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自己紹介 ハリウッドのブロックバスター映画からヨーロッパのアート映画まで何でも見ています。
「完璧な映画は存在しない」と考えているので、10点はまずないと思いますが、思い入れの強い映画ほど10点付けるかも。
映画の完成度より自分の嗜好で高得点を付けるタイプです。
目指せ1000本!

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1.  ブルータリスト 《ネタバレ》 
アメリカンドリームが華々しく煌びやかであるほど、あぶれた分だけ漆黒の絶望が広がっていく。 虚栄と強欲にあふれたアメリカで偽りの自由に囚われ、"アメリカ人"として生きていくこと、そして己の帰属意識とは?  「期待はしていない」と常にやつれた顔を見せる建築家。 ホロコーストから逃れても、新天地でも差別され、搾取され、凌辱されて支配される。 緩慢な地獄、そしてシオニズムへの回帰。  ブルータリズム建築物はコンクリートを中心に構成された、どこか無機質で冷たく、コントロールされた印象を受ける。 それはタイトルの語源である"Brutal"="残忍な"を意味する通り、 人間の残忍さだけでなく、狡猾さ、傲慢さ、醜さ、愚かさと卑小さを兼ね揃えている誰にでも持つ本質。 それでもなお、その先にある"到達点"こそ重要であると。 ユダヤ民族の苦渋の歴史を生々しく映しながらも、尊厳としての、抵抗としての建築物を残すこととリンクする。 そこに意思を貫こうとする"美しさ"があった。 (ただ、イスラエルのガザ侵攻を見るに、公開時期的にタイミングが悪いとしか言いようがない)。  215分の長尺であるが2部構成に分け、中盤に15分の休憩時間を差し込むことで、 意識の切り替えと後半への期待を寄せる、故に観客を退屈させない仕組みを構築している。 昔の大作映画にはそういうものがあったそうで、今までにない貴重な体験。 オープニングとエンドクレジットの意匠凝らしに、 クラシックへの回帰だけでは終わらせないアーティストとしての矜持を感じた。  そう、本作の監督はブラディ・コーベット。 ミヒャエル・ハネケのリメイク版『ファニーゲーム』に出演したぽっちゃり系の若者は生き残るため監督へと転身した。 若さ故だからこそ挑発的な作りであり、巷にあふれている消費されるだけの映画業界に対して抵抗を叩きつけた。 粗削りで暴力的とも言える野心たっぷりで、負けてたまるかと言わんばかり。 次世代のアーティストが力で押さえつけようとする時代と戦い続ける限り、これだから映画はやめられない。
[映画館(字幕)] 8点(2025-02-21 22:36:03)
2.  サタンタンゴ 《ネタバレ》 
7時間半かけて描かれる、ある寒村の死。 建物は朽ち、壁が剥げかけ、あぜ道には止まない雨が降り続け泥土に覆われる。 酒に溺れる年寄り、歳を食った売女くらいしかおらず、互いに足を引っ張っているだけ。 閉塞感に満ちた村に死んだと思われる青年の帰還と孤独な少女の顛末が物語を大きく動かす。  ただ、そこに至るまでの一日を各登場人物の視点でゆったりと進むため、 一枚の地図ができあがるまでに4時間強を要する。 一瞬が永遠に感じられるほどに引き延ばされた緩慢な長回し、虚構が現実の時間と同一化する。 秩序の中に当て嵌められた支配者と被支配者の狭間に、自分はどこに属するのか? 行きつく先にあるのは"搾取"である。  搾取する相手を失った者には絶望しかない。 自らを強者と思い込み猫を殺し、自ら命を絶った少女もそうだろう。  一方で、不安を煽り、信頼を獲得しようと村人の心に付け込む青年は救世主の顔をした詐欺師だった。 金を巻き上げ、いったん疑心に陥らせた後で脅しに近い言葉で信頼を強固にさせる念の入れよう。 ただ、そんな彼も警察のスパイ網を作らせるために釈放されていることから、 真に搾取している存在とは……言うまでもないだろう。 外敵から虐げられるままのハンガリーの被支配者側の歴史が本作に反映されている。 希望をチラつかせては絶望に叩き落される不条理は世界中どこでも普遍的だ。  配信ではなく、ストップボタンを押せない映画館で"体験"する映画。 どこに向かうか分からないあやふやさを含めて、わずか150カットの画の吸引力にしても、 ダラダラ撮っただけの映画ではないことをタル・ベーラは証明してみせる。
