1. 骨(1997)
《ネタバレ》 次作『ヴァンダの部屋』のヴァンダが俳優として別人役で登場していますが、他の登場人物も多く、リスボンのスラム街に屯するプロの俳優ではない人々が多々演じている…という意味で、前作『溶岩の家』から『コロッサル・ユース』以降までへと続いてゆくコスタの作風が固まりつつあったという作品なのかとは思われます。ただ、それでいて、やはりまだ後年の作品に比べればその「可読性」は相当に高度に備わっている…とゆーか、むしろ本来、別に「これ位に分り易いハナシでも全然好い筈ジャン!」と、後の作品を先に観てしまうと(どーしたって)そう思ってしまう…みたいな感覚もあるのですよね。 シンプルに、そのリスボンのスラム街に在る諸々の侭ならなさや、それに起因する人々の絶望(に極めて近いだろう感情)を、今作から感じ取るコトは(筋が明確で分り易いから)ごく容易でありますし、個人的には第一作『血』に比べると(ソコに加えて)ある種の進化と言うか、それは続く『ヴァンダの部屋』で更により一層明確になるコトだとは思いますが、今作も、その「取り繕わない」感じがまた演出方針や監督の作風自体には非常にマッチしていたかな…と思ったりもするのですよね。しかし、だからこそ、根本的にどうにも「出口の無い」お話だった様に見えている(⇒実際、終わり方自体は明確に解釈できる様なモノではなかったと思いますし)というトコロから、結論的には今作が、この建付けでこの内容であるのならば、描かれるモノの性質を鑑みると、私としては『ヴァンダの部屋』より高い評価になるかと言われれば、否…というコトになるのですよね。とは言え、いったんこの評価としておきます(私嘗て『ヴァンダの部屋』にもう一点高く付けたと勘違いしてた……) [DVD(字幕)] 6点(2025-05-04 23:16:52) |
2. 溶岩の家
《ネタバレ》 主演は前作から引き続きのイネス・デ・メディロスで、可愛いのですが(彼女も彼女で)高度に得体は知れないですし、全体としても(またワリと)筋書きは明確な様に思えるのですが、随所での可読性は前作よりも少し(否だいぶ)下がってるかな…という感覚もあります。再び、夜のシーンも多いのですが、明るいシーンも比較的多くって&そもそもカーボベルデが舞台なのでごく高度な南国感も確実に存在するので、物理的にはやや観易い感じではありましたかね。実は、これ以降の監督の「ドキュメンタリ指向」=ドキュメンタリと劇映画の狭間を行く、みたいなトコロが今作から発揮されつつあった…とのコトらしく、カーボベルデという土地そのものの空気感や思想信条や「魂」?みたいなモノがそのまま描き込まれて居た…という部分が確実に在るってコトなのでありましょう。残念ながら、今回の初見だけではその辺マデを十分に感じ取って共感するには至りませんでした。なので、いったんこの評価としておきます(いずれ再見します)。 [DVD(字幕)] 5点(2025-05-04 23:11:04) |
3. 血
《ネタバレ》 ペドロ・コスタの記念すべき監督第一作。1989年の作品ですが、モノクロ&スタンダードで撮られていることも含め、もう少し古い時代…50年代か60年代位の、方々の(アートみのある方の)映画に近い質感を端的に感じ取れるし、作品全体としても特に「ノワール」としての構成や雰囲気が強く感じられるのです。しかし一方で、ポルトガル映画史上最も「美しい映画」であるとの評価を獲得したこともあって画づくり(⇒特にその黒・暗さを活かした表現)の卓越ぶりは処女作とは思えないレベルで洗練され、かつ少~し(年代相応に)モダンなエッセンスもまた覚えられるトコロではあります⇒それこそ、70年代以降の、隣国のヴィクトル・エリセの諸作品に倣ったかの様な絵画みが、やはり感じられて已まない。コスタの後年の作品群と比べれば、それでも今作は、筋書き自体の可読性という意味では大いに上回ると言ってしまえるかとは思いますが、それでも、コトの真相の部分は謎のままであるし、本質的にも(少なくとも)主人公ヴィセンテとクララの心情や辿り着いた境地に対しては、劇中の他登場者とも&我々鑑賞者との間にも、確実に大いなる隔絶が存在する⇒それそのモノを、ニヒルに描き出して「突き放すコト」が今作の一つの目的にも思える…と言ってしまえば、その部分こそもまた「ノワール」の系譜にあるモノだったのかな…とも(個人的には)思われましたですね。非常に静かな=観ているコチラ側の意識も静かなまま(あまり波風が立たない)という映画ではあったかな、とも思われますが(=その意味でも、個人的には再び絵画的な作品だと思いました)評点は少しダケ上の方に寄せておきます。 [DVD(字幕)] 7点(2025-05-04 23:04:01) |
4. ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区
《ネタバレ》 ポルトガルと、そこに生きる人々の歴史、といったトコロが共通テーマになってる短編4作のオムニバス。ただ、かなり高度にシャレオツで気取った感じの作品揃いで、勘所自体はかなり難易度の高いヤツだと言ってよいだろう。個人的にはさほど面白く観れなかった。。 『バーテンダー』:カウリスマキ作品だが、確かにどっからどーみてもカウリスマキ風な初老のバーテンダーが主人公。台詞も特に無し。オバサン相手にブキッチョに踊るシーンなんてザ・カウリスマキ。監督のファンなら確実に気にいる作品だと思われる。 『スウィート・エクソシスト』:『コロッサル・ユース』『ホース・マネー』に引き続きヴェントゥーラ主演作品。というかコレ『ホース・マネー』撮影時に同時に撮った or 余った素材ででっち上げた、という作品ですね。一番キモなシーンなんか完全に流用だし、どーいうつもりでこーいうコトしてんですかねペドロ・コスタ?正直、意味不明(可読性は限り無くゼロに近い)。 『割れたガラス』:いちおうヴィクトル・エリセ作品、という時点で超レアもの。ただ今作は完全なドキュメンタリで、150年以上操業したとある紡績工場に縁の有る人々へのインタビューを通じて、工場を取り巻く人生・感情・記憶の重なりを描き出そう、という内容かと。それ自体は中々面白く観れるし、観て損した感は全く無い。この4作の中では確実に一番「無難」。 『征服者、征服さる』:ここで言う「征服者」とはポルトガル王国の建国者、アフォンソ・エンリケスのこと。彼が征服されるとは…これは観てのお楽しみ。短いが趣旨はハッキリしており、オムニバスとしてのコンセプトにもマッチしていると思う。極短編としては十分に良作。 [DVD(字幕)] 5点(2021-02-17 00:11:42) |
5. 何も変えてはならない
《ネタバレ》 女優にして歌手、ジャンヌ・バリバールのライブ・リハーサルの様子をひたすらモノクロで撮ってゆくというシンプル極まりないドキュメンタリ。ほぼ全編が(練習として)歌っているシーンなので、見た目はミュージック・ビデオの一種だと言ってよいかも知れない。音楽的にも、シャンソン風のものからクラシカルやポップス調のものまで多彩な楽曲が奏でられて面白いのだが、その上に、ただ練習風景を映像に納めているだけではあるのだが、そこにしっかりと歌手が歌をつくり込んでゆく過程が端々に描き込まれており、普通に音楽を聴くのとは一味違った面白さを確実に備えた優れた作品だとも言える。無作為なようで、実に見事なドキュメンタリだと思う。 また、監督の特徴である闇を多用した画づくりもこれまた見事。こっちもただ白黒カメラを無造作に置きっぱなしにしているだけにも思えるのだが、何とも言えないエレガントな映像を撮り納めることに成功しているのだ。これも一種の才能・センスなのだろうとしか言えないようにも思えるが、どこか少し不思議な作品という風にも感じられる。 [DVD(字幕)] 7点(2021-02-11 13:12:12) |
6. ホース・マネー
《ネタバレ》 これも『コロッサル・ユース』に引き続き、全体としてはまたヴェントゥーラの物語である。しかし、更に詩的な、というか、物語性の希薄さは前2作をだいぶん上回っている。幾つかの現代詩をモチーフとして、その詩的な雰囲気を(ヴェントゥーラを媒介として)映画の中に落し込んだ、とでも言いますか。いわゆる「考えるな、感じろ」系の映画と言って過言でないだろう。 ミもフタも無い言い方をすれば、めっちゃ分かり難いヤツだということである。各シーンで何がどーなっているのかは(特に前半は)相当に理解も難しいし、間合い・時間の使い方も非常に緩やかでかなりモヤモヤ・ダルダルとした状況が続いてゆく。我慢して観ていくと、中盤以降は慣れてくるというか、するとその詩的で空虚で緩慢な雰囲気も少しだけ心地好くなってくる…とは言えるのだケド。あとは、暗闇を多用・活用した画づくりのセンスも中々に優れていたりして、そこには面白さを感じ取れる。まあ結論、かなり高度に訓練された玄人向きな映画かと。 [DVD(字幕)] 5点(2021-02-11 02:44:31) |
7. コロッサル・ユース
