1. Cloud クラウド
《ネタバレ》 前評判いまいちだったのであまり期待せずに見たら面白かった。前半の黒沢清監督らしい不穏さの演出が秀逸。転売ヤーという人からよく思われていない「仕事」にのめり込む男の身近でおかしいことが起きているというのが、音楽や光や影の演出で見事に表現されている。とくに、序盤にバスで彼女と携帯を見ていたのを後ろからのぞき見した男が立ち去る場面。結婚話に浮かれている本人が気づかないうちに、見られてはいけない情報が見られてしまい、もう「詰んでいる」という感覚に背筋が凍る思いでした。荒川良々演じる社長の訪問シーンも秀逸。この緊張感。黒沢作品はやっぱりやめられない。 一方、賛否分かれそうな後半は、自分としては「ネット炎上」の寓話として面白く見てました。「悪者」認定されやすい転売屋という主人公の周りに憎悪と暴力が引き寄せられていく過程、そして、主人公の味方側の反撃もやり過ぎなほどエスカレートしていく。そこに戸惑いながらも、だんだんとその過激な応酬に参加していく主人公。知人がネット炎上に巻き込まれたことがあったのだけれど、まさにそのときに起きていたことが「廃工場でのガンファイト」という形で表現されていたと思う。覆面男に「人に意見を言うならちゃんと顔を見せろ」「おまえの事なんか誰も覚えていない」という台詞など、明らかにネットでの「議論」をネタにしたところには苦笑するしかなかったし、襲撃者のおっさんが「バール(のようなもの)」を持ってる小ネタ(by 麦君『花束みたいな恋をした』)も妙に可笑しい。 ただ、そう考えるとちょっと残念だったのは、主人公に直接的に関わった被害者・関係者ではない人たちにまで膨れ上がっていき、世界全体が「敵」になるかのように感じる恐怖こそが、「炎上」の恐ろしさだと思うので、暴力のエスカレーションだけでなく、量的にも見せてくれたほうが、黒沢監督らしい展開になったのではないかなーというか、それを期待していたら、終わってしまったのは残念。もっとも、ラストの黒沢作品らしいショットに、それは表現されていたのだろうけど。主人公にとっての本当の地獄はこれからなのだ。 [インターネット(邦画)] 7点(2025-01-06 12:56:07)(良:1票) |
2. はたらく細胞
《ネタバレ》 原作未読。大晦日に家族と映画館へ。ほぼ満席でとても活気がある劇場、1年の締めくくりとしてはとてもよかったと思います。映画自体も、序盤、体内の細胞の働きをを擬人化して描くというコンセプトが楽しい。キャストもそれぞれのパブリック・イメージをいかして、しっかりはまっている。とくに、主演の永野芽郁さん、佐藤健さんのやりとりは見ているだけで楽しく、お正月映画のお祭り感もあっていい。ウンチをめぐる下ネタもくだらないけれど、これはこれでよい。 ただ、人間側の芦田愛菜さんが病気になったあたりから雲行きが怪しくなっていく。急性白血病であることが発覚し、突然異常が重なり、体内の細胞たちも危機的状況に。阿部サダヲさんと芦田さんが熱演を見せるほど、「自分は何の映画を見てる?」という気分になる。それまでは、細胞のキャラを生かした台詞や設定が楽しかったのに、ジャンプあたりでよく見るような台詞や展開が続き、「はたらく細胞」感からどんどん離れていき、見てるこっちも冷めていく。放射線治療やら骨髄移植やらの大病の展開に持っていったために、細胞のエピソードも既視感の強いバトルものになってしまい、この映画の楽しいポイントはそうゆうことではないんだけどなあ、と思いながら物語は幕を閉じてしまった。 この感覚、どっかでも経験したなあと思ったら、映画版『テルマエロマエ』を見たときと同じだった。設定勝負の前半は楽しいのに、とってつけたようなドラマ展開になるとどっかで見たような既視感だらけの展開になって冷めてしまう。あとで見てみたら、監督も一緒でした。オリジナリティあふれる原作のいいところを作品全体に活かしきれない残念な感じも同じでした。 [映画館(邦画)] 4点(2025-01-03 17:52:40) |
3. アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師
《ネタバレ》 冬休みに入ったらしく、若い人で賑わう映画館。本作でも観客を見渡すと、同世代らしき一人の観客のほかに、ちらほら若い観客の姿も。ダブルデート(死語?)らしき中高生4人組も見かけて、なぜかこちらも少しテンション上がる。 さて、肝心の映画ですが、120分退屈せずに楽しめました。楽しめたんだけど、いろいろ言いたいことも。 まず良かった点。定番のコンゲームものですが、ほとんどダレる展開がなく、ストーリーもわかりやすいし伏線回収もばっちりで、しかもきっちり120分で終わる。エンタメ邦画に多い、無駄なギャグを突っ込んだり、逆にやたらウェットなシーンがだらだら続くみたいなことが一切ない。何が起きてるのか、人物がどんな感情なのかが、少ない説明でもすっとわかる。これって簡単そうで難しい。映画愛と勢いで突っ走った『カメラを止めるな』の上田慎一郎監督でしたが、今作では少し違った才能をばっちりと発揮したみたい。