1. ファーゴ
《ネタバレ》 “Fargo”ノースダコタ州の都市名。でも映画の舞台のほとんどはミネソタ州…え? そしてず~~っと実話ベースだと思っていたけど、フィクション…えぇ?? 最初観たとき、とても生々しい映画に思えました。というのも、出てくる俳優さんがみんなリアルなんです。マクドーマンド、ブシェーミ、ストーメア、メイシー。皆さん素直に美男美女とは言えない俳優さんで、名バイプレイヤーとしてはインパクトは大きいけど、主演俳優としては、ときめかないというか…報道番組でインタビューを受ける、その辺の人のような、そんなどこでも居そうなアメリカ人。って感じが出てます。 殺人のシーンも痛々しくてリアルですね。保安官を殺した後のカーチェイス→スリップ事故→射殺の流れは、逃げる立場での絶望を感じました。でも、フィクションだったなんて今回の再視聴まで知らなかったわ。『ブラックコメディ』に分類されてるのが変だなぁって思っていたけど、そうか、フィクションだったからか。 登場人物がみんな「ヤー?ヤー!」って言ってるの。ミネソタなまり表現らしけど、当時はリアルだなーって観ていました。でも北海道の映画で登場人物みんなが「なまら~だべ?」とかって言ってる感じかもしれない。「実際そんなにヤーヤー言わないから。」ってツッコミながら観るのが正しいのかもしれない。 それでも私には、この映画をコメディとして観る観点は備わってない気がする。次回は“コレはコメディなんだ!”って念を押しながら観るとしよう。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2025-01-18 23:27:20) |
2. フルメタル・ジャケット
《ネタバレ》 “Full Metal Jacket”『完全 被甲 弾』と訳されています。通常、ライフルの銃弾の先っちょって、柔らかめで砕けやすい鉛で出来てるんですが、そこを真鍮など硬い金属で覆って、装弾のジャム(弾詰まり)を減らし、貫通力を増した、軍用の銃弾の事だそうです。アメリカのどこにでも居る青年たちを、あの訓練所で殺人に特化した海兵隊員に、機械的に造り上げる工程を、軍用の銃弾に例えたタイトルだと思われます。 '80年代後半はベトナム戦争映画ラッシュで、中でもプラトーンと並んで社会的影響の大きかったのが本作です。“ファミコンウォーズのCM”で有名な、あの行進曲(ミリタリーケイデンス)を世間に広めた作品です。そしてもう一つ、漫画とかいろんな作品に影響を与えた“ハートマン軍曹のマシンガントーク”が観られる映画としても有名だと思います。この映画もテレビのロードショーで放送される予定でした。あのハートマン軍曹の卑猥なセリフをどう訳すのか?とても期待していたんですが…突然の番組差し替えでお蔵入りした記憶があります。以降、深夜枠含めて、この作品は民放では放送されてないんじゃないかなぁ? 前半の訓練パートがあまりに秀逸なので、後半のベトナムパートを重点的に観てみましょう。 ベトナム戦争と言えばジャングルとヘリのイメージなんですが、珍しい市街戦を扱っています。廃工場を半壊させてヤシの木を植えて創り上げた市街地の戦場が、独特な雰囲気を醸し出します。またいろんな映画で観慣れた軍用ヘリ、UH-1イロコイでなく、マイナーなHUS-1チョクトーを使っているのも目新しかったです。意味もなく民間人を撃つヘリガンナーも、ネットで有名ですね。 前半は軍隊マーチとジョーカーの心理面を表現した不気味なSEで、人間を内面から変えていく過酷で閉鎖的な訓練パート。パイル二等兵の凄惨な事件から、いきなりナンシー・シナトラのヒット曲『にくい貴方』が掛かり、ベトナム人娼婦がプリプリお尻を振って歩く開放的な画に代わります。戦線の後方の、ダラダラした空気が伝わります。訓練所で殺人の訓練を受けて、人格を造り替えて、行った先が、これです。 最前線では『敵の潜むエリアを目的地まで移動する』という、イマイチ必要性の分からない任務を行っています。安全圏の確保が目的でしょうけど、敵味方の区別がつきにくいベトナム戦争では、どこまで有効だったか解りません。更に行進中、敵の罠にはまり、撃たれてから撃ち返す受け身の戦術なので、味方もどんどん減っていきます。3人の命を奪ったスナイパーの正体は… 本作ではベトナム人娼婦が2回ほど出てきます。アメリカ兵に体を売って生活する娼婦。一方で躊躇なく冷酷にアメリカ兵を撃ち殺すスナイパーの少女。殺人の訓練を受けて、ベトナムまで来て、女を抱いて、女を殺す。この生産性のない活動に何の意味があるのか。 『ミッキーマウス・マーチ』彼らのやっていることは、ミッキーマウスのドタバタアニメと同じくらい、意味の無い事に思えます。 前半も後半も、人の命を奪う一発の銃弾で終わります。前半はパイルことレナードが自らの命を奪う銃弾。後半はスナイパーの少女の命を奪う銃弾です。ジョーカーがレナードの病気除隊を強く進言していたら、あの惨事は起きなかったでしょう。スナイパーのとどめを刺したのはジョーカーですが、ラフターマンの銃撃で、放っておいても彼女は死んだでしょう。どちらもジョーカーが人の命に係わる場面だったけど、どちらも彼が責任を感じる必要はないこと。戦場で自分がまだ生きていることを実感するジョーカー。『Paint It Black』戦場で彼の感覚が塗り潰されていく。 [ビデオ(字幕)] 8点(2025-01-13 22:17:02) |
3. ダンケルク(2017)
《ネタバレ》 “Dunkirk”フランスの都市名。以前観た『ウィンストン・チャーチル』が、彼らの撤退戦の補足資料として、多少なりとも活きました。 静かな町の路地。だらだら歩く兵士。降ってくるビラ。突然の銃撃。緊張感が伝わってきます。映画を盛り上げるハンス・ジマーのヒリヒリした音楽。長く続く緊張の連続。同じシチュエーションでもダークナイトのような緊張→緩和がなく、緊張→緊張って感じで、106分と短い映画だけど、観終わったらグッタリしてしまいます。 周り中ドイツ軍に囲まれた状況なんだけど、面白いことにドイツ兵が全然出てこないんですね。ドイツの戦闘機のパイロットとかがチラ観えしたりはありますが、最後のファリアを捕虜にする場面意外、全然出てこない。まぁもし、自分たちを殺す気満々のドイツ兵が出てきたら、緊張の糸がプツリと切れてしまい、多くの人が楽しめない映画になってしまったかもしれませんね。 陸の一週間、海の一日、空の一時間。この3つの時間軸を行ったり来たりします。最初はブツ切りに感じた場面転換も徐々に制作側の意図が伝わり、最後の同時間軸に繋がっていく展開は、巧いなぁって思いました。巧いんだけど「この続きが“今”気になるのに、場面変わってしまった」って事が結構あって、ちょっとストレスに感じました。でも2回目の鑑賞だと、結果にハラハラすることなく、場面場面を味わえるかもしれません。でもなぁ、疲れるから再視聴は、しばらく後でいいなぁ。 [DVD(字幕)] 5点(2025-01-08 21:33:19) |
