1. のんき大将 脱線の巻
《ネタバレ》 ようやく観ることが出来ました。しかもスクリーンで!カラーバージョンの方です。あの強烈な色使いはまだ片鱗を見せている程度ですが、驚異的な演出力と音に対する感覚の素晴らしさは既に際立っています。まあとにかくこの作品、後のタチ作品と同じく徹底的に奥行きにこだわって作られています。ようやくの思いで立てたポールの上にはためくフランス国旗に広場に集まった人々が敬礼しているのを、二階から見下ろすフランソワが自分に対するものだと勘違いしてそれに答えてしまうシーンのあまりの素晴らしさに、手元に持っていたコーヒーをこぼしてしまいました。きっとタチなら、コーヒーをこぼしただけでまた一騒動起こしてくれることでしょう。 この作品の見所は、とにかくまだ若々しいタチによる体を張ったアクションです。自慢の自転車で町から町へと疾走しては行く先々で問題を起こすフランソワ。自転車で、また自らの足で全力疾走し、川にダイブまでしてしまう、こんなにエネルギッシュなタチは見たこと無い!是非是非、自転車に飛び乗る練習に励むタチを見てやってください! スラップスティックコメディはよく「チャップリン的」か「キートン的」かといった色分けがされますが、タチという作家は厄介ですね。過剰な動きと一つ一つのギャグはチャップリンを思わせますが、無口なキャラクターと映画的構造をフルに活用した演出はキートン的です。自転車一つをとってみても、木の柵の向こう側を手で押している自転車に乗ろうとするところで、木の柵が邪魔してなかなか乗ることが出来ない彼はチャップリン。坂道を意思を持った生き物のように転がっていく自転車を必死で追いかける彼はキートン。ひょっとしてジャック・タチはチャップリンとキートンの実の息子なのでは?と思ってしまいます。まあ、小男の二人からどうして長身のタチが生まれたのかという疑問は残りますが・・・(男同士だろ、というつっこみはやめてください(笑)) 9点(2005-01-30 18:23:55)(良:2票) |
2. ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ
観て、すぐにサントラ借りました。直後に同じ音楽系ドキュメンタリー映画『永遠のモータウン』を観たんですが、雲泥の差ですね。もちろんこっちが雲であっちが泥です。へたな演出に走らなかったヴェンダースは正解ってことです。最後は彼が追い続けている「社会の進化とそれに伴い肥大する喪失感」というテーマにも自然とつながってきますし。とにかく、全国のおじいさん・おばあさんに見てほしい。そうしたら20%増しくらいでみんなイキイキすることでしょう。 6点(2005-01-25 19:08:09)(良:1票) |
3. 2046
『海猫』の直後に観たので僕の中の評価が不当に上がっているだけなのかもしれない。でもいい映画だったと言わざるを得ない。やはり映像で語らなければ映画でない。かなり前方で見たので、本当にスクリーンに吸い込まれるような感じでした。月並みな言葉ですが、美しかった。 ありきたりなラブストーリーを断片的につなげただけの雰囲気映画、と言ってしまえばそれまでですが、これだけ雰囲気を作ってくれれば僕は満足です。香港の60年代ロマンティシズム・ダンディズムの濃厚な香りにうっとりしてしまいました。チャン・ツィイー、フェイ・ウォン、コン・リー、カリーナ・ラウの美しさ・妖艶さは言うまでもありませんが、なんといってもトニー・レオンこの人に尽きるでしょう。ニヤケ顔からにじみ出るダンディズム、背中から漂う哀愁。“キング”と呼ばれてた頃のクラーク・ゲーブルのようでした。こんな男になりてーなー。絶対なれないけどさ。 6点(2005-01-25 19:00:35) |
4. モーターサイクル・ダイアリーズ
これは本当にあの愚作(と個人的に思っている)『セントラル・ステーション』の監督の作品なのか?という疑問を抱かずにはいられなかった。ドキュメンタリータッチで、『セントラル~』とは全然演出が違うじゃないか。これは素晴らしいぞ! と思ったら川を泳いで渡るシーンでやはりベタな感動に走っていた。あそこを除けば出来のいい青春ロードムービーだったのにな。それでも今年度ロードショーされた外国映画の中では一番良かった。ゲバラのトートバッグと原作買っちゃったし。 7点(2005-01-25 18:48:33) |
