41. カンバセーションズ
《ネタバレ》 結婚式で再会した、かつて愛し合っていた男女の一夜の物語。中年にさしかかった同じ歳の二人、男は浮き名を流し、女は医者と結婚し家庭を築いています。そんな二人が会話の駆け引きをしつつやがて燃え上がり・・・とってもジミで小さい題材なんですが、全編シネスコサイズを左右2画面に分けたままで展開する状態の実験的ワールドでは、俄然面白く映画が弾みます。左右が単に男女を隔てているのではなくて、片方が回想になったり、過去とシンクロしたり、空想画面になったり、時間が前後してたり、パラレルな進行でミスリード誘ったり。これ、どんどんと関係が明らかになってくる進行も含めて、本当は3回見るのが正しい見方かもしれませんね。1度見て全体を俯瞰したら、今度は右画面オンリー、そして左画面オンリーって。最後の最後、2つのフレームがいつの間にやら1つに合わさった瞬間をどう見たらいいのか、あれこれ考えるのも楽しいかも。タイトにまとまった84分ですが、2画面は1画面の数倍雄弁だったりする事に気付かされたのでした。 [映画館(字幕)] 8点(2007-05-26 22:11:16) |
42. Dear フランキー
《ネタバレ》 フランキーが健気で健気で、もう。寡黙な彼の行動ひとつひとつがどんどん愛しくなってゆきます。船の位置を示した地図や、缶の中に仕舞われた宝物、部屋に飾られた魚の絵。どれもフランキーって少年の心を映して切なくて愛らしくて。血の繋がりや家族である事が、必ずしも大切ではなくて、他人であっても信頼できる人物であるならば、それがいちばんという、脱家族な映画でした。イギリス映画らしい、根っからのいい人達によって、心を閉ざされた母子が新しい人間関係を築きあげてゆく物語は、都合のいい展開という気もしますが(本当のお父さんが、もし元気に追いかけてきてたら、もっとドロドロとした生臭い物語になったでしょうし)、これまたイギリス映画らしい抑制された表現によって、決してウソくさい怒涛のハッピーエンドに雪崩れ込む事もなく、幸せを予感させる程度に収まっているので好感が持てました。フランキーの二人の友達がちぃともキーになって来ないあたり(どちらかと言うと余計な事する、障害となる存在だぁ)は期待をスカされた気もしますし、引越し後の生活や人間関係があれよあれよと確立していってしまうあたり、ちょっと簡単過ぎないか?とも思いますけど、まあ、フランキーとお母さんの幸せが何よりですね。 [DVD(字幕)] 8点(2006-07-07 01:10:38) |
43. ウォレスとグルミット/野菜畑で大ピンチ!
《ネタバレ》 うーん。満足したんですが、傑作だったんですが、見終わってどうも100%手放しでは喜べない感じがしました。あえて苦言をば少々。まず、後半からクライマックスにかけて、グルミットが主役でウォレスが不在?と言えるような状態なのが・・・。ウォレスは物語半ばで存在がボヤけてしまい、グルミットの孤軍奮闘状態。毎度のコンビネーションは前半に集約されていましたが、やはりそれはクライマックスで見たかったです。それから、長編とした事で間延びした、とは思いませんけれど、もしドリームワークスブランドをぶら下げていなければ、多分50分でまとまっていたであろうカンジ。「短編ながらもの凄く密度の濃い作品」であったこれまでから、単に「密度の濃い作品」になりました、みたいな。そして、映像作成でのデジタルの導入。面白ければ、これまでのイメージを崩さなければ、素材なんて関係ない、そう割り切りたいところなのですが、明らかにクレイアニメ、ストップモーションアニメでは描けない事がハッキリ判る映像が出てくると、あー、なんだかハリウッドナイズされちゃったワケねぇ、なんて。これまでせっかくクレイアニメの常識を覆したような技術を見せてたシリーズなのに、デジタル導入しちゃったら、そりゃなんでもアリでしょう、って思っちゃいますからねぇ。それでも、こうして新作が見られた事はとっても幸せですし、やっぱりキャラがみんなキュートで。あの、スチールじゃブサイクなだけで可愛くもなーんともないウサギ達が、映画の中ではめっちゃくちゃキュート! アードマンって毎回、動きのセンスが最高で、ヘンなデザインのキャラを本当に魅力的に見せてくれます。存分に笑って泣けて、何はともあれ、家族揃って楽しめる、安心してお薦めできる作品です(ほんのちょっぴりだけアダルトなニオイがない事もないですが)。あと最大の問題は次回作まで一体何年待つのか?って事ですね。 [映画館(字幕)] 8点(2006-03-20 21:16:09)(良:1票) |
