21. アウトレイジ(2010)
《ネタバレ》 間違いなく、北野武の最高傑作といえる作品。ヤクザの世界が舞台になっていますが、人間の持つ本能の愚かさ、哀しさ、そしておかしさをドライでスタイリッシュに描ききった快作です。 非常に陰惨な物語を、コントのような間や表現を利用し、ドロドロとした心理描写を極限まで削り、観客に受け入れやすくしてしまうテクニックは、さすが日本のお笑いのトップを走ってきた北野監督ならではと感じましたね。観賞後、爽快感さえ感じさせてしまう技量は本当に危険ですね(褒め言葉です)。 ヤクザ映画だと思って敬遠すると損をする映画ですね。これは21世紀の「しとやかな獣」です。 [DVD(邦画)] 9点(2013-10-26 18:29:26)(良:2票) |
22. かぞくのくに
《ネタバレ》 「ディア・ピョンヤン」を観た時にも思ったのですが、我々は同じ国に生きている「彼ら」を知っているようで、実はそれほど知っていない。この作品は、そのことを気づかせてくれ、そして等身大の「彼ら」を我々に伝えてくれます。キャスティングも素晴らしく、特に井浦新が演じる主人公の兄の激しい内面の葛藤を力づくで抑えこんだ静かな振る舞いは心に響くものがありました。 ヤン・ヨンヒ監督の今後の作品にも期待したいです。 [DVD(邦画)] 9点(2013-07-22 23:53:23) |
23. (秘)色情めす市場
《ネタバレ》 日本映画史上に残る大傑作と言っても過言ではないですね。 高度成長から取り残されたかのような昭和の釜ヶ崎の姿がまず強烈に印象に残りました。取り扱っているテーマやストーリーは非常に醜悪で猥雑でありながら、様々な技法(特にペドロ・コスタもこの作品を参考にしたのではないかと思わせるような光の使い方)や小物を使い娯楽性と芸術性(非常に詩的)を両立させて、素晴らしい作品に仕上げてしまう田中登監督は凄いなと思いましたね。パートカラーの通天閣のシーンや希望を感じさせるラストも良かったです。 一番印象に残ったエピソードは、やはり使い込みで会社を首になった男の爆発ですかね。あれは当時の世相なのか、弱いものを食い物にする国家権力に対するテロリズムを暗喩しているようで興味深かったです。 こんな素晴らしい映画が「ポルノ」というくくりがあるために、映画マニア以外の目に触れることなく埋もれてしまうのは本当に勿体無いですね・・・・。 [インターネット(字幕)] 9点(2012-06-02 23:49:23)(良:1票) |
24. 旅立ち ~足寄より~
《ネタバレ》 私にとっては特別な作品ですね。 昔、松山千春が大好きで、当時絶版だった「足寄より」を図書館で借りて読んでいたので、デビューのいきさつや竹田さんとのエピソード、そして千春が育った足寄の風景が映像化されただけでもう感涙ものでした まあ、平成も20年を超えると昭和のあの雰囲気を完全に再現するのは金をかけてCGをフルに活用するくらいしかないんでしょうけど、ちょっと全体的に綺麗すぎたかなと思いましたね。本音を言えば、もっと早く映像化して欲しかったです。でも、実家や足寄駅のセットは見れて良かったです。 ラストに映る、寂れた足寄の現在の光景が非常に印象的で考えさせられました。 [DVD(邦画)] 9点(2011-11-12 09:56:04) |
25. 春との旅
《ネタバレ》 先行きが不透明な日本という国に生きる者として、この作品は非常に身につまされるテーマを扱っており惹き付けられました。自己実現を第一に人生を送ってきた主人公の老人の姿はまさに現代の日本人である我々の象徴であり、その我々が将来どのような状況に陥るかをこの作品は示してくれています。 ただ、このようなヘヴィなテーマであっても、これまで日本映画を支えてきた名優たちが演じているのですから面白くないわけがありません。特に、仲代達矢のクソ爺ぶりは本当に素晴らしかったです。 そして、3月11日の震災で大きな被害を受ける前の東北(気仙沼・唐桑町他)の姿も映し出されており、そののどかな風景が一瞬にして失われたことの恐ろしさを痛感させられました。また、主人公たちの家族がバラバラになった原因が大津波によって家が流されてしまったことにあるという設定(当然、この作品は震災前に作られたものです)が非常に重く感じられました。映画の中で、何回か出てくる鹿折唐桑駅も大津波の被害にあい、その姿を変えてしまってます。 今、多くの人に見てもらいたい作品です。 [DVD(邦画)] 9点(2011-08-19 00:12:18) |