[インターネット(字幕)] 6点(2025-01-17 23:26:42)
3.  ファミリー・ネスト 《ネタバレ》 
崩壊していく、家族の巣窟。  共産主義政権下、住居難にあえぐ当時のブダペスト。 狭いアパートで三世代が同居せざるを得ず、プライバシーも金銭的余裕もなく、 傲慢な舅にいびられ、追い詰められている嫁の"リアルな現在"を切り取っている。  夫が除隊となり、国から公営住宅が提供されると思ったら順番が回ってくる様子もなく、 舅とのストレスフルな関係から残業と称して家に帰らないことも増える。 そこから不倫しただろ、アバズレだの一方的に決め付け罵る舅は、 自分は苦労していると理想の父親像を謳いながら浮気しているクズっぷり。 夫もどちらの側に立っているのか曖昧で守ってくれず、 とうとう壊れてしまった嫁は娘を連れて出ていくも帰る場所もなく、 空き部屋を不法占拠せざるを得ない世知辛い現実が待っていた。 お役所体質で部屋はないと言い張っている職員は何のために存在している?  ここにあるのは息苦しさしかない社会で、強者が弱者を捌け口として蹂躙していく。 露骨な性暴力が共産主義を牛耳るソ連の暴力性とリンクしている。 当時、弱冠22歳で本作を撮り上げたタル・ベーラによるドキュメンタリータッチの台詞の応酬に、 後の作品群とは似ても似つかぬ作風だが、社会への疑念・怒りというテーマは初期から通底していた。 共産主義政権下のハンガリーでここまで反骨的なものを撮れたなと感嘆させられる。
[インターネット(字幕)] 6点(2024-08-24 02:02:21)
4.  アウトサイダー(1981) 《ネタバレ》 
タル・ベーラの長編2作目であり、唯一のカラー長編。 ゆったりした流れのカメラワークは皆無だが、長回しと踊りと酒場は初期から存在し、 セミドキュメントらしさはある。  一言で言えば、面白くない。 ただ、ソ連支配下の社会主義国だった当時のハンガリーの生きづらさは体感できた。 アーティスト気質でありながら、刹那的で楽観主義で社会不適合者に見える主人公なら尚更。  音楽で食べていけるほど甘い世界ではなく、誰もが生きていくことに必死で普通に働くだけでも余裕がない。 妻子持ちで問題から逃げ回る主人公は中途半端に一芸があったために職も長続きせず、 音楽と踊りに明け暮れ、ディスコでの妻との痴話喧嘩すらヘラヘラしてばかりで、そのツケが徴兵となって現れる。 主人公が退場したあと、主賓をもてなすハンガリー狂詩曲を弾く音楽家との対比が鮮烈だ。  大きな夢を持つ人はいるが、何かを犠牲にしなければいけない覚悟と決断があるか。 それを先延ばしして、10年後20年後には取り返しのつかないことになっている。 映像作家として成功したタル・ベーラによる世界を変える方法は「自分を変えること」。 主人公はそれができず、夢を打ち砕かれることになってしまった。
[インターネット(字幕)] 5点(2024-08-17 02:43:08)
5.  ダムネーション/天罰 《ネタバレ》 
タル・ベーラのスタイルが確立した記念碑的作品だという。 閉塞感たっぷりのモノクロ映像に、長回しによる横移動の流麗なカメラワークが、 繰り返される滑車の連なり、陰鬱な雨、疲弊した労働者たちの刹那的なダンスと気怠い音楽によって、 観念的で異様な空間に変えていく。  タイトルは直訳すると宗教的な意味合いの「天罰」であり「破滅」を意味する。 台詞にところどころ隠喩が含まれ、生活のために違法な仕事を請け負う夫に、 激しく拒否しながらも惰性的に不倫を続ける人妻、 そして従順すぎる元カノを突き放した過去のある身勝手な主人公と、 抜け出すことのできない負のスパイラルに人は犬畜生と同然なのか。 雨は"洗い流す"という意味合いもあると思ったが、これですら罪を洗い流せないのか。