これで上田監督は「信頼できる監督」の評価を確立したのでは。キャストも、主演の内野聖陽さんの「税務署職員」、今乗りに乗ってる岡田将生さんの「詐欺師」をはじめ、脇役までみんな似合ってて楽しそう。悪役の小澤征悦さんだけちょっとコントっぽかったかな。あと神野三鈴さんがよいです。とくにラスト。 残念だった点。これはしょうがないのですが、土地売買詐欺という手法。最近でも池井戸潤原作の某作でも出てきたし、何よりNetflixの『地面師』という大ヒット作とかぶってしまって、どうしても既視感のある描写が続いてしまう(そして、それらのなかでも本作の手法が一番雑・・・)。それから、主人公の内野さん演じる熊沢が「税務署職員」「公務員」であるという設定があんまり活きていないこと。やっぱり最後の詐欺ゲームで、税務署職員だからこそできる活躍(たとえば、帳簿が出てくるので、あれをどうこうする展開とか)がないので、「公務員・税務署職員が」悪徳業者をやっつけた!感がどうしてもないこと。たとえば、某維新の会のような公務員バッシングみたいな設定があって、それを気持ちよく覆してくれるみたいな展開も見たかった。そこで、川栄李奈さん演じる部下とのチームワークとかが発揮されれば最高だったのに。 とかいろいろ気にはなるものの、終映後、ダブルデートの中高生が楽しそうに感想を話しあってるのを見かけて、すっかりいい気分に。テレビ局企画やらディズニー続編でもなく、この映画をチョイスした君たちのセンスがおじさんはうれしい! かれらにとって楽しい1日になってくれることを密かに祈って劇場を後にしました。 [映画館(邦画)] 6点(2024-12-20 17:10:28) |
4. ルックバック
《ネタバレ》 原作未読。すみません、完全に舐めていた案件でした。巷の話題も聞いてはいましたが、60分の中編でどんなものだろうかと思っているうちに結局は配信で見られることに。 何かをあきらめようとしたけど、でもやめられず、決定的な断絶があっても、それでも続けてしまう。分野やレベルの違いはあれ、誰もが思い当たるフシのあることが凝縮された60分でした。原作も読んでいないし、原作者のこともよく知らないのですが、登場人物たちの一つ一つの動きがぜんぶ心に刺さる。京本との出会いの後、田んぼを駆ける藤野のシーンはもちろん、劇中なんども登場するマンガを書き続ける藤野の背中を映す場面が、今も心のなかに蘇り、思い出すたびにちょっとウルッときます。とくに、冒頭の四コママンガを書くところ。そのあとの「簡単だ」とうそぶく小学4年生の藤野とセットで、それだけでなんかグッときちゃう。そして、中盤以降に起きる悲劇。予備知識完全にゼロだったので、あまりの急展開にかなりの衝撃でした。藤野と同様に動揺する自分の心にどうやって向き合ったらいいかわからないでいると、少しずつ語られるもうひとつの過去と未来。そして、それでも変えられない/変わらない「いま」。まだその解釈は定まらず、心は揺れていますが、揺れていること自体を抱えて前を向け、という物語の結末だと受け取りました。 ただ、他の方も書いているけど、音楽がなー。最初のうちはよかったと思うのですが、感情移入しちゃうと今度は逆にうるさく感じる場面も。音楽と動く絵の総合芸術としてアニメ映画をとらえるならば、序盤は完璧だったけど、終盤はもっと静かなほうが、観客もまた藤野と京本と、そして自分のなかの「やめられないもの」と向き合う時間ができたのではないのかなと思う。ラストの書き続ける藤野のシーン、そして貼られている四コママンガは、「やめられないもの」を抱えてしまったすべての人への見事なエールです。楽しいことだけでなく、苦しいこと、辛いこと、見たくなかったこと、モヤモヤすることもまるごと抱えて生きていけ。それを語るに全く過不足のない60分であったと思います。 [インターネット(邦画)] 9点(2024-12-13 17:13:50)(良:1票) |
5. ゆとりですがなにか インターナショナル
《ネタバレ》 配信で連続ドラマにはまり、その後のスペシャルドラマを経て、映画版までたどりつきました。ドラマ放映時の2016年には「有望若手」だった出演陣も、今やほぼ全員が主演級でしかも演技派ぞろい(ドラマ版で濃いめの脇役だった北村匠海さんが一瞬だけでも出てくれたら最高でしたが)。そのキャストのみなさんがクドカン脚本をテンション高めに演じているのを見るだけで楽しい。「インターナショナル」という副題で危惧していた、ドラマ映画版にありがちな海外ロケなどのこっちが求めていない「豪華さ」を追及する方向にいかなくて、これもひと安心。それでいて、Z世代やリモートワークなどのコロナ禍以降の社会の変化も盛り込み、ちゃんと「インターナショナル」な物語になっているのはさすがです。柳楽優弥さんの中国配信キャラは(ちょっとくどいけど)インパクト大。新キャラでは木南晴夏さん演じる韓国人上司「チェ・シネ」さんが最高で、異文化コメディとしても楽しい上に、多言語エリートの苦悩やセクハラ問題をドラマチックに入れ込んでくるあたりには感心しました。 