1. コッポラの胡蝶の夢
《ネタバレ》 邦題の「胡蝶の夢」というタイトルよりも「邯鄲の夢」と言うタイトルが相応しいと思える内容ですが、高校の漢文の授業を思い出してもらっては困るのでこのようにしたようです。と言っても正式な邦題も中国の古典である「壮子」、直接的には作品の最後の方でのドミニクと同僚らしい年配者との集いでの会話から来ています。老子と並ぶ道教の思想家である壮子は西欧の芸術家に多大な影響を与えました。わたしが知る限りではメキシコ人ノーベル賞詩人兼哲学者でスペイン語圏に俳句を導入したオクタヴィオ・パスが「胡蝶の夢」というタイトルの詩を書いていたはずですで監督のコッポラも壮子の胡蝶と邯鄲の故事の両方を知らなかったはずはありません。そして中国語の習得に励むドミニクが書いた最後の漢字は「未熟、無知」を表す「蒙」です。それはいいとして、中盤からドミニクがナチスの秘密警察に追われるようになった経緯はよく耳を傾けたのですがわかりませんでした。ストーリーはハンガリーの首都のブダペストで始まり。ドミニクは精神科医の助けで中立国スイスに逃げ、そこで戦後になってヴェロニカと出会うのだと思うのですが、間違っていたらごめんなさい。でも今回2度目となる鑑賞ではそれらはどうでもいいことだとわかっていました。ただ、東欧の良識ある人々にとって、特に第一次世界大戦終結までオーストリアと同じ君主を元首として戴いていた独立国のハンガリーにとって、1939年にオーストリアがナチスソイツに無血併合されたことは悪夢のような出来事だったに違いなく、第二次世界大戦後そのままソビエト連邦の傘下に入ったこともまた然りだったということは記憶に留めないといけません。この作品が制作されたのはベルリンの壁が崩壊して9年後ですが、ナチスドイツとソ連の支配下から脱することができた東欧の人々はこの頃ようやく自分の頬をつねっては「醒めない悪夢はないのね。」と呟き始めたのではないでしょうか? バルカン半島だけは1984年に自由ろ繁栄を謳歌する冬季オリンピックを主催した後で民族抗争の嵐に見舞われ、10年後のオリンピックの開会式で黙祷が捧げられたことを鮮明に記憶しています。醒めない悪夢がないなら醒めない甘い夢もないということなのでしょうか。。。これを書いている現在、わたしが住む街ニューヨークでは伝染病が猛威をふるい、第二次世界大戦後に国際平和の実現のために設立された国連の事務総長が(おそらく)ニューヨークから「人類の敵であるウイルスと戦うために世界中の全ての紛争を停止せよ!」という号令を発しました。戦争の脅威は死と破壊ですが、死と経済衰退という脅威を目下人類に与え続けている伝染病が「醒めない悪夢は本当にないんだね。」とみんなが思えるような形で収束し、全ての人類が地球に生まれて良かったと思えるような思い出とともに人生を全うできるといいです。 [DVD(字幕)] 8点(2020-04-06 04:53:02) |
2. アンナ・カレーニナ(2012)
グレタ・ガルボ、ヴィヴィアン・リー、岩下志麻の日本版(NHKドラマ)の三つとどうしても比較してしまいます。NHK銀河テレビ小説だった日本版はもう見ることはできないけれど、これが一番好きでした。キーラ・ナイトレイの知的な風貌は不倫にのめりこむ奥様には向いていないと思うんですけれどね。女優として同じくらい知性を感じさせる岩下志麻が演じたアンナは非の打ちどころのない夫に対して「あなたが構ってくれないからよ。」という主張をしていたし、ヴィヴィアン・リーのアンナは情念と妻や母の地位を守ろうとする理性との葛藤を鬼気迫るほどの迫力で表現していました。もっとも、これは夫役のキャストに負うところも大きいです。本作の夫役も十分真面目で堅実な雰囲気を出していましたが(あくまでも主観的な意見ですが)ヴィヴィアン・リー版と岩下志麻版では中年の魅力がもっとたっぷりの俳優さんが演じていたように思います。本作の最初のほう、アンナとウロンスキーが出会う舞踏会の踊りの振り付けが全然社交ダンスっぽくなく、インドかアラビアのダンサーのように上半身(特に腕)の複雑な動きに終始していたのが良く言えば官能的、悪く言えば場違いでキモかったです。 コスチューム部門アカデミー賞に輝いただけあって視覚的効果は抜群でした。 [DVD(字幕)] 6点(2013-10-28 09:21:09) |