4. ゼロ・グラビティ
《ネタバレ》 “Gravity”『重力』。なんで“ゼロ”付けたし?会話で「ゼロG」って出てくるけど、改変理由の分からないタイトルになってます。 そんな邦題お構いなしに、映画は最後、湖から這い出て、全身を使って二本の足で立ち上がり、重い体を持ち上げて、安堵を感じながら歩き出すところで、このタイトル回収というスンバラシイ神展開となります。 少し前のマトリックスのレビューで「これ以降、映像革命は未だ起きていないぜ(キリッ」って私書いたけど、この映画が思いっきり映像革命起こしてますね。すみません。冒頭から宇宙ゴミの衝突からライアンの宇宙漂流まで、そこから間髪入れずにコワルスキーが救助して、シャトルに戻るあたりまで、一連の動きをまるでワンカットのように観せています。しかもカメラワークだけでなく、時にはライアンのヘルメットの中にまでカメラが入り、ヘッドアップディスプレイの情報まで私たちに観せる凝りよう。こんな映像観せようってアイデアに素直に感心します。 宇宙遊泳の表現も見事で、ライアンがISSにたどり着いて、ぶかぶかの宇宙服を脱ぎ捨て、細い体が出てきて、安堵の伸びをして、胎児のように丸くなる。無重力としか思えないこんな映像、ホントどうやって撮ったんだ? ソユーズでの脱出で、広がったパラシュートと絡まるロープの表現なんて、適当にやっても誰も解らない所だろうに、凄い計算に基づいて動かしてるんだと思うと頭が下がります。 宇宙ゴミが音もなくISSを破壊する恐怖。音のない宇宙空間の表現として、不安感を煽る音楽を効果音のように使うセンスも素晴らしい。 私は普通の2D字幕版で観ましたが、宇宙空間のふわふわ具合、酸素が減っていく息苦しさ、広い宇宙で自分だけ取り残される心細さ…体感型アトラクションのお手本のような映像表現でした。これ3Dで観ていたら、もっともっと凄かったんでしょうかね? 2013年。今と比べて映画は全然元気でしたが、映画館で観る価値がある映画を創ったことに、大きな意義があったと思います。 [映画館(字幕)] 9点(2025-01-08 20:52:43)(良:1票) |
5. ダークナイト ライジング
《ネタバレ》 “The Dark Knight Rises”『暗黒の騎士 立ち上がる』…のような意味だと思いますが、この映画のタイトルは最後に出てきます。バットマンの最後の言葉「ヒーローはどこにでもいる」がタイトル回収だとしたら。ゴードンに限らず、ブレイク、セリーナ、名も無き警官たち。“Rises”には『増加する』という意味もあるので、もしかすると『暗闇から騎士(たち)が立ち上がる』って意味かもしれません。“Knights”って複数形じゃないので、単に思い付きですが。 前作でジョーカーを怪演したヒース・レジャーの急逝から、きっと3作目の構想は大幅に変わったと思われますが、あの続きからスムーズに繋がるのか不安もありました。いきなりヒーローものらしくない、結構リアルな、それでいてどこか007チックなハイジャック(?)から始まります。早速掴みはOKでした。前作の銀行強盗といい、現実からファンタジー世界に引き込むのが巧いですよね。 そして前作から8年も経過したことが解り、すっかり隠居したしおしおのブルースと、女の魅力たっぷりなセリーナの登場。本っ当コレ007か?ってくらい、ヒーロー物っぽくない、けど面白い導入部分でした。ベインはジョーカーに比べると魅力は落ちますが、本作のキャットウーマンはかなり魅力的です。お人形のようなアン・ハサウェイに、ゴーグル跳ね上げて猫耳にするなんて、ノーランは日本のヲタクの血でも輸血したんでしょうか?素晴らしい。 3作続けて登場の小悪党スケアクロウも可愛いですが、エンディングに繋がるブレイクの使い方は「そう来たか!」って感心してました。バットマンって孤高のヒーローってイメージがあるので、相棒とか何とかガールとかが一緒に戦うと、バットマンの魅力が薄まるんですよね。でも本作では最後までブレイクとして活躍するので、それぞれの魅力が薄まることなく共闘出来てました。 アルフレッドとブルースの再会。シリーズ物のエンディングとして、最高の部類じゃないでしょうか?アルフレッドとは面識のあるセリーナがまるで気付いてないのも、何か親友同士の秘密っぽくて良いと思います。 [地上波(吹替)] 9点(2025-01-06 22:36:41) |
6. プラトーン
《ネタバレ》 “Platoon”『小隊』。 裕福な家庭で生まれ、順当に社会のレールに乗った“勝ち組学生”だったクリスが、若気の至りで泥沼のベトナム戦争に首を突っ込み、エリアスとバーンズという性格の極端に異なる二人の軍曹を鑑として成長していく様子が描かれます。 貧しい街の出身者がベトナムで戦っている。彼らは暴力的だったり、自堕落だったり様々ですが、おぼっちゃんで空っぽのクリスにはそんな下地はありません。そんな彼らが同じ軍服を着て“アメリカ兵”をやっています。 このアメリカ兵の小隊は、等身大のアメリカ社会の縮図として描かれます。社会って、きっとどこもそうですが、組織として一律にまとまっている訳でなく、その中にいろんな派閥があって、対抗しあって成り立っています。 小隊のトップはウォルフ中尉だけど、歴戦の分隊長バーンズ曹長が実質取り仕切っていて、オニール軍曹のような腰ぎんちゃくと一大勢力を形成しています。任務に忠実な反面、敵と見なした相手への残虐行為は目に余りますが、ウォルフは見て見ぬふりをするのが、小隊規模の組織らしい醜さを感じさせます。 一方エリアスは、ラーを中心としたドラッグパーティの一員として、オンとオフを分けることで自我を保っています。エリアス自身は優秀な兵士でしたが、彼らの派閥は組織としてはまとまりも熱意も少ない“ぬるい連中≒負け組”なため、任務ではいつも貧乏くじを引かされてます。エリアスの死で結束し掛けますが、バーンズの気迫にビビって何もできなかった連中でした。 二人の影響を受けたクリスは、村を偵察した際、怒りのままに片足の男に銃を向けるのは、バーンズのように常軌を逸した行為だし、レイプされた少女を助けるのは、こんな状況でも理性を失わなかったエリアスのような行いです。善と悪、どちらも自分の内面にありました。 エリアスが死に、バーンズも野放し。ドラッグに溺れて、祖母への手紙さえ書かなくなったクリス。最後の激戦での鬼神のような活躍は、自暴自棄にも観えますが、混乱に乗じてしっかり復讐を遂げます。 