1. スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ
観ているうちに感じた、この「お遊びにムリヤリ付き合わされている感じ」、どこかで感じたことのある感覚だと思っていたら、あの「キル・ビル」を観ていた時を思い出した。さすがタランティーノが出演を承諾しているだけのことはある。……「キル・ビル」ほどの血は見られなかったけど、同じように随所に見られる映像に品が無さ過ぎる。「用心棒」のように配慮の行き届いたリアルな汚れではなく、また300やシン・シティのように残虐さや汚さをも映像として見せようとする意図も無い。思いっきり突飛に遊んだつもりで作った結果、真面目なんだかフザケてんだか分からないような中途半端な仕上がりになっているように感じた。キル・ビル同様、それを突飛さを受け入れることの出来る人、出来ない人によって、好き嫌いの随分別れる作品だと思う。……荒野のさすらいガンマンにしては、主演の伊藤英明はキレイすぎたか。桃井かおりの年齢を感じさせないアッと驚くガンアクションは本当にカッコ良かった。 [映画館(邦画)] 5点(2007-09-30 22:55:42) |
2. べクシル 2077 日本鎖国
いつか観た「ファイナルファンタジー」や「アップルシード」と比較すると、CGの不自然さは飛躍的に改善している。まだ映像に「重量感」は不足しているが、観る側が引いてしまうようなオメメパッチリの秋葉系キャラの立体版も見られなかったし、動きや表情も良く作られていた。まだまだ2次元のアニメには遠く及ぶおよばないが、これから先のアニメーション界には期待が持てる作品だろう。……「日本鎖国」というタイトルに、欧米を相手に躍進する超近代軍事国家日本を期待したが、フタを空けてみればその鎖国の実態はあまりに拍子ヌケで少々がっかりした。 [映画館(邦画)] 5点(2007-09-30 22:44:23) |
3. 鉄コン筋クリート
AKIRAを観た時以来のインパクトがあった。スピーディーなテンポ、確かなデッサンに裏打ちされた独特の構図、その空間を飛び回る子供たち。クロ・シロの心象表現も素晴らしく、どこか哲学的な台詞も変にクサくなくシラケることもない。原作は未読だが、おそらく極めて忠実に世界観を再現しているのではないだろうか。‥‥‥シロやネズミが話す言葉の数々は、現代社会にも存在する者達そのままの代弁だ。ひとつひとつの言葉が格言のように重みがあって心に染みる。久しぶりに見応えのあるアニメーションだった。 [DVD(邦画)] 8点(2007-07-24 00:59:14) |
4. 舞妓Haaaan!!!
阿部サダヲのハイテンションには、正直最初は少し引いたが、テンポ良く進むストーリーにそれも忘れ、「ありえない展開」とボケと突っ込みで一気に突っ走らされた感じがした。舞妓さんの一見さんお断りのシステムなどは、恥かしながら私も露知らず、主人公の公彦と同じ視点で門前払いを食らった心境。やっぱり一度は雅な京都の町で、あんな遊びをやってみたいものだ(遊びの内容自体は、全然面白そうにないけど)。存在自体がパロディの阿部サダヲと一緒に、堤真一の演技がとても良かった。 [映画館(邦画)] 6点(2007-07-14 17:33:54) |
5. トゥモロー・ワールド