ただ、やっぱりドラマ版があっての映画であることは確か。基本的には「あのキャラたちにもう一度会える」がコンセプトの作品なので、2時間の映画として考えると物語の流れもバランスもよくない。これはドラマ版でもそうだったのだけれど、実は「ゆとり世代」というテーマはほとんど物語に関係なくなってしまっていて、「これだからゆとりは」という台詞を入れ込む程度。それから今年のドラマ『不適切にもほどがある』でも話題になった、クドカンの近過去への懐古趣味と現代の社会課題へのシニカルな視線はこの作品にも反映されていています。ただ、LGBTQをめぐるエピソードは、子ども世代の性的アイデンティティという論争的なテーマに突っ込んでいく割には表層的に取り上げるだけで、正直「こんなかたちだったら取り上げない方がよかったのでは?」と思ってしまった。「ゆとりモンスター」山岸(仲野太賀さんも最高)の部下にあたる「Z世代」についてはほとんど回収されないまま、ほぼステレオタイプ描写だけで終わってしまったのも気になる。結果的に「ゆとり以降」への描き方は「シニカルな揶揄や突っ込み」に終始して、物語としての広がりを欠いた印象を与えてしまったのは残念でした。ラストでは「つづく」とあったけど、また同じような話になるんだったら、映画じゃなくてドラマで十分じゃないかな(それじゃ出演料回収できないかな・・・)。 [インターネット(邦画)] 5点(2024-12-12 07:04:34) |
6. 本心
《ネタバレ》 原作既読。近未来の社会、主人公の朔也はVRを用いて他人のやりたいことを代行するリアル・アバター。そして亡くなった母親が、尊厳死のような「自由死」を希望していたことを知り、その真意を確かめるために母親のヴァーチャル・フィギュア(VF)を作り、母親の友人で高校時代の同級生にも似た女性・三好と同居をはじめる・・・。と、ここまででも物語要素が渋滞気味なのに、これに格差社会、差別と暴力、ネット社会、闇バイト問題、そしてIT長者の若者のエピソードも盛り込まれるって、どう考えても1本の映画にすることには無理がある。原作ではさらに、父親をめぐるあれこれやら、外国人との共生の話まで絡んでくる。ここからもわかるように、この原作は人物を掘り下げるよりは、現代の多面的にならざるをえない人間性と、そんな人間たちが社会のなかで絡まりぶつかり合うなかに見え隠れするアイデンティティ(=本心)をめぐる話であると思う(これは「分人主義」を掲げる原作者・平野啓一郎さんの長年のモチーフだ)。 という前提をもって考えれば、この無茶苦茶な設定と物語を、朔也という若者が「自分」を見出していく物語を軸として、それなりに整理されていたことには驚いた。朔也・三好・母親との関係性のなかで見えてくる、それぞれの「別の顔」をめぐる物語を中心に置きつつ、スパイスとして平野さんが得意とする社会問題を入れ込んでくるので、そこまで軸がぶれることはない。ただ、原作でも微妙だった「イフィー」のエピソードはやっぱり面白くない。せめて朔也・三好・イフィーの3人の生き方の違いをもう少しコントラストをもって描ければよかったと思うけど、そこもあんまり突っ込まないまま、ただ三角関係の話に持って行ってしまって、終盤でトーンダウンしてしまったのは残念。それを持ち直したのは、ラストの母親との会話。田中裕子さんが本当に素晴らしかった。あと、朔也が悪質な客に苦しめられてからのコインランドリーまでのシーンは異様に細かく描き込まれ、淡々とスピーディに進んでいく物語のなかで、ここだけ石井裕也監督っぽい個性が出ててちょっと苦笑い。 まとまってるかといえば微妙ですけど、演技派の若手俳優の競演も楽しく、あの無茶な原作をよくこれだけ見られる一本の映画に仕上げたものです。 [映画館(邦画)] 6点(2024-11-21 18:35:20) |
7. 侍タイムスリッパー
《ネタバレ》 平日昼間の回でしたが、映画館内は中高年の先輩方を中心になかなかの入り。映画がはじまると、結構序盤から周りの方々が笑う笑う。どうやらリピート組もいるみたいで、笑い声が若干フライング気味に入ってきて、自分の「笑い」のタイミングを外されるのが、とくに序盤は大きなノイズでした。ペースを乱されて、だんだん「これ、そんなに面白いか?」と若干不機嫌な感じで序盤が過ぎていく。劇場の雰囲気だけでなく、現代であれば銃刀法違反で一発アウトな「真剣」持ち歩いて大丈夫なのかとヒヤヒヤしてるのに、そこがあまり掘り下げられないことにも、なんだかモヤモヤし続けてました。 ただ、斬られ役に弟子入りする中盤からだんだん物語に引き込まれ、大スター風見恭一郎の「正体」がわかるころにはすっかり入り込んでました。ここから会津藩の悲劇をしっかり物語に組み込み、序盤からどうしても疑問だった「真剣」問題が、思いもよらぬかたちでクライマックスへとつながっていく。序盤の大小の違和感を終盤の物語に深みを与える要素として回収する、見事な脚本でした。最後に福本清三さんに捧げられているところなど、そこまで時代劇を見ない自分でも胸熱。