それより、激戦のなかで「陣地の上を爆撃しろ」と命じた中隊長。小隊のイザコザや確執なんてお構いなしで、末端の兵士は自分の上に味方の爆弾が降ってくるなんて知らずに、最後まで戦って、敵も味方も綺麗サッパリ吹き飛んだんですね。これが、貧しい街から“小隊”に集められたアメリカ兵の扱いなんですね。 これまで、ただ映画を見ていただけの私が、映画が趣味と呼べるものになったのは、この作品がキッカケでした。 戦争映画がアカデミー賞を取った。これって当時、とても凄い事のように思えていました。アカデミー賞といえば、その年の一番優れた映画が取る賞で、候補になるのは、大人しか観ない社会派映画か、ガンジーとか偉い人を扱った歴史映画が受賞するもので、子供の私にはまだ早い、大人の世界の話…と思っていました。言い換えると、(特に'80年代前半の)アカデミー賞なんて、子供が興味を持つ世界じゃなかったです。 そこに来て、私も何度か観た戦争映画というジャンルが受賞したっていうんだから、こりゃ中学に上がるタイミングで、大人の世界に触れるいい機会なんじゃないか?って、思ったみたいです。 「観たは観たけど、意味解らなかった」なんて事の無いよう、映画雑誌からプラトーンの情報を集めて、この映画の何が凄くてアカデミー賞なんて取ったのかを調べました。前売り券に付いていた販促のドッグタックを握りしめ、公開を待つ毎日。映画の外側の情報だけじゃ飽き足らず、ノベライズも買って、春休み中に読破してしまいました。映画を観てもいないのに、最後の方に出てくる鹿が何を意味するのかとか、そんな結末のイメージも出来て、準備万端で映画を観ました。 昨年も一緒に映画を観た友達4人を連れて、いざ劇場へ。「2回続けて観たい」という私のワガママに友人たちも同意してくれて。まずは同時上映サボテンブラザーズから始まり、本命プラトーン。そしてまたサボテン。ここで友人たちは「疲れたからゲーセンで休む」と言い出したので、私だけプラトーン2周しました。 観終わって友人たちと合流。友人たちとはサボテンの話題ばっかりでしたが、『プラトーンの凄さは、私たちにはちょっと早かったかな?でも私が理解していれば、いいや』なんて思っていました。映画を観て理解したのでなく、いろんな解説やらノベル読んでやっと理解できてるかどうか?なレベルなのにね。そんなワケで、映画を観て考える。製作者の考えを汲み取って、画面に映される以上の広がりを観て、自分なりに消化する。そんな観方はこのプラトーンから始まりました。 [映画館(字幕)] 10点(2025-01-05 17:41:54) |
7. オーメン(1976)
《ネタバレ》 “The Omen”『前兆』。つまりアレでしょうかね?被害者の生前、写真に写った不気味な影でしょうかね?でもオーメン2(Damien: Omen II=オーメンがサブタイに)、3(The Final Conflict=オーメン無くなった)って原題だったことを考えると『悪魔が本領を発揮する前兆』という意味なのかも? 確かに本作のダミアンは自らが悪事を働くのではなく、ダミアンの守護者が災いをもたらしてるみたいだしね。 アラバマ物語('62年)以降、目立った作品に出ていなかった(と思う)グレゴリーペックのヒット作でもありました。ダミアンを演じた子って、その後どんな人生を歩んだんだろう?でも、あの子のあの目が恐怖を感じさせます。舞台がイギリスというのも、近代的なアメリカの都市と違い、当時からレトロ感の演出(=宗教との繋がりの深さ)に一役買っていたと思います。 本作以前のホラーの名作をあまり観ていないので、あくまで想像ですが、この映画以前のホラーの悪魔って、特殊メイクやシルエット状の悪魔々々したイメージだったんじゃないでしょうか?エクソシストでも憑依という形で悪魔が姿を出していますね。 本作では安易な悪魔のイメージを一切出さず、自殺や事故、自然現象に見せて邪魔者を消していくやり方が、一歩進んだ斬新さだったように思います。首吊り、転落死、首ちょんぱ…無残な死を直接観せるのはホラー映画として成立させるための保険だったかもしれませんが、結果的にとてもバランスの良い、怖い映画に仕上がってます。 初見は小学校低学年の頃ですね、曇り空の日曜のお昼、ママンは買い物に出かけたらしく、いつも食べてるケチャップチャーハンと普段食べないブルボンのルマンドが置いてありました。ご飯食べて、ルマンドつまみながら、たまたま午後のロードショーで流れていたこの映画を観てしまいましたよ。自殺する家政婦さんのシーンが怖くて怖くて…だって笑顔で死んでいく彼女の心境って、どんなだろう?って。自分にはどうすることもできない力で殺される恐怖に、すっかり怯えてしまいました。トラウマですね。怖いけど目を離すことが出来ず『お姉ちゃんでいいから早く帰ってきてよぉ~』って願いも空しく、最後まで独りで観てしまいました。エンディングでダミアンを殺せなかった時の絶望感って無かったね。なんか動物を全部数えると666だそうで『これ動物図鑑とかで確かめちゃいけないやつだ、確かめたらきっとダミアンに殺される!』って思ってました。今でこそオーメン余裕で観られますが、ルマンドの紫のパッケージを見ると、休日の曇り空の昼下がりの苦い過去を思い出します。 [地上波(吹替)] 8点(2024-12-29 16:13:07) |
8. ハイランダー/悪魔の戦士
《ネタバレ》 “Highlander”高地に住む人の意味だけど、本作のは『スコットランドのハイランド地方の戦士』です。 現代の大都会。ロングコートに日本刀の組み合わせの妙は、この映画から生まれたんでしょう。目付きの悪いクリストファー・ランバートとダークな世界観。テレビで観た当時、ターミネーターに引けを取らない、それはもう相当な衝撃を受けました。 当時も話題だったカメラワークは今観ても秀逸です。ドローンもない時代、大きく重たいカメラを、吊るしたり振り回したりして、あの映像を撮っていたんでしょう。大変な労力を想像すると頭が下がります。 主人公コナーは影があって暗いんですが、彼の周りは明るい奴らが多くてバランスを保っています。特筆すべきは名優ショーン・コネリー演じる“スペイン孔雀”。作中最高齢だろうけど、いつもチャラくて安心感がにじみ出てます。クルガンも悪党らしい悪党で、教会で嬉しそうに蝋燭の火を消すシーンが子供っぽくて大好きです。秘書のおばさんレイチェルとの出会いの秘話。けっこう色んな作品に影響を与えてますよね。ちょっぴりホロリとさせます。 最も衝撃だったのがクイーンの“Who Wants to Live Forever”の美しさと悲しさです。不死を恐れられて故郷を追われたコナーは、明るく美しいヘザーとずーっと一緒に暮らします。ずっと容姿の変わらないコナーと、年老いても明るいままのヘザー。