1. HERO(2002)
登場人物の心の機微をスタイリッシュで美しい映像で切り取る稀代の名監督がアクション映画を撮る! 出演はジェット・リーやマギー・チャンといった国際的な俳優! これで心躍らせない映画ファンは皆無だろう。自分も2003年度、最も期待するものを観に映画館に足を運んだ。しかし、しかしである。裏切られた。期待していた分それはは尋常ではなかった。あまりにもチープすぎる。まず、あの脚本。単調すぎるが所以、途中何度も睡魔に襲われた。いくらアクション映画であり、映像が主であるといえどもあそこまで人を嘗めた話はない。嘘→妄想→真実と同じような話を換骨奪胎して進める手法。確かに「羅生門」で使われた手法であるが、今作では明らかに真実が明白なためそこにミステリー的興奮もない。冗長なだけ。更にはアクションシーンも延々と同じテンポで進み飽きる。最初のジェット・リー対ドニー・イェンのシーンには映画的興奮を覚えたが、それから大きく失速。加えて派手なCG処理はコントかとも思わせ失笑を禁じえなかった。監督の映画撮影のリズムはラブストーリーやヒューマンドラマには向いているのだが、アクション映画には適していないのだろう。本当に退屈だった。(映画館) 3点(2004-03-04 22:58:56)(良:2票) |
2. シベリア超特急
この映画に点をつけるのはかなり悩んだ。10点か0点で。映画界に侃侃諤諤を大論争を巻き起こした今作は「北京原人」と並んで世紀の傑作といえるであろう。幾星霜を越えて後、まだ話題にのぼるのであるのだから。しかし、翻って考えてみるとここまで「物語」の体をなしてない映画も稀有である。アームチェアディテクティブを演じる山下閣下はシックスセンスを持するが如くたちどころに犯人を当てていく――なんの調査もなしに。そこまで知っていたら被害者を救ってあげれば良かったのに、とおもわなくもない。ちんけなセット。場違いかともとれるかたせ梨乃。列車上での神業的な格闘。加えて最後の自己陶酔極まりないオチ……。そこで私ははたと気付く。こんなんでいいのなら自分でも映画を撮れるのではないか。そうか、これは今一歩勇気を出せないでいる映画監督予備軍への応援歌なのか、と。決して「マレーの虎」こと山下将軍と水野監督の容姿がクリソツだったことから発生した大仮装大会ではないのだと。まあ、どうこう考えても0点だけれども。 (ビデオ) 0点(2004-02-22 00:14:40)(良:2票) |
3. 俺たちに明日はない
《ネタバレ》 アメリカンニューシネマの傑作をこの時代に見る不幸を呪う。過去の名作には時代をおうごとにその斬新さの風化によって標準的な作品に堕するものがある――これもそうだろう。衝撃的な結末とやらも今日的な観点から見れば凡百の作品と同列に並べられてしまいその輝きを失う。刹那的な人物像や非人間的な行動も凡庸である。ニューシネマたる特徴は現在では新鮮さを失う。これは悲しむべく事実である。それでもフェイ・ダナウェイの魅力を分からしめたことと、主人公がインポであるという特異さ、バカップルを追いかけるシーンに爆笑したこと、そして何よりエポックメイクな作品に敬意を表し7点。 (ビデオ) 7点(2004-02-20 23:37:53)(良:2票) |
4. 死ぬまでにしたい10のこと
《ネタバレ》 末期を迎える人間をお涙頂戴だけで纏めなかった監督のスタンスには好感を持った。只、描き方が不自然なように思う。自分の残り少ない余命を知ってしまった若年の女性が果たしてあんなに淡々と現実を捉えることができるのか。発狂してもがき苦しんだり、周囲の人間に励まされたりといったことが無いこと(医者は例外として)に嘘臭さを感じる。山本常朝も「武士道は死ぬことと見つけたり」といっているように、「死」を考えることは活き活きとした「生」を考えるに当たってのパラドキシカルなものであるのだから、「死」の告知は一念発起するための楔とはなるのであろう。しかしそうであるが為にその「死」の告知を彼女の分岐点として安易に使用した監督の短絡的思考が伺える。更に自分の置かれた環境への絶望と温かな家庭からえる幸せとの狭間で何も考えずに生きていた女性が、あんなにも活動的に生きれるのか? とも訝る。凡庸な女性が何らかの事件を契機に自分探しをする女性を描きたかったのなら「死」と云う簡単なモチーフを使わないほうがベターではなかっただろうか。「死」を間近にした時、あんなに我侭で偽善的な行動に出るのか、私は腑に落ちない。悲しい物語を淡々と見せることを狙った映画だが、それが為、粗が大きかったようだ。末期の話としたら物足りず、自分探し映画として観ても物足りない。(映画館) 4点(2004-03-26 17:40:47)(良:1票) |
