間に様変わりした街の様子に重みを感じました。しかし、やっぱり最後の家族の邂逅のシーンがいかにも唐突で、しかも悪い意味で古臭い感じがしました(お母さんがお父さんに向かって「馬か牛に生まれかわってあなたに仕えます」というところとか)。あと、付き添っている主任さんがかわい過ぎるんですよねえ。ちょっとキャスティングに難があった気がしました。 2点(2003-11-19 18:24:26) |
13. きれいなおかあさん
「山の郵便配達」で中国映画に関心を持った頃に観たんですが、お母さん(「きれいな」・・・うーん、ノーコメント!)が厳しすぎるんで、観ながらちょっと引いちゃったんですよね。でも【交野の少将】さんの仰るとおり、あれは社会の反映なのかな。 5点(2003-10-07 15:04:36) |
14. 榕樹(ガジュマル)の丘へ
ある意味、中国版「渡る世間は鬼ばかり」かな。中国でも日本と同じ様に、嫁姑問題や農村の若者離れの問題があるということが分かります。主人公のお婆さんがあまりにもワガママに見えてしまったけど、きっとお婆さんにはお婆さんなりの言い分があるのでしょうね。 5点(2003-08-27 18:43:28) |
15. 至福のとき
うう~ん、嫌いではないッ!嫌いではないけど、いろいろツッコミどころを見つけてしまって・・・。まず、いくら年取ってて結婚をあせってるからって、あんなのと結婚したいかあ?あの息子との絵に描いたような憎まれ役コンビにはちょっとねえ・・・。ていうか普通に考えればあんなオバハンなんかほっといて娘のほうに行くだろ(と思ってしまう私はもはや若者に信じてもらえないオーバーサーティー)。それにあの娘も、普通にマッサージ屋に就職させれば万事うまく行ったんじゃないの?って思っちゃうしなあ。何か映画っていうより一昔前の日本の人情ドラマを見ている感じで、途中から見方を切り替えたんですけど、それにしてもあのラストはなあ(テープレコーダーに向かって手紙を読んで何の意味がある?)。まあこんなこと言いつつも最後はちょっとウルッと来ちゃったんですけどね、実は。「初恋の来た道」は結構好きなのですが本作はものたりない。あ、そういえば思い出したけど何回も出てくる少女の下着姿は果たして構成上必然だったんだろうか?いや、アタシだって別に聖人君子じゃないし、嫌じゃないけど、何か気が削がれるっていうか・・・やっぱりチャン・イーモウってロリコンなのだろうか?別にそれはそれでかまわないけど、表現としてはもう少し押さえ気味にしてほしいなあ。 6点(2003-05-10 21:51:47) |
16. 山の郵便配達
いい・・・。この映画で中国の映画にハマりました。中国の山々は綺麗だし、別に大事件が起こるわけでもなく(手紙が風に飛ばされそうになったときも、父親が息子を叱るのかな?と思ったけどそれもない)淡々としたストーリーだけどかえって好感が持てる(バリバリハリウッドなのはあまり好きじゃないので)。見終わった後、「・・・親孝行しとこうかな」と思いました。 10点(2003-02-17 16:22:08) |
17. あの子を探して
何であの子を探しにいったのかなあ?ちょっとその辺が良く分かりませんでした(行間が読めなかったのかな?)。最後が何かうやむやなハッピーエンドみたいだったし、考えすぎかもしれないけどちょっとプロパガンダくさい。でもテイストは好きだし、中国人の「生きるためのがめつさ」は、皮肉でなく感心します。 7点(2003-02-17 16:10:32) |
18. 初恋のきた道
しみじみいい映画だと思います。「清貧」という言葉はうそ臭くて嫌いだけど、割れてしまった丼を直すところを見て『モノを大切にするっていいなあ』と思いました(←的外れ?)最後の、息子が一回だけ父親と同じように授業をするところが良かったです。唯一気になったのが、ちょっとチャン・ツィイーがアイドルアイドルしすぎ。もっと素朴な感じだともっといいのに。まあ好きな人は好きなんだろうけど。 8点(2003-02-06 20:43:32) |