避けられない死の悲しみと残される者の孤独。当時中学生でしたが、この楽曲と相まったこのシーンの美しさを超えるものは、映画史上そう多くは無いでしょう。 『永遠の命など 誰が欲しがる』このシーンを観て、この歌詞を付けたブライアン・メイの才能が光ります。私も早速、そうご電器YESでクイーンのアルバムをレンタルしてきましたよ。『アイアン・イーグル』のテーマ曲も入ってお得なアルバムでした。 この曲の邦題『リヴ・フォーエヴァー』って言うんですが、なんかそっちだとOasisの同名曲のイメージが強いです。そしてこの映画に関しては、邦題で省略されてる“Who Wants to”の部分がとても大事だと思いません? この映画以降、もっとダークな世界観を上手に表現した映画がたくさん出てきたので、思った以上に本作が脳内美化されてました。 私と同世代で、当時衝撃を受けた方。あの時以来、久しぶりに観てみようかな?なんて思うかもしれませんが『ネバーエンディング・ストーリー』と並んで、当時の美しい思い出に留めておいても良い映画かもしれません。もちろん、この映画の輝きは一生涯変わることはないんですが。 [地上波(吹替)] 7点(2024-12-01 16:07:29)(良:1票) |
9. シビル・ウォー アメリカ最後の日
《ネタバレ》 “Civil War”『内戦』。 じゃあ、逆から考えてみましょうか。最後に1枚の写真が出てきますが、恐らくあれが“アメリカの歴史を捉えた1枚”です。今後、この内戦を振り返る際、必ず目にする1枚にして、きっと歴史書に出る写真かもしれません。その前の数枚は、きっとネットで拡散されるでしょう。その前の1枚は、戦場カメラマンとしての彼女の人生を変える1枚となったことでしょう。 さて、この歴史的1枚は、どのようにして撮られたんでしょう?この物語は、ある女性に出会うところから始まります。…とまぁ、戦場カメラマンがあの1枚を撮るまでを描いた、記録モキュメンタリー映画だとしたら、戦況や状況の説明が薄いのも納得できるかも。 私も予備知識無しで観たから、大統領側と対抗勢力の1対1の衝突なのか、他にも幾つか組織があるのか、どっちがどう有利不利なのか、そもそも何で内戦してるのか、目の前のこの兵士はどっち側なのか、相手の方はどっち側なのか、サッパリ解らず観ていました。ただ、目的地だけはD.C,と決まっていて、そこで大統領にインタビューを行う、戦場を1400km駆け抜ける、無茶苦茶なロードムービーとなっています。クルーの4人は年齢的に、両親と子供、そして祖父という“拡大家族”の様相。恐らく今のアメリカの一般的な家族一世帯のユニットなんでしょう。映画は『疑似家族が目にする無政府状態のアメリカの人々』で、意図的にそうしたんでしょうね。 wiki見たら結構細かく(結末まで)書いてましたね。ふむふむ、なるほど~、19の州がねぇ…怖いねぇ。 アメリカは50の州(国)が集まった合衆国だから、政府が無茶するなら各州の独立もあり得るのかな?アメリカを別けるとしたら民主党の青い州と共和党の赤い州に別けるのがシンプルですが、テキサス(赤)とカリフォルニア(青)が連合を組んでるので、現実の大統領選を前に、内戦を助長するような組織図にはなっていないようです。 ただ影響されやすい国民性と、大統領の権限が絶大な国だから、映画の惨状がリアルなばっかりに、歯車が狂えば現実に…なんて、不安になりますね。 [映画館(字幕)] 7点(2024-10-21 22:56:33) |
10. ナバロンの嵐
《ネタバレ》 “Force 10 From Navarone”『ナバロンから第10部隊へ』…とかかなぁ?バーンズビー中佐率いる特殊部隊『フォース10』は、橋を爆破する任務を任されていて、そこにマロリーとミラーのナバロン島メンバーが、旧知のスパイ・ニコライ暗殺任務で、ユーゴスラビアに同行する…と。 今回ナバロン島全く関係ないです。マロリー版ジャック・ライアンシリーズみたいな感じだけど、シリーズ・タイトルにずっと『レッドオクトーバー』を付けてるような感じですかね。そもそもニコライなんて居たっけ?『~要塞』の、アンナの上官?キャストも全とっかえで混乱しますが、映画自体が前作から17年経ってて、ビデオもない時代だし、当時の人は多分誰も気にしないでしょう。 オープニングで前作の要塞爆破シーンが入ってます。巨砲が海に落ちるシーンは新カットかな? 多分ですね、この映画が、私が最後まで観た、一番最初の洋画だったと記憶しています。当時8歳で、ゴールデン洋画劇場で放送されてて('82年4月だって)、普段だと寝かされる時間でしたが、最後まで黙認してくれてました。たぶん父がこの映画を観たかったんでしょうね。 怖がりな子どもで、撃たれた血とかは大丈夫でしたが、パルチザンのマスクの二人が怖くてねー。もしマスクを取る場面なんてあったら、そこでリタイアしてたかもしれません。この火傷の跡のある、無しは、要塞のアンナの背中のオマージュですね。 ドイツ軍がモロに戦隊モノとかの悪の組織な印象で、ワイヤーカッターで首斬られるのとかも、アレは悪い奴らだからって平気でしたね。8歳児強し。 ディア・ハンターと同じ'78年の戦争映画にしては、戦場描写がのんびりしているように思います。まるで'60年代の戦争映画な印象。当時はリアル志向とかニューシネマとか、観終わってズシンと来る映画が多かったからか、きっと制作陣も意図的に“戦争を舞台とした古き良き明るい冒険活劇”にしたんでしょう。 ストーリーは全然覚えてませんでしたが、フォース10がバタバタやられて、最後バーンズビーだけになってしまうのも思いきった決断。きっと特殊部隊の映画ではなく冒険映画なんだって、バランスを取るための措置でしょう。白人だらけのユーゴでの潜入任務なのに偶然にも黒人ウィーバーが入るのも、ハラハラ要素として面白いです。マリッツァやレスコバー、マスクの2人も、映画の意外要素として掻き回してくれました。 ダム爆破から崩壊までの間と、脱出を諦めたマロリーとバーンズビーが、やっぱり駆け出すところとか、成功したあと、絶望的な孤立無援状態でも、明るく前向きに脱出について話し合ってる終わり方とか、とても心地よいです。映画観終わって「あぁ面白かった!」って思える終わり方って、やっぱ良いですね。 [地上波(吹替)] 7点(2024-10-05 16:41:22) |
11. スペースバンパイア
