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 > ロイ・ニアリー さん
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プロフィール
コメント数 681
性別 男性
年齢 59歳
自己紹介 点数基準
芸術点、技術点、俳優点、個人的感情移入度の4要素の比重で決めています。
芸術点とは、主に脚本、演出が映画の各要素、美術、音楽、などをどれだけ高次元でまとめ上げたか
技術点とは、撮影技術、特殊効果、音響効果など、技術的な部分のレベル、完成度。
俳優点とは、出演俳優の演技、存在感、作品とのマッチングなど。
個人的感情移入度とは、作品テーマや登場人物などが自分自身の価値観や好みに対してどの程度影響するか。
これらの比重を勘案して点数を出しています。
有る項目が0点に近くても、別の項目が突出して良ければ点数は上がります。
映画としての及第ラインは6点です。それ以下は落第点、マイナス評価です。

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1.  キツツキと雨
「南極料理人」が面白かったので借りてきました。 沖田監督は「芝居臭さ」を排除した、日常の空気をうまく映画世界に取り込むのが非常に上手いですね。 作品中沢山出てくる「はい?」「えっ?」というセリフ。台本にはそのまま文字でしか書かれていないのだろうけど、登場人物から発せられる言葉毎に心情やその場の空気を雄弁に語ります。 南極料理人でもそうでしたが、彼の作品は映画エンターテイメント的にわかりやすいカタルシスは無いのに、観終わった後じわじわと染み出してくるような感動があります。 どうも気になって何度も見返す内に、非常に丁寧に練られた脚本や、画面の隅々まで神経の行き届いた演出、美術の仕事ぶりを発見して(・∀・)ニヤニヤとしてしまうのです。
[DVD(邦画)] 8点(2013-02-20 02:30:44)
2.  はやぶさ/HAYABUSA
邦画特有の安っぽい感動の押し付け演出や、芸能界事情を優先したリアリティに欠けるキャスティング、どう考えても作品カラーに合わないタイアップ曲などネガティブな要素が絡むのではないかと危惧していたのだが、その殆どは杞憂だった。 劇中唯一架空の人物である竹内結子演じる水沢恵、秀才だがオタク風味で地味なキャラクターを竹内が非常に上手く演じていて、俳優としての懐の深さを感じさせる。そして狂言回しとなることで、専門的で難解になりがちな部分をうまく補っている。 主要キャストは映画テレビでお馴染みの俳優がしっかり押さえているが、他のスタッフは本当にJAXAから引っ張ってきたのではないかと思える程俳優らしくない、素朴で地味なキャスティングでこのあたりのバランス感覚は素晴らしい。 彼らの誰かが特別なヒーローというわけでもなく、とりわけ目立った活躍をするでもなく、宇宙が好きで、縁あって集まった極々普通(といっても秀才揃いなのだろうが)の人々がああでもない、こうでもないと悩み格闘しながら地味な作業の積み重ねで偉業を成し遂げていく様は、何か日本人的だなと感じさせるし、組織で働いたことのある人ならどこかしら自分に重ねてみたり感情移入が出来るのではないだろうか。 特筆しておきたいのは宇宙空間のシーンを一切「無音」で通したことだ。 宇宙空間では爆音も破裂音もエンジン音も、音波としては伝わらない。宇宙遊泳した飛行士が証言するように、自分の呼吸音と通信の音以外全くの静寂なのだという。 とは言ってもそれはそれ。映画では演出上何かしらのSEを加える作品が殆どだ。 ただこの作品で「グオー」「ギューン」などというSEをつけられたら興ざめだった。 自分の知る限り宇宙空間のシーンを無音で通したのは「2001年宇宙の旅」と本作だけだ。 さらにこの無音はやぶさが大気圏突入する際にはじめて空気を切り裂く音を発するところで、長い旅の静寂との対比が大きなインパクトとなって伝わる。 全体に演出は抑制的であるが地味に陥りすぎないように気を配られており、実質的主人公水沢恵の成長物語としての軸もしっかり通っている。 唯一残念だったのは音楽が凡庸で多少押しつけがましかったこと。邦画ではよくあることだが・・・。
