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 > ザ・チャンバラ さん
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プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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221.  ジェイソン・ボーン 《ネタバレ》 
IMAXにて鑑賞。 『アルティメイタム』で綺麗に終わった話をどうやって再開するのかという点が鑑賞前の不安だったのですが、案の定、完成した作品は語るべき物語を見失って迷走していました。ジェイソン・ボーンのアイデンティティを探る話はまだまだ続くのですが、シリーズ継続のために捻り出された後付けの設定があまりにご都合主義的なので醒めてしまいます。『24』もそうでしたが、エージェントもので実は父親も陰謀に関わっていたという話を出し始めると、いよいよお終いですね。 国家が作り出した殺し屋というものを見たことがある人はほとんどいないため果たしてそれがリアルなのかどうかは分からないが、少なくとも「殺し屋とは、きっとこんな感じなんだろう」と思わせるような説得力ある描写こそがボーン3部作の魅力でした。地下鉄を脱線させろとか、大爆発を起こせとか言ってくるスタジオと喧嘩しながら堅実な作風を守ったダグ・リーマンが本シリーズの基本路線を作り、ポール・グリーングラスがそのスタイルを継承発展させることでボーン3部作は本物志向のアクション映画の太祖となったのですが、一転して本作は『ボーン・アイデンティティ』が登場する前の単純な爆破アクションに先祖返りしています。観客を楽しませたいというサービス精神は理解できるものの、ド派手になりすぎた見せ場にはもはや生身の人間が闘っているという感覚が残っておらず、見せ場が派手になればなるほど手に汗握らなくなるというアクション映画の典型的な衰退サイクルに入っています。クライマックスのカーチェイスなどは『ワイルド・スピード』の新作のような有様であり、本シリーズのファンが求める見せ場からはかけ離れています。そういえば、『ボーン・レガシー』続編の監督にジャスティン・リンが起用されたという話が一時期ありましたが、結果的にボツとなったその企画で考えられていたカーチェイスがそのまんま本作に流用されたのではないか。そんな邪推を生むほど、クライマックスのカーチェイスはシリーズ全体の雰囲気から浮いていました。 見せ場のインフレとともにジェイソン・ボーンはさらに超人化。パンチ一発で格闘家を気絶させるほどの格闘スキルに、プロのレーサーをも超える反射神経とドライビングテクニック、スリのような小手先の技に、電気配線に細工をする技術と、もはや何屋さんなのか分からないほどの多才ぶりを披露します。殺し屋みたいな潰しの利かない職業なんかにはつかず、何かひとつでも特技を極めていればその道で食えていたんじゃないかと思うほどの器用さであり、その多才ぶりゆえに殺し屋というそもそもの設定が没却してしまっています。これもやりすぎでした。 また、敵エージェントとの関係も変質しています。悪いのはラングレーのオフィスにいる上層部であり、現場のエージェントはただその指示に従っているのみ。命を狙われてもボーンは敵エージェントを恨んでいないし、殺し合いを演じつつも互いに敬意を払い合うエージェント同士の武士道のような関係性こそが本シリーズの熱さに繋がっていました。また、そうしたエージェント達の姿がエンディング曲”Extreme Ways”の歌詞と見事にシンクロしていたのですが、一方本作のエージェントは私怨剥き出しでボーンに襲いかかってくるため、戦いの意味合いがかなり変わっています。私としては、従前のエージェント達のプロフェッショナル道が好きだったため、この変更を良いとは思いませんでした。 国家によるSNSの監視や諜報機関OBによる機密情報漏洩などの時事ネタを出してきているものの、こちらもジェイソン・ボーンの物語とはうまく絡んでいなくて不発に終わっています。アクション映画としては及第点ではあるものの、待ち望まれた『ボーン・アルティメイタム』の続編としては期待外れな出来だったと言えます。
[映画館(字幕)] 5点(2016-10-08 03:16:24)(良:2票)
222.  プレデターズ(2010) 《ネタバレ》 
本作と「1」は、「エル・マリアッチ」と「デスペラード」の関係みたいなもので、リメイクと続編の中間のような感じです。さすがはロドリゲスだけあって「1」へのリスペクトが十分に感じられる脚本に仕上がっていて、随所に「1」を思わせる場面が見られます。本作の血がたぎるようなラストバトルは必見なのですが、その盛り上げ方・作品の息づかいまでが「1」に似せて作られており、そのリスペクトは相当なものです。音楽も「1」の勇猛なテーマ曲をそのまま使っており(しかし、今回はなぜかアラン・シルベストリが担当していない)、あの景気の良い音楽を最新作でも聞くことが出来て、それだけで興奮してしまいました。一方で「2」や「AVP」シリーズはなかったことにされており、この辺りのガンコさもオタク監督ならでは。物語は基本的に「1」と同じ流れで進行していくのですが、プレデターにも複数の種族があって、種族間で性格が異なるというのが本作の新機軸。今回相手となるのは我々の知っているプレデターではなく、より野蛮で凶暴そうな奴らです。こいつらの見た目の怖いこと!いつものプレデターを見るとホッとしてしまった程です。性格もより残忍であり、地球に来ていた高潔な狩人とはわけが違います。ラストでは、種族間の敵対関係を利用して我々の知っているタイプのプレデターが味方に付くという燃える展開まであって、シリーズ化に伴うバージョンアップとしては、この新機軸はなかなか良かったと思います。。。こうしたプレデターズに対する人間キャラクターもよく作り込まれています。特殊部隊員からヤクザから性犯罪者までをズラっと揃えた異色の顔触れなのですが、内輪揉めや仲間内の友情なども月並みだが自然に盛り込まれており、キャラクターで勝負させると、やはりロドリゲスは良い仕事をします。役者で特に良かったのはエイドリアン・ブロディで、彼が演じるのは「1」のシュワに相当する役柄なのですが、肉体派のイメージのなかったブロディが知性と残酷さとサバイバル能力を兼ね備えた、シュワと比較しても見劣りしない立派な戦士となっています。この化け方は全盛期のデ・ニーロ並みで、オスカー俳優の底力を見たような気がしました。一方でフィッシュバーンは作りすぎ、やりすぎで、彼の登場場面では物語が一時的に失速します。このキャラさえいなければ、より引き締まったアクション映画の佳作になったはずです。