《ネタバレ》 “LIFEFORCE”『生命力≒精気』。血ではなく精気を吸い取るので、字幕でも吸血鬼ならぬ“吸精鬼”となってます。でも原作は邦題と同じ“The Space Vampires”でした。映画に詳しくない上司(58)は、エマ・ストーンもグウィネス・パルトロウも知らないけれど、マチルダ・メイは知っていました。世代によっては、そんな身近な映画なんですよ、スペースバンパイアは。 劇場公開のとき『ハリウッド最新SF映画特集』みたいな番組が、ゴールデンタイムに放送されてました。そこでさんざん流されてたのが、ミイラ化した警備員が解剖医の精気を吸い取る有名なシーンと、解剖台から起き上がって警備員の生気を吸い取るマチルダ・メイのシーン。ここが何度も放送されていた記憶があります(※映像のインパクトが強かったため、記憶に誤差が生じている可能性アリ)。 ゴールデンタイムにおっぱい。マチルダ・メイの巨大なおっぱい。19歳の美しいおっぱいが、何度も何度も何度も流されてました。テレビ局の策略に見事にハマり、当時のお父さんたちは最新SFXの凄さを観てるフリして、おっぱいに釘付けだったことでしょう。私も「ハリウッドって色んな意味でスゲェ…」って思って観てました。 ふぅ…さて、何でしたっけ?そうスペースバンパイアね。マチルダ・メイと同じく印象深いのがカッコいいテーマソングです。宇宙空間に漂うスペースシャトルがカッコ良かったなぁ。当時の私は後半のゾンビだらけのロンドンの映像が怖くて怖くて…。バンパイアがターゲットを襲う所は大丈夫でも、誰彼構わず襲われるのが苦手で、自分があの場に居たらと思うと、怖かったんですね。あとは…あんまり覚えてないや。 先日偶然、中古DVDを見つけて、ついつい買ってしまいました。『無修正版』だって?あぁ、いわゆる“ヘア”が出てました。当時のはモザイクが掛かってたんでしょうかね?テーマソングはやっぱりカッコいいけど、スペースシャトル、あんな平べったかったなぁ?ハレー彗星ショボいな。でも宇宙船チャーチルの内部はお金掛かってます。何か他の映画のセット流用かなぁ? 吸精鬼が入ってるクリスタルをどうやって開けようか悩んでたのに、次のシーンではベッドで寝てるマチルダ・メイ。けっこう適当な映画なのを、マチルダ・メイのおっぱいが全部ひっくり返します。寝てても起きててもカタチの変わらないおっぱい。でも、エロさより美しさが勝るんですよね。マチルダ・メイもゆっくり動くから、おっぱいが揺れないので、あまりエロさを感じないのかもしれません。 ロンドンのゾンビ化は、警備員の生気を吸い取られた解剖医同様、2時間の命の吸精鬼たちなんですね。今見てもなかなか怖いです。でもそれより、TNGのピカード艦長(パトリック・スチュワート)が女声でカールセンとキスするところのほうが怖くて、目を背けたくなりました。 [地上波(吹替)] 5点(2024-08-11 14:25:18) |
12. 炎のランナー
《ネタバレ》 2024年パリ・オリンピック開催中に、1924パリ・オリンピックの映画を観る…いやいつでも観られる映画より歴史的瞬間のほう観ろよ!って思いつつ、映画観ちゃうんだなこれが… “Chariots of Fire”『炎の戦車』。戦車というのはベン・ハーに出てくる競争用の馬車です。『我が炎の戦車(Chariot of Fire)を持て』という詩をモトに、イングランドの国歌の一つ『エルサレム』の歌詞の一部になっています。エルサレムは、1919年当時の愛国心高揚の歌だそうです。 有名なヴァンゲリスのテーマソングが美しい。このサントラのカセットテープ持ってましたよ。私の中でオリンピックの音楽といえば、この『タイトルズ』と'84ロスオリンピックの『ファンファーレ』です。ロスの方はジョン・ウィリアムズ作曲だったのか。だから、自分好みな音楽だったのかなぁ? さて、映画の背景を見ると、公開は'81年。前年'80年はモスクワ・オリンピックがありましたが、ソ連のアフガン侵攻を受けて。西側諸国の大量ボイコットがありました。日本もアメリカも、この映画の製作国のイギリスも不参加でした。その前の'76年モントリオールも、南アのアパルトヘイトを理由にアフリカ諸国がボイコット。その前の'72ミュンヘン・オリンピックでは映画にもなった事件が。平和の祭典がどんどん、国家間の政治問題に利用されていた時代だったんですね。そして'84年が西側の雄アメリカで開催のオリンピックです。盛り上げなきゃいけません。それでこの映画です。 映画の舞台を'24年にしたのは、製作国イギリスが、第一次大戦の大きな傷跡から立ち直ったキッカケとなった大会だったからでしょうか。駅でハロルドが、勲章を付けた負傷兵が荷物運びをしているのに驚くシーンが印象的です。 炎のランナーといえば、海辺を走るオープニングの、純粋に走ることを楽しんでいる選手たちの美しさ。この映像に、この映画の伝えたいことが全部詰まっているように思えました。この映像は、インドア派の私でも気分が高まりますよ。公開当時モスクワのボイコットで辛い思いをしたアスリートたちも、再び闘志が湧き上がったことでしょう。そしてその闘志をぶつける舞台は、3年後のロス・オリンピック。この地味で美しいオリンピック映画はアカデミー作品賞を受賞します。アメリカも後押ししたんですね。娯楽超大作のレイダースに受賞させるより、3年後のロス・オリンピック。 ナイキとかスポンサーが全面に出てて、スケボーとかブレイキンとか娯楽要素の強い新しい競技が出てきて、いろんな人種の人がいろんな国に所属して出場し、日常生活とセットでタレントのような取り上げられ方の現代のアスリートたち。 中東の宗教問題、人種問題、東西冷戦に翻弄されつつも、ショー・ビジネスと宣伝広告の媒体となっていき、代理戦争の如く国家の威信を背負って競技に挑んだ'80年代のアスリートたち。 自身の肉体・精神の競技を象徴するように、無地の白いシャツ。シンプルな国旗のワッペンを胸に、裸足で海岸を走る100年前のアスリートたち。 舞台の100年前と、この映画が制作された43年前との、時代の変化を感じますね。 [ビデオ(字幕)] 6点(2024-08-11 12:57:55) |
13. エレファント・マン