[インターネット(字幕)] 5点(2024-08-13 08:33:12)
6.  サンセット 《ネタバレ》 
監督は前作の成功体験で味を占めたのか、情報を遮断されたヒロインの一人称で 帝国末期の閉塞感と混沌を描く試みは見事に失敗している。 登場人物たちの思わせぶりな台詞と一向に進まない展開、消化不良のまま残る謎など、 ひたすらヒロインに寄り添う撮り方が本作の舞台とミスマッチ。 ホロコーストという強烈な舞台装置があった『サウルの息子』はその焦らし方が効果的だっただけに、 監督のメッキが剥がれた形だ。  難解と言えば聞こえが良いが、逆に言えば「何を描きたい?」とも言いたくはなる。 歴史の闇を描きたいのか、激動の時代を生きようとするヒロインの強さを描きたいのか。 ヒロインが何を考えて行動しているのか分からず、妄想も幻覚も入り混じり、 最後は第一次世界大戦に兵士として従軍している。 帽子店が存続のため貴族に女性従業員を捧げている、性奴隷を匂わせる嫌悪を見るに、 彼女も過去に似た被害を受け、女性の殻を脱ぎ捨て、兄から憑依されるように同化したと解釈できるが。  当時のハンガリー史を知っていること前提。 帽子店を訪れた皇太子夫妻が翌年どうなったかは言うまでもない。
[インターネット(字幕)] 4点(2023-10-19 22:19:15)
7.  ヴェルクマイスター・ハーモニー 《ネタバレ》 
DVDが絶版していたため、やっとのことで見れた。 後の『倫敦から来た男』『ニーチェの馬』が"静"なら、本作は"動"と言える。  一貫してモノクロ長回しが主体だが、画のダイナミックさと哀切な音楽が一際目を引く。 その装飾を削ぎ落として、神経を研ぎ澄ませた結果が『ニーチェの馬』になっていくのだろう。  何度も見ないと寓意的意図は掴めないが、海のないハンガリーでは海の生物であるクジラが異形の存在に見える。 扇動する存在かもしれない"プリンス"もまた、不安な21世紀を象徴するカリスマであることも、 本作での先見の明はあったかもしれない。 既存のブロックバスターとは対極で、決して楽しい映画でもなく、退屈だ。 それでも目が離せない衝撃が静かに調律を乱すように伝わってくる。
[インターネット(字幕)] 6点(2017-11-18 20:00:55)
8.  人生に乾杯! 《ネタバレ》 
日本に囁かれる社会保障の破綻、年金受給の年齢引き上げ検討を見るに他人事で済まされない。ハンガリーと言えば、ブダペストの美しい街並みを思いだすが、この映画にそのシーンは全くなく、素朴な田園風景がほとんど。ただ、生活が厳しく、複数の仕事を掛け持ちしないとやっていけないそうだ(ツアーに行った時の添乗員より)。かつて社会主義にどっぷり浸かった老夫婦が強盗する行為に説得力がある。勇気さえあれば失うものなど何もないと言わんばかりに。とは言っても、基本はのほほんなロードムービー。行き過ぎた資本主義にちらっと風刺しながらも、あの二人は希望に生きた。人質だった婦警の妄想に過ぎないが、あの伏線の数々に唸る。突破口を切り開き、青い海を眺める二人を思い浮かぶ開放感がそこにあった。
[DVD(字幕)] 6点(2017-01-31 23:54:31)
9.  サウルの息子 《ネタバレ》 
