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プロフィール
コメント数 627
性別 男性
自己紹介  「監督の数ではなく、観客の数だけ映画が有る」という考えでアレコレ書いています。
 洋画に関しては、なるべく字幕版も吹き替え版も両方観た上で感想を書くというスタンスです。
 ネタバレが多い為、未見映画の情報集めには役立てないかも知れませんが……
 自分と好みが合う人がいたら、点数などを基準に映画選びの参考にしてもらえたら嬉しいです。

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1.  バービー(2023) 《ネタバレ》 
 何だか中途半端というか……やりたい事が多過ぎた映画って印象ですね。  基本的には「人形のバービーが人間になる話」と「バービーワールドを通じてフェミニズムを喧伝してる話」の二つが同時進行する作りになってるんですが、とにかくバランスが悪くって、どちらも心に響かないんです。  監督が力を込めてるのは後者の部分なんだけど「一応これはバービーの映画だから」とばかりに前者の部分も盛り込んでるのが、悪い意味で優等生的。  これなら「男達に乗っ取られたバービーランドを、女達が奪い返しました」「男達は可哀想だけど、これから頑張って立場を向上させてね。現実の女もそうしてきたんだから」という場面で終わらせて、徹頭徹尾フェミニズムの映画として完成させてくれた方が、まだスッキリしたように思えます。   だって本作ってば「人形であるバービーが人間になりたいと願い、それを叶える話」という話の幹が有るはずなのに、監督が拘ってるのは「観客にフェミニズムを伝えたい」という枝葉の部分ばかりなんです。  主人公バービーが人間になりたいと願う理由がサッパリ伝わってこないっていうのは、どう考えても致命的な欠点。  あえて言うなら、バービーが現実世界を訪れた際に老女と世間話して、その美しさに驚くという件が「人間という存在への憧れ」に繋がったのかと思えますが、それなら老女の人形に生まれ変わる展開でも良いじゃないかって話ですからね。  主人公カップルが現実世界を訪れた際に、重要であるはずの「人間の素晴らしさ」を殆ど描かずに、尺を取って描いてるのは「人形のケンが男社会に感化されていく流れ」の方なんだから、監督が描きたかったのは「フェミニズム」の方だったとしか思えないです。   そんな構成の拙さを補うように、クライマックス場面で僅か五十秒ほどの「人間」を描いた映像が流れる訳だけど、それを観ても「バービーが人形を捨てて人間になる事を決意する程の、人間特有の美しさ」なんて感じられなかったし……  これは映像のセンスが云々って話ではなく(長々とフェミニズムの話なんかやってるせいで尺が足りなかっただけじゃん)と失望させられた形なので、そんな自分からすると、この映画を褒めるのは難しいです。   それでも、あえて長所を探すとしたら……  「シャワーや飲み物に、微妙にスケールがズレてる車など、バービー人形として生きる日々を描いた場面は面白かった」  「色んな映画の小ネタを盛り込んでるのは、オタク的で微笑ましい」  と、そのくらいになるでしょうか。   最初に述べた通り、非常に中途半端な作りなので「バービーの映画ではなく、フェミニズムを題材にしたシニカルな映画として観れば面白い」とも言えないのが辛いところですね。  捻くれ者な自分にとっての「バランスの悪い映画」って「色んな魅力が詰まってる、贅沢な映画」と感じる人も多いでしょうし、世間で絶賛されてるのも、分かるような気はしますが……   何にせよ「バービー」と「フェミニズム」という、二つの属性を兼ね備えた品であるのは確かなので、話のタネにするならば、一粒で二度オイシイ映画なのかも知れません。
[インターネット(吹替)] 4点(2025-05-26 18:20:46)(良:1票)
2.  プロジェクトA 《ネタバレ》 
 映画史に残る大傑作。   ジャッキーの自伝に曰く「少林寺や彷徨う戦士達を主人公にしなくても、格闘時代劇が作れる事を証明した」点が画期的との事で、言われてみれば本作の主人公って、現代の刑事物にも通じる「正義感溢れる警官」として描かれてるんですよね。  だからこそ、現代の観客にとっても感情移入し易いし、時代を越えた普遍性が有る。  そもそも中国(&香港)においては「官は悪、侠は善」(役人は庶民をいじめる悪役であり、御上に逆らう無頼漢が庶民の味方)という作劇上の伝統があった訳で、警官を主役に据えてる時点で、本作が斬新な映画であった事が窺えます。   その一方で「警察なんて辞めてやるぜ!」と啖呵を切ってバッジを投げ捨てる場面など、ちゃんと「理不尽な役人に逆らうアウトローな主人公」としての魅力も描いてるのが凄い。  当時の人々や「権力者側を善玉として描くのを嫌がる人」でも受け入れ易いよう作ってある訳で、この辺りのバランス感覚が、本当に見事。  「王道を裏切らずに、斬新な事をやってる」という形であり、これって理想的な「時代の先取り」の仕方だと思います。    自転車を駆使してのアクション(自分は「ノック」の件が特にお気に入り)も素晴らしいし、今や語り草になってる「時計台からの落下」シーンも、迫力満点。  後者に関しては、怯えるジャッキーを叱咤激励する形でサモ・ハンが監督しているとの事で、あの場面ではジャッキーが「監督」ではなく、単なる「役者」そして「スタントマン」に立ち返っているという意味でも、趣深い魅力がありますね。  「あの画には全く演技がなく、全て真剣だった」とジャッキーが語る通り、本当に限界を越えて手から力が抜けて(もう、だめだ)と思いながら落下したとの事で、作り物ではない「本物」の迫力が感じられるのも納得。   ただ、そんな名場面にも唯一の瑕が有り「時間が巻き戻ったかのように、違う落ち方を二度見せている」のが不自然なのですが……  これに関しては、劇中で「大口」役を演じたマースが、念の為に一度ジャッキーの代役として落下しているという裏話が影響していそうなんですよね。  つまり、ジャッキーが彼に敬意を表して、彼のスタント場面も無理やり本編に挿入した結果、不自然な形になったのではないかと推測出来るんですか、真相や如何に。   上述の「大口」への敬意の表れが、終盤の展開に影響してるように思える辺りも、ちょっと気になります。  本作のラスボスであるサン親分って、ジャッキーとサモ・ハンとユン・ピョウが三人掛かりで立ち向かうような強敵だったのに、何故か大口がトドメを刺す形になっているんです。  最後の漂流シーンでも、三大スターを押しのけて大口が一番目立っているし……  大口が当初から準主役だった訳でもなく、脇役に過ぎなかった事を考えると、この「急に何かが変わったかのような優遇っぷり」は、如何にも不自然。  これも、時計台落下という危険なスタントをこなした大口に対する、ジャッキー監督からの「ご褒美」だったんじゃないかと、そんな風に妄想しちゃいますね。   でもまぁ、そういった難点があったとしても、本作が傑作である事は、疑う余地が無いです。  冒頭、主人公のドラゴンが自転車を柵に突っ込ませる場面で、もう面白くって「これから凄い映画が始まる」って予感で、ワクワクしますし。  酒場での乱闘シーンなど、音楽の使い方も上手かったです。  沿岸警備隊が復活し「これより、プロジェクトAを決行致します」と告げる場面も恰好良くって、もしかしたらココが一番の名場面じゃないかと思えたくらい。   サモ・ハン演じるフェイとドラゴンが再会する件で、自然な流れで食事してジャンケンする場面など、短い尺で「二人は旧知の仲」と納得させる演出なんかも、流石だなぁと唸っちゃいますね。  この辺りは、実際に少年時代からの付き合いである二人だからこその、阿吽の呼吸を感じました。  京劇出身な二人らしい一幕もあったりするし、色んなジャッキー映画の中でも「サモ・ハンとの絆」が、最も良い具合に作用したのが本作だったように思えます。   他にも「時計台落下はハロルド・ロイドから、逃走シーンはバスター・キートンから影響を受けている」とか、この映画について語り出すと、止まらなくなっちゃいますね。   映画の評価なんて移ろい易いものであり「子供の頃に好きだった映画が、今観るとつまらなくて幻滅しちゃう」とか、逆に「子供の頃は退屈だった映画が、名作だと気付かされる」とか、色んなパターンがある訳ですが……  本作に関しては「子供の頃も、大人になった今でも、大好きな映画」だと、胸を張って言えそうです。
