1. テトリス
《ネタバレ》 一度はプレイしている人は少なくないのではないかという『テトリス』。 シンプルながらゲームボーイでかなり熱中していた世代の一人だ。 それを如何に映画化するともなると、ゲーム単体にストーリーを付けるのではなく、 冷戦末期の旧ソ連で誕生したゲームのライセンス争奪戦というユニークな造り。 本作を見て思い出したのは、 『アルゴ』を彷彿とさせるポリティカル・サスペンスの側面と、 『AIR/エア』で描かれたビジネス映画としての側面だ。 (どちらもベン・アフレック監督作品で、前者で幾分影響を受けていたのではないか)。 実話と言っても、展開を盛り上げるためにかなり誇張している箇所があり、 主人公の家庭が崩壊直前までに追い詰められたり、開発者が起こしたボヤ騒ぎ、 終盤のカーチェイスからのソ連脱出劇はほぼ創作だろう。 最終的に大成功を収めるのは分かるのだが、 駆け引きに、裏切りに、友情に、期待に、失望に、信頼に、と上手く絡まり合い、 ある種のフィクションとして見るならラストまで目が離せなかった。 時折、挟み込まれるゲーム的演出が心憎く、任天堂が深く関わったこともあり、日本への目配せも忘れない。 監視と密告とハニートラップと賄賂が当たり前のソ連体制側においても、 国家の利益のために主人公に手を貸す誠実な者、国家すら信用せず私腹を肥やしたい腐敗した者、 それぞれの思惑があって、いつか国が崩壊するのも分かっている。 共産主義国の恐さと閉塞感がひしひし伝わるも、一つのゲームが歴史を変えた壮大な物語に仕上がっていた。 [インターネット(字幕)] 7点(2024-11-18 22:17:34)《更新》 |
2. ぼく モグラ キツネ 馬
《ネタバレ》 わずか34分の短編なのに傑作長編映画を見たときのような濃度と満足感。 原作絵本のタッチをそのまま活かしたラフの線を残したアニメーションに、 家までの旅路を静かに優しい眼差しで見守っている。 だからこそ、時折挟み込まれる哲学的で、下手すればあざとさも感じてしまう台詞の数々が、 スッと心に入ってくる。 「弱さを見せることは強さだ」。 「今まで言った中でいちばん勇敢な言葉は何?」。 「助けて」。 「助けを求めることは諦めるのとはちがう。諦めないためにそうするんだ」。 彼らは出会うまでどこか孤独だった。 モグラが罠にかかったキツネを助けた勇気、肉食のキツネが彼らと一緒にいる勇気、 馬が自らの秘密を明かした勇気、それが大きな力となって目的地の少年の家に導かれていく。 ところが少年は我が家ではなくて、二匹一頭の元に帰ることを選んだ。 目頭が熱くなる。 なぜ少年は雪原に迷い込んだのか、そして目的地だった我が家が本当の居場所なのか分からない。 そこを踏まえると、様々な隠喩と想像を掻き立てられる。 愛にあふれ、優しくて、温かくて、美しい映画だった。 [インターネット(字幕)] 9点(2024-11-18 21:13:58)《新規》 |
3. シビル・ウォー アメリカ最後の日
《ネタバレ》 アメリカは世界一の経済大国であり、IT大国であり、エンタメ大国だ。 だが、新自由主義を推し進めたが故に格差が著しい大国でもあり、今なお残る人種差別に、 機会はあれど能力に恵まれなかった者にはひたすら容赦なく残酷だ。 それが圧倒的な凶悪犯罪率であり、大都市には麻薬に溺れた路上生活者で溢れ、絶望死した者も少なくない。 一方で成功した一部のマイノリティが己の価値観を強制するポリコレによって保守層の不満が募り、 上記の極端な事例によるトランプの台頭、やがて対立・分断し、長年の社会の歪みがツケになって顕著化した成れの果てが本作だ。 関わることを諦めた地方の無関心、そして「お前はどういうアメリカ人だ?」という問い。 そこには外部がズカズカ入り込めないアメリカの病みが詰まっている。 世界の警察やらグローバリズムやらを伝搬して、諸外国に首を突っ込んでいるクセにである。 そんな世界をジャーナリストは誰かを犠牲にすることでフレームに真実を収める。 初心な新人カメラマンが次第に冷徹な人間へと変わっていき、最後は主人公の犠牲をも手柄にしていくのは皮肉だ。 大統領の死体と兵士の笑顔が写る一枚に、アンミスマッチな曲が流れるエンドロールの居心地の悪さと来たら。 自分事にならない限り、自国の危機に誰も動かないだろう。 次期大統領がトランプになろうが、カマラになろうが、詰んでいるとしか言いようがないアメリカ。 外部から対岸の火事として見ている日本はどうだろうか? 大国にひたすら媚びへつらって搾取される側を選ぶのかね。 [映画館(字幕)] 7点(2024-10-04 23:59:48) |
