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1.  アップサイドダウン 重力の恋人 《ネタバレ》 
美しい映像を楽しむための映画です。まるで大型美術館のなかに「二重重力の世界」が存在するかのようです。観客は美術鑑賞を楽しんでください。あくまでもストーリー重視ではなく、視覚重視の映画です。試されているのは観客の感性なのです。上と下の世界がそんなに遠くない距離にあるところが素敵でした。ロープを使って上から下へ。また下から上へ。面白いじゃないですか。遠そうで近い距離にある上と下の世界─。会社内ではジャンプをすれば、下の社員は上の社員にタッチできそうだ。しかし見た目は近そうでも、そこにはルールが存在し、実質的には遠いのですね。この上と下の、曖昧模糊とした距離感が絶妙です。もはやこのシュチエーションは芸術だ。恋愛の描写は素直にかわいいと思います。スパイダーマンよろしく、いつしかダンストは、アクロバットなキスをする女優と呼ばれるでしょう。それと青年のほうは必死すぎて笑えます。お前は体が燃えているのに彼女を追いかけるのかよ。残酷な現実が二人を引き裂けば、より一層強く惹かれ合う(by宇多田)というのは、天地開闢以来の恋愛の真実のようです。重力の都合でアクロバットなキスが多かった2人ですが、しっかりとセックスもしていたようです。さぞかしアクロバットなセックスだったのでしょう。やはりロープでどちらかを縛ってやったのでしょうか。さすがに映像化はできなかったようです。いずれにせよ、できちゃった婚で、メデタシ、メデタシ。ご存じの通り、この映画には矛盾が多いです。しかし私はこういう想像力に富んだアイデアを素直に面白いと思える感性を持った観客でありたいと思います。  
[DVD(字幕)] 8点(2014-09-21 20:47:22)(良:1票)
2.  アナと雪の女王 《ネタバレ》 
Let it Goは「解放」を意味します。唐突ですが性同一性障害であることを隠す人々。障害と言われるがそれは本当に悪いことなのだろうか?エルサの魔力は悪いのか?世間は彼らを許さない。しかし悪いわけがない。それは生まれ持っての性質なのだ。だったら明かしてしまおう!カミングアウトしよう!この曲を聴くことにより、世間の声に縛られたマイノリティたちは解放され、しがらみから解放されるのです。カミングアウトした彼女の「生き方」に、私は激しく共感できる。私も同じ気持ちだ。それがこの映画と曲が愛される最大の理由だと思います。Let it Go・・乱暴に翻訳すると、「世間の声なんて気にしない。私は私は肯定することにした!」です。もう周りの目を気にするのはやめよう、自分の好きなことをやろう、自分の本当の姿を隠すのはやめよう、隠すことをやめ、真の自分の姿をさらけ出したエルサの生きざまと、Let it Goにスタンディングオベーションは必死です。中世の世界観も良い。そしてもう1人のヒロインの妹─。雪のお城のドアをノックするのをためらう彼女は、子供時代から姉の部屋をノックして拒絶され、トラウマになっていた。妹のカラダを傷つけたくない幸薄女王は、妹のココロを傷つけてきたことに気が付かない。ダメだ・・もうこの時点で号泣だった。愛しているという妹の叫びと、愛さないでほしいと叫ぶ姉・・・。「わたしは孤独。しかし自由よ」と嘘ぶく幸薄女王。彼女がだんだんダークサイドに堕ちていく展開に年甲斐もなくハラハラドキドキした。そしてラストシーン・・。泣いた。妹はキスをすれば命が助かるというありきたりな設定。しかし目の前には殺されかけた幸薄女王が!自分の命か、それとも姉の命かという究極の二者選択。妹はなんの躊躇もなく姉を助けて凍死。姉に対する無償の愛だった。愛されてはいけないと思い込んで生きてきた幸薄女王が、ようやく愛を受け入れた時、氷は解けた。鼻水が出るほど泣ける。字幕で観るか、吹き替えで観るか悩んでいるならば、今回は字幕で観てください。
[映画館(字幕)] 10点(2014-03-29 08:50:23)(笑:1票) (良:1票)
3.  悪の教典 《ネタバレ》 
