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プロフィール
コメント数 450
性別 男性
自己紹介 大阪府出身、岡山県在住、阪神・下柳と同年月日生

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1.  阿片戦争(1943)
まずはクレジットを見ていただきたい。菅井一郎=阿片吸飲者・・・阿片でイカレた菅井一郎の姿が目に浮かび、彼の登場を待ちわびていると、ホンマに阿片をやっているのではと訝りたくなるようなイカレぶりで登場したもんですから、もう満足も満足。いやいやそんなことで満足しちゃ~いけない。原節子と高峰秀子の姉妹役を見よ。盲目の妹を気遣う姉、姉を慕う妹、この二人が別れ別れになっちゃうんですから、もう見る者はその再会こそが映画であると信じながら中国対英国の駆け引きの面白さに身を委ねます。「シャラップ!」、すべて日本人が日本語で喋る作品ながら、たまに挟まれる英語に洒落っ気を感じ、壮大なオープンセットに本気を感じ、そしてチャイナドレスの舞踊や原、高峰の歌にエンターテイメントを感じる。これは阿片戦争を素材にした、ただただマキノの映画です。
[ビデオ(字幕)] 9点(2006-02-18 00:56:14)
2.  あれ
イットガールで名を馳せたクララ・ボウ、アイシャドウの効いたパッチリ大きな目が魅力の女優さん。キャラクター「ベティ・フープ」はこの人がモデルだそうですが、そういやソックリですね。「つばさ」でご存知の人も多いと思いますが、この人は上品というより活発なお嬢さんといった雰囲気です。さてこの「あれ」は、デパートガールのボウが若社長を誘惑しちゃうラブコメディ。遊園地ではしゃぐ無邪気な彼女の姿からは、スキャンダルにまみれ没落した実生活の彼女は想像できません。ここではスカートが突風にまくれるモンローの原型を見ることができます。豊かなボウの表情を中心に切り取りながらスピーディなカット割で話は進み、ドボンと海に転落したボウを救出する男、二人に挟まれた「IT」の文字、なかなかあれな閉め方ですね~。「あなたに“あれ"があれば必ず愛する人を獲得できます」、作中に実際に登場するエリナー・グリン女史がそう言っております。あなたに“あれ”はありますか?
[ビデオ(字幕)] 8点(2006-02-16 00:14:55)(良:1票)
3.  アイアン・ホース
アメリカ大陸横断鉄道建設の夢と希望の固まりに、冒頭10分で愛と復讐の人間ドラマが絡みつくことが予示され、レールが延びるとともに待ち受ける苦難困難に、遥か大平原のロングショットが詩情的に絡みつくサイレントという名の饒舌な映画です。その舌の上で、大量エキストラの鉄道工夫、インディアン、勇壮な牛の大群、酒場の喧騒、ロッキーの雪山が豊潤に溶けていき物語を彩ります。オマハから出発したユニオン・パシフィック鉄道とサクラメントから出発したセントラル・パシフィック鉄道が金のスパイクで結ばれ祝福されたのは、小文字な男と女の再会と、大文字なアメリカ、リンカーン大統領であり、実際使われた本物のアイアン・ホースのキッスは、人間ドラマという小文字の物語と国家という大文字の神話の甘い蜜月関係の始まりであり、“ランド・オブ・プレンティ”なアメリカの始まりにも見えたのでした。媒酌人はジョン・フォード。
[ビデオ(字幕)] 10点(2006-01-23 17:53:49)(良:3票)
4.  按摩と女
