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プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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321.  ヒッチコック
ホラーやサスペンスというジャンルにおいて、当該ジャンルの流れを一変させるような傑作は、主にインディーズから現れると言われます。作品の内容に口出ししてくる人間の数が少ない、また、倫理コードという制約条件の影響を受けづらいという自由な製作環境が革新的な映画を生み出す素地となるためですが、例外的に『サイコ』は、大手スタジオにおいて生み出されたホラーの傑作でした。監督の自費で制作されたとは言え、大手スタジオの看板を背負う以上、スタジオの重役達は口を出してくるし、検閲官だってあれこれ文句をつけてくる。そんなハイプレッシャーな環境の上に、愛妻の不倫疑惑や、過去に因縁を抱える主演女優との微妙な関係、さらには自身の体調不良まで、本当に多くの問題を抱えながら、それでも意地を通して傑作を作り上げた天才監督の姿には非常に興味深いものがありました。ヒッチコックのフィルモグラフィーは傑作揃いであり、息を吸うように名作を撮っていたというイメージがあっただけに、これだけの苦労をしながら、それでも映画に拘っていたという点は、個人的に意外でもありました。。。 また、本作は老人映画でもあります。40年超のキャリアを持つスピルバーグや、70代のリドリー・スコットがハリウッドのトップに君臨する現在とは違い、50年代・60年代の一般的な映画監督の賞味期限は10年程度でした。生き神様の域に達していたデミルやワイラーならともかく、無冠の帝王にして、50年代には何本もの映画をコケさせていたヒッチコックは、「そろそろ引退しては?」という周りからのプレッシャーを受け続けていました。しかし、彼は「まだまだやれる」ということを証明しようとします。『世界最速のインディアン』の主人公のように。ヒッチコックが『サイコ』に拘ったのは、原作や題材の良さだけではなく、これが誰もやったことのない、まったく新しいものだったからであり、自分の感性の若々しさを証明するためには、これしかないと考えたためでしょう。時代遅れと言われていた者が、自己の存在をかけて大仕事に挑む、なかなか燃える話ではありませんか。。。 以上、素材は硬派なのですが、終始ユーモラスで肩肘張らない本作の演出は独特でした。テンポが良くて非常に見やすいのですが、それ以上のものになっていない点が惜しくもあり、決して悪い映画ではないものの、点数的には7点がせいぜいかなという印象です。
[DVD(吹替)] 7点(2013-12-05 01:16:22)(良:1票)
322.  デイライト
せっかく助けにきてくれたスタさんにワガママばかりを言う生存者達が非常に不愉快でした。感情移入など絶対に不可能、ドラマとして完全に赤点です。しかし、娯楽に長けたロブ・コーエンによるアクション演出は絶好調で、矢継ぎ早に繰り出される危機の連続には思わず見入ってしまいました。VFXや音響等、テクノロジーの扱いも非常に素晴らしく、製作から15年以上経過した現在の目で見ても見応えのある娯楽作に仕上がっています。いろいろ文句はありますが、まぁ面白かったので及第点は与えられます。
[ブルーレイ(字幕)] 6点(2012-12-03 01:03:20)(良:1票)
323.  スティーブ・ジョブズ(2015)
私は新規事業立ち上げに当事者の一人として携わった経験があるのですが、人の話を聞いていると事業はまったく前に進みません。特に、今まで世になかった商品やサービスを開発し、供給により需要を生み出すというタイプのビジネスではあらゆる人からリスクばかりを指摘され、できない理由を朝から晩まで聞かされることとなるため、人の意見は聞かない、聞いても自分に都合よく解釈し、「成功するはずだ」と信じて一度決めた道をひた走るという資質が経営者には求められます。 本作で描かれるスティーブ・ジョブズは完璧なクソ野郎です。脚本を書いたアーロン・ソーキンは『ソーシャル・ネットワーク』と同様にカリスマ経営者の悪しき一面を描くことに関心を持っており、間違いなくジョブズに対する悪意をもった作品であると言えます。そのクソ野郎ぶりを眺めることが本作の一義的な楽しみ方だと思うのですが、それと同時に、ビジネスの世界で成功するためにはこれくらい極端な人格を持つ必要があるという勉強にもなります。自身のビジョンに絶対の自信を持ち他人の意見に左右されないこと、部下の事情など考えずにビジョンの実現のみにこだわること。凡人にとってここまで自分を貫き通すことは難しく、どこかで心が折れたり、目標や方法がブレたりするのですが、ベンチャーを成功させる経営者はメンタル面での圧倒的な強靭さを持っています。そして、経営者を間近で見ていると、そのような人物像は一種の才能であるかのように感じられます。 英語では才能をgiftと言い、神からの贈り物という含みがあります。劇中で相棒のウォズニアックから指摘される通り、ジョブズにはハードウェアを作る技術も、プログラムを書く技術もなく、後天的な努力をしてスキルを磨いてきた人物ではないのですが、他方で自身のビジョンを信じて突き進むという人格面での強靭さと、10年先20年先の社会を読んだ上で当たる商品コンセプトを思いつくという先天的な能力には恵まれており、まさに神からの授かりもので生きてきた人物だと言えます。人格面では最悪で多くの人から嫌われているものの、凡人がどれだけ努力しても身につけることができない才能を持っていることから、部下達は彼の元を離れることができません。