Menu
 > レビュワー
 > Cinecdocke さん
Cinecdockeさんのレビューページ[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 923
性別
自己紹介 ハリウッドのブロックバスター映画からヨーロッパのアート映画まで何でも見ています。
「完璧な映画は存在しない」と考えているので、10点はまずないと思いますが、思い入れの強い映画ほど10点付けるかも。
映画の完成度より自分の嗜好で高得点を付けるタイプです。
目指せ1000本!

表示切替メニュー
レビュー関連 レビュー表示
レビュー表示(評価分)
その他レビュー表示
その他投稿関連 名セリフ・名シーン・小ネタ表示
キャスト・スタッフ名言表示
あらすじ・プロフィール表示
統計関連 製作国別レビュー統計
年代別レビュー統計
好みチェック 好みが近いレビュワー一覧
好みが近いレビュワーより抜粋したお勧め作品一覧
要望関連 作品新規登録 / 変更 要望表示
人物新規登録 / 変更 要望表示
(登録済)作品新規登録表示
(登録済)人物新規登録表示
予約データ 表示
【製作国 : フランス 抽出】 >> 製作国別レビュー統計
評価順12345678
投稿日付順12345678
変更日付順12345678
>> カレンダー表示
>> 通常表示
1.  パリ、テキサス 《ネタバレ》 
愛が深いほどお互いのことが分かりすぎてしまい、傷つき、現実と折り合いを付けられなかった元夫婦のすれ違い。 全編英語、アメリカロケながら西ドイツ・フランス合作なあたり、ヴェンダースのアメリカへの憧れと郷愁があるだろうが、 その広大で空疎とも取れる風景が家族の歪さ・脆さを内省的に、より引き立てている。  ただ、共感できるかは別の話で身勝手な男女に振り回される息子と育ての親である弟夫婦が不憫すぎる。 ロードムービー要素はそこまでなく、中盤から最後まで出番なしの弟夫婦へのフォローがないまま、 息子を妻に押し付けて再び旅に出て終了。 ケジメを付けるためとは言え、これは無責任すぎるのでは? 結局、妻は息子を弟夫婦の元に返して、振り出しに戻りそうな気がする。  劇伴のギターも相成って'80年代のアメリカンな雰囲気に痺れるも、 冷静に見たら主人公が一方的に掻き回しただけの自己陶酔にしか見えない。
[インターネット(字幕)] 4点(2024-11-09 14:12:15)(良:1票)
2.  ベルリン・天使の詩 《ネタバレ》 
子供は子供だった頃──。 ノートで書き出したシーンから始まる詩は、 確実に死を迎える人間になることを選んだ天使に開かれた世界そのものである。  美しいモノクロで紡がれた天使と人間のメルヘンチックなラブストーリーであるものの、 舞台がベルリンであることに大きな意味があるように思える。 かつて多くの子供たちも命を落とした第二次世界大戦の記憶が風化していき、 いつ戦火が上がるか分からない冷戦の象徴であるベルリンの壁が東西を分断している。 この舞台装置が本作を唯一無二の独特の雰囲気へのし上げている。  人々の悩みや想いを読み取れる、太古の時代より生きていた天使たち。 だが、彼らは人間に触れることもできず、ただ見守ることしかできない。 生きる喜びとは無縁の、無機質でモノクロな世界が眼前に広がっている。  やがてブランコ乗りの女性に恋をしたダミエルは、限りある命を持つ人間になることを選ぶ。 モノクロからカラーに移り変わり、存在の重さを知り、色を知り、コーヒーの温かさを知り、 好奇心というスポンジで新たな驚きを吸収していく。 それは詩で描かれていた子供たちの世界そのものだ。 先輩にあたる元天使が刑事コロンボでおなじみのピーター・フォーク本人役なのが良きアクセント。 この人が天使から俳優になった経緯を想像したくなる。  一度見ただけでは理解できたとは言えない。 眠気に襲われるときもあるだろう。 だが、寂しさによって自分自身を認識できたからこそ、誰かに心を開ける。 きっと楽しいことばかりではない、醜く汚い現実を知ることになっても、 前向きに歩いていくことのメッセージが感じられるヴェンダースの人生賛歌。 ふと思い出して見たくなる一本の一つに加わった。
[インターネット(字幕)] 7点(2024-10-22 22:32:22)