温泉宿というのは湯上りの艶かしさから「男」と「女」の危うい関係を湯煙の向こうに垣間見せ、フィルムに湿った情感を貼り付けます。清水宏さんは、後年にも温泉宿を舞台に『簪(かんざし)』を撮ったり、温泉情緒が好きだったようですね。さてこの作品ですが、按摩さんを主人公に「目が見えない」ことを語るのは、今の世俗の価値観ではまぁ考えられません。『菊次郎の夏』でたけしが杖を振り回すような意味(ギャグ)を持つのではなく、ここでは按摩さんが実にのびのびと自然に杖を振り回し、そこには意味がないのです。「目が見えない」按摩さんが普通にいるのです。その按摩の前に登場するのが、高峰三枝子。そこにいるだけで「女」を意識させますな~、あの和服、傘。そして子ども。男女の機微に盲目な子どもの自然な振る舞いと台詞が「男」と「女」をさらに意識させます。目が見えないから心の目で真実が見えるといった常識に落ち着かず、ラストの雨。温泉場の湿った情感に、さらに潤いと艶を与えるこの雨のラストに「男」と「女」、そして清水宏を感じるのです。
[ビデオ(字幕)] 9点(2005-11-09 17:15:48)
5.  赤い風船
少年と青い風船を持った女の子とのランデブーなんか何度見てもかわいくて好きだな~。風船の赤が鮮やかなカラー画面、雨上がりの石畳をこちらに走ってくる少年のシルエット、狭い路地を走る少年と赤い風船の一体感、逆光に透ける風船に囲まれた少年の表情・・・本当にいいですね~。唯物的であるはずの風船のこれほど豊かな表情は、そのへんの役者の喜怒哀楽に満ちた表情よりどんなにも優しく純粋で心温を感じさせてくれます。「風船のような軽やかな気分に浸ること間違いなし」とアドバルーンをあげておきます。
[ビデオ(字幕)] 10点(2005-06-28 12:59:47)(良:1票)
6.  アルジェの戦い
2時間のフィルムの凄絶な迫真性は一瞬たりとも気を緩めることを許しません。何万人もの現地人がエキストラ参加したアルジェ対仏戦線のリアルな映像は、モノクロが大成功しています。爆発シーンに巻き上がる白い煙は、カラーだとその白さが浮いてしまい煙の白さだけが一人歩きしてしまったのではないでしょうか。爆発の煙の生々しさも映画の一部に過ぎない、独立運動の一部に過ぎないと感じられます。打楽器が奏でるテロリズムのリズムが鑑賞後も余韻を残し、傑作と呼ぶ自分に「あなたはこの映画を評価できるような生き方をしていますか」と鋭利なナイフを突きつけてくるような傑作であります。
[CS・衛星(字幕)] 10点(2005-05-16 00:29:43)(良:1票)
7.  赤目四十八瀧心中未遂
なぜ尼崎なのかと問われた男が一言「甲子園に近いから」、そして赤目の食堂で高校野球のアナウンスが余韻を残すように聞こえてから一気にイメージが広がりました。この男は、少年時代に来る日も練習した野球、憧れの甲子園、そういった遠き日の姿、生気ある過去への憧憬とまだ自分にも生きる価値、可能性があるのではないかという生への欲求、それとそれが幻想であらんとする死への欲求(死への欲求は生きている証拠である)、その両者の精神的心中に及んだのではないのか、と。尼の地で生暖かな生を抹殺し、血の通わない物体として生きることを選択することで、必然、臓物に串刺す反復運動はそのシンボルとなります。そうイメージすると、赤目の食堂で死に向かわんとする女を前にし、高校野球のアナウンスが男の心に届くように響いているのは、男の精神的心中が未遂に終わっている証左であって、その後の四十八瀧での男女心中が未遂となることはその時点で確定されており、見守るアパートの住人達はただ未遂の上書きの目撃証人としての地位を与えられ安楽しているように見えました。そして蝶を捕まえ切れなかったというその男に特権たる過去は、現在において衆人の知るところとして復権し、女の死への欲求は鮮やかに生へと転換し、男の卑小ぶりと女の飛翔ぶりを剥き出しにしています。そんなイメージが膨らんだ点においてこの映画を評価したいと思うのです。
[DVD(字幕)] 8点(2005-05-10 12:29:47)(良:1票)
8.  当り屋勘太