3. 永遠のマリア・カラス
《ネタバレ》 オペラにあまり詳しくない方のため一言。劇中劇の「カルメン」の主役カルメンはソプラノ(マリア・カラス)ではなくメゾ・ソプラノかアルトの役柄です。わたしもマリア・カラスが歌っている「カルメン」のCDを持っていますが、マリア・カラスにしてみれば(劇中でも「カルメンは別物。」と言っていますが)「頼まれたから自分の得意分野ではないけれどしかたなく歌ってあげた作品」なので、口パクも簡単に引き受けたのだと思います。「トスカ」は引き受けたような引き受けてないような・・・。彼女の十八番はやはり「椿姫(ラ・トラビアータ)」です。椿姫(ソプラノ)が歌うアリアの難度は非常に高く、声量が要求されるのでマリア・カラス以外の痩せ型ソプラノ歌手がうまく歌えた例は極めて稀なようです。肺病で死にかけているはずの椿姫の役を太ったソプラノ歌手がやって上演期間中笑いの種になったこともあります。だから、中年を過ぎて美貌とすらっとした体型を保ったカラスが口パクのビデオ版「椿姫」の製作を許したのか・・・恐らく頑強に拒否したのでしょうね。おまけですが、一流俳優の口パクに上の中程度の歌手の声を載せたビデオ作品にはソフィア・ローレン主演の「アイーダ」があります。プレイボーイとして名高い(実際は堅物)のプラシド・ドミンゴ(テノール)が歌うモーツアルトの「ドン・ジョバンニ(バリトン)」も聞いてみたいです。主役のあまりのワルさ加減のせいでいくらうまく歌っても主演歌手はカーテンコールで拍手してもらえないんです・・・でもあんなに太ったドミンゴではやはりうけないかもしれません。 [DVD(字幕)] 8点(2012-04-16 02:51:27) |
4. 河(1951)
印象派絵画の巨匠を父としフランス映画の祖と呼ばれるジャン・ルノアール監督・製作した映画の原点と言ってもいい作品です。娯楽作品のフレンチカンカンでルノアールが試みた大胆な色彩の乱舞は姿を消し、河と埃っぽい大地の渋い色合いを基調とする画面に花や緑や光の祭りの灯火、そして生きて活動する登場人物の衣服が色彩を添えます。ストーリーも淡々としていてご都合主義の作為は全くなく、登場人物に仰々しく語らせることもありません。いや、主人公格のハリエットが劇中劇の形で語りメラニーが演じる単純なストーリーがあるのですが、結局この世界全体の全ての人生がこの劇中劇のバリエーションだというのが作品全体に流れる思想なのではないでしょうか?哲学に色彩を添えた文句なしの満点の作品です。 [DVD(字幕)] 10点(2011-09-05 22:47:50) |
5. しあわせの雨傘
周囲の観客(アメリカ人)につられて久々に笑ろた。そしてカメラがすごく綺麗でした。でも設定を1977年にすることによって話をわざとらしく大げさにしたりと、ちょっと脚本に物足りなさを感じました。トップ・バッターの方がおっしゃっているように、そんじょそこらのアメリカ映画と変らないかもしれません。1977年というとドヌーブが一番綺麗だった頃ではないでしょうか?