[DVD(吹替)] 9点(2023-10-10 10:00:19)(良:3票)
3.  アフロ田中 《ネタバレ》 
 原作漫画は未読なのですが、何十巻も刊行済みの御話を 「高校を中退してしまった」 「友人の結婚式に出席しなければいけない」  という二つの事柄を主軸に据えて、上手くまとめているように思えました。   一見するとメインテーマのように描かれている「彼女を作る」という行為は「結婚式に彼女を同伴すると約束したから」という理由での、オマケに過ぎない形ですよね。  それゆえに、ラストにて主人公が振られる事となっても、全くバッドエンドの香りがしない。  むしろ、その「本当は彼女なんて必要ない」という図式を活かして、明るいハッピーエンドに繋げてみせているのだから、脚本の巧みさが窺えます。   でも、振られる件に関しては、少し引っ張り過ぎたようにも思えましたね。  友人達との関係性を考えれば「他の皆は振られたのに、主人公だけが彼女と結ばれて終わり」なんて事は有り得ないはずなので、勿体ぶった告白シーンの演出には「いや、もう結果は分かっているよ」と、醒めた目線になってしまいました。   ただでさえ、その直前の結婚式にて、同じようなブラフの演出を、たっぷり時間を掛けて行われたばかりでしたからね。  二連続でやられてしまうと、流石に食傷気味。  こういうのは一度くらいに留めておいた方が「結果は分かっていても、やっぱり嬉しい予定調和」として、楽しめるんじゃないかなと思いました。  特に、この映画の場合はスピーチの場面が「ダメかと思ったら結果オーライだった」であり、告白シーンが「イケるかと思ったらダメだった」という順番なので、余計に辛い。   上述の不満点を考慮した上で判断するに、この映画のクライマックスは「主人公と男友達との絆が回復した瞬間」にあるのではないかな、と思う次第です。  それまで高校を中退した事に対し、後悔の念らしきものを窺わせなかった主人公が、初めて「高校卒業していれば良かった」という想いを口にする。  その理由が、学歴がどうこうといった話ではなく「そうすれば、卒業まで皆と一緒にいられたから」という辺りは、本当に良かったですね。  それまでの劇中にて、常に主人公の心情をモノローグで語る演出を取っていただけに、この「告白」には(そんな風に考えていたのか!)という意外性もあったりして、不意を突かれた形。  スピーチの場面では感動的な演出にするのだろうなと察して、ちゃんと身構えていたはずなのに、その予測を上回る感動を与えてもらいました。   劇中でアフロを貫く理由が今一つ分からないとか、友達と険悪になる流れが不自然だとか、気になる箇所は色々あったりもするのですが、楽しめる場面の方が多かったですね。  特に「女の子に送るメールの文面で悩む件」には、とても共感させられましたし「無断欠勤を社長に謝る件」なんかも、観ていて緊張感を抱かされ、社長が鷹揚な対応をしてくれた時には、心底からホッとさせられました。   基本的に作中人物が善人ばかりで、優しい世界を形成しているから、観ていて心地良い。  「失恋の傷なんて、友達同士で集まって騒げば、笑い話に過ぎなくなる」というメッセージが感じられるエンディングも、とても好みでした。
[DVD(邦画)] 6点(2016-06-30 08:22:19)(良:2票)
4.  JAWS/ジョーズ 《ネタバレ》 
 サメ映画の原点にして頂点……と断言してしまうのは、後続の映画群が可哀想になりますが、思わずそう言いたくなるくらいの傑作ですね。   正直、サメ本体の造形に関しては現代の目からすると稚拙であったりするのですが、ジョン・ウィリアムズの音楽と、スピルバーグの冴え渡った演出とが、それを忘れさせてくれます。  桟橋を破壊するシーンで、敵となるサメが如何に怪力かを知らしめてくれるのも良いし、今ではお約束となっている「巨大な歯を拾い、そこからサメの全長を推測する」流れも、実に効果的。  特に印象深いのは「樽を三つも背負っているんだ、潜れっこない」という台詞の後に、サメが海に沈み、水音が止んで静寂に包まれる演出ですね。  劇中の人物だけでなく、観客にも(潜れっこないはずなのに、潜りやがった!)という衝撃を与えてくれて、本当に痺れちゃいます。   サメを発見したかと思いきや、実は子供の悪戯だったと分かり、気が緩んだところで、本物が襲来するという緩急のある展開も良かったですね。  ここで主人公の息子が標的となる訳ですが、事前に子供が殺されているので(子供といえど、無事に済むとは限らない)という危機感を煽ってくれる形。  グッタリした息子を地上へと引き上げる際に、死体かとドキドキさせておいて、無事な下半身を映し出し(良かった……食べられていない)とホッとさせるのも上手かったです。   ちょっと気になったのは、終盤に主人公達三人が、酒を飲みながら語り合うシーン。  ここ、再観賞する前の自分の認識では「それまで喧嘩してばかりだった三人が打ち解け、一致団結してサメに戦いを挑む事になる名場面」というものだったです。  でも、いざ実物を観てみると、仲良くなったのは一時的で、翌朝には再び喧嘩してばかりの関係に戻ってしまっているんですね。  あくまで猟師のクイントの過去を描き、人物像を掘り下げるのが目的の場面であったみたい。  どうも都合良く美化した上で記憶していたようで、何だか寂しかったです。   それに対し、終盤のサメとの対決シーンは記憶に残っていた通りの素晴らしさであり、嬉しかったですね。  そもそも「海に浮かぶ小さな船」というだけでも孤立感が強いのに、その船の中にまでサメが襲い掛かって来て、沈みゆく船の中で戦うという、二重の意味で「追い詰められた」緊迫感が凄まじい。  派手な爆発と共にサメを倒すも、生き残ったのは主人公のブロディ唯一人……という寂寥感の中で、実はフーパーも生きていたと判明し、ホッとさせてくれるエンディングも良かったです。   後に無数のサメ映画を生み出す事に繋がり、それと同時に(結局、原点である「JAWS/ジョーズ」が一番面白い)という認識さえも生み出してしまった、恐るべき傑作。  でも、自分は後続のサメ映画の数々も好きですし、他のジャンルにおいては「元祖を越えてみせた名作」を幾つか知っているだけに、希望を失いたくはないですね。  (これは「JAWS/ジョーズ」より面白い!)と思えるようなサメ映画と、何時かは出会ってみたいものです。
[DVD(吹替)] 9点(2017-08-01 21:09:50)(良:3票)
5.  生きてこそ 《ネタバレ》 