《ネタバレ》 なぜ人間に子供ができなくなったのか、世界が破滅に向かった理由は何なのか、結局最後まで結論は分からずじまいだが、クライマックスには感動させられた。未来に一筋の望みを残す、あのエンディングもなかなか。‥‥‥なにより素晴らしいのは、映像と物語のリアルなこと。主人公テオドアが赤ん坊を追って銃撃戦の中ビルへと向かう、話題のあの超ロングカットも、よく演じきったものだと感心する。薄汚れた町中、イギリスの街中を走る輪タク(?)、ボロボロのポスター、現代と全く変わらない軍隊装備、難民の群れ等々。車も宙に浮いている訳でもなく、現実味のある近未来の世界観の表現が、物語に強烈な説得性を持たせていると思う。根拠もないのに、人類文明があらゆる意味で飽和しきった現在、近い将来に本当にこんな世界が訪れる気がする。‥‥‥そのリアルな世界観のお陰で、全てのナゾが解き明かされたわけでは全然ないのに、女性が子供を産むという行為の偉大さ、素晴らしさが痛感できる映画。我々男性がどんなに頑張ったって、女性のこの出産という行為の偉大さに及ぶことはできるまい。 [DVD(字幕)] 7点(2007-03-25 21:05:32) |
6. 墨攻
《ネタバレ》 儒教を説き専守防衛を旨とし、知略に長けた「墨家」という思想集団の存在を初めて知ったのは原作の漫画だった。血で血を洗う中国の戦国時代に、そんな集団が実在したのは驚きだ。……漫画はコンビニでちらりと立ち読みした程度だったが、一人砦へとやってきた革離が反感を持っていた民衆から信頼を得ていく過程が省かれていたのはちょっと物足りない気がした。しかしそれでも、大軍(10万もいるとは思えないけど)を迎え撃つ迫力のあるシーンの連続にグイグイ引き込まれてしまう。人海戦術にモノを言わせるのではなく、少人数のキャストでも丁寧に撮られているせいだろうか。……人道と現実の間で苦悩する主人公・革離に比べて一国の王様たる梁王の何とミミッチくて器の小さいこと。革離演じるアンディ・ラウの無骨な渋さは役柄にぴったりだったし、何より最後の最後まで飽きさせないスピーディーな展開。声が出せずに溺れてしまった可哀相な逸悦には助かってほしかったけど、コンパクトで充実した筋書きは面白かった。 [映画館(字幕)] 7点(2007-02-18 00:53:35) |
7. どろろ
《ネタバレ》 冒頭の狂気じみた百鬼丸は良かったが、途中の妖怪退治あたりから、一気にB級アクションに突入。登場した妖怪の中で迫力のあったのは最初のベリーダンサー転じた蜘蛛の化け物だけ。以後は違和感ありありのCGや、かぶりものバレバレの安い妖怪ばかりで、ちょっと拍子抜けだ。ホラー映画並みにオドロオドロしい化け物がいないので、相手の妖怪がショッカーの怪人レベルを脱していない気がする。手塚治虫の純和風冒険活劇(読破してないけど)に、一昔前の特撮ヒーローものの怪獣みたいなトカゲを出すのはやめてほしかった。……柴崎コウの体当たり演技は良く分かるし好感が持てるが、甲高い声ではちょっと男キャラには無理があるし、女性に目覚めていく微妙な心の動きも、そもそも省かれているせいか、映画の中では十分に表現されていない。……妻夫木の演技は冒頭部分は狂気じみて迫力があったし、アクションも思ったよりサマになっていたけど、このテの筋書きは大好きなのだが、なかなかB級イメージを打破できる映画は登場しないものだな、と思う。 [映画館(邦画)] 4点(2007-02-11 03:29:44) |
8. マリー・アントワネット(2006)
《ネタバレ》 タイトルの通り、全編を通じて王女「マリー・アントワネット」の視点(見ているもの)でしか描かれていないのが印象的だ。最後の宮廷襲撃で彼女が押し寄せた群衆を見るまで、飢え死にする庶民や貧困に喘ぐ町の様子が描かれている訳でもない。美しく凄まじい浪費の映像の中、ウンザリするしきたりや殿上人の人間関係を甘んじて受ける彼女の姿がなおさら孤独に見えた。……煩わしい宮廷生活に身を任せれば、自分の意思とは無縁の賑わいの中。しかし自分が満たされる居場所に落ち着けば、たちまち宮廷の人間関係が彼女を孤独にする。たまらない孤独に耐えるため、寂しさを紛らわすように饗宴に身を任せるうちにいつしか本当に自分を見失ない、ひたすら浪費に走っていく。そして自分の拍手に誰も賛同しない劇場で、いつの間にか本当に自分が孤独になってしまったことに気づくのだ。