1. SPACE BATTLESHIP ヤマト
《ネタバレ》 皆様,おっしゃる様につっこみどころ満載でありますが、つっこみどころも含めて,これだけ実写で原作のエッセンスを再現していることに敬意を表します。かつてのアニメがそうだったように、この映画は、映画としての完成度を求めるよりもイベントだと思います。 実写でそのまま再現すれば、恥ずかしい衣装で愛や使命を語り,爆笑の渦になりそうな所を大真面目な演出で通した監督と役者の技量は素晴らしいです。そうです、ヤマトの本質は恥ずかしいことを大真面目に語っているから感動するのです。このツボを監督はよく心得ています。実写にすればさらに笑える所をホンの紙一重の所で真面目に通しています。特撮と美術の仕事は、絵の説得力でこの恥ずかしさを大いに支えています。ハリウッドに追いつけ追い越せという次元ではなく、いい時代になったと心から思います。 戦闘シーンの高揚感に比べて,合間のドラマシーンになると突然凡庸な雰囲気になってテンポが崩れ、1本の映画としてはかなり雑な印象ですが、もともとのテレビシリーズが1回ずつ山場を設けているので、どうしても名場面集的な構成になると思います。 30分のシリーズを5話見たと思えば腹も立たないです。(実際,山場ごとにサブタイトルのテロップでも入ればさらにファンの心をくすぐったかもしれません「ガミラスの奇襲!!、第三艦橋の悲劇!!」とか) 映画としてのスケール感で言えば,音楽にアニメのテーマを使ったことは大正解です。原作の作曲家が子供をバカにせず、いかに明快に耳に残るようなメロディを作っていたか,それが実写でも違和感なくハマっていることに敬意を表します。 海外ではこの映画のツボは理解されないかも知れませんが、これが日本人の根底にあるトラウマ的発想だと受け止められればいいかと思います。 唯一残念だったのは、デスラーが実体のあいまいな存在であったこと。自分は公開前のキャスティングにデスラーの名前が無いことが不思議でしたが、サプライズでデスラーは唐沢寿明ではないかと思っておりました。 しかし、人間対人間という構図で戦争の愚かさを出すよりは、地球を守るという所に焦点を絞ったのはアリかと思います。敵が人間ではないので感情移入できませんから。そしてアナライザーの活躍がGOOD!!。 ほら,突っ込みどころ満載の映画です。そこを含めて楽しめる映画はイベントとしていいものです。 [映画館(邦画)] 8点(2010-12-07 01:07:13)(良:5票) |
2. パシフィック・リム
《ネタバレ》 期待通りのロボットアニメ&怪獣映画のエッセンス全開の映画でありました。 グロイ戦いぶりや操縦系統はモロに「エヴァ」で、いろんなロボットアニメから頂いたような武器や必殺兵器も楽しいです。 平成版「ガメラ」をパクったようなシーンもいいです。 ロボットアニメの要素が強いので、ハリー・ハウゼンと本多猪四郎という怪獣の名匠だけに捧ぐというのは語弊があるような気もします。 迫力は充分ではあるがとにかく絵が暗い!! 意図的に怪獣の全貌をわかりにくくしているのかもしれないが、怪獣の姿がわかりにくい!! そして日本の幾多の怪獣たちと違って、怪獣がグロイばかりでかっこよくない。 ゴジラを代表する日本の怪獣たちはかっこよく、そして美しい。怪獣の描写がハリウッド定番の異形の生物であったことは残念だ。 内蔵まるだしのような要素は「怪獣」ではない。中身がわからない、わからなくてもいいのが「怪獣」なのだ。これが日本人とアメリカ人の決定的な違いだと思う。 ロボットが戦う舞台として夜の市街戦というのは、アニメではOKなのだが、実写では実は難しい。 人口の建造物の中にロボットが立つと、ロボット自体が背景に埋もれてしまうのである。これはかつての日本の実写ロボット映画「ガンヘッド」が実証している。 ジャングルや砂漠といった大自然の方がロボットは映え、大都会の中の方が怪獣は映えるのである。 スタッフはこのバランスに苦慮したかもしれないが、全体的に絵がごちゃごちゃしすぎて、わかりにくくしている原因になっているように思う。 菊地凛子がアクションもこなし、あの衣装で堂々とヒロインを演じていることは日本人として誇りを感じます。 ハリウッドや香港では、こういう女優ってあたりまえにいますが、日本では本当に貴重です。 日本人としては、つっこみたくなる要素は多々ありますが、ロボットアニメと怪獣映画をマジで合体させてくれたスタッフには敬意を表します。 この夏1番のB級アクションとしてオススメです。 [映画館(字幕)] 6点(2013-08-12 01:53:00)(良:5票) |