そして、最後のクレジットでは、監督が何役もこなしているのにも驚きましたが、ヒロイン役の沙倉ゆうのさんが、本当に「助監督」してたことにもびっくり! 自主製作のスピリット、日本映画の歴史、そして日本の歴史を重ねた見事な一作でした。 というわけで十分に楽しんだのですが、難点はやはり長かったことか。とくに序盤の少しのんびりした展開。そして、主人公がどうやってタイムトラベルを受け入れるのかは、この手の映画では腕の見せ所だと思うのですが、本作では博物館のポスターを見て(しかもアラビア数字や平仮名読めるのか?)というのは、前評判で膨らんだ期待値を萎ませ、周りの観客とのギャップを大きくしたのもたしか。設定上の要の部分があまり練り込まれないまま、新喜劇的なベタ展開が続くのは少々苦痛でした(周りはそこも結構笑ってましたが)。全体をスマートにしちゃったら、この映画らしさが失われてしまうのかもしれませんが、映画としての「入り」の部分がもう少しうまくいけば、後半の脚本の妙ももっと活かされたのではないのかなと思います。 [映画館(邦画)] 7点(2024-10-18 23:16:43)(良:1票) |
8. 罪の声
《ネタバレ》 原作既読。『ラストマイル』を見て野木亜紀子さん脚本を過去作をさかのぼっていて、今作は未見だったことに気づいて鑑賞。映画として、とてもよかった。 主役の小栗旬と星野源の2人はもちろん、脇で出てくる人たちがいちいち絶妙。回想シーンの女の人たちがちょっと現代的でキレイすぎる(若い日の母とか、望ちゃんとか)のは少し気になるも、おじさん、おばさんたちはみな素晴らしかった。中盤までは阿久津と俊也のそれぞれの調査が並行して描かれる上に情報量も多いので、ちょっとついて行けない感じだったのですが、二人が合流した後は物語が一本化して、感情移入できました。とくに合流後の2人が少しずつ交流を深める様子など、一つ一つのシーンが丁寧に作られていて好感が持てました。原作では大半を別々に行動する阿久津と俊也の物語をバディものにしたのは大正解。野木さんの得意分野に引き込んで物語が活気づいただけでなく、「真犯人」と母親の告白を重ねることで終盤がエモーショナルになりました。ラストがちょっとだけ違っていて、原作と比べて二人がもう一歩近づいているののもとてもよかった。 難点は、原作自体の難点でもあるのですが、冒頭のイギリス人女性の「中国人は知らない」の真意が簡単にピンと来てしまうこと、そして、事件に関わった子どもたちのその後があまりに違い過ぎること。違っていることがドラマになるので、それはそれで仕方がないのですが、事件の主軸となったもう一方の家族が犯人グループからまったくノータッチでいられたのがどうしても都合良すぎに思えてしまう(このあたり、総一郎に感情移入しすぎているのかもしれませんが)。あと、これは映画館で見なかった自分が悪いのですが、テレビ・PCモニターだとどうしても一部の台詞が聞き取りにくい。ヘッドフォン使用か、(可能であれば)字幕表示がおすすめかも。 [インターネット(邦画)] 7点(2024-09-18 08:45:51) |
9. ラストマイル
《ネタバレ》 『アンナチュラル』『MIU』はじめ、野木亜紀子さん脚本のドラマはだいたい履修済み。こうゆう「お祭り」っぽい企画はいろいろ中途半端で残念な出来になることが多いので、期待よりも不安のほうが大きいものの、せっかくなので映画館へ。平日昼間だけど大学生くらいの若い人も多くて活気がある劇場内は久しぶり。みんなが楽しそうにポップコーン食べながら映画始まるのを待つのを見るだけで、ちょっと幸せな気分に。 肝心の本編は、序盤はうーん、不安が的中という感じ。(野木さんが今回チャレンジしてると思われる)問題の根っこがなかなか見えないまま、やや中途半端で類型的な群像劇が続く。誰にも感情移入できないまま、「ヤマサキ」の存在から事件の真相がちらちらと見えてきても、今ひとつ盛り上がらない。その原因の一つは「爆発」のVFXのしょぼさにあったように思う。冒頭の炎から、どれも音だけでびっくりさせる系で迫力に欠けていて、いまいち事態の緊迫感が上がってこない。低予算の自主製作映画ではなく、大企業が結構な予算をかけて作ってる「映画」であれば、そこはこだわってほしかったと思う。そうでなければ、映画」でやったことの意味が半減。結局は、みんな友情出演で大集合のお祭り「テレビスペシャル」だったのかな、なんて結構な失望感を抱えて見てました。 ただ、後半になってくると野木脚本の切れ味がどんどん鋭くなっていく。あきらかに「ア○ゾン」を思い浮かべる巨大EC企業とそれに依存する物流産業の構造。コロナ禍以来、あきらかに増えた軽ワゴンの配送業者の背景にどんな物語があるのか。あの巨大倉庫のなかで何が起きているのか。格差社会の現実とそのなかでの「勝ち組」も「負け組」も誰もが直面するメンタルヘルスの危機まで盛り込みながら、ECが煽る欲望資本主義への批判と「そのなかで」一体私たちに何ができるのかを描く展開には感心することしきり。そして、最後に娘ちゃんがお母さんに贈ったものには、いまを生きるすべての人にとって最も重要なことーー「ぐっすりと眠ること」ーーが示唆されてて、さすがの野木脚本、恐れ入りました。 というわけで物語には十分満足したし、エンタメとメッセージのバランスは相変わらず素晴らしく、これをたくさんの老若男女が見ること自体、すばらしいと思うものの、テレビ的な平板な演出を映画館の大画面で見続けるのはやや辛かった。加えて、「爆弾」そのものの迫力不足なども最後まで解消されず、不満の残る一作でした。 [映画館(邦画)] 6点(2024-09-11 16:39:04) |