《ネタバレ》 『ヴァンダの部屋』の続編といってよかろう作品でしょうが(ヴァンダも再登場しますし)、テーマ自体も非常に似通っています。主人公こそ違う人物ですが、描かれるのはこれも「絶望」、前作よりはやや乾いた絶望とでも言いましょうか。 演出方針も基本的には同様ですが、少しだけ抽象的な表現を取り入れてる?というシーンが見られたり(団地の担当者との幾つかのシーンとか)、画的に非常に凝っているようなシーンも随所に見られたり、そこは前作より挑戦的な作品にも思えます。あとは、何度も何度も繰り返される詩文のひとり語りからも想起されるように、より形而上的で詩的な作品と言えるのも事実でしょう。 ただ、これも前作と同じく、個人的な感想としてはとにかく長い!というコトが最上位に来るのですよね。もう分かったよ!(許してよ!)とでも言いますか。長いことに(大した)理由が無い映画というのは、どうしたって得意にはなれない、というのが正直なトコロです。 [DVD(字幕)] 5点(2021-02-07 02:00:00) |
8. ヴァンダの部屋
《ネタバレ》 こ~れは…映画として評価するのは正直言って中々難しいというか、個人的にも(どーしてこーしているのかは重々分かるとは言え)いくらなんでも暗すぎるし長すぎるし説明も不足してるし、とは思います。ただ、コレは……もし映画館で観ていたら更に凄まじかったろうと思いますし、どこかしろに共感が引っ掛かれば確かに唯一無二の「絶望感」というのを嫌と言うホド味わえる稀有な作品だと思いますね。 朝起きて、咳込んで嘔吐し、それを打ち消さんとするかの如くおもむろにコカインを吸引する…これだけでも、この人何のために生きてるんだろ、という絶望をこの上なく生々しく実感できるのですよね。抽象的な意味でなくて、正に「悪夢」の様な人生。麻薬はむしろそんな人生に少しだけでも「存在意義」というものを与えてくれる希望のよーにすら思われます。彼らが自暴自棄に陥らず、なんとかかんとか悪い意味での衆目を集めずに大人しく生活しているのも、ただ麻薬をやりたいから(=逮捕なんかされたらできなくなるし)なのだろうとも思われますし。事ここに至っては何が正義なのかももはや分からなくなる、とでも言いますか。強烈な映画であることは確かですね。 分類的にはドキュメンタリ(に非常に近いドラマ作品)ということのよーですが、質感はどちらかとゆーと普通に劇映画に近いです。前述どおりの部屋の暗さ、全く動かない置きっぱなしカメラ、音も皆無、という漢気溢れる演出方針が形づくる寒々しい雰囲気自体は、どこか荘厳な感じすら帯びているというか、中々オツな味わいを感じ取れるヤツだと言えるでしょう。ただ、DVDだとちょっと画質がイマイチなのですよね(残念)。 [DVD(字幕)] 6点(2021-02-07 01:59:53) |
9. ポルトガル、夏の終わり
《ネタバレ》 ラストシーンが出色の出来でしたね。山の稜線、広がる海、そこに集まる人びと、いつしか海に沈んでいく太陽が、そこに一筋の光る道を照らし出す。それは正にある人生の終わりを象徴する様な、それでいてどこか温かく、かつその先の希望というものさえ感じさせる様な。一人また一人と画面からフェードアウトしてゆき、誰もいなくなったトコロで計算どおりのジ・エンド。このシーンを思い付いたがためにそこに向かって組み立てた、とでもゆー様な話だったかも知れません(静かに心に沁み入る様な好いラストでした)。 このとおり、非常に静かな物語で正直あまり抑揚というものはありませんが、本作にはそれ故のリアリティというものがつくり出せており、そしてそんな中に真摯に繰り出される俳優陣の演技には、それでも随所にジワっとズシリと効いてくる様なパワーというものが大いに感じられました。ポルトガルの情景というのも中々面白いですね(南ヨーロッパ風の乾いた雰囲気も滲ませながら、アフリカに近いというトコロなのか、何とも言えない自然の力強さも持ち合わせている、というか)。心が穏やかになってゆくという様なダウナー系人間ドラマです。私自身は結構好きなタイプ。 [映画館(字幕)] 6点(2020-12-17 18:46:34) |
10. テリー・ギリアムのドン・キホーテ
《ネタバレ》 やたらと攻撃的な宣伝文句を並べ立てていた作品だが、観てみると存外に普通の映画でかなり拍子抜け。いや確かに、相当に変わった映画なのは間違いないのだが、もっとラディカルに妙ちきりんな作品を期待していた、というだけなんだけど。 だが、普通に映画として観たとすると、実は別に全然アリな作品だと思う。アダム・ドライバーはまたまたかなり頑張ってるし、コミカル面も(分量が少ないのは否めないが)決してそんなに悪くはないし、何よりどこで撮影したのか知らんが、荒れ地の情景にせよ時代を感じる街並みにせよ、また終盤の舞台になる城なんか特にスゴくイイ感じの雰囲気で、正直メチャクチャ行ってみたい。 とは言え、コンセプトが何なのか、という点では、ちょっと掴み切れなかった映画なのは確か。監督の過去作を研究して、そのうち再見したい。 [映画館(字幕)] 5点(2020-01-25 01:50:59) |