1. ダンケルク(2017)
《ネタバレ》 ノーランの最新作で当然気にはなっていたけど、あまり期待せずに観に行きました。それもあってか、かなり楽しめた。開始早々に文字で状況が簡潔に説明された後、いきなり銃声が轟き、そこから僕はずーっと画面に釘付け。 登場人物、とりわけダンケルクから身動きが取れなくなっている兵士たちがどういう人物なのか紹介はほとんどされない。戦争映画でありがちな、夜に兵士たちが輪になって座って故郷を想うシーンなんてものもない。この映画では、いつ死ぬか分からないような状況の中、母国に戻るためにもがいているので、戦地で友情を育む暇はなく、兵士同士で他愛のない会話など交わされない。その部分はリアリティを意識していて、他の映画では意外と(?)見られないものだったので面白かった。 ダンケルクからの脱出劇(現地の兵士にとって)であり、救出劇(英国の空軍や民間人にとって)であるので、ストーリー性はあまりない。映画というよりは、一つのアクションシーンを100分くらいまで延ばした感じ。そういう意味では緊張感が途切れることがなかった。 アクション自体もなかなか素晴らしかったと思う。兵士が銃撃や爆撃に倒れるシーンよりも、例えば船と防波堤に挟まれる場面や、海に溺れて苦しむ映像の方が印象に残る。実際にはこういう状況で命が危機になるんだろうな。本作では海、水の怖さがよく伝わる演出が多く、生々しい表現をあまり用いていないのも評価したい。 しかし、気になる点もあった。ケネス・ブラナー演じる海軍中佐のあの顔面どアップの連続はベタすぎて芸がないし、あれだけ空襲とか受けてるのにずーっと防波堤の上に軍服も乱さずに立っているのがなんか不自然。実際に居た人物をモチーフにしているのかもしれないけど、あのキャラクターの描き方がなんか粗雑に感じた。ラストのややハッピーなエンディングもちょっとどうかと思った。中佐は「負傷兵をこれ以上船には乗せられない」と恐ろしいことを言っていたり(仕方ないけど)、目の前で転覆する船から兵士たちが海に飛び降りる光景をその目で見ているのに、民間の船がずらーっと並んだシーンでニターっと誇らしげに笑っているのには違和感。なんか、ブラナーの悪口ばかり言っているようだけど、そんなつもりではないです、あの中佐にこの映画の良くない部分が詰まっているような気がして。 「ギブソン」が亡くなった後、彼を追悼するシーンがないのも寂しい。それはそれでリアリティはあるけど、序盤に船に乗れなかったり、のけ者扱いされたり、仏兵の扱いが全体的に可哀想だった。最後の中佐の「俺は仏兵のために残る」という取って付けたようにフランスをフォローする台詞には苦笑い(また中佐の悪口)。同盟国とは言えど国は違うので、ああいうことはよく起きたのだろうけど、ラストはハリウッド的なハッピーエンドにしてるんだから、もう少しフランス人が観てもモヤモヤしない作りにしても良かったんじゃないかな? それと、「ここで音楽は必要か?」となることも多かった。不安感を煽る音楽が映像とマッチしていなくて気が散ることも・・・。ノーラン、ハンス・ジマーに心酔しすぎじゃない?ハンス本人が彼に言ってほしい、「あんまり俺に頼らないでよ」って。 最後にこれは自分自身の話なんだけど、この映画を観て楽しい気持ちになってしまっている自分がどうかなと思いましたね。この映画は戦争ものというよりは『脱出もの・サバイバルもの』に近いけど、それでも空中戦などを観て興奮しちゃってたりするので、自分は平和ボケしているなと嘆いてしまった・・・。 でも、実際、この映画ってあんまり政治色はないですよね。思想がないというか。戦争を題材にした映画って結局は戦地の惨さ冷酷さだったり、母国に帰ってからの苦悩を描くイメージがあるけど、これにはそういうのもあまり感じられない。このダンケルクの物語を映画化して何かを伝えたいというよりは、「この話、映像にしたら面白い画が撮れそう」ってノーランが思って製作されたような気がして、そこはちょっと引っかかった。自己満足で撮ってない?って。 なんかいっぱい書いてしまった。またトンチンカンなこと書いてないといいが・・・。 [映画館(字幕)] 8点(2017-09-21 10:59:05) |
2. ネオン・デーモン