[映画館(邦画)] 8点(2011-10-13 03:03:59)
3.  南極料理人 《ネタバレ》 
本作を観る前に、第50次越冬隊に参加していた方のブログをよく見ていたのだが、彼のブログにも毎日の食事が掲載されていた。南極のような閉鎖された特殊な環境では食事の充実というのは重要なのだということがよくわかる。 本作もタイトル通りドームふじ基地で越冬するむさくるしい男達の生態が淡々と、ユーモラスに描かれていて、何かホッとさせられる。 ただ、原作がエッセイと言うことだからだろうか、隊員それぞれに小さなドラマはあるものの、これといった起承転結が無い。まったりしているのはそれ自体悪くはないのだが、ちょっと薄味過ぎたような・・・もう少しカタルシスを感じる何かが欲しかったなあ、と一回目の鑑賞では思ったのだが、何故かその後も何度も何度も鑑賞してしまい結局DVDも購入してしまった。不思議な魅力を持った作品である。
[DVD(邦画)] 9点(2010-12-09 14:10:08)
4.  富士山頂(1970) 《ネタバレ》 
1970年といえば、邦画界がTVに押されて凋落を始めた頃、しかしそれでもこのクオリティの高さには恐れ入った。 まずは俳優陣がとてつもなく豪華。 主演の石原裕次郎はもとより、勝新太郎、東野英治郎、宇野重吉、渡哲也、田中邦衛、山崎努、市原悦子と、実力派、重鎮がことごとく出演のオールスターキャストだ。 戦争を体験した昭和の俳優の引き締まった立ち居振る舞いと、1970年当時の風景。演出はスーパースターの裕次郎を主演に据えているからといって軽薄で観客に媚びることがない、重厚で抑制されたもの。 昨今の製作側の政治的な都合だけのミスキャストや場違いなタイアップテーマソングもない。 三菱重工社員の役所である裕次郎は台詞は少なく、表情で語る場面が多い。 僕は俳優としての彼をじっくり観たのは初めてだが、彼の並々ならぬ才能を垣間見た気がした。 安易なセット撮影に逃げることなく、果敢に富士山でのロケ撮影を敢行したことも画面に奥行きと重厚感を加えている。 本作の権利は石原プロモーションが持っているのだろうが、現在に至るまでDVD化されずに人々の目に触れなかったというのがつくづくもったいないことだと思う。 同じく幻の作品「黒部の太陽」もそうだが、ハイビジョンやBDの普及で家庭での視聴環境が整ってきた現在、そろそろソフト化して多くのファンに作品を観てもらう機会を設けるべきではないだろうか。
[CS・衛星(邦画)] 9点(2010-12-09 13:41:02)
5.  崖の上のポニョ
宮崎駿の影響を受けた子供達、ピクサーの面々が超天然色、3DCGでゴリゴリの超リアルアニメーションで世界を席巻している中、師匠たる宮崎のこの作品は数十年前から変わらず手書きアニメーションの手法を頑なに守っているが、個人的には、うーん、もうこれはアナクロの域に近づいていると言わざるを得ないほど古さを感じる。 また登場するキャラクターもどれもが宮崎ワールドでお馴染みの性格付けされた何処かで見たような、会ったような人々ばかり。手塚治虫作品でも定番のなキャラクターが様々登場したが、そういうものとは違う、なんというか、宮崎駿の限界を見せられてしまったようなちょっと哀しさがある。 そんなことだから、僕にとってはもう彼らに生き生きとした人間の温もりを感じられなくなっている。
[DVD(邦画)] 5点(2010-12-09 13:37:06)
6.  真夏のオリオン 《ネタバレ》 