「アイ・ガット・マーマン」でその生涯がミュージカル化されたエセル・マーマン。この映画はなんといってもそのマーマンのショーダンスシーンが素晴らしい♪ 前半と後半に二度そのシーンがありますが魅せ方が大きく変わります。前半のシーンは、マーマンのクローズアップやダンサーを縦に並べた構図などを斜めに撮ったりしながら曲に合わせてそのショットをモンタージュし魅せます。後半は、引いたショットを立体的に使い、フロアの鏡面を利用した実像と鏡像のシンクロ美を綺麗に魅せるのですが、なんとフロアに写った像が実物と違う動きをみせる視覚効果に驚愕! マーマンはストーリィ内でもファムファタールな役柄を演じておりますが、ショーのシーンを見ても無表情な中に薄っすらと笑みを浮かべるチャームな雰囲気です。すっかりマーマンのことばかりですが、トーキーの申し子エディ・カンターも歌って踊って、ラストの遊園地での右へ左へ上へ下への大スペクタクルなドタバタには大爆笑です。そしてカンターのボディガード役のハリー・パークが神出鬼没、頼りになるのかならないのかのキャラもよく効いており、ほんと笑わされます。見事なアミューズメントパーク、満足度100%の100分間をお楽しみ下さい。
10点(2004-12-10 23:52:57)
9.  赤西蠣太
昭和11年に作られた保存状態のよくないモノクロの時代劇で、これだけモダンでハイセンスな作品を見ることができるとは、イッツミラクル~~です。オープニングからピアノ音をバックに、雨に打たれる木→灯りの反射した地面を打つ雨→俯瞰ショットの傘二つ→伊達家家紋の瓦→字幕が入り、猫が一匹家屋へ・・・もうこれだけでこの作品の気品がうかがわれます。さっきの猫が行ったり来たりといったユーモア、テンポ、粋な会話、省略技法・・・ほぼ完璧であります。按摩師の殺害を角を曲がってから音だけで表現しているあたりは、「ライフイズビューティフル」が真似たのではないかな~と思ってしまいます。原田甲斐の登壇に、家臣がドミノ倒しのように次々と座っていく移動撮影、恋文の返事を読む赤西にインポーズされる小波といったカメラも見どころにあふれてる~。さらに片岡千恵蔵演じる、赤西と原田のコントラスト。女にまったく縁のない鈍そうな赤西、威厳あふれる勘の鋭い原田・・・この演じ分けもさすがです。終幕、メンデルスゾーンが炸裂し、クラシックと時代劇が見事に結ばれたのであります。イッツワンダフル!
10点(2004-11-09 23:25:49)(良:2票)
10.  アダム氏とマダム
舞台作品の映画化ということでブロードウェイの演出家出身のジョージ・キューカーさんが舞台的緊張感をそのままぶつけたような作品に仕上げております。ヘップバーン演じる弁護士がジュディ・ホリデイから事情聴取するシーン、延々と5分ほどがカットを割らずに撮られています。このシーンで、ヘップバーンをくっているのが、ジュディ・ホリデイのとぼけたコメディエンヌぶり・・・冒頭からの挙動不審ぶりや、拳銃を撃つのに説明書を読んだりとおかしさを出しているのですが、この事情聴取の会話のかみ合わなさは、殺人未遂という重々しさとの落差で余計に笑わされます。ストーリィは男女同権を素材に、トレイシーとヘップバーンの弁護士夫婦が、家庭という私的空間ではパートナーとして、裁判所という公的空間ではライバルとして過ごしているうちに・・・という内容です。私生活でもホットな関係であった二人ですから二重に見応えがありますね~。ラストのラストにトレーシーが語る言葉は、女性贔屓といわれた監督の巷間への反語のように聞こえて痛快でした。あ~お腹がすいた。←見た人だけがわかるネタですいません。
7点(2004-11-07 23:41:38)
11.  新しき土
日独防共協定を背景に両国がそれぞれの思惑で作った合作映画です。ドイツの監督にアーノルド・ファンク、日本の監督に伊丹万作が当りましたが、意見が衝突、結局、ファンク版と伊丹万作版が出来上がり別々に公開されたようです。私が見たのはファンク版で、日本の風土に普通に育った者から見ると、とにかくおかしなところのオンパレード。さま~ずの三村に是非つっこんでいただきたい(笑)。例えば、富士山の近くに住んでいるはずが裏庭が安芸の宮島、東京音頭をバックに阪神電車のネオン、着物に草履の原節子が噴火する山にどんどんと登って行く、などなど。また日本文化の象徴たる事物の羅列は和的スパイラルのごとくとどまるところなし。