3. シン・ゴジラ
《ネタバレ》 1984年「ゴジラ」公開当時にこういう「絵」が見たかった、どうしたらもっと本物に見えるのだろうか、と寝ても覚めても考えていた当時中学生の自分にとっては、庵野・樋口両監督が長い年月をかけて経験を積み、その願いを実践してくれたことにまずは感謝したい。 「シン」の意味は様々あろうが、これが真のゴジラかと言えば、良くも悪くも多くのゴジラの一つのバリエーションであろうと思う。 初代を超えるかどうかという問題は、初代が厳然と存在している以上そのインパクトは誰が作っても超えようがない。 しかし間違いなく3.11を逃げないで踏まえた現代の「ゴジラ」であろうと思う。 自分は最近の表現の過剰な自粛を悲しく思いますし、その中でこういうフィクション性が高いジャンルの映画を傘にして、多くの人が語りにくいことを表現していることがこの作品の最大の収穫だと思います。 非常事態に際して、誰が悪いのか、誰が責任を取るのかという短絡的な指摘ではなく、この国の構造的な問題を客観的に極めてわかりやすく指摘していると思います。(情報が多すぎてわかりにくいという点が逆に役所の本質をわかりやすく表現している) 例えば危機に際して首相が「都民を置いて避難はできない」と啖呵を切るが、その直後の側近の提言でいとも簡単に「わかった」と納得するシーンも実に含みを感じる。こういうやりとりがあったというアリバイがあって避難できるという政治家の腹も読めるのだ。これも避難するための役所の手順にすぎないと自分は感じた。(だからほとんどの政治家に感情移入できないような見せ方になっている) 自衛隊の攻撃はまさに膨大な「手順」の連続である。射撃の意思決定までの手順をこれほど正確に描いた邦画は初であろう。 重大な行動のためには膨大なハードルが用意されているという役所の本質がわかりやすく、非常に勉強になった。 若い人たちには風刺という概念すらないかもしれませんが、こういう切り口で風刺のきいた社会派映画を作る余地はあるのだと感心しました。 ヒロインのカヨコの役作りも自分はOKと思います。上手い下手という以前に、仕事で男性と対等に渡り合える女性はもっと邦画で描かれるべきだと思います。 ゴジラ映画としては多くの方と同じように細かいツッコミはいくらでもしたくなりますが、今回は明らかに怪獣映画という範疇には収まらない内容で、映画のセリフと同じように「日本のクリエーターはまだまだやれる」ことを少し誇りに思います。 [映画館(邦画)] 9点(2016-08-02 02:15:10)(良:4票) |
4. 新聞記者
《ネタバレ》 昭和の時代って、実際の政治事件を扱った社会派ものから、荒唐無稽なスパイものやら、パニックものまで政治を扱った映画で面白い作品がたくさんあった。 また、昭和の時代はどんな権力者でも批判されてあたりまえであって、多くの映画の題材にもなり、いかにも悪い権力者、理想的な権力者も描かれた。 また、そういう作品を観て政治の世界、権力者のあり方というものを知ったものだ。 過去の映画でも、新聞記者が特ダネを握りつぶされるという描写はよくあるのだが、最近ではそういう描写すら自粛されているのではないかという危惧がある。 最近では犯罪サスペンス映画で本筋とあまり関係ない政治批判的な描写を入れたり、 全く架空の怪獣映画で官邸を風刺してみたり、 領土問題で全く架空の政権を登場させるといった方法でしか、政治を扱う映画が作れないのだろうかと思っていたら、 まさに直球ストレートな作品が登場したことに賛辞を送りたい。 