潜水艦映画といえば必ず比較されてしまうのは覚悟の上だったとは思うが、同じ敗戦国西ドイツが製作した30年も前の「Uボート」という不朽の名作に、脚本に於いても、演出に於いても、その志に於いても、遠く及ばない出来映えであることが哀しさを誘う。本作はすべてがこじんまりと纏まって、描写のそこかしこに「眼下の敵」「Uボート」邦画で言えば「男達の大和」その他戦争映画の名場面のオマージュを感じさせるところを発見するのだが、全てがオリジナルを超えることが出来ずに薄っぺらく、安っぽく感じてしまう。
[映画館(邦画)] 5点(2010-12-09 13:32:11)
7.  劔岳 点の記 《ネタバレ》 
物語は淡々としているが、陸軍と山岳会の登頂競争やそれぞれのキャラクター付けもしっかりしているし、物語の筋を追うのは難しくない。 演出上では時折唐突にシーンが変わったりするなど、不慣れな仕事故かたどたどしさはあるが、許容範囲だと感じた。 本作最大の宝はオールロケで撮った山々の息を呑む美しさ。 CGや合成でのごまかしの一切無い映像はそれだけで作品に重みをもたらす。映画を鑑賞するに当たって裏方の苦労云々を言い訳に評価を変えるのは反則という考えもあるが、この映像は木村大作が宣伝で撮影の苦労を語っていることを知っても知らなくても素晴らしいものであるということに変わりはない。 ただ、ここまで美しい映像なのにちょっと雑なパンニングや安っぽいズームが散見されたのが残念。画が美しいだけに重箱の隅が目立ってしまう。 それから嵐のシーンで明らかな音声のブツ切れがあったのも残念だった。 主人公柴崎芳太郎を演じる浅野忠信は、どうにも表情が乏しい。実際寡黙な男であったという柴崎芳太郎を意識しての役作りなのかもしれないが、やはりもう少し内からわき出るような情熱を表現して欲しかった気がする。地元の村人で案内人である宇治長次郎を演じる香川照之。彼は対照的に素晴らしい存在感で主役を圧倒してる。宇治長次郎自身も控えめではあるが意志の強い人間だったのだと思うが、それが大袈裟でなく香川の目や表情立ち居振る舞いから自然と醸し出されている。 木村大作の50年におよぶ映画キャメラマンのキャリアは素晴らしいが他の分野で大きな才能を発揮していても、映画監督としてそのまま優秀な作品を撮れるとは限らないという例は沢山ある。本作もそれを危惧していたが総合的には悪くない。 本作では劒岳周辺の地名や測量用語が出てくるので、事前に予備知識を持っていた方が楽しめるかも知れない。
[映画館(字幕)] 7点(2010-12-09 13:24:54)
8.  おくりびと 《ネタバレ》 
ひと言で言って多くの映画賞を受賞したということに充分納得できるものでした。 「納棺師」という人々に馴染みのないテーマを、誠実に、地味に埋もれることなく、かつ観客に媚びることなく、エンタテイメントとしてのツボはしっかり押さえた脚本、抑制された演出が光ります。 キャスティングも本木雅弘、広末涼子は言わずと知れたスターですが、脇を固める山崎努、余貴美子など実力派が大変良い味を出しています。 特に銭湯のおかみ吉行和子、常連客の笹野高史が本当に素晴らしい。 本作は脇役の存在感が非常に活かされた作品だったと思います。 それから、音楽は宮崎駿作品でお馴染みの久石譲。僕は彼の音楽は宮崎作品以外ではあまりに叙情的というか大袈裟に感じて好きになれなかったのですが、本作ではチェロの旋律がピッタリとはまっています。  大部分の人は、普段死、自分の人生の終わりを意識してなど生活しないでしょう。 しかし生きとし生けるもの、必ず平等に訪れるのが死というもの。 人生の終わりは人それぞれ。多くの人に看取られる最期が有れば、腐乱するまで誰にも見つからない寂しい最期もある。 遠くない将来に訪れる両親との別れ、そしていつかくる自分のこの世との別れ。色々と考えさせられる作品でした。
[映画館(邦画)] 9点(2010-12-09 13:02:24)
9.  クライマーズ・ハイ(2008)
