1. 柳川堀割物語
本作のことは高畑監督のWikipediaを眺めていたときに知った。 本監督の映画は「セロ弾きのゴーシュ」「おもひでぽろぽろ」「火垂るの墓」「平成狸合戦ぽんぽこ」「ホーホケキョ となりの山田くん」「かぐや姫の物語」の六作品しか見たことがなかったが、Wikipediaで見てみると、これが映画については本作を除く全てであった。ゆえにこの作品だけ見ていないという訳にも行かなくなって視聴した。 本作の立ち位置はドキュメンタリー映画と教育的映像作品のちょうど間に位置する。ドキュメンタリー映画にしては言語的な情報量が多く、教育的作品としてはあまりに美意識が高い。 2時間40分もの時間は、ドキュメンタリー映画としても、教育的作品としても長過ぎるが、その濃度は平均的な作品のものとは比べようのないほど濃い。切り替わっていくカットはそれぞれ新しい情報あるいは情景を提示し、この作品がどれだけ時間を惜しまずに制作されたかよく分かる。引き伸ばしての三時間弱ではなく、切り詰めての三時間弱である。1シーズン12話のシリーズものドキュメンタリーを一本に凝縮したものと考えれば、それほど長い時間の作品だと言うことにはならないだろう。 実際的な「掘割」の役割と、歴史・文化的な意味合い、そして生活的な立ち位置、及び美学的な見地、多面的な視点がひとつに統制されていて、見ていて器の大きさ、あるいは懐の深さに感銘を受けた。これほどのスケールのドキュメンタリー作品は見たことがない。小さな街からこのような作品が生まれるということは驚異的である。(ここでいうスケールという言葉の意味は、けしてBBCが見せるような技術的スケールではない。あくまで精神的スケールの話である。) [DVD(邦画)] 10点(2019-05-12 10:02:51) |
2. 万引き家族
《ネタバレ》 家族が借りたのを機に視聴。開始から是枝監督、センスないなと思いながら見ていた。一番つらいのはCMかと思うほどのカットの切り替えテンポの速さ。下品にも程がある。 映像作品としては本監督の過去作通り程度の低いものだが、問題を問いかけるというより露骨に善悪観念を皮肉っている姿勢には好感を持った。 脚本についてはかなり陳腐ではあるものの、良くできていると思う。 [DVD(字幕)] 5点(2019-04-20 18:59:56) |
3. 風立ちぬ(2013)
地上波で流れているのを見かけ、不意に三度目の視聴。 本監督らしいエンターテインメント映画でありながら、質も高い作品だと感心しながら見ていたが、 見ているうちにそのエンターテインメント性が何か別のものに転化していった。 本作で最も批判されているシーンが最も素晴らしいシーンであるのは皮肉である。 生きることの閉塞感、それも、閉じているというよりも、閉じていくというような、たまらなさ。 それが開放されるということもなく、本作は終わっている。 観終えた後、この作品について話そうとしたとき、不意に涙が溢れて止まらなくなった。 生きることについて、タルコフスキーの「サクリファイス」を優れた作品だと考えていたが、 本作のほうがずっと上だと今回考えを改めた。 [地上波(邦画)] 10点(2019-04-13 01:02:19)(良:1票) |
4. あの夏、いちばん静かな海。
《ネタバレ》 良い映画だが、ところどころ拙さが気にかかる。実際、ラストは無意味に唐突で、言葉にしなくても滲む下手な感傷がこの映画を醜くしている。 久石譲の音楽は相変わらず酷い。何の深みもない。余計な音楽さえなければかなりマシになる映画が北野映画には幾つもある。 [DVD(邦画)] 5点(2019-04-02 04:25:29) |
5. 東京物語
日常を描いている風でいて、何もかも胡散臭くて気味が悪い。表面的で本質的ではない。 特に演技が酷い。こんなものを有難がっている者が多数派だと思うと寒気がする。 [DVD(字幕)] 0点(2019-04-01 13:36:07) |
6. 海街diary
構図が酷い。カメラワークが酷い。演技が酷い。セリフが酷い。全体的なテンポが酷い。 映画作品としての質が低い。極めて不自然な積み木だ。 こんな低劣な「コント」で日常感を演出しようとする神経が分からない。 [DVD(邦画)] 0点(2019-04-01 12:53:07) |
7. ナイスの森 The First Contact
《ネタバレ》 極めてナイスな映画だった。細かいことがどうでもよくなるような大らかな映画だった。 くだらないが、全く下品なところがない。あるいは高級ぶっている映画よりも上品だ。 コメディ映画でありながら、媚びていない。それでいて気が抜けている。そしてよく出来ている。 「この類の」映画は大概心を荒ませるが、本作は違う。 所謂「センスが良い」アピールをする下らない映画とも違う。 どこまでが計算で作られているのか分からないが、大人物の作った映画だということが分かる。 バラエティ番組やお笑い番組を見れば分かるように、本来笑いは神経質なものだ。 そして人を表面的に救い、深層で荒ませる。だから芸術は笑いを避ける。 だが、本当に優れたものは、それを牧歌性の中に包み入れる。 映画という虚栄が無事焼却された後でも、このような映画なら本質的なものとして残りうるだろう。 [DVD(字幕)] 9点(2019-04-01 01:03:43) |
8. TAKESHIS’