5. 遠い空の向こうに
根暗理系映画ですね。素晴らしいです。アメリカ人はなぜか知らないが典型的なマチズモ志向があるようで、 青春映画ではアメフトやらの選手がチアリーダーに囲まれているシーンが多いように思われます。 卒業パーティーのプロムに何不自由なく女の子を誘えてしまうような。 でも実際その理想像に当てはまらない若者もいるわけです。日本でもそうでしょう。 いわゆる「今時の若者」像と隔絶した世界で生きる人間のほうがマジョリティーではないでしょうか。 おたくとか、おたくとか、おたくとか。 それでこの映画は他の凡百の映画と一線を画しています。ロケットですよ。地味です。 大体こんな地味な素材で映画になるのかいぶかっていると、十分になってるんですね。 保守的な土地で現実とたたかう青年。親との確執。先生や周囲の大人との交流。友情。 素晴らしいです。どんなことでもそれに打ちこむ姿には心を打たれるんですね。 世の先生方、下らないお説教をする暇があるのならこの映画を生徒に見せて下さい。 「遠い空の向こうに」の中に明治の文豪や西洋の哲人に負けない力が含まれています。 (映画館) 10点(2004-03-06 18:45:26)(良:1票) |
6. シティ・オブ・ゴッド
これを人は傑作と云うのだ! そう唸った。 当作品を罵倒・非難する人がいたら会ってみたい。 日本の如く生温い現実とは対極の世界で生きる少年たち。「ドラッグ? 銃? そんなの日常のことさ」と吹聴するような生き方。「神の国」では保身の為に銃を手にし、現実を忘却する為にドラッグを欲する。そんな世界があることを我々に納得させる力がこの映画にはある。そしてそんなくそったれな中ででも生きなくてはならない宿命を感じさせてくれる。この映画には生命力があふれているのだ! 時折流れる家族愛や友情の温かな香りがこの救いようの無い冷酷な世界で映えていた。ただ残酷なだけの作品だったならば到底傑作には程遠かっただろう。(映画館) 10点(2004-02-11 17:41:15)(良:1票) |
7. 真夜中の虹
《ネタバレ》 貧乏や不幸が好きなんでしょうね。この監督。でもそれが不幸せに見えないんですよ。何ででしょう。あまりにもご都合主義なんだからでしょうか。この監督の作品を観ると、身の回りの不要なものを捨てたくなります。デカダン的な生活をしたくなるのです。でも日本じゃしにくいですよね。周りの眼が……。メキシコへの船へと向かうシーンで終わりますが、本当は監督さん、この先も考えてたようですね。でもあそこで閉めたほうがよかったとおもいます。明るい望みが射す陰気な雰囲気に満ちた映画です! (ビデオ) 8点(2004-03-12 00:07:10)(良:1票) |
8. ファム・ファタール(2002)
《ネタバレ》 テレ朝の温泉デカ(勝手に命名)並に挟まるお色気シーンを味わいまして、改めて映画監督をそこはかとなく妬みました。「そこもっといやらしくケツ振って―」なんて演技指導してるんですよ。手取り足取り。蛇の衣装も不必要だし、酒場でのお色気ダンスも意味無いし。リビドー満載です。後半の水野晴郎ばりの大どんでん返しにもおもわず仰け反りました。このファム・ファタールは超能力者なのかと。好き勝手に作っていていいです。この監督はそんなに好きではなかったけれども今作でお気に入りとなりました。それにしても最大の被害者はトラックのおっちゃんでしょう。娘がいるのに人身事故の加害者となってしまって……。(ビデオ) 8点(2004-03-19 23:55:47)(良:1票) |
9. 藍色夏恋