押し寄せる群衆の響きに「子供たちを」と健気な姿を見せた彼女を支えていたものは、母として、妻としての強さだったろうか、王女としてのプライドだったろうか。……華やかな宮廷生活の末に断頭台の露と消えた史上最も名高い王女、「パンが無いならお菓子を食べればいいじゃない」の名台詞を本当に言ったかどうだか知らないが、この映画を見ると、きっと史実もそうであっただろう彼女に同情してしまう。王族に生まれ16歳で政略結婚、誰も頼りにするものがいない他国に渡った先があのベルサイユでは、浮世離れもしようというものである。「今日の日に乾杯」「その先の日々にも」浮世離れのままに孤独に耐えていた彼女にとっては、そんな栄華の日々が永遠に続くはずだっただろう。……そして国外脱出を果たせないまま捕らえられ、断頭台へと連れて行かれる彼女の姿もこの映画では描かれていない。全編を通じて描かれていたのは華やかで滑稽な宮廷生活の中どこまでも彼女につきまとう孤独、それだけに終始した面白い「栄華」だった。 [映画館(字幕)] 7点(2007-01-21 03:25:57)(良:2票) |
9. 武士の一分
《ネタバレ》 現代版のクールな若者を演じることの多いキムタクのこと、時代劇の配役がどうなのか不安だったが、予想以上にハマり役で彼の確かな演技力が証明された気がした。「目が見えないと思って侮るな」と使いに追加の伝言を託すときの表情は、鬼気迫る凄みがあって素晴らしかったと思う。彼の自然な演じ方を、庄内弁の軽口に活かすあたりが大変上手い。剣道の経験があるから殺陣も変に美しくなく、実践的でサマになっている。現代風の役者を時代劇に起用するときに有りがちな、不自然な雰囲気がほとんど感じられなかったのが見事だった。……食い扶持を絶たれて飢えてしまうことになるかもしれないけれど、お咎めでお手打ちになるかもしれないけれど、目が見えないから果し合いしても勝てるとは思えないけれど、それでも譲れない、見得やプライドよりももっと深く、生命のやりとりに及ぶまで絶対に譲れない一線、それが「一分」。言うにはカッコイイけど、自分にあるかと言われれば、やっぱり、無いな。……倒れた病に伏した新之丞を見舞う、桃井かおり演じる以寧が家に上がりこむ時、その足袋の裏が生活に汚れている。そんな山田洋次監督独特のリアルな生活模様の演出に加え、奥方の壇れいや、徳平演じた笹野高史の演技も、キムタクに負けずに素晴らしいと思う。脇を固めた俳優陣と、主演のキムタクの息が噛み合った良い邦画だった。 [映画館(邦画)] 8点(2007-01-03 00:26:28) |
10. ゲド戦記
《ネタバレ》 日本が世界に誇るジブリアニメのブランド、あの素晴らしい世界観も、宮崎駿のマスターベーションだから成りえた世界なのかもしれない。映画という商業主義の世界でも、彼の徹底したこだわりが完成させた芸術の世界、それが世代を超え、日本をはじめ世界中の共感を呼んだ。「田植え休み」なんて言葉も知らない私たちの世代が、「トトロ」の世界に共感する。ジブリ作品の特徴は、その世界観を表現する「ここまでやるか」と見る手を唸どに創り込まれた映像の圧倒的なクオリティと、その根底に流れる真摯で強烈なメッセージにあった。芸術とは、作家のマスターベーション=自己満足の世界に尽きると思う。……「ハウル」で急速に失速したジブリのブランド復興なるかと、僅かな期待を抱いて見に行ったが、予想以上の失望に終わった。「ハウル」以上にチグハグで尻切れトンボな筋書き、アニメのクオリティ以前に物語自体が盛り上がりも目的も起承転結もなく陳腐この上ない。息子はなぜ父親を手にかけなければならなかったのか、主人公が怯えていた「影」の姿は一体何だったのか、少女はなぜ竜に成り得たのか、かつて人とひとつであった「竜」が物語の中で何を意味していたのか。