1. バリー・リンドン
《ネタバレ》 時は18世紀、アイルランドの青年バリーが、貴族社会でいかに成り上がり、いかに没落していったかを描く大河ドラマ。原作は『虚栄の市』で知られるウィリアムサッカレーの小説" The Luck of Barry Lyndon"で、スタンリーキューブリックが映画化した。キューブリックはもともとナポレオンを主人公とした映画を企画していたが、予算的な事情から企画が頓挫し、その代わりとして本作が制作されたとのこと。とはいえ、当初の企画で温められていたアイデアや時代考証の成果が、本作にも盛り込まれているのは間違いない。重厚かつ豪華絢爛な貴族社会の風景を再現した美術・撮影・照明が圧巻の作品だった。 絵から飛び出てきたような、という表現がこの上なくふさわしいほどに、本作の撮影・美術・照明は素晴らしい。一つ一つのカットがまさに名画のような出来栄え。ある場面では、映画の人物たちが絵画から飛び出てきたように感じるときもあれば、逆にある場面では、映画の人物たちが絵画の中に没入しているのように描かれる瞬間(特にバリーが椅子に座って眠りこけている場面の完成度!)のもあり、その意味では、映画史上最もアート的な映画だと言えるかもしれない。 3時間超えの大作だが、映像に魅了されたせいか、体感時間はあっという間。 ストーリーはよくあるピカレスクロマンという感じで、キューブリック特有のエキセントリックな演出は意外に控えめ。ただし、音楽や美術がやけに威圧的に感じるときがあり、キューブリック映画らしい不穏さは随所に盛り込まれている。また、ラストの結語によく表れているように、総じて冷笑的で厭世的な雰囲気が映画には漂う。ただ、主人公のバリーについては、享楽的で不道徳な部分は首肯できないものの、友や息子の死には涙を流し、決闘に際しては常に毅然たる人物であり、嫌いにはなれなかった。だからこそ、決闘では毅然としていたバリーが追放され、ただただ無様でしかなかった義息のブランドンが勝利するこの作品の結末は、ことさら冷笑的に感じられた。 [ブルーレイ(字幕)] 8点(2025-02-19 13:19:57) |
2. マルホランド・ドライブ
《ネタバレ》 デイヴィッド・リンチ監督作でも、特に人気が高い作品。 冒頭からシュールでミステリアスな作風が全開。観客が内容をよくわかっていなくても、その不思議な世界観に強引にでも引き込こんでしまうあたりが、デイヴィッド・リンチという監督の真骨頂なのだろう。 いま改めて本作の立ち位置を考えてみると、1990年に放送が開始された初期の『ツインピークス』と、2017年に復活した『ツインピークス シーズン3』のほぼ中間の時期に制作されていることがわかる。新旧のツインピークスに出演している俳優が本作にも起用されているため、実質『ツインピークス シーズン2.5』と捉えることができるだろう。群像劇、現実と超現実の交錯、意表を突くサスペンス描写、異形の人物など、見れば見るほど新旧のツインピークスと本作の要素が重なっていることがわかる。 ただ、ツインピークスとの決定的な違いは、物語の論理性、首尾一貫性を保つのに重要な役割を果たしたマーク・フロストが不在なことだ。本作では、各シーン・各プロットが論理的にどのように関係しているか、(おそらく製作者の意図で確信犯的に)省略がなされていて、もはや意味不明な展開になってしまっている点、物語としての面白みは残念ながら落ちてしまっていると言わざるを得ない。 マーク・フロストが関与していれば、おそらくもう少し物語がロジカルになって、観客に親切な内容となったのではないか。実際、『ツインピークス シーズン3』もリンチ節が全開になっていたが、脚本のロジックは、筋が通っていてわかりやすいという親切設計であった(笑)。 とはいえ、それでも現代ハリウッドのダークサイドを、シュールレアリスティックな手法で描いた名作であることに間違いはないだろう。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2024-01-26 21:58:34) |
3. JFK
