1. 教皇選挙
《ネタバレ》 ■キリスト教を背景としたミステリーということで、『薔薇の名前』をイメージしたが、あちらは純然たるゴシックミステリーであるところ、こちらは極めて現代的な作品であった。 ■テロによる爆発で選挙会場のシスティーナ礼拝堂の高窓の一つが吹っ飛び、選挙の場に圧倒的な暴力がインパクトとしてもたらされた。あれはそこにいた枢機卿たちにとっては神の怒りのように感じられたに違いない。さほどに旧約聖書における神は荒々しい。その直後のシーンで、その高窓から差し込む日の光が礼拝堂の有名なフレスコ画を美しく照らすのだが、その神々しさが、あれは実に神の怒りであったことの証左となる。 ■最後の投票のとき、その破れた高窓からかすかに外界の喧騒が聞こえてくる。何百年と厳格に密室で行われてきたコンクラーベが、わずかにではあるがこのとき初めて外との接触の中で行われたのだ。その喧騒をBGMに、枢機卿たちは教会の歴史に新たな一歩を刻む一票を投じる。 ■この一連の流れによって、全体として神の意志によって教会の閉鎖性・保守性に風穴が開いたというつくりになっている。見事な脚本だ。いや、原作がそうなのかな? ■演技巧者ばかりの俳優たちの演技が、本当に素晴らしい。とりわけ主役のレイフ・ファインズ、新教皇にその位を引き受けるかどうかを聞く場面で、嫉妬を隠し切れない何とも言えない複雑な表情をする。お見事。 ■主役がいよいよ教皇の第一候補となり、「教皇名は考えてあるか?」と聞かれ、実に神妙に「ジョン…」と答える。後から考えれば、あれはコメディなんだね。ファインズの絶妙な顔芸が浮かんで、思い出し笑いしてしまった。 [映画館(字幕)] 7点(2025-04-01 17:04:16)(良:1票) |
2. ダンケルク(2017)
《ネタバレ》 ■「プライベート・ライアン」以来、戦争映画といえばあのスタイルが王道みたいな感じだけど、その流れでこの作品を理解しようとしても意味がない。これはあくまで「時空の魔法使い」クリストファー・ノーランの映画である。 ■冒頭、主人公が独軍の銃撃から逃げていると、いきなり視界が開けてダンケルクの海岸についてしまった。もうこの時点で時空がねじ曲がった感が凄い。それを皮切りに、いつの間にか数日たってたり、エピソードごとの時間経過が全くバラバラだったり、と、とにかく時空を解体しまくる。 ■それはつまり、「ダンケルクというブラックホール」を描く試みではないか。この地に吸い寄せられるようにさまよい出たり、なんやかんやで中々脱出できなかったり、やっと脱出できると思ったら結局また戻ってきてしまったり。ダンケルクというのはそういう(ホラー映画にでもありそうな)ヤバい場所なんだということを、時空をもてあそぶことで強調しようとしているのだと感じた。 ■しかし、それらはやっぱり戦争の恐怖を伝えるための手段に過ぎない。マーク・ライランスが、「我々の世代が若者を戦場に追いやってしまった」というようなセリフを言うけど、このご時世に生きる人の親として、大変身につまされる。また、兵士たちが本土に戻って歓迎を受けるシーンでは、「よく戻ってきたなぁ」と私も一声掛けたくなった。大変技巧的な映画ではあるが、それにも拘らず、か、それが故に、か、分からないけど、ダンケルクという戦場の閉塞感が生々しく伝わってくる、骨太な戦争映画である。エンドロールでは涙が止まらなかった。 [映画館(字幕)] 8点(2017-10-01 16:25:27)(良:1票) |
3. 戦場のメリークリスマス