44. チャーリーとチョコレート工場
《ネタバレ》 プレミアには欠かせない叶姉妹のボイン(死語)に圧倒されつつ、いっぱいの芸能人にミーハー心を湧き立てつつ、ジョニデよかティム!と舞台挨拶に燃えつつも、何より原作が小学生時代からのバイブルとなっている私にとっては映画本編こそが重要でした。これが、もう意外なほどに原作に忠実で、子供の頃のわくわくどきどきをきっちりなぞってゆくような感じで、懐かしさや子供の頃に抱いていた思いがバーッと引き出されて、とても冷静には見ていられませんでした。細かい部分の違いはあります。ワンカ氏(とあえて書きたい)のお父さんのエピソードが加えられた事で、ワンカ氏の年齢設定がぐんと若くなって、それってどうなんだろ?と見る前は思っていたのですが、ジョニー・デップの奇怪さと垣間見せるシリアスさの演じ分けは、ワンカ像に更なる深みを与えた感じがあります。ウンパ・ルンパも原作とイメージは違いながら、彼らが歌い踊るシーンでの歌詞が忠実なので物語から剥離している事はありませんでしたし。そして、原作と大きく異なる展開を見せるラストには「どうなっちゃうんだろ?」とハラハラ。ティムらしいラストシーンは、原作に感じる一抹の淋しさを補うものですらありました。全編、ティムの悪趣味一歩手前なセンスと原作の持つ毒のあるイメージとが見事にマッチしていましたし。と、ホメてるワリには点数が上がりきってないのは、やっぱり自分の中に確固たる自分だけの「チョコレート工場の秘密」があるからに他なりません。そして、それを超える事は誰にも不可能だと言う事。だから普段なら本当は9点か10点かもしれませんが、冷静になれないがゆえの8点、ですね。帰りの通路ですぐ後ろから叶姉妹のボイン(死語)に追い立てられて更に冷静になれなかったワケですが。【追記】あ、忘れてました。全国30館くらいで上映中にチョコの香りを漂わせるとの事ですが、犬っ鼻な私からするとプレミアの時のはチョコの香りと言うよりも『タバコチョコから剥がした薄い紙の匂い』でした。 [試写会(字幕)] 8点(2005-09-06 00:33:58) |
45. スパイス・ザ・ムービー
ラジー賞ノミネート作品かぁ。自分の映画を見る目に疑問を抱いたりして。だって楽しかったんだもん、しょーがないじゃんかぁ。ポップでブリティッシュなキュッチュのサイケですよ。アイドル映画としてのベタな言語で語られる映画であると同時に、ビートルズ映画とも通じるブリティッシュな伝統芸も垣間見る事ができます。ホントだよ。ウソじゃないって。クライマックスの二階建てバスの一大VFXを見よ! 『スピード』も真っ青の衝撃シーンなんだから。もう、このVFXだけでも何もかも許せちゃうくらい(もしこれを読んで「どれどれ」とホンキで見た人がいたら、怒らないでね)。バカが高らかにバカを歌い上げる映画なのですから、見てる方もホンキでバカになって向き合えば、脳がトロけそーな快感を味わえる事請け合い。でも、ホントのホントに好きなんですよ。マジで。 [映画館(字幕)] 8点(2004-07-24 03:24:54) |
46. レ・ミゼラブル(1998)