 実話という衝撃が大き過ぎる映画なのですが、単純にサバイバル物として考えても、良く出来てますよね。  完全なフィクションとして提供されても「これは凄い、傑作だ」と唸るくらいに面白い。  本作には「実際に起こった悲劇を風化させない為、後世に伝える為」という制作意図もあったのでしょうけど「観客を楽しませる娯楽映画」としても、立派に成立してると思います。   序盤にて飛行機が墜落する場面も迫力があり、映画としての「掴み」に成功してる辺りにも、感心しちゃいましたね。  他にも「普通の道だと思って足を踏み出したら、実は崖の上に雪が積もっていただけで転落死しそうになる場面」もあったりして、視覚的なスリルを味わえる作りになってる。  「明日救出が来ると勘違いして、配給制にしていたチョコやワインを一気に消費しちゃう」とか「新しいスーツケースを見つけ、その中の歯磨き粉を夢中で貪る」とか、極限状態ならではの可笑しさ、面白さを丁寧に描いている点も良かったです。  最初はギターを弾く余裕があったのに、後に暖を取る為にギターを燃やしてしまう描写なんかも、徐々に状況が切迫してる事を伝える効果があって、印象深い。   それと、実際にあった墜落事故について調べてみると、宗教的な色合いが強く「仲間の遺体を食べる」事が可能だったのは「彼らがキリスト教徒だったから」「聖体拝領という儀式が存在したから」こそと思える感じなのですが、本作はそういった説明を必要最小限に止めてるんですよね。  それによって、キリスト教徒ではない観客にも感情移入させる事に成功してるし、この辺りのバランス感覚の巧みさが、本作を傑作たらしめているように思えました。   主人公格と思われたキャプテンのアントニオが中盤で死亡してしまったり、最初は眼鏡姿で頼りない印象だったナンド・パラードが皆を救う為の脱出行を成功させたりといった具合に、群像劇としての魅力が詰まってる作りなのも良い。  こういったサバイバル物において「誰が生き残るのか分からない」と思える作りになってるのは、物語としての大きな強みですからね。  「前半はアントニオが主役と思わせておいて、実はナンドが主役だったと後半に明かす」「全体を通してメインになる存在としては、医学生のロベルト・カネッサを用意する」という構成にしているのは、本当に上手かったと思います。   捜索が打ち切られた事を「良い知らせだ」「これで自分の力で脱出しなきゃならん事が、ハッキリした」と語る場面や、山を越えた後に更なる山脈が広がってるのを目にしても「歩いてみせるさ」と諦めず前進を続ける場面にも、感動させられましたね。  思えば上記二つの場面とも、主人公のナンドの魅力が光る場面でしたし「途中まで脇役かと思われた人物が、実は主人公である」という変則的な手法なのに納得させられたのは、彼の魅力に依るところが大きいように思えます。   それだけに、そんなナンド達の「奇蹟の脱出行」の描写が短く「絶対無理と思ってたけど、意外と何とかなった」としか思えない描き方になってるのが気になっちゃうんですが……  まぁ「そこに尺を取り過ぎても、冗長になってしまうから」という判断ゆえなのでしょうね、きっと。   ちなみに、本作は群像劇であるがゆえに、ナンド・パラード目線で書かれた「アンデスの奇蹟」(2006年)とは受ける印象が違っており、その差異に関しても興味深いものがありました。  脱出を成し遂げた二人に関しても、本作では「無謀で我の強いナンドに苦労させられる、常識人のカネッサ」って対比になってるのに対し「アンデスの奇蹟」を読んでみると「一途で誠実なナンドと、有能だが毒舌で偏屈なカネッサ」っていうコンビになっているんです。  自分としては後者の方が魅力的に思えたくらいなので、こちらのキャラクター像に合わせた映画も、何時か観てみたいですね。   それと「アンデスの奇蹟」においては「ナンドが旅立つ際に、片方だけ残していった子供靴の由来」「目を保護する為のサングラスの作り方」に関しても詳細な説明が為されており、映画で気になってた部分の答え合わせが行われているのも、見逃せないポイント。  本作は紛れも無い傑作であり、これ単品でも満足出来ちゃう仕上がりなのですが……  原作となったドキュメンタリーの「生存者」(1974年)そしてナンドの自伝と言うべき「アンデスの奇蹟」を併読すると、より楽しめると思うので、オススメしておきたいです。
[DVD(吹替)] 8点(2022-03-24 20:37:51)(良:2票)
6.  ノウイング 《ネタバレ》 
 「お前と」「パパは」「ずっと一緒」「何時までも」という手話は、絶対伏線だろうなと思っていたので、それが当たっていて嬉しかったですね。  永遠の別れとなるはずの場面にて「ずっと一緒」と父子が伝え合う姿には、グッと来るものがありました。   飛行機事故や電車事故の映像なども迫力があったし、ちゃんと「終末映画」としての娯楽的要素も満たしているんですよね。  とても宗教的な内容でありながら、さほど胡散臭さを感じさせなかったのは、作り手に「観客を退屈させない、楽しませる」という意識があったからこそだと思います。   「預言を知った主人公が惨事を警告したら、予告テロかと疑われる」という、この手の映画のお約束ネタを盛り込んでくれる辺りも嬉しい。  実はこれ、劇中でそれほど重要とは思えなくて「別にやらなくても話としては成立したよな」という部分だったりするんです。  でも「やっぱり、こういう映画なら、このネタはやっておかないと!」とばかりに実行してくれたんだから、観ているこちらとしては、ニヤリとさせられました。   不満点としては、上述の息子と別れるシーンでの「最後の手話」が良かっただけに、その後の「主人公が父母と妹と抱き合って迎える、地球消滅の瞬間」が、ちょっと蛇足に思えてしまった事でしょうか。  作中の描き方としても、主人公は明らかに父や妹よりも息子の存在を重視していた訳だから、如何にもオマケ的な付け足しというか「ついでに和解してみた」感があったんですよね。  そもそも父親との長年の確執についても「今となっては、理由も忘れた」と作中で言っているくらいなんだし、映画のラストに「父との和解」を用意するにしては、ちょっとフリが弱かったように思えます。  ヒロイン格かと思われた女性が、交通事故でアッサリ死んでしまうというのも、何だか拍子抜け。   新たな星でアダムとイムになった幼い二人を映し出して終わるのは、中々幻想的で良かったですし「世界の終わり」と「主人公の死」の中にも救いを見出そうとするような「前向きなバッドエンド」とも言うべき作風は、決して嫌いじゃないんですけどね。  丁寧に作られた、良質なSF宗教映画なんだろうな、とは思います。  でも、根本的に信仰心が薄い自分には、あんまり向いていなかったみたいです。
[DVD(吹替)] 5点(2017-09-04 10:34:10)(良:2票)
7.  アナコンダ2 《ネタバレ》 
 前作とは異なり「如何にも胡散臭いが頼りになりそうな男」が、一貫して味方側だったのが嬉しいですね。  ワニをナイフ一本で倒すシーンなんかもう、恰好良くて惚れ惚れしちゃうくらい。  終わってみれば、そんな彼=ビルこそが主役であり、当初主役格かと思われたジャックが悪役に転じるという構成なのですが、その辺りの「転換」描写も巧みでした。  始まってから大体四十分くらいでビルは「金よりも人の命が大事」ジャックは「人の命よりも研究(と、それによって齎される金)が大事」という考えだと分かる為、観客も自然と善悪が判別出来るという形。  そんな「主役交代」の仕掛けを用意する一方で、作中全体を通してのヒロインとしてサムも用意している為、視点が散漫に感じられる事も無く、素直に楽しめたように思えます。   序盤では「川下り映画」としての魅力を堪能出来たし、巨大な滝に落ちて船が壊れ、徒歩となった後も「吸血ヒル」「毒蜘蛛」など、様々な障害を用意して、飽きさせない作りになっている辺りも良い。  本命の「アナコンダ」は要所要所で襲い掛かる程度に留め、最終的には人類にとって最も恐ろしい動物である「人間」との戦いになる構成も、王道な魅力があったかと。   その他「JAWS/ジョーズ」や「サバイバー」をパロった場面ではニヤリとさせられるし、ビルのペットの子猿は可愛いしで、全体的に愛嬌がある作りなんですよね。  アナコンダの恐怖だとか、人間同士の争いで剥き出しになる醜さだとか、そういった面は薄味なんだけど、それゆえ気軽に、肩の力を抜いて楽しめる。  繁殖期の為、沢山の大蛇が集まっているという設定なのに、実際は単体の蛇に襲われるシーンばかりな点など、物足りなさを感じる部分もありますが「まぁ、面白いし良いか」と納得出来る範囲内でした。   最後は爆発オチで倒すというお約束も守ってくれたし、四人という結構な人数が生き残る事が出来て、妙に明るいノリで終わる辺りも好みでしたね。  総合的な面白さという意味では前作と甲乙付け難いですが、どちらが好きかと問われたら、本作の方を挙げちゃいそうです。