命の尊厳がまったくありませんでした。大人が子供をゲーム感覚で殺していく、それだけでした。この映画を一言で表現するならば、娯楽殺人映画です。私は主人公が人を殺すシーンを観ても楽しいとは思いませんでした。しかし世の中には人が人を殺すシーンを観て、「楽しい」と感じる人間はいます。だからこそ、こういう映画に需要があるのでしょう。動いている標的を存分に撃ちたい!という一部の人間の下品な欲求を満たしてくれる危険な映画です。監督はこう言っているのです。「おまえら弱者は、自分たちよりも弱い生き物を狙って殺したいんだろ?だったら見せてやるよ」と。猟銃をスポーツだと嘘ぶく悪趣味な連中も、しょせん無抵抗な動く標的を撃ち殺したいだけです。シューティングゲーム感覚で、もっと撃て!もっと倒れろ!もっと殺せ!殺し方が退屈だぞ!もっと面白い殺し方をしろ!センスの良い音楽を流しながら人を殺せ!と熱狂する観客たちはやはりいる。そうじゃなければこんな残虐な映画は誰も作りません。ホラーにニーズがある世の中は、人間が病んでいることの象徴です。一番、悪質なのは「精神異常者は処罰されないのだ」という社会的なメッセージを織り込んで、さもヒューマン映画ふうに装っていることです。そもそも人を殺す人間は、正常ではありえないわけですから、そんなことを言ったら殺人者は全員無罪じゃないですか。私は納得できません。とくに映画という芸術が、殺人ゲームの道具として利用されてしまったことは許せません。テレビゲームは、ボタン1つで人間を殺してクリアをするものです。殺された人間は血しぶきが出るし、悲鳴を上げてくれる。それをみてオタクゲーマーは満足する。私は問いたい。ゲームと同じことを映画の中でも繰り返して、いったい何が楽しいのですか?この映画は誰にも観てほしくありません。
[DVD(邦画)] 0点(2013-05-19 10:37:42)(良:2票)
4.  アルゴ 《ネタバレ》 
これぞハリウッド。これぞアメリカバンザイ映画。いくら事実に基づいたものとはいえ、ここまで脚色してしまったら、中国が作った抗日映画と同じレベルです。そもそもアメリカ大使館員の人質はあの6名だけじゃなくもっと大勢いた。しかし誰1人殺されずに、のちに全員解放されています。つまり、あの6名が「ムチャ逃げ」する意味はまったくなかったのです。逃げなかった大使館員からは、6人の行動はどう映ったか?おそらく騒ぎを広げて、周りに迷惑をかけた自分勝手な6人と見えたでしょう。つまりこの事件のもう1つの側面は、あの6人が、ほかの大使館員を全員置き去りして勝手に逃げたということ、そしてCIAや外国のカナダまでもが、6人の尻拭いをしたということに尽きる。その事実をカモフラージュするために、イラン人は邪悪で捕まったら鬼のように食べられてしまうというイメージを観客に植え付けさせ、6人の異常行動を正当化しようとしていた。しかも映像がツタヤの発掘良品のように汚い、大スクリーンで観る必然性が感じられない、俳優は物真似重視、あげくのはてに意図的に作られた危機意識、白々しい緊張感、見事な曲解、これぞ正真正銘のクソ映画、クソ監督に乾杯。私も叫ばせてください。アルゴくそ食らえ。
[DVD(字幕)] 1点(2013-05-06 14:45:57)(笑:1票) (良:2票)
5.  アジョシ 《ネタバレ》 
恐ろしいほどカッコいい男だな、と素直に感じた。この男、韓国では四天王の1人と呼ばれている最高クラスの男優らしい。なるほど、単なるイケメンじゃ説明できないカッコよさが爆発していた。日本のジャニーズタレントが、副業で映画に出演しているのとは、あまりにもレベルが違いすぎる。歌手か芸能人か分からない中途半端なキムタクや嵐の演技が大根に見えてくる。特に「強すぎる主人公」という設定に対して何の違和感も感じない。普通は強すぎると、敵とのバランスが崩れて面白くないとほざく観客もいるものだが、強くて当然、と思わせる説得力がある。無口ゆえにセリフは極端に少ないが、眼力だけで演技している。思わず、お前なら強すぎても許す!と言ってしまう。素晴らしい、これが四天王の実力か。もちろん四天王を取り巻く悪役たちの演技力もずば抜けて秀逸だ。特にあの殺し屋だ。強いだけではなく、四天王と同じオーラを持っている。つまり影だ。彼も影を引きずって生きていた。そんな殺し屋が、娘に対して、人としての感情を見せたがゆえに、四天王に負けて殺されてしまうというシーンは非常に切ない。ばんそうこうの伏線がうますぎる。悪対正義という単純な構図ではない所も、薄っぺらなアクション映画とは一線を画している。ラストシーンで防弾ガラスにムチャクチャ銃を打ち込んで貫いてしまうシーンなんて、もし日本の俳優にやらせたら大根演技で終わってしまうだろう。四天王だからこそ魅せることができた印象に残るシーンだと思う。ハードバイオレンスなので常に血が飛び仕切るが、人身売買のクソやろうたちの血なのでむしろ痛快だ。返り血を浴びた四天王は怖い。しかしである。最後に娘が近づいてきたときに、「血で汚れるから俺に触るな」と言ったとき、この男の恐ろしいまでの孤独を実感して、不覚にも泣いてしまった。そんな孤独な男を娘は抱きしめる。誰が誰を救ったのか分からなくなる。私には娘が男を救ったように見えた。だからまた泣いた。やはり映画は俳優の演技が一番大切だ。サンキューフォーエバーアジョシ。
[DVD(字幕)] 8点(2013-04-01 22:02:04)(良:1票)
6.  愛のむきだし 《ネタバレ》 