[映画館(字幕)] 7点(2010-07-12 20:25:52)(良:2票)
223.  スーサイド・スクワッド 《ネタバレ》 
IMAX 3Dにて鑑賞。3D効果を実感できる見せ場はほとんどなく、2Dで見ても大差ないと思います。 『マン・オブ・スティール』『バットマンvsスーパーマン』とシリアス路線で来ていたDCエクステンデッドユニバースですが、本作よりクリストファー・ノーランがプロデュースから外れたことの影響からか前2作品のような暗さはなくなり、けばけばしい原色系の色彩をベースとしたユーモラスな世界観が構築されています。タスクフォースXの面々が紹介される序盤の出来は素晴らしく、彼らがいかに優れた悪者であるかを手短に披露すると同時に、観客に対して各キャラクターへの愛着を抱かせるよう、彼らにも同情すべき背景があるという点もきっちりと描かれており(あくまで重くなりすぎない程度にですが)、本作の監督はなかなか有能だなと大いに期待させられます。序盤からバットマンの出し惜しみをしないというサービス精神にも嬉しくなりました。タスクフォースXが編成された理由についても、「スーパーマンを失った今、超常的な脅威に立ち向かう手段がなくなったから、それらしい連中で代用するしかない」と『バットマンvsスーパーマン』の展開を踏まえた上でのある程度合理的な説明がなされるので、変な疑問を抱かせられたりしません。なかなかよく出来ているのです。 ただし、面白いのは前半まで。いよいよミッションがスタートすると、「そういうことじゃなくて…」と首を傾げたくなるような方向へと進んでいきます。スーパーヴィランというわけでもなく一芸に秀でた犯罪者の集まりでしかないタスクフォースXと、大都市を余裕で破壊できる魔女・エンチャントレスでは戦力がまるで拮抗しておらず、どう見ても勝負になるレベルの敵ではないためかえってハラハラドキドキさせられないし、そもそもエンチャントレスの目的がなんだかよくわからないことも作品の温度感を下げています。また、中盤の居酒屋場面で人情話をしてしまったこともマイナスであり、この展開を挟んだことからタスクフォースXは不敵な犯罪者集団から情で動く仲良しグループに変質してしまいます。そのため、毒を以て毒を制すというそもそものコンセプトが失われてしまい、悪人ならではのダーティな戦いを見られなくなるため、これでは仮にジャスティスリーグが事にあたってもほぼ同じ顛末を迎えたのではないかと思います。 ジャレット・レト扮するジョーカーは、単体で見るとものすごく良いのですが、本編への絡ませ方が中途半端なので作品の面白さには貢献していません。ま、ジョーカーというキャラ自体が善でも悪でもなく秩序を乱す者という位置づけであるため、エンチャントレスによって無秩序状態にされた街に彼が登場したところで、何もやることはないわけです。だったらジョーカーなんぞ登場させなければよかったわけですが、『バットマンvsスーパーマン』同様に製作陣が欲張ってしまったがために、本来は不要な要素が加わってしまっているのです。
[映画館(字幕)] 6点(2016-09-10 23:12:43)(良:2票)
224.  ディヴァイド 《ネタバレ》 
余計な説明は一切なしでいきなり核戦争という景気の良い導入部が終わると、以後の舞台は狭苦しい地下室のみ。閉鎖空間での心理サスペンスに主眼が置かれた作品なのですが、全体の構図はよく考えられています。舞台はマンハッタンの高級マンションであり、その住民達はバリバリのホワイトカラー。対して、(きっかけは意に反していたとはいえ)彼らをかくまってやるのは、そのマンションの地下室に住みこんで働いている貧しい用務員さん。常日頃、身の回りの世話をしているにも関わらず住人達からはロクに挨拶もされず、名前も顔も覚えられていない用務員さんが、金持ちやエリート達の生命を握るという捻じれた階級闘争の構図となっているのです。そして、物語はどんどんおぞましい方向へと転がっていくのですが、「他人に対してもっとも惨い仕打ちをしたのは誰だったのか?」という点についても、本作特有の結論が準備されています。これはかなり優れた企画だと思います。。。 問題なのは、脚本力や演出力が上記の企画意図に追い付いていないということ。まず、時系列の整理がヘタくそで、ほんの数カットで何十日も話が飛ぶこともあれば、逆に、いろんな展開が詰め込まれてさぞや時間が経過したのだろうと思いきや、じつは数日の話でしたということもありました。閉鎖空間に長時間閉じ込められた人間のストレスがテーマとなっている作品だけに、劇中の時間経過は作品の重要なファクターであるはず。にも関わらず、それを観客に伝え損ねていることは問題だと思います。また、設定のディティールにもあまりこだわりがなく、大人8人が何カ月も生存するために必要な水と食料、長期間の自家発電を行うための燃料とは膨大な量になるはずなのですが、あの地下室にそれだけの備蓄ができるようには到底思えません。さらには、相当な量となるであろう排泄物、おまけに生存者達は何カ月も入浴できず地下室の衛生状態は最悪になることは容易に考えられるのですが、そういった想定しうる設定が掘り下げられていないので、映画全体から説得力が失われています。あと、序盤に登場した謎の集団は一体何者だったんですか?彼らに連れ去られた少女はどうなったんですか?謎の集団から奪ったはずのライフルやテーザー銃が中盤以降、劇中から姿を消すのはなぜですか?設定を投げっぱなしにした製作側の姿勢には感心しません。