JFK暗殺事件の真相を追うジム・ギャリソン地方検事を描いた現代史ミステリー。大統領暗殺という一大事件を取り扱うだけに、登場人物は膨大、上映時間も長大である。だが、カットバックを多用した飽きのこない映像と、オリバーストーンの巧みな脚本構成によって、観客をぐいぐい引っ張っていく。正直、凡庸な脚本家なら、この題材を3時間半で収められたかどうか極めて怪しいものだ。それだけストーンの脚本力と編集力が光っている一作。こと退屈になりがちな登場人物のモノローグにカットバックを大量に挿し込むことで、事件の背後にあった怪しげな人間関係や陰謀を、活き活きと浮かび上がらせる手腕は特筆すべき点だろう。 全体的な編集力や脚本力、また裁判シーンでのコスナーの名演技など、高評価できる部分は多いのだが、物語のクライマックスが個人的に弱く感じた。というのも、劇中で指摘した証拠のみでクレー・ショーをJFK暗殺の犯人とするにはさすがに無理がある。決定的な証拠に欠けていて、論理の緻密さが足りないのだ。映画はその後、コスナーの感動的な名演説を入れることで、映画的な見せ場を作っているのだが、その前の展開が腑に落ちていないせいで、素直に感動することができなかった。真実を知りたいと言うわりには、細かなディテールの積み上げを疎かにしてもよいのだろうか、と疑問に思ってしまった。 事件を追うギャリソン検事の姿に、オリバーストーンの真実追究への思いが仮託されているのは否めないだろう。現代的な観点で見れば、真実を探し求めて周囲の人間と軋轢を生む姿は、典型的な陰謀論者のそれでもある。自分が追い求めたい真実については熱く語る一方で、細かなディテールの積み上げは疎かにする、あるいは目を向けない姿勢というのは、妙に示唆的である。自分の見たい真実を追い求めたオリバーストーンは、その後、アメリカとは別の真実を提供すると謳うロシアのプロパガンダに見事に引っかかることになる。ある意味で本作は、のちのち陰謀論者となってしまうストーン監督の萌芽が見られる映画ともいえよう。言葉を返せば、鑑賞時にはある程度の真贋を見分けるリテラシーが観客にも求められる映画にもなっている。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2023-08-13 14:37:05) |
4. 禁じられた遊び(1952)
戦争はろくなものではない、と考えさせれる映画だった。ただ、本作は戦争そのものを描いた作品ではない。むしろその戦争の周縁において描かれる、少年少女の物語だ。 善悪を知らず、命の軽重も知らない無垢な子どもたちの禁じられた遊び。鑑賞しているあいだは、子どもたちの無文別な行動に劇中での大人たちと同じように憤りを覚えると同時に、物語の救われない結末から子どもたちを哀れにも思った。 だが、鑑賞して少しすると、また違った感想が生まれてきた。大人たちはどうなのだろう。少年少女が出会い、禁じられた遊びに興じたきっかけは、そもそもは戦争のためだった。戦争がなければ二人は出会わず、愚行も犯さなかっただろう。そしてその戦争は、大人たちが始めたものだ。子どもたちは物事の善悪を知らずして、他人のための十字架を盗み、墓作りに勤しんだ。大人たちは戦争が害悪だと明確に認識しながらも、戦争に勤しんでいる。(善悪を知りながら戦争という害悪を続ける)大人のほうが、もっと性質が悪いのではないか、と考えさせられてしまった。 映画公開から半世紀以上過ぎているが、いつになっても戦争は起こっている。映画で描かれたように、戦争で親も故郷も失った子どもが、世界のどこかに必ず存在する。子どもたちを主役に据えながらも、その背景としての戦争の災禍に考えを巡らせてくれる映画だった。 [DVD(字幕)] 8点(2023-03-21 20:19:31) |
5. ひまわり(1970)