努力で自分の価値を高めている秀才にとって天才とはズルくて憎たらしい存在なのですが、ジョブズとウォズニアックの関係はまさにそれを象徴しています。 作品は3部構成であり、それぞれ重要なプレゼン前のバックステージを舞台としており、膨大な量のセリフのみによって物語は進められていきます。そのような特殊な構成をとっているために視覚的にはやや単調なのですが、ジョブズという人物像がそもそも強烈である上にマイケル・ファスベンダーの熱演もあって、彼の最悪な発言を聞いているだけで2時間はもってしまいます。ただし、状況や人物に係る説明的な描写はなく、ジョブズの人生を知っていることが鑑賞の前提条件となることから、間口の狭い作品となっていることは残念でした。また、天才を突き放した視点で眺めた作品であるためか、鑑賞後に特に心に残るものがありませんでした。
[ブルーレイ(吹替)] 6点(2016-08-18 18:21:36)(良:1票)
324.  トロン:レガシー 《ネタバレ》 
チャチながら味のある映像、安いながらも独特の雰囲気を醸していた音楽、そんな「トロン」第1作を見た直後に「レガシー」を鑑賞したのですが、その素晴らしいアップグレードぶりには目を見張りました。最先端の映像は美しくてやたらかっこよく、仰々しい音楽は腹にドスンと響きます。とにかく目で驚かせる、これぞスペクタクルだと思いました。前半のハイライトである「ゲーム」の作り込みはハンパではなく、平面だけではなく垂直方向も意識したアクションの連続には大興奮させられました。21世紀に入って突如「トロン」続編の製作が発表された時には「なんで今更『トロン』なの?」と世界中が首をかしげたのですが、この映像を見せられると、「なるほど、これを見せたかったのか」と合点がいきました。ビジュアル的には百点満点の映画だと思います。。。 ただし、お話の方が弱いと感じました。どのキャラクターも薄味で感情移入できないし、タイトルロールである「トロン」の扱いもぞんざいなものです。ビジュアル的にはかっこいいのに、キャラクターとしてまったく掘り下げられていない点が非常に残念でした。心変わりの背景などをもう少し丁寧に描いていれば、見違えるほど良くなったと思うのですが。さらには、観客に世界観を伝え損ねていることも問題です。ポータルがどうのこうのとか、ケビンのディスクがどうのこうのという話はサッパリ意味不明だし、デジタル生命体アイソーの件も、やはりよくわかりませんでした。難解な世界観をうまく観客に飲み込ませていた「マトリックス」という先例があるのですから、もう少し丁寧に脚本を作り込むべきだったと思います。 
[DVD(吹替)] 6点(2011-12-04 09:54:45)(良:1票)
325.  アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン 《ネタバレ》 
ヒドラの秘密基地を襲撃する冒頭から、映画のテンションはフルスロットル。6人の主人公の能力をバランスよく見せる演出の素晴らしさには、つくづく感動させられました。ただし、それと同時に違和感も残りました。序盤から楽勝ムードが全体を覆っており、緊張感が皆無なのです。特に冒頭は、軽口を叩きながら圧倒的なパワーで迫っていくアベンジャーズがとても感じの悪い集団に見えてしまい、一方で生身の人間でありながら神やモンスターを相手に防戦せねばならないヒドラの兵士達が気の毒になったほどです。 タイトルロールであるウルトロン登場以降も、その傾向は変わりません。「最大の敵現る!」という予告編での煽りとは対照的に、こいつがとにかく弱いのです。ボディはアイアンマンの改造版に過ぎないし、人工知能ならではの緻密な戦略があるわけでもない。また、これは前作からの問題点でもあるのですが、大ボスとその他大勢の雑魚から成り立っているというシンプルにも程がある敵の組織構造はいかがなものかと思います。雑魚をちぎっては投げ、最後に大ボスを始末するといういつもの流れで、クライマックスの見せ場が恐ろしく単調なものとなっているのです。個性的な能力を持った中ボスを置き、戦いにバリエーションを作るべきだと思います。 見せ場の合間に挿入されるドラマも、実にどうでもいいものでした。単独主演作を持たないキャラクターのドラマが中心となるのですが、ハルクとブラックウィドウがなぜか良い仲になっていたり、ホークアイの家族が唐突に登場したりと、激しくどうでもいいものばかりで眠たくなりました。また、平和の護り方を巡って多少の内輪揉めが起こるのですが、「人工知能を使い、システマチックな監視体制を作るべきだ」と主張するアイアンマンに対して、「あんな信用ならんものに頼れるか」と年寄り臭い主張をするキャップ(実際に年寄りなのですが)。お話は、アイアンマンの主張が間違ってるっぽい感じで進んでいくものの、途中から登場するヴィジョンが底抜けの正義漢ぶりを発揮し、結局あの議論には何の意味があったんだと、観客を大いに混乱させます。 最後に、日本のみ世界最遅上映という扱いはどうにかならんものでしょうか。この手のイベント映画は鮮度が大事。長々と悪口を書いてしまったのも、世界同時上映から2ヶ月も待たされ、私のテンションが完全に下がってしまっていたためでもあります。
[映画館(字幕)] 4点(2015-07-06 06:34:24)(良:1票)
326.  追跡者(1998) 《ネタバレ》 
