1. 神様メール
うーん、アイデアや設定だけ見ると面白くなりそうと期待してたんですが、残念ながら中身は正直お寒いだけのレベルの低いコメディでした。聖書を茶化したり人の死を笑う風刺要素の強いブラックコメディなのかと思っていたら、いつのまにか一人一人の人生を語るオムニバスみたいになっていきます。それも大して魅力があるわけでもない人物ばかりなので終始見ていてどうでも良い気持ちが続きます。色んな映画の小ネタも出てきますが、ほとんど意味がないパロディでしかないです。神様がブリュッセルに住んでいるという基本設定だけで展開できる想像力がないので思い付いたネタを適当に突っ込んでるだけという感じです。これならブリュッセルに住んでいる平凡な女の子の妄想のお話にした方が面白くなりそうですね、本当に神様の家族の話にしちゃってるので感情移入もしづらいのです。 [インターネット(字幕)] 3点(2023-10-12 23:12:09)(良:1票) |
2. 家族を想うとき
ドラマ性も情緒のかけらもなく徹底的にリアリズムを基調にした作品です。これを見れば映画のリアリティには手持ちカメラの揺れも長回しも関係ないということがよくわかります。家族以外との繋がりがなく多様な人間との交流の機会もなければ団結しての抵抗も願えない、確かにこれはイギリスに限らず日本でも同じ状況が見られる紛れもない現代社会の現実そのものであり、83歳の監督がここまで社会に対して冷静で客観的な視点を持てているのは驚異的ではあります。ただあまりにもこれは現実そのものでしかなく、それはそれで凄い映画と認めざるを得ないのですが見ていて途方に暮れてしまうだけというのが正直なところです。ところどころにクスッと笑えるような台詞もあるのですが、この作りだと笑うに笑えません。安易に救いや泣ける展開があればいいとは言いませんが、この映画にはリアリティ以外に評価できる点がないように思えます。自分の家族以外への広い視野を持てない人間が主人公とはいえ、映画で描かれる世界もまたそこから広がっていくことができないところも欠点だと感じます。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-10-11 23:34:19) |
3. 母の聖戦
ダルデンヌ兄弟やクリスティアン・ムンジウが共同製作者に名を連ねているのはなぜなんだろうと気になったんですが、監督はベルギーを拠点に活動しているルーマニア生まれの方らしいですね。手持ちカメラのリアリティのある映像スタイルはダルデンヌ兄弟らしく、社会の中で孤立した女性が主人公である点はクリスティアン・ムンジウ監督の代表作4ヶ月、3週と2日を思わせるところがあります。もっと言えば前述の監督たちと似たような作風でしかなく、この監督個人のオリジナルの部分は希薄に感じます。さらに不満点を上げるとダルデンヌ兄弟やクリスティアン・ムンジウが不法移民や中絶を試みようとする女性のようなその社会で倫理的・道徳的に攻撃されるような立場の人間を主人公にすることで我々の属する社会の方が間違っているのではないかという揺さぶりをかけてくるのに対し、この映画の主人公は特に社会的に非難されるところのない平凡な一般市民でしかありません。確かに劇中の登場人物たちは主人公に追及をやめろと迫ることもありますがそれは麻薬カルテルの報復を恐れてでしかなく、主人公に同情的で協力もしてくれるので主人公はあくまでこの社会では善の側であるという立場から動きません。せめて人権を無視した軍の拷問に対する葛藤がもうちょっとあれば良いのですが義憤にかられてそれに協力すらしてしまいます。麻薬カルテルが悪であるということに異を唱える人間はいないでしょうし、いかにも社会派らしいルックを備えていてもこれではただの勧善懲悪的エンターテインメントに近い内容でしかないと思います。逆に言えば単純に麻薬カルテルを追及する活劇として楽しむこともできる内容であり、そこはまたダルデンヌ兄弟やクリスティアン・ムンジウに似ているところがあるとも言えます。しかし宗教的要素が希薄なこの映画に聖戦という邦題を付けるのはいかがなものでしょうか。 [DVD(字幕)] 6点(2023-09-09 20:47:41) |
4. マネーボーイズ
監督はアジア系で中国で幼少期を過ごしてはいるもののオーストリア在住のほぼヨーロッパの人間であり、台湾で撮影されていながら舞台設定は架空の中国の都市という複雑な背景の作品です。頻出する水のモチーフ、曇天の中の薄暗い映像、ロングショット中心で長回しを多用、同性愛やセックスワーク、田舎の貧しさと抑圧的な価値観、まあ確かに私もこのような映像美やテーマに期待してこの映画を見たわけなのですが、物語に没入するよりも今はこういう要素を散りばめとけば映画祭等で作家性がある作品として高く評価されるだろうという戦略のようなものが見えてくるのでうんざりしてきます。こういういかにもアート映画っぽい要素を取り除けば、内容はややシリアスな恋愛映画程度のものでしかないと思います。嬉しそうにバイクで相乗りする場面なんか何度も同じようなシーンを過去の映画で見た気がします。ヨーロッパの人間が監督した架空の都市を舞台にした作品であることを考慮すれば、これが現実の中国の同性愛者の境遇や社会問題を描いたものとしてそのまま受け取ることもできないでしょう。別にステレオタイプだとか差別的とまでは言いませんし真面目に作られてはいるのですが、新しい視点を得られるような作品ではなかったです。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-08-27 22:21:26) |