dopeな映画だ!レフン監督作は“ドライヴ”、“オンリー・ゴッド”に続いてこれで3作目の鑑賞になるが、映画館で観たのは今回が初めて。 監督のビジュアルセンスには脱帽。攻撃的で刺激たっぷりだけど美しい映像の連続。ありきたりな表現になってしまうが、映像のどの瞬間を切り取っても一枚の写真になるくらいに構図が緻密に計算されている。パソコンの壁紙にしたい画がたくさん出てきた。衣装や美術、ロケ地も素晴らしくて、一つの世界観が幻想的に確立されていると感じた。ビジュアルに関しては大満足。お腹いっぱいだ。 また、今回は音楽がとても良い!“ドライヴ”からレフン監督とタッグを組んでいるクリフ・マルティネスだが、本作のサントラが一番イカしてる。映画の質を高める大きな要因となっていて、存在感があった。 ストーリーに関しては凡庸であったかもしれない。「美」がテーマで、人間がいかに「美」を追い求め、「美」になろうとするかという、ある意味人間の永遠のテーマだ。それを最新の技術を使って映画という媒体で表現したということか。少し残酷な童話を言葉ではなくて映像を使って語るイメージ。 ストーリーどうこうよりも、映像美であったり、役者の演技や顔であったり、音楽であったり、とにかくスクリーンに映し出されるものと耳に入ってくる音をひたすらに楽しむ映画であった。 もっとこの映画のことを褒めたいんだけど、「美しい!カッコいい!」みたいな単純な言葉しか出てこない。でも、映画ってそれだけで良いのかなと思ったり。 [映画館(字幕)] 8点(2017-03-16 10:00:06)(良:1票) |
3. バーン・アフター・リーディング
《ネタバレ》 豪華キャストが売りの映画は数多く存在するが、本作のキャスティングにはしっかりとした意図が感じられた。様々な大作に出演した俳優たちが勢揃いしているので、「何か凄い展開が始まりそう」という期待を観客に与えてくれるのだ。そして、見事に何も起こらない。エンドクレジットが始まる頃にはズッコケたくなる。観ている側の期待を裏切るためのキャスティングなのだと思う。 この映画に出てくる人たちは皆、自分たちが特別な人間だと思っていたり、国際社会を揺るがす情報を握っていると考えていたりする。しかし、結局はその全員が特別でも何でもない人々だったことが露わになる。ジョージ・クルーニー演じる不倫男も人目の届かないところで何やらヤバそうなマシンを製造しているように見えたが、結局ただただ壮大なオモチャを作ってるだけだった。本当にただの不倫男だった。 実際は人間なんてこんなもんだよと、ちっぽけな存在なんだよと、そういうことを再確認させてくれるそんな映画だと思う。 世界中から絶賛された“ノーカントリー”のすぐ後にこれを制作したのがコーエンらしくて好きだ。常に観客の一歩先に行って遊んでいる。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2016-05-22 15:59:21) |
4. ロブスター
上映中、何回も目を背けてしまった。自分のヘタレさを再認識することになって、少し凹んだ。この監督さんはオーディエンスが観たくないものを敢えて映像にしていて、なかなか歪んではりますなーと・・・良い意味で。ソフト化したら、またチャレンジしようかな。 「僕なら○○(動物)が良いなー」というコメントをどうしても書きたかったけど、○○に入れる動物がとうとう見つかりませんでした。強いて言うなら鷲だけど、ベタの極みだよね・・・。 [映画館(字幕)] 6点(2016-05-06 18:26:03) |
5. キャロル(2015)
女性同士の恋愛を描いた作品。この手の映画はどうしても「同性愛者として生きていくことの難しさ」というテーマのもとに制作されて、最終的に社会派ドラマになりがちな印象があるのですが、本作は最後まで純粋なラブストーリーでした。そこが良かった。「同性愛者」という単語も変ですよね、よくよく考えると。まるで同性しか好きにならない生き物、同性しか好きになってはいけない存在だと勝手に決めつけられているみたいで。キャロルには夫がいたし、テレーズにもボーイフレンドがいた。「相手が女だったから好きになった」とか「男だったから好きなった」とかそういうことじゃないですもんね、恋愛って。 本作は衣装やヘアメイクも含めてプロダクション・デザインがたいへん良かった!1950年代のニューヨークが舞台らしいですが、平成生まれのジャパニーズな自分にとって何の縁もない時代と場所なはずなのに、観ていてノスタルジックな良い気分になれた。 [映画館(字幕)] 8点(2016-02-22 00:09:13) |
6. ギリシャに消えた嘘
作品登録ありがとうございます!さて、本作ですが、とにかく主演3人が引っ張っていく映画だと思います。特にオスカー・アイザックが魅力的。あの訛りとオールバックが実に良い。監督は脚本家として有名なホセイン・アミニ氏。監督デビュー作なので仕方ないとは思いますが、演出が今一つパッとしなかったなーと。緊張感があまり持続されずに物語が進んだ印象です。登場人物の身に何が起きて、彼らが次にどんな行動を取るのか、あまり関心が持てなかった。それに加え、地中海の風景が大変美しいので、「世界の車窓から」を見ている感覚になりました。いや、本当にすっごく綺麗な場所を舞台にしているので、それそれで良かったのですが。ドラマ仕立てとはいえど一応はサスペンスなので、ある程度のアクションは必要かと。アクションと言っても格闘シーンとかそういうことではなく、何かこう、ドキドキするような場面のことです。とは言うものの、役者たちの演技力のおかげで飽きることはありませんでした。 [映画館(字幕)] 6点(2015-05-17 08:42:11) |