10. そして僕は途方に暮れる
《ネタバレ》 予備知識ゼロで見始めたので、大澤誉志幸さんの名曲「そして僕は途方に暮れる」のイメージとはほど遠い「ダメ人間」物語に大きく戸惑ってしまいました。名曲モチーフの映画にありがちな、ノスタルジーの欠片もないのは、ある意味潔い。 ジャニーズ出身の藤ヶ谷太輔さんには全く演技派のイメージはなかったので、周りが「イラッ」としはじめているのにそれに全く気づかないどころか、イライラを加速させるだけの表情・態度・佇まいの表現が絶妙で、もう俳優自身がダメ人間にしか見えないのも凄いことだと思います。一方で、彼の周りには個性的な演技をする役者さんが揃っているので、その演技合戦も見るのは楽しい。とくに、毎熊克哉さんとか野村周平さんとか本当に楽しそうだし、トヨエツさんと原田美枝子さんはさすがの存在感でした。久々の香里奈さんのキレっぷりもよい。 ただ、物語のパターン自体が見えてくると、物語的な推進力が弱くてちょい退屈な感じも。ちょっとだけ「いい雰囲気」にはなるけれども、主人公が決定的に変わるわけでもなく、むしろ状況はもっと悪くなり、かなり突き放したところで映画自体は終わってしまう。その感じが、三浦大輔監督らしいなあとは思いつつも、全体的には気持ちの置きどころがわからないまま、その斜め上を行くキャラクターと物語に、終始戸惑った鑑賞経験でした。 [インターネット(邦画)] 5点(2024-07-14 17:06:13)(良:1票) |
11. シティーハンター(2024)
《ネタバレ》 本作品については、コミックス原理主義者です。アニメも若干の違和感もって見てたタイプ(アニメでは再現できない絵もあったのでしょうがないのですが)。そんな私にとっても、鈴木亮平さんの遼と森田望智さんの香のコンビはこれ以上ありえないくらいベストな実写化だったと思います。どう考えてもリスクのほうが大きい実写化プロジェクトだったと思いますが、期待以上のクオリティでやり切ったと思います。現在の新宿を背景に動きまわる遼と香の姿を見ることができただけで、大成功といえるでしょう。とくに、本作の最後の最後に、遼と香が互いをはじめて「リョウ」「カオリ」と呼んだところでのあの曲という流れは感涙もの。これを成し遂げた俳優陣・制作陣に最大限のリスペクト! ただ、「エンジェル・ダスト」と「ユニオン・テオーペ」の話は原作でも物語全体を貫くストーリーではあるのだけれど、終盤の合理性を感じない殺戮ぶりなど、リアリティ・ラインのバランスがさすがにおかしい。そして、国際配信を意識してのことだとは思うのですが、新宿歌舞伎町の描写はBGMも含めて、HBOの『TOKYO VICE』風の「異世界」っぽさが目立ち、北条司先生の世界観にはあまり合ってないような気がする。遼の「ホーム」である新宿は、本作のもう一つの主役なわけで、そっちの再現度のほうはいまひとつ残念。 あと、舞台設定が現代になっているのでしょうがないのですが、槇村が私よりはるかに年下だったことにショック・・・。 [インターネット(邦画)] 6点(2024-05-25 09:00:01)(良:1票) |
12. Winny
《ネタバレ》 裁判ものとして議論の場面には引き込まれるし、その背後にあった人間ドラマも丁寧に描いてあったと思う。それでも、やっぱり本作のアプローチはいろいろ残念でした。 自分もWinny事件は同時代の出来事として経験してました(Mac使用者だったので、Win中心のWinny現象自体は横目で見てましたが)。その視点から見てみると、あの時代の空気感のようなものを本作が掴み損ねているように思える。この事件の少し前、同じP2P技術を用いた音楽ファイル交換ソフトのNapsterが、文字通りの「革命」を起こそうとしていた。Napsterもまた裁判で負けてビジネスとしては失敗したものの、CDというモノを売る音楽ビジネスのモデルの限界が示唆されるようになり、いまの配信やサブスクで音楽を聴くモデルへの一大転換点となりました(その渦中、日本では音質に問題があるコピーコントロールCD(CCCD)という珍品まで出現しました)。その時代の波のなかに、Winny事件もあったはずです。Winny事件を起こしたのは時代の変化に対する人々の不安でした。金子勇氏は、既得権益を守りたい「業界」と新たなネット社会への不安のスケープゴートとして、拘留され、法廷に立たされ、開発者としての、そして自身の身体的な生命も絶たれたのだと思っています。 