《ネタバレ》 あー、恥ずかしかった。こういう映画で若干の不快感を生じてしまう齢となってしまったことに時の流れを感じます。だって、夜のプールやら、ラブレターを友達に託すやら、それを学校中に公開されて恥じをかくやら、青年が明るく運動神経が良くてちょっと助平でそれでもって何故か主人公に惚れている所やら、自転車やら、なんやらかんやらが恥ずかしいのですよ。定番の青春的記号を映画中にちりばめるのってある意味勇気が要りますよね。ベタすぎと批判されそうで。後半での急展開が少々趣深いものでしたが、それでも少々です。やはり全体として平凡な少女漫画を見せられているようで体がむず痒かったです。いやはや腐った大人になってしまいました。(映画館) 6点(2004-03-20 00:08:21)(良:1票) |
10. 浮草
なんでそんなに絶賛されのだろう……。平々凡々な作品じゃないのかな。監督が死んでから持ち上げられすぎな気がするんだけれど。反面この作品の良さがわからない自分に落胆。くやしいです。まあ、自分が若いから幼稚だから面白さが分からないと考えて暫しの間、小津作品は観ないでおきます。封印です。 (ビデオ) 5点(2004-02-24 21:41:57)(良:1票) |
11. 嗤う伊右衛門
《ネタバレ》 ラストシーンはお岩が憑かれた様に疾走するシーンと並ぶこの物語の最も美しいシーンではないかと思うが、それがあまりにも酷い。あそこだけは原作に忠実にやってほしかったが、只の幽霊話になっていることに辟易した。全然納得がいかない。更にはザ・ベスト・オブ・蛇足と形容したくなる現代の東京の俯瞰図への移行。そんなのいらないって、監督さん。シメはお岩の骸を抱きながら嗤う伊右衛門のカットでいいじゃない。まさに画竜点睛を欠く。もっとも目を入れる前の龍の全体像すらも舞台演劇的な大仰な台詞回しや失笑を禁じえないスプラッター描写、侘び寂びの漂わないヌードシーン、原作読了者の自分にすら理解しにくい人物相関、お岩と伊右衛門の愛情描写の物足りなさなどにより歪んだ造形となっている。映画の雰囲気がちぐはぐしている。自分の大好きな小説だったのにとても残念だ。それでも映像化不可能といわれる京極作品を映画化してくれたことはは嬉しいのでこの点数。でも蜷川作品は2度と観ない。(映画館) 5点(2004-02-27 20:53:36)(良:1票) |
12. 浮き雲(1996)
《ネタバレ》 バスの運転手にキス。フィンランドってどんな国だよ! と一人突っ込んでいると、この二人は夫婦であることが分かる。おいおい何プチドッキリやってるの、と監督の思惑にまんまとはまる。所々に可笑しさを誘うシーンがある。夫の解雇をトランプで決めるシーン(そんなアホな!)。映画館のもぎりのお姉ちゃんに悪態をつく夫(妹かよ! 又騙された)。回転資金をカジノで稼ごうとする(やめろって)。愛想の無いレストラン(「いらっしゃいませ」は日本の文化か?)。監督の掌で遊ばれながら、私はこの短いお話にぐいぐいのめりこんで行った。そしてラストの夫婦のカット。無表情なオウティネンが笑ってるようにみえる。かー、いい話だ。アホな日本人が海外旅行やブランドものや学歴でしか幸せを叶えられないのに反して、この貧乏の極地にいる二人はそれをしっかり掴んだ。見習わなくちゃいけないんじゃない、こういうの。それにしても支配人は銀行には金を払えず、なんで新規の回転資金は出せるの? こういう詮索は無粋か。 (ビデオ) 9点(2004-03-09 21:59:57)(良:1票) |
13. SWEET SIXTEEN
やりきれない。リアムは単純に母親と暮らしたかっただけなのに……。ドラッグやナイフや盗みや殺人に覆われているけれども、ここには家族への真摯な愛情が充満している。それはとても心地が良い。しかし、只家族で暮らしたいだけなのに周りからの妨害の所為で、もがき苦しむリアム。先進国の一つである英国にはまだ以前として階層社会があり、そこから抜け出すのはこれほどまでに至難の業なのか。ここまで少年が苦しまなければならないのか。ここではたと思う。そんな悲惨な現状から抜け出すために、犯罪に手を染めるのは悪なのであろうか、と。あまりにも純粋なリアムの行動にそれを糾弾する言葉を私は持たない。――それにしてもこれに引きかえると日本のなんと平和なことか。追記 ビデオじゃなく映画館で観るべきだった。恐るべしケン・ローチ! (ビデオ) 9点(2004-02-23 22:15:49)(良:1票) |