《ネタバレ》 戦争のことをどうしても考えてしまう時期時世のこともあり、本作を鑑賞。 ロシアによるウクライナ侵略が始まって以降、本作にもあらためて世間の注目が集まることとなった。 ひまわりといえばウクライナの象徴だが、本作上映時はそのウクライナもソ連の一部だった。 現代的な観点で見ると、ソ連周りの描写は、色々と無理がある。 ロシア戦線の想像を絶する過酷さを考えると、あの状況でアントが生き残る、しかもロシア娘に救助され、生活を共にしていること自体が非現実的に映る。そのまま凍死か、処刑か、収容所送りの方が遥かに現実的な気がする。また、ジョバンナがあの広大で、しかも情報を隠匿する共産体制下のソ連でアントを探し当てるのも、かなり無理があるだろう。他にも、やけに小綺麗な街並みの描写や、やけに善意のある人々など、ソ連に都合のいいプロパガンダ描写になっている感がどうしても拭えない。昨今のロシアの蛮行や閉鎖的なロシア社会を目にしてしまった現在からすると、その当時は善意に溢れる社会だったとはなかなか信じがたい。 一方で、人物描写の巧みさがとにかく光る映画であり、戦争に引き裂かれた男女の悲劇を、十二分に演出し切っている。 情が深く、烈女ともいうべき誇り高い性格のジョバンナ。美男だが、どこか頼りなく、不安定さが見え隠れするアントニオ。主役二人の性格描写が素晴らしい。愛に忠実で、愛のためならどこまでも毅然となれるジョバンナ(だから役人や、帰還兵にも敢然と食って掛かる)だが、愛に裏切られると、その毅然とした性格が裏目に出て、荒れに荒れてしまうのだ。アントを探し当てるも途中で逃げ去る場面や自暴自棄になって想い出の写真や服を投げ捨てる場面は、ジョバンナの心情が痛いほど理解でき、強く感情移入してしまった。 毅然と誇り高いジョバンナに対して、優男のアントがいい具合に未練がましく、どうも頼りないというこの対比が良い。記憶喪失のくだりは、何回観ても嘘くさい(笑)ロシアに残した妻子を放り投げて、ジョバンナと一緒になりたいと言い出すあたりの情けなさも、ジョバンナとの対比がよくできている。だが、ジョバンナは、誇り高い性格であり、そうした一線を踏み越えることは拒絶する。 戦争さえなければ、ウマがあった二人が引き裂かれることはなかっただろう。そうしたやるせなさも含めて、戦争そのもの、そして戦争がもたらす悲劇について考えさせられる作品である。 クライマックス、下ろした髪で隠れているが、ジョバンナの耳にはかつてアントから贈られたイヤリングがつけられている。アントはなにも気づかない。最後の最後、ジョバンナに見送られ列車で去るアント。遠ざかる車窓から、ジョバンナの涙は、はたして見えていたのか。すれ違いの悲劇やヒロインの愛情深さが、言葉でなく、映像で表現された素晴らしい場面だ。 [DVD(字幕)] 8点(2022-08-14 22:03:34) |
6. 乱
《ネタバレ》 黒澤のカラー映画ってぶっちゃけどうなんだろう?、あまり良い評判聞かないけどなぁと思い、長年手を付けてなかったが、この機に本作「乱」に挑んでみた。 鑑賞してみると、いやいや、前評判を十分吹き飛ばすくらいに、力のこもった大作だった。 カラーになったとはいえ、これぞ黒澤と言わんばかりの、壮大なセットを背景に群衆や天候を縦横無尽に活用した、ダイナミックで躍動感あふれる画づくりは健在。本作ではさらに、ヴィヴィッドな色彩も重要な要素になっている。それぞれが身にまとう衣装の色の違いで各陣営・各登場人物を明確にさせる、あるいはショッキングな演出の肝となるなど、カラー映画だからこその工夫も抜かりない。クライマックスで、楓の方を処断するシーンの演出には痺れた。まさに構図で語り、構図で魅せる。さすが巨匠黒澤。 その他の見せ場でいえば、中盤の城攻めのシーンがまさに出色。蜘蛛之巣城でやったホラー的演出をさらに進化させたような場面であり、次々に斃れていく兵士たちの凄惨さ、刺し違えて自刃する女たちの痛ましさなど、このシーンだけ切り取ったとしても、日本の戦国ならではの凄惨極まる戦の表現に成功しているといっていい。 ちなみに作品の欠点としては、映画というよりはむしろ舞台劇になっていることだろう。特に狂阿弥と丹後の台詞はもはや舞台劇のそれといっていい。役者の演技はともかくとして、映画としてはかなり不自然でくどく感じてしまった。全編を通して、映画というよりは、もはやビッグスクリーンで壮大な舞台劇をやり切った感が強い。人によって好き嫌いが出るのはこのためではなかろうか。私も若干違和感を拭えなかったので、満点評価とはしていない。 なにはともあれ、世間にあまたあるシェイクスピアのリア王の翻案としては、最も成功した作品と呼んでもいいだろう。 [DVD(邦画)] 8点(2022-08-14 19:25:36) |