[DVD(吹替)] 6点(2013-01-14 02:52:00)(良:2票)
225.  ランボー 《ネタバレ》 
時の経過により色褪せていく映画は多くありますが、本作は逆。昔見た時よりも、今見る方の印象が良くなっています。アクション部分の出来が良過ぎるためにアクション大作として見られてきた本作ですが、時の経過により見せ場のインパクトが薄くなったことから、この映画が本当に語りたかったドラマ部分が浮かび上がってきました。。。C・C・バクスターさんも書いておられますが、冒頭からして秀逸です。最後の戦友が死んだと聞かされ、写真もアドレス帳も置いてその場を立ち去るランボー。その戦友は黒人だったと推測されますが、戦場にはあった人種を超えた友情が今や完全に失われ、同時にランボーは数少ない自分の居場所をも失ってしまいます(本作で晴れているのは冒頭のみであり、後はどんよりと曇っていることが、ランボーの心境をよく表しています)。保安官から邪険に扱われいよいよ居場所に困り果てたランボーは、今度は自ら居場所を作り出します。戦場でしか生きられない彼は、アメリカ国内でたったひとりの戦争をはじめてしまうのです。ティーズルの喉元にナイフをあてながらも生きたまま帰し、最後まで一人も殺していないことからも、彼には一定の理性が働いていたこと、保安官やアメリカへの復讐が目的ではないことが伺えます。こんなことは愚かだとわかっていながら、しかし戦うしか能のない男が目的のないままひたすら戦うという異様な戦闘が繰り広げられるのです。この事件に駆け付けたトラウトマン大佐も、味方とは言い難いものがあります。彼がランボーについて語る様は、シャレにならない事件を起こした部下の安否を気遣うものではなく、自分が作り上げた最強の兵士を自慢しているだけのものでした。ランボーとの会話の中で、軍に戻りたいというランボーの願いを聞き入れなかったこと、話し相手を求めて電話をしてきたランボーを無視していたことも明らかになります。大佐もランボーを使い捨てにした人間のひとりであり、本来は敵と位置づけてもよい相手なのです。しかし今のランボーにとっては自分を知る唯一の人間が大佐であり、最後には彼の説得に従います。安直にランボーを殺さず、生きて投降させたラストもよかったです。この戦闘がランボーにとっての長い長い自殺の過程であったと解釈すると、この自殺を思い留まらせ、生きて再び社会と向き合うという選択をさせたことで、映画のテーマがより活きたと思います。
[DVD(字幕)] 8点(2009-10-21 19:37:19)(良:2票)
226.  パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド
ダラダラと長いだけで本当につまらない映画でした。「1」「2」でも監督の力量不足が気になっていたのですが、それでもかっこいい音楽や豪華な映像によってある程度は誤魔化せていました。しかし、3作目ともなるといよいよ限界が来ています。脚本に書いてあることをただ撮っているだけで、何のこだわりもない演出。肝心のクラマックスも音がデカイだけでハラハラもドキドキもせず、何も良いところがありません。脚本はなかなか野心的で二転三転どころか五転も六転もする練りに練られた内容なのですが、監督の演出がこれに追い付かず映画を台無しにしています。登場人物の感情の移り変わりを丁寧に演出していないため、裏切りに次ぐ裏切りが観客にとってのサプライズになっていないのです。シリーズ化決定の時点で、この監督は降板させておくべきでした。
[映画館(字幕)] 1点(2008-06-21 02:30:37)(良:2票)
227.  ニック・オブ・タイム 《ネタバレ》 
なんとなく面白い映画でした。劇場で見ればいろいろと不満も出るでしょうけど、日曜洋画劇場なら「昨日のあれ見た?」って話題になった映画だと思います。みなさんが指摘する「自分で殺せよ」問題ですが、クリストファー・ウォーケンの目的はあくまでジョニー・デップを暗殺犯に仕立て上げることであって、本当に殺すことは期待していなかったように思います。その証拠に、クライマックスではウォーケン本人が銃をかまえてたでしょ。殺しはウォーケンが確実に行い、その罪をデップに着せるハラだったと考えられます。それでもウォーケン軍団のヌルさ加減はヒドイものでしたけど。「ここで撃て」ではなく「1時半までに殺せ」ですからね。そんなアバウトな命令があるかって思いました。そんな中、何度か巡ってくるチャンスに発砲を躊躇するデップ、「お前、さっきチャンスだったじゃねぇか」と怒るウォーケン。「勇気出して告白しろよ」「でもまだ決心がつかないよ」って校門の前で揉める男子中学生じゃないんだから。そしてラスト、なにがなんでもデップの娘を殺そうとするウォーケンさんたちですが、暗殺が失敗した今となってはそんなことはまったく重要ではないと思うんですけど。そんな感じでツッコミどころ満載ですが、90分に満たない上映時間のおかげできちんと緊迫感を維持できていたと思います。これは一風変わったワンアイデアと、それをギリギリ維持できるラインの中でうまく引き上げた構成の勝利ですね。
6点(2004-09-06 00:39:19)(笑:1票) (良:1票)
228.  チェンジリング(2008)