[DVD(吹替)] 7点(2017-08-22 10:06:54)(良:1票)
8.  キス&キル 《ネタバレ》 
 アシュトン・カッチャーが好きな自分としては、それなりに楽しく観られたけれど……  そうでない人には、結構キツそうな一本でしたね。   まず、序盤は良い感じというか、中々面白いんです。  旅先で主人公とヒロインが出会い、結ばれるまでを描いており、ラブコメ要素が濃い目で、楽しい雰囲気。  空撮の映像が美しいし、海辺のプールなんて本当に素敵だしで、良質な「旅映画」だったと思います。   にも拘わらず、二人が結ばれ「三年後」に時間が飛んだ辺りから、一気に失速しちゃうんですよね。  主人公のスペンサーが莫大な懸賞金を掛けられ、友人達から命を狙われるブラックコメディと化すんだけど、どうも緊迫感が無くて、アクション映画としても魅力に欠ける感じ。   例えば、友人のヘンリーが突然ナイフで斬り付けてくる場面なんて(本気で殺そうとしてるの? それともふざけてるだけ?)と戸惑っちゃうくらいヌルい描写でしたし、彼の退場シーンもアッサリし過ぎてて、本当に死んだかどうか気になっちゃうんです。  この辺の作り込みが甘いせいで「平和な日常から、殺し合いの日々に戻ってしまう」というギャップの魅力が伝わってこないんですよね。  せっかく映画の前半と後半で違う「色」を打ち出しているのに、これは如何にも勿体無い。   あと、序盤から何度か「バンジージャンプ」ってワードが出ていたので、これはヒロインのジェーンが高所から飛ぶ場面が絶対あるだろうなと思ってたのに、それが無かったっていうのも、拍子抜けでしたね。  「(貴女と友達の振りをしていて)楽しい事もあった」と、友情を示した途端に撃ち殺されちゃうジェーンの女友達って場面も、凄く後味悪いし……  黒幕であったジェーンの父と、スペンサーの和解もアッサリし過ぎてて(えっ、それで終わりなの?)って感じなんですよね。  「スペンサーに莫大な懸賞金を掛けたのはジェーンの父だけど、誤解だったので取り下げました。めでたしめでたし」ってオチにも(結果的に人が死にまくってるんだけど、それで良いのか)ってツッコむしか無かったです。   カメラワークや演出などは平均以上だと思うし「観客を退屈させないサービス精神」は伝わってきただけに、つくづく惜しいですね。  少し手を加えるだけで、絶対もっと面白くなったはずだと、観ていて悔しくなっちゃう感じ。   個人的には「人殺し稼業にウンザリしていたスペンサーが、結婚後の『普通の生活』を噛み締め、幸せそうにしている場面」が凄く良かったので……  その後の展開にて『普通の生活』を奪われた事に対する主人公の怒りや切なさを描いてくれていたら、もっと好きになれたかも知れません。
[DVD(吹替)] 5点(2020-09-08 20:54:22)(良:2票)
9.  免許がない! 《ネタバレ》 
 「あの舘ひろしが、実は運転免許を持っていない」という、出オチのようなアイディアだけで撮られたとしか思えない映画。   こういうネタである以上、やはりクライマックスでは主人公が実際の事件か何かに遭遇し、映画的なカーチェイスを繰り広げるのでは……と期待してしまうのですが、そこを外してくる惚けっぷりが、如何にも森田脚本らしく思えましたね。  全体的にユル~い空気が漂っており、退屈さも感じる一方で、何処か心地良さもあるという、不思議な作風。    作中で飛び出す駄洒落「クリープ現象。ミルクじゃないよ」も、最初はツマンなかったはずなのに、二度言われると少しクスッとしたりするんですよね。  映画全体もこんなノリであり、観賞中は(面白くないなぁ……あっ、でもここの場面は、ちょっと良いな)という反応を繰り返す事になりました。   大前提として、主演が舘ひろしでなければ成立しない話なのですが、序盤に変装して教習所に通う姿が、本当に「冴えない中年のおじさん」にしか見えない事には、驚きましたね。  それが正体を現すと、ちゃんと恰好良くなって、映画スターのオーラをビンビンに感じさせる立ち居振る舞いになるのだから、やっぱり凄い人なんだなぁ……と、感嘆。  ちょっぴり気障で、嫌味っぽいところもあるんだけど、フッと渋い笑みを浮かべるだけで色気と愛嬌が漂うもんだから、憎めないんですよね。  作中で観衆にキャーキャー言われているのも当然だなと、自然に納得出来ちゃいます。    踏切の前では窓を開けて音を確認するようにと教官に注意され「一般車で、そんな事やってるの見た事ねぇ」と反発するも「教習所では、そうすんだよ」と諭される件も皮肉が効いていて面白かったし、ミスを犯した後、教官に減点されちゃう嫌ぁ~な雰囲気なんかも、上手く表現されていたように思えますね。  特に、仲の悪かった教官が妻と復縁出来るようにと、主人公が手伝ってあげる場面なんかは、本作でも一番のお気に入り。   ……でも、その後の展開にて「純粋に合格した訳ではなく、借りを返す為に教官がハンコを押してあげた」と思える形になっているのは、それこそ大幅減点です。  そりゃあ教官だって感謝はするだろうけど、仕事に私情を挟んだような描き方をしているのは、ちょっと違うんじゃないかと。   あれだけ真面目に努力する主人公を描いておいたくせに、最終的には「映画スタッフが色々と助力して、反則まがいの方法で免許を取らせた」というのも、何とも納得し難い結末。  そこはやはり、実力で合格出来たんだと、スッキリ納得させて欲しかったところです。   中盤にて、やたらとお色気シーンが多くてウンザリさせられた事も含め、どうにも「好きな映画」とは言えそうにない本作。  とはいえ、憎み切れない愛嬌も備えているし「ここの場面は、結構好き」と言えるような部分も幾つかはあった為、何だかんだで観ておいて良かったと思えるような……そんな一品でありました。
[DVD(邦画)] 4点(2017-08-23 07:05:20)(良:1票)
10.  グリース 《ネタバレ》 
 青春映画の金字塔、なんていうベタな一言が似合う作品ですね。  日本での知名度はさほどでもないような気がしますが「後年の映画において頻繁に名前が出てくる事」「パロディの対象となるのも多い事」が、その影響力の強さを窺わせてくれます。   思うに、主人公とヒロインが最初から両想いであり、彼らの恋の行方そのものよりも「本当は真面目な自分」「でも仲間の前では強がって、不良ぶってみせる自分」という二面性の葛藤がメインになっている辺りが、当時としては新しく、革命的だったのではないでしょうか。  後の「ハイスクール・ミュージカル」「glee/グリー」にも通じるテーマ性があり、映画史やドラマ史について考える際にも、本作の存在は無視出来ないように思えます。   ……とはいえ、そんなアレコレは無視しちゃって、映画単体として観賞しても、しっかり楽しめる内容となっていますよね。  体操着姿が全然似合わないトラヴォルタが、彼女の為に不良からスポーツマンに生まれ変わろうと悪戦苦闘する姿は微笑ましいし、ラストにて不良少女なファッションに身を包むオリヴィアの姿も、実にキュート。  やたらと登場人物が多い映画なのですが、この主役二人のキャラがしっかり立っている為、安心して観賞出来た気がします。   