タイトルの「クライマーズ・ハイ」という言葉が、日航機墜落という異常事態でデスクを任された主人公の心情とリンクしているということなのだろうが、おそらく原作で言わんとしていることがかなり端折られている印象なのでなかなか伝わらないこと、前後編にわかれてじっくり描かれたTVドラマ版に比べると残念ながら力不足が否めない。主演の堤真一はどうしても鈴木オートのオヤジの印象があり、また演技もさして変化が感じられず残念。 とはいえどういう形であれ組織に属して働いた人間であれば主人公悠木だけでなく、彼の同僚や部下、対立する他部署、上司、など誰かしらに感情移入することができると思う。そういった組織内の人間模様が実に鮮やかに描かれていてこの部分は秀逸だと思う。元サラリーマンだが今はひとり自営の自分から観ると、時には怒鳴りあい殴り合いをするほどに情熱をぶつけ合える職場にはある種嫉妬に近いほどの感情を覚える。
[DVD(邦画)] 7点(2010-12-09 12:52:02)
10.  SPACE BATTLESHIP ヤマト 《ネタバレ》 
期待したほど心を動かされませんでした。オリジナルでは古代や森雪以外にも沖田、島、真田、相原、徳川、それぞれの生い立ちやエピソードが丁寧に盛り込まれていて、滅亡の淵にある地球に家族や様々な想い出を残して宇宙の果てまで来ているという、切実な気持ちが伝わって物語に厚みが増したし、感情移入することが出来ました。ところが本作は2時間という時間的な縛りがあるにせよ、そのあたりの人間模様が「地球との最後の通信」シーンでさらっと触れられる程度でいかにも弱い。輪をかけて乗組員達に人類の命運を背負っているという切迫感や緊張感が感じられないので何か嘘くさく見えるんです。この部分の描き方が浅いと、ガミラスとの死闘で次々失われていく乗組員達の命がとても軽く見えてしまう。原因は多分に演出脚本の力不足であると思いますが、出演者が皆平和な時代に育ったために醸し出される体躯の貧弱さや所作のためかもしれません。 邦画が挑んだ本格的SFアドベンチャーとしては良くも悪くも力を出し切った作品なのだろうと思いますし、邦画もここまで来たかと思うと同時に世界との差を痛感せ ざるを得ない部分も多々ありました。映画は総合芸術なので、何処かが欠けてもアンバランスな作品 となってしまいます。特にSF作品ではそのハードルが高いと思います。嘘の世界をホンモノのように見せるのはかなりの力量が必要なのです。
[映画館(邦画)] 6点(2010-12-08 01:53:32)(良:3票)
11.  キサラギ 《ネタバレ》 
やたらに評判が良いので観てみた。 たった一室で繰り広げられる物語という難しいシチュエーションにもかかわらず非常に脚本が練られており、役者の演技も生き生きとしてテンポも良く、一気に最後まで観ることが出来た。密室劇故映像的なダイナミズムには欠けるものの、乏しい予算でハリウッド的大作の後追いをするよりも潔い。邦画関係者の皆さんはホンがどれだけ大事かということを本作を観てあらためて再認識されたことだと思う。
[DVD(邦画)] 7点(2008-03-17 14:43:51)
12.  マリー・アントワネット(2006) 《ネタバレ》 
ソフィア・コッポラのことだから当たり前の歴史映画は作らないだろうとは思っていました。実際予告編を観た限りでは大胆にもPOPミュージックを使っていたし、彼女なりの切り口があるのだろうと。 実際観てみれば予想通り当たり前の歴史映画ではありませんでしたが、だからといってそれ程新しい何かがあるとは思えませんでした。歴史建造物を背景にしたロケーションは素晴らしいしアカデミー賞を受賞した衣裳も凝っています。おそらくひとり異国の地へ嫁いだアントワネットの孤独を豪華絢爛な衣裳や無意味にも思える宮殿内のしきたりに対比させることが狙いだったのでしょう。しかしそれ以上でも以下でもない、逆に言えば掘り下げの足りないアントワネットの内面も豪華な衣裳美術で誤魔化されてしまったような感があります。キルスティン・ダンストのキャスティングについては賛否がありますが、僕もあまり合っているとは思えませんでした。 物語は彼女のギロチン処刑まで描かれるのかと思いましたが、宮殿を追われるところでぶつっと途切れてしまい中途半端な印象。豪華絢爛なロケ撮影に比べて民衆が押しかけるシーンは予算の限界なのかせいぜい100人程度しか集まっていないようにしか見えずにアンバランスに感じました。
