1. 家族を想うとき
《ネタバレ》 労働者の権利向上に伴い、経営者は労働者のためにいろいろな手間やお金をかける必要が出てきました。「こんなの面倒くさいし、コストもかかるしなんとかならないかな」と経営者は考えに考え、ある日、あるアイデアがひらめきました。そのアイデアとは「そうだ、皆経営者にしてしまい、対等な立場という体にしてしまえばいいんだ!」というものでした。これが今作のテーマです。 本当に、毎回毎回引退をしようとするケン・ローチを引き留めようとしてるのかどうかはわかりませんが、面倒くさいことを省いて稼ぎたいと考える経営者の思考は、ほとんど犯罪者の思考と変わらないですね。 残念ではありますが、ケン・ローチには死ぬまで、人間から人間性を奪おうとする社会の歪みをどんどん映像化して我々に問題提起していただきたいと本当に思いました。 絶望しかない物語なのですが、その中で主人公の家族だけは崩壊させずに終わらせたところに、ケン・ローチが持つ「あきらめない」姿勢を感じました。 [DVD(字幕)] 8点(2021-02-22 23:46:26) |
2. 女は二度決断する
《ネタバレ》 ダイアン・クルーガーの熱演が光っているが、それを引き出すためにか、ファティ・アキン監督の作品としては平凡な出来になっているように感じました。(あくまでも、監督作品としてはです) 主人公が武士のタトゥーを入れたり、最後の主人公の行動など、内容的には日本人好みの内容になっているのですが、この映画が取り上げている問題を、ハリウッド映画のように「わかりやすく」描いてしまっていることに、正直疑問を持っています。【ファティ・アキン】監督の力量であれば、もっと生々しく、そして我々の心に訴えかけてくる作品が作れたのではないか・・・ 今後、同じようなテーマで作品を撮ってくれることを期待しています。 [DVD(字幕)] 6点(2019-02-03 22:49:56) |
3. サンドラの週末
《ネタバレ》 ただただ、会社のクソっぷりに腹が立ちました。と言っても主人公に一方的に肩入れしているわけでもありません・・・。 では、何に腹が立っているのかというと、経営者の覚悟のなさ加減です。会社経営はきれいごとだけでは出来るものではありませんから、利益が出ない厳しい状況であれば倒産を避けるために人員整理や給与削減はやむを得ないと思います。 ただ、それをなぜ経営者が決断せず、社員の投票で決めさせるのか。これは民主的で社員の意思を尊重しているようで、実は、自らが描いたシナリオに社員をのせて、さも社員たちが自らの意思でその結果を決めたと思わせる卑劣極まりないやり方でしかなく、しかもそのシナリオが投票結果がどちらに転んでも良いときており、怒りを感じます。 おまけに最後のやり取りも最低極まりなく、心の病から立ち直ったばかりの主人公を再び奈落に落とし込むような仕打ちは目もあてられません。 しかしながら、その最低ぶりが主人公を逆に前向きにさせる一因でもあって皮肉なものだなとも思いました。 [DVD(字幕)] 7点(2018-08-30 22:10:36) |
4. わたしは、ダニエル・ブレイク
《ネタバレ》 この作品には、強者は出てきません。システムと規則の奴隷と化し、「情」を奪われた弱者と、「尊厳」を奪われた更なる社会的弱者がお互いぶつかり合っているだけです。人々に利便を与えるためのシステムだった筈なのに、今では人々がシステムの利便のために不便を強いられてしまっている現状、そして、その現状を、惰性で受け入れている私たちにケン・ローチは「それで良いのか?」と問いかけてきます。「わたしはダニエルブレイク(I,Daniel Blake)」という何てことのないタイトルが、観終った後に非常に重く感じました [DVD(字幕)] 8点(2018-01-18 19:08:17) |
5. 独裁者と小さな孫
《ネタバレ》 野映画を思わせるような、どこかユーモラスを感じさせながらも乾いたタッチで、残酷な寓話を描きつづけているのですが・・・ 最後に「独裁者を殺したところでどうにもならない、踊らせるのだ」というセリフに監督の熱い思いがこめられていて、非常に感銘を受けました。 [DVD(字幕)] 8点(2016-10-23 00:35:40) |
6. ローマ法王の休日