《ネタバレ》 “The Elephant Man”『象男』。本作が日本でヒットした要因の一つとして、今と比べて、人権意識がまだまだ未熟だった当時の時代背景があると思います。 私が子供の頃、夏祭りのお化け屋敷の隣に見世物小屋がありました。小屋の入口の隣に、上半身裸のお姉さんが背中を向けて座っていて、マイクを持った興行主が、彼女が生きたニワトリを食べるとか何とかって、啖呵を流してました。小屋の中には牛と人のアイノコ『牛女』や、蛇を食べる『蛇女』なんかもいるそうです。興味はあったけど、正直怖いのと親と一緒なのとで、見せてはもらえませんでしたが… まだそんな時代に公開された本作。当時はホラー(恐怖)映画にジャンル分けされていたと思います。珍しいモノクロ映画。ポスターの不気味な布を被った人物。テレビでは倒されて悲鳴を上げる少女と迫りくるエレファントマンの映像(CM?)が流れ、頭巾の下にはどんな恐ろしい素顔が隠れているのか?って方向で宣伝されていたと思います。 また後年『マイケル・ジャクソンがエレファント・マンの骨を買おうとして断られた』なんてゴシップも独り歩きして、子供にも関心の高い映画でした。 初見はテレビのロードショー。思っていたのと違う内容に、下衆な好奇心は消え去り、彼の容姿の不気味さより、今まで置かれていた環境の悲惨さ、彼の豊かな感性と世間の残酷さから、「ジョン・メリック可哀そう」に変わっていきます。 彼の心の美しさと、トリーヴス先生や婦長さん、ケンドールさんの献身的な行いに暖かさを感じ、バイツや夜警の男に怒りを感じました。 当時、本作をホラーに分類するのは、メディアの悪ノリにも思えますが、ホラーだと思って観たからこそ、内容から受けるショックと感動が大きかったように思います。それは見世物小屋でトリーヴス先生が初めて彼を見て、一筋の涙を流すのに似た感覚を、私も味わえたのです。今振り返るとメディアのファインプレーじゃないでしょうか? 彼を取り返そうとするバイツにトリーヴスが言う「他の人間の不幸を利用して儲けてくれ」という台詞に、見世物小屋の小人が言う「俺たちみたいな人間には運も必要だ」という台詞が答えになっていて、とても現実的に感じました。 トリーヴスたちの行いは偽善なのか?見世物小屋に来る大衆と、病院に彼に面会に来る著名人、夜警に金を払って見に来る連中、劇場で彼に拍手を送る観客は同類なのか?世間という見えない存在が、彼をどう思うかでなく、彼自身がどう思うかが大事かも。 同じ見られる存在にしても、見世物小屋と舞台女優は違います。ジョン本人が会うこと・見られることを望むか望まないかが大きな違いです。 難しいテーマですが、彼はトリーヴスに助けられ、人間らしく生きる権利、自分で選ぶ権利を得たことが重要に思います。 でも彼は、夜警が自分を見世物にしても助けを求めない。彼が選ぶのは自分をどうするか?だけで、他人にどうしてほしいなどは望みませんでした。 そんな謙虚な彼が唯一他の人に望んだこと、駅で追い詰められた時「僕は人間だ」と叫ぶ姿が心に突き刺さります。 彼が最後に選んだのが横になって寝ることでした。聖書を愛読した彼が自死を選んだとは考えにくいですが、もし目を覚ますことがなくても後悔はない、そんな決意での就寝は、悲しくも幸せな結末でした。 [地上波(吹替)] 8点(2024-02-26 12:05:56)(良:1票) |
14. 戦場のメリークリスマス
《ネタバレ》 “Merry Christmas, Mr. Lawrence”『ローレンスさん、あなたに祝福を。』 …思いっきり意訳ですが、今回改めて観て、こんなニュアンスじゃないかな?と感じました。 何だか不思議な映画ですよね。いろんな解釈ができそうで、名作なんだか駄作なんだか判断に迷います。ただ私は好きですこの映画。 そして音楽が良いですね。メインテーマはもちろん神曲ですが、“The Seed and the Sower”(1:30~)も負けじと名曲です。この映画が好きな理由に、神がかってるシーンが幾つかあって、そのシーンには必ず上の2曲が入ってます。 クリスマスとは縁遠そうな早朝のジャワ。ヤシの木の下を歩く軍服の男2人・ハラとローレンス。ここにメインテーマを被せる。このチョイスが素晴らしい。 脱走するセリアズの前にヨノイが現れ軍刀を抜く。『セリアズを斬りたくない』って表情に出てるのがもうたまらない。“The Seed~”の入り具合が完璧です。 酔ったハラ軍曹「ローレンスさん、ファーザルクリースマス。ご存知かな?」この時のハラさんの『合ってるのかな、意味通じてるかな』って表情が最高。俘虜なのに“さん付け”で呼ぶのが、平時のハラの人柄を感じさせて良い。「今夜!ワタシ!ファーザルクリースマス!」拙い英語に気持ちが感じられます。 ヨノイにキスするセリアズ。奇跡のスローモーション。あれ偶然撮れたそうで、そんな奇跡もあるものですね。そしてセリアズの髪を斬り敬礼するヨノイ。共に“The Seed~”が掛かります。 最後のハラのアップ「メリークリスマス!メリークリスマス!Mr.ローレンス」。 想像ですが、ハラとローレンスのシーンで掛かる“Merry Christmas~”は西洋(イギリス)の神を、セリアズとヨノイのシーンで掛かる“The Seed~”は東洋(日本)の神をイメージした曲じゃないでしょうか? 私はこの映画を、セリアズの中に神を見たヨノイ。ハラの中に神を見たローレンスという2つの話と解釈しました。 ヨノイは収容所の長。あの狭い世界では王のような存在です。2・26事件に参加できず、死に場所を失って今に至ります。神になり損ねたんですね。当時から話題のメイクは、ヨノイが『バッチリ化粧をした軍人さんだった。』という意味ではなく、美しい神でありたい、ヨノイの心の内側を視覚的に表現したのが、あのメイクだったんでしょう。なのできっと『メイクはオカシイ』なんて悪評が出るのも、大島監督は織り込み済みだったと考えます。 そんな収容所にセリアズが現れます。彼は処刑を恐れ、過去の弟との関係を後悔して生きる、普通の人間です。だけどヨノイから見て、(心に)メイクなどしなくても美しく、常に毅然とした態度のセリアズは、西洋の神そのものでした。 カネモトとデ・ヨンが死に、ヨノイは全ての俘虜に行(ギョウ)を強要。一方セリアズは花と盗んだまんじゅうを与えます。東西の文化の違いであり、神が民に与えるものの違いでもあります。 セリアズたちの脱走の際、ヨノイは遂に死に場所を見つけました。死んで軍神となりたい。そんなヨノイを見透かすように、セリアズはナイフを捨てます。ヨノイはここでも死ぬことが出来ませんでした。 遂にヨノイは俘虜全員を集合させ、重病人を死なせ、命令を聞かない俘虜長を斬り殺そうとします。セリアズっは身を挺して俘虜長を守り、ヨノイに博愛のキスをしました。ここでヨノイはセリアズの中に本物の神を見て、自分は神にはなれないのだと思い知らされました。 ハラはこの小さな世界では生殺与奪を与えられています。朝鮮人のカネモトを処刑しようとし、無線ラジオの件ではヨノイの判断を仰がず、独断で真犯人のチョウ?(と聞こえる)を処刑し、ローレンスたちを釈放しています。そんな勝手な事をして自室謹慎だけで済まされてます。そのためセリアズがヨノイにキスする場面は観ていません。 首から数珠を下げ、お経を唱える熱心な仏教徒のハラが、酒に酔って「ファーザークリスマス(イギリスのサンタの呼び方)」と、異教徒の神を名乗っておどけてみせます。立場は違えど友情を感じているローレンスへの好奇心から、彼らの信じる神がどんな存在か調べたのかもしれません。 処刑の前日、面会に来たローレンスに、ハラは流暢な英語で話します。好奇心の強いハラは、イギリスの文化と言葉を勉強していました。 そして別れ際、ローレンスの「Goodbyeハラさん、God bless you(あなたに神のご加護を)」に対し、ハラは「ローレンス!」と呼び止めます。『ローレンスさん、あなたに祝福を。祝福を。』ハラが思う最上級の贈る言葉。この時ローレンスはハラの中に本物の神を見ます。 …こんな解釈で、どうでしょう? [地上波(字幕)] 7点(2024-02-21 01:17:58)(良:1票) |