CD販売店やビデオレンタル店が街から姿を消し、サブスクで映画や音楽を楽しむのが当たり前になった今の時代にWinny事件を描くのであれば、その時代の空気をどれだけ描けるかが焦点になったはずです。しかし、本作では、なぜ警察があれだけ金子氏を立件しようと躍起になったのかという問いも、警察の隠ぺい体質や自白強要といった昔ながらの捜査・立件手法の問題として描くのみで、まったくその時代の不安を描けていない。また、皆川猿時さんが演じる旧世代と、三浦貴大さん演じる新世代の弁護士のあいだの溝は、弁護団のなかにも、金子氏がやっていること、そして金子氏という人物を本当に信じていいのかをめぐる、もっと根源的な対立として描けた筈なのに、残念ながら単なる世代間の温度差として処理されてしまう。金子氏が起こした「革命」は、彼を陥れたい警察側のストーリーとしてのみ存在し、弁護側視点(そして本作の製作者も)からは開発者のオタク的な「純粋さ」の物語に収束してしまう。 しかも警察司法の問題を描きたかったのであれば、焦点は最終的に無罪を勝ち取った最高裁判決になるはずなのに、それは最後に字幕で知らされるだけで、法的にもこの事件の何が問題だったのかもわからない。愛媛県警のエピソードも、Winny事件を描くために絶対に必要なものだったのか、よくわからない(Winnyはいい側面もあるとか、警察にとって都合が悪いから目の敵にされたとか? どっちにしても表面的な矮小化だ)。90年代生まれの若い松本優作監督がこの映画に託したかったメッセージがなんだったのか、どうにもよくわからなかった。 [インターネット(邦画)] 4点(2024-05-19 10:20:45) |
13. 悪は存在しない
《ネタバレ》 序盤のゆったりした生活描写は正直退屈で睡魔に襲われ「これはハズレだったか」と思ったのですが、グランピング開発の説明会の場面から俄然面白くなりました。「開発者対ジモト」をそれぞれの視点から描くのかな、と思っていたら終盤に物語も表現も一気に抽象度がアップ。「バランスを取ること」や「自然との共生」みたいな語りにビシャッと冷や水を浴びせるような展開にポカーンとするしかない。終幕して場内が明るくなると、ほぼ満席だった観客のみなさんもみんな「え、いま私たち、何を見せられた?!」という表情。その表情を共有できただけでも、映画館でみてよかった〜と思った経験でした。 終わってから振り返ってみれば、序盤からずーーーっと劇中を満たしていた不穏な空気や破綻の予感。濱口作品に共通する登場人物の「作り物」感。素朴で信頼おけるジモトの便利屋が抱える決定的な欠落。東京から来た2人、そしてその2人の立場を相対化する社長とコンサルという凡庸と煩悩の塊のほうに気が取られているあいだに、「自然と共生してる」風の地元民たちが背負ってしまった原罪の数々が浮かび上がる。その結果、村落そのものが侵略者であったことが象徴的に示されたのだと思うけれど、映画タイトルとラスト数分の解釈はいまもぐるぐると頭のなかを回ってる。ただ、その不可解さは決して不愉快なものではなく、日々を生きることを違った角度から考えるような知的なエンタメという感じでした。 [映画館(邦画)] 8点(2024-05-18 08:17:38) |
14. ゴジラ-1.0
《ネタバレ》 アカデミー賞効果で平日朝9時上映の回なのに劇場はほぼ満員。観客も春休み中の学生さんたちからシニアまで幅広い。公開半年過ぎても熱気というか活気がある映画館というのはやっぱりいい。 そして、それなりに日本映画を見てきた自分としては、オスカー受賞の特殊効果はやっぱり映画館で見て良かった。冒頭のジュラシック・パークもどきに「大丈夫か?」と心配になるも、巨大化した後の「見上げるショット」がものすごく効果的で、そして満を持しての「熱線」炸裂、そしてその爆風。かつて何度「ハリウッド顔負け」といううたい文句の日本製VFXにがっかりさせられてきたか。それが、今回はなんとオスカー視覚効果賞ですよ。なんと痛快なことか。 ただ、懸念だったドラマ部分はやっぱり自分はダメでした。「しゃべりすぎ」は山崎監督作品なので、やっぱりといったところでしたが、今作の主要人物「死ななさすぎ」はかなり気になりました。「生きろ」が本作のメッセージなんだとしても、「生きろ」と願った人は「死なない」というのは本末転倒というか。人ってほんとうに簡単に死んじゃうんです。びっくりするくらい簡単に。それを学んだのが戦時中の日本だったと思うし、震災を何度も経験した今の日本もそうでしょう。なのに、今作の主要人物は「死なない」。島で海で目の前でゴジラに遭遇しても、電車で宙づりになって落下しても、爆風に吹き飛ばされても、放射能を大量に浴びても、死なない。死ぬのは名無しのモブキャラばっかり。そんな設定のなかで「生きろ」って言われたって・・・・。主人公もその仲間もモブキャラも、みんな等しく生きて死ぬんです。その緊張感を欠いたまま、言葉ばかりが上滑りのまま語られる「命」の物語のどこに感動しろというのか。 あと連合軍占領期という時代設定がまったく生きていないのが残念。「国家主権がない」ってどういうことか。じゃあ「民間でやればいい」という単純な話ではないはず。でも「核」に頼らない「わだつみ」作戦のアイデアは評価したい。 [映画館(邦画)] 4点(2024-03-19 16:38:13)(良:1票) |