『スコーピオン・キング』に『キャットウーマン』に『エレクトラ』と、ハリウッドのスピンオフ企画にはロクなものがありませんが、本作については正編をも上回る予算と人材が投入されていることから、これはヒット映画に便乗した小遣い稼ぎというハンパな企画ではなく、シリーズ化を狙ってかなり真剣に製作された作品であったことが伺えます。実際、『逃亡者』でオスカーまで受賞したジェラード保安官の魅力は本作でも健在であり、熱い信念を持った皮肉屋という彼の個性はきちんと活かされています。さらに、前作ではほとんどアクションをやらなかったトミー・リーが、本作では一転してかなり激しい動きを見せており、新たなヒーローを作り出そうとする努力が随所に伺えます。。。 問題は、本作の舞台があまりに大きすぎたことでしょうか。例によって逃亡者を追いかけていたら、そいつは国際的な諜報戦争の渦中の人物だったことが判明するというお話は、少々荒唐無稽すぎました。そんな大きな舞台の中でいち連邦保安官に過ぎないジェラードが暴れているのでは、違和感しか覚えません。また、脚本上はミステリーを指向しながらも、タイプキャストを使っているためにあらゆる謎がバレバレになっているというキャスティングにも首を傾げました。ウェズリー・スナイプスはどう見ても普通の人間ではないし、ロバート・ダウニーJrは登場時点で怪しさ全開。で、観客が抱いた先入観の通りにネタが明かされて映画は終了するわけですが、監督はこのキャスティングで観客が謎解きを楽しめると考えていたのでしょうか。。。 上映時間が無駄に長いことも、映画をつまらなくしている要因となっています。例えばジェラードの服装ネタ。チキンの着ぐるみを着ての初登場でひとネタやったにも関わらず、その後にも観光用のおかしなTシャツを来たり、部下が用意したダサいスウェットを着たりと、服装ネタを都合3度もやるわけです。また、観客がわかりきったことをクドクドと説明する場面もやたら目に付いたのですが、これら無駄な時間の積み重ねが、本編を必要以上に冗長なものにしています。監督を務めたスチュアート・ベアードは編集マン出身であり、その全盛期には編集の神様とまで言われた人物なのですが、そんな監督がこのような杜撰な編集をしたことには悪い意味で驚かされました。
[DVD(吹替)] 5点(2014-08-27 00:27:59)(良:1票)
327.  戦場のピアニスト
本作は必然的に「シンドラーのリスト」との比較にさらされる作品ですが、スピルバーグお得意の映像的ショックが鑑賞後の印象のほとんどを占め、ラストはベタベタの人情劇に終わってしまった「シンドラーのリスト」と比較すると、本作の方が映画としての完成度は上だと思います。「シンドラーのリスト」はホロコーストにおける凄惨なイベントを数珠つなぎにして披露する作品でしたが(これはこれで、ホロコーストの非人道性を伝えるためには有効な表現でした)、一方で本作においては、ホロコースト真っただ中の生活が克明に描かれます。特徴的なのが死の表現方法で、スピルバーグが「殺される過程」を見せることにこだわったのに対し、本作は「街に転がる死体」によってこれを描いており、このことからも、両者のアプローチが根本的に異なっていることがわかります。また、本作はゲットー内で利益を得ていたユダヤ人や、同胞を裏切ってドイツ人の側に付くことで自己保身を図っていたユダヤ人が少なからずいたことも暴露してしまいます。この視点には驚いたし、ここまで思いきった内容にできたのは、自身がホロコーストの経験者でもあるポランスキーならでは。言い方は悪いのですが、同じユダヤ人であってもアメリカでぬくぬくと育ったスピルバーグでは手の出せない領域だったと思います。さらには、主人公とドイツ軍将校との関わり合いの中で、滅びゆく者の憐れまでを描いている守備範囲の広さ。本当にすごい映画だと思います。。。そして最も印象に残ったのが、シュピルマンがドイツ人将校の前で演奏を披露した後、声を出して涙するシーンです(ほんの数秒のカットだったので、気付かれていない方もいらっしゃると思いますが)。安全な隠れ場所と食糧を探すことのみに集中し、もはや人とは言えない状態にまで自己を追いこんでいた彼が、ピアノを弾くことによって人格を取り戻し、長い間押し殺してきた家族や同胞への思いが一気に噴出したのか?それとも、いつも空想の中でのみ演奏していたピアノをようやく弾くことができたが、その念願の演奏は、よりによってドイツ人のために披露したものだった。芸術家としての最後のプライドまでを自己のサバイバルの道具としてしまった自分が許せなかったのか?なかなか解釈が難しいのですが、たったワンシーンにおいても解釈に幅を持たせたことも、この作品の奥の深さ、懐の広さのひとつの証明だと思います。
[DVD(吹替)] 9点(2010-06-27 19:27:51)(良:1票)
328.  天国の門 《ネタバレ》 
すごい力作だと思うんですけど、天国どころか地獄のように長い。ひとつひとつのシーンが異様なまでに長いんです。それもそのはずと言うか、この映画はすべてにおいてリアリティーにこだわり抜いたために、何もかもを見せたいという衝動にかられたんだと思います。序盤に出てくる駅ひとつにしたって、アメリカ中を探して見つけ出した年代物の機関車をモンタナまで運び、線路を敷き、駅を建設して撮影したわけですから、そりゃじっくり見せたいでしょ。荒野の雰囲気を出すために画面には常に塵や煙が舞っていますが、それにしたって計算されたかのような動きを見せるし、撮影は基本的に自然光。キューブリックにゃ負けとれんってわけですね。映画はいかにウソをつくかの勝負で、バカ正直にセットを丸々作ったり、わざわざ自然光のみにこだわることもないだろう、なんてことはこの際言いますまい。映画会社をひとつ潰したほどのこだわりなんて、見てて楽しいし。演技派揃いの渋い俳優陣もよかったのですが、画面をさらうような美男美女がいないってあたりもリアリティーのうちなんでしょうか。