26. 少年メリケンサック
《ネタバレ》 若者向け映画のように見えますが、この映画は80年代(バンドブーム前)に日本のパンクを聴いていたロック好き中年オヤジが「パンクっつうのは、ロックっつうのはなあ、こういうもんなんじゃああ」と溜飲を下げるための作品です。勿論私も溜飲を大いに下げました。ストーリーもまさに中年ロッカーたちが今の若者に「パンク道」についてひたすら言葉や行動で説くといった感じですしね。 やはり、ロックにはノー・フューチャーな閉塞感を無理やり打ち破る暴力的なカタルシスとその状況を笑い飛ばすような無茶苦茶さ、いかがわしさが必要なんだと思いましたね(今のロックにそれが全く無いというわけではないですが)。 まあ、少年メリケンサックの曲自体は何かセックスピストルズのパクリっぽくてそこまで旋風を巻き起こすようなものではないと思いますけど、田口トモロヲのこれぞ「ロック」な姿が非常に印象的でした。キャストも豪華で、まるで平成の「爆裂都市」といった感じです。 [地上波(邦画)] 9点(2010-12-30 01:35:05) |
27. 男はつらいよ 噂の寅次郎
《ネタバレ》 シリーズの中では地味な扱いかもしれませんが、寅次郎ファミリーのギャグの掛け合いの巧みさ、暴走するタコ社長、志村喬・泉ピンコ・室田日出男といった豪華ゲスト陣の演技、そしてマドンナ大原麗子の可愛らしさ等々見応えのある作品でした。 救急車やタコ社長失踪の話等本当に腹を抱えて笑ってしまうエピソードも多かったですね。 [地上波(邦画)] 9点(2010-01-03 23:25:16) |
28. ライブテープ
《ネタバレ》 吉祥寺の町が舞台の74分間のロード・ムービー。素晴らしい映像作品でした。 舞台は吉祥寺でなければならなかったし、日時は元日の夕暮れ時でなければならなかったし、ミュージシャンは前野健太(とその仲間たち)でなければならなかったし、作り手は松江哲明(と彼のスタッフたち)でなければならなかった・・・・。この全ての要素が混ざり合った瞬間に生まれた奇跡を大スクリーンと大音量で体験できて良かったです。 多分、作り手側が思っている以上に人々に感銘を与える作品になっていると思います。これは、世界で勝負できる、日本の日常を切り取ったドキュメンタリーでありロードムービーでありライブテープであると断言できます。 あの、元日の夕暮れ時の美しさの中で奏でられる「天気予報」の格好よさが今も頭の中に残っています。多くの人に見てもらいたい作品です。 [映画館(邦画)] 9点(2009-10-25 09:20:53) |
29. 蟻の兵隊
《ネタバレ》 第2次世界大戦終了後も日本軍が活動(表向きは各人の志願によるものとなっている)していたとは、恥ずかしながら初めて知りました。そして、彼らの帰国後も日本政府からは黙殺されていることも・・・。 それにしても、元日本兵である奥村和一氏の毅然とした姿には非常に感銘を受けました。戦時中の自分達の行いについても卑屈な謝罪や自虐に逃げることなくまっすぐ向き合おうとする真摯な姿勢が、中国の人たちにも受け入れられているのが見て取れましたね(実際に戦時中被害を受けた女性とのやり取りは非常に感動的でした)。 本音と建前を悪い意味で巧みに使い分け、多くの兵士達に苦しみを与えた軍上層部、そして日本政府の姿勢には怒りを覚えましたね(もちろん、いろいろな理由はあるとは思いますが)。 本当に素晴らしい戦争ドキュメンタリーだと思います。ただ、靖国神社のシーンを挿入しているのはちょっと陳腐な感じがしましたね。そんな瑣末な問題を超えたところに、この作品がわれわれに訴えかける問題はあると思いますから・・・・。 [DVD(邦画)] 9点(2009-02-21 20:49:48) |
30. 櫻の園(1990)
《ネタバレ》 今度リメイク(内容は全然違うみたいですが)されるということで、十数年ぶりに観返したんですが、当時のあの雰囲気が殆ど鮮度を落とさず残っていてちょっと驚きました。 ほぼ登場人物たちと同世代なこともあって、この何という事もない日常の空気が非常に懐かしくそして愛おしく感じられました。 [地上波(邦画)] 9点(2008-10-20 10:49:12) |
31. 偽大学生