5. シティ・オブ・ゴッド
これはやられた。彼らは何故殺人を犯すのか?「太陽がまぶしいから」だな。 リトル・ダイスが殺人を犯して恍惚に浸るときの表情には心底ゾッとした。そしてふと思った。10年前のえなりかずきならあれを超える「映画史上最も恐ろしいシーン」が実現できたはずだと。 9点(2005-01-25 18:40:47) |
6. スリ(1959)
ブレッソンさん、どうやったらこんなものが撮れるんですか?フレームに収まっているすべてのものが生きています。こんな映画二度と出てこない。 8点(2004-07-07 14:37:42)(良:1票) |
7. セントラル・ステーション
おい、ベルリン国際映画祭とゴールデングローブ賞!どうした? 4点(2004-04-04 10:04:04) |
8. 過去のない男
「過去の記憶を全て失ってしまった」という、ストーリー展開を膨らませやすい設定を得たからといって安易に物語的なプロットで固めていくと単なるB級娯楽作品に成り下がってしまいます。本作品は設定からの誘惑に引きずられることなく淡々と地に足をつけて、主人公の行動を追っていきます。面白いセンスの音楽とユーモアで彩りを添え、良質で個性的な作品に仕上がっています。全体的に控えめでありながらもところどころコントラストの強い色調が飛び出す画面は印象に残ります。賛否両論を呼ぶ大根演技は、作品の雰囲気作りに一役買っていると思うんですが、どうでしょう? 7点(2004-03-11 20:40:43) |
9. ベニスに死す
ラストのソフトフォーカスはややあざとい。ズームアップの多用も無粋に思えます。素晴らしい作品ではありますが。 8点(2004-03-11 04:04:46) |
10. アンダルシアの犬
映画を勉強するという意識のある人以外は見なくてもいいんじゃないでしょうか。 5点(2004-03-07 17:07:43) |
11. トラフィック(1971)
初めて見たタチ作品です。度肝抜かれました。 10点(2004-03-01 16:00:39) |
12. 霧の中の風景
ヘリコプターが飛ぶシーン以外、全て曇天ですね。劇団と出会う場面の木がとても美しいです。 9点(2004-02-26 04:52:07) |
13. ベルリン・天使の詩
小津、トリュフォー、タルコフスキーをファーストネームで呼んだところに感動した。 「驚く」というのは生きている証だと作品内で語られるが、とすると僕はこの作品の鑑賞を通して「生きていること」を確認したことになる。悩むことも愚痴をこぼすことも生きているからこそ、と天使の視点から暴かれる生の実感。悩める人への救済の映画。人生に絶望している人はこの映画を見て、そして聞いてほしい、ピーター・フォークの言葉、「You are not the only one.」を。 9点(2004-02-20 08:11:41)(良:3票) |
14. 突然炎のごとく(1961)
見終わってまず感じたのが、「女ってよく分かんねーや」。女性から見ると逆に「こんな女に振り回される男って分からない」となるんでしょうか?それとも単に僕が未熟者なだけでしょうか?とにかく男と女の関係がグルグル動く、いかにもフランス的な映画でした。 ひとつのシーンが印象に残りました。まだ戦争前、三人が遊んでいて、海岸に着き男二人が組み合っているときにジャンヌ・モローが白いパラソルをひらきます。右上から左下に走る海岸線、じゃれあう二人の男、浜辺に咲いた白いパラソル、とても美しい映像でした。 6点(2004-02-15 23:14:09) |
15. ゲームの規則