そしてエラ役のイザベル・ユベールさんは景気よく脱ぎまくってましたが、そのわりにスタイルの方がアレなのもリアリティーの一種でしょうか。なんてことを言いつつ、実は佳境に入るまでは話にのめり込んでたんですよ。だって金持ちが農民を虐殺しに来るという題材の時点で男気を燃えさせますよ。仲間割れする農民をまとめつつ保安官が戦いを挑むんだろう、その時にはエラに説得されたウォーケンも加勢に来て重要な役割を果たすんだろう、そしてクライマックスでは片方が死んで三角関係も丸く収まる、なんてアツイ展開を想像しながら見てたんですけど、佳境に入るとすごい展開に。決戦を前にしてウォーケンはアッサリ死に、一方保安官はフラれたショックで保安官を辞めるとゴネ出し、結局農民達は自発的に闘いを挑みます。おいおい、俺の燃える展開は?って感じですよ。しかもアクションにしたってカタルシスがまったくなし。リアリティーを残しつつでも、もっとかっこよく撮れたでしょうに。そして最後は大宮サティのカート野郎さん同様、あんまりピンときませんでした。「で?」って感じです。クライマックスに向けてもっと盛り上げてくれれば、西部劇の決定版になった映画かもしれないんですけどね。少なくとも監督はそのつもりで撮ってたんでしょうけど。
7点(2004-09-20 07:52:15)(良:1票)
329.  ロンドン・ブルバード -LAST BODYGUARD-
リドリー・スコットやマーティン・スコセッシといったハリウッドの巨匠達から愛される脚本家ウィリアム・モナハンの監督デビュー作ということで期待の大きかった本作なのですが、案の定、よくできたクライムサスペンスでした。ヤクザの世界から足を洗いたい主人公と、それを許してくれない闇社会というありがちな物語でありながら、キレの良いセリフ回し、印象に残る選曲、スコセッシ譲りの暴力描写によって水準を超える仕上がりとなっています。俳優陣の配置も絶妙で、ヤクザのボスをレイ・ウィンストンに演じさせて重量級の存在感を発揮させる一方で、デヴィッド・シューリスの飄々とした個性によって作品に独特の軽さを出しています。『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの終了とともにめっきり見なくなったキーラ・ナイトレイが引退した元スター女優というセルフ・パロディのような役回りで出演しているのですが、「脱ぎの仕事も文句を言わずに引き受けていた」という自虐的なセリフで笑わせます。。。 問題に感じたのは、主人公が元スター女優のボディガードであるという設定が本筋とうまく絡んでいないという点。結末から振り返ってみて、主人公の恋の相手がセレブリティである必要性が感じられません。彼女に張り付いているパパラッチを利用した反撃作戦でもあれば面白くなっただけに、もうひと捻りが欲しかったところです。 
[DVD(吹替)] 7点(2012-07-16 01:49:52)(良:1票)
330.  ハクソー・リッジ 《ネタバレ》 
映画人として完全に終わったと思われていたメル・ギブソンが、彼を毛嫌いするハリウッドの住民たちをも納得させてオスカー大量ノミネートと2部門受賞という栄誉を勝ち取った作品こそが本作なのですが、なるほど、本作を観ればメル・ギブソンは映画を撮るという才能に溢れた人物であることがよく分かります。 主人公・デズモンドの人格を形成したものは何だったのか、また軍隊や社会は彼の主張にどう反応したのかが描かれる前半部分は簡潔ながら非常によくまとまっています。メル・ギブソンは実生活では信仰心の厚すぎる人物なのですが、本作では宗教という要素をバッサリと切り落とし、父と子の物語として再構築した辺りの見切りの良さも光っています。ヒューゴ・ウィーヴィング演じる父親は頑固で酒飲みで女房子供に暴力を振るう最低野郎なのですが、その一方で息子が軍刑務所に入れられて窮地に陥っていると知るや、自分のコネを使って何とか息子を助け出そうとする優しさも見せており、善悪では割り切れない複雑な人間性というものがきちんと表現できています。また、当初はデズモンドの信仰を理解できず、彼に対して辛く当たっていた戦友達が徐々に変化していく様も自然に表現されており、人間ドラマとして非常によくできています。 戦場はまさに地獄。そこら中に手足や内臓が散乱し、それらの周囲には血の海ができているという表現は、これまで見たどの映画よりも実際の戦場写真に近いものであり、まさにリアリティの塊となっているのですが、本作が特殊だと思うのが、このリアリティの極限の中に娯楽的な誇張を紛れ込ませているという点です。散乱する死体を左手で引っ掴んで盾のように構え、右手でマシンガンを乱射するという突飛な見せ場や、投げられた手りゅう弾を蹴り返す場面、また文字通り血の雨が降る場面などが登場するのですが、これがリアリティある戦場描写にちゃんと馴染んでいるのです。そもそも全体の構成自体も、史実では一定期間でなされた行為を本作では一夜の出来事として見せており、かなり無理のあるまとめ方をしてはいるのですが、これに違和感を覚えさせられない辺りが脚色や演出の妙なのでしょう。『ブレイブ・ハート』でも感じたのですが、メル・ギブソンはリアリティと虚構を混ぜるのが本当に巧い監督だと思います。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2018-01-05 20:15:17)(良:1票)
331.  荒鷲の要塞