《ネタバレ》 ほのぼのとしたヒューマンコメディかと思ったら、「皆から尊敬されるべき宗教指導者だって決して超人ではなく只の人間なんだよ」というブラックコメディでした。 ただ、登場人物が、10数億人もの信者たちの指導的立場にあるのにも関わらず、ことごとく凡庸で「覚悟」の無い人たちばかりで、正直「さすがにここまでではないんじゃないの?」と思ってしまいました。 [地上波(字幕)] 6点(2016-01-09 21:52:38) |
7. 無人地帯
《ネタバレ》 3.11直後の福島第一原発付近の状況を記録した貴重な映像です。そして、それだけでは無く原発、放射能の危険性があまりにも喧伝されたがために、見捨てられたものがあったことを冷静に伝えていることは評価したいです。ただ、オーディオコメンタリーで監督が語っていましたが、現地で空き巣被害が相当数あったというような負の部分が、映像の美しさ、被災された人々の力強さに消されてしまっているのがちょっと残念でした。 [DVD(邦画)] 8点(2015-07-25 12:32:55) |
8. マーガレット・サッチャー/鉄の女の涙
《ネタバレ》 マーガレット・サッチャーの政治人生を2時間弱の時間で上手くまとめています。認知症を患うサッチャーが過去を回顧するという形式を取ることで、賛否両論ある政治家としてのサッチャーのを、批判するわけでもなく賛美するわけでもなく客観的に描いているのは評価できます。 [地上波(吹替)] 7点(2015-01-25 23:59:29) |
9. 鉄くず拾いの物語
《ネタバレ》 この映画は主人公たちの日常生活を観賞する「作品」ではありません、我々の「なぜ?」という気付きを喚起させ、この物語の背景にある問題について考えさせるための「素材」なのです。 社会の抱える諸問題の多くは、静かに深く佇んでいることを、セミドキュメンタリータッチで示しています。 [DVD(字幕)] 7点(2014-11-01 12:19:19) |
10. ハンナ・アーレント
《ネタバレ》 この作品が現在の日本でヒットしてしまうことが喜ばしいことなのか憂慮すべきことなのかは良くわかりませんが、多くの人が彼女の考え・行動に触れる機会を得たことは大いに意義があると思います。 正直、私はアイヒマンが「全体主義の下で思考不能に陥り事務的に残虐行為に加担した小役人」だとは全く思えないし、ユダヤ人の多くが「人間を無用の存在にした極悪人に報いを!」と怒りをぶつけたくなる気持ちも理解できます。 しかしながら、そこで「思考不能」に陥ってはいけないというのが彼女の訴えだと思いますし、我々がどのような状況であってもしっかりと思考し善悪を区別する能力をつけていくことが肝要であることは間違いないことだと思います。 作品的には、非常に分かり易く彼女の主張・行動を伝えており、特にアイヒマンの姿を俳優を使わず実際の映像を使ったことがとても効果的でしたね。 [DVD(字幕)] 9点(2014-10-07 00:09:29) |
11. 聖なる嘘つき/その名はジェイコブ
《ネタバレ》 ナチスドイツの非道ぶりだけでなく「情報」の重要性、恐ろしさを教えてくれる作品 [地上波(字幕)] 6点(2014-08-14 12:10:36) |
12. スペシャリスト/自覚なき殺戮者
《ネタバレ》 アイヒマン本人も言っていましたが、「人類への警告」として後世に残すべき作品。 よくアイヒマンは大悪人ではなく小役人のような「普通の人間」であったといわれていますが、この作品を観ると彼は決して「普通の人間」などではなく、悪魔のような怜悧狡猾さと残虐さを持ち合わせた「怪人」であると私には思えました。 裁判の中でのアイヒマンは「普通の人間」を装いながら、ひたすら「なぜお前らに裁かれなければならないのか、犯罪というがそもそも自分は法に基づき業務を遂行しており罪など犯していない、これは罪に罰を与える裁判などではない、単なる報復だ!」というメッセージを伝え続けています。 このような「怪人」を生み出してしまった、「国家権力が役人の権限・責任を曖昧にし、逃げ場を作っておきながら厳しい命令を遂行させることができるようなシステム・組織」こそ「人類への警告」として後世に伝えていかなければなりません。 そんなことを考えさせられる作品でした。 [ビデオ(字幕)] 8点(2014-07-19 17:24:19) |
13. きっと ここが帰る場所
《ネタバレ》 「大人に反抗する子供」のまま年齢を重ねた男が実はもう反抗する相手などいないのだと気づくまでの過程を追った物語 [DVD(字幕)] 7点(2014-06-03 23:57:31) |