すべてがぼんやりと中途半端なままで、更に素人棒読みの台詞の中では、何の共感も感動も覚えることができなかった。……「千と千尋」までの、あの愚直なまでにこだわった作家の圧倒的な世界観はもはや見当たらず、公開前のあからさまな広告戦略に象徴される商業主義。マスターベーションの抜けきった商業映画は、もはや娯楽芸術ですらない。作者が息子であれ、ジブリブランドという極めて特殊なフィルターでお客は見に来る。これは筆舌に尽くしがたい大変な重圧であると思うが、たとえ何年もの時間はかかっても、それに恥じない作品を発表してもらいたい。……「もののけ姫」時代の、まるで油彩と見まがうばかりの素晴らしい画力に比べ、あまりに陳腐で粗雑な背景の作画は誠に残念だ。ラストの悪役はまるで二昔前のテレビアニメ並み、これを日本代表の芸術として海外で公開するのはいかがなものか。……この映画を最後に、ジブリアニメはもう映画館に観に行くことはないだろう。日本の誇るジャパニメーションの頂点も、遂にここまで失墜した。宮崎駿氏の世界は、やはり彼にしか創りえないものだったのだ。 [映画館(邦画)] 2点(2006-08-14 21:45:49)(良:2票) |
11. 乱
《ネタバレ》 主演の仲代達矢、原田美枝子演じる楓の方の鬼気迫る演技。城攻めの合戦シーンには圧巻。まだCGの技術が発達していない時代だからなのか、実物大の城と炎の中で撮影されたシーンは生々しく、泥臭く、重い迫力を感じさせる。地方豪族である登場人物たちの装いや、板敷きの城の内部、随所にリアルさへのこだわりが見えた。・・・・・・壮大な阿蘇でのロケの中、最初の猪狩りのシーン以外は、晴れの空の記憶がない。随所にスモークがたかれ、曇り空が延々と続いていくような何とも湿っぽい映像の中、無い腹を探りあい、自ら好んで殺しあいの結果を招く人間の愚かしさが、ずっしりと感じられる。 [DVD(邦画)] 8点(2006-07-27 13:04:47) |
12. 椿三十郎(1962)
《ネタバレ》 ストーリー展開のわかりやすさ、テンポの良さ、コミカルなシーンと緊迫したシーンのコントラスト、いずれをとっても素晴らしい。血気盛んな若侍や人質の男、それに危機的状況にも全く上の空の奥方と娘。登場人物は多いのに、見る手が考え込んでしまうような複雑さは微塵も感じられない。決して見る手を飽きさせない起承転結、トントンと進んだ物語が最後の立会いで一気に緊迫度を高め、お約束の「あばよっ!」で見事に終結する。黒澤監督の映画は、まるで文学のようだ。・・・・・・全体としてはむしろコミカルな映画なのに、最後の立会いシーンのリアルさは、流石に伝説になっただけのことはある。ピーンと空気の張り詰めた数秒から貫胴一閃、血飛沫が舞うあのシーンで、後ろで見守る世間知らずな太平の若侍達と、殺し合いの現実を生きてきた一匹狼の三十郎との、ふたつの世界のコントラストが最高潮になる。 [DVD(邦画)] 8点(2006-07-27 12:44:57) |
13. 七人の侍
台詞がやや聞き取りづらい部分はあるものの、やはりこの時代にこれだけのスケールの映画を撮った黒澤監督の才能には驚くばかりだ。この映画をハリウッドが様々なカタチでリメイクしたのも頷ける。・・・・・・映画はまだまだ勉強不足なのだが、この「七人の侍」は、間違いなく映画界のエンターテインメントの新しいジャンルを開拓した作品だろう。勿論、これ以前にもエンターテインメント目的に撮影された映画は世界中に沢山あったのだろうが、誰しもが共感できる「勧善懲悪のストーリー展開」において、この映画のスケールは他の作品とは一線を画する。当時のハリウッドの人々は、この作品を観たときにはさぞ驚いたに違いない。一人の無敵のヒーローではなく、七人の同志が集結して力を合わせ、巨大な悪を迎え撃つアクション映画。