かなりリアリティを感じる新聞社のオフィスに対して、内調の職場風景はやりすぎなぐらい架空なのだが(まるで秘密基地である)、 扱っている内容は現在進行形で起こっているであろうことである。 そしてあの問題の核心が出た時に、この映画の中の政権がいかに危険な考えを持っているか納得した。 (フィクションの中の政権と一応断っておきます) メディアの報道のされ方、それに対するネットでの反応などで、ここ数年疑問に思ってきたことが、かなりの部分納得させられるものがあった。 最近、自分は政治について発言するのも怖いという感覚があるのだが、極端な話、メディアが統制されていけば隣の北の国のような大本営発表的な報道しかされないようになる。(あくまで極端な仮定です) それは民主主義国家ではないことは、隣の国を見れば明白である。 そんな妄想にまで至りましたが、この「フィクション映画」を観て、多くの人が考えてほしい。 [映画館(邦画)] 9点(2019-07-03 02:52:52)(良:4票) |
5. ゴジラ キング・オブ・モンスターズ
《ネタバレ》 出だしからエンドロールまで、前作以上に日本のゴジラへのオマージュたっぷりで楽しめました。 ゴジラという名前だけをパクられた90年代のハリウッドゴジラとは隔世の感があります。 日本のゴジラファンなら、昭和から平成の世代に渡って「あ、このネタは・・・」と思い当たるところが多々あると思います。 ハリウッド映画でこの音楽が聞けようとは、スタッフの怪獣映画愛が尋常ではないです。 正直、何が起こっているのかわからないほど、アクションシーンが激しすぎる感もありますが、 ここまで「特撮映画」に敬意を払って頂いているので、甘々の点数です。 [映画館(字幕)] 8点(2019-06-04 00:37:51)(良:3票) |
6. ロボコップ(1987)
公開当時、バイオレンス描写や風刺的な演出などが印象に残っているし、今でも面白い作品だと思うが、この映画、何がロボコップをロボコップらしくしているかといえば、ロボコップを演じている役者の独特の演伎だと思う。 鳥の動きを参考にしたという演伎は本当に素晴らしい。これに機械的な効果音を加えればロボットらしく見える。動きが鈍重でも目線を合わせずに撃った玉が命中するような芝居がさらに機械らしさを醸し出している。 CGを使うより生身の人間が、努力して機械らしさを演じるほうがより「らしさ」を感じさせることが出来ることは、今の映画人は大いに学んだ方がいい。 低予算でもこういう演出は可能だということを見て、日本でも出来るはずだと悔しい思いをしたものです。昔ニュースで原宿かどこかで、マネキンを演じている役者の動きを見て、着ぐるみのロボットでも「らしく」見せることが出来るはずだと思っていたのがまさにこの映画でやられてしまいました。 最近でもCGの巨大ロボットが活躍する映画があって、それはそれで面白いのですが、この生身の人間の力が醸し出す「らしさ」というのは今こそ見直されてもいいと思います。CGに欠けているのは、この重量感、質感、「匂い」のようなものだと思います。 [DVD(字幕)] 7点(2014-03-03 00:40:50)(良:3票) |
7. 未知への飛行
《ネタバレ》 4カ所の密室劇で世界の運命を語る傑作。 映画とはなんでもかんでも見せることではない。観客に想像させることが優れた演出であるのだというお手本のような作品です。 20年ぶりにDVDで鑑賞して、なおこの恐怖はミサイルに限らず,原発でもありうることだと思えます。 若い映像に携わる人たちは、エフェクト満載の編集ソフトや、CGに頼らず,いかに観客に「想像させるか」、いかに「役者の演技で伝えるか」ということを、過去の低予算の傑作から学んで欲しいものです。 虚飾を取り払った表現に、映画の本質があるのだということを、この映画は改めて教えてくれました。 [DVD(字幕)] 10点(2010-07-12 00:52:06)(良:3票) |
8. 009 RE:CYBORG