こういう映画を見ると、映画の技術というものは確実に進化しているのだなと実感させられます。主人公には弾が当たらないのにドイツ兵はバタバタと死ぬ、ドイツ兵はバカみたいに主人公の罠に引っ掛り続ける等、この時代の映画の見せ方は現在のアクション映画とは比較にならないほど稚拙だと言えます。また脚本の練り方も現在の水準からすればつっこみが非常に浅く、味方の中に3人も二重スパイがいながら主人公達や観客が翻弄されるという展開がない(彼らを巧く使えば前半の山場になったはずなのに)、いち早く潜入に気付いたゲシュタポ隊長をすぐに殺してしまう(彼を好敵手にすれば盛り上がったはずなのに)、救出したカーナビー将軍は一言もしゃべらず主人公達のうしろにくっついてるだけで存在感ゼロ(あのチームではただひとりの異色な存在だったんだから、彼にも見せ場を与えれば話の幅がもっと広がったのに)、スパイいぶり出し工作という最高のアイデアがセリフだけで説明される(話の展開とともに少しずつ全容が明らかになれば最高に面白かったはずなのに)等、おいしくなりそうなところを相当素通りしています。とにかく主人公達が圧倒的に強く、彼らの計画が式次第通りに進んでいくだけなんですね。相当困難なミッションをやってるわけですから、一筋縄ではいかない展開の方がおもしろいのに。警戒厳重な拠点に潜入しながら、周りが敵に囲まれているという緊張感もないし。そんなわけで現在の水準と冷静に比較すればレベルの高い作品とは到底言えませんが、だからと言って現在では評価に値しない作品だというわけでもありません。年代ものの映画特有の雰囲気とでも言いますか、現在では到底出せない絶妙な空気を映画全体が放っているのです。困難なミッションを与えられた主人公達が超人的な活躍をして当然のように成功を収めて帰還する。戦争ファンタジーとも言えるこのような話をお笑いにすることなく真っ当な映画として成立させるのは、現在ではちょっと無理だと思います。この時代の映画だからこそこのような設定でも素直に成立しているのであり、古風な脚本、レトロな撮影、往年の俳優の存在感など映画全体が放つ昔ながらの空気に馴染むと、「今だったらこう作ってるのにな」なんてことを考えるのは野暮。そういった意味では十分に評価すべき作品であると思います。
[DVD(字幕)] 6点(2006-11-07 23:44:45)(良:1票)
332.  クライム&ダイヤモンド 《ネタバレ》 
残念ながら面白く感じませんでした。全体的なプロットは良いのですが、細部があまりに雑なのでアラばかりが気になります。そもそも主人公フィンチは詐欺師なのですから、彼の語る物語には真実と嘘が巧妙に混じり合っていて、その嘘を解き明かしていく過程で全体像が見えてくるというのがこの手の映画の基本でしょ。例えばダイヤモンドに係るエピソードはラスト近くにまで伏せられていて、最後の最後で主人公の目的はダイヤモンドを奪うことだったという話にすればよかったのですが、そういう捻りがこの映画にはありません。詐欺師がバカ正直に事実を話してどうすんだって感じです。また、タイトルにもなっているクレディス・タウト氏に係る謎についても同様です。刑務所を脱獄した主人公フィンチは逃亡用の新たな身分を得るためクレディス・タウトという死者の名を騙るのですが、このクレディス・タウトとはマフィアの逆鱗に触れて暗殺された人物でした。タウト氏は生前から正体不明の人物であったことが劇中で語られるため、彼の正体が映画の重要なピースのひとつになると考えるところですが、驚いたことにタウト氏に係る伏線は完全に放棄されて映画は終わってしまいます。この雑さはさすがにアウトでしょ。その他にも本作にはご都合主義が横行していて、中でもダイヤモンドを掘り起こしたい主人公が自ら刑務所に収監されるエピソードの粗さには唖然としました。主人公:俺を刑務所に収監してくれ→警察:自分を刑務所に入れろっておかしくないか?ま、いいか。主人公:俺が刑務所内の庭を掘ることを認めてくれ→警察:刑務所の庭に何か埋まってるのか?ま、いいか。結果、何の苦労もなくダイヤモンドを掘り起こしてしまう主人公。犯罪ミステリーでこんな頭の悪いやりとりをしちゃいけないでしょ。詐欺師である主人公が口八丁手八丁で警察に無理な要求を飲ませるというプロセスを入れていればストーリーの説得力が増すし、主人公のキャラクター付けにもなったはずなのですが、シナリオはそうした工夫を完全に怠っています。監督・脚本を担当したクリス・バー・ヴェルなる人物は本作以降ハリウッドから姿を消していますが、有名俳優を何人も配置したこの企画をこの程度の仕上がりに終わらせたのでは、干されたのも仕方ないと思います。
[DVD(吹替)] 3点(2011-10-28 09:51:06)(良:1票)
333.  アイアンマン
【2012/01/15レビューを変更しました】 古今東西のヒーローものの限界、それは「ヒーローは世界平和を謳いながら、なぜご当地(アメコミヒーローはアメリカ、特撮ヒーローは日本)しか救わないのか?世界には貧困や飢餓、紛争が溢れているのに、なぜそこに立ち会わないのか?」という点にあります。身も蓋もない話をすれば、それは製作費がかさんでしまうという製作上の都合であったり、内容が重くなり過ぎてしまうという品質管理上の都合であったりするわけですが、本作はその矛盾点に果敢に挑んだ内容となっています。アイアンマンははるばるアフガンに飛んで軍閥を成敗しますが、その目的は純粋にアフガンの人々を救うことであって、アメリカに危害を加えるテロリストをこらしめるというものではありませんでした。ラストバトルの舞台はアメリカ国内でしたがこちらは敵がたまたまアメリカにいただけのことであって、アメリカ国民を救うための戦いではありませんでした。真に世界平和を謳い、その目的に合致した行動をとるヒーローがいよいよ登場したという訳です。