スターウォーズ以前のハリウッド映画にはこんな観点の脚本は存在しなかったのではないか。・・・・・・弱きを助け強きを挫く武士道精神、「南総里美八犬伝」など、日本古来の文学にもある日本人の観念だから、こんな大作も生まれたような気がしてならない。この映画に関しては、専門の方々に語らせれば他にも評価すべき部分は山ほどあるのだろうが、この1点だけは勉強不足の私でも理解できる。日本人の観念が世界の映画界に影響を与えた一作として、そして日本人として、この映画を誇らしく思う。 [DVD(邦画)] 8点(2006-07-25 12:58:56) |
14. 東京ゾンビ
B級ギャグ映画と割り切って作ってある映画なのに、スイープやベイスなどの柔術専門用語に加え回転三角締めやデラヒーバなど、柔術技にはリアルにシッカリこだわっているのが可笑しい。カメラワークや筋書きなんてどうでもいいバカバカしさに徹したありえない映画に、最初は正直引いたがじきに慣れて楽しく観ることができた。凄惨なシーンに席を立っていたおばあさんも居たが、「キル・ビル」と違ってパロディに割り切って作ってあるため、そんな場面もギャグだと思えば我慢できた。柔術経験者から観ても、それなりにサマになっているのがますます可笑しい。はなくまゆうさくのシュールなマンガの世界を、クソ真面目に映画化したその姿勢が可笑しい。ギャグ映画なのに、クライマックスに愛という壮大なテーマをムリヤリ掲げてあるのが可笑しい。そして、この可笑しさを熱心に演じている浅野忠信と哀川翔の二人のプロ意識が可笑しい。こちらもバカになって鑑賞する価値のある、可笑しさづくしのB級映画だった。 [映画館(邦画)] 6点(2006-03-20 01:48:03) |
15. THE 有頂天ホテル
多くの登場人物の中で副支配人としてプロの義務を果たしていた新藤だからこそ、自分を偽ったことに落胆する彼にかけられた「自分らしくて、何故いけないの?」という言葉が重く感られる。「自分らしく生きる」こととは「義務を果たした上に、自分の信条に正直に生きる」ことであり、「身勝手に生きる」ことや「無理をしないで生きる」こととは違う。生きる舞台が表でも裏方でも、自分らしく生きるためには、政治家であれホテルマンであれミュージシャンであれ、自分に出来る義務を果たした上に、シッカリとした目標が要る。政治家としての義務を果たせずに逃げ出した武藤田や、夫婦としての義務をほったらかして不倫相手と結婚する心づもりの坂東には共感出来ないし、それをもっともらしく後押ししている竹本ハナにも納得出来なかった。‥‥‥しかしそれでも人の生き方なんて十人十色。政治の世界に生きる理由を見つけだした武藤田は、これから政治家としての義務を果たしていくだろうし、ミュージシャンを目指す只野は、その目標のためにベルボーイとしての義務を果たしていくだろう。シッカリとした目標=生きる理由さえあれば、果たさなければいけない義務はそこから生まれてくるもの。そう考えれば、新しい年を生きる理由と共に迎えた彼ら全てを肯定し、幸せを祈る気持ちも生まれてくる。大晦日、誰もが来年こそはと自らの生き方を思う格好の機会「年の瀬」に、イチモツを抱えた多種多様な登場人物が絡み合う実に楽しい映画だった。‥‥‥これだけの強烈なキャラクターを揃えながら、複雑な人間関係をよくも見事にまとめあげたと思う。ラストシーン、You演じる桜チェリーの歌はコミカルなリズムにあの独特の声質がマッチしており、いっそ彼女の持ち歌にしてもいい気がする。篠原涼子演じるコールガールのブリッ子を心の底で可愛いと思ってしまった自分にオジサンを感じ、最後の歌声に自然に身体が揺れ、自分もホテルの宿泊人になっていたような、観た後はとても爽やかで楽しい気分になった。 [映画館(邦画)] 8点(2006-03-05 02:46:34) |