《ネタバレ》 戦闘機のドッグファイトのシーンで、ふと気づいたのが、CGで描いた戦闘機の動きがリミテッドアニメのようにややカクカクしていること。CGなのにセルアニメの動きの「味」を出そうとしている。 最近の別の名作アニメのリメイク作品では戦艦の動きがいかにもCG特有のスルーっとした動きなのが違和感があった。 CGと従来のセルアニメの違和感を払しょくするために、CGのコマを落とすということは理屈としては難しいことではないと思っていたのだが、何故誰もやらないのかと思っていたら、見事にこの作品が試みていたことが実に嬉しかった。 キャラクターも全てCGで描かれているらしいが、この動きの考え方ひとつとっても、CGの使い方の可能性を感じた。 肝心の内容だが、あまり過去の作品に思い入れがないので、この作品単体で考えれば楽しめました。 しかし、神や天使と、テロや武器商人を結びつける構図は、監督が頭の中で構築した理論が空回りしている感じがして説得力に欠ける。 セリフ以上に、この理屈を絵が物語っていない感じがするのが残念だ。これは絵が緻密であるといった技術論と別の問題である。 やはり娯楽アニメとしてシリアスであっても爽快感やユーモアは欲しかった。 そう、今の映画って視覚的な刺激は強いが、特にユーモアの感覚がものすごく欠けていると思う。(単純にギャグっぽいセリフを言うという意味ではありません) 全ては表現のための技術であるが、この技術の志は高く評価したいです。 [インターネット(字幕)] 6点(2014-07-12 22:47:50)(良:2票) |
9. フラガール
《ネタバレ》 素直に泣けて、心温まる王道的作品。素直に泣けるが、泣かそうとする監督のテクニックが鼻につかない所が実にいい。 老若男女あれこれ考えずに、いい気分になって映画館を出るという、庶民の娯楽を貫いた作品だ。 山田洋次監督に匹敵するかもしれない才能を感じます。 陰惨な事件が起こるたびに思うのである。道を踏み外す前に、気まぐれでこういう映画を観ていたら、明日もなんとかなるかもしれないと思えたのではないかと。 自分のために泣いている人たちよ、他人のために泣き、笑うこの映画の人物たちの生きる姿を観てほしい。 [DVD(字幕)] 10点(2012-12-03 19:45:45)(良:2票) |
10. ターミネーター4
《ネタバレ》 タイムパラドックスも、細かい疑問も抜きにして面白かった。というか、観た後、いろいろ考えて疑問が出てくるぐらいでアクション映画はいいかと思う。 もはやジョンとカイルが生き残ることが物語りの芯であることが分かっているので、あとは考えないようにというか、考えるヒマもないほど盛りだくさんなアクション満載でした。 「ターミネーター」とはいいながら、この作品から別のジャンルの映画になってしまったという感じはあります。 今までの作品の核は、「ある日、殺人機械が追いかけてきて、他の誰にも理解されない恐怖」というコンセプトがはっきりあって、「ターミネーター」シリーズは実はアクションというより、日常に潜むサスペンスとホラーの要素が強かったと思います。今作からは、ついに堂々たる戦争映画になってしまいました。 とはいえ、戦争映画的な迫力は満載で、冒頭のヘリが浮上して撃墜されるまでの1カット長まわしの、特撮じゃなかったらカメラマン死んでるだろうという、カメラワークはびっくりでした。 次から次へと出てくるターミネーターのオンパレードはすごいです。 あのトランスフォーマーみたいな奴まで出てくると、T-800を作る必然性や、機械軍の兵器は何故、装甲が弱そうなフレームむき出しのロボットが多いのか疑問が出てきますが、第一作のシュワルツネッガーの外皮からロボットが出てくる意外性ゆえの産物を踏襲せざるを得ない苦しさは感じます。 後に作られるであろう、T-1000や女性型T-Xや、今回の人間機械半々のアンドロイドのどれが優秀で先に作られているのか、わからなくなってきてますが、次なるターミネーターのアイデアが楽しみではあります。 今思えば、T-1000は最強過ぎて、どんな新兵器もかなわないと思うので、製作者はそれこそ歴史を変えたいかも知れませんね。 「3」があったゆえの「4」ですが。強引にしても「3」のようなバッドエンドではなくてよかったと思います。 後々考えると、「3」で出会ったジョンの彼女が、妻になってたということにやっと気がつきました。(「3」についての会話がなかったからでしょう) 今回で、「ターミネーター」シリーズは容易に続編を作り続けられる世界と設定を得てしまいました。 マンネリでもよし!「007」のように「TERMINATER WILL RETERN」とエンドロールについてもいいかと思います。 [映画館(字幕)] 8点(2009-06-16 00:51:18)(良:2票) |