《ネタバレ》 体制側も反体制側も目指す目的は違えど、やっている事にそう変わりはないと言う事を辛辣に描いた作品ですね。 結局のところ、人間なんて所詮己の欲望から逃れることの出来ない不完全な生き物な訳ですから、様々な目的や理想に対し純粋さを保つことなんて出来るわけがないんですよね。だから、純粋であるように振舞うためには、虚構の世界を作り上げるか、もしくは狂気の世界に身を置くことを選ぶしかないのかなと思いました。 ジェリー藤尾の迫真の演技がとても印象に残りました。 [映画館(邦画)] 9点(2008-02-25 21:02:40) |
32. 選挙
《ネタバレ》 この作品は市議会選挙という国会議員の選挙よりも人々の生活に身近な選挙(まあ身近に感じてない人も多いと思いますが)、しかも選挙区は多摩田園都市という現在の日本の「普通」の姿を描くにはもってこいの場所ということもあり、日本の選挙の実態を描くだけでなく、選挙という「非日常」的なイベントを通じて「日本の日常」をも描き出している貴重なドキュメンタリー作品です。 結局のところ日本の政治(どこの国も似たりよったりだとは思いますが)は、利権としがらみの中で動いていることが実に良くわかる作品に仕上がっていますね。 政治家は、選挙区内の利権としがらみに入り込むことにより票を固めていき、それ以外の浮動票はあくまでもイメージとインパクト勝負。そりゃ、政治離れも進みますよ。 「観察映画 第一弾」と銘打たれているように、余計な音楽やナレーションを排除してひたすら選挙活動を観察している作り手側の姿勢も良いと思いました。 しかしまあ、田園都市線の混雑ひどすぎ・・・・ [DVD(邦画)] 9点(2008-02-24 22:05:52) |
33. 伝説巨神イデオン 発動篇
《ネタバレ》 当時(小学生でした)は、どうもガンダムの紛い物的なイメージを持っていたんですよね。イデオンはジムみたいだし、主人公もアムロがアフロにしたような感じですし・・・・。なので、存在は知っていながらも見ることはなかったんですが、今では本当に後悔しています。こんなに、深く素晴らしい作品だったとは・・・・・(まあ、当時見ていたら間違いなくトラウマになってたでしょうけど)。 ハルマゲドンや末法思想等を思い起こさせるやや宗教的とも言える観点から、人間の持つ業のようなものを描いていており非常に考えさせられました。 しかしまあ、戦いのきっかけとなった、カララの気まぐれの行動も結局は運命だったのでしょうね・・・・・。 ちょっとテレビ版を見ていないので、内容理解に不十分なところもありますが、非常に衝撃的な作品でした。 [DVD(邦画)] 9点(2008-01-10 18:58:38) |
34. コミック雑誌なんかいらない!
《ネタバレ》 まあこの時代を知っているものにとっては最高に面白い映画ですね。80年代という時代と内田裕也との出会いが無ければ決して作り出すことができなかったであろう奇跡の作品です。 三浦和義、山一戦争、豊田商事、風俗、そして今となっては本当にどうでもいい数々の芸能ゴシップ・・・・根本的に暗く真面目な日本人が急に「ネアカ」にイメチェンしようと頑張っていた時代のいろいろな出来事がこの1本に集約されています(ちょっと、日航機事故の場面はやり過ぎのような気もしますが・・・)。 特に、ラストの豊田商事会長刺殺の再現シーンは本当に衝撃的です(犯人役のビートたけしの演技が凄いです。実際の映像には負けますが・・・・)。 ラストの「I can’t speak fuckin’ Japanese」というセリフが心に残りますね。 [ビデオ(邦画)] 9点(2008-01-08 20:35:59) |
35. クワイエットルームにようこそ
《ネタバレ》 素晴らしい作品でした。精神病院を舞台にしている作品ではありますが、「カッコーの巣の上で」のようにその非人間性を告発するわけではなく、そこで起こるいろいろな出来事の中で、自分を取り戻す過程を描いたストーリーです。「認めたくない自分を認める」ことが大切なのかなという感想ですね。 松尾監督らしくユーモアに溢れた作品です。但し、それはあくまでもオブラートであって溶けるまでは非常に楽しめますが、徐々に中から重いテーマが出て来るんですよね・・・・・。最初は笑い声で溢れていた映画館内が最後は沈黙に包まれていました。観終わった後なんかは、まさに入院生活から退院した時のような心境になってましたね。 しかし、主役は内田有紀で良かったです。演技の素晴らしさはもちろん、蕁麻疹やゲロまみれの姿でも鑑賞に堪えうる女優はそうそういませんから。今後も再ブレイクを期待したいですね。 蒼井優についてはもう何も言うことはありませんね。あのオーラをこれからもずっと維持していってもらいたい、それだけです。 日々の生活に精神が痛めつけられていると感じている人に是非見てもらいたい作品です。 [映画館(邦画)] 9点(2007-11-04 22:02:42)(良:3票) |