3.  ポトフ 美食家と料理人 《ネタバレ》 
小鳥のさえずり、葉が擦れる風の音、虫の鳴き声が外から聞こえ、 調理場には野菜が切られ、肉が焼かれ、鍋のスープが沸き立つ、自然と人工の音のアンサンブル。 全編にわたって長めのワンショットと少ない台詞によって調和が貫かれ、細やかな所作に適度な距離と緊張感が伝わる。  なぜ料理を作るのか?という問いかけ。 20年間、公私ともにパートナーだった美食家ドダンと女性料理人ウージェニー。 やがて結婚するも彼女が病で先立たれ、喪失感に打ちひしがれた彼が如何にして料理への情熱を取り戻していったか。 そこには哲学があり、愛情があり、物語がある。  調理場を滑らかに捉える、カメラの360度パンから回想シーンに移行していく。 ワンカットで時空を超越させるアンゲロプロスの演出を彷彿とさせる。 生前のウージェニーがドダンに問う。 「私はあなたの料理人? それとも妻?」 ドダンが導き出した答えは……もちろん分かっているだろう。  複雑なストーリーもない、意外な結末もない、伏線回収もない、さらには人物の背景や説明すらない。 まるで当たり前であるかのように、営みは誇張なしにただそこにあれば良い。 「映画にこれ以上の何がいるのか?」と本作は気付かせてくれる。 ただ無駄に豪華で贅沢な素材を使っただけの皇太子がもてなしたコースより、非常にシンプルなポトフにこそ真髄が宿る。
[インターネット(字幕)] 8点(2024-10-05 23:48:22)
4.  風が吹くまま 《ネタバレ》 
物語の行く末を左右する100歳越えの老婆は最後まで姿を見せることなく、 独自の風習が残る村の葬儀目当ての都会人であるテレビマンが振り回される。 携帯電話で会話するにも電波が届く、くねくね曲がる道の先の丘まで車で走らなければならず、 他方で村の人々はのんびりマイペースな分、滑稽に映る。 とは言え、一見美しい黄金の麦畑が広がる長閑な村でも、 家族への忠誠のため、面子のために辛い因習に従わざるを得ない現実がある。  死を待っていてもやって来ることなく、苛立ちを隠せないテレビマンが、 村人の生き埋め事故を切っ掛けに人命を救う側に回っていく。 このまま放っておけば珍しい葬儀を取材できるのにである。 撮影して放送して、ただエンタメとして消費されるだけ。 裏側を見ない我々は普段提供されているものに対して、それを期待しているのではないか? そこに人間の矛盾と不可思議さが感じられる。  キアロスタミの芳醇な会話劇は今作も健在で、医者の詩の引用にハッとさせられる。 「天国は美しい所だと人は言う、だが私にはブドウ酒の方が美しい」。 "風が吹くままに"生きられたらどれだけ素晴らしいのだろうか。 仕事に雁字搦めのテレビマンは執着を手放し、現実に折り合いをつけてこれからの人生を生きていく。
[インターネット(字幕)] 6点(2024-09-20 23:59:02)
5.  消えた声が、その名を呼ぶ 《ネタバレ》 
「娘に会いたい」。 処刑から生き延びるも声帯を切られ声を失った父親が地球半周を渡り歩き、生き別れの娘たちを追う8年間。  シリアスドラマからコメディまでジャンルを分け隔てず活動する、 ファティ・アキンのフィルモグラフィーの中では最もスケールが大きい。 1910年代のオスマントルコによるアルメニア人虐殺を題材にしたあたり、 加害者のトルコをルーツに持つ監督の思いはあるだろう。  アルメニアはキリスト教を国教と認めた初めての国であり、 オスマントルコでも富裕層として成功して政治にも関わる影響力があったものの西ヨーロッパとの関係を強固にしたことで、 オスマントルコ側のムスリムとしてのアイデンティティーが脅かされる恐怖が虐殺の背景にあったようだ。 これがアルメニア人のディアスポラになった。  信仰で救われることなく強制労働で次々に倒れていく同胞、生き残るためなら簡単に棄教する現状を目の当たりにし、 死にかけの義姉を手に掛けなければならない苦しさに、宗教がどれだけ愚かで虚しいものであるかを突き付けられる。 避難先のアレッポで初めて見たチャップリンの無声映画に自分の境遇と重ね合わせ、 娘たちが生きていることを知って、生きることの根源を取り戻していく。 たとえ盗みも暴力も働き、獣に墜ちてしまおうとも、死ぬわけにはいかないという執念。  いくらでも傑作になりえた題材なのに、国家の罪と罰をストレートに描かなければならないわけではないが、 最終的に単なる親子の感動ドラマにスケールダウンしてしまったのが惜しい。 娘と再会するまでの過程が終盤につれて偶然で片付けられていく脚本の杜撰さが鼻につくし、 心震わせることなく次第に冷静に見てしまいました。