11. 巨人と玩具
《ネタバレ》 極度にディフォルメされているとはいえ、高度成長期の日本の空気をすごく表現している作品です。 日本の高度成長期とはプロジェクトXのような美談だけではないのです。 学生の頃、この作品をビデオで見て、資本原理というものを初めて理解しました。 今、改めて見ても、ものすごい情報量に圧倒させられます。 年齢を経て、登場人物の生活背景が想像できるからだと思います。 利益優先のシステムが肥大化して、誰も考える余裕が無い。まさにシステムという「巨人」の中に人間という「玩具」が弄ばれている様が描かれます。 システムが軌道に乗ると、部品である人間は大局的にものを考えなくなる。 この結果がたまに現れる企業の失態であろうし、その最悪の結果が原発事故なのだと思います。 お菓子会社の三つ巴の戦略、ライバル会社の社員同士の恋愛、友情の破綻、5人兄弟の貧乏暮らしの家庭でスターになれば人間どれほど豹変するか、家庭を無視して体を壊してまで出世する人間の悲哀、諦観したカメラマンの存在、脇役の女性テレビディレクターの言葉など、今見ると、あらゆるシーンが風刺的で衝撃的です。 今見ると、なにげない脇の言葉が印象的です。「テレビなんて誰もお金を返せなんて言わないからこの仕事が好きなのよ」 お菓子会社の宣伝部長のセリフも本質的です。「大衆は何も考えない。考えるヒマが無い。そこに繰り返しキャラメルはおいしいと訴えるんです」 お金のある政党の選挙活動そのものです。こういう本質的なセリフが矢継ぎ早に出て圧倒されます。 映画のテクニックとしては、終盤近くのダンスシーンが素晴らしいと思います。 これだけテンポが早くても、突然ストーリーを進めるのに支障がないシーンを延々とじっくり見せて、観客に考えさせる時間を与えているからです。 凡庸な演出ならこんなシーンは野添ひとみが踊っている1カットだけで説明がつきます。こういう演出が天才の仕事であると思います。しかしこの映画はいわゆる告発ものではありません。 今は風刺映画というジャンルがありません。そういう才能はドキュメンタリーに行ってしまっています。 若い人に是非観てもらって、考えて欲しいです。 [DVD(邦画)] 9点(2013-03-14 01:07:11)(良:2票) |
12. おとうと(2009)
《ネタバレ》 山田洋次監督の前作は後味が悪かったが、「おとうと」は涙をこらえるのに必死であった。一人で家で見ているなら号泣したかった。 本来,映画を見るということはそういうことであったはずなのだ。 ああいう親戚は自分にも確かにいる。 自分は子供の頃によく遊んでもらったので特に嫌悪感を持っていなかったが,何故か親や他の親戚から冷たくあしらわれており、おしゃべりで人を喜ばすのが好きな性格の人なのだが、いまひとつ世間の常識がわからないと思われているようである。そういう自分の経験と重なる部分がこの映画にはありました。 どんな人間にも必ず存在意義があり、居場所があるというのが山田洋次監督の思想のようで、それは共感できるのだが、この作品では何故か医者が悪い意味でのエリートの代名詞のように冷酷な人間に描かれているのは違和感を持ってしまいます。 弱い立場の人間を描く上でそうした描写になったのは、想像できるが、「話す時間もない」「話すことがない」ぐらい追い立てられている人間の悲哀や孤独、それを理解しようとして理解できない妻の姿も描かれていてもよかったのではないかと思う。 あの娘の結婚は単に相性が悪かっただけなのだ。 しかし弟の死に際はどんなにベタだと誰が言おうと自分にとっては衝撃的に胸に迫った。 