2. 道(1954)
《ネタバレ》 映画はこれまでに何本観てきたか分からないが、ベスト5に入るほどの美しいラストシーンを持つ映画である。取り返しのつかない喪失。若さを失った自分。絶望に打ちひしがれ、これまでの人生を振り返った時、彼は人生で辿ってきた"道"のりをどう振り返っただろうか。おそらく、自分の人生の貧しさに気づき、一つの価値観が崩壊する瞬間だったのだろうと思う。いつまでも寄せては返す白い波。握り締めた指の間より落ちていく砂。そして、その時これまで当たり前に存在していた自然の万物が、彼の目にはどう映ったのだろうか。石ころのようにただ存在し、気づくこともなかった自然の美しさは、どう彼に迫ってきただろうか。本当に美しいラストシーンだと思う。映画の切り口としては、精神的DVを描いておりその当時としてはすごく斬新だったに違いない。ジェルソミーナは自虐的なまでに従順なのだが、それが彼女の生きる術だったのだろう。母親に気に入られなければ彼女は生きていけなかったのだ。あの母親の前では。それは冒頭の短いシークエンスだけで描かれる。その後、支配関係はザンパノへと継承される。そうやって育ってきた彼女には従順な性格から逃れる術はない。それが当たり前だから。彼女には意志がない。ザンパノの意志が彼女の意志なのだ。常にザンパノがどう思うかに支配されている。そして、自分というものがないからザンパノを好きだと勘違いしなくてはならず、そのまま素直なままで勘違いしてしまっている。逃げることは彼女の罪悪感を刺激する。こんなの恋でも慈悲深い優しさでもない。ただただ悲しい習慣だ。ザンパノのにとっても彼女は自分の価値を確かめる、甘える道具でしかなかった。非常に悲しい二人の関係。この映画を見るたびに思うが、現在にもこれと似た問題が起きている。ドメスティックバイオレンスである。虐げられる側がよく口にする、「彼は悪くない、彼は可愛そうな人だから私がついてあげなければ。愛しているからこんなの苦じゃないの、私より可愛そうな人なのよ」などと。まさにこの映画の二人だ。ところで、この映画の問題点を挙げるならば語り口のまずさでしょうね。洗濯物のシーン以降は素晴らしいのだが、それ以前がもう少し観客の興味を引っ張るような脚本にできなかったのだろうか。それだけが悔やまれる。 [DVD(字幕)] 7点(2009-07-12 14:00:33) |