《ネタバレ》 沢山の真面目そーな女性のお客さん達に囲まれた状態で見た事を思い出しました(意外にもめちゃめちゃ混雑していて)。映画の方も、非常に真面目にこの古典的な物語を語ってゆきます。19世紀のフランスの、暗い風景、暗い人々の暮らし。だけど、どんな状況だって笑いが消えちゃってるって事はないんじゃないかなぁ?なんて思いもしましたが。やっぱり印象に残ったのはジャベール。彼は法を守ることだけが信念として貫かれ、そのためには人権も心も踏みにじる人間。そんな彼が、バルジャンの心に触れた時、彼は自ら死を選ぶしかなかった、法を犯してバルジャンを許すことは、彼の人生の否定になっちゃうのだから、だから自分らしくバルジャンを許す方法って、死しかなかったんですね。この物語で、本当に悲しい存在だったのは、バルジャンよりも、ジャベールだったのかも。バルジャンは逃亡しつつも19年の間は幸せな暮らしを送っていたのだし。印象的なベイジル・ポールドゥリスの音楽、確かな美術に彩られた世界は至極端正な作りの、それゆえ受け手も真摯に向き合える映画でした。 [映画館(字幕)] 8点(2004-02-21 20:38:32) |
47. めぐりあう時間たち
3つの時代の3人の女性の物語が交錯する世界には、常に死の匂いが漂っていて、ちょっとした作用で壊れてゆく日常を感じさせます。辛口の、だけど静かに沁みてくる映画でした。ニコール・キッドマン、メリル・ストリープが共にいい演技をしていますけど、私は精神的にグラグラになっている主婦を演じたジュリアン・ムーアの存在感が一番印象に残りました。ただ、頭痛持ちな私は映画館で直前に頭痛薬を飲んだために頭の中がぼわわ~ん、映画は30分くらいで終わってしまった(ちゃんと最初から最後まで見たんですけど)印象で「重なりあう時間たち」状態になっちゃってたんで、再見の必要あり、と思ってます。 [映画館(字幕)] 8点(2004-01-15 11:36:10) |
48. フル・モンティ
《ネタバレ》 ダメな人間が一生懸命な映画って大好きです。金集めのために男性ストリップっていう発想がおバカなんですけれど、あくまで切実で真剣なところが笑いと涙を誘います。実のところ、このエンディングの後も、彼らに必ずしも具体的な希望があるという訳ではないのですが、あくまで前向き。イギリスの風景に溶け込んで、妙に存在感のある男達が、羞恥心や常識の枠と葛藤しながら1つになってゆく姿は、可笑しさと哀しさ、そして温かさに溢れていて、見終わって満ち足りた気分になれました。 [映画館(字幕)] 8点(2003-12-24 00:22:35) |
49. フォロー・ミー
《ネタバレ》 落ち着いた名画座でゆっくりと雰囲気を堪能できた映画でした。最後まで大きな事件は何も起こらない映画なのですが、その何もない感じ、ふわりふわりと流れてゆく感じが心地よく、ミア・ファローとトポルの、個性的になり過ぎてない個性が、この映画にピッタリとはまっています。もし追いかけられるのがアーシア・アルジェントで追いかけるのがハビエル・バルデムだったら全く別の映画になっていたでしょう(最初のレビューではウーピー・ゴールドバーグとスティーブ・ブシェミだったのにね)。 [映画館(字幕)] 8点(2003-12-24 00:03:15) |
50. プラトーン
エリアスとバーンズはメーターの極で、戦場の兵士はその間で振幅を繰り返します。そこにあるのは国の大義でも戦争の意義でもなくて、眼前に存在する死と向かい合う事で丸裸になった心。人間個々人の自我、意識、判断、感覚、そして本能。それぞれがぶつかりあい、こすれあい、共鳴し反発し、狂気という名の遮蔽行為を実行します。戦場では、その異常な状態こそが正常なのかもしれません。生き残る為の正常反応。だから、国家にとって、ではなく個人にとって、戦争は異常、なんじゃないかな、なんて思いました。ちなみにアカデミー音響賞を受賞したこの映画、私は70ミリ版を見たのですが、劇場の再生環境のバランスが悪かったようで、リアが過剰に大鳴りして密林探検アトラクションみたいな音響になっちゃってました。 [映画館(字幕)] 8点(2003-12-23 22:13:17) |
51. 恋におちたシェイクスピア