イーストウッド作品は時に冗長になりすぎる傾向がありますが、本作は娯楽作顔負けの勢いで物語が進行し、監督作中もっとも面白い作品となっています(楽しんで見るような題材ではありませんが、ここはあえて「面白い」と言います)。ここのところのイーストウッドといえば、人生を知り尽くした御大が、まるで仙人のように淡々と哲学を語る作品が多くなっていますが、本作は観客の感情を刺激するダイナミックなドラマ作品として製作されています。イーストウッドのストーリーテリングは神業の域に達しており、呼吸をするかの如く的確な演出を披露します。わずかな時間でコリンズ親子の強い絆を描き、観客にこの親子を好きにならせる冒頭からして光っています。またアンジーの元にやってきた謎の少年や、臭いものに蓋をすることしか考えないLAPDのイヤらしさときたら見事なもので、見ている間中はらわたが煮えくりかえる思いがしました。それに対するブリーグレブ牧師は、西部劇のヒーローか、ダーティハリーかと言わんばかりの頼りになる男で、「この人が来たからには正義がなされるはずだ」という安心感は抜群。戦うことに迷ったり、弱かったりするここ最近の正義の味方には欠けている魅力を放っています。彼が現れるタイミングも絶妙で、クリスティンが追い込まれて追い込まれてもうダメかという時にやってきて、悪事をなしていた者を黙らせる展開にはアクション映画以上のカタルシスがありました。この辺りは、娯楽作も多く手掛けてきたイーストウッドならではの巧さでしょう。。。子を失った親の物語としては「ミスティック・リバー」と共通していますが、「ミスティック~」に描かれる父親のリアクションが怒りと復讐心を中心としているのに対し、本作に描かれる母親のリアクションは、ひたすらにわが子の生存を願い、その他のことは(憎むべき犯人や、自分を傷つけた警察すら)ほとんど目に入っていないというものでした。権力との戦いはブリーグレブ牧師に任せ、クリスティンがとる行動は全て息子の方へ向いたものとした構成上の判断は的確。普通の監督が撮れば犯人への憤りや警察への復讐を描いてしまうところですが、そうはしなかったイーストウッドはやはり仙人の域に達しているようです。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2009-12-25 15:31:16)(良:2票)
229.  マトリックス レボリューションズ 《ネタバレ》 
第一作が「選択」、第二作が「理由・目的」と来て、本作のテーマは「信じること」。「信じること」をテーマにした映画なんて掃いて捨てるほどありますが、そこはさすがマトリックスだけあって一筋縄ではいきません。前作のラストでネオは完全に手詰まりとなっており、さらに予言者もスミスに取り込まれてしまい、すべてが不確かなものに。おまけにセンチネル軍団があと半日でザイオン攻撃を開始するため、ザイオン防衛のために一隻でも多くの戦艦が必要とされているという逼迫した戦況。その状況で、ネオは「理由は説明できないけど、とりあえず俺のために戦艦を一隻貸してくれ」と言い出します。何をムチャ言い出すんだというシチュエーションなのですが、ここでキャラクター達はネオを信じるか信じないかの判断を迫られます。ネオを信じることにも大きなリスクが伴う、かといって奇跡でも起こらない限り今の状況は打破できないという極限状態においては、前線でも司令部でも現実派と超常派が対立。「実態の分からないものに身を委ねられるか」という信仰の本質に迫った内容であり、「信じること」がここまで重い映画は滅多にありません。その先にある展開は燃えさせるもので、前作のラストでマトリックスの設計者の元に行ったものの話にならなかったため、なんとネオはアーキテクトよりも上の存在である機械の親玉と直接話をつけに行きます。「マトリックスが破綻すればあんたら機械も困るだろうから、俺が解決してやる。その代わり、ザイオンには手を出さないでくれ」。「これのどこがレボリューションなんだよ。単なる手打ちじゃないか」と思わなくもないのですが、ともかくネオは自分の身を犠牲にしてマトリックスを正常化し、機械文明とザイオンの両方を救います。ここで終われば一応ハッピーエンドなのですが、さすがはウォシャウスキー兄弟だけあって物語をタダでは済ませません。サーガのファイナルカットに登場するのはプログラム4人だけで、人類はひとりも登場せず。そのプログラム達が「危険な賭けだったけど、何とかうまくいったねぇ」と話し合っているのです。ネオによるレボリューションすら機械によって計画されていたものだった。映画は朝日と共に清々しく終わりますが、解釈次第ではバッドエンドとも考えられる、ある意味でとても怖く、後味の悪いラストでした。私は、シリーズのこういうところが大好きです。
[ブルーレイ(吹替)] 7点(2004-08-16 22:27:14)(良:2票)
230.  日本沈没(2006)
炎に囲まれ絶対絶命の少女、草彅剛は間に合わない!ああ、もうダメなのか。その瞬間、炎の中からレスキューヘリが飛来、ロープにぶら下がった柴崎コウが危機一髪で少女を救助!…この冒頭で「この映画はダメだ」と覚悟を決めました。これは恐ろしくセンスのない人たちが作った映画だなと。本作のようなシュミレーション映画には、何でもできるスーパーマンは絶対に出てきてはいけないはず。そんな人物が出てきた途端に日本沈没の危機感が大きく失われてしまうのに、ド頭でこれをやってくるのは相当なもの。最後まで見ましたが、冒頭で感じた予感は残念ながら的中しました。それなりに見せ場があるにも関わらず、2時間をここまで退屈にさせるのは凄いことです。この映画は企画意図そのものに問題があったのではないでしょうか。CGでそれなりの映像を作れるようになったし、若い客が喜ぶデカイ企画をやろう。女性ウケは大事だから、アイドルの恋愛要素は必須で。往年の作品のリメイクなら中高年の動員も見込める。そんな足し算の論理で考えられた企画のように思います。しかし出来上がった映画は、結果的に引き算の積み重ねになっているのが面白いところ。シミュレーション映画としての完成度を追えばある程度のグロテスクな展開や描写は避けられないし(惨い場面をひとつも入れずに危機感を煽ることのできる監督は日本にはいません)、恋愛要素を描ききろうとすればアクションのテンポを奪ってしまうし、年齢層の高い客層は知的好奇心を満足させる内容でなければ退屈します。しかし方向性を決めずにすべてのターゲットを狙いにいった結果、作品の質を決定する要素をすべて切ってしまっているのです。何味にするのか考えず、とりあえず喜ばれそうな食材だけ放り込んだ料理。砂糖も塩も入れてないので物凄くマズくなってます。こういう映画はよろしくないですね。あらゆる層にアピールしてとりあえず映画館に来てもらうけど、関心があるのは入場料払うまで。映画館に来たお客さんを入場料分きっちり楽しませることの努力は特にしていないという。最近では大コケする邦画も出てきていますが、それは本作などが適当な商売した結果、観客が学習した結果だと思います。1点は本作で唯一プロの仕事をしていた特撮パートに。さすがは大量破壊描写について世界随一の伝統を持つ日本特撮界だけあって、対費用効果ではハリウッドより良い仕事してます。