俳優達が老けていて高校生役は無理があるとか、ラストまで引っ張った挙句に「妊娠してなかった」の一言で済ませちゃうのは酷いとか、欠点も色々目に付いちゃうんだけど、そんな完成度の低さ、隙の多さが、また「青春映画」らしくも思えるんですよね。  ダンスにレースと、山場が二つある事に関しても(どっちか片方に絞った方が、綺麗に纏まったんじゃない?)って感じてしまうんですが、そんな野暮な観客の疑問に対し「ダンスシーンもレースシーンも、両方やりたかったんだよ」と、作り手が堂々と答えているかのような大らかさ、潔さが画面から伝わってくるんです。   時代遅れなはずのファッションも、四十年後の目線で見れば斬新で恰好良く思えたりもするし、とんでもない火力のライターを使って煙草を吸うシーンなんかには、憧れちゃうものがありましたね。  ミュージカル部分も素晴らしく、ボロボロの車を綺麗に作り直して「グリース・ライトニング」と名付ける場面は本当にテンション上がったし「美容学校を落第」なんていう歌詞の曲を、物凄くロマンティックに唄ってみせるシーンなんかも、惚けた魅力があって好き。  ドライブインシアターで「絶対の危機」の予告編が流れているのも(監督の趣味なのかな?)と思えたりして、微笑ましかったです。   そんな中でも特筆すべきは「教師キャラ」の描き方であり、本作は不良少年達を主役にしておきながら「悪い大人」である教師が一切登場していないんですよね。  校長も、体育教師も、車の改造を手伝ってくる女教師も、揃いも揃って良い人であり、憎まれ口を叩く事はあっても、決して主人公達を見放したりはせず、温かく見守ってくれる。  それゆえに本作においては「大人は分かってくれない」と少年達が絶望する事もなく、悲劇的な結末は迎えずに、ハッピーエンドへと着地してくれるんです。  この手の「不良少年もの」で、ここまで優しい大人達が揃っている作品は初体験だったもので、本当に斬新に感じられたし、その歪さを感じさせない公正な世界観が、凄く心地良かったです。   卒業カーニバルにおける「生徒が教師にパイを投げつけるゲーム」も、そんな本作の「教師と生徒の関係性」を象徴する一幕であり(仲が良いなぁ……)と、観ていてほのぼの。  ラストにて「卒業したら、バラバラになるのよ」「そうなったら、もう会えないかも知れない」という会話シーンがあり、しんみりした寂しい別れが描かれるのかなと思ったところで「いや、心配ないって」と主人公が言い出し「いつまでも、みんな仲間」という歌詞の曲を歌って、明るく楽しく終わってみせるのも、実に気持ち良かったですね。   最後は主人公カップルが車に乗って、空を飛んで終わりというのも、普通なら(もしや、卒業式の夜に事故死して天国へ行ったという寓意?)なんて考えてしまいそうなものなのに「いや、この映画に限って、それは無い」と断言出来てしまうような、力強い明るさがある。  眩しいくらいの輝きを感じさせる、素敵な映画でありました。
[DVD(吹替)] 8点(2018-11-14 01:37:37)(良:2票)
11.  ミクロキッズ 《ネタバレ》 
 漫画「刑務所の中」にて、囚人が所内で観賞させてもらったビデオ映画として本作の名前が挙げられており、驚いた記憶がありますね。  これを観たら、さぞかし家族が恋しくなってしまうのでは……と思わされました。   作品そのものに関しては、これぞ安心して観られるファミリー映画といった印象。  ミクロ化してしまったら、散らばる機械の破片だけでなく、降り注ぐ水滴さえも兵器のような威力に感じられるという内容が、とても面白いですよね。  こういった設定であれば、間違いなく期待してしまうであろう「食べ物」「昆虫」などの要素を忘れず押さえてくれているのも嬉しい。  色々と知的好奇心をくすぐるものがあり、ちょっと穿った見方をするならば「教育ママが幼い我が子に観せたくなるような映画」という評価を下す事も出来そうです。   何よりもこの映画の優れた点というか、バランスの良さは、全編にわたって心地良いユーモアが散りばめられており 「たとえ子供がミクロ化しなかったとしても、この家族達のドラマなら面白そう」  と感じさせてくれる事にあると思います。  実際、自分なんかは冒頭部分の「宗教上の理由で別れたカップル」「小柄な息子と大柄な父親」などの件でも、充分に楽しめましたからね。  さながら連続ドラマの中の一話として「今度は子供達が小さくなる話」というのを観せてもらったかのような感覚。   大きなサプライズ展開も無く、強烈な感動を味わう事は難しいかも知れませんが、安心して心地良い作中世界に浸る事が出来る。  そんな映画です。
[DVD(吹替)] 7点(2016-05-08 04:31:04)(良:1票)
12.  スパイダーウィックの謎 《ネタバレ》 
 子供が活躍する映画は好きなはずですが、今一つノリ切れませんでした。  ファンタジーでありながらスケールが小さくて「籠城物」の要素がある辺りも良かったとは思うのですが、どうも心に響いてこない。   単純に演出やら何やらが好みに合わなかっただけかも知れませんが、こういう「好きな映画のはずなのに何故か楽しめなかった」パターンって、非常にモヤモヤしますね。  基本的には「好き」に分類される為、欠点を論うような真似をすれば罪悪感が生まれるし、かといって積極的に褒めるのも気が咎めるという、何ともコメントに困る状況。  とはいえ「理由は良く分からないけど微妙だった」で済ますのも不誠実でしょうから、以下は自分なりに感じた長所と短所を。   冒頭で姉がフェンシングをやっている事や、窓に塩が付いている事が実に分かり易い伏線となっており、それらがキチンと回収される点など、脚本はしっかりしていたと思います。  鳥好きのホグスクィールが「美味しいところを頂いていく」オチも良かったですね。  昆虫のアップや粘液の描写なども一応ありましたが、嫌悪感を抱くような描き方でなかった辺りも、嬉しいポイント。   で、気になる点としては……両親の離婚問題についてが挙げられるでしょうか。  最終的に主人公の少年は「母親と一緒に暮らす」という結論を下し、そこは中々感動的に仕上がっていたけれど、これって「父親が他に女を作っていた」と知った上での選択なので、作中の事件に密接に関係していないのですよね。  別に世界の危機を救うような体験をしていなかったとしても、そりゃあ母親の方を選ぶのが当然だよなという感じで、ちょっとエピソード間の繋がりが弱かったんじゃないかと。  ここで(今回の事件を通じて母子の絆が深まったのだ。だからこそ主人公は父親ではなく母親の方を選んだ)と感じさせるものがあれば、作品全体の印象も変わっていた気がします。   正直、退屈に感じた時間の方が長かったりもしたのですが「花の中から妖精のスプライトが飛び立つシーン」や「魔物が見えるようになるリングを手にし、フェンシングの剣で戦う女の子のシーン」など、印象的な場面も幾つかありましたね。  その為、それなりに(観て良かったな……)と思えた一品でした。
[DVD(吹替)] 5点(2017-03-29 05:17:12)(良:1票)
13.  カオス(2005) 《ネタバレ》 