主役は3人。ユウ(西島)、ヨーコ(満島)、コイケ(安藤)です。満島ばかりが注目されていますが、安藤がじつに素晴らしい。彼女は悪役です。しかし父親から虐待を受け続け、ある日父親のペニスを切り落とし、学校では不健全性的行為を行う生徒を刺しまくって、返り血で真っ赤になり、あげくのはてに「壊れちまえ」とつぶやきながら日本刀で自分の腹を刺して爆死するという病んだ現代日本においては、どこにでもいそうなリアル女の子です。それでも存在感は満島を超えていた。もし、私が懺悔することがあるとするならば、彼女に好意を持ったことでしょう。冒頭の乱闘するヨーコは良かった。この女は男を憎むことによって輝きを増す。しかしである。なぜか後半から腑抜けのように弱くなってしまう。ユウごときに拉致されるなよ。しかもこの拉致によってヨーコは逆洗脳されてしまうのだ。それともう1人の主人公ユウ。お前の変態行為(盗撮)は、父のための偽りの変態行為だ。本当の変態たちに大変失礼だ。オタクじゃないのにオタクを演じる芸能人と同様に商業的パフォーマンスに見える。それにこの男は私の知る限り、3人は殺っている。しかし精神異常者で無罪。精神病院へ。ラストでヨーコのおかげで正気を取り戻す。感動どころか、正常者に戻ったのなら死刑になれよ、と私は怒りのあまり叫んでいた。お前の「原罪」は盗撮じゃなく人殺しだと気が付くべきだ。しかも勃起は愛なのか?じゃあ健全な我々は、妻以外の女性たちに勃起したらそれも愛か?むしろ妻より勃起してしまったらどうする気だ?違う、だから違うのだ。愛とは共感なのだ。けっして性欲ではない。だからコイケのユウに対する「共感」は紛れもなく愛だと私は思っている。それが罪の共感であっても。しかし親から愛情を受けずに育ったコイケの愛情表現はゆがんでいた。愛をむきだしにできる人間はむしろ健全だ。しかし愛をむきだしにできないからこそ、トラウマを抱えた我々は犯罪者のように苦しむのだ。ユウの父親が言う。「今日の罪はなんだ?」お前は自分の罪に逆切れしただけだ。だから「罪人は俺だけじゃなくて善人顔のお前もそうだろ?」と自分の息子に詰問したのだ。コメディは不要だ。盗撮シーンで一時間以上も使っておいて何が4時間の超大作だ。ちなみに盗撮は変態じゃなく犯罪です。今日も私の地元では学校の先生が盗撮で逮捕されました。
[DVD(邦画)] 2点(2012-09-09 21:10:14)(良:1票)
7.  悪人 《ネタバレ》 
1つポイントがある。なぜ殺された佳乃は悪人にされたのか?それは殺されても仕方のない人間にするためである。すべては金髪を善人にするための手法。善人という概念は、悪人が存在してはじめて成り立つ。悪人とは誰か?と問いかけながら金髪のまわりに悪人を次々と作り出し、1人の殺人者を善人に仕立て上げるという手法です。昔、男が女性を痴漢する映画があったが、あれも痴漢された女性を悪人に仕立て上げることによって、男の犯罪行為を正当化していたことを思い出した。こういう手法は卑劣である。女性が男に殺されることは、女性にも非があるという強烈なメッセージ。これぞ男社会、これぞ男尊主義思想。原作者の小説は、男にレイプされた女性が、レイプした男に惚れてしまう話など、内容がどれも男にとって都合がいいものが多い。つまり光代は原作者の思想が反映された十八番のキャラクター。彼女は男たちの妄想が生み出した女神の象徴。一途に男に惚れる女は、どんな罪を犯した男をも善人に仕立て上げ、男のナルシズムを昇華させる役割を担っている。つまり深津は世の中の男たちの欲求をおおいに満足させた。だから彼女の演技は賞賛を受けた。そして金髪の苦悩。彼の苦悩は人間失格とのたまう太宰のように自己陶酔を帯びている。言い換えるならば甘美な絶望に浸るナルシスト。金髪はオペラ座の怪人ファントムの分身。もちろん光代はクリスティーヌ。その役柄のおかげで深津は神々しいまでに輝くことができた。しかし彼女はバカな男を愛する女ではない。バカ男に同情できる女なのだ。それゆえにクリスティーヌなのだ。そしてバカ男が力の弱い何も抵抗できない女を殺した罪─。悪いのは全部周りのせいなのか?バカ男はかわいそうな生き物なのか?私はその手には乗らない。弱者である女性を痛めつける男の本質がみえた。本当の悪人はもう分かったでしょう。 
[映画館(邦画)] 0点(2010-09-18 09:19:35)(良:1票)
8.  青い鳥(2008) 《ネタバレ》 
なぜ子供は明るくて無邪気なのか分かりますか?それはまだ人生経験が短くて、大きな心の痛みを受けていないからです。そのかわり、痛みがない分、他人の痛みにも鈍感だ。だから少し変な子を見つけたら、平気で笑いの種にするし、いじめの対象にしたりする。障害者も笑いものにしても罪を感じない。子供は明るくて天使。その一方で未完成ゆえに残酷。原作の重松さんは、子供の天使の面と、悪魔の面の二面性を常に描き続