14. 最初の人間
《ネタバレ》 故郷であるアルジェリアの紛争に対峙し苦悩する「大作家」カミュの姿とその背景を映し出した非常に興味深い作品でした。人間としてのカミュが全編を通して描かれていて、これまでよりも親しみを覚えましたね。 [DVD(字幕)] 7点(2014-01-04 14:57:25) |
15. 天使の分け前
《ネタバレ》 表面的なストーリーはハートフルなんですけど、結局は主人公たちのような労働者階級の人間は、人並み外れた才能と宝くじに当たるくらいの運がなければ「負の連鎖」が渦巻くコミュニティから中々抜け出せないというイギリス社会の問題点が背景に隠されていて、さすがケン・ローチだなと思いましたね。 この作品の本当の主役は、実は主人公のロビーではなく彼を取り巻く人々の方ではないですかね。で、ロビーのサクセスストーリーもどこか違和感を伴うものとなっていて、その違和感が何なのかを我々に考えさせることがケン・ローチ監督がこの作品を作った狙いなんじゃないかと思ってしまいました。 まあ、やり切れないラストよりも一応ハッピーなラストの方が好きですけどね。 [DVD(字幕)] 8点(2013-12-23 23:59:29)(良:1票) |
16. 眠れる美女(2012)
《ネタバレ》 尊厳死という難しいテーマを軸に3つの物語を展開させているのですが、重苦しさはそれほどなく、むしろ登場人物たちの日常を時にはユーモアや皮肉を交えて描いているので非常に面白く観賞できました。 相変わらずセンスのある映像美と実力派のキャスト陣の安定した演技も見ものでした。まあ、主テーマについての結論は曖昧な感じで、結局は「愛」に行き着いたなという感想です。 [映画館(字幕)] 7点(2013-12-07 08:54:21) |
17. 11'09''01/セプテンバー11
《ネタバレ》 9.11を題材に世界のさまざまな地域の映画監督がそれぞれの思いをこめた短編映画集です。この作品集を観て、我々があの事件に対して感じた思いが決して世界共通のものでは無いということに気づかされましたね。 その中でも一番印象的だったのは、フランス人のクロード・ルルーシュ 監督の作品でしたね。このような残酷な悲劇をモチーフに、美しいラブストーリーを作ってしまうその精神は不謹慎でありながらも惹かれてしまいました。その他印象的なのは、「もう一つの9.11」を描いたケン・ローチの作品と世界の舞台とか別に関係ないねとばかりにドロドロの日本映画を提供した今村昌平の作品ですね。 [DVD(字幕)] 9点(2013-11-13 00:08:39) |
18. 穏やかな暮らし
《ネタバレ》 最初から最後まで緊張感溢れるサスペンス映画でした。裏社会の掟から逃れるために何もかも捨てた男に襲い掛かる悲劇はやるせないとしか言いようがありませんでした。 主人公役を演じたトニ・セルヴィッロの熱演が印象に残りました。 [映画館(字幕)] 8点(2013-11-09 08:15:30) |
19. 我らの生活
《ネタバレ》 イタリア社会が抱える問題が描かれていて興味深かったです。不法就労移民の問題、金が何事にも優先される風潮等々日本以上にシビアな状況にはいろいろと考えさせられました。 まあ、いろいろな要素が詰め込まれているためか、後半ストーリーの流れが駆け足で収束されていったのがちょっと物足りなかったですね。 [映画館(字幕)] 7点(2013-11-09 08:10:46) |
20. ル・アーヴルの靴みがき
《ネタバレ》 なんというか、昭和の日本の人情喜劇映画を思わせるような作品で、人情味あふれる街の人々の姿やラストの桜の花等非常に日本人の心の琴線に触れる要素が満載でしたね。 しかしながら、移民問題という現代社会が抱えている非常に難しいテーマに対して、カウリスマキがこのようなアプローチで作品を作った意味として、先進国(だけではないですが)各国で不寛容で内向きな考え方が蔓延してきている厳しい現状に対する問題提起も含まれているのかなと感じる部分もあって、いろいろ考えさせられますね。 まあ、オープニングからいろいろな仕掛けが満載で、カウリスマキファンとしてはストーリー以外の面でも楽しめる作品となっています。 [DVD(吹替)] 8点(2013-06-24 00:42:25) |