 ジェイソン・ステイサムとウェズリー・スナイプスといえば、ヒーローも悪役も貫禄たっぷりに演じられるのが強み。   そんな二人の悪役っぷりを同時に堪能出来るという、非常に貴重な一本なのですが……  改めて観返してみると、二人が同じ画面に映っているシーンが殆ど無かったりしたもんだから、ちょっと寂しかったですね。  この後「エクスペンダブルズ3」にて本格的な共演が果たされた訳だけど、あちらでは二人ともヒーロー側だった訳だし、出来れば本作にて「悪役同士」ないしは「刑事と犯人の対決」という形での共演を、じっくり披露して欲しかったものです。   とはいえ、映画単品としては手堅く纏まっており、変に期待値を上げたりしないで観賞すれば、充分楽しめる出来栄えじゃないかと思えましたね。  粗野な中年刑事と、大学出のスマートな青年刑事によるバディムービーかと思いきや、片方が途中退場して真の黒幕だったと明かされる展開なんかは、この手の刑事物を沢山観ている人ほど騙され易く、新鮮に感じられるんじゃないでしょうか。  とにかくステイサム演じるコナーズが周りから悪口ばかり言われるもんだから、普通なら彼が強盗事件を解決し、周りを見返してやる結末になるはずなのに、本作に限っては全く逆で「彼を非難していた連中の見解が正しかった」と言わんばかりの結末を迎えるんだから、実に皮肉が効いています。  1:犯人が人質を殺した事を、コナーズが責める。 2:コナーズの出した紙幣をシェーンが財布に仕舞う。 3:押収品の紙幣には、特殊な香りが付けられている。   といった場面が印象的に描かれており、それらが伏線だったと明かされる流れも気持ち良い。  本作は「主人公が犯人だった」という叙述トリックを用いているのですが、バディムービーという体裁を取って、自然な形で主人公格を二人用意し、観客が感情移入させる対象をコナーズから青年刑事のシェーンへと自然に移行させた辺りも、上手かったですね。  バイクでトラックを追いかけるカーチェイス場面なんかも良かったし「観客を楽しませよう」という意思が伝わってくる、丁寧に作られた一品だったと思います。   不満点としては、コナーズが逮捕されずに逃げ延びて終わってしまうので、後味が悪い事。  事前に見せておいた爆破シーンと、その後の種明かしシーンとで、それぞれの時間経過に差があるのは(ズルいなぁ……)と感じちゃう事。  人質を誤射してしまった元刑事のローレンツが、今度は自らが人質を取るような悪党となってしまったのを自嘲し「お前ならどうする?」とシェーンに問い掛ける場面が劇的で良かっただけに、それに対する答えを示す場面が無いのは片手落ちに思える事とか、その辺りが該当するでしょうか。   バッドエンドである事も含めて、観賞後はモヤモヤも残ってしまうんだけど……  とりあえず観ていて退屈はしなかったし、途中経過は楽しめたので、自分としては一応満足です。
[DVD(吹替)] 6点(2019-01-18 20:34:09)(良:2票)
14.  オースティンランド 恋するテーマパーク 《ネタバレ》 
 ちょっと評価が難しい一品。   それというのも、この映画って観客が「女性である事」「作家ジェーン・オースティンのファンである事」を想定して作られている感じなんですよね。  なのに自分と来たら「男性」「オースティン作品は映画やドラマでしか知らない」という立場な訳だから、流石に門外漢過ぎる気がします。  ……でも、そんな自分の価値観からしても、面白い映画であった事は間違い無いです。   監督はジャレッド・ヘス(代表作「ナポレオン・ダイナマイト」)の妻である、ジェルーシャ・ヘス。  元々、夫の作品で共同脚本を務めていた為か、これがデビュー作とは思えないほど自然な仕上がりとなっており、落ち着いて観賞する事が出来ましたね。  低予算な作りであり、イギリス摂政時代を完全に再現しているとは言い難いのですが、それが却って劇中の「オースティンランド」の小規模さとシンクロし、リアルな箱庭感を生み出していたと思います。   主人公のジェーンが(何か、思っていたのと違うなぁ……)と失望しちゃう気持ちも分かるし(でも、せっかく全財産を注ぎ込んで訪れたんだから、楽しまなきゃ!)と自らに言い聞かせるようにする辺りなんかも、凄く小市民的で、好感が持てました。   ストーリーの流れとしては、所謂「幻想の世界に浸っていた主人公が、現実と向き合う話」「オタク趣味から卒業する話」な訳だけど、主演にケリー・ラッセルという美女を配する事によって、あまり痛々しい印象を与えない作りになっているのも、ありがたい。  短い出番ながら、元カレが最低な奴だとハッキリ伝わってくるのも良かったですね。  主人公が現実に失望して、何時までも幻想の世界に閉じ籠っていたくなる事に、説得力が増す感じ。   映画の途中から「貴族であるノーブリー様との幻想の恋」「使用人であるマーティンとの現実の恋」が逆転していく流れも、鮮やかでしたね。  劇中のジェーン同様「マーティンも役者であり、最初から彼と結ばれるよう計画されていた」「実はノーブリーとの交流こそが、演技ではない本当の恋だった」という二段仕掛けの真実には、見事に驚かされました。   まず、最初に映画に登場するのはマーティンの方であり、観客としても自然と彼の方がメインかと思うよう誘導しているのが上手い。  そして、園内の役者達が休憩中に交わす会話に違和感があって、その違和感が伏線となっている辺りなんて、本当に感心しちゃいました。   マーティンは役者ではなく、本当にジェーンを好きになった純真な男であるはずなのに、彼女の名字を憶えていなかったりする。  その一方で、彼女に興味無いかと思われたノーブリーは、しっかり憶えている。  そういった伏線が効果的に盛り込まれているからこそ「裏切られた」という不快感ではなく「そう来たかぁ!」という快感に繋がってくれる形です。   素顔のマーティンは女に困らない陽気なプレイボーイ、素顔のノーブリーは親友と婚約者に裏切られて傷心中の真面目な男、という設定なのも、これまた絶妙。  あんまりノーブリーを「王子様キャラ」として描かれちゃうと、同性の自分としては鼻白むものがあるし、何より「現実と向き合って幸せを手に入れた」という映画の結論も、嘘臭くなっちゃいますからね。   そもそも、反発し合っていたはずの男女が惹かれ合うのも「高慢と偏見」のダーシーとリジーそのままだし「貴方は、このお屋敷のダーシー様」という台詞もあるしで、本作品って「オースティン作品の幻想から抜け出したと思ったら、ダーシー様のような素敵な男性と結ばれた」という、都合が良過ぎる結末なんです。  だからこそ、その現実世界における「素敵な男性」を、なるべく嘘っぽくせず、リアルに感じさせる必要がある。  彼は美男子だけど、不器用で、不幸な女性経験があって、歴史の教授だから金持ちでもない、という辺りが、程好い「身近な存在」っぷりで、良い落としどころだなと思えました。   あえて気になった点を挙げるとしたら「妊娠中の友達が、あんまりストーリーに絡んでこない事」「エリザベスとアンドリュー大佐の仲がどうなったのか、曖昧なまま終わる事」などが該当しそうですが、欠点とも言えないレベルでしたね。  それよりも、気に入った部分の方が、ずっと多い。   主人公カップルを祝福したくなるような、良い映画でした。
[DVD(吹替)] 8点(2017-11-08 08:40:11)(良:1票)
15.  ペントハウス 《ネタバレ》 