富士山、桜、歌舞伎、相撲、お寺、仏像、屋台・・・、しかしこれは日本をドイツ国民に好意的に紹介するという使命を帯びた作品で、ドイツ人のファンクから見るとこういう映像になりますよ、ということを知ることができます。それらを切り取ったアングストのカメラは美しいです。ストーリィは、ドイツ語題を「侍の娘」というように、日本の美徳、因習と西洋の進歩主義のはざまに起こるドラマで、17歳の原節子がその娘を熱演しており、早川雪舟が原の父親役で競演しているのは、映画ファンならずともわくわくしますね~。ラストは、これは国策映画です!ということが直球で描かれていますが、そういう時代であったのだということを知る貴重なフィルムとして評価させていたたきます。←結局評価するのかよ!(三村調)
8点(2004-10-23 21:25:56)(笑:1票)
12.  或る夜の出来事
私はバイオリズムが低下した時には、この作品のあの歌い踊るバスシーン、「ブランコ乗り」の歌のシーンを見ることで少しでも元気を取り戻すのです。コルベールとゲイブルが一緒に口ずさむ楽しそうな表情、なんと楽しそうな表情・・・2番を歌う水兵が、軽やかに荷物置きにぶら下がったり腕をはばたかせたり、3番の途中から席を立ち上がるピーター・ジャクソン風の傘を持ったおじさんのダンス・・・凡百のカウンセリングを受けるよりよっぽど気持が昂ぶります。昂ぶりすぎて涙が出るときもあります。ドキュメント「キャプラのアメリカンドリーム」ではこのシーンの歌が、エンドクレジットで流れるのですが、歌詞にキャプラの人生がかぶさって涙腺ゆるゆるでした。今週はこのサイトでもなにか出来事があって気分が滅入っていたので、「ブランコ乗り」のバスシーンを何度も何度も見ては救われました。これまで正直10点まではどうかなぁ~と思っていましたが、今週は堂々と10点を付けたいと思います。
10点(2004-10-15 21:58:44)(良:2票)
13.  兄いもうと(1936)
夏、河川工事に精を出す人足衆、叱咤しながら指揮する親分。間違いなく頑固親父の画を描き、そこに英百合子さん演じる妻が、ふかした芋をもってやって来て人足衆を労います。この2人が兄いもうとの父と母で、彼らの人物像を見せた後、兄といもうとの会話へとつなげていきます。丸山定夫さん演じる兄と竹久千恵子さん演じる上の妹の一本気なところは父親似、堀越節子さん演じる下の妹のおっとりした感じは母親似、ってとこでしょうか。実家である家屋が、また生活臭を感じさせて素晴らしいんです。土間でご飯の支度をする母のショットや、開け放たれた障子の向うに広がる土手は、それだけで絵になるんです。秋、冬が過ぎ、春がやってきます。ここは郵便配達人を配し、おちる葉っぱや、雪のショット、虫とり網をもった子供たちのショットで語ってきます。外に出ている妹2人が帰って来る時ののどかなロケーションは、口の悪さを見せるもののそれぞれにやさしさを持つ家族の肖像のようでした。そして後半は、兄とワケありの上の妹がすさまじい口論をします。その時の、竹久千恵子さんの圧倒的な口調に見せる女の強さ、その騒ぎが落ち着いた後にもらす口調に見せる女のやさしさ。兄の妹への思いはそれまでに直接的に語られるシーンがあるのですが、兄が家から去っていく後ろ姿の超ロングショットにもそれがにじみでておりました。また夏がやって来て、人足衆を鼓舞する父親の姿。このラストシーンはこの父の持つやさしさ、いつまでも変わらない家族の絆・・・なかなかの傑作です。
8点(2004-10-10 21:56:47)
14.  当りっ子ハリー