不謹慎であるが、山田洋次監督がそういうお年頃であるから描けたシーンであったと思う。 姉のいる前で弟にとって赤の他人が「もう楽にしていいのよ」と告げることが、どんなに重みのある献身的な言葉であるか。ダメな人間とは資本主義社会の一面の見方でしかなくて、その人間の存在意義と尊厳を描いていたと思う。現に弟は「世間が俺を認めてくれない」とバカな凶行に走る事もなく,人を恨む事もなく,うまくいかなかっただけである。そんなお人好しで自ら人生を断ってしまった人も自分は知っている。 そんな思い出や共感をダシにした映画だという批判も自分には関係ありません。 自分の経験に重ねて人生考えさせられたことに感謝したいですし、それが映画の醍醐味だと思います。 映画館を出た後も延々とこの臨終のシーンの重さが響いて,思い出すたびに,ただ道を歩いていても涙が出そうになった。自分だったら,このように潔く人生を終われるだろうか、自分の親類だったらこのように送り出せるだろうかと。山田洋次監督,もうしばらくがんばってほしいです。 [映画館(邦画)] 10点(2010-02-22 00:02:10)(良:2票) |
13. ガンヘッド
いろんなハリウッド映画をパクったような作風は原田監督のセンスとして許そう。 単純なストーリーなのに、全然、時間の経過や人物の動きが分からないのもすごいことだが。けっこう、かっこいい雰囲気出てたし。当時の邦画では、珍しい感じでした。 しかし、「ガンダム」のサンライズと特撮の東宝が手を組んだ技術の結晶が、戦車のぶつかり合いだったとは、当時悲しかったです。 子供の頃、ラジコンカーで友達とぶっつけ合いやってたのを思い出しちゃいましたよ。 この映画に何を求めるかっていったら、歩くロボットに決まってるじゃないすか。 アニメのロボットをリアルにしていったら、戦車になっちゃったなんて、企画の原点を完全に忘れてます。 しかし、どういうわけか音楽は異様にかっこよかったんで、サントラ買いましたよ。 「マルサの女」の本多俊之、センスいい!! ブルックリン高嶋のアタック精神と音楽に5点。 5点(2004-10-23 11:14:32)(良:2票) |
14. キネマの天地
ネット上のいろんな人の評価を読んでも、評価がいまひとつなのは実に不思議だ。 素直に感動している自分はやはり頭が悪いのだろうかという変な疑いを持ってしまった。 20年以上ぶりに観たら、脇役のエピソードなど実に細かいところまで覚えていたままであった。 オールスター映画であるので、実にうまく脇に至る配役がなされていたとしか言いようがない。 僅かな出番の役者のエピソードや表情までも実に印象に残っている。 この映画は公開当時、年2回の「男はつらいよ」を休んで製作された経緯があるが、当時、毎回「男はつらいよ」を楽しみにしている観客に向けたような、渥美清、倍賞千恵子の人物配置とやりとりが絶妙に感じる。 前田吟、吉岡秀隆の配置も「男はつらいよ」そのまんまであるし、前田吟の渥美清に対する僅かな台詞のニュアンスも「男はつらいよ」そのもので笑ってしまう。 「男はつらいよ」は休みだけど、この映画にも「とらや」の面々はいるから楽しんでねというサービス精神。 当時のリアルタイムな観客にサービスしようという精神ってすごく大事に思う。 この人物配置を違和感なく別の映画にはめ込むテクニックというのは、プロにしか出来ない技だ。 こういうさりげない遊び心って今の映画にすごく欠けている気がするのである。 多くの評価を読むと「散漫である」という感想が多いが、自分はそうは思わない。 そもそもこれは映画を愛する人達の「群像劇」であり、映画を愛する人達を軸にした「青春映画」である。 断片的なエピソードの積み重ねの中で、愛すべき各々の人物の描かれない裏側や行く末を想像するのが群像劇の楽しみ方だと思うのである。 幹となる田中小春のストーリーも必要十分に思える。田中小春だけを執拗に描いていたら生々しく、刺々しい映画になったように思う。 20年以上前、大人の映画に興味を持ち始めた頃、映画の成り立ちや、時代背景、観客がどう映画を受け止めていたか、これを観てすごく勉強になったことを感謝している。 つまりは自分は映画が好きだから映画への愛を描いた映画には甘くなることは白状します。 [インターネット(字幕)] 8点(2013-01-25 01:30:48)(良:2票) |