36. 突入せよ!「あさま山荘」事件
《ネタバレ》 あさま山荘事件を警察サイドから、生々しく描いていて非常に面白かったです。連合赤軍以外にも、マスコミや世論、そして警察自身と戦わなければならなかった大変さが伝わってきました。しかし、これだけの大事件にも関わらず、縄張り意識やメンツ、肩書きなどに拘りまくっている警察組織の状況を見せられると非常に暗澹とした気分になってしまいますね・・・・・。 ちなみにこの作品には、連合赤軍の姿(人物・思想等)は殆ど出てきません(銃口くらい)。是非、逆に警察の姿が殆ど出てこない若松孝二監督の「実録・連合赤軍」と合わせて見ることをお勧めします。 [DVD(邦画)] 9点(2007-11-04 20:32:46) |
37. 赤い天使
《ネタバレ》 「綺麗ごと」など全く通用せず、人間の本能が剥き出しになってしまう・・・・戦争というものの実態を生々しく描き出した傑作です。 とにかく、戦争においては人間は人間で無くなるということを残酷なまでに我々に見せつけてくれます。本当に衝撃的な作品です(月並みな表現ですが)。 ただ、ちょっとメロドラマ的な部分が中途半端に多かったかなと個人的には思いましたね。興業面も考慮しなければならないから仕方ないんでしょうけど・・・・・。 これは是非多くの人に観てもらいたい作品です(ちょっとエグいですけど)。 [DVD(邦画)] 9点(2007-08-28 18:46:01)(良:1票) |
38. 日本の黒い夏 冤罪
《ネタバレ》 一冊のノンフィクションを忠実に映像化した感じの映画でした。「冤罪がどうやって作られたか」というテーマを拙い部分はありながらも、感情的・一方的にならずあくまでも冷静に、かつわかり易く描いていて非常に面白かったです。マスコミに興味のある方には是非お勧めしたいですね(ちょっと作りは安っぽいですけど)。 しかし、冤罪が悪意(まあ、某カルト集団が諸悪の根源であり憎むべき存在ではあるのですが)によって作られたのでは無く、警察にしてもマスコミにしてもあくまで自らの職務(使命)に忠実であったが故に作られてしまったということが非常に恐ろしいですね。警察は犯人を検挙し社会の安全と平穏を保つ、マスコミは高視聴率やスクープを目指し広告等の収入を確保するという与えられた役割を忠実に果たすために動いているわけで、それをしなければ生活が成り立たなくなっていくわけですから・・・・・・。ただ、そのことによって被害を受ける人が出てきたわけですから全く同情はできませんけど(人を傷つけ苦しめる使命などありえません)。 散布されたサリンがまるで夜霧のようで、幻想的な悪夢のようでしたね・・・・・。被害にあった方々のご冥福を心からお祈りしたいと思います。 [DVD(邦画)] 9点(2007-07-27 17:59:57)(良:1票) |
39. Love Letter(1995)
《ネタバレ》 まずは、この作品を映画館で体験することができた幸福に感謝したいですね。岩井俊二という人は、良い素材をさらに素晴らしく見せる技術に長けていますね。中山美穂の女優としての代表作と言っても過言ではないでしょう。それだけでなく、ストーリー(本当に巧みでしたね)やロケーションの素晴らしさ等々本当に魅力的な要素満載の映画でした。 ただ、最初の方で中山美穂が一人二役ということに気づかなくって、ちょっと混乱してしまったのがちょっと悔しかったです。 [映画館(邦画)] 9点(2007-07-07 18:28:46) |
40. 虹の女神 Rainbow Song
《ネタバレ》 2時間という決して短くない時間があっという間に過ぎていきました。もう、この映画の上野樹里は、個人的にストライクど真ん中で、とても良かったです。正直、相田翔子の出番削って、もう少しシーンを増やして欲しかったくらいです(ちょっとクドかったんで・・・・)。 あと妹役の蒼井優はやはり只者では無いですね。もう存在感があるというかオーラ出まくりで、脇役でも出演シーンでは完全に主役になっていますからね・・・・。 この2人の旬の女優がそれぞれ持ち味を出してるんですから面白くない訳がない。いやあ、映画館で見れて本当に良かったなと思える作品でした。 [映画館(邦画)] 9点(2007-03-18 15:59:56)(良:1票) |