同胞のガス室送りを手助け・後始末をしている"ゾンダーコマンド"の存在を初めて知った。 監督はかつてタル・ベーラの助監督を務めた影響か、スタンダード比率で寄り添うような主観の長回しが、 主人公の視野の狭さ=見たくない光景とリンクして、閉塞感と混沌の中に放り込む。 この二つが、飽和状態のホロコースト映画に新しい切り口を入れる。  ぼかされた死体の山には目を背けられるが、絶命の叫びからは逃れられない。 そしてその状況に慣れてしまった自分がいる。 だからこそ、死んだと思われる息子(という設定)を 自分を保つための理由づけにしないととても生きていけないだろう。  最後は撃たれるだろう彼の笑顔が、新緑の森に冴え渡る鳥の鳴き声が、 無機質なアウシュヴィッツ収容所と対比して寓意的に映る。 敢えてやっているかもしれないが、凄惨さと絶望度ではまだ足りない。 この撮り方がなければ、全く話題にならなかったかもしれないのだから。
[映画館(字幕)] 7点(2016-07-18 19:09:19)(良:1票)
10.  ニーチェの馬
ミニマリズムの極致。色のない荒涼な写実主義絵画を延々と眺めるようなもので、ギャラリーに歩み寄らず(悪く言えば媚る)、むしろ「無から何かを感じ取れ」と歩み寄らせるスタンスだから、粗製濫造の娯楽映画に浸かりきった大衆が拒絶するのも無理はない(仕事に疲れ切って何も考えたくないから、劇中の父娘と同じようでダブる)。反面、今日評価されている芸術に対して、何も疑わず追従する大衆もいるという矛盾。ゼロベースから形を変えて、後世に影響を与えているのならその価値はあるかと。物質主義も精神主義も棄てた先にある答えを、後世の人たちが見つけるかもしれない。そういう意味でのタル・ベーラの遺作。
[DVD(字幕)] 5点(2015-12-07 19:11:50)(良:1票)
11.  倫敦から来た男
モノクロ、長回し、スタンダードサイズの画面比率・・・ハリウッドで撮ったら30分の短編で仕上げられるノワールを、時代を逆行する映像手法で異質な芸術映画として際立たせている。隅々に行き渡る白と黒のコントラストと、静止した時間をスローに行き交うカメラワークが異世界の扉へ誘う。単に観客を無視した文芸気取りの自慰と切り捨てるか、崇高な領域に到達した名画と称えるかはその人次第だが、ここまで徹底して独創的だと強靭な映像の力で吸い寄せられる映画人が少なくないのも分かる気がする。退屈だけど、不快なものではなく酩酊感のする、そんな感じ。
[DVD(字幕)] 6点(2015-12-07 19:10:03)
12.  アンダーグラウンド(1995) 《ネタバレ》 
陽気なジプシーブラスと哀愁漂うチャールダーシュの対比、 歴史的事実に織り込まれた寓話が程よく溶け込んだ、唯一無二の世界観とグルーヴ感は一度見たら絶対に忘れられない。 ユーゴスラビアの歴史をよく知らないと厳しい部分があり、結婚式のシーンはややしんどいので2時間半でまとめられた。 あの世で踊り続ける、今は亡きユーゴスラビアの民への鎮魂歌。 この物語は終わらない。 そして、歴史の中で生き続ける。 昔々、とある国があったことを。
[DVD(字幕)] 7点(2015-09-06 15:23:33)(良:2票)
13.  さあ帰ろう、ペダルをこいで 《ネタバレ》 
交通事故で両親と記憶を失ったブルガリア系ドイツ人の青年とブルガリアから飛んできた型破りな祖父がタンデム自転車で祖国へ帰るロードムービーを縦軸に、社会主義時代のブルガリアからの亡命を図った一家の回想を横軸として交差していく。バッグギャモンとタンデム自転車が重要なキーワードになっており、原作付きだから当然とは言え、脚本が素晴らしい。無理なく伏線が回収され、ミニカーと自動車事故がオーバーラップして記憶を取り戻す演出には感嘆。叙情性溢れる音楽も素晴らしく、二人と軌跡を追った気分になれる。亡命が皮肉にも家族の断絶を引き起こし、新天地でも暗い過去を送っていた青年が、祖父と始めたバックギャモンをきっかけに過去と決別し、新しい人生を始めるラストに「世の中捨てたものじゃない」と思わせる力があった。英題は『世界は広い、救いはどこにでもある』。とても良い掘り出し物でした。
[DVD(字幕)] 8点(2015-03-20 22:02:42)
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