《ネタバレ》 シェイクスピアをネタにしたコメディ、という印象でした。いかにして彼の作品が生み出されていったかを、結構テキトーな解釈で面白おかしく描き、一方でみんなが困難を乗り越えながら、一つの舞台を作ってゆく群像劇でもあり、よく出来たファンタジーだなぁ、って。黄門様のような、貫禄たっぷりの女王ジュディ・デンチの登場でケリが付くまで、たっぷり映画の面白さを堪能できました。新しい地をぐんぐん進んでゆくグウィネスの姿を見ながら「ああ、創作とはかくも雄弁にして豊潤なり」と満足(大ゲサ)。でも、ちょっと三谷幸喜臭を感じたのは私だけかなぁ。 [映画館(邦画)] 8点(2003-12-03 13:43:35)(良:1票) |
52. エイリアン2
《ネタバレ》 天井のパネル開けたら、そこにエイリアンがうぢゃうぢゃ佃煮状態、っていうのは、大きな石をどけたら、そこに・・・って感じを思わせて「うぎゃ」! さて、この映画は、人権や思想、国家の問題があれこれデリケートな時代に、相手がエイリアンだからこそできる大虐殺アクションの世界。エイリアンに感情移入なんかしてた日にゃ、たまったモンじゃないですけど(平和に暮らしてたら、人間がやってきてメチャクチャにしちゃうんだもの)。ただ、クライマックスの母性同士の激突、というのは、ちょっと「どっちも頑張れ~!」みたいな感じでしたね。そりゃエイリアンママだって怒るわなぁ。メカデザインや荒々しい特撮も良くて、一級の戦争バトル映画でした。個人的には、女性パイロットがカッコ良かったんで、もう少し生かしておいて欲しかったですけど。あと、ジェームズ・ホーナーの音楽、この時はいいんですけど、後の映画も全部この映画のパターン、ってやめてちょーだいな。『タイタニック』見てて、エイリアン出てきそーな感じで仕方なかったです。 [映画館(字幕)] 8点(2003-11-27 20:44:46)(笑:2票) |
53. ウォレスとグルミット、危機一髪!
《ネタバレ》 ミステリアスなスローテンポで始まって、徐々に加速してゆく展開に、こちらも徐々にヒートアップ。グルミットの飛翔、ウォレス&ヒツジのバイク曲乗りあたりで、もう楽しくて涙だーだー出てきました。30分の中に、娯楽映画の要素をぎゅううううっ!と詰め込んで、まるで2時間の大作を見た後のような、「面白いもの見たぁ!」って充実感をしっかり味わわせてくれます。でも、最後に失恋しちゃうウォレス、意外と心の狭い人なのね(いーじゃん、チーズ嫌いでも)。 [映画館(字幕)] 8点(2003-11-23 15:32:18) |
54. ターミネーター
《ネタバレ》 映画を支配する終末感がいいですね。特撮はチャチだし、ストーリーはどんどん先が読めてしまうんですけど、ラスト、どうにもならない絶望に立ち向かってゆくサラの姿が胸に迫ってきます。私としては、ここで終わってくれれば最高だったんですけどねぇ・・・。 [映画館(字幕)] 8点(2003-11-22 14:19:44) |
55. 2001年宇宙の旅
《ネタバレ》 発達した脳によって物を創造する力を得た人類。その人類が作り出した物が、人を越えようとした時、人は新たな進化、次なるステージへ上がる事を強いられるのですね。HALは、人の限界とその次の段階の橋渡し役。人間的な個性を見せるHALと、機械的にも思える、人間的な魅力をまるで見せない登場人物達とは限りなく近い存在になっているのだと思います。そして、もちろん重要なポイント、圧倒的な特殊効果は今でも全く色褪せません。でも、私、この映画を家で見ると、いっつも人類の夜明けの終りあたりで寝ちゃうんですよね~。起きるとスターゲイト。昔、70ミリ版を見られただけで十分満足、と。 [映画館(字幕)] 8点(2003-11-21 22:39:39) |
56. 関心領域