[インターネット(字幕)] 6点(2024-09-08 23:20:15)
6.  TITANE/チタン 《ネタバレ》 
レビューを見て戦々恐々だったが、覚悟して挑んだら何とか見れた。  痛覚を刺激するショッキングな暴力描写で見る者の思考を停止させ、 そこからジェンダー観を云々語って、メタリックベイビー出産シーンであたかも神聖で高尚な映画であるかのように見せる。 これではカルト宗教がやってることと変わらない。 そういう意味では確かに"カルトムービー"だが。  血の繋がりのある両親からの愛情を受けられなかった女性が感じた、赤の他人である消防隊長との疑似的な親子関係。 行方不明になった息子が女装している写真を見るに、これは"受容"の物語なのだろう。 如何なる姿でも、実の息子でなくても、孤独を埋めてくれる存在への無償の愛を描きたかったかもね。  ただそれだけです。 カオスで斬新で奇を衒ったユニークさだけで観客不在。 そりゃ賛否両論のエブエブですら弱者への優しい視線はあるけど、本作にはそれがない。 どこか絵空事のような上から目線を感じるが、まあ嫌いではない。
[インターネット(字幕)] 5点(2024-09-06 23:19:23)
7.  VORTEX ヴォルテックス 《ネタバレ》 
人生とは、夢の中の夢なのか?  それを象徴するかのような老夫婦の最期の数日間とその後。 ギャスパー・ノエらしいセンセーショナルな表現はほぼなく、 オープニングを除いて分割画面で生々しく淡々と綴っていく。  心臓病を抱えた夫が映画評論の仕事に打ち込む間に、他方、認知症の妻は人知れず街に出て徘徊している。 夫が妻の扱いに苦悩している間、妻は混濁した思考でガスの元栓を開き、一方的に夫の原稿を破り捨ててしまう。 息子は老人ホームの移住を提案しても、父親は家を離れたくないと意固地で平行線を辿ったまま。 「このような光景はあなたの家族にもいつか起こることですよ」とノエは容赦なく突きつける。 通常なら一画面で撮れそうなシーンですら分割画面であり、人は常に孤独であることと分断を強調する。  夫がストレスから心臓病の悪化で旅立ち、妻も孤独の中で後を追う。 粛々と葬儀が行われ、二人の生きた証だった、雑然としたアパートの部屋も跡形もなく片づけられる。 生きることはモノが多く積み重なることだが、死んでしまえば関心もなくなりモノは無価値になる。 人は思い出しかあの世に持っていけない。 その無常さの中で如何に人生を全うしていきたいか再確認する。
[インターネット(字幕)] 6点(2024-08-31 02:27:12)
8.  蛇の道(2024) 《ネタバレ》 
1998年のオリジナル版と筋書きはほぼ同じ。 オリジナル版を難解にさせていた数学教師の設定から精神科医に変更されたことで、 分かり易く洗練された演出で生まれ変わったリメイクのお手本。  主人公を男性から女性に変更した理由。 凄惨な過去で心が壊れた女とその過去から逃げ続けようとする男たちの対比を、 循環性の象徴である"ウロボロスの輪"に例えたのだろう。 何度も読み上げられる娘の死、繰り返される復讐行為が廻りに廻って日常になっていく。 だが、男たちは馴れ馴れしく、常に都合の悪い話をはぐらかそうとする。 女は延々に廻り続ける生き地獄から絶対に逃がさない。 結末における芯の冷え切った台詞の数々がそれを象徴している。 オリジナル版と比べてダミアン・ボナールの影が薄く、 むしろ柴咲演じる主人公の掘り下げが増えたことを考えると合点がいく。  蛇のように低体温でじわじわ嬲っていく主人公の果てしない闇と虚無が視線から発せられるラスト。 全てが終わっても心穏やかに過ごせるわけでもなく、西島演じる患者のような末路を迎えてしまうのか。 復讐という名のウロボロスの輪に囚われ続けなければ生きていく理由を失ってしまうのかもしれない。  見ていて答え合わせしている感じは否めないが、 黒沢清の作風がフランス映画と親和性があり、ヨーロッパで評価されている理由に納得した。