15. グラディエーター
《ネタバレ》 “Gladiator”『剣闘士』。ですね。 巨大な闘技場で剣闘士が殺し合う。これもう、少年ジャンプの格闘漫画ですよね。私の世代はみんな大好きだと思います。主人公が普通の奴隷でなく立派な過去があり、暴君に家族を殺された復讐劇という勧善懲悪もの。戦いの舞台も、地方の小闘技場から中央の巨大コロッセオへ。自分や仲間もどんどんキラキラ装飾が増えていく。敵の甲冑も不気味なのから強そうなのまで。そんで戦車だ、寅だ、伝説の剣闘士だとグレードアップしていくのも、まさにジャンプの王道展開。優れた娯楽性です。 CGで表現の自由度が大幅に上がった、今からおよそ四半世紀前。本作以降、古代ローマ時代(とその近辺)を舞台とした映画が幾つか制作されていますが、この映画こそが知名度・完成度共にいちばん優れていると思います。 この年代辺りを頂点に、以降、猫も杓子もCGで創られるようになっていきます。それはそれでお金が掛かるんだろうけど、どんなに凄い映像でも『あ、これCG表現だな』って解ると、途端に安っぽく感じてしまいます。 本作ではコロッセオやローマ都市の俯瞰図といった、実物で再現できないものをCGで補っているのが解ります。そして昔ながらの実際に作られたセットに、豪華な衣装。本物の馬車に戦車に装飾品やら小物やら。つまり、メチャクチャお金が掛かってるのが感じ取れます。映画観るのにどうせお金を払うなら、CGのアニメじゃなく、ゴージャスな本物を観たいもの。本作はそんな欲求を満たしてくれます。 マキシマス将軍が家族の復讐を果たし、悪のコモドゥスを倒して、ローマに一筋の平和が訪れ、仲間の奴隷は故郷へと帰っていく。シンプルで良いですねぇ。ストーリーは創作部分がたっぷりで、本作を史実と比べるのは無意味だと感じます。本作をキッカケにイメージを膨らませて、史実に興味を持つのが正しい見方でしょうね。でもこの時代の人の名前って、長くてみんな似てて、難しいなぁ。 [DVD(字幕)] 8点(2024-02-18 16:19:37) |
16. イエスタデイ(2019)
《ネタバレ》 “Yesterday”『昨日』という意味のビートルズの楽曲。世界規模の謎の停電の翌日、ジャックが初めて歌って聞かせたビートルズの曲。 『もしもビートルズが存在しなかったら?』って、考えてみたらラノベの異世界モノみたいな展開。そうなったら、ビートルズに影響を受けたミュージシャンはどうなってるんだろう?なんて細かいことをチクチクするような映画でなくて、大雑把にその架空の世界観を楽しむ作品だろうね。 ロンドン五輪の時、ポールがヘイ・ジュードを歌った時、若者が「?」ってなったってのを、ネットで見た。「知らないおじいさんが“おい、ユダヤ人”って歌ってるぞ?」みたいな。まぁ日本だと三波春夫とか橋幸夫が流行ってた時代の曲だし、私よりふた回りも若い世代だと、ビートルズやポールを知らないってこともあるだろう。もちろんネットの口コミだから、ウケ狙いのジョークの面が強いとは思うけど。 このロンドン五輪開会式の総合演出がダニー・ボイル。この映画を作ったキッカケは、実はこんなところにあったのかもしれない。だから映画最後の曲はヘイ・ジュードだったんだろう。タイトルはイエスタデイなのに。 さて、ビートルズが存在しない世界で、映画のように過去の名曲がヒットするかはちょっと疑問。BTTFのジョニー・ビー・グッドみたく同じ時代に世に出たなら確実にヒットしただろうけど、今は多様性の時代。ポップス、ロック、EDMと方向性が多岐にわたり、ネット配信でヒット曲のサビしか聞かない時代に、1曲(ヘタしたら1枚のアルバム)で一つのメッセージを表現するビートルズの歌の価値が、通じるかなぁ? またインド系イケメンのヒメーシュ・パテルを主人公にしたのも、どんな意図があったんだろう?14億人市場狙い?ビートルズが売れたのは歌の魅力だけでなく、4人のビジュアル面(アイドルの一面)もヒットの大きな要因だったと思う。ジャック一人じゃジョンとポールのハーモニーは出せないわけだし… あの人が生きていたのは意外性があって嬉しかった。ターミネーター・ニューフェイトのジョンを観たとき以来の嬉しさかな?ここはとても幸せな気持ちになれたわ。でもこの映画はポールがメイン。劇中印象的だった楽曲の多くが、イエスタデイもヘイ・ジュードもレット・イット・ビーもエリナー・リグビーもバック・イン・ザ・U.S.S.R.もザ・ロング・アンド・ワインディング・ロードもポールの楽曲。 映画と違って、今から60年も前に本当に伝説を作って、そして今でも現役で活躍しているビートルズが居るんだよ。って、そんなメッセージにも思えたわ。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-01-25 22:50:39) |
17. チャーリーとチョコレート工場
《ネタバレ》 “Charlie and the Chocolate Factory”邦題まま。原作の邦題は『チョコレート工場の秘密』だそうです。公開当時、劇中チョコレートの香りがするって演出があった記憶があります。劇場で観ときゃよかったかな。 今回久々に視聴したけど、ウンパ・ルンパ以外、内容ほとんど覚えてなかったです。個性的な4人の子供(ライバル?)、こんなの、居たっけ? バイオレットなんて、後のヒットガールを彷彿とさせる雰囲気で、可愛くてカッコイイ。もっと記憶に残ってそうな気がするけど、登場は格好良かったけど、その後活躍もなく、青紫のまん丸状態になってフェードアウト。 他の子も同様で、一切活躍すること無く、行儀の悪い行いしてフェードアウト。みんな劇中チャーリーとそんなに絡むこと無く、勝手に自滅して勝手に退場して、その後が語られること無くそれっきりだったから、きっと記憶に残らないんだわ。 でも、子どもたちのフェードアウトは、結構原作通りだったので、案外再現度は高いのかもしらん。 ゴールドチケットの獲得方法。①食いしん坊だからたくさん食べてて②父親の財力を活用③勝つために好物のガムをチョコに変えて④統計取って一発獲得と、個性的なメンバーに対し、⑤チャーリーは拾ったお金で、店員おじさんが渡したチョコが当たるという、なんか一番モヤモヤする当選方法。 そもそも工場見学のチケットにそこまでの魅力を感じるか疑問だけど、優秀な子も多いのに、有り得ない方法で勝手に自滅していく様子が楽しめるかどうかがキモだろうか。'71年の映画とかミュージカルとか、派生作品も多いみたいで、バージョンの違いを楽しむのも良いかも。 [地上波(吹替)] 6点(2024-01-05 19:36:15) |