[DVD(吹替)] 5点(2007-12-23 17:51:48)
13.  椿三十郎(2007) 《ネタバレ》 
本作一番の難は織田裕二。「もうすぐ四十郎」にはとても見えないし、食い詰め浪人にも見えない。着物は綺麗だし肌はつやつや、歯並びの良い真白な歯だ。ぼさぼさの髷もカットの声がかかる度にメイクさんが丁寧に整えたのだなあと思える人工的な乱れ髪。 森田芳光は黒澤がこだわりにこだわったこういうリアリティには興味がないのだろうか。 そもそも彼のキャラクターづくりがオリジナル台本とずれているので、三十郎の行動全てが嘘くさくなってしまうのだ。  殺陣は頑張ってはいるが到底三船には及ばない。ハリウッド風の細かいカット割りでお茶を濁す。まあ仕方ないだろう。 そして最大の見せ場、最後の決闘。 これは新解釈で立ち会いそのものは評価できる。しかし・・・なぜ再現VTRよろしくスローで繰り返したりするのか。がっかりだ・・・。 スタッフロールをバックに三十郎が去っていくが、そんな歩き方侍じゃないよ。緊張感が足りない。 その他、技術面でも雑なドリーショットや信じられないフォーカスの甘いカットを発見した。これでOKを出してしまうのか? 役者は頑張ったと思うが、総合的にみて、とてもオリジナルには及ばない出来だった。これなら森田流にオリジナル脚本で、新しい椿三十郎をつくればよかったのだ。    
[映画館(邦画)] 6点(2007-12-02 11:29:47)(良:1票)
14.  ALWAYS 続・三丁目の夕日 《ネタバレ》 
各所批評サイトでの微妙な評価に観ようか観まいか迷っていたのですが、今日行ってきました。 単なる昭和30年代博覧会になっていたら、お安い人情物語になっていたら、なれ合いコントのつなぎ合わせになっていたら・・・様々な危惧を抱いていたのですが、全ては杞憂でした。 各登場人物のエピソードが前作を引き継ぎ、丁寧な脚本と構成で無理なく物語を紡いでるではないですか。 急遽続編の製作が決まり、時間もなかったはずなのに、種の巻き方、複線の張り方、その引き取り方、ラストへ向かう盛り上げも見事です。 確かに、ストーリーテリングはある種王道であり、既視感あるエピソードの積み重ね。安心感はあるけれど、奇をてらった斬新さは無いかも知れません。 しかしこの映画には他にはないパワーを感じます。邦画の水準を突き抜けたVFX、画面の隅々に神経の行き渡った美術、小道具大道具の配置、照明、音響、演じる俳優の輝き、それを纏め上げる演出の見事な采配からそれを感じるのです。 何よりも人間に対する限りない信頼と愛情が全編に溢れています。 そうするともう、重箱の隅突きはプロの批評家に任せておけばいい、この世界にどっぷりと浸り、彼らの生き様や気持ちの移ろいに一緒に笑い、涙したいと思ってしまうのです。 晴れて結ばれたあの3人は、鈴木オートの家族は、エンドロールが終わっても、確かに生き続けていると感じます。もしかしたら2007年の今も、同じ日本の空の下で成長した六子や淳之介がどこかで暮らしているかも知れない、そうであるなら幸せであって欲しいと願わずにはいられない、劇場からの帰り道、そんな気持ちにさせてくれる映画です。 本作はどの俳優陣も入魂の演技でしたが、特に小日向文世の存在感は素晴らしい。おそらく本作に最も貢献したキャラクターは、冷徹な会社社長川渕康成と、彼を演じた小日向文世であると思います。彼の存在が本作を単なるお涙人情物語に終わらせないスパイスになった。そのさじ加減も絶妙でした。 文句なしの10点を献上致します。