そして、1977年という映画の設定の中でドヌーブが演じるシュザンヌとドパルデユーが演じるモーリスが回想をめぐらすのはこの時点で25歳になるシュザンヌの息子の出生にまつわるロマンス・・・これだけ取ってみれば年を取ってなお美しいドヌーブとでっぷり太ったドパルデューのキス・シーンは許せるのですが、回想場面で二人の若い頃を演じる俳優さんたちが美男美女にはちがいないけれど二人に似てもいないし、この二人ほどの存在感もないし、唯一造反した娘が父親にちらっと見せた若い頃の二人の写真が入ったロケットの中のその写真がどこからか取ってきたドヌーブとドパルデユーの若い頃の本物の写真だったのが印象に残っています。フランスを代表する大俳優であることだけは間違いない二人のプロモーション映画として見て損はないということでこの点数です。邦題だけは満点かな? [映画館(字幕なし「原語」)] 6点(2011-05-12 11:24:12) |
6. 戦場でワルツを
この作品は邦画の「おくりびと」とオスカー外国語部門賞を争い、前評判では「おくりびと」よりも評価が高かったそうです。イスラエル人がやっているらしい英語版の吹き替えの訛りがきつくて、アメリカ人の声優さんが起用されていたらもっとよくわかったかもしれないのですが、もう一度字幕をオンにして見直す気はあまりしません。全体に流れる悲痛な雰囲気に耐えるのはもうゴメンというのが本音です。パレスチナの問題はわたしたち日本人の想像を絶するものがあると思いますが、そもそもイスラエル人であろうがどこの国民であろうが、自分の手で人を殺すのはどんな場合でも(殺す相手が死刑囚で仕事で殺さなければならないとしても)いい気分ではありません。それを代わってやってくれそうな強硬派の現職のネタニヤフを、20年前には同じような誰かを首相に選び、当のネタニヤフや20年前の誰かは自分で戦場に行って殺人に手を染めるわけでもなく、本作品の登場人物のようにレバノンなどに送られたイスラエル兵が公務として人を殺し、自分の心にも傷を負う・・・という構図、どこかおかしくありませんか?だからそのおかしな構図の一部を拡大して描いたこの作品よりも平和な社会での生と死を見つめた「おくりびと」のほうが上を行っている、とわたしは本気で思います。でも、深層心理をたたえた大人の表情やしぐさの細部や抑えた色調は特にビジュアル系の人からの高い評価を受けるでしょうし、ストーリー、美術とともに完成度は非常に高く、一見に値する作品ではあります。 [DVD(吹替)] 6点(2010-07-13 13:52:29) |
7. われら巴里ッ子
《ネタバレ》 庶民から財界の大物まで多彩な役をこなすジャン・ギャバンがボクシング・コーチとして登場、コーチの奥さんは「天井桟敷の人々」で多くの男性を魅了するガランスを演じたアルレッティ、ボクサーのアンドレ役の男優も金髪の端正な容姿なので貴公子役なんかもやっていそうな感じですが、全員が上下ジャージーのトレーナーやら下町のおかみさん役や汗まみれのボクサーなんかにぴったりはまっています。ストーリーの鍵になる手の形をした金属製のチャームですが、女性が車窓から投げたようにも見えるし、右腕にしたブレスレットからポロリと落ちたようにも見え、どちらに取るかによって女性のアンドレに対する気持ちの解釈は違ってくると思います。でもそれはどちらでもいいことなのかもしれません。アンドレがうっかり落としたチャームを一度は拾って「お守りなんだろ。大切にしろ。」と言って渡したヴィクトルがラスト・シーンで同じチャームをアンドレの手から取り上げてセーヌ河(?)に投げ捨て、エッフェル塔に向かって彼を追い立てていくところなんか、「俺たちパリっ子にはいつでも未来があるさ。」と言っているようでとても好きですし、同じ監督の「嘆きのテレーズ」の非情な内容と比較してこの作品の楽天観が数倍好きです。 [DVD(字幕)] 9点(2010-06-15 07:16:56) |
8. フレンチ・カンカン