16. 男たちの大和 YAMATO
まず私は右翼でも左翼でもない。その上で申し上げたい。愛する人、故郷日本を守るために身を挺した人々への哀悼と、その人々の累々たる屍の上に今の私たちの平和安穏な暮らしがある。右翼だって左翼だって、今の豊かな日本に生きる国民全てが否定することなどできない、この顕然たる事実。戦争犯罪というただの「言葉」の前に思考停止し、過去の歴史に学ぶ姿勢すら忘れてきたこの国のあり方に、映画というプロパガンダと思われかねない手段で、誤解を恐れず、実に思い切った一石を投じた。この点においてのみ、この映画は最大の評価を得るべきだ。戦争の悲惨さ、言葉だけの薄っぺらな平和主義だけの視点しか許されなかった世界で、先祖への感謝を根底にした切り口は、誰が何と言おうと斬新で、「本来のあるべき姿」としてのメッセージだ。この映画は、芸術作品としての映画とは、一線を画して語られるべきであり、評価されるべきだ。‥‥‥しかしだからこそ、不要なナレーションや字幕など、 ちょっとしたドキュメンタリーのような余分な演出が多かったのが誠に惜しい。 映像の撮り方も映画らしい凝り方が見あたらず、良く終戦記念日にTVであっている2時間ドラマのように感じられたのが大変残念だった。せっかく前代未聞の壮大なセットも作り上げたのだから、守るべき対象である故郷の人々への愛情や、悲しみや、覚悟などの背景、実際にはもっと凄惨を極めたであろう、沈没する大和の船上の悲惨をとことんリアルにドロ臭く描いて欲しかった。やはり、この映画を作り上げた人々の多くが、私同様実際の戦争を体験していないせいかも知れない。あまりにも画面が奇麗すぎ、画面から命の失われる悲惨さ、分かり易く言えば「血生臭さ」が伝わってこなかった。昔観たTVドラマ「戦艦武蔵の最後」は、こんなセットは無かったが、映像から伝わってくるものが、もっともっと悲惨で恐ろしかった。 今までに無い壮大なテーマに挑んだ結果、角川といえども力が今一歩及ばず、というところだろうか。‥‥‥映画というエンターテインメントの立場から、過去の人々への畏敬すらも忘れている時代の潮流に、恐れることなく強烈なメッセージを送った。芸術作品としての視点とは別に、その姿勢に拍手を送りたい。 [映画館(吹替)] 7点(2005-12-19 12:49:32)(良:2票) |
17. ALWAYS 三丁目の夕日
《ネタバレ》 銀玉鉄砲の駄菓子屋、湯たんぽ、ポンプ式の井戸、ガラス障子の軒先、ゴム仕掛けのプロペラ飛行機。私の生まれた時代には当然集団就職なんか無く、この映画に登場するものの最後の断片が残っているだけだったけど、同世代の人々にを感動させるだけのディティールの凝り方だけでもかなり印象深い。ご近所付き合いに象徴される人と人との繋がりが強く、幸せに至る過程こそが幸せなんだということも気付かずに、便利で豊かになっていく生活を日々喜んでいた時代。私もチューブの中を車が飛んでいる21世紀を思い描いていたっけ。‥‥‥私もそれなりに毎日一生懸命働いてるつもりだけど、豊かな現代の飽和しきった閉塞感を思えば、この映画の中の人々の方がよほど楽しく生きているように見えてしまう。若輩で豊かな時代しか知らない自分だし、贅沢を必ずしも悪いことだとは思わないけど、本当に大切だったのは、モノの豊かさの裏にある「ゆとり」という心の持ち方だったんじゃないか。「心のゆとり」を超えた贅沢は、単なる浪費になってしまう。心に平安をもたらさず、更なる浪費を求めるものなのに。‥‥‥堤真一、吉岡秀隆をはじめ、この映画のキャスティングは満点だ。お涙頂戴な筋書きも、要所に笑いを盛り込んでホノボノとした物語に仕上げてあるのが、素直にとてもいいなと思えた。完璧なハッピーエンドを期待する私は歌い子のヒロミが戻ってきてくれることを期待したけど、いいじゃないか、みんなプラスの方向へ力強く歩んで行く様な、そんなエンディングだった。 [映画館(字幕)] 8点(2005-11-25 13:00:19)(良:1票) |