4. FALL/フォール
《ネタバレ》 もう二人がやっていることは完全に自業自得。 映画の半分以上は高度600mの狭い足場の二人芝居で展開されるため、 どう展開していくのかが腕の見せ所で、錆びたハシゴの描写に今にも緩みそうなナット、 CG合成だと分かっていてもいつ落ちるか冷や冷やしてしまう。 あの簡素な鉄塔が実在するのかよ、とツッコミどころが少なくないのは確か。 特に通知が届いて助かりましたは分かるが、救出描写の割愛にしろ、 その御都合主義な顛末が本作の希有さを凡庸なものにしてしまった。 ヒロインが生還できたことに対するメッセージを述べたところで何の感慨もなく、 ヤバい誘いをしてくる友達は選びましょうくらいしか言えない。 時折、YouTuberが高所の撮影中に転落死する事故が起きると、 手軽に発信できるネットを想像力が欠如した愚者に使わせるとどうなるか、 警鐘を鳴らす意味でバッドエンドの方が良かったのではないか? 追記:サウスダコタ州に"KVLY-TV塔"という本作のモデルらしい電波塔が実在しており、 メンテナンス作業する姿がYouTubeで投稿されているのでリアルな恐怖を感じたい方は是非。 [インターネット(字幕)] 6点(2024-06-30 15:08:17) |
5. 関心領域
《ネタバレ》 「私たちはシステムに組み込まれている」。 その枠組みの中で劇的な展開が起こることのないホームドラマ。 主要人物がアウシュヴィッツ強制収容所の所長の家族であることを除けば。 『2001年宇宙の旅』を彷彿とさせるBGMのみのオープニングで"音を観る映画"だと認識させる。 一枚一枚完成度の高い、硬質でスタイリッシュなショットの数々は不純物を取り除いた無機質さであふれ、 今まで排除されてきた不純物が遠くから見え隠れする。 それが壁一枚隔てた収容所の黒い煙であり、悲鳴であり、銃声であり、 川に流れ込んだ遺灰であり、日常に溶け込んでいる。 そんな生活を送っている家族は何を思って日々を過ごしていたのか。 現在そのレビューを書いている自分にも同じことが言える。 ウクライナとガザ侵攻のニュースが対岸の火事として日々流されている裏で、 日常化したアジアや中東やアフリカや中南米の紛争・内乱について現在ほとんど触れることはない。 それだけでなく、日本でも見て見ぬふりしている問題が点在している。 100円台で提供される菓子パンの裏で、 激務の果てにベルトコンベアに巻き込まれて従業員が死亡したパン工場での事故。 ペットブームの裏で人間の身勝手で捨てられ、殺処分される愛玩動物。 セーフティーネットから取りこぼされ、命を落としていく社会的弱者。 私たちはその問題を知っている。 だが、「何もしてあげられない」。 こちらにだって社会的立場があり、生活がかかっている。 きっと80年前の所長の家族も同じだろう。 オスカー・シンドラーのように人道のために踏み出せる人などたかが知れている。 かつてジャミロクワイのPVを手掛け一躍その名を知られたジョナサン・グレイザー監督はユダヤ人の血を引く。 アカデミー賞受賞時にイスラエルのガザ侵攻を非難したが、 ハリウッドの多くを占める同胞のユダヤ系映画人は彼のスピーチに一斉に猛抗議した。 「アウシュヴィッツで起きたことと、ガザで起きていることは全く別物だ」。 自分たちが恩恵を受けてきたシステムに背くことは今まで築き上げた所有物を犠牲にする覚悟である。 大量虐殺可能なガス室の建設が決まり、 「人としておぞましいこと」を自覚しているのかは知らないが、誰もいない通路で所長は独り嘔吐しかける。 それは最後に残された彼の"人間性"か。 博物館として現代の収容所に積み上げられた虐殺の痕跡を前にルーティンワークとして淡々と掃除するスタッフたち。 ニーチェ曰く、「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている」。 80年後の世界を見つめる彼には裕福な生活を、愛する家族を守らなければならない。 異常さに耐え切れず、手紙を置いて密かに邸宅を出て行った所長の妻の母親が帰宅後に意識を切り替えるが如く、 自分もまた、悲鳴だらけのエンドロールから“普通の日常生活“へと取り繕うだろう。 「私たちはシステムに組み込まれている」。 [映画館(字幕)] 7点(2024-05-24 22:30:17) |