チャップリンやキートン、ロイドに比べると知名度は劣りますが、ハリー・ラングドンもサイレント時代を代表する喜劇役者、だそうです。私もこの作品で初めて彼を見ました。童顔に白塗りの顔、年齢不詳、誰やねん!といった風貌で、巻き込まれ型の笑いを提供してくれます。キャプラはこのラングドンのもとで喜劇作家として売り出し、この作品では監督をつとめました。後半のミュージックホールではラングドンの見せ場全開なのですが、ストーリィはまさにキャプラタッチです。静かな街が金と資本に蹂躙され、金の亡者が経営するミュージックホールは、刹那的な快楽にふける客で大賑わい。静かな街を取り戻さんと立ち上がる牧師と善良なる市民たち。ハリーと牧師の娘である盲目の少女との恋が並列に描かれ、ハリーのドタバタ一人舞台の大騒ぎを見せ、大いに笑わせた後には、さらりとハリーと少女のハッピーエンド。目が見えるハリーが石につまずきこけるラストは憎いったらありゃしないです。ラングドンの雄姿を見ることができる貴重なフィルムであるとともに、キャプラタッチをも堪能できるこの作品、当り、であります。
8点(2004-10-03 23:55:10)(良:2票)
15.  アラン
ドキュメンタリーの父、フラハティさん。最近私が目にしただけでも、本多猪四郎やフレッド・ジンネマンが強く影響を受けていることを読みました。さて、この「アラン」、アイルランドのアラン諸島、少年とその父母。微生物をも拒むようなゴツゴツし痩せた大地、サメが回遊する海、屹立した岩にぶつかる白い波しぶき。それらアランの自然と黙々とそれに挑む人々の生活を、長回しではなく、とにかくカットを割って語ってきます。サメと格闘するシーンなどは、パラパラマンガのような目まぐるしさ。サメの油は灯火用であり、生活、日常に欠かせない必需品。家庭での団らんという穏やかなるものを獲得するために潜む厳しさを浮き立たせます。後半、天候が荒れた中、岸に向かって帰ってくる小舟、ただよう小舟、編物をする妻やジャガイモを食べる少年、寄り添う犬、灯火のアップ、それらモンタージュが一大アラン叙事詩を形成しクライマックスへと向かいます。ラスト、一家が去っていく超ロングショットの背中は、これからも変わらず続く生活が未来へと溶け込んでいくようでありました。ドキュメンタリーといえど、カメラが回れば人は意識する、なら少し台詞を与え、カットを無数に割ることで、リアリズムを逆手に取ったようなリアリズムを生み出そう、そんな意気を強く感じさせていただいた作品であります。
9点(2004-09-23 23:15:39)
16.  アマデウス
「自ら天才だとは自覚していない天才、である神=モーツァルト」「自ら天才ではないことを自覚している天才、である人間=サリエリ」、この図式が全編を支配しており、この両者の溝をきわやかに描くために、モーツァルトの甲高い笑い声やサリエリの神経質そうなしかめっ面が画面にのせられます。ながれるモーツァルトの天衣無縫な楽曲がその溝をさらに深め、サリエリのアンビバレントな感覚を浮かび上がられていきます。カメラは、壮美な美術、衣装、舞台セットの質感を損ねないように、でしゃばらないことに気をつかっているような印象を受けました。モーツァルトとサリエリの二人がデフォルメされ、少し分かりやすすぎるきらいを感じるのがどうもなー、といったところであります。
7点(2004-09-17 11:28:11)(良:1票)
17.  悪魔のような女(1955) 《ネタバレ》 
前半で殺人の過程を提示し、プールの水を抜くところから一気にミステリー度が加速。ニコルが学校を去ってからはサスペンス度が怒涛のうねり。そしてホラーでさらりと締めくくる。うーん、見所たっぷりでございます。サスペンスは、不安にかられるクリスティーナの陰影、光をぼんやりあてたり、上半身だけあてたり、窓際から漏れる光をあてたり、とこのあたりの演出はしびれます。前半にも、車が通り過ぎる水たまりのショット、小石を投げ波紋が広がるプールの水面のショットをさりげなく射し込み、「水」がキーであることを表現。前日の魚料理が出てくることや、おまけにバスタブ2階の住人が聞いていたラジオのクイズ番組の問題が、「モザンビーク海峡をはさむ地は?」とこれまた水に関わる懲りようで、それらを発見する楽しみも与えてくれております。そんでもってラストのラスト、学校閉鎖の日にまで壁際に向かって立たされる少年モネの背中・・・こんなのアンリ!?