[DVD(邦画)] 1点(2008-06-29 06:27:43)(良:2票)
231.  ドクター・ストレンジ
IMAX-3Dにて鑑賞。 ひたすらに強く大きくという方向性での進化を遂げ、そろそろお腹いっぱいになりそうなMCUですが、ここに来て従来の作品群とは異なる趣の本作を登場させたことには驚かされました。というか、MCUという枠を超えてアクション映画全般を眺めてもこれほど独創的な作品は珍しく、娯楽映画史におけるベンチマークのひとつになるのではないかとすら思いました。それほど本作のビジュアルは革新的で強烈なのです。発想力の逞しさ、そして、これほど複雑な見せ場をよくぞ作り込んだものだと感心するほどの緻密さであり、もはや芸術の域にまで達しています。今までボンクラだと思っていたスコット・デリクソン監督が、まさかここまで出来る奴だとは思ってもみませんでした。 一方、物語はヒーロー誕生編としてはかなりオーソドックスなものです。ビジュアルこそがメインの作品なのでお話は観客の目を邪魔しない程度でいいという判断があったのでしょうが、それでも、ここ10年ヒーローものを作り続けているマーベルはちゃんと成功方程式に落とし込んで手堅く仕上げています。適度に笑わせ、適度にハラハラさせ、適度に感動させる、娯楽作として過不足なしです。パワーの源や、世界を滅ぼしかねない脅威の説明、長ったらしい固有名詞の羅列に入ると「MCU内に世界の脅威はどれだけ大勢いるんだよ」と少々退屈になるものの、この辺りにも深入りしすぎないのでストレスは感じませんでした。 華と演技力を兼ね備えた豪華俳優陣は、それぞれ説得力のあるパフォーマンスを見せています。作品全体のスピード感を落とさないよう、主人公以外の背景はほとんど語られないのですが、それぞれに演技のできる役者を配置したことで、そのキャラクターの歴史が透けて見えてくるのです。この辺りの塩梅も見事なものだと思いました。 ある程度の割り切りの下に作られているため傑作とは言えませんが、見せ場の独創性で引っ張るかなり印象深い作品でした。
[映画館(字幕)] 8点(2017-01-28 00:19:50)(良:2票)
232.  G.I.ジェーン
公開当時、「白い嵐」との併せ技で「リドリー・スコットも終わったな」と世界が確信した作品ですが、今になって見ると意外とおもしろかったです。フルメタル・ジャケットとトップガンをあわせたようなお話のため、硬派なドラマとして見るべきか娯楽作として楽しむべきかがわからなかったのが公開時の失敗要因でしょうか。しかし「グラディエーター」以降花開いた監督の残虐路線を念頭に置けば、この映画に大したメッセージ性はなかったであろうことが伺えます。リドリー・スコットという監督はスピルバーグと並んでサディズムを感じさせる監督です。↓のパブロン中毒さんもおっしゃってるように、表現手段としてあえて残虐性を選んでいるのではなく、個人的な趣向としてやっていることを感じさせられるのです。しかしその性向はグラディエーター以降にようやく判明したものですので、オニールに加えられる必要以上に凄惨な拷問の意味に観客は戸惑い、一転して普通のアクション映画になってしまったラストの救出作戦に素直に興奮していいものかがわからなかったのです。一般の作品に登場する凄惨な暴力には何か意味を感じなければならなかったのが公開当時の常識であり、そういう意識で見ればこの映画はさっぱり理解不能。また本作はフェミニズムの立場に立ったお話でもありますが、同様に監督は本当にフェミニズムを描こうという意思はなかったでしょう。この監督は「テルマ&ルイーズ」という女性映画も撮っていますが、こちらも表面的な主張にのみとどまっていました。監督の興味は虐げられるものを描くことにあり、その題材として社会的に受け入れられやすい女性問題を選んでいるのではと思えるのです。カラー・パープル、シンドラーのリスト、アミスタッドと、こちらもなぜか虐げられる者のドラマを作りたがるスピルバーグと似たような性質を感じます。そんな監督の作品ですので、この映画にも大した意味はないのです。ただひたすら目の前の映像を見てればよろしい。そう思って見ると、ラストの救出作戦なんてトニー・スコットの映画みたいで興奮しますよ。そうそう、トニー・スコットとリドリー・スコットの力量の差って、恐らく変態性の差じゃないですかね。どちらも最上級の技術を持ってるわけですけど、やっぱり変態パワーが芸術家としてのリドリー優位の根源ではないかと。トニーは変態じゃないから普通の映画しか撮れないんですよ。
[DVD(字幕)] 7点(2006-04-30 17:23:36)(良:2票)
233.  スター・ウォーズ/帝国の逆襲
EPⅣは映画史上において重要な作品だと思うのですが、製作から30年以上を経た現在の目で鑑賞するとビジュアル的にもストーリー的にも不十分な点がいくつかあって、時代性を差し引いて評価せねばならない作品だと言えます。一方続編である本作の面白さは圧倒的で、現在の娯楽作と比較しても遜色のない仕上がりとなっています。起承転結の「起」と「結」は前後作にお任せし、本作は頭からお尻までフルスロットル。当時の作品として、ここまでの密度とテンションを保った作品は他になかったと思います(翌年の「レイダース」も担当した脚本家のローレンス・カスダンの手腕でしょうか)。ビジュアルの進化も著しいものがあります。EPⅣのVFXは当時としては画期的だったとは言え、現在の目で見るとスピード感に欠けており、空中戦の場面であってもゆっくりとした動きが気になる部分がありました。しかし本作ではその欠点が解消されていて、新3部作と比較しても見劣りしないほどビジュアルが完成されています。