[映画館(字幕)] 7点(2024-06-14 22:44:02)
9.  落下の解剖学 《ネタバレ》 
有罪か、無罪か? 自殺か、他殺か? そんなものはどうでも良くて、裁判によって暴かれる夫婦の拗れを中心に据えている。 親密な夫婦仲でも所詮は赤の他人。 交通事故による息子の視覚障害から始まる生活苦、作家志望の夫の嫉妬と余裕のなさ、他方では妻の成功、やがて…  ある家族の一年間を断片的に見て、分かった気になって、 エンタメとして消費しているだけでしょ?と問われている気がした。 そう考えると筋書きは至ってシンプルで下手したら何も起こらない。 勝手に期待して盛り上がっている傍聴席の我々に対するフランスらしい皮肉が効いている。
[映画館(字幕)] 6点(2024-02-23 23:59:35)(良:2票)
10.  ヴィーガンズ・ハム 《ネタバレ》 
衝動的に殺した過激派ヴィーガンの肉を勘違いで売ってしまい、繁盛してしまう肉屋の夫婦。 グロはあれど臓物系・欠損死体なし、作り物感も強く、90分未満の上映時間でテンポ良く進んでいく。 さしずめ『スウィーニー・トッド』をもっと軽くポップに仕上げたブラックコメディ。 (どちらかと言えば、『シリアル・ママ』に近い)。  …と題材は面白そうだけど、期待が大きすぎた。 笑えるシーンはあれど、後半から失速して妙にシリアスになってしまったのが原因。 元から冷めているようで次第に狂気を帯びていく妻に、殺人に葛藤していく内に戻れなくなっていく夫。 経営も結婚生活も破綻寸前で、過激派ヴィーガンの言動と嫌味な同業者夫婦に一線を越えていく説得力はあるけれど、 もっとコメディに振り切っても欲しかった気がする。  ラストの一言である「ウィニー」に全てが詰まっている。 心臓病を抱え不遇な境遇を持った善人であり、彼の死で止めるか、エスカレートしていくかの分水嶺だった。 過去の発言を悔い、価値観の異なる人たちを理解して歩み寄ろうとした娘の彼氏もいたが、 夫婦にとって肉付きの良い女子供すら食糧としか見ていない皮肉。 極端なヴィーガンも問題だが、その逆も同レベルでしかない。  カニバリズムによる食欲減退で菜食主義者になりそうなメタな構図を鮮やかに切り取る。 元々胃腸が弱く、お腹に溜まりやすいので肉は消極的だが、思想を押し付けず、黙って命を頂くとしよう。
[インターネット(吹替)] 5点(2024-01-07 00:21:26)
11.  デリシュ! 《ネタバレ》 
今でこそよく見られるレストランという形式が如何に誕生したか。  18世紀末のフランス革命前夜まで、美食は貴族のものであり、 庶民は飢餓と隣り合わせで食べることに必死だった。 旅籠には簡単な食事が提供されることはあれど、 それまで貴族も庶民も一緒に、個別のテーブルで、メニューから料理を選択することが今までなかった。 この視点でレストラン誕生の経緯を知ることがなかったので目から鱗である。 天に近い食材ほど至高で、土に根差したジャガイモやトリュフというポピュラーな食材が かつて貴族から豚の餌扱いされていたということも。  主人公と女性の織り成すロマンスは控えめで、 抑制された色遣いによる絵画のような映像美が美味しい料理を引き立てる。 そして傲慢な伯爵への強烈なカウンターパンチ。 封建社会の理不尽を受けてきた先人たちの努力によって新たな活路が見出され、 食文化が成熟・変遷していったかを興味深く見られた。
[インターネット(字幕)] 6点(2023-12-09 22:24:42)
12.  サンセット 《ネタバレ》 
監督は前作の成功体験で味を占めたのか、情報を遮断されたヒロインの一人称で 帝国末期の閉塞感と混沌を描く試みは見事に失敗している。 登場人物たちの思わせぶりな台詞と一向に進まない展開、消化不良のまま残る謎など、 ひたすらヒロインに寄り添う撮り方が本作の舞台とミスマッチ。 ホロコーストという強烈な舞台装置があった『サウルの息子』はその焦らし方が効果的だっただけに、 監督のメッキが剥がれた形だ。  難解と言えば聞こえが良いが、逆に言えば「何を描きたい?」とも言いたくはなる。 歴史の闇を描きたいのか、激動の時代を生きようとするヒロインの強さを描きたいのか。 ヒロインが何を考えて行動しているのか分からず、妄想も幻覚も入り混じり、 最後は第一次世界大戦に兵士として従軍している。 帽子店が存続のため貴族に女性従業員を捧げている、性奴隷を匂わせる嫌悪を見るに、 彼女も過去に似た被害を受け、女性の殻を脱ぎ捨て、兄から憑依されるように同化したと解釈できるが。  当時のハンガリー史を知っていること前提。 帽子店を訪れた皇太子夫妻が翌年どうなったかは言うまでもない。