9点(2004-09-05 00:46:55)(良:1票)
18.  アドルフの画集
鉄工所を改造したマックスのアトリエ、室内装飾など、美術はかなり丁寧に時間をかけて製作されているような印象でした。そしてこの時代の不穏な雰囲気に似合う抑制された照明と、それを捉えるカメラも美しく、スタッフ技術の確かさがうかがえました。鷹のオブジェがそびえる屋上から地上にカメラを向け、上を向くアドルフを捉えたシーン、鷹という天上舞う鳥からの視線=神の視座でヒトラーを見せること、これがラストの俯瞰ショットに見事につながっていると感じました。ラストシーンの俯瞰は、柔らかいオレンジの光あふれる大通りと、青白い光に照らされる広場が同時に捉えられ、背中あわせに織り成される皮肉な運命を浮かび上がらせます。しかし、それが神の視座であることを知ると、けっしてこのストーリィがタラ、レバの興味本位なものではなく、ヒトラーという人間をモチーフにしながら、その場面場面の運命を受け入れる力、人間の受容力が晒されたもので、そこから人はどう生きるのかが大事である、という摂理が提示されているのではないかなー、と感じているところであります。
8点(2004-07-10 14:26:12)
19.  
どこを切り取ってもポストカードにできそうな美しい構図が、降りそそぐ雨のごとく、見る者に降り注いできます。マイナスイオンのシャワーでも浴びたような気分でした。こんな作品は、もう抱きしめてあげたいぐらい好きです。軒下の長回しのシーンは、動いては止まる2人を追い続け、クロフォードの向こうにテーブルを囲む泊り客を捉え、そのままカメラは回り込んで、降りしきる雨を捉えます。まさに泊り客と雨に挟まれるクロフォード。さてこの長回し、どう次のカットにつなげるのか、と思って見ていたら、フレームから2人が消えた瞬間、素早くパンして室内へ、そこへまた2人が現れ、と見事に緩が急になってつながっていきました。んー、隙がない。ウォルターが狂気に駆り立てられるシーンは、部屋の明かりが消えた瞬間、雨の音、呪術的な太鼓の音が、じわじわとクレッシェンドで奏でられ、沸点へと近付いていきます。そのウォルターのファナティックな表情、これは怖い!そして、当然のように晴れ上がったラスト。憐れは相対的に捉えるもんではない、との摂理を語り、クロフォードは去っていきました。クロフォードの日本語には、言えてないぞ!とつっこみたくなりますが、そんなとこつっこんでも“シカタガナイ”ので満点献上です。
10点(2004-07-08 20:11:14)(良:1票)
20.  青髭八人目の妻
ルビッチ作品でワイルダー、ブラケットが脚本を担当したのは、これと『ニノチカ』ですが、特にこの作品は、上品にストーリィを組み立てるルビッチタッチというよりも、いかにもワイルダーの脚本でございます、といった風情になっておりますね。ルビッチの作品は、純粋な恋愛のかけひきを軽妙洒脱に描くことで、見ているものをルビッチワールドに誘い込むのですが、この作品は財産という金銭欲が恋愛にからまることで、少しアクの強い作品になっている、といえましょうか。私の中では、『ニノチカ』も含めて、ルビッチ+ワイルダー=最高傑作とはなっていないところに映画の奥深さを感じているところであります。
7点(2004-07-02 19:12:21)(良:1票)
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