また空中戦のイメージの強かった「スター・ウォーズ」において雪上での戦闘を映画の冒頭に持ってきたことは、サーガの世界観を広げるために効果的でした。迫りくる巨大歩行ロボットから走って逃げる歩兵の図というものは見たことがありませんが、戦争映画としての側面を突き詰めると当然行き着く結論であり、これをきっちり見せたことでスター・ウォーズという作品の深化を図ることに成功しています。この場面はメカデザインもVFXも演出もシリーズ中最高峰であり、本作製作時にはルーカスもスタッフも絶好調だったことが伺えます。。。ホスの戦いが象徴するように、単純明快な冒険活劇だったEPⅣから一転して物語は戦争の過酷な面が強調され、またガンコな師匠の登場や悲劇的な恋愛要素の追加でドラマもアダルトなものに。これは、ドキュメンタリー出身のアービン・カーシュナーを監督に、ハワード・ホークスのお抱えだったリイ・ブラケットを脚本家(初稿を書き上げた直後に死亡したため、仕上げたのは新人のローレンス・カスダン)に起用したことの成果ですが、スター・ウォーズの続編としてハード路線への転向を決定したルーカスはさすがの慧眼でした(ただし公開当時は不評で、EPⅥではソフトな面を強調するためイウォーク族が登場することに)。本作がEPⅣの延長に過ぎなければ、シリーズの熱狂的なファンなどは現れなかったはずですから。
[DVD(吹替)] 9点(2010-09-05 00:36:42)(良:2票)
234.  ファイト・クラブ 《ネタバレ》 
デヴィッド・フィンチャーの前作『ゲーム』と同じく、物質的には満たされている独身男性がカルトにハマっていく物語です。『ゲーム』はかなり荒削りな内容でしたが、一方本作はより洗練されていて、映画としては俄然面白くなっています。空虚な毎日に嫌気がさしてはいるが、かと言って反発すべき敵も目指すべき目標も見当たらず、生きている実感を得られない主人公の姿などは、多くの方が共感できるのではないでしょうか。また、社会に飼いならされていた主人公が徐々に常識を逸脱していく前半部分には、爽快感すら宿っていました。フィンチャーによる演出も絶好調で、哲学的な説教を合間に挟みながらも、見事なテンポで話が進んでいきます。これほど深く、かつ見やすい映画も珍しいのではないでしょうか。。。 俳優陣も完璧です。役作りが過ぎてイヤミになりがちなエドワード・ノートンの演技も、本作では適度に抑制が利いていて極めてナチュラルです。一方、ブラッド・ピットは堂々たる存在感。大スター・ブラッド・ピットにしか演じられない役柄を演じきっており、彼のスターオーラが遺憾なく作品に活用されています。かつてのピットは鼻持ちならないアイドル俳優と見られており、同性からの支持はほとんどなかったのですが、本作をきっかけに男性ファンをも取り込み、同世代の俳優の中では突出していたトム・クルーズに比肩する人気を得るに至りました。それほど、本作のタイラー・ダーデンはかっこいいのです。フィンチャーもブラッド・ピットの扱いには慣れたもので、難しいところはノートンにやらせながらも、美味しいところではちゃんとピットを目立つようにしています。この采配は見事なものです。。。 残念なのは、後半があまりに飛躍しすぎるということ。社会からはみ出すだけでは満足できず、社会そのものを破壊しようとするに至っては、共感の度合いがぐっと下がってしまいました。後半では演出のテンポも悪くなるし、タイラー・ダーデンの正体が判明した時点で映画が終わってもよかったのではないかと思います。。。 なお、現在では傑作と評価される本作も、公開時には興行的に失敗し、批評的にも苦戦しました。その時にぶつけられた悪評についてはプレミアム版DVDに付属しているブックレットに評論家の名前付きで載っているので、映画の価値を見抜けなかった評論家達の恥ずかしい言動も併せて楽しむことができます。
[DVD(吹替)] 7点(2013-06-03 22:18:26)(良:2票)
235.  16ブロック 《ネタバレ》 
劇中では明言されていないし、レビュワーのみなさんも指摘されていないのであえて言いますけど、エディって知的障害のある役ですよね。つまりモーズリーは、タイムリミットまでにある地点へ到着しなければならないことと、フォレス・ガンプを連れて敵から逃げねばならないことの二つのプレッシャーと戦わねばならないわけです。主人公にタイムリミットを課すアクション映画は多くありますが、その相棒が知的障害者という設定が本作の新機軸。もしこれをマーティン・ローレンスやエディ・マーフィーのような面白黒人の一種だと勘違いすると、単なる鬱陶しい相棒になってしまうわけです。。。本作のようなタイトな作品においては、職人監督リチャード・ドナーの手腕が冴え渡っています。アクションには緊張感が溢れ、ドラマも手慣れたものです。妙に感動させたり、登場人物達に立派なことを言わせたりなどせず、基本はあくまでアクション、ドラマはその合間に差し込む程度。演出は変に欲をかかず、しっかりとしたサジ加減で仕上がっている点が好印象でした。。。リチャード・ドナーのフィルモグラフィーを振り返ると、本作の出現は必然だったように思えます。70年代後半から90年代前半にかけてはハリウッドトップクラスのヒットメーカーだったものの、90年代半ばに彼の転機が訪れます。「暗殺者」「陰謀のセオリー」という気鋭の脚本家によるエッジの立った作品を、立て続けに台無しにしてしまったのです。それ以来、彼はハリウッドの第一線から離れました。自分の感覚が時代に合わなくなったことを察したのでしょう。そして、本当に久しぶりの監督作がこの「16ブロック」でした。ド派手な爆破や銃撃戦のない引き締まった70年代風アクションに、80年代に絶頂を極めたコミカルなバディムービーの要素を追加。21世紀の作品としてはかなり古臭い内容なのですが、これこそドナーの手腕を最大限に発揮できる企画でした。企画の趣旨通り、ドナーはこれに21世紀風のムダな装飾や小理屈を挟まず、贅肉のないシャープな仕上がりとしました。結末にしても、モーズリーを殺して締めるのが妥当な落とし所ですが、安易に彼を殺さず温かみのある結末とした意図的な時代錯誤ぶりも心地よかったです。人生最後の作品と決めて本作を監督したのではないか?そう思わせるほどドナーらしい作品でした。