[映画館(邦画)] 10点(2007-11-29 00:55:49)(良:3票)
15.  俺は、君のためにこそ死ににいく 《ネタバレ》 
石原慎太郎脚本、製作総指揮ということからなのか特攻賛美、戦争賛美という批判も聞かれるが、僕はそういう感想は持たなかった。むしろオールドスタイルな反戦映画の域を出ていないと感じた。あの石原慎太郎が関わっているのに、そう言う面では意外な、硫黄島二部作とは対極の情緒たっぷりな日本映画だった。 おそらく誰も石原に意見を言えなかったのだろうと想像するが、題材への思い入れはわかるが、それに溺れてしまっていて物語が整理されていない。あれもこれもと詰め込んだ結果、ひとりひとりの若者の生き様やトメとの交流が散漫になってしまっている。 もちろん多くの人物を群像劇としてたたみ掛けて描くという手法もあるが、本作はとてもそう言えるほど構成も練られていないし、エピソード間のつなぎ方、演出も雑。若年層を呼び込みたかったのか、誰が聴いたってミスマッチなB'zのテーマ曲を当ててくるところにもセンスの無さを感じて痛々しい。 元来日本人というのは大人しくてシャイで控えめだと思うのだが、役者の演技も舞台劇のように大仰で、ハイテンション。役者が段取りでしか動いていないという演出の詰めの甘い場面も多い。 戦闘シーンのVFXは硫黄島二部作にははるかに及ばないが、「男たちの大和」に比べれば格段の進歩が見られるし、時代考証も邦画だけにしっかりしている(と思う)。 返す返すも脚本、演出の稚拙さが目立つ残念な作品だった。
[映画館(邦画)] 5点(2007-11-09 19:56:02)
16.  下妻物語
最近「嫌われ松子の一生」を観て、邦画にもすごい監督がいると思っていたので、その前作を遡って観てみた。 「嫌われ松子」でも毒々しい色彩感覚だと思ったが、これは彼のカラーなのだろうか、画面一杯に極彩色が鏤められていて、米国の安いお菓子を食べているような感覚。 どんな短いカットも隅々まで手が入っていて、隙間がなくびっしり情報が詰め込まれている。 そしてそのままテンポ良くどんどんカットを積み重ねて物語が進んでいく。 このリズム感はやはり他の邦画にはなかなか無いところ。 全編毒々しい色彩とコミカルでナンセンスな展開だが、ふたりの心のうつろいや友情はリアルに描かれている。 深田恭子は知っていたが、演技を観るのははじめて。彼女のクライマックスでの豹変ぶりもすさまじいが、白百合イチゴ役の土屋アンナは本作を観るまで知らない女優だった。この人はすごい。本物のヤンキーかと思った。役への入り込み方が半端でない。 数々の賞を受賞したと言うが、それもうなずける迫真のヤンキーっぷりだった。 
[DVD(邦画)] 8点(2007-09-09 20:50:58)
17.  それでもボクはやってない
ひと言で言って非常に恐ろしい、下手なサスペンス、ホラー映画も消し飛ぶほどの恐怖を感じる映画でした。 本作の恐ろしさの理由は、これが荒唐無稽なフィクションではなく、実際に日本で起きている現実であること。さらに痴漢というだけでなく、広く冤罪と言うことで言えば、全ての人にとって無縁ではないという現実感があるからだと思います。 本来悪が裁かれるべき場所、正義の砦とも言うべき司法や警察が不条理にも地獄の一丁目になってしまうというのですから。 皮肉にも、この映画における本当の「悪人」は痴漢の真犯人だけです。その他の人物は皆自分の職務を忠実に、かといってそれ程情熱を持つわけでもなく実行しているだけであり、だれもことさら悪意をもって加瀬亮演じる青年を貶めようなどと画策しているわけではないのです。ただ巨大なシステムのなかでそれぞれの役割を果たしているだけ・・・。 平和な生活を送る善良な市民が、神のいたずらか、全くの偶然から悪夢のような修羅場に巻き込まれていくというサスペンス映画は沢山ありますが、本作は「痴漢の濡れ衣を着せられる」という一見地味な(?)