《ネタバレ》 知識を求められる映画で、映像を見て音声を聴いて、そこで何が起きているのか、何故そうなっているのかが知識無しでは何も伝わってこない、それ単体では意味不明な映画ではあるの。ドキュメンタリーのようにただ事象を淡々と描いているばかりで、一部タッチの全く異なった不思議な映像が挿入される部分以外はそれが何を言っているのか説明するように描いてはいないのね。 でも私たちはそれが何か知ってる。その塀の向こうで何が行われていたのか、その会話の中の発明がなんのためか、その会議で語られる数字がなんの事を語っているのか、その毛皮のコートが、歯が、沢山の靴が・・・そして恐怖するの。 その一家の日常は凄まじい異常の中に成立していて、だけどそれを異常だと感じていない、正常だと信じてるのね。それは自分たちとはほぼ無関係なことだから。その日常にちらりちらりと入り込んでくる影をヒステリックに否定し自分の理想から決して外れない妻のかたくなな姿勢は恐ろしく見えながら、でも今の人々の写し鏡でもあって。 現在進行形のイスラエルのパレスチナに対するジェノサイドはナチスの再現のようだしイスラエルに与するアメリカはバイデンを選ぶも地獄、トランプを選ぶも地獄、その二択のみの地獄。裏金をため込む自民党の犯罪者集団を罰せず知らんぷりをし、日本政府も東京都知事も弱者を切り捨て、ネトウヨは差別を是とし、それでもとりあえず日常は続く、のかな?って。 あの一家のほんの数年後は果たしてどうなったのかしら? この映画とか『デデデデ』とか、朝日新聞に寄せられた相談に対する野沢直子氏のクソみたいな回答とかそれを持ち上げるクソみたいな朝日新聞の記者とか(ここら辺いちいち説明する余裕はないので調べてね)、次期都知事候補の小池都知事を持ち上げ蓮舫氏をサゲて偏向しまくるマスコミとか近々に符号する事象がぐるぐるしちゃってもうクラクラしちゃってるわ。 じゃあアタシは何ができるの?ってとりあえずこうしてネット上に文章を残すこと、それはできるのよね。 この映画はスクリーンの向こう側だけで完結してはいないの。 [映画館(字幕)] 7点(2024-05-29 16:58:11) |
57. ベルファスト
《ネタバレ》 少年が生きるごくごく狭い範囲の視点から描かれる複雑な世界の物語。 小さな街のコミュニティの中に宗教の対立があって破壊と暴力があって、家族の葛藤があって、でももちろん少年の等身大の、恋や楽しみや勉強や悪さ等々、様々な事柄があって。少年なりに捉えた社会と個人との関わり、成り立ちが楽しかったり切なかったり悲しかったりするわ。少年の、周囲の状況に流されやすいカンジがコミカルで愛らしいの。 画作りはちょっと作為的に過ぎる気もするの。モノクロとカラーの使い分け、余白をたっぷり取った、被写体を偏らせた構図、フレームの中に更にフレームを作った画、ぐーっと仰瞰でひとびとを捉えた画。それらは少年の視点とはちょっと違う、多分にゲージュツを意識した感があって、もう少し抑えた方が良かったかも、と思ったわ。 でも『宇宙大作戦』や『真昼の決闘』『恐竜100万年』『チキチキバンバン』といった作品が散りばめられていて、少年が生きた時代を示すと共に少年の生きる現実と対比された夢のカタチとしてノスタルジックに機能してたわね。 ベルファストという土地に縛られた一家が状況に追われるカタチで呪縛から解き放たれてゆく、でもそこに希望が垣間見えるのが救いね。 [映画館(字幕)] 7点(2022-04-10 19:37:42)(良:1票) |
58. ラストナイト・イン・ソーホー
《ネタバレ》 部屋を照らすネオンサインの青と赤がエロイーズとサンディそれぞれのイメージを示すように、リアルと夢、現在と過去、光と闇、鏡の外と中、反する2つの要素が散りばめられて、でもそれぞれが対立して存在するのではなくて混ざり合って混沌としてゆく映画ね。 見ていて「エロイーズ、過去のサンディを助けて!」って思ったけどそれじゃSF映画だわ。オシャレでスタイリッシュな映画っぽいけれどワリとマトモにホラー。 ちょっと映画そのものはアンバランスな、イビツな気もしたの。キャラはわりと単純な造形って思ったし(思考や行動が定石を踏んでゆくカンジね)、60年代ロンドン(アレから見て65年かしらね)はこれ見よがし感が。