そんな挑戦的な内容でありながら、表面上は王道のアメコミ作品としてまとめられている点が実にクレバー。アメコミヒーローがベトナム戦争や東西冷戦に介在する『ウォッチメン』や、「アメリカの守護神であるスーパーマンは、なぜ911を防いでくれなかったのか?」という疑問に挑んだ『スーパーマン リターンズ』といった前例があるにはあるもののどれも重くなり過ぎて微妙な結果に終わっていった中にあって、本作はそのアグレッシブな試みを前面に出さず、表面上は軽い娯楽作を装うことで品質管理上の制約をうまくスルーしているのです。これは抜群によく出来た構成だと思います。さらに、ロバート・ダウニーJrを主演に据えるという判断も神がかっています。今でこそダウニーJrはスターに返り咲いていますが、本作製作時点では完全に過去の人でした。才能は評価されていたものの素行が悪いために観客からも製作者からも敬遠された人で、日本でいえば大河ドラマの主演に沢尻エリカや赤西仁を据えるというレベルの判断を本作の製作者は下したのです。このアグレッシブな人事も大いに評価すべきでしょう。
[映画館(字幕)] 7点(2010-07-05 08:08:10)(良:1票)
334.  インモータルズ/神々の戦い
脚本が平凡な上に監督がストーリーテリングに無関心なようで、お話しはまったく面白くありません。前半は「つまらん映画だなぁ」と思いながら観ていたのですが、ギリシャ軍vsハイペリオン軍の合戦がはじまると突如として面白くなりました。圧倒的兵力を見せつける敵にひよった自軍を鼓舞する演説はこの手の映画にありがちなのですが、本作はこれを意外なほどかっこよく演出してみせています。多くの兵が入り乱れる合戦は大迫力だし、満を持しての神様戦隊登場は笑ってしまうくらいかっこよく決まっていました。ここまでやってくれれば大満足、前半のつまらなさはクライマックスですべて帳消しになりました。。。 美しさを伴う残酷描写にスーパースローの多様と、ターセム・シンの画作りはザック・スナイダーとよく比較されますが、コミックのカットの忠実な再現を目指すザック・スナイダーに対して、動く絵画を目指すターセム・シンの画作りはより高度。『ザ・セル』を観た時には”小さなリドリー・スコット”という印象を受けたのですが、本作を観るにターセム・シンは映像派と呼ばれる監督群の中でも独自のポジションを確立しつつあるようです。そろそろまともな脚本を受け取って、ラッセル・マルケイ化する前に代表作を作って欲しいものです。 
[ブルーレイ(字幕)] 7点(2012-07-16 16:46:53)(良:1票)
335.  クロエ(2009) 《ネタバレ》 
2004年のフランス映画『恍惚』のリメイクですが、オリジナルは未見。本数は多いものの傑作の少ないエロサスペンスというジャンルなので大した期待もなく鑑賞しはじめたのですが、そこはアトム・エゴヤン。繊細な描写や美しい撮影によって、類似作とは違った深みや高級感を出すことに成功しています。主演を務めるジュリアン・ムーアの演技も上々であり、些細な出来事に一喜一憂する彼女の姿には思わず見入ってしまう説得力がありました。さらには、50歳を過ぎても脱ぎ惜しみなし。24歳のアマンダ・セイフライド以上に濡れ場を頑張っている女優魂にも感服しました。出番は少ないながら(私生活での奥様の死と本作の撮影が重なったため、脚本を変更して出演場面を大幅に減らしたのだとか)、リーアム・ニーソンも相変わらずの存在感を示しており、監督・俳優によるレベルの高いパフォーマンスを楽しむことができました。。。 ただし、楽しめたのも前半まで。後半に入り物語が核心部分に到達すると、映画は一気に陳腐になってしまいます。勢いで関係を結んだ相手がキ○ガイだったという、エロサスペンスとしてはありがちな話に落ち着いてしまうのです。特殊な設定を設けた割に落とし所はここなのかと、少々拍子抜けしてしまいました。さらには、クロエがキャサリンに執着した背景の描写も甘いためにドラマも燃え上がらず、非常に中途半端な終わり方をしてしまいます。もう少しで良作になりえた作品だっただけに、詰めの甘さが悔やまれます。
[DVD(吹替)] 5点(2013-04-24 00:45:25)(良:1票)
336.  ホビット/決戦のゆくえ 《ネタバレ》 
IMAX-3Dにて鑑賞。HFR上映は人生初なのですが、映画館とは思えないほどのくっきり画像、カメラが動いても全然ブレない動画対応力の恩恵は凄かったです。通常上映とは比較にならないほど3D効果を高く感じるし、画面の動きがスムーズで目が疲れないので非常に快適。その反面、画がくっきりしすぎで大スクリーン特有のざらつきがなく、テレビを見ているようなノッペリ感があったことはちょっと残念でした。。。 内容は、冒頭からフルスロットル。前作では城の中を這い回っていたスマウグ様がついに空を飛び、街を焼き付くすというテンションの高い見せ場からスタートします。通常の映画であればクライマックス級の見せ場でお腹いっぱいになったところで、” The Battle of the Five Armies”のタイトル表示。このレベルの見せ場が、本作では本編開始前の肩慣らしだったのかと呆気にとられました。その後は見せ場に次ぐ見せ場。ず~っと戦ってます。シリーズを通じて、偉そうな事を言うだけで大した活躍を見せてこなかったガラドリエル、エルロンド、サルマンの3人がついに参戦し、尋常ではない実力を見せ付ける場面など、ファンサービスもきっちり心得ています。。。 そして、ついに始まるオーク軍との全面戦争のテンションの高さも相変わらずで、ドワーフ軍が陣形を整える場面のかっこよさ、エルフ軍が戦闘に参加するタイミングの絶妙さなど、ピージャク演出も絶好調。