[ブルーレイ(吹替)] 7点(2010-06-27 22:16:55)(良:2票)
236.  マネーモンスター 《ネタバレ》 
ジョディ・フォスター、ジョージ・クルーニー、ジュリア・ロバーツというハリウッドの意識高い系が揃って参加しているだけに重厚な社会派サスペンスを予想していたのですが、実際にはフットワークの軽いコンパクトな犯罪ドラマでした。 本作で驚いたのはジョディ・フォスターの演出力や構成力の高さであり、実にうまくドラマが流れています。主要登場人物の紹介や人となりの説明を冒頭10分で簡潔に終わらせるとすぐに事件発生という手際の良さ。また、被害者と加害者から協力者へという主人公二人の関係性の変化も極めて自然であり、そこに違和感はありませんでした。リーが自身とカイルの幸福度をスコアー化し、金を持っていることが必ずしも幸福には繋がっていないという事実を突いたり、カイルが奥さんにこっぴどく叱られたりといった象徴的なイベントがうまく挿入されているため、語り口に説得力があるのです。 またサスペンスの構図もうまく作られています。小市民に過ぎないカイルではリーを撃てないことは誰の目にも明らかであるため、代わってリーの救出よりも爆弾解除を優先したい警察のスナイパーがリーの懐にある起爆装置を狙っているという設定を置いています。「リーは重傷を負うけど心臓には当たらない位置に撃つから、すぐに蘇生すれば大丈夫だと思う」などと怖い計画を立てているわけです。これにより、いつ発砲されるか分からないというサスペンスを作り出しており、うまく考えられた設定だと感心しました。 問題点は、鑑賞後に何も残らないということ。前述した幸福度のスコアー化や、大企業の資金運用の杜撰さなど、何か深いことを言おうとはしているものの、そのどれもが観客の思考や人生観に影響を与えるレベルにまでは昇華されていないのです。この辺りがもっと鋭く尖っていれば社会派サスペンスの秀作になった可能性もあっただけに、やや中途半端に終わった点は残念でした。 他方、衝動的で子供っぽいリーの後ろにはしっかり者のパティがいたり、愚かなカイルが奥さんに叱られたり、運用で大赤字を出したうえに隠蔽したアイビス社CEOの不正を女性幹部が暴いたりと、劣った男と賢い女という図式が全編に渡って繰り返し示される点は、ややしつこいかなと思いました。この点については、監督の個人的な志向が表に出すぎているように感じます。
[ブルーレイ(吹替)] 7点(2017-01-12 20:07:48)(良:2票)
237.  シンプル・プラン 《ネタバレ》 
地味だし見せ場もないものの最初から最後まで緊張感が持続しており、最高クラスのサスペンス映画だと思います。タイトルと同じく映画の内容もシンプルそのもので謎解きや派手なドンデン返しなどなく、描かれるのはジリジリとした駆け引きのみなのですが、この装飾の無さが正解でした。ライミは本作で新境地を開いたと言われていますが、閉鎖空間で登場人物が狂気に追いやられていくという点では「死霊のはらわた」と同様であり、異なるのは舞台の規模とストーリーテリングの切り口のみ。ライミは自身の手腕で扱いきれる企画を的確に選んでいたようです。もしこれが「ユージュアル・サスペクツ」のようなミステリーに比重を置く企画や、「セブン」のような高いビジュアルセンスを要求される企画であれば、ライミは完全な駄作を作っていたことでしょう。また、役者も素晴らしい仕事をしています。オスカーにノミネートされたビリー・ボブはもちろんの熱演なのですが、そんなビリー・ボブと比べると損な役回りである主人公ハンクを演じたビル・パクストンもかなり良いです。なんせ、この映画はハンクにかかっていたのですから。大金を目の前にして普通の人の判断力が狂ってしまい、小さなほころびを修正しようとしてとった行動が次の大きな穴を作ってしまう。そんな物語では、観客はハンクの行動や感覚に納得する必要がありました。決して同情はできないが、同じ立場にいれば自分も同じ行動をとるかもしれないという感覚を抱かせる必要があったのですが、そんな役柄にあっては、「凡人」を演じさせればハリウッド一のビル・パクストンが適任でした。この人が焦り、悩む姿は、まさに大事件をひとりで抱え込まねばならなくなった小市民のそれであり、演技の説得力が違います(誉めてんだか、けなしてんだか…)。。。以上のようにほぼ完璧な映画なのですが、唯一ケチをつけるなら、ニセFBIが現れるクライマックスが作品のテーマから外れていたこと。これだけは気になりました。簡単なはずの計画が人間の欲望や疑心暗鬼によって狂っていくという物語なのですから、ここで真犯人が現れてはいけないでしょう。焦ったハンクは彼を射殺するものの後に本物のFBIであることが判明し、いよいよ誤魔化せないレベルにまで犯罪が行き着いてしまうというオチの方が主題にかなっていたと思います。
[地上波(字幕)] 8点(2011-01-23 16:48:05)(良:2票)
238.  マグノリア