《ネタバレ》 ■本来「俳優」が賄うべきポジションを、音楽家と芸人それぞれの若手トップスターが務めてしまったという、ある種の「倒錯」的なキャスティングは、本作の重要なコンセプトの一つだろう。つまり、折しも80年代の前半、これからいよいよバブルに突入するという狂熱の時代を担った「あの」二人が、本来の「俳優」を差し置いてこの映画に集わされたということは、まともな「俳優」が配されている英軍将校陣営とのシンメトリーではないだろうか、と思うのだ(デヴィッド・ボウイは生来の演者だから、アンビバレントなポジションにいる)。結果として、そのことがその後の日本の芸能史に大きな意味をもたらしてしまったという、誠に凄まじい映画である。 ■もう三十年来何度も見てるが、子供のころは、音楽はもちろんだが、帝国軍人の美意識や凄惨さとか、そんなところばかりに夢中になっていたが、今日十数年ぶりに鑑賞した結果、これは、コミュニケーションの不通と、日本人の西洋コンプレックスを描いた映画だということに、やっと気づいた。コンプレックス故の、一方的な「倒錯」した表現とその哀しさ。それを解消しようと、クリスマスという西洋のイベントの意味を知ったハラは、これをブレイクスルーとして活用した。ここにかろうじて成立したはかなく拙い、しかし切実なコミュニケーションが、エンディングへと結ぶ。ヨノイのセリアズに対する邂逅とて同様であって、こちらの方がより不器用で、倒錯の度合いが深いというだけである。 ■冒頭、ローレンスは、捕虜の身でありながら、ハラに対して「救いたい」と言うのだが、つまりはその哀しさを見抜いているということである(ハラは「日本人は敵に助けられたりしない」と返すが、どこか拙く響く)。それは確かにマッカーサーが「日本人の精神年齢は12歳」といったのに通底する「哀れみ」であって、大島渚という一人の「戦後文化人」が抱えざるを得ないコンプレックスであるのだが、失われた10年やら9.11やら大震災やらを経て、いいかげん「もはや戦後ではない」現在ですら、そのコンプレックスがほとんど解消されていないことに思い至って、ハッとさせられる。 ■吉本隆明が「音楽は素晴らしいが映画自体はダメ」みたいなことを言ってたけど、却って本人の興味の強さを感じたのを覚えている。たけし自身も同じこと言っていて、いや、だからこそ今の北野武がある、ということがよく分かる。 [レーザーディスク(邦画)] 9点(2014-12-13 02:09:17)(良:1票) |
4. ブラックブック
《ネタバレ》 ■最初「戦争に翻弄される一人の女性の波乱万丈記」をイメージしていた。もちろんそういった側面も強いのだけれど、観賞後に残るのは、サスペンス映画としての後味。■カリス・ファン・ハウテンという女優さんをはじめて観たが、体を張った大熱演に心打たれた。恐らくオランダの国民的女優なんだろうけど、汚物を被る国民的女優というのもスゴい。■ラストがややあっさりし過ぎか。 [DVD(字幕)] 7点(2008-07-21 21:01:09) |
5. エリザベス:ゴールデン・エイジ
《ネタバレ》 ■歴史ファンが歴史大河モノの観賞する場合、キャスティングの妙や、事跡のディティールの表現、解釈を楽しむワケだが、残念ながら自分は英国史に疎く、その愉悦を覚えることが叶わなかった。■もちろんそれは自分の責任だから、それを差し引いて、つまり歴史ファンじゃない一般の観客として作品を鑑賞するべきだろうが、しかし本作の「歴史大河モノ」臭は、作り手が英国史ファンたる鑑賞者を前提にしていることを示すに充分と言えよう。残念ながら自分はお呼びでなかったのである。■はっきり言ってしまえば、「歴史大河モノ」としてのエッセンスを本作から除いてしまったら、「立場ゆえの叶わぬ恋」みたいなテーマがありきたりのプロットでなぞられる程度のものしか残らないのだ。■然るにこの作品は本来堂々たる「歴史大河モノ」であるべきであって、それならそれで戦闘シーンに金かけて欲しい。エリザベスが馬上で兵士に演説するシーンなぞ、兵士役のエキストラは200人いたかどうか…。■ケイト・ブランシェットが当代随一の女優の一人であることだけは確認できた。 [映画館(字幕)] 4点(2008-02-18 15:30:30) |