対するオーク軍も、『砂の惑星』みたいな巨大ワームを投入したり、ガンキャノンのような格好で投石器を撃つトロルが登場したりと、止むことのない創意工夫には頭の下がる思いがしました。。。 しかし、途中からピージャク演出も息切れを起こし、終盤の戦闘は単調になってしまいます。さらには、困った時の大鷲投入という本シリーズの悪癖は今回も健在。オークの第1軍と第2軍の挟み撃ちに遭って絶体絶命というところで、大鷲の群れが飛んできて敵の第2軍をあっという間に蹴散らしてしまうという世にもあんまりな展開にはコケそうになりました。キャラクターの戦力描写も不自然で、前作まではオークの小集団からコソコソ逃げ回っていたドワーフ達が、今回だけは完全武装の上に数でも圧倒するオーク軍を無双状態でなぎ倒すという光景には目を疑いました。なぜ、旅のはじまりからその実力を出さなかったんだと。
[映画館(字幕)] 7点(2014-12-14 00:49:27)(良:1票)
337.  オールウェイズ 《ネタバレ》 
同時期に製作された『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』と同じく導く者と導かれる者の物語であり、あちらが導かれる側の視点であれば、こちらは導く側の視点でした。 死んだ熟練者には後進育成の義務がある、死者は生者と直接のコミュニケーションはとれないが深層心理に影響を与えることはできるという本作独自のルールはユニークだと思うのですが、残念ながら面白さには繋がっていないように思いました。 死者と生者という立場の違いを設けることで、若い人間に言いたいことがなかなか伝わらない年長者の苦悩という普遍的なテーマを扱ったものと思うのですが、主人公・ピートがコミュニケーションで悩んでいる様子を見せないために、この要素はほぼ死んでいます。しばしば比較される『ゴースト/ニューヨークの幻』ではコミュニケーションというテーマが掘り下げられていたことを考えると、本作はツメが甘いと感じました。 また、パイロット養成学校への入学時のドタバタや、レイチェルと良い感じになりそうなところでムードぶち壊しの話をしてしまう件などから本来のテッドは残念なイケメンであることが伺え、そんなテッドが逞しく成長していく過程にこそドラマが生まれたはずなのですが、この点もさほど掘り下げられていません。気が付けばテッドはパイロットとして一流になっているし、レイチェルに誘われた時にはダンスを断っていたテッドが、ドリンダと良い感じになった時には逆に誘う立場になっている。この辺りはピートによる指導の賜物という見せ方になっていればいいのですが、何か重要な場面を見落としたかと思うほどテッドが唐突に成長するために、特に感じるものがありませんでした。 ピート・ドリンダ・テッドの三角関係もうまく機能していません。レイチェルとの関係を進展させてやりたくてピートは口説き方や立ち居振る舞いをテッドに指導していたが、事もあろうにドリンダがピートの面影を持つようになったテッドに惹かれるようになった。ピートとしては現世に残した元カノが誰かのものになるなんて受け入れられないが、そうはいっても死者の自分がドリンダを幸せにすることもできないので、最終的にはドリンダとテッドの仲を祝福することにした。これが本来意図された図式だと思うのですが、まずピートがどの程度テッドに影響を与えたのかが不明確であるために、ドリンダがテッドに対して抱く思いに唐突感がありました。また、後進を育てたことが一時的にでも自分の悩みの種になるという因果な物語にもできておらず、こちらの要素も不発に終わっています。 スピルバーグのキャリアを振り返ると師弟関係をテーマにした作品はほとんどなく、天才として20代前半から活躍してきたスピには理解できない分野なのかなと思いました。同様に恋愛映画もほとんど作っていませんが、こちらも不得意分野なのでしょう。スピにとっての不得意が二つも重なってしまった本作は、非常に残念な出来に終わっています。
[インターネット(字幕)] 4点(2018-07-17 18:55:53)(良:1票)
338.  スピード(1994)
よくもまぁここまでネタを詰め込んだなぁと、その密度に圧倒された作品です。その割に見せ場を作るための強引さをさほど感じず、論理的に破綻していない辺りがこの映画の凄いところ。最初から最後まできっちり楽しませてくれます。ジャック、アニーをはじめとしたキャラクターの作り込みも良く、バスの乗客は一言もセリフがない人物に至るまで個性が感じられます。個人的なお気に入りはマクマホン隊長で、この人は最初から最後まで何もせず、ただ偉そうなことを言ってるだけの人なのですが、それでもこのキャラクターには隊長としての威厳や信頼感がきちんと宿っています。ここまでキャラクターが作り込まれているアクション映画って、実は貴重です。唯一、犯人のハワード・ペインについては犯行に至る動機や狂い方がちょっと弱いかなと感じたのですが、この役柄を怪優デニス・ホッパーに演じさせたことで脚本レベルの弱点がうまく補強されています。こちらもお見事。キャスティング面で言えば、ジャックをキアヌ・リーブスに演じさせたことも驚きです。キアヌ・リーブスと言えば「ハート・ブルー」でホモっぽい刑事を、「ドラキュラ」でドラキュラ伯爵に恋人を奪われる弁護士をやり、弱い主人公を演じるイメージのあった人物です。またスターとしてのネームバリューがあったわけでもないのに、突如従来のイメージとは正反対のジャック・トラヴェンを演じさせ、これがピタっとハマっていたのですから、このキャスティングは神がかっています。さらに、このキャスティングはアクション映画史をも変えてしまいました。それまでのアクションと言えば筋肉隆々のアクション俳優が大暴れするものが主流でした。むさ苦しい見た目や演技の拙さには目をつむり、彼らが暴れる様をひたすら鑑賞するのがアクション映画の作法。しかし線の細いイケメンのキアヌ・リーブスがアクション映画の看板を務め、これを大成功させたことで、アクション俳優に付き合う必要がなくなりました。以降、アクションはニコラス刑事やマット・デイモンら演技のできる人間が演じるようになり、アクション俳優は見事なまでに消え去りました。