15. 八甲田山
最近、雪が降った日にふと思い出してDVDを借りてみた。小学生の頃、TVで観たときは、雪の中を行軍するのが、どちらの部隊かわからず、ただ中盤以降の阿鼻叫喚がインパクトに残っていました。(寒さで発狂して裸になるシーンはトラウマです)今は組織論としても理解出来、史実を調べてみると興味深く見る事が出来ます。三国連太郎の山田少佐が無能な上司の見本のように見えるのは映画的な脚色であったのでしょう。北大路欣也の心中がクローズアップされてるので騙されてしまいますが、山田少佐の判断は、それぞれの状況では兵たちの士気を重視しており、間違いとは言いきれないです。多くは準備不足に起因する遭難だったのでしょう。高倉健の徳島隊長にしても、史実では案内人に対して、かなり非情な扱いであったらしいです。公開時は案内人に「八甲田で見たことは一切喋ってはならぬ!!」と脅しともとれるシーンさえカットされてますから、役者のイメージと2つの部隊の対比をドラマ的に鮮明にするためだったのでしょう。映像的には雪崩のシーンは本物の雪崩を起こしたというからびっくりです。すごい絵です。夏に公開され、夏に納涼のために見る映画の代名詞的存在ですが、むしろ寒い日に見ることをオススメです。この過酷さを見ていると部屋の中の寒さなんて逆に忘れてしまいます。 [DVD(字幕)] 8点(2008-02-13 00:17:50)(良:1票) |
16. 黒部の太陽
《ネタバレ》 かつて映画は映画館だけで観るために作られていた。 ビデオやDVDで既に知っている映画をリバイバルで観るとそれを実感できる。 自分の場合は例えば、「アラビアのロレンス」であったり、「七人の侍」であったり、「地獄の黙示録」といった作品だ。 これらをスクリーンで観たとき、自分はその映画の魅力の10分の一ぐらいしか体感していなかったことがよくわかった。 「黒部の太陽」はこれまでDVD等で目にすることはできなかったわけだが、この度、東劇のスクリーンで観られたことは幸運に思う。 ただ自分は、以前、実際に黒四ダムに足を運び、本作が観られない故に、原作や熊井啓監督の著書、脚本を読み、最近のテレビドラマも観たりと事前の情報を仕入れすぎていたので、すべてにおいて先が読めてしまったのが残念だ。 電気事業者のPR的映画でもあるので、今の社会状況を考えると複雑な気持ちでもあった。 個人的には衝撃や感動は薄れてしまったが、やはりこの映画、スクリーンを前提とした確固とした撮り方をしている。 会話に合わせてカメラが絶妙なタイミングで移動したり、テレビドラマ的な考えでは当然カットバックで見せるような会話のシーンで、三船や裕次郎のアップだけを執拗に長まわしで見せる撮り方は無駄がなく緊張感があり、風格を感じる。綿密な計算とリハーサルに基づいた「映画」の撮り方だ。 音の使い方も印象的だ。 雄大な風景もまさに「絵」がドラマを語っている。人夫が断崖絶壁を歩くシーンは怖すぎるし、大出水シーンでは役者は演技どころではない迫力だ。 東劇の観客は、当時を知っているであろう御高齢の方がほとんどであった。上映の宣伝が懐古的で、うまい宣伝ではないと思う。 年寄りの自慢話であっても今の若者が観る価値はあると思うのにもったいないことである。 かつて黒澤明監督が、日本映画に客が入らないなら昔のいい映画を流せばいいじゃないかという発言をしたことがある。 映画会社もそれで儲かるはずだと。 そうなのだ。名画座や懐古的な特集上映ばかりでなく、スクリーンで観る価値のある映画を、新鮮味のある切り口で宣伝して、定期的にリバイバルしてくれれば映画館はもっと楽しくなると思う。 今の若者にとっても新鮮であるに違いない。 裕次郎の遺志は、多くの映画人の遺志でもあると今回の上映を観て考えてしまいました。 [映画館(邦画)] 8点(2013-01-31 22:10:46)(良:1票) |
17. カメラを止めるな!