7. シンプル・プラン
《ネタバレ》 自分の身にも起こりかねない物語は数多くありますが、これほど身に迫るものは初めて観ました。ハンクたちは当初、外部にバレることを警戒していたはずなのに、結局は内輪のトラブルでピンチに陥ったのが面白い。普通の逃走劇になるような設定を逆手に取っていますね。典型的な『優しい隣人さん』だったハンクが何回も引き金を引くことになったのは怖い。「あの人がこんなことを!?」と驚くことはよくありますが、僕も貴方も誰でもいつだって彼のようになりえる。人殺しをする自分はすぐ隣にいる。説得力のある映画でした。前半、顔面パンチしたくなるほど観ていてイライラするジェイコブでしたが、映画終盤の彼には泣かされました。 [DVD(字幕)] 7点(2015-05-13 21:53:37) |
8. バベル
登場人物の取る行動に理解ができないことが多かった。「何故?」の連続。でも、人間ってそういう生き物なんです。目の前にいる人間だって、頭の中では何を考えているかなんて分からない。そして、軽い気持ちで取った行動が自分はもちろん周りの人間の人生まで大きく変えてしまう。長い歴史の中で人間は分断されていった。同じ種族の中で。それぞれが集団を作り、独自の言語を生み出し、互いに境界線を引いていく。他人に対する不信感が生み出す悲劇。ちょっとした行動で深まる溝。そんな中でも人と人は繋がっていく。繋がろうとする。良い映画だと思いますよ僕は。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2015-04-12 12:29:39) |
9. オンリー・ゴッド
観ている最中、拷問を受けているような錯覚に陥りました。しかし、それは「何でこんな面白くないものを観ないといけないんだ!」みたいな意味ではなくて、「自分は一体何を観ているんだ・・・」という感じ。最後までとにかく不安な気持ちになるんです。でも、それが結果的に満足感に繋がりました。濃厚な時間を味わえたし、物凄く感覚が研ぎ澄まされた気がします。映像は大変美しく、色彩も豊かで良かった。赤が映えていました。内容は正直よく分かりません。母と子の関係の話なのかな?そして、あの警官。ノーカントリーの“あの人”を彷彿とさせます。罪人に制裁を与える絶対的な力。ゴスリングの「早く脱げえええ!!」には笑いました。 [ブルーレイ(字幕)] 8点(2015-01-10 16:58:30) |
10. スノーピアサー
「設定に無理がある」と言われていますが、そんなことはどうだって良いんです。完成された体制に囚われてしまっている人間社会を表現するのに『列車』がピッタリだっただけです。列車の中で食べ物が供給されるのも現実的に考えたら確かに無理があります。しかし、これも他の生き物や野菜を統制的に飼育・栽培する人間の営みを表現しているに過ぎない。列車内には階級差があり、先頭に行けば行くほど豊かな暮らしが繰り広げられているなんて、めちゃくちゃ分かりやすいじゃないですか。物語は設定や事の成り行きが全てじゃないんです。それらは枠組みでしかなくて、本質を見落としています。これは『革命』の実態に迫った映画です。 [映画館(字幕)] 7点(2014-12-02 09:25:07) |
11. フォーリング・ダウン
とにかくキレまくる『 D-フェンス』という中年男の人物像と過去、そして目的を小出しにして見せていく演出にグッと引き込まれましたね。何をされてもどんなことを言われても怒りを抑えるロバート・デュヴァルとの対比もナイス。笑えるシーンが沢山あるのですが、そこには「怖さ」も含有されています。「笑いと恐怖は紙一重」という言葉がありますが、まさにそれです。後がなくなり、文字通りフォーリング・ダウンしていく人間をこれほどまでにおかしく、そして恐ろしく描いた作品はあまりないのでは?人種間の対立や思想の対立も描いており、これらが排他的な「怒り」に繋がることも指摘していると考えられる。かなりの秀作だと思います。 [DVD(字幕)] 10点(2014-11-30 23:24:44) |
12. グレート・ビューティー/追憶のローマ
凄かった。でも、何が凄かったかは説明できない。だから凄いのだと思う。真面目に言うと、これは絶対に映画という媒体でしか表現できないから凄いのだと思います。美しいローマの街並みに品のない人々が群がっているのをただただ美しく描いた作品です。全てのショットが絵画のようだったし、文化人を気取った人たちを見るのは楽しいし、映像と音楽がめちゃくちゃマッチしていて気持ち良くなったし・・・あーでも良さをはっきりと説明できない。主人公は好き放題遊んでいるようだけど、実はそんな自分を嫌悪しているように見えるのも興味深かった。あと僕に言えることは・・・意外と笑える。 [映画館(字幕)] 9点(2014-11-30 23:22:18) |