18. キック・アス
《ネタバレ》 “kick ass”ケツを蹴る≒『ボコる』って名前のヒーロー名。 特殊能力を持たないへなちょこヒーロー映画。まぁ痛みを感じないのも特殊能力と言えばだけど。 映画観る前にYou Tubeでヒットガールのアクション動画を観てしまったわ。躍動感のあるスピーディな銃撃戦とクロエのカッコ可愛さに魅了されました。 “本編はもっと凄いんじゃないか?”って思って観た結果、やっぱオイシイところはヒットガールが持って行ってしまったかな? 主役のキックアス。マーベル&DC系ヒーローとは違って、普通の人が普通のままヒーローになるっていうのが、なんかすごく馴染める設定。日本はアメリカ以上にヒーロー大国。ライダーとか戦隊とか以外にも、地方自治体や企業のマスコットとして、ゆるキャラ並みにたくさんのご当地ローカルヒーローが存在する。私の地元だとホワイト・ストーンズってのが…まぁそんなローカルヒーローと、ビッグダディたちリアルヒーローが融合する妙は楽しめました。ギャングにボコられるチンピラを勇気を出して助ける姿はカッコよかったわ。普通の人らしいカッコいい戦い方。 キックアスが、最後まで努力と勇気だけで悪に挑むへなちょこヒーローだったら…私はそっちを期待していたんだろうか? 凄い可愛い彼女と普通にラブラブしてるデイブ。ゴミ箱にティッシュの山を作るオタク丸出しのオープニングからは想像できないリア充っぷりに、なんか調子が狂ってしまった。事前に観てしまったヒットガールの活躍は本作の最後を飾るメインアクションとも言えるシーンで、ここにどうキックアスが絡んでくるか期待したところ、まさかの空飛ぶガンキャノン。もう普通のヒーローじゃん。これビッグダディ(脇役)の登場のしかただよなぁ。メイン(キックアス)とサブ(ヒットガール)の活躍のしかたが入れ替わってる。 へなちょこヒーローが本当の(悪く言えば普通の)ヒーローになってしまうと、やっぱ『ヒットガールが良かったね』って感想に落ち着いてしまうかな。 [DVD(字幕)] 6点(2023-12-16 15:13:02) |
19. 仮面の男(1998/ランドール・ウォレス監督)
《ネタバレ》 “The Man In The Iron Mask”『鉄仮面の男』おぉ、スケバン刑事2とかの元ネタで、実際にそういう人物が存在したんだ、へぇ~~。三銃士のその後、鉄仮面伝説、ルイ14世の秘密。複雑になりそうなお話なのに、とても分かり易い娯楽映画でした。 何度か映画化され、テレビアニメにもなっていた『三銃士』。私も基礎知識としてどこかで観ておくと、よりこの映画を楽しめたんだろうなぁ。よく知らないんだよなぁ…。時の人ディカプリオが、横柄な悪人ルイ14世と、心優しいフィリップの2役を演じますが、ホント顔つきを観ているだけで、どっちの役か解るくらい、見事に演じ分けています。この一本でディカプリオを2倍楽しめる構成になっています。 さて、三銃士の筋を知らない私は、この物語の主人公が誰だか解らないのです。この映画のウリ(主演俳優)は間違いなくディカプリオなんですが、ルイが主役というのは違う気がしますね。じゃあフィリップか?ってなりますが、彼は自分の意志で動くというより、両陣営の操り人形な感じです。なので三銃士(四銃士)が中心人物になるんでしょうけど、ダルタニアンが主役か?というと、どちらかというと悪に加担する側なので違うような…。 映画の中の悲劇としては、ラウルとクリスティーヌの悲恋なんだけど、どちらもアッサリと最後を迎えるため、印象が薄いです。クリスティーヌももっと抵抗してほしかったし、ルイももっと威圧的に悪党らしくがっついてほしかった。アトスが一時期フィリップの父親代わりになりそうですが、主役かというと、どうも違う。ポルトスは主役ってガラじゃないから、消去法でアラミスになるのかなぁ?うぅ~ん… 歴史モノにしてはライトな創りで、クソ真面目な作品でも無いんだけど、かといってコメディ要素が強調されるでもない。好き嫌いは結構ハッキリ出る作品かもしれません。見せ場とか演出とかが、近年のマーベル系ヒーロー映画に近い気がしました。 忠臣ダルタニアンの秘密。これはマズいでしょう。物語上、ダルタニアンが一番悪い人になってしまっている気がします。 [DVD(字幕)] 5点(2023-11-16 23:09:50) |
20. イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密
《ネタバレ》 “The Imitation Game”『模倣ゲーム』。コンピューターに人間らしい回答をさせて、人間臭さの精度を見るテスト。って解釈かな?それで良いのかな?まぁまとにかく、主人公アランが嫌なヤツとして確立していて、この人を主人公にして感情移入できるのかなって不安になる出だし。 ギスギスしたチームにジョーンが加入、まさに人間関係の潤滑油。研究とは無関係な場所からヒントを得て(よくある展開といえばその通りだけど)の、困難を乗り越えての解析装置完成は、どんよりした空気が吹っ飛ぶカタルシスを感じました。 …まさかここからが真のドラマの始まりだったとは。 大局的な勝利のために助けられる味方を見殺しにする。神の目を持ちながら感情に流されず、必要最低限の情報利用に留まることは、どれだけ心身が疲労することだろうか。信頼できる仲間がスパイ。ナチスはいま戦っている敵だけど、将来はコミュニズムとも戦う時代が来る。敵にバレちゃ不味い機密情報を仮想敵のスパイが共同制作している。あぁこれこそ、タイトルの『イミテーション・ゲーム』だな。 可能性だけど、どこかの戦闘で暗号機と暗号解読員が奪取されて、ドイツ軍が“送った暗号が筒抜けになった可能性”を考えて、アランたちとは無関係に、新エニグマを開発する可能性もあっただろう。もしくはエニグマ解読を大々的に活用したとして、ドイツが次なる暗号機を、すぐに作ることが出来ただろうか?伸び切った各戦線に暗号機を配備して、誤用・誤解釈なく運用できただろうか? アランは青酸カリ入りのリンゴをかじって死んだそうな。彼の死から30年後にかじられたリンゴがトレードマークの『マッキントッシュ』が世に登場する。 [インターネット(字幕)] 7点(2023-09-25 01:26:33) |