喉の奥に梅干しの種が詰まっているような気分にさせられる映画。 極めてひとりよがりで、独創性が高いわけでもなく、見る価値はない。 本監督の力量は確かで、この一作でケチをつけられるようなものではないが、本作は人に見せるようなものではない。 [DVD(字幕)] 1点(2019-03-31 01:28:43) |
9. ソナチネ(1993)
《ネタバレ》 二度目の視聴。一度目観た時はかなり気に入ったが、再度視聴してやや意見が変わった。 この作品以前に撮られた「3-4X10月」と比べるとどうも見劣りする。 本作は各シーンの無造作な継ぎ接ぎ感が否めない。 脚本上、物語における起伏は望めないのだから、シーンをもう少し絞って、 もっと腰を据えてどっかり撮ったほうが効果的であったように思う。 [DVD(字幕)] 5点(2019-03-28 22:48:17)(良:1票) |
10. 雨月物語
とんだ通俗映画だ。どうしてこんなものを取り上げて喜ぶんだ。 雨月物語が泣いている。 [DVD(邦画)] 2点(2019-03-25 14:55:56) |
11. 仁義なき戦い
ただのエンターテインメント映画だと思いナメていたが、スケールの大きい映画だった。 日本のゴッドファーザーと言っていい。勿論負けている部分はあるが、勝っている部分もある。 [DVD(字幕)] 6点(2019-03-23 23:20:54) |
12. 座頭市(1989)
いろいろとおかしな映画だ。「スパイダーマン」のようなエンターテインメント作品として見ると、その枠には収まりきらない優れたもののように見えるが、それ以上の作品として見ると、何の中身も無い映画だ。 [DVD(字幕)] 4点(2019-03-22 14:25:38) |
13. 椿三十郎(1962)
用心棒と比べるとひどく幼稚な映画に成り下がってしまった。 [DVD(字幕)] 3点(2019-03-22 13:18:12) |
14. 酔いどれ天使
清々しいほどシンプルかつバッサリと行く映画だった。 志村喬と三船敏郎の出色の演技を見るための素朴な背景である。 [DVD(邦画)] 4点(2019-03-22 12:07:50) |
15. 天国と地獄
《ネタバレ》 浅くないエンターテインメント映画として見事に完成されている映画。 ケチを付けようと思っても付けようがない点で黒澤作品の懐の深さを体現している。 [DVD(邦画)] 6点(2019-03-18 09:01:56)(良:1票) |
16. 菊次郎の夏
《ネタバレ》 ある意味で北野映画を象徴する一作だ。 音楽のダサすぎるほどのダサさを除けば、多少のご都合展開を含めても、この映画の色として受け入れられるもののように思う。 [DVD(邦画)] 5点(2019-03-18 02:30:47) |
17. 茶の味
《ネタバレ》 これまでに私が見た日本映画の中で最高級の出来だった。 映画を観るとき少なからず生じる「息苦しさ」が、この映画においては生じなかった。 コメディーをやるときにも、すこしシリアスなシーンをやるときにも、この映画は常に自然で、心の底にそっと触れるような気の使い方が徹底されていた。 ただし映画の導入部分には、少しやり過ぎているようなシーンが多く、不安定さが感じられた。 [DVD(邦画)] 9点(2019-03-13 01:48:16) |
18. みんな~やってるか!
《ネタバレ》 コメディー映画でありながら、エンターテインメント映画ではないという奇妙な映画。 ある意味で「芸術系映画」と同じように、エンターテインメントを期待する観客には不満だろう。 初めの方では整合性を保ちつつ不条理を描くように進行していくが、途中から構造自体が破綻し始め、何をやっているのか分からなくなる。そうして全体が台無しになっていく構造や、コメディらしくない極めて冷めた雰囲気の自己破壊的な側面に、体験として特有のものがある。 笑える笑えないかという水準で判断される作品でないし、本当に面白いものは笑えない(笑えるものは手加減している)という感触がある。「監督・ばんざい!」よりも作品自体としての質は高い。 世間で言われているような意味合いでの下らない作品ではない。 例えば「その男、凶暴につき」や「座頭市」よりも、この作品からのほうが多くの感銘を受けた。 [DVD(邦画)] 5点(2019-03-13 01:35:47) |
19. その男、凶暴につき
《ネタバレ》 脚本が構造的にしっかりし過ぎているだけ、陳腐だと感じられる。 北野映画の原型としての価値はあるが、作品自体としての価値は"それなり"だ。 エンターテインメント映画としての完成度は高いが、どこかで見たシーンの連続である。 [DVD(邦画)] 4点(2019-03-12 23:30:03) |
20. ゆきゆきて、神軍
《ネタバレ》 私はこの映画からどのような正当な政治的主張も感じなかったし、どのような政治的意見にも誘導されなかった。 私が感じたのは疲労感であり、それは「関係の絶対性」への疲労感であった。 私のような若輩は、吉本隆明という思想家の生み出した「関係の絶対性」という概念を上手く捉えることができていなかった。 この映画を観てそれが予想の範疇を出ないが、掴めたという気がした。 戦争というものの「不可避性」が、どのように人間に付き纏うか。それを、主人公である奥崎謙三にまとわり付かれる人々の中に見た。 私がこの映画につけた点数には何らの讃美も非難も含まれていない。純粋にこの映画から私が勝手に学び取ったものの重さを反映させたものだ。 [DVD(字幕)] 5点(2019-03-12 03:50:23) |