6. 生きる LIVING
《ネタバレ》 オリジナルは鑑賞済。 忠実なリメイクになっているものの洗練された造りになっており、 主人公と元同僚の若い娘との絡みはオリジナルと比べてくどくなくて良かった。 これはお国柄の違いだろうし、スタイリッシュな出で立ちのビル・ナイを起用したキャスティングの勝利だと言える。 葬儀後のグダグダな展開はバッサリ削り、上手く場面転換をしながら綺麗に"THE END"へと着地していく。 オリジナルのお役所体質への批判は最低限に留め、新人職員と若い娘の見せ場を増やして、 普遍的で誰にでも見易いヒューマンドラマに仕上げていた。 当然、オリジナルの凄みには及ばないかもしれないが、コンパクトにまとめたリメイク版を推す。 [インターネット(字幕)] 7点(2024-05-15 21:56:01) |
7. ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密
《ネタバレ》 グダグダだった前作に比べれば、何とか持ち直したと言ったところ。 単品で見れば魔法界の最高権力者を目論むグリンデルバルトの野望を阻止するシンプルな筋書き。 魔法生物はやや置いてけぼりながら重要シーンで盛り込み、一応は幸福なひと時で映画を締めている。 冤罪で降板させられたジョニー・デップに代わり、マッツ・ミケルセンがグリンデルバルトを演じているが、 魅力的なヴィランを上手く引き継いでいると感じた。 しかしながら、主人公のニュートの影が薄く、ダンブルドアとグリンデルバルトの愛憎劇へと脱線していくのでは、 本筋のファンタスティック・ビーストである必要がないので次回は原点回帰して欲しいものである。 [地上波(字幕)] 5点(2024-03-30 21:26:04) |
8. 西部戦線異状なし(2022)
《ネタバレ》 1930年製作のハリウッド版は視聴済みであるものの、本作はリメイクではなく古典の反戦小説の再映画化であり、 現代の観点で脚色されたのもあるからか、似通ったシーンがほとんどないに等しい。 せいぜい冒頭の生徒たちの出兵を煽る教師と、中盤の妻子持ちの敵兵を直接殺してしまった狼狽ぐらいだろうか。 死んだ兵の服をはぎ取り、洗濯・お直しして新兵の服として提供するところからして、 ただの部品としか見ていない戦争の非情さを良く表している。 憔悴していく主人公の青年と並行する形で軍部上層部のやり取りで見られる豪華な食事もそう。 あと少しで停戦なはずがお偉いさんの大義のために無理矢理突入させられ、 理不尽な形で消費されていく主人公を含むその他大勢の兵士たちの死… 非常にオーソドックスながらハリウッド版とは違ったドライさが突き刺さる。 確かに今の時代だからこそ見るべき映画なのかもしれないが、現代ならではの新しい切り口が欲しかった。 もし本作みたいなことが日本で起こったら、我々にできることは国外脱出するか、 国会議事堂を包囲して大規模な反戦デモを敢行することくらいだろう。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-12-09 01:41:41) |
9. 宇宙人ポール
《ネタバレ》 エドガー・ライトが監督でないことを除けば、いつものサイモンとニックのコンビに ステレオタイプな姿の宇宙人ポールが加わったドタバタ珍道中。 好評な割にあまり乗れなかった。 クセが少なく、見やすく、ただストーリーがダレ気味であまり印象に残らない。 ポールがスピルバーグ本人に電話で『E.T.』のアドバイスをしたり、 ラスボスが『エイリアン』で死闘を繰り広げたシガニー・ウィーバーだったりと、 面白そうな小ネタはあったんだけどね(すごく贅沢な使い方だ)。 遠い昔に見たままだったので、機会があればもう一度見たいと思った。 [DVD(字幕)] 4点(2023-07-29 11:29:07) |
10. ファウスト(1994)
《ネタバレ》 人間の顔をした"悪魔"に気を付けろ。 そこには奇跡も魔法もないんだよ。 怪しげなビラに記された地図に導かれ、満たされない日々を送る男が体験する悪夢。 欲しいものと引き換えに悪魔に魂を売り渡す契約をしたが最後、 台本通り動く操り人形の如く、地獄へと一直線。 現実と虚構が曖昧になっていく中、道化師の呪文に右往左往される悪魔が笑いのツボに入った。 どこか既視感があると思ったら、過去作の『ドン・ファン』の要素も多少入っているのだろう。 もう一度言うが、人間の顔をした"悪魔"に気を付けろ。 心の隙間に入り込み、魂を食い物にする。 序盤に主人公とすれ違って逃げた男、新聞紙に包めた身体の欠片を見るに、 奈落への入り口に我々は立っている。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-05-24 21:39:57) |
