2. ベニスに死す
《ネタバレ》 ベニスが舞台なのに、鉛色の空が寒々しく、砂混じりの熱い季節風シロッコが吹き、サン・マルコ広場のようなメジャーな観光地はほとんど出ません。しかも後半になると、死の都になってしまい、白い消毒液と煙の臭いが漂ってくるようです。でも、美しい映画です。アッシェンバッハ教授を演じるダーク・ボガードは、おそらく生涯最高の大名演です。ヤな役だけど。そして、ビョルン・アンデルセン演じるタージオは、本当によく探し出したもので、とても美しく耽美的です。ヤなガキだけど(笑)。教授はそれまで生涯の大部分をかけて、美しい絶対的なバランスの音楽を作り上げようと努力してきたのに、自然の美にあっけなく負かされてしまいました。それはタージオが大人になれば消えてしまう一瞬の悪戯のような美、教授は彼と視線を交わすだけで、触れることも言葉を交わすこともできません。シルヴァーナ・マンガーノ演じるお母さんも印象派の絵画のように綺麗で、教授も最初、見とれるシーンがありますが、多分、優雅な貴婦人だと感じただけで、心を奪われるのはタージオの方なんですね。コレラのことを知った後も、家族に忠告してタージオの頭に触れる想像をするだけで何もできず、老いらくの恋を糧に作曲に打ち込むことも、ミュンヘンに帰ることもできずに、ストーカー化した自分の滑稽さを笑うだけでした。やっぱり芸術家としては今ひとつだったのかもしれません。ただ、恋する男としては至福の死に方でしょう。この映画は取っ付きにくいかもしれませんけど、何度も挑戦して観る価値は絶対あると思います。どうしても駄目なら、最初は倍速にして観てもいいと思います。台詞があまりないので、回想のアルフレッドとの論争のみ気を入れれば大丈夫です。しかし、2倍速にして最後まで見られる映画も珍しいなあ。 [DVD(字幕)] 9点(2004-07-27 04:24:15) |