15. ウェディング・ハイ
《ネタバレ》 こうゆう「悪人」がいないコメディは好きなので、しっかり楽しめました。結婚式あるある、自分はもう20年近く前の話になりますが、それでも思い出して微笑ましい気分になったり。フツーの人びとが非日常で輝く瞬間の楽しさというか、一緒に式に出て「あー、いい式だったね」と感想言い合っている気分になるだけでも、この映画としては大成功でしょう。篠原さんはいつもの篠原さんですが、脇で輝く臼田さん、自意識過剰ぶりが笑える中尾君など、キャスティングもいい。いままで苦手だと思っていた中村倫也さん・関水渚さんのカップルも、この作品では二人の魅力が見事に表現できていたと思います。このあたりは、大九明子監督の演出力でしょうね。 去年『ブラッシュアップ・ライフ』にはまって期待していたバカリズムさんの脚本はいまいち。「縄抜け」をやりたがる義理の兄と「投げ縄」が特技というバーテン、というあまりにも不自然な設定は、きっと伏線として回収されるんだろうなあと思ったら、やっぱり。これは伏線の張り方が不自然過ぎて、逆に興ざめでした。最後30分を岩田さんのパートにする構成も、『カメラを止めるな』的なカタルシスを期待したのかもしれないけど、「結婚式」という本作のテーマからすると逆効果だったような。やっぱり式が終わってよかったねー、お疲れー、幸せにねーという流れが途切れてしまったのが残念。しかも、その30分も基本は下ネタだし、これもカキの伏線がわかりやすすぎて・・・。このあたりのさじ加減は難しい。 [インターネット(邦画)] 5点(2024-03-02 08:59:48) |
16. 愛なのに
《ネタバレ》 今泉脚本らしい、書店主と女子高生の微笑ましいやりとりでほのぼの進んでいくのかと思いきや、当然放り込まれる城定印の大人男女の激しい濡れ場。このなんともアンバランスな構成が妙にはまっている。そして、結婚直前のカップルが抱えていた問題の、まさかまさかの真相には大爆笑。とくに終盤、中島歩さんと向里祐香さんの情事の後の会話のなんともいえないユーモア。適度にエッチ(死語)でクスクス笑えて、少しほっこりする。いろいろ見れば「7点」くらいの映画ではあるのだけれども、そうであること自体を愛したくなる小品。世界も世間も重苦しい昨今だからこそ、この映画の軽さは自分にとっての「救い」でした。 [インターネット(邦画)] 7点(2024-01-25 20:27:59) |
17. すばらしき世界
《ネタバレ》 これぞ西川映画と呼べるような、ソリッドだけども多面的な描写が続く。序盤は、役所広司さん演じる三上の社会復帰への奮闘をコメディタッチの描写も含めて描く。下の階のチンピラとの喧嘩やら自動車教習所での悪戦苦闘にはブラックユーモアもたっぷりで苦笑いしながら見てきたのだけれど、後半のあの暴力沙汰から物語がピリリと引き締まり、そもそも「社会復帰とは何か」「まっとうに生きるとは何か」という深みに達していく構成は本当に見事。そのなかで、出てくる登場人物もくせ者ぞろい。身元引き受け人の弁護士夫婦、取材するテレビ局ディレクター、市役所のケースワーカー、スーパーの店主、そして元暴力団の兄貴分まで、みんな「いい人」ではあるんだけれど、でもそれぞれが必死で「まっとうに」生きるためにどこかで三上を突き放している部分を持ってる。「善良」であっても、それぞれの自分勝手な言い分やら事情のうえのことなので、タイミングが悪ければ容易に三上の「敵」にもなるだろうという、そういう危うさを常に感じるのはいい。「無償の善意」などありえないのだ。このあたりの突き放した世界観があるからこそ、一瞬心が通ったと思える瞬間が美しく「すばらしい」。ただ、本作が凄いのは、その「善意の助言」が最後は三村を追い詰めてしまうことだ。その先にあった死は、悲劇というべきなのかどうかはわからないけれど、この「すばらしき世界」の苦みを十分に描いてくれたことは間違いないと思います。余計な部分をそぎ落とした久々の西川節を堪能しました。 [インターネット(邦画)] 8点(2024-01-06 09:36:13) |
18. 台風クラブ