11. ハリー・ポッターと炎のゴブレット
《ネタバレ》 原作既読済みだが、上下に分かれるほどの大長編で読むのが苦行だった気が… ヴォルデモートの復活、セドリックの死、ムーディが偽者くらいしか覚えていない。 それから10数年経って映画を見る機会があり、視覚と聴覚に物語が入ってくることの有難みを感じる。 思春期に入ったので少年少女共々面倒臭いに尽きる。 それを集中して描けば良いのに心理描写が唐突すぎて、四面楚歌からのいきなりな手のひら返しと、 ただただ話をまとめるためにローテーションをこなしているように感じた。 見ている間は退屈しないかもしれないが、全体を俯瞰すると悪い意味でゴチャゴチャしていて、 原作を読んでいた頃は気にならなくても、生徒一人殺されてダンブルドアが責任取らないのは確かにモヤモヤする。 やはり原作トレースしたダイジェスト感が否めず、TVシリーズ向きな作品だろう。 [地上波(字幕)] 5点(2023-05-18 23:13:38) |
12. アルゼンチン1985 〜歴史を変えた裁判〜
《ネタバレ》 1976年から1983年にわたり、アルゼンチンで発足した軍事独裁政権による国民への熾烈な弾圧が行われ、数万人もの犠牲者が出た。 政権が倒れたあと、当時の首謀者を裁くべく、正義を以て戦う検事と若き法律家を描いた実録法廷ドラマ。 堅苦しい映画ではあるが、小難しい内容にはなっておらず、知らない人にも分かりやすいエンタメ作品に仕上がっていた。 法廷シーンに移行してからはずっと引き込まれ、暴力描写に満ちた回想シーンを一切用いらなくても、 証言が雄弁に真実を語る力強さに圧倒され、脅迫されても何事もなく振る舞う家族のタフさに驚かされる。 検事とタッグを組む副検事が政権を握っていた軍を全否定しないように、 人間という矛盾した存在ながらも、人の尊厳を保つこと、いかなる組織でも罪は罪であることを認識させることの重要さを説く。 民主主義と社会正義を強く訴える検事の最終論告も実際の映像を交えながら力強い光を放つ。 ここで終わってくれたら完璧だったんだけどね、その後の展開が蛇足になってしまった感がある。 とは言え、再現VTRに墜ちておらず、映画としてはなかなかの良作。 ゴールデングローブ賞で受けたのも、言語を超えた普遍的なメッセージ性と時折挟み込まれるコミカルさによる敷居の低さかな。 [インターネット(字幕)] 7点(2023-05-01 23:59:09) |
13. オテサーネク 妄想の子供
《ネタバレ》 2時間強とやや長めだが、切株の人形に命が宿ったあたりからジェットコースタームービーの如く引き込まれた。 シュヴァンクマイエル監督の映画を幾分見ていたのもあり、比較的分かりやすくエンタメ寄り。 ご丁寧にも元ネタの民話を説明してくれる。 「食べることは相手の命を奪うこと」。 そのグロテスクさを否応なしに突き付け、子供ができない夫婦のエゴイストぶりと重なる。 嘘を付き続けて、ますます引き返せなくて、増えていく犠牲者たち。 夫婦の秘密を知った隣人の少女はそれを分かっていながら、オテサーネクとの絆を選ぶ。 秘密を持つことにワクワクしながらも自身の所有物として見ている感じの子供の残酷さが際立つシーンだ。 短編『地下室の怪』(1983)のセルフオマージュ感あり。 キャベツ畑を荒らされた管理人の老婆が民話通りオテサーネク討伐を仄めかして映画は終わるが、 そう問屋は卸さない気がする。 期待通りの気色悪さ、堪能させて頂きました。 [インターネット(字幕)] 7点(2023-04-27 23:32:42) |
14. ハリー・ポッターとアズカバンの囚人
《ネタバレ》 監督がアルフォンソ・キュアロンに変わったため、少し大人でダークな雰囲気になり、 新たな風を吹かせたことには成功した…かもしれない。 原作は読んでいたため、タイムパラドックスを取り入れた展開が一番面白く見られた。 本作を最後にリアルタイムでハリポタシリーズを見ることを断念しており、 原作が複雑長大化して読む体力が続かなくなったことが以降のシリーズ鑑賞のハードルを上げている気がする。 肩肘張らずにいつか4作目以降も見てみたい。 [映画館(字幕)] 6点(2023-02-11 01:07:50) |