 「オーシャンズ11」の監督を降板したブレット・ラトナーが、そのリベンジのように撮った映画って印象ですね。   オールスター感は薄めだけど、その分だけ主演のベン・スティラーの魅力が光る仕上がりになっており、個人的には大いに満足。  ビジュアル的に最高に恰好良い彼を収めたフィルムってだけでも、凄く価値があると思うんですよね。  微かに白髪交じりな「老け具合」さえも魅力的に思えちゃうし(この人、恰好良い歳の取り方してるよなぁ……)って、惚れ惚れしちゃいました。   ストーリーとしては「善人が泥棒になる話」であり、中々感情移入し難いはずなのですが、その点を上手く仕上げている辺りも、お見事。  「大金を盗んで楽に暮らしたい」なんていう身勝手な動機ではなく「皆の年金を取り戻す」という目的がある為、主人公のジョシュを自然と応援したくなるんですよね。  そもそも皆の年金が失われたのは「ジョシュが悪人のアーサー・ショウを信頼して、金を預けてしまったから」なので、一種の贖罪行為になってるという点も上手い。  この辺り、ジョシュに全く咎が無いとなると「無償で皆を救おうとする聖人」タイプの主人公になってしまい、ちょっと鼻白んじゃいますからね。  自殺未遂したレスターに同情している、と言い張るアーサーに対し 「……じゃあ、何故レスターが無事か訊かない?」  と静かに問い返す場面も印象的であり、彼の犯行動機が「自分の為」ではなく「他人の為」である事が伝わってくる、良い場面だったと思います。   上述の台詞もそうなんですが、この映画って「如何にも名台詞って感じではない、さりげない台詞が凄く良い」って特長があるんですよね。  特に終盤にて、何とか助かろうと取り引きを持ち掛けるアーサーに対し、主人公達が「チップは頂かない決まり」と答えるのも恰好良くて、痺れちゃいました。  そういった会話劇としての魅力だけでなく「宙吊りの車に掴まって、高層ビルから落ちそうになる」っていうスタント場面もあったりして、視覚的に分かり易い魅力も備わってるし、本当にバランスの良い映画だったと思います。  序盤にて、こっそり司法試験の勉強してたジョシュの部下が、いずれジョシュを助けてくれる展開なんだろうなと思っていたら、やっぱりそうなったって辺りも、実に気持ち良い。   一応、難点も挙げておくなら……  副主人公かと思われた泥棒のスライドが、全然活躍しなかった事が該当するでしょうか。  活躍しないだけなら、まだ良いんだけど「ジョシュとの間に絆が生まれてるように思えなかった」っていうのが、何とも寂しかったですね。  例えば、金を独り占めしようと銃を向ける場面にて、幼馴染であるジョシュとの子供時代を思い出し、結局撃てなくて悪態をつきながら銃を下ろすとか、そういう場面があれば、もっと印象も違ってた気がします。   後は、そもそもの犯行計画が杜撰過ぎるって点も該当しそうだけど……まぁ、この点に関しては「アーサーを終身刑にした代わりに、主人公も窃盗罪で二年ほど服役する」という相討ちに近い結末だった為、さほど違和感は抱かずに済みましたね。  特に悩んだりもせず、淡々と「クィーンを犠牲にする」事を決意した辺り、いざとなったら自分が全ての罪を背負って逮捕されるって、最初から覚悟の上だったんだと思われます。   ラストにて、屋上のプールに隠してた車を取り出す爽快感も素晴らしいし……  色々欠点があるのを承知の上で、それでもなお「傑作」と呼びたくなる。  ベン・スティラーの代表作の一つとして、彼を好きな方には、是非オススメしたいです。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2022-01-12 17:54:23)(良:2票)
16.  JAWS/ジョーズ2 《ネタバレ》 
 ブロディ署長の次男であるショーンくん、随分可愛らしく成長したんだなぁ……と、そんな事に感心。  見た目だけでなく、中身も良い子なもんだから、彼が「主人公の救出を待つ、囚われのヒロイン」的な立ち位置に収まるのも納得でしたね。  この子なら(何としても無事に助け出したい)という気持ちになれるし、主人公を応援し、感情移入する事が出来ます。   前作の一件によって、すっかりサメがトラウマとなり、ビーチで誤解から銃を発砲してしまったブロディ署長。  そんな彼に、周りの皆が呆れて立ち去る中で、ショーンくんだけが寄り添い、一緒に薬莢を拾ってくれる場面なんかも良かったです。  子役だから、長台詞を言わせたりすると、どうしても不自然になってしまうでしょうし、こういう「無言の動き」で優しさを伝えてくれる演出というのは、非常に効果的だったと思います。   サメの倒し方も「感電死」という形で、中々迫力があって良かったですし「無事に息子を助け出してハッピーエンド」という予定調和な結末を迎えるのも、実に気持ち良い。  ブロディ署長が解雇される際に、前作からの知り合いである市長だけは残念そうにしていたというのも、ファンとしては嬉しくなる描写でありました。   そんな具合に、色々と長所がある映画なのですが、短所も同じくらい目に付いてしまいましたね。  まず、サメの造形が初代以上に拙いです。  ヘリに食らい付いて破壊するシーンなど、演出自体は悪くないと思うんですけど、サメの目に全然迫力が無くて、怖くなるどころか「このサメ可愛いなぁ」なんて和んでしまう始末。  サメと心を通い合わせる映画という訳でもなく、作中では純粋な悪役に過ぎないんだから、もうちょっと怖いデザインに仕上げて欲しかったところです。   あと、水上スキーに興じる女性を襲う場面や、ボート上のカップルを襲う場面なんかが、今観ると妙に古臭い。  初代の「JAWS/ジョーズ」だって古さを感じさせる作りではありますが、続編であるはずの本作の方が、更に十年くらい昔の映画に思えちゃったんですよね。  変な話、初代の方が後に作られたと言われても納得しそうになるくらいです。   ティーンエイジャーに成長した長男のマイクにスポットが当たっている為、若者達の青春映画としてのテイストが強いんだけど、主人公はあくまでもブロディ署長というのも、ちょっと歪なバランス。  結局、マイクは最終決戦の直前でアッサリ救助されている為「囚われのお姫様」ポジションとしては、次男のショーンだけで充分だった……という形になっているんですよね。  それならば一緒に弟を助ける為、父親に協力させるなど、もうちょっとマイクに見せ場を与えてやっても良かったんじゃないでしょうか。  スポットの当て方が中途半端で、大した活躍もせず退場という形になっていたのが残念です。   それでも、本作には初代「JAWS/ジョーズ」の雰囲気が色濃く残っている為、正統派な続編として、まず満足出来るクオリティでしたね。  流石にシリーズ四作品もあるとなると、全部まとめて観る事は難しいのですが、本作は初代を観賞した際に、つい一緒に観てしまう事が多いです。
[DVD(吹替)] 6点(2017-08-02 04:29:27)(良:1票)
17.  百万円と苦虫女 《ネタバレ》 
 作中人物に「えっ? 何で?」と思わされる事が多く、残念ながら肌に合わない映画だったみたいです。   まず、主人公の弟が「僕は逃げない」「だから受験はしません」と言い出す理由が分からない。  怪我させた相手に許してもらうまで諦めないというなら、別に中学が変わっても会いに行けば良い話だし、結局は事件を起こして問題児となったから受験を諦めたという、後ろ向きな結論に思えてしまいます。  主人公の彼氏が「彼女にお金を使わせていた理由」を言えなかった事も不自然で、男の見栄がそうさせていたというなら、どう考えても食事を奢ってもらったり借金したりする方が、情けなくて恥ずかしいのではないかなと。  極め付けがラストの主人公の行動で、結局また引っ越すって、どうしても理解出来ない。  「色んな人から逃げていた」と反省したはずなのに「今度こそ次の街で、自分の足で立って歩こうと思います」って、それ典型的な「明日から頑張る」な先送り思考じゃないかと、盛大にツッコんでしまいました。   これまで「自分探し」という行いからも逃げていた主人公が、今度こそ自分探しの旅を始めるという事なのかな……とも思ったのですが「今回は引っ越すけど、次の街では定住してみせる」なんて考えているようなので、そんな解釈すらも不可能。  泣いてスッキリしたら、またまた仕事を辞めて旅立ち「引っ越さずに、この場所で頑張ってみる」「彼氏を信じて待つ」という事さえも出来なかった姿からは、どうにも成長を感じ取る事が出来ません。  そもそも物語の合間に挟まれる「弟がイジメられる光景」が、実に胸糞悪くて、そちらの方が主人公の悩みなんかよりも余程深刻に感じられる辺り、物語の軸がブレているようにも思えました。   監督さんとしては、あの「男女が再会出来ずに、すれ違ってしまう切ないラストシーン」を描きたかったがゆえに、多少の不自然さには目を瞑ってでも、こういうストーリー展開にしたのかなぁ……と推測する次第ですが、真相や如何に。   そんな本作の良かった点としては「かき氷を作るのが上手い」「桃を採るのが上手い」と褒められるシーンにて、こちらも嬉しくなるような、独特の爽やかさがあった事が挙げられますね。  こういった形で「働く喜び」のようなものを描いている映画は、とても貴重だと思います。   同僚の女性に「良いんですか? 誤解されたままじゃないですか」と、長台詞で「不器用な彼氏の真意」を種明かしさせた件に関しても、今になって考えてみると、良かったように思えますね。  当初は(ちょっと分かり易過ぎるよなぁ……)とゲンナリしていたのですが、曖昧なまま「もしかしたら、愛情ゆえにお金を使わせていたのか?」と含みを持たせるだけで終わるよりは、ずっと誠実だったかと。  主人公に「来る訳ないか」と言わせた点も含め、両者の恋愛模様に対し、はっきりと答えを出してみせた姿勢には、好感が持てました。