7. ニキータ
《ネタバレ》 こんなメンタルがピヨピヨな殺し屋に 殺られる人たちが逆に可愛そうだなと思ってしまった(笑) あらゆる意味で、レオンのプロトタイプという評価は、まさしくその通り。 要所要所では、監督のセンスが発揮されており、印象深いシーンもあるのだが、 荒唐無稽な展開も目立つ。最後の変装は無茶あり過ぎ(笑)。 まあ、そうした粗も含めて6点評価ということで。 [ブルーレイ(字幕)] 6点(2022-05-18 08:32:12) |
8. アネット
《ネタバレ》 レオス・カラックス初の英語作品、かつミュージカル映画。 ダークなおとぎ話×ロックミュージカルという異色の切り口に惹かれて鑑賞。 スパークスの楽曲が本作のストーリー・世界観の基になっているが、大胆なジャンル設定の試みは成功しており、 まさに唯一無二、独自性溢れるカラックス映画に仕上がっている。 物語で描かれるテーマも興味深い。 子どもを食い物にする父親、ドメスティックヴァイオレンス、常に女性が悲劇を辿るオペラ、暴力性と悪意が籠ったスタンダップコメディ。深読みをすることが可能な作品でもある。 惜しむべくは、映画の骨格は素晴らしいが、ストーリーテリングに伏線や意外性がないので、 映画としては単調になっている点だろうか。 それにしても、マリオン・コティヤールはいつ見ても美人。 歌もできるし演技も上手いし(ゆえに本作で起用されたとのこと)、中盤で退場させずに もう少し見せ場を用意すれば、賞レースにもっと食い込めたのではなかろうか。 [映画館(字幕)] 7点(2022-05-18 08:25:14) |
9. アパートメント(1996)
モニカ・ベルッチがいつものファムファタール役で…と思わせておいてからの、意表を突く展開の数々が待ち受けており、なかなかに面白かった作品。今から見ると、キャスト全員が若い。モニカとヴァンサンなんて、ガリガリに細い。制作年代は90年代半ばで、予算の制約もあったのか、序盤の映像は日本のトレンディドラマを見ているようだった(あと中盤のすれ違いシーンも! こういうところはまさにトレンディドラマ)。映像のチープさに慣れてしまえば、物語がぐいぐいと動き出して面白くなっていく。 ただ、ツッコミどころは満載の映画である。まずヴァンサン・カッセルよ、さっさと東京に行きなさい。昔の女に会うためだけに、大口の国際取引をすっぽかす営業がこの世のどこにおるんじゃい(笑)。あと最後の最後で、もとのガールフレンドと空港でばったり会うって、どんだけの偶然じゃい。そういうアンリアルな場面が多いので、7点評価で。 [DVD(字幕)] 7点(2020-05-05 20:42:07) |
10. 汚れた血
最初から最後まで、この作品に共感することができなかった。自分の中で久しくなかったことだが、ハズレ作品を選んでしまったようだ。作品のほとんどすべての要素において、感性が合わなかった。デイビット・ボウイのモダンラブがかかるシーンすら、カッコいいとも思えず、ただクソガキが恋心をこじらせておかしくなってるだけとしか思えなかった。 ジュリエット・ビノシュとジュリー・デルピーが本作の救いで、彼女たちの若々しく、美しい姿がなければ、途中で挫折したのが確実だったろう。 思春期の焦燥を、詩的な台詞と感覚的な映像で表現した作品なのだろうが、この台詞がなんというか、奥行きがない。詩的だが、詩情がないというべきなのか。監督が制作当時若過ぎたせいもあってか、己の感覚任せに台詞を書いている感じで、この詩的な台詞が物語の筋にのちのち関わったり、あるいは登場人物たちの人間性や生き様を表すこともないため、観ていて、子どもが延々とポエティックな能書きを垂れているだけにしか見えなかった。ストーリー展開も粗があるため、退屈で興奮することもできない。製薬会社に侵入してからの、諸々の描写の雑さには唖然とするしかない。なんで警察はこんなクソガキ一人捕まえられないんだ(笑) [DVD(字幕)] 3点(2020-05-05 20:22:35) |