《ネタバレ》 すごく話題になっているようなので観たが、この映画の多くの評価で決定的に欠けているものがある。 劇中のカメラマン役ではなく、エンディングで登場している実際に撮影しているカメラマンの超絶的なカメラワークである。 このカメラワーク抜きではこの映画はここまで評価を得られなかったであろう。 いわゆるかつてのフィルム映画とは違ったビデオ機材で撮影されていると思われるのだが、 「蘇る金狼」で松田優作のアクションシーンを1カット長回しで撮った伝説カメラマン、仙元誠三を思わせるものがある。 このカメラワークのインパクトが無ければ、後半のドラマは凡庸になっていたに違いない。 アイデアより、役者より、カメラそのものを操るプロの技術に賛辞を送りたい。 [インターネット(邦画)] 7点(2019-03-17 23:46:53)(良:1票) |
18. 遺体 明日への十日間
冷徹なる事実を前に「映画」としての評価は出来ない。 この映画の登場人物たち、いや、あの日あの場所で働いていた人たちの思いと同じように、この映画のスタッフ、役者たちは、映画の職人として役者として、「自分にできることは何なのか」と自問しながらこの映画を作ったであろうと思います。 娯楽的なサービスを提供している職業人は、こういう時に全く無力な存在であると、自分もこの震災で思い知らされました。 この、もどかしい思いが、この映画になったのだと思います。 なぜか感情移入して泣ける映画ではないというのは、「泣かせる」映画ではないからだと思います。 この映画を見て自分に出来ることは、ただ、手を合わせることだけです。 [インターネット(字幕)] 8点(2013-08-07 00:36:09)(良:1票) |
19. ターミネーター:新起動/ジェニシス
《ネタバレ》 さすがに5作目ともなると、かつての感動は期待していなかったが、歴史が上書きされたり、登場人物の人生があまりに狂ってしまうと、安易に変えてはいけないものを「解釈の変更」でOKにしてしまうような軽薄さを感じてしまう。 1本のアクション映画としては、あの手この手で楽しませてくれますし、そういえば1や2でこんなシーンがあったなあという懐かしさも楽しめますが、ゲームを1ステージずつクリアしていくような面白さであって、ドラマ的には浅い気がします。 これを見て、逆に1,2で語られていた真のテーマが浮かび上がったような気がします。 過去や未来がどうというのは方便で「人生は一回しかない、だから自分の力で未来を切り開く」というテーマが根底にあったからこそ、1や2は感動的だったのでしょう。 深いことは考えずに帰ってきたシュワちゃんや、今回のT-1000もなかなかクールでかっこよかったので、ターミネーター同窓会と思えばよいかと思います。 [映画館(字幕)] 6点(2015-07-14 01:13:48)(良:1票) |
20. 遊星からの物体X ファーストコンタクト
《ネタバレ》 この映画単体で見れば、モンスター映画としてかなり面白かった。あの映画をそのままリメイクしてもあの演出には絶対に勝てないし、後日談では収集がつかなかったであろう。前作に勝てないからこそ、前作に敬意を払って似たようなシチュエーションで映像的には スケールアップした前日譚にしたのは、最も賢い選択だったと思う。自分のようなおじさん世代としては結果は分かりきっているのだが、若い人にはかなり楽しめるのではないかと思う。 そもそもカーペンターの演出では、「物体」が現れる前から登場人物は特に仲が良いわけでもなく、確執もあるような雰囲気が後々疑心暗鬼として効いてくる所が優れているのだが、この映画は怪物が現われる前にホラー映画定番のパーティやっちゃったりして、普通にホラー映画です。 音楽も前作のシンプルなモリコーネの曲が絶妙に恐いのだが、まあ、音楽も普通のホラー映画です。 あの円盤の中は見せないからこそ想像力をかきたてて恐いと思うのですが、そこまで見せちゃう所は普通のハリウッド映画です。 前作よりも警戒心なくホイホイ物体に変化しちゃうのは、「物体」が前作ほど人間を学習していないからだと好意的に見ましょう。 前作に愛情があるからこそ限りなくつっこみたくなるのですが、おじさん世代は進化した特撮を楽しみ、似たようなシチュエーションを懐かしむのが良いのではないかと思います。そもそもカーペンターのような映画はカーペンターにしか作れませんから。 前作を知らなければ、かなり面白いと思います。 なにより作っているスタッフが前作を愛しているのが如実に感じられました。 [映画館(字幕)] 7点(2012-08-19 00:30:33)(良:1票) |