深いことは何も考えずに色彩と音楽、軽いストーリーを楽しみたい作品。ジャン・ルノアールの父の画家オーガスト・ルノアールの作品に触れたことがあれば倍楽しめるかもしれません。 [DVD(字幕)] 8点(2010-06-14 09:46:26) |
9. フェリーニ 大いなる嘘つき
観るものの心に鋭く訴える作品を作る監督、茫洋として捕らえどころがないけれど何となく余韻を残す作品を作る監督、美しい作品を作る監督、リアルな作品を作る監督・・・どのような監督をとっても「あなたの映画哲学は・・・?」みたいな、あるいはネタバレ的なインタビューなんか公開する必要は全くない。ただ巨匠フェリーニもお年だし、関心のある人も世界中にいるだろうから、ということで作られたドキュメンタリー作品。それ以上でもそれ以下でもない。点数の内訳は音楽・・・でもこれだって「女の都」とかから借りてきたものにすぎない。 [DVD(字幕)] 6点(2010-03-07 03:38:03) |
10. 女の都
《ネタバレ》 あれ、みなさん点数低いんですね。わたしは非常に気に入ったのですが・・・。初期のモノクロの時代にはリアリスティックな映画を作っていたフェリーニがこのようなシュールな作品を作ったのはもうろくでもなんでもなく、モノクロの制約がある時代にすでにリアリズムを追求しきった巨匠としての自負があったからだと思います。カラーがモノクロよりリアルになるのは何ていっても当たり前ですから、リアリズムを超えることに専念したんでしょうね。つまり、映画を欲望、幻影、ナンセンス、さらには精神分析を始めたフロイトが強調した無意識を描く手段にしようとしたのだと思います。最後のほうでマルチェロが気球で昇天するシーンの気球のカゴはまさに揺りかご、彼を空に導く人物は、(敬虔なキリスト教徒には申し訳ないのですが、)まさにイエス・キリストを女にしてビキニとハイヒールを履かせたようないでたち・・・。わたしたち人間は知的生物であると同時に獣で、男と女の関係もその二点をバランスするべく歴史的にいろいろ規定されてきたのだけれど、ウーマンリブ運動がようやくイタリアに波及した1970年代の終わりに、男と女の間の新しいバランスの方向を模索するかのように既成観念、特に男女を問わず抱いている下半身にまつわる思い入れや感じ方などを暴露し、笑い飛ばしているフェリーニ監督にフェミニスト(女権論者)として最大限の拍手(私がコメディーにつけることにしている最高点)を献上します [DVD(字幕)] 8点(2009-12-27 03:09:25) |
11. 即興曲 愛欲の旋律
レンタル業者のストリーム配信で鑑賞して業者の謀略か接続状況のせいで最後の5分は鑑賞できなかったのですが、音楽や美術が好きな人には是非お勧めします。ショパンのピアノ曲がふんだんに取り入れられているのはもちろん、水彩画のような田園風景が美しく、ショパンがドラクロアの絵を鑑賞して批評を求められる実際にあったようなシーンまであります。本作品の主人公はショバンではなく女流作家のジョルジュ・サンド(本名:オーロール・デュドバン男爵夫人)で、彼女の大胆な行動はアンチ・フェミニストやポーランド国粋主義者にはかちんとくるかもしれませんが、時に笑いをさそい、実に爽快でした。ショバン役のヒュー・グラントも当たり役を演じたようで、実際に彼に会った人(知人の日本人既婚男性)が「こんな美しい男性は他にはいない。」と形容した彼の良さが最大限発揮されています。でも、本作品は芸術度の高いラブコメの域なんですね。フランス人とポーランド人のハーフだったショバンの両国に関する誇り、希望、苦悩、絶望といった気持ちは彼の音楽に凝縮されているわけだけれど、恋人のサンドはショバンのことは「才能のあるかっこいい兄ちゃん」くらいにしか見ていないし(実際にそうだったようです)、BGMに使われた曲も軽いものが多かった気がするし・・・ということで、当時のヨーロッバを映すショバンの内面をもっと掘り下げた脚本や演技・演出がでることを期待して点数は辛めです。もう一度見たい作品ではあります。 [地上波(吹替)] 8点(2009-03-31 02:09:40) |