[DVD(邦画)] 3点(2016-07-20 06:37:06)(良:2票)
18.  オブザーブ・アンド・レポート 《ネタバレ》 
 モールを舞台にした映画という事で楽しみにしていたのですが、ちょっと予想していたものとは違いましたね。   まず、コメディ成分が希薄です。  主人公は精神的な病を抱えた人物であり、笑いを誘う場面よりも、重苦しい雰囲気の漂う場面の方が中心。  警官となる為の体力テストを受ける件では、クスッとさせられる一幕もありましたが、印象的だったのは、そこくらい。  露出狂の犯人がシュールで面白いという面も、あるにはあったのですが、最後は主人公に撃たれて血まみれになって終わりという形なので、どうも爽快感に欠けていたような印象を受けました。   途中から「これはタクシードライバーに近しい映画だったのだな」と気が付き、何とか頭を切り変えようとしたのですが、上手くいかず仕舞い。  病人だから仕方ないとも思うのですが、どうしても主人公に感情移入が出来なかったのですよね。  社会から疎外された可哀想な人、という訳でも無く、実際は母親に同僚にヒロインの女の子にと、周りに良い人が沢山いて支えてもらっているのに、当人だけが自分勝手に悩んで暴走しているように思えて仕方なかったのです。  何といっても衝撃的だったのが、ラストにて犯人を撃ってモール内で殺人未遂を犯しているはずなのに、彼が作中でヒーローとして称賛されるエンディングを迎える事。  そりゃあ正当防衛が成り立つのかも知れないけれど、いくら何でもやり過ぎに思えたし、途中から彼の目的が「愛する女性を守ってあげたい」から「自分を振った女性を見返してやりたい」に摩り替っていたようにも感じられて、応援する気持ちにも、祝福する気持ちにもなれませんでした。   「警官」「化粧品売り場の美女」という主人公を悩ませていた二つの要素に対し、精神的な勝利を収めてみせた終わり方となっており、観客にカタルシスを与えようとしている事は感じられましたし、決して嫌いな映画では無いんですけどね。  音楽の使い方も良かったし、主演のセス・ローゲンも難しい役どころを丁寧に演じてくれていたと思います。  個人的好みとしては、仲良くなった友人が強盗犯だと気が付き、説得を試みるも結局は裏切られてしまう件が一番面白かったので、そこをもっと重点的に描いて欲しかったところです。
[DVD(字幕)] 4点(2016-06-15 03:51:18)(良:1票)
19.  何かが道をやってくる
 物語の前半部にて語られる  「何時か僕が年上になってやる」 「彼女は町一番の美人だった」 「貴方が必要なものは、特製のヘアカラーです」  等の何気ない台詞の数々が、後半にて伏線となっているのが、実に見事。   レイ・ブラッドベリの著作といえば「霧笛」を目当てに購入した「ウは宇宙船のウ」くらしか読んでいなかったりするのですが……  本作のストーリーラインも、非常に秀逸だったと思いますね。  主人公の子供が遊園地で不気味な体験をして、自宅まで追い詰められる事になるという点では「ヘンダーランドの大冒険」の元ネタなのかも?  「後の展開の為に必要な部分だったとはいえ、前半を観ている間は、やや退屈」 「大人になった主人公の回想形式である為、最後は無事に生き延びると分かってしまう」  等の欠点もあるかも知れませんが、それらを補って余りある魅力を感じられました。  特に後者に関しては、さながら途中から主人公が交代したかのように「主人公の父親」の方にスポットが当てられており (もしかして、主人公の身代わりとなって親父さんが死んでしまうのでは?)  とドキドキさせられるという、巧みな仕掛けが施されている形。   逆回転する木馬に乗る事によって、大人が子供に若返るという、とても幻想的でグロテスクな場面も良いですね。  程度の差こそあれど、大人なら誰しもが抱いていそうな「子供に戻りたい」という願望。  そんな願望を刺激して、心の隙間に潜り込んでいく悪魔の姿が、実に恐ろしく描かれている映画でした。
[DVD(吹替)] 7点(2016-05-22 04:11:09)(良:1票)
20.  うた魂♪ 《ネタバレ》 
 「歌っている時の自分が好き」だったナルシストな主人公が「歌う事が好き」になるまでを描いた一品。   恋の妄想に耽り、興奮で鼻血を出してしまう女子高生という、ベタベタな演出を受け入れられるかどうかで、評価も変わってきそうですね。  コメディ映画というジャンルとも少し違っていて、コント映画という印象を受けました。  ゴリや間寛平といった面子が出演している事も、そんな雰囲気を濃くする効果があったように思えます。  そして、この二人がまた良い役どころを演じていたりするのだから、心憎い。   「必死になっている顔に疑問を持つような奴は、一生ダセェまんまだ」  という一言は、特に素晴らしくて、本作最大の名台詞でしょうね。  自らの歌う時の顔が、まるで鮭みたいだと悩む女子高生の孫娘に対し 「大きな口を開けて笑ったり、歌を唄ったりしている時の顔が、一番じゃ」  と話して、悩みを吹き飛ばしてくれる爺ちゃんも、これまた最高。   そんな具合に本作を「コント映画」として楽しんでいた自分としては、尾崎豊リスペクトである湯の川学院の合唱部を応援してしまう気持ちがあり、オオトリを飾るのが主人公達となる事を、残念に思っていたりもしたのですよね。  でも、クライマックスの「あなたに」を聴いた瞬間に、不満も吹き飛んじゃいました。   客席の皆も次々に立ち上がって歌い出す演出は、凄まじくベタで、観ていて恥ずかしいような気持ちになってくる。  それでも、そんなベタな王道演出を、しっかり正面から描いてみせたという作り手の熱意、勇気も伝わってきたりするものだから、自然に感動へと繋がってくれました。   あえて欠点を挙げるとすれば、ストーリーが王道の「部活もの」といった感じで、合唱を題材に選んでいるのに、特に目新しさは感じられない事。  主人公が恋している生徒会長の男子に、魅力というか、恋するに足る説得力を感じられなかった事。  そして、女性ディレクターに、生徒会副会長である恋敵の少女など、今一つ存在意義の薄い人物がいたりする事でしょうか。  全体的に、完成度が高いとは言い難いのですが、皆が楽しそうに合唱する姿を見れば、細かい点は気にならなくなりますね。   「必死になるのは、恥ずかしい事かも知れない」「でも、必死になる姿は間違いなく美しい」というメッセージが込められた、良い映画でした。
[DVD(邦画)] 7点(2016-07-01 05:46:05)(良:2票)

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