15. ハリー・ポッターと秘密の部屋
前作より少しダーク寄りになり、子供向けな演出が少し角が取れた分、頑張ればギリギリ大人でも視聴できるかも。 ワクワクさせる新キャラ、新要素が続々と登場して、長時間な割に退屈はしなかったけど、記憶がほとんど残ってない… [映画館(字幕)] 5点(2023-01-23 21:45:53) |
16. 2001年宇宙の旅
《ネタバレ》 20年ぶりに視聴。 たゆたうような眠りを含めて全身で体感する映画。 現在の観点では若干の古さは感じても、色褪せない魅力を放つセットと世界観、 現実味を帯びてきたAIへの警鐘、そして人類の新たな可能性── 分かりやすさはないものの、ゼロから作り上げたキューブリックが 未来のフィルムメーカーたちに与えた影響は非常に大きい。 彼にしか作れない、そして誰もその中に入れない聖域を作り出した。 [インターネット(字幕)] 8点(2022-09-24 14:37:27) |
17. MEMORIA メモリア
頭内爆発音症候群に罹った監督の実体験を元にしているという。 固定カメラによる常軌を逸した長回し撮影に、眠気と共にハッとさせられる"音"の数々が挿入され、 夢か現か彷徨い歩く超自然的な感覚と同化する。 本作を撮ったのは、かつてカンヌで最高賞を受賞したアピチャッポン・ウィーラセタクン。 母国タイでの制作環境の改善のなさから海外に拠点を移した初の外国語映画だ。 『ブンミおじさんの森』で撃沈した自分にとって、久々の監督作視聴となったが、 やはり既存の映画文法から外れた対極的な作りであるため、 本当にそういう風に割り切らないといけない。 お酒を飲んで、照明も外界の環境音もシャットアウトした視聴環境で、 人間をダメにするソファに埋もれながら見ることをおススメする。 無意識に委ね、何度も反芻して初めて、本作が傑作だという結論に辿り着くのかもしれない。 (再視聴次第では評価が変動する可能性あり)。 [インターネット(字幕)] 5点(2022-09-02 23:59:39) |
18. ベルファスト
《ネタバレ》 『ROMA/ローマ』に影響を受けているのか、モノクロで監督の半自伝であることも共通している。 ただ、『ROMA/ローマ』のような灰汁の強さはなく、事情をよく知らない少年の目線で描かれているので、 複雑な社会情勢を調べなければならないという敷居の高さもない。 むしろサッカーに興じ、少女との淡い初恋、万引きを唆されたりと、 緊急事態が日常になっている中で懸命に生きる少年とその家族を活写しているところに重点を置いている。 ただ、劇中劇だけパートカラーで、劇伴もここぞと効果的に挿入される、その演出にあざとさを感じてしまう。 わざわざモノクロで描かないといけない理由が全く感じられなかった。 芸術性の高い作りが少年の溌溂とした物語とチクハグで合ってない。 これが作品の没入感を割いているように感じた。 短い出演時間ながらも最後をかっさらうジュディ・デンチは流石と言ったところ。 [インターネット(字幕)] 5点(2022-08-13 22:15:47) |
19. 悦楽共犯者
《ネタバレ》 シュヴァンクマイエルが行くところまで行ってしまった自己満足映画…と言いたいところだが、 6人それぞれの突き抜けた性倒錯ぶりを傍から見るとやはり滑稽で最後まで目が離せない。 個人個々で始めたはずが次第に他の人にも影響を与え、 メタ的な意味で視聴者も巻き込んでいく意味で確かに『悦楽共犯者』だ。 本作にシンパシーを感じたのであれば、誰かの性癖も犯罪行為でなければ否定しないでおきたい。 気に入らないものを排斥するお気持ちクレーマーが憚る世界なのだから。 [インターネット(字幕)] 8点(2022-07-05 23:25:50) |
20. アリス(1988)
《ネタバレ》 かなり昔にDVDで見ていたが、 アマゾンプライムで再視聴する機会があった。 こちらは原語のチェコ語バージョン。 アリスの口のアップ、引き出しの取っ手が抜けることを始めとした反復を重ねる手法に、 物語を拒絶するように話が通じないグロテスクなキャラクターたちと、 アリスから見た未知だらけの不可解な世界をシュヴァンクマイエルが的確に伝える。 そこに子供ならではの純粋さと残酷さが同居する。 そんな"鬱くしい夢"を魅せられる人によっては至高の90分だろう。 [インターネット(字幕)] 7点(2022-07-05 22:38:06) |