12. 天井桟敷の人々
邦題から貴族のお話しかと思ったらさにあらず。Disk2を先に見るというまぬけな不運のためにDisk2を見ているあいだ中、ガランスは貴族か金持ちで俳優のバティストとの身分違いの恋の悲劇だと思っていた馬鹿さかげん・・・。でも、Disk1の冒頭でガランスの正体はあきらかで、しかもコメンタリーつきの版が借りられたのでドジを補って余りある収穫がありました。高得点をつけた人でも昼メロ風とおっしゃっていますが、この作品はそんな甘いものではありません。ナチス当局の検閲をかいくぐり、かいくぐり・・・スタッフの一人がユダヤ系だったせいもあり、製作者一同、英仏連合軍の進行状況を見ながら、「この頃にフランスは解放される。」と予測された頃にユダヤ系スタッフの名前をクレジットに入れて封切ることに決めたそうです。フランス人(被占領者)にしかわからない抵抗のメッセージを占領者のナチスの検閲官にはわからないようにオブラートに包んでメロドラマにしたわけです。もちろん、ユダヤ系の人のクレジットなしで解放前に封切ってもフランス人には受けたでしょうが、そこは巨額な費用を投じた作品・・・商業的な計算もあって当然でしょう。コメンタリーの全てをここで書くわけにはいきませんが、言葉で語りかけようとする俳優フレデリック以上に雄弁でガランスを救ったバティストの無言劇がヒントです。すばらしい作品だとは思いますが、どうのこうの言ってもやはり、解放後に作られた単刀直入な作品(たとえばHiroshima Mon Amour、邦題は「二十四時間の愛」)のほうがわかりやすいので満点マイナス1点にします。 [DVD(字幕)] 9点(2009-02-28 13:22:19)(良:2票) |
13. 戦場のアリア
みなさん評価が高いのですが、私には鑑賞後にあまり心に残るものはありませんでした。たしかに鑑賞中には感激していたのですが・・・。第二次世界大戦の映画が多く作られ、第一次世界大戦は何か歴史のかなたに忘れられようとしているような感じがぬぐえませんでした。第一次世界大戦は人類史上初めて、飛行機や戦車などを駆使した大規模な世界戦争だったのにその観点が抜けていて、だからどうだという視点が抜け落ちているからかもしれません。この点はデカプリオ主演の「アビエーター」の冒頭の主人公の執着(人類初の空中戦の映画化)のほうが如実に第一次世界大戦を語っています。どうのこうの言ってもクリスマス停戦はこの先第一次世界大戦の終結するまで(1918年、第一次大戦中の最後のクリスマスは1917年)そして、クリスマス停戦自体は第二次世界大戦中もあっただろうけれど、停戦中に敵味方でサッカーをするなんていうのはおそらくこれが最初で最後だったことがストーリーから明白で、「初めての世界大戦で兵士たちもうぶだったのね。」という感想しかありませんでした。そして、一番決定的だったのは敵味方双方がキリスト教徒だということ・・・。全面戦争が局地戦闘にスケールダウンされている感じがしました。現在世界で起きている戦争ではユダヤ教対イスラム原理主義だったり、戦争の理由はいろいろでも敵味方の宗教が違うということが多いのです。以上のような理由で、本作品は第一次世界大戦を描いたあまり多いとは言えない映画の中でも無名の兵士に焦点を当てた「西部戦線異状なし」やスーパースターを中心に据えて現在にも連なる異文化圏アラブの心を描こうとした「アラビアのロレンス」に及ばないのです。 [DVD(字幕)] 5点(2009-02-04 04:54:12) |
14. 太陽と月に背いて