[インターネット(字幕)] 4点(2023-10-19 22:19:15)
13.  8 1/2
レジェンドの映画監督たちがマイベストに挙げているように、自分事として刺さるのだろう。 傲慢で繊細な映画監督の逃げたくても逃げられない立場の重さによる現実逃避。 本人の意思とは関係なく映画製作が進み、まずます混沌に拍車がかかるあたりとか、 「映画とは何か?」を問うた草分け的存在として今後の映画史に多大な影響を与えたのは事実。  普通はこんな奇をてらう映画は観客に受けるわけがないと思いつつも、 コントみたいな結末に名作たる理由はなんとなく分かる気がした。
[インターネット(字幕)] 5点(2023-08-15 00:25:09)
14.  blue(2018) 《ネタバレ》 
屋外なのか室内なのか分からない夜の静寂の中、虫の音、犬の遠吠えが遠くに聴こえ、 景色の描かれた垂れ幕が巻き上げと巻き戻しを繰り返す。 やがて女性の眠るベッドには燃え盛る炎が重なるように映し出され、映像と環境音がレイヤーのように連なって映画は完成される。  いつまでも眠れない熱帯夜に見る白昼夢を表現しているようだった。 この緩慢さが眠りに誘い、映画と同化していくことが監督の狙いかもしれない。 アピチャッポン・ウィーラセタクンの長編を覗きたければ、この短編を見て自らふるいにかければいい。
[インターネット(字幕)] 5点(2023-06-12 23:25:01)
15.  わたしは最悪。 《ネタバレ》 
何者にもなれない30歳女性の惑い。 自分がどうしたいのか分からず、やりたいことも付き合っている男もとっかえひっかえで長続きしない。 確かに原題通り、リアルに付き合ったら面倒臭い"最悪な人"なのだろう。 とは言え、昔と違って女性の自由も選択肢も広がり、 元カノの風刺漫画家に「女を侮蔑している」と意識高い系のフェミニストが発言できるくらい、 ヒロインの悩みがあまりにも贅沢になってしまったように感じる。 清潔感たっぷりなオスロの街ではなく、発展途上国が舞台だったらこうも行かないだろう。  元カノの漫画家が別れる際に「君はいつか後悔する」と発言し、事実、彼はガンに侵され死ぬことになった。 自分はこのまま何者になれず母親に落ち着いてしまって良いのだろうかと悩んでいるうちに、 足に地をつけなかった不安定な心を救ってくれる人がいることに気付いていれば、 きっとガンの早期発見はあったかもしれない。 その一方で新しい恋人との妊娠にすぐ向き合っていれば、たとえ流産でも破局はなかったかもしれない。  人生とは後悔の連続で、選択の積み重ねでもある。 主役にもなれない取り留めのない人生だとしても、何かを掴んだ彼女の人生は今日も続いていく。 レナーテ・レインスヴェが多彩な表情で痛々しくも呆れながらも好演していたのが性的シーンの下品さを和らげていた。
[インターネット(字幕)] 6点(2023-06-04 01:51:27)
16.  ファウスト(1994) 《ネタバレ》 
人間の顔をした"悪魔"に気を付けろ。 そこには奇跡も魔法もないんだよ。  怪しげなビラに記された地図に導かれ、満たされない日々を送る男が体験する悪夢。 欲しいものと引き換えに悪魔に魂を売り渡す契約をしたが最後、 台本通り動く操り人形の如く、地獄へと一直線。  現実と虚構が曖昧になっていく中、道化師の呪文に右往左往される悪魔が笑いのツボに入った。 どこか既視感があると思ったら、過去作の『ドン・ファン』の要素も多少入っているのだろう。  もう一度言うが、人間の顔をした"悪魔"に気を付けろ。 心の隙間に入り込み、魂を食い物にする。 序盤に主人公とすれ違って逃げた男、新聞紙に包めた身体の欠片を見るに、 奈落への入り口に我々は立っている。
[インターネット(字幕)] 6点(2023-05-24 21:39:57)
17.  さらば、愛の言葉よ 《ネタバレ》 