《ネタバレ》 今だったら「コンプライアンス」的にはヤバい描写が満載で、正直「引いて」しまう部分もあるのだけれど、1980年代に中学生だった自分としては、その時代・年代の「危うさ」の表現に唸るしかない。冒頭のプールでの「イジメ」にしか見えないシーンやら職員室で女子生徒が襲撃されるシーンは今の感覚ではかなり見るのが辛いし、あれを「ノスタルジック」に「あんな無茶なことしたよな」と見る人とは、たとえ同世代でもたぶん友達にはなれないと思う。ただそんな嫌悪感を抱きながらも、この映画からはどうにも目を離せない。 どっちかというと、自分としては、できたらもう二度と戻りたいとは思わない中学生の感覚を、ここまで生々しく詰め込んだ映画はなかったように思う。人間として自分がどうなってしまうのかわからない、明日になったら「普通」でいられるかどうかわからない(だからベタ歌謡曲の「もしも明日が」の選曲には恐ろしさすら感じる)、そういう危うい感覚に満ち満ちている。なのに、周囲の「大人」はなんの助けにもならないどころか、問題の根っこになるような存在。そんな状況を、一人「真面目に」観察していた三上君の最期。長尺での椅子を積み上げるシーンから中二病爆発の台詞の後の「アレ」は、「個だ、種だ」なんて大きなことを言ってみたり、大人たちに「お前のようにはならない」と宣言してみたところで、その顛末は喜劇にしかならない、という大人なメッセージにも見える。自分の思い出したくない部分をえぐられるような2時間。嫌いだけど目が離せない。やっぱり傑作なんだと思う。 [インターネット(邦画)] 8点(2023-11-02 07:10:59) |
19. Arc アーク
《ネタバレ》 これはなんとも評価に困る作品。そもそも、題材というかテーマが難しすぎたのかもしれない。ケン・リュウ原作で不老不死を扱っているとはいえ石川慶監督の作品でもあるので主体は人間ドラマなのだろうなと思ってたのですが、ドラマ主体にするには時間が足りず、個々のエピソードがどうしても描き込み不足だったのかも。内容的には1時間×5話くらいのミニシリーズ向けだったのかもしれません。ストーリーも、石川監督の『愚行録』や『ある男』を思いおこせば、もっともっと不穏な話を予想しました(とくに序盤)が、思った以上にシンプルかつさわやか風味に仕上がってて、そっちはちょっと思ってたのと違ってたかな、という感じ。でも、考えようによっては、終盤の展開、とくに小林薫さんの最期は、実はめちゃくちゃ残酷な話でもあって、それをさらっとナレーションですましてしまう監督の非情さにちょっと感心しました(だって、あれってリナに言われたからでしょ。最後まで最低の母親だったということでもある)。 外見は変わらないのにどんどん歳を取ってるはずのリナ役の芳根京子さんはがんばっていたのでは。もっと技巧的な俳優さんなら、老齢感みたいなのを入れてこようとすると思うけど、今作のように非現実的な浮遊感で表現するのもアリでしょう。むしろ難点は、そのほかのキャスティング。「怪しいスゴイ人」枠の寺島しのぶさんと岡田将生さん、「(過去になにかあるっぽい)いい人枠」に風吹ジュンさんと小林薫さんなどは、全員キャラがステレオタイプ過ぎてどれも掘り下げ不足。そして、ストーリーの肝になるリナの「過去」の話は、老人ホームの話が出てきた時点で先が読めてしまうので物語的なカタルシスも弱い。ドラマ的な見所も、芳根さんが浮遊する周りで、ステレオタイプなキャラたちがいつもの話を繰り返しているだけなので、どうしても物足りなさが残ってしまう。ただ、全体のパッケージとしては、石川監督らしい奥行きと質感のある映像(ただ90歳パートをモノクロにした意図はちょっとわかりにくかった)、終盤の瀬戸内と思われるロケーションの素晴らしさ、邪魔にならないけどちゃんとドラマをつくる音楽、オリジナリティのある美術など、ちゃんとワンランク上の映画を感じさせてくれる出来でした。結論としては、この話を2時間におさめるにはこのくらいが落とし所だったのかな、けどもう少し人間関係を描き込んだものも見たかったかな、というところ。 [インターネット(邦画)] 6点(2023-10-30 07:11:51) |
20. ファミリア
《ネタバレ》 在日ブラジル人の若者が直面する問題を正面から扱ったものとしては、おそらくはじめてのメジャーな映画作品ということで期待していただけれど、実際には失望のほうが多い内容でした。この作品の残念な点は、不必要なセンセーショナリズム。ブラジル人の若者を追いかけ回す日本人ギャングの暴力もアルジェリアのテロ占拠事件も、本作のテーマを語る上で絶対に必要だったのか、製作者は自問してほしい。むしろ、日本の外国ルーツの若者が直面するのは、そんな極端でベタな暴力ではなく、ほんとうにちょっとした些細なことで、あるいは時代の変化によって、突然に生きる基盤を簡単に失ってしまう可能性があること。それは、リーマンショックのときに多くのブラジル人労働者が経験したことであり、近いテーマを扱った傑作『マイスモールランド』で主人公家族が陥った苦難だってそうだ。近年注目されたウィシュマさんの死亡事件だってそう。その「脆弱性」を描くうえでは、本作のギャングの暴力もテロもただただ「過剰」で、まるで彼らが私たちの隣人ではなく別世界を生きる人たちであるかのように描かれてしまう。それだけでなく、暴力やテロと「外国人」を結びつける不必要な偏見を増幅させる可能性もある。マルコス役のサガエルカスをはじめ海外ルーツの俳優の起用などは高く評価したいけれど、その意識がなぜ物語・脚本へと結びつかなかったのか。ただ残念。 [インターネット(邦画)] 3点(2023-08-10 22:31:10) |