一言で表現するには難しい(=観る者の咀嚼が必要となる)映画で、しかも3時間という長丁場。監督の演出スタイルが生理的に馴染むかどうかが大きいと思います。結局のところはポール・ハギスの「クラッシュ」と同じ話で、さまざなしがらみに苦しむ者たちの懺悔と救済。ある者にとっては許されざる罪を行った人物も、巡り巡って十字架を背負っているのだという「罪を憎んで人を憎まず」がテーマだと言えます。そうした因果を描くにはやはり群像劇がふさわしく、またそれぞれのエピソードを濃密に描く必要性を考えれば3時間という長丁場にも納得がいきます。どのエピソードも甲乙つけがたいほどよく出来ていたし、それぞれに身につまされるような人生の教訓が詰まっていました。撮影当時29歳だった監督が、ここまで成熟したドラマを作ってみせたことは驚異です。しかもただ説教をたれるだけでなく、遊びまで入れてくるというのがまた見事。登場人物はみな滑稽なのですが、それにより悲哀や人間臭さがよく出てくるという演出の絶妙さ。また編集の遊びも斬新で、あるエピソードが盛り上がってきたところでカットがぶつっと切れ、まったく違うエピソードに飛んでいってしまいます。話がおもしろくなってきた、その絶好調のところでいきなり切ってしまうだなんて!この監督、ぶっきらぼうに作っているようで、実は観客の心理を徹底的に計算しているのだと思います。せっかくおもしろくなってきたところで切るなんて怖いことができるのも、その計算に絶対の自信があるからなのでしょう。実際、このじらしによって特に前半は怒涛のおもしろさとなっており、また膨大な情報量を見る側に詰めこむことにも成功しているのです。一転してペースが落ち着く後半部分とのコントラストの役割も果たしており、まさに完璧な計算だったと言えます。そしてあのとんでもないクライマックス。バカバカしくもありますが、登場人物達のわだかまりを吹き飛ばす起爆剤という役割は立派に果たしており、突飛ではあっても作品の流れの中では非常に理にかなったオチだったと言えます。あの衝撃で皆吹っ切れ、清々しい朝を迎えていたではありませんか。前述した「クラッシュ」は終始シリアスで比較的テーマが伝わりやすいアプローチだったのに対し、本作はより高度な遊びをした結果一部の観客を切り捨てるという結果にはなっていますが、映画としての完成度は非常に高いと思います。
[DVD(吹替)] 9点(2007-03-27 23:27:08)(良:2票)
239.  12モンキーズ 《ネタバレ》 
これはかなり惜しい映画です。未来描写がもっと杜撰なものであれば、この2倍はすごいことになったと思います。というのも中盤、コールは自分は未来人ではなく、医者の言う通り単なる精神障害者ではないかと疑うくだりがありますね。そんな、主題をも揺るがしかねない謎を観客も共有することができれば、もっと素晴らしいミステリー映画になったはずです。しかし残念ながら、観客はそのミステリーを共有することができません。願わくば冒頭の未来描写を丸々カットし、コールが拘束されるシーンから始まってくれればよかったんです。そうすれば、後にSF的な描写が登場しても、コールの幻覚という処理が可能になるんです。しかし冒頭に未来を持ってきてしまっては、SFという設定が大前提になってしまい、ミステリーがひとつ減ってしまうんですね。とはいえ、それでもこれは紛れもなく大満足の秀作ですけど。張り巡らされる伏線やいちいち意味ありげなセリフ、そしてクライマックスに向けてきっちりと収束していくお話。挙句に「12モンキーズ」自体がミスディレクションといううまさ。見事ですよ。それに話のテンポも悪くなく、その手際のおかげで言われるほど難しさは感じませんでした。そして、やっぱりブラッド・ピットがすごい。精神病院であることないことしゃべりまくりながらも、その言葉の中には思わぬ真理が隠されており、只ならぬ存在感を見せつけます。結局は単なるバカで終わる役柄なんですけど、彼の熱演がジェフリーという人物に「何かしでかすのでは?」というスゴ味を与えており、キーパーソンとしての存在感をいかんなく発揮するわけです。ま、この映画には余裕で9点を献上することができます。できれば、今後テレビ放映する時には冒頭の未来描写をカットしてくれれば完璧なんですけど。
9点(2004-11-13 02:09:07)(良:2票)
240.  X-MEN:フューチャー&パスト
実写版『X-MEN』の父と言えばブライアン・シンガーですが、『ファイナル・デシジョン』よりも『スーパーマン/リターンズ』を優先したことがFOXの逆鱗に触れ(シンガーは念願だったスーパーマンにまず着手し、それが終わり次第、X-MENの現場に戻ればいいと考えていた)、しばらくはX-MENへの出禁状態が続いていました。そんなこんなを経て久々に監督復帰した本作には、その間に製作された2本の続編に対する彼の思いがよく表れています。。。 鑑賞前の最大の関心事は、『ファイナル・デシジョン』で死亡したプロフェッサーXと、能力を失ったマグニートーをどうやって戦線復帰させるのかという点でしたが、驚いたことに、彼らは何事もなかったかのようにしれっと復活しており、そこには何の説明もありません。また、『ファースト・ジェネレーション』で初登場したミュータント達は1名を除いて全員が殺されたことになっており(あれだけ強力だったエマ・フロストまでが捕獲され、殺されてたなんて)、生き残った1名も本筋とは無関係なワンシーンで顔を出す程度。シンガーは、自分が監督していない2本をなかったことにしたいのではないかという疑念を持ってしまいました。そういえば、テーマ曲は『X-MEN2』のものに戻されてたし。。。 ドラマも、直近作とは断絶しているように感じました。前作のラストで意気揚々と学園を始めたプロフェッサーが、本作ではいきなりダメ人間として登場する辺りはかなり強引に感じたし、ミスティークを奪われた件でマグニートー相手にブチ切れる点は完全な逆恨み。前作のラストでミスティークの背中を押したのはあんただったでしょ。前作では思慮深い革命家だったマグニートーが、本作では独断専行で度々場をかき乱すバカになってた点にも、妙にガッカリさせられました。『ファースト・ジェネレーション』との整合性という点においては、今回の監督交代は完全に裏目に出ています。。。 とはいえ、本作ではシンガーの強みも十分に発揮されています。ミュータントの能力を面白く、かつ、わかりやすく見せるという点では他の監督の手腕を遥かに凌駕しているし(初登場のミュータント達がセンチネルとの戦いを繰り広げる序盤の素晴らしさ!)、気が付けばスター揃いとなっていたキャスト達を見事にまとめ上げ、知名度順に見せ場をきっちり分配していくという采配にも感心させられました。これぞ夏のスター映画です。
[映画館(吹替)] 7点(2014-06-04 23:02:11)(良:2票)

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