アマゾンプライムで視聴。 配信側の不具合なのか、16:9を4:3に押し込んだ画面比率をどうにかして欲しいと思ったものの、 それがどうでも良くなるくらい、結婚するのかしないのか、産むのか産まないのかという男女の痴話喧嘩を 哲学的な台詞と表現で煙に巻いているだけのようにも見えなくない。 そこに挟み込まれる血と暴力と死のイメージ、ホームビデオの世界に押し込まれる犬の存在。 如何なる映像美があっても、ただただ空疎に見えてしまう。  高齢にも関わらず3D撮影にも初挑戦して、新たな表現に挑み続ける姿勢とずば抜けた感性は賞賛されるべきだろう。 ただし、面白いかは別問題であり、ゴダールというネームバリューで見ている人が圧倒的に多いのではないか。 無名の監督が同様の映画を撮っても全く相手にされないと思う。  映画とはなんだろうね… それで締め括ろうなら映画というものを浅はかに見てると言われるかもしれないが。
[インターネット(字幕)] 2点(2023-05-07 22:39:18)
18.  イメージの本
2022年9月13日、91歳の生涯を閉じたゴダールの遺作。  彼の初期作品を数本見た程度であるが、本作を見れば初期作品が如何に映画としての原型も、 エンタメ性も残っているのかよく分かる。  商業映画から決別し、映画の新たな可能性を模索しているのは確かだろう。 新撮が含まれているとはいえ、既存の記録映画と劇映画のコラージュに難解で哲学的なナレーションが重なる。 映画という概念を解体して、再構築した結果、仙人にならないと理解できない代物になってしまった。 普通の人が見たら映画ではなく、ただの睡眠導入剤だ。  10回見ようが、100回見ようが、きっとゴダールが見た真理には辿り着けないし、 この時間を別のことに使った方が有意義だろう。 哲学的に考え抜いた先にあるのが厭世であり、病苦による尊厳死だとしたら虚しい。 ただ、それも彼の選択である。
[インターネット(字幕)] 1点(2023-04-27 23:56:04)
19.  FLEE フリー 《ネタバレ》 
出演者の安全と匿名性を確保するためにアニメーションにする手法は、 アリ・フォルマン監督の『戦場でワルツを』を思い出す(参考にしていたらしい)。  双方ともアニメでワンクッション置くことで、"虚構"が入り混じり、私小説を読んでいるような感覚になる。 カクカクな動きもまた、不確かな記憶という映像の中で想像の余地が広がっていく。  難民を扱った映画は数多くあるが、本作では同性愛者という二重の苦悩を抱えている点である。 国によっては"存在しない"扱いになっており、自分らしく生きられることがどれだけ尊いことか、 先進国で生まれ育った人にはなかなか実感できない。 家族と再会後にゲイと告白し、長兄がゲイクラブに連れて行ったエピソードが印象深い。  ソ連崩壊直後の難民としての生活、そして彼らに対する扱い方は現代の日本でもそこまで変わらない気がする。 もちろん弱者の味方のフリをしてシノギとする団体がいて、不信感として向けられていることは否定できない。 綺麗事だけでは人を助けられない、余裕がない国ほど反動で排他的になるのは仕方ないにしても、 日本もアフガンやウクライナになったらどうするか想像力を巡らしたい。 一般人が国を守るために武器を持って戦うみたいなこと、イザとなったら何もできないから同じ難民になるだけかと。
[インターネット(字幕)] 7点(2023-01-21 21:24:39)
20.  ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん 《ネタバレ》 
探求心の強いおじいちゃん子な少女が、北極点に行ったまま行方不明になった祖父とその船を探す旅路。 貼り絵のように輪郭を排した柔和な絵柄と厳しい環境で突き進むストイックさのコントラストが印象的。 クルーとの恋愛といった余計なドラマは一切なく、極限状況下の諍いがリアル。 最後までロマンチックの欠片のないハードさだからこそ、目的を果たしたサーシャの笑顔が光る。  ちなみに放映したものだと後日談を描いたいくつかの静止画とクレジット後の動画がカットされているという。 あれを載せてまでが一本の映画なのに、教育テレビは何考えているのか。
[地上波(字幕)] 5点(2023-01-02 00:57:52)
全部

■ ヘルプ
© 1997 JTNEWS