ランボーとヴェルレーヌの詩もレオ様も大好きな私にとっては大満足・・・と言いたいところですが、全体的な感想は他の皆様と大体同じです。こういう作品があると聞いた時から、「レオなら地のままでいける役柄、いや勉強好きな彼のことだからランボーとヴェルレーヌの詩など読みつくして・・・」という期待は裏切られませんでした。レオ様には100点満点で120点をあげたいくらいです。でも、この中身のなさはどうしなのかと考えた時、やはり他の方がご指摘のとおり、二人が書いた詩の紹介や朗読が一片もないことがことが問題だと思います。英訳を入れることに問題があったのならばフランス人の声優さんに依頼して原文でいれるなどしても何もないよりはずっと良かったと思います。大人らしさと子供っぽさ、繊細さと図太さを兼ね備えた天才少年ランボーをレオが好演し、ヴェルレーヌ役もそこそこ良かったのですが、これでは詩人やぶ男やホモでなくてもランボーを好きになるのは当たり前。反対にランボーがヴェルレーヌを好きになった理由が全くわかりません。二人の間に詩があったからこそ二人の関係が成立したはずなのです。ランボーを演じられる俳優はレオをおいて他にはなく、これから先この役が演じられる若手俳優が出現するかどうかもわからないので本当に残念です。レオ様のファンでランボーとヴェルレーヌには疎い方、これを機会に訳詩にちょっと触れてこの作品が言いたかったことを想像して補填してみることをお勧めします。 [DVD(字幕)] 5点(2008-03-15 10:34:00)(良:1票) |
15. カストラート
何がグロイといっても、男にしか見えないカルロから超高音の美声が発せられるのが一番グロイと感じました。結婚して女の花道を「ハイ、さよなら。」してしまう歌姫と違って何時でも卓越した芸術の粋を見せてくれるからでしょうか、カストラートというのは正に金持ち王侯貴族のエゴの作り出した男とも女ともいえない存在・・・作中のヘンデルのようにバケモノ呼ばわりするのは本人に選択の余地がなかったカストラートにはあまりに酷です。これに比べれば、舞台の上では女性美の粋を極めても私生活では男であることを許される歌舞伎と京劇の女形のなんと人間的なことか・・・。中国の宦官と比較している方もいるようですが、どちらも爛熟した文化が生んだなんとも形容しがたい存在ですね。兄弟愛も恋愛もそこそこの描写で一風変わった音楽映画という感じ。ヘンデルの「ラルゴ」の歌唱は文句なしにすばらしかったです。 [DVD(字幕)] 7点(2007-09-27 12:26:10) |
16. クィーン
主人公エリザベス二世を始めとして、そっくりさんのオンパレードながら良く出来た作品。ダイアナ元妃の事故死の際、私も含めて「一体、イギリス王室はどうするのだろうか?」と成り行きの注視したものですが、内部の状況、とりわけ女王エリザベス二世の心情をヘレン・ミレンの好演で描ききった完成度の高い作品でした。(でも、本物のほうは、人目があろうがなかろうが絶対に泣いてはいないと思います。)エリザベス一世(こちらも「エリザベス」のタイトルで映画化されています。)のお父さん、ヘンリー八世なんて、一体何人の妃と結婚し、そのうちエリザベス一世の母を含む何人を斬首刑にしたのか・・・こういう歴史のある国ですから、ダイアナ元妃の件でももしかしたらもしかするかも・・・なんていうのを見る前には期待していたのですが、メディア隆盛の民主主義の世の中、そんなことがあるわけないですよね。映画作品がそんな憶測を語ったりすることはなおさらありえないです。地味な作品なので総合点は低めですが、脚本と演技には満点です。 [映画館(字幕)] 7点(2007-07-23 00:00:36)(笑:1票) (良:1票) |
17. ニュー・シネマ・パラダイス
