1. Avalon アヴァロン
マトリックスをDVDで観る前に、これを映画館で観たせいか、映像面での衝撃度はこちらの方が上でした。一般には、逆の評価なんですね。分析すると、映画内世界は(1)映画内現実、(2)ゲーム「アヴァロン」のフィールド、(3)class-realの3層から成っています。ストーリーを簡単にいえば、「世界1から世界2を通して世界3に至る」というもの。映画の描写では、世界1も非現実であることがほのめかされていますが、世界3も、存在するためには大量のデータを必要とするシミュレーション領域とされています(世界3=マトリックス?)。確かに、class-realは仮想世界であることが判明するのですが、世界3がそれまでの世界1及び世界2とは異なり、あまりに鮮やかに描写されているため、世界3=現実界(real-field)のように思えます。ここからは、現実界もプログラムされたものに過ぎないかもしれない、というイメージが得られます(ビューティフルドリーマー?)。それを作者が意図したかどうかは分かりませんが。で、結局のところ、ラストなんかはよく分からなかったのですが、メタフィクションっぽい物語構造と、迫力ある戦闘シーンに圧倒されました。しかし、実は、この映画で一番スゴイのは、川井憲次の音楽ですよね。未だに、アヴァロンで使われた楽曲をTVで聴かない日は無いんじゃないかっていうくらい、広く使われてます。 8点(2003-06-18 22:19:42)(良:3票) |
2. ザ・セル
《ネタバレ》 犯人への最初のダイブは、そこそこ面白い。あの調子で行っていればまだしも、だんだん創造性が貧困になっていくのは痛いなあ。映像技術的にはがんばっているのはわかるが、せっかくなのでもっと奇想を盛り込んで欲しかった(監督がリンチやクローネンバーグだったら……)。そもそも、精神世界というのはあんなにはっきりとしたものではなくて、物と物の境界があいまいで、もっと不定形なものなのではないかな。特に不満があるのは、クライマックスの舞台である、主人公キャサリンのインナースペースの描写。あれは平板すぎやしないか。精神病者の方が豊かな精神世界を持っているということなのかもしれないけど。とまあ文句ばかり並べてみたが、退屈することなく最後まで観ることができたので、及第点はつけられる。 6点(2004-08-02 14:15:39)(良:2票) |
3. BLOOD THE LAST VAMPIRE
小説に例えれば、文体が革新的だが話の内容が陳腐な作品といったところ。しかし、文体が革新的であり、かつ、それが読み手の感受性を刺激するというのは、文学においてはかなりウエイトの高い評価対象である。本作品も、映像分野でこれと似たような位置付けをすべき作品であると思う。それでも話の内容について少し考えてしまう。小夜がオリジナルのヴァンパイアだとすれば、「鬼」はヴァンパイアと人との間に産まれた鬼子なのだろうかなどと。ともあれ、アニメに抵抗のない人なら一見の価値あり。 7点(2004-07-30 12:32:57)(良:2票) |
4. スリーピー・ホロウ
たぶんこれって、コメディとして観るのが正しいんでしょうねえ。主人公の科学的捜査の主張や「本当の悪人は善人の皮を被っている」などの言葉があれよあれよとひっくり返っていく。主人公のお間抜けぶりを観て笑おう。回転する生首なんかも、一種のギャグたり得ている。ただ、それにしてはhorse manとの格闘はカッコよ過ぎ。映画館で観るべきだったなあ、これ。万人受けはしないだろう(他人に薦めにくい)ということで点数は辛目。どうでもいいけど、イカボットの子ども時代は中川家弟に似てませんか? 6点(2003-03-24 12:38:09)(笑:1票) |
5. オッペンハイマー