18. 亡国のイージス
寺尾聡、中井貴一、真田広之の演技力は流石だが。如月演じる勝地涼の台詞が、まだ少し棒読みに聞こえて違和感があった。アクションや演出は従来の日本映画に比べて中々のものがあったし、特に駆逐艦同士の近代戦は自衛隊の全面協力を得ただけあってリアルな凄みがあった。ベストセラーとなった原作を読んでいないが、伏線が十分描ききれてない気がする。副館長の息子が死んだ理由、その論文の内容、副館長が前妻と別れ、如月を捨てた理由など、もっと話を盛り上げられる要素を十分に描く時間が欲しかった。‥‥‥ただ、テーマは非常に重く、(今までタイトルの意味を知らなかったが)この「亡国のイージス」というタイトルは大変考えさせられる。守るべき郷土があってこその盾。盾となる力を持つなら、平和を守るに値する国が必要だ。盾の是非ばかりを論じる平和論が、いかに薄っぺらで偽善的なものであるか。副館長の反乱は、最終的には私怨によるものに思えたけれど、自衛隊の方々の心の疑問は理解できる気がする。 [映画館(字幕)] 6点(2005-08-08 19:36:43) |
19. 火垂るの墓(1988)
アニメーションであればこそ表現できる手法を(防空壕での蛍のシーン等)効果的に用いてあるのが印象的。純情な高校生の頃は授業の時間に見せられたこの映画を真に受け、「あのオバサン殴りたくなったよ」と呟いてたヤツもいたっけ。別にこの映画には涙しないが、妹が死んだからとて兄の行動も身勝手と批判する気にはならない。身を寄せた親戚のおばさんも、兄妹が出て行くときに「ほな、気をつけてなぁ」と、別に心配する素振りも見せなかった。兄にしてみれば、未熟な年で兄なりに選んだ精一杯の選択だったのだから。この映画と「ビルマの竪琴」を見てから、あの「ホーム・スイート・ホーム」が戦争音楽に聴こえて仕方がない。‥‥‥今では毎年TVで放映され、反戦の象徴たるアニメとなってしまったが、この作品だけではなく様々な戦争映画もTVでやってもらいたい。一般民の悲惨な視点の作品だけではなく、郷里を守りたい一念で戦った人々も描いた映画があるだろう。それら全ての人々の尊い犠牲の上に、今の私たちの豊かな生活があることを、もっと私たちは理解し感謝しなければいけない。「戦争は悲惨」「平和は大事」確かに正論だが、それだけを繰り返すだけの薄っぺらな平和論はもう沢山だ。‥‥‥付け加えるなら、サクマドロップ様、いくらこの映画でメジャーになったからって、それに乗っかって商品を販売するのはいかがなものか?ボロ傘さしてヤツれたセッちゃんを背負ったお兄ちゃんがデザインされたドロップ缶を見たときは少々ショックを受けた。リアルすぎてシャレになってない。 [地上波(吹替)] 6点(2005-08-08 19:16:13)(良:3票) |
20. ぼくらの七日間戦争(1988)
いい大人になってしまった今では、おそらく2度と観ることがないであろう映画。世間知らずで、露骨に反抗する根性すらなかったチンケなマジメ中学生であった当時だから陶酔できた世界だ。でも、こんな作品を心から楽しみ感動していた当時の自分を否定することはできない。幼稚な反権力精神を持っていたあの時代、この映画は確かに皆のバイブルだった。TVで観ている横で、教師の親父が苦々しい顔をしていた。誰もが同じことをしたいと憧れ、何回も観て心を熱くし、テーマ曲は飽きるほどに何回も聴いたものだ。心深くにしまいこんでフタをして、2度と開きたくないけれど、なぜか捨てるに捨てられない、アルバムのような映画。幼稚だった時代の感動に意味があったことを思って5点。 [地上波(吹替)] 5点(2005-07-25 00:01:50)(良:3票) |