イタリア映画には少し辛い目の点数をつけたくなるのは素晴らしい映像や音楽の中にストリーやメッセージが埋没しているからでしょうか・・・・「イル・ポスティーノ」しかりで満点やつけられないんですね。深刻なメッセージを含む「ライフ・イズ・ビューティフル」なんかになるとなおさらです。アルフレートや子供時代のトトなど俳優さんたちはそれぞれに魅力的でした。なお、劇場版と完全版(ディレクタース・カット)のうちこちらを先に、両方見た後で書いていますが、完全版のほうでは劇場版で不満を残した点がすべて解決されていました。 [DVD(字幕)] 7点(2007-07-16 01:20:03) |
18. ニュー・シネマ・パラダイス/3時間完全オリジナル版
劇場版と完全版(ディレクタース・カット)の両方を見ましたがやはり、二日に分けてDVDで見た完全版のほうが上です。映像と共に伝えられるサイド・ストーリーが観客の無意識下に蓄積されて新たに展開されるストーーリーを追いながら重層的に迫ってくる・・・そんな効果を期待している完全な作品がディレクタース・カットに他ならないようです。しかし、この作品の映像や音響は映画館のフル・スクリーンで見てこそ十分に堪能できるものなのでどちらも一長一短です。「アラビアのロレンス」や「クレオパトラ」、私が知っている限りで一番最近のもので「ガンジー」のように中休み(intermission) がある劇場映画はもうはやらないのか・・・残念な気がします。アルフレート役がフィリップ・ノアレだとはこのサイトを見るまで気づきませんでした。「イル・ポスティーノ」のネルーダ役にはまっていて上品なおじさんだと思っていましたが、やはり噂に違わない大俳優のようです。 [DVD(字幕)] 9点(2007-07-16 01:11:56) |
19. インドシナ
カトリーヌ・ドヌーブ扮する女農場経営者のエリアンヌが使用人を鞭で叩いたり、現地人や貧民に同情するフランス人がエリアンヌを「あなたの美しさはうわべだけ!」と非難したりするシーンは往年の大女優ドヌーブのファンならずともあまり見たくはないシーンかもしれませんが、これが植民地の現実だったのか、と考えさせられました。エリアンヌよりも養女のカミーユのほうが出番が多くカミーユが主人公のようでしたが、中身はフランス人で外見はベトナム人のこの子が非常に印象的でした。私たちはすでにベトナムの南北分断、続くベトナム戦争とその結末を知っているわけですが、カミーユとその夫、そして子孫に農場を受け継がせることが母性愛の核であるようなエリアンヌのその後を想像してみると悲しいです。スイスの銀行にいっぱい預金してカミーユの息子に相続させたんだろうな・・・なんていうのはちょっと俗っぽい想像ですけれどね。漢字の看板が溢れるサイゴン市内やジャンク船が浮かぶベトナムの雄大な風景が素晴らしく、ジャンとカミーユの関係も控えめながら濃厚でエロチックに描かれていたのが非常に良かったです。 [DVD(字幕)] 9点(2007-07-15 09:31:35)(良:1票) |
20. テス
可もなく不可もなくといった作品。ポランスキー監督の美しい画面とキンスキーの美貌に酔いしれましたが原作の完成度があまりに高いので損をしている映画作品の一つと言えるでしょう。キンスキーのようにちょっとキツめの美女ではなくてボケっとした感じのかわいい女優さんのほうがストーリーに合うのでは等々口出ししたくなるのはどうしようもありません。文学作品の中の美女のイメージは読者それぞれによって異なるので映画化しないほうがいいという極論まで唱えたくなるのですが、その点に関してこの作品には原作から独立したクリエイティビティーがあまり感じられず、点数もちょっと辛目です。美しい映像に免じてオマケ込みの以下の点数を献上。 [DVD(字幕)] 7点(2007-07-15 09:07:40) |