11. ビューティフル・デイ
暴力的で病的な雰囲気ながら、美しく詩的なシーンもあるし、最後はなんだかんだハッピーエンド。良いところはたくさんあるのだが、映画全体に漂う、主人公の不安定な精神を表現したような病的な雰囲気が、あまり心地よくはなかったため、7点評価とする。ただこの雰囲気を高く評価する人が、少なからずいることは理解できる。カンヌで高評を得たのも、本作の病的かつアート的な部分が評価されたからではないだろうか。 タクシードライバーと比較する人もいるようだが、個人的にはタクシードライバーは病的でハードな部分とメロウな部分(バーナード・ハーマンによる、ジャズ調の優しいスコア)が上手く調和していて、どこか心地のよい物語になっていたのだが、本作はメロウな部分が少ないため、アートで病的、そうしたハードな部分が際立ってしまったという印象がある。したがって、完成度についても、タクシードライバーよりは下だろうと評価する(じゃあどうすればよかったんだ?といわれるとなかなか難しいのだが)。 ちなみに観賞していて、なんかインディーズのオルタナ系音楽の香りがするなぁと思っていたら、案の定、音楽はジョニー・グリーンウッドが担当していた。そりゃ音楽も尖った感じになるわな。 [レーザーディスク(字幕)] 7点(2020-04-04 14:01:58) |
12. ホット・ファズ/俺たちスーパーポリスメン!
ほんとくだらない映画なんだけど、けっこう巧妙に作っているんだよなあ。物語の緩急の付け方も素晴らしい。 あとキャストが地味に豪華。ケイトブランシェットもカメオで出ているし。 しかし、ショーンオブザデッドでも思ったが、なんでグロだけやけにはっちゃけているのか(苦笑) [ブルーレイ(字幕)] 8点(2020-02-06 15:21:41) |
13. レオン/完全版
家族を殺されたマチルダの、ドア越しに救いを求める表情に衝撃を受けた人は多かったのではないだろうか。自分もその一人だ。 レオンのドアを開けるか躊躇する表情も良い。女子供にも容赦ないスタンスフィールドのいかれっぷりも最高。 レオンとマチルダの間にある、親子の愛とも、恋人同士の愛とも、どちらともいえない曖昧で、しかしながらとても深い愛は、考えれば考えるほど泣きそうになる。特に大人になるとそうだ。 こういう素晴らしい映画は10点つけなきゃ。 [ブルーレイ(字幕)] 10点(2019-01-15 11:15:42)(良:1票) |
14. 裏切りのサーカス
《ネタバレ》 ちょっと採点が甘いが7点評価で。 原作を読んだ上での評価だが、複雑極まりない原作をよく咀嚼した映画作品だと思う。 原作は曖昧な表現の文章が連続する上に、この映画以上に時系列がいじられていて、読者は頭を抱えながら読み進めなければならない。 たとえば、ジョンハート演ずるコントロールが退職前に何を企んでいたのかも、原作では伏せられている。登場人物の人柄も、映画ではやや単純化されているが、原作はそうはいかない。時系列は入り乱れ、人間関係も錯綜。誰が敵なのかさえわからぬまま、霧の中を歩かされるような、そういう苦しさの中で、主人公は過去の記録を読み漁り、丹念に記憶を再生しながら、その記憶の不審点を洗い出し、二重スパイを追い詰めていく、というのが原作の素晴らしさだった。 映画版では、原作の展開をある程度省略し、簡素化しながらも、そのエッセンスは抽出する事が出来ている。特にゲイリー・オールドマンの抑制された演技は秀逸。原作では主人公スマイリーは背が低く小太りの中年という設定だが、長身のゲイリーを見ても、普通にスマイリーっぽく見えてしまう。 ただ残念なのは、原作最大の魅力である、「過去の記録を徹底的に再調査し、記憶を蘇らせながら、不審点を洗い出す」過程が、この映画ではあまり描けていなかった。こんな地味な場面を映像化して面白くなるか実に怪しいのだが、ここが原作最大の魅力だから、映画版も何としても追及してほしかった。 本作を見て、難し過ぎるといっている方は、原作を読むともっと頭を抱えそう。でも、その迷宮のような世界をどうにかこうにか読み通すことで得られる、スパイの世界の寂寞感や荒涼感、その読後感はなかなかに味わい深い。ぜひ原作にも挑戦してほしい。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2019-01-12 11:32:08)(良:1票) |