設定でありながら、凡百のサスペンス映画を遙かにしのぐ恐怖、不条理感の中に観るものを叩き込みます。 これみよがしで過剰な音楽も演出もなく、ただただ淡々とした日常がそのトーンを保ったままある時点を境に舞台が「どんでん」するようにがらっと様相を一変させます。 それは現実に起こりえない荒唐無稽な設定や陰謀に巻き込まれる等と言うことではなく、日々日本で行われている普段通りの法の執行であり、我々善良な市民には見ることができなかっただけのもう一つの日常です。 裁判のシーンは(自分は裁判を傍聴したことはありませんが)、よくあるサスペンス劇場の裁判シーンが明らかに嘘であったと感じさせるだけのリアリティを持っています。 それは裁判官の口ぶりから、細かい手続き、ちょっとした仕草まで丁寧に拾って表現し、その積み重ねから生み出されるものだと思います。 その結果、これは現実との比較でそう思うのではなく「現実はおそらくこうなのであろう」と思わせるほどのリアリティ(現実感)を持つに至るということです。 11年ものブランクから起死回生の特大ホームランを放った周防監督。本作に傾けた情熱とたぐいまれな才能に感服いたしました。
[DVD(邦画)] 10点(2007-09-09 18:58:32)(良:2票)
18.  タイヨウのうた
レンタルで「下妻物語」と続けて観たのだが、同じティーンエイジャーの青春と友情をテーマにしていながら「下妻」のナンセンスでアップテンポなトーンに比べるとこちらは対極。 誰しもが美しく清らかな人物で、カメラはひたすら静かに動き、演出も抑制されている。 うーん、自分がひねくれ者だからなのだろうが、こちらはどうもしっくり来ない作品だった。 導入で人物と設定がわかった時点で物語の最後まで読めてしまったということもある。 また、物語のお膳立てが整いすぎていて、製作者の意図が透けて見えてしまう(ように感じる)。 とにかく誰にも罪がなさ過ぎて、さらさらとひっかかりもなく流れてしまう。 登場人物誰しも悩んだり苦しんだりするのだが、自分のようなオッサンには人間としての生々しさが感じられないといまひとつ心に迫ってこない。 「下妻物語」がナンセンスな設定の中でのリアルな友情を描いているのに対して、「タイヨウ~」は設定は現実的だが、登場人物の心情はファンタジーに近いように感じた。 と、自分の好みではなかったが製作者の作品世界に対する真摯な姿勢や良心を感じる作品で、特に同世代の高校生には心に響く作品かもしれない。
[DVD(邦画)] 6点(2007-09-09 18:44:51)
19.  時をかける少女(2006) 《ネタバレ》 
筒井康隆の原作とはなっていますが、「タイムリープ」の設定だけを借りた全く別の物語ですね。そしてそのタイムリープというSF的設定は物語の主ではなく、あくまでも主題はマコトの人生の想い出になるであろう一夏の物語。自分にはもう四半世紀前になってしまいましたが、あの頃の夏の空気や汗の匂いが甦ってくるようでした。
[DVD(邦画)] 8点(2007-04-28 13:59:28)
20.  トゥモロー・ワールド 《ネタバレ》 
この映画のディティールに対するこだわりはすごい。2027年の絶望の世界を構築するために画面の隅々まで細心の注意が払われ労力を惜しまずに手が入っており、CGIも出しゃばらず効果的に使われている。そして挑戦的な長尺カットが観るものを20年後の絶望の世界へ放り込む。スクリーンの外、エンドロールの向こう側の世界への想像力をかき立てられる。あの後、世界はどうなるのだろうか。キーと、愛娘ディランの運命は。観終わった後もそんなことばかり考えてしまう。
[DVD(吹替)] 10点(2007-03-30 19:44:34)
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