5. 皮膚を売った男
アートについての映画ではあってもアート映画ではなく内容はどちらかというとエンタメ寄りです。シリア情勢に詳しくなくても理解できるぐらいわかりやすい内容で、それは表向き西洋のアラブ人への偏見を批判しているようで西洋から見た無難なアラブ人の姿しか描けていないとも感じます。序盤、恋に舞い上がった主人公が「革命だ!自由だ!」と叫んだりそれが原因で不当逮捕された上にそこからあっさり脱走して国外逃亡までしてしまうのがほんとにこんなことあり得るのかと疑いの目で見てしまうのですが実際どうなのでしょう。アート業界側の人間はいかにも俗物という人物造形で浅く感じますが主人公の側もそれをうまく利用して立ち回っている様子も描かれており一辺倒ではない含蓄のある内容になっているとは思います。演出として意図したものかはわかりませんが、ビデオ通話の時差による映像のずれがコミカルな効果を上げていて良いです。一方頻出する鏡越しの画は特に意味があるとは思えませんでした。エピローグは結局作中で提示された問題を放り投げてるような安易な展開になってしまったのが残念ですが、自由に対する皮肉めいた視点を提示しているのは面白いと思います。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-08-04 23:59:06) |
6. ベネデッタ
さすがにご高齢ともなると直球のエログロエンターテインメントはきつくなったので文芸風味の体裁を整えてみましたというところでしょうか。結局できあがったのはただのエログロ娯楽映画でキリスト教批判や同性愛の要素は具体的なメッセージというより単に下品な場面を見せるための口実としてしか機能しておらず、熱心なキリスト教徒でもなければこの程度の描写に心を揺さぶられるとも思えません。物語を語る上で不必要なほどの暴力やヌードに濡れ場、それも往年ほどの過激さはなく現代ではもはやありふれた大人しい描写でしかありません。中世は性的な抑圧や不当な暴力に溢れていたなんて今時誰でも知ってますしそこにテーマとしての目新しさもありません。歴史物として衣装や美術はちゃんとしていることが却って内容の平凡さを際立たせているとすら言えます。この程度の内容ならば80年代に作ることも可能だったでしょうし、その時代ならばより挑発的で意義深い作品になったでしょう。ここに見られるのは成熟というよりも老衰と言わざるを得ません。 [DVD(字幕)] 4点(2023-07-29 23:08:24)(良:1票) |
7. TITANE/チタン
さすがに賞を受賞しただけあって撮影や演技はちゃんとしていますし、最低限読み取りが可能なストーリーもあります。問題はそれが現実の問題と何か関係があると思えないところです。主人公は冒頭の幼少時から車中でエンジン音のような唸り声をあげており既に車に狂っているようなのであの手術が何かのきっかけになったように見えません。実際頭の中にチタンを埋め込んだところで性の対象が変化することなどあり得ないでしょう。男だろうとレズビアンだろうと黒人だろうと構わず殺しまくるのでその行動に一貫性はなく何か意味を読み取ろうとしても無駄だと思えてしまいます。消防隊関係のエピソードとなるとあくまで男装の女性の境遇が描かれるだけで、チタンが埋め込まれたことによる肉体変化という基本設定もほとんど活かされていません。アンチモラルというだけで新しいモラルを提示できなければそれが一瞬のインパクトだけで終わってしまうという好例です。 [DVD(字幕)] 4点(2023-07-15 23:26:04)(良:1票) |
8. モリコーネ 映画が恋した音楽家
ジョン・ケージなんて正直何の価値があるのかいまいちわからなかったのですが、我々大衆に理解できなくともプロの世界には多大な影響を与えていたことがよくわかります。この映画で再発見したのはエンニオ・モリコーネは音楽家である以上に最高の映画演出家であったということですね。ウエスタンの冒頭シーンは音楽に頼らないセルジオ・レオーネの純粋な演出の力で見せているシーンだと思い込んでいたのですが、あれこそまさに現代音楽の発想を活かした演出だったのだと気付かされました。おそらく後世においては音楽を担当した作品のどの監督よりもエンニオ・モリコーネこそが重要な人物として名前を残すことになるのではないでしょうか(それと同じことがこの作品にも出演しているジョン・ウィリアムズにも言えるかもしれませんね)。そういう意味ではスタンリー・キューブリックは音楽を依頼するチャンスを逃してむしろ運が良かったのかもしれません(笑)。ジュゼッペ・トルナトーレ監督の作品は感傷的で大袈裟なメロドラマというイメージであまり好きではないのですが、この映画では観客へのサービスを意図した名曲集のような構成ではなくエンニオ・モリコーネのキャリアと思想を語るのに必要な映像と音楽を優先する姿勢で好印象です。ドキュメンタリーとしては基本的にインタビューと過去の映像を編集しただけの何の変哲もない作りではあるのですが、久々にこの映画が終わってほしくないという気持ちにさせてくれました。 [映画館(字幕)] 8点(2023-05-03 21:47:39)(良:1票) |