15. 太陽がいっぱい
今となっては青春もの、サスペンスの古典であるため、確かに犯罪手法は古くずさんかもしれない。 ただ時代を考慮すれば、違和感なくサスペンスの面白みを味わう事が出来た。 アランドロンの妖艶で屈折した瞳に終始惹きつけられた。 ラストシーンの余韻も良い。名作。 [映画館(字幕)] 8点(2018-12-02 10:12:11) |
16. ニュー・シネマ・パラダイス
映画への愛に溢れた映画。 モリコーネの音楽が素晴らしい。 全身に鳥肌が立つほどの感動と、多幸感が滲み出てくるラストシーン…。 [映画館(字幕)] 10点(2018-12-02 10:05:09) |
17. キャロル(2015)
様々な切り口で論評できる作品だが、ラストのケイト・ブランシェットの表情が特に印象的だった。 まさに大女優の一世一代の演技だろう。 何も語りはしない、しかし妖艶とも悠然とも言えるあの表情の中に、様々な感情やメッセージが込められており、圧巻だった。 皆さまは彼女のあの表情からどのような思いを読み取るだろうか? [ブルーレイ(字幕)] 8点(2018-11-23 13:17:29) |
18. 恐怖の報酬(1953)
サスペンスのお手本のような映画。 残虐な描写に頼ることなく、いかに緊張感、ハラハラドキドキを演出するかについての、教科書的な回答を提示していると言っていい。 男たちが町を出るまでがとにかく長くて退屈なのだが、それを乗り越えれば、極上の緊張感を味わえる。 [ブルーレイ(字幕)] 8点(2018-07-28 17:09:11) |
19. ロシュフォールの恋人たち
《ネタバレ》 冒頭からその色彩感覚のオシャレさやドヌーヴ・ドルレアック姉妹の可愛さにノックアウトされた。 1966年の映画とは思えないほど美術面での洗練さがすごい。 シェルブールの雨傘と比較すると、全台詞を楽曲にするという無茶をやめ、物語構成もより練り込むことで、 ストレスを感じることなく鑑賞ができた。 本作は文学性ではシェルブール(戦争に引き裂かれた恋人たちの悲劇)に叶わないと思うが、 より陽気でパンチの効いた作品になっており、美術デザインのクオリティ、脚本の巧みさでは本作の方が上だと感じた。 ドヌーブ・ドルレアック姉妹が踊るシーンは本当に素晴らしかった。思わず可愛い!と声をあげてしまった。 (映像だと2人とも今の観点からするとなかなか化粧がきつく見えるが、書籍に残ったオフショットなど見ると、映像以上の美しさで、 やはり大スターたちは違うのだなと思った) とにかく66年作とは思えぬオシャレさに圧倒された映画でした。 [ブルーレイ(字幕)] 10点(2018-05-05 16:20:21) |
20. アデル、ブルーは熱い色
同性愛やセックスシーンといったセンセーショナルな部分がクローズアップされがちだが、本質的には、実に文学的で、真摯で、普遍的な恋愛映画だった。 アデルとエマ、それぞれの親が出す夕飯の違いで、育ちの違いが見えてしまうのは、妙に切ない。 激しく惹かれあっているにも関わらず、育ちの違いや将来についての考え方の違い、若い二人には微妙でありながら大きなすれ違いがあって、それがやがて破局に繋がっていく。 現実の恋愛でもこういうのはよくあるよなぁと観て思った。好きになるのが異性だろうと同性だろうと、その部分は変わらない、恋愛の本質のようなものなのかもしれない。 燃えるような恋が終わっても、アデルの人生は続いていく。 その景色を映し出す為に、本作は3時間以上もかけて丁寧に丁寧に物語を積み上げていく。 妙な煽情性はなく、とても真摯で誠実な、観てよかったと思える映画だったと思う。 [ブルーレイ(字幕)] 8点(2017-12-09 14:30:27) |