テーマ的にはフェミニズムに寄りつつ映像はセクシャルに、そして女性に対して加虐的に描かれていたり。 でもクライマックスからラストにかけて、性的欲求に支配された世界の男達をきっちり否定してみせる描写に溜飲を下げたわ。真相を描くシーンはミサンドリー大爆発!みたいな感もあったけれど、アタシ自身そういう意識に支配されてきた人生だったから、やれー!いけー!って感じだったわよ。ラストカットも納得ね。 とにかく2人の主役が総て。美しく儚げなトーマシン・マッケンジーも良かったけれど、やっぱり売れっ子アニャ・テイラー=ジョイの存在感が大きいわ。彼女の目ぢから(そしてくちびるぢから)ったら。彼女がスクリーンに映ってるだけでバアアアア!って輝いちゃうんだからズルいわよね。 エドガー・ライト監督としては大人しめなカンジもするけど狂騒的でも困っちゃうオハナシだしね。最初に書いた混沌はそのままロンドンという街の姿なのかもしれないわ。あの家はそのままロンドンを象徴しているのかも。 [映画館(字幕)] 7点(2021-12-12 21:16:50)(笑:1票) |
59. バーバラと心の巨人
《ネタバレ》 見ていて色々な映画を連想して。 『怪物はささやく』みたいな映画? 『ウエルカム・ドールハウス』とか? 『乙女の祈り』だったり? 『スウィート17モンスター』とか? 『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』的な? って。どれがどうでした、なんて言わないけど。 バーバラはかなりおかしなことになっちゃってて(見たカンジほとんど統合失調症ね)、周りの人達もバーバラに振り回されて、困ってしまっていて。 そんなバーバラの世界は、舞台になる海辺の街の、美しくも寒々しい風景に彩られて、彼女の心を表してゆくの。 なぜバーバラの世界はそんななの? 理由が明らかになると、その切なさに胸が痛くなるわ。 そこをハッキリさせ過ぎ、説明し過ぎなカンジはあるの。もっと曖昧な方がバーバラという少女の奥行きを感じさせたんじゃないかな、って思うわ。でも、自分にもあった体験だけに、そんなバーバラの心象風景がよくわかって。 バーバラ個人の心だけでなくて、バーバラの家族それぞれの心もそこに反映されていて、それはとてもつらいのだけれども、そこにある優しさを信じられる、信じたいって思ったわ。 バーバラとソフィアのコンビが本当に可愛らしくて、いい感じだったので、そこはもう少し見ていたかったな。 それにしても邦題を付けた人は何考えてるのかしらねぇ? バカなの? 映画はそこをずーっとぼやかして描いてるでしょ? なんでタイトルで断定しちゃってるの? [映画館(字幕)] 7点(2018-10-22 19:24:23) |
60. オデッセイ(2015)
《ネタバレ》 よく言われる『ザ!鉄腕!DASH!!』よりも『いきなり!黄金伝説。』に近くない?とか思いましたが(ほら、あの番組は独りで生活するものが多いから)、それはともかく。 リドリー・スコット監督の抑えの利かない即物的表現はこういうポジティブな映画にこそ似合ってるんじゃない?と思いました。やっぱり死に向かう状況よりは生への執着を見せている状況の方を画として見たいですからねぇ。あくまで前向きに、ユーモアを交えて絶望的状況を乗り切ってゆくマット・デイモンの姿は大変にカッコイイのでした。 一方の地球側と彼を置いてきちゃった宇宙船側はあまり面白いところはなくて。宇宙船内の描写なんかは今から20年前くらいの映像技術程度じゃない?みたいなぎこちなさで。無重力空間での表現は『ゼログラビティ』まで行ってるのだから、ねぇ。 クライマックスの『ウォーリー』『ゼログラビティ』なんかでお馴染みのアレは(むしろ『アイアンマン』かな?)実際にはあさっての方向にすっ飛んで行っちゃうだろうなぁ、って思いましたが、そういうところも含めてあんまり細かいところは気にすんなって感じの映画で、程よい娯楽大作っぷりでございました。 [映画館(字幕)] 7点(2016-04-07 22:47:58) |