《ネタバレ》 気になっていたオッペンハイマーをようやく配信で鑑賞した。 以下、思いつくままに箇条書きする。 ◆養老孟司先生がよく書いているように、数学者は数学の世界を実在として認識している。 それと同じようにオッペンハイマーも、(この映画の中では)量子論的な世界が実在するものとして見えている。 そのことが、オッペンハイマーの神経症的なパースペクティブに繋がっており、この映画に絶え間ない緊張感を与えている。 ◆原爆を生み出すことは、人類史において「火」の誕生と同程度のインパクトがあるという意味で、オッペンハイマーをプロメテウスになぞらえるのは適切であろう。 ちなみに、この映画の原作となった伝記の原題には「アメリカのプロメテウス」(American Prometheus)とある。 プロメテウスが出てきたからというわけではないが、鑑賞後、ノーラン監督はオッペンハイマーの生涯をギリシア悲劇のように描こうとしたのではないかと感じた(もっとも、オッペンハイマーの奥さんはシェイクスピア劇に出てきそうなキャラクタではある)。 そう考えると、ノーランの次回作がオデュッセウスを題材とするものであることは、ある意味で自然なことなのかもしれない。 なお、オッペンハイマーの人生に悲劇的なところが多々あるとしても、最後は復権した姿が描かれており、この映画が悲劇的に終わるというわけではない。 ◆この映画が被爆国たる日本を軽んじているという意見があるが、理解できない。 第二次世界大戦後におけるオッペンハイマーの苦悩と水爆反対論が何に由来するのかに思いを致せば、オッペンハイマーが原爆を人類に対して使った「成果」をどのように思っていたか(あるいは、これをどのようにノーランが描こうとしていたのか)は明白である。 ◆ケネス・ブラナーは、今回は出番が少ないながらも、強い存在感を示している。 最近のノーラン映画での活躍から、マイケル・ケインがノーラン映画で占めていたポジションを継ぐのは彼であろうと思っていたが(英国のベテラン実力派俳優という共通項がある)、次回作の出演者としてはアナウンスされておらず、出演しないのであれば少々残念である。 ◆ラミ・マレックが演じる人物が終盤で重要な証言をするが、そのように証言した動機がよく分からなかった。 再鑑賞すれば分かることもあるのかもしれないが、とりあえず関連する書籍を読んでみるつもりである。 [インターネット(字幕)] 8点(2025-03-03 12:45:16)(良:1票) 《更新》 |
6. CUBE
全編にわたり、観客に緊張感を強いる映画。箱設計者のような感性(外の世界は生きる価値がない)を持っている人は、この映画の雰囲気にハマっていけるかも。逆に、そこが鼻持ちならないと思う人には(あの警官はそんなタイプだな)、ちょっと退屈でしょうが。終盤は勢いで持っていったようなところがあり、作りの粗さが若干みられました。が、それも映画におけるストーリーテリングの技法ということで。 8点(2003-06-02 22:17:58)(良:1票) |
7. イル・ポスティーノ
詩は人生を変える(こともある)。そんな一見陳腐なテーマを生真面目に取り上げた映画。「ニュー・シネマ・パラダイス」が映像的とすれば、こちらは文学的。淡々としつつ、終盤、静かに盛り上がっていく。この流れがすばらしい。そしてユーモアの込められたシーン・台詞の数々が、この流れの中に控え目ながら散りばめられている。同じような時代を扱った「ニュー・シネマ・・・」と比べても、数等お気に入りです。イタリアでは、当時、良くも悪くも政治の季節だったわけですね。それをドラマのネタにしているだけであって、政治的なメッセージがあるわけではないと思います。 9点(2003-05-02 18:03:31)(良:1票) |
8. 隣人は静かに笑う
ティム・ロビンスって、ああいう演技もできるんだ、と感心した映画。あの口をあまり開けずに話す芝居がコワイ。テロというのは抑圧のはけ口(正当な手段では意見表明やその意見に基づく社会を実現することのできない個人・団体が、自己の意見を認めさせる目的でする表出行為)なので、匿名のテロってあり得るのだろうか? との疑問があるものの、よくできたサスペンス映画だと思う。 あと、どうでもいいことであるが、ジェフ・ブリッジスが名優か大根かという議論は、水谷豊が名優か否かという議論に似た側面があるのではないだろうか。どちらの意見に与するかは、あの癖のある演技を「味」と見るか、「わざとらしい」と見るかの差で決まる。 7点(2004-03-28 16:11:08)(笑:1票) |