初めて見たときは誰が誰だか人間関係が全く把握できず困惑した。2回目の鑑賞で最初のキャスト紹介を確認しつつようやくその人間関係の悲喜こもごも恋愛・友情の絡まりあった群像劇の全体像を把握することができたとともに、その立場・階級の上下左右を貫き通す人間に対するシニックな洞察の深さに見終わった後しばらく放心した。とても印象に残るパン撮影も含めて、どこまでも優雅であり続けるルノワールのカメラだが、なぜだろうか画面からは登場人物を少し突き放すような冷酷さをほのかに感じる。愛すべきオクターヴでさえそうだ。室内の会話でも決して人物には寄らず、ときにはロングショットさえ使う徹底さがそう感じさせているのだろうか。全ての人物が敗者という物悲しい結末は、ルノワールの人間観を予感させる。それにしても1シーン1ショットを原則としていながらこれだけ人物の出し入れが多いと演出はさぞ大変だろう。人を動かすのがうまいなあと感心した。 ラストシーンはどこか『ミスティックリバー』にも通じるものがある。 9点(2004-02-14 10:45:28)(良:1票) |
16. アンダーグラウンド(1995)
《ネタバレ》 衝撃的。普通の反戦映画だと思っていたので、ラスト30分までは「なんだこのわけわからんテンションだけ高い映画は?」とイライラしながら見た。リアリティの欠片も無い映像や、頓珍漢な演出(劇場で観客が一斉に頭を右左と動かすところなど)にも辟易していたが、マルコが弟に絞め殺されるあたりで「おや?もしかして…」と“何か”に気づき始めた。どうやら駄作では無さそうだ、伊達にパルムドールを取っただけのことはあるかもしれない、と。ラストシーンでようやくその“何か”が分かった。『81/2』だ(見終わって皆さんのレビューを確認したらやっぱり同じこと思った人いましたね)。久々にこんな映画作家の才能爆発作品を見た。一歩間違えればただの「とんでも映画」になりかねない作品に、ここまでのパワーと説得力を与えたこの監督の構成力は天才。しかし、ユーゴに関する知識が全く無かったためストーリーについていけず、僕はあまり楽しめなかった。刺激的なショットや面白い演出も特に無かったので点数はこれくらいで。 6点(2004-02-13 22:54:52) |
17. 恋のエチュード
外ロケでありながら完璧な映像。海に向かう斜面で3人が遊ぶときの構図の美しさといったら……。 この作品はとにかく手紙にこだわっている。手紙の内容を書き手がモノローグする不自然さを逆説的に訴えているのではないかとさえ思う。特に妹が恥ずかしい告白をしたためた手紙をジャン=ピエール・レオーが読む際、手紙にかぶさるように内容を読み上げる妹の姿が半透明に浮かぶシーンは、リアルさからはかけ離れている。 また、妹がテニスをしている最中目がくらむシーンもトリュフォーにしてはやや不自然だが、ヒッチコックへのオマージュではないか。 8点(2004-02-13 13:15:39) |
18. 大人は判ってくれない
擬似父・トリュフォーの撮るジャン・ピエール・レオー成長記の第一章。しかしこの監督は人が走っているのを撮るのがうまい。終盤、ドワネルが走り続けるシーンは本当にフィルムが生きている。 8点(2004-02-13 12:56:07) |
19. 野性の少年
「この映画をジャン・ピエール・レオーに捧げる」、トリュフォーの愛が満ち満ちている。トリュフォー自身が演じる擬似父親の葛藤は、小津の『生れてはみたけれど』の斉藤達雄演じる父親のそれとよく似ている。『生れては~』と違って本作品は完全にトリュフォーに感情移入するようにできているので、幼稚園児か小学生くらいの子供を持つ父親が見ると共感するところが多いのではないか。まだ二十歳にもなっていない僕にとっては、退屈こそしなかったものの『生れては~』に比べると訴えかけてくるものは弱かった。ただ、なんといおうがアルメンドロスの美しすぎるカメラは必見。 7点(2004-02-12 23:43:13) |
20. フェリーニのアマルコルド
ノスタルジーを描かせたらフェリーニの右に出る者はいない。この映画を撮っている最中フェリーニは楽しくてしかたがなかったのではないか。真っ白な街に降り立った孔雀の美しさは一生忘れられないイメージ。 9点(2004-02-12 23:28:06) |