[DVD(字幕)] 8点(2010-07-06 21:00:20)(良:1票)
339.  黙秘 《ネタバレ》 
これは秀逸なサスペンスドラマ。過去と現在の殺人事件が密接な関わり合いを持ち、それらの謎が薄皮を剥がすように明かされていくという観客の好奇心に訴える構成と、明かされた真相にはドラマ性が多分に含まれているというオチのつけ方、どちらも見事なものでした。 本作のキャラクターで私がもっとも興味を引かれたのはマッケイ警部でした。家族はなく、仕事にのみ生きがいを見出しており、10年以上前の未解決事件であっても決して忘れず執念の捜査を続ける刑事。彼は『ランボー』のティーズル保安官や『許されざる者』のリトル・ビル保安官と同種のキャラクターであり、容疑者視点の物語だから悪役となっているだけで、一般的には、むしろ正義の人として描写される人物です。ジョーの死を殺人と見た刑事としての勘は正しく、実娘に対する性的虐待という事件の重要なファクターを知らなかったのだから、彼があれくらい厳しくやってもおかしくはありません。 対するドロレス。彼女には男社会に対する根深い不信感があって(学資預金のトラブルを事前に挿入しておいた構成の妙)、マッチョの権化であるマッケイを自分と娘の協力者として取り込むことはできないと直感的に判断し、「旦那の件はただの事故死」と言って一歩も譲りません。法治国家の原則からすれば間違っているのはドロレスの方なのですが、彼女にあるのは「自分が捨石になってでも娘のための道を作る」という狂気に近い執念であり、それは善悪を超越したレベルにまで達しています。男社会と母性の対立こそが本作の山場ですが、それぞれを象徴するクリストファー・プラマーとキャシー・ベイツの熱演もあって、これが壮絶な見せ場となっています。 無自覚のうちにそんな争いの中心にいたセリーナは、親の心子知らずの極致をいく難役でしたが、JJリーの繊細な演技のおかげで、観客から憎まれないギリギリの範囲内に収まっています。都会でバリバリやってる若者が、教養のない田舎の親をバカにして、ロクに話も聞かない。ちょっと前の私も似たような状態にあったので、彼女の態度に対しては共感とイラ立ちの両方を覚えました。ウザい、ダサいと疎ましく思っていた母親が、実は自分を守るために人生をかけていたことに気付いた時の感動や、それを受けて、マッケイ刑事への反撃を開始する場面の爽快感など、深いドラマ性とある程度の娯楽性を両立させた演出バランスも優れていると感じました。
[DVD(吹替)] 8点(2015-09-08 16:07:20)(良:1票)
340.  ロック・スター 《ネタバレ》 
さほど話題になった映画でもなく、名高いスタッフが関わっているわけでもないので「多分つまんないんだろうな」と思っていたのですが、これがなかなか面白くて感心しました。やっぱり映画は見るまでわかりませんね。直球勝負のタイトルからも察しがつくように内容的には何のひねりもなく、スターを目指す音楽青年が成功をつかむものの、浮世離れしたスターの生活で大事なものを失い元の音楽好きに戻るという、似たような話ならいくらでもありそうなストレートなものです。最初から最後まで本当に思った通りに話が進んでいくのですが、手を抜いて作られているわけではないのでこの予定調和が快感にすらなります。ボンクラ青年が憧れのスターから直々に呼び出しを受け、最初のステージに立つまでの展開などは、ベタながら最高に盛り上がります。オーディションではガチガチに緊張してミスを連発、「もうダメか」と思わせながら、いざ歌唱力を披露すると聞いている全員の顔色が変わるという定番中の定番のようなシーンも、本作は見事なまでにバチっと決めてきます。こういう王道の話を作らせると、ハリウッドは本当に良い仕事をするものです。。。役者については、マーク・ウォルバーグのロン毛はやはり厳しいものがありましたが、さすがは元ミュージシャンだけあって音楽への過剰な愛に生きる姿には妙な説得力があったし、ステージ上のパフォーマンスも板についたものでした(てっきり本人が歌ってると思っていたので、このサイトで口パクであることを知った時には軽くショックでした)。ジェニファー・アニストンについても、撮影当時すでに30代のアニストンが音楽青年の彼女という役柄ですから最初はかなり厳しい印象だったのですが、見ているうちに違和感は消えていき、中盤以降はかなり良かったと思います。彼女はテレビ出身なので映画に出演するとどうしても華が足りないように感じるのですが、本作ではショービズの世界に相対する普通の世界の恋人という役柄だったので、華の足りない彼女にはうってつけでした(誉めてます)。テンポを大事にするためか、クリスと家族の関係や、他のロックメンバーとの絡みは相当削られているように思いましたが、そんな中で最初はイヤな業界人として登場しつつ、ラストにかけてクリスの心境に影響を与えるマネージャーのマッツは良い味を出しており、構成要素の取捨選択も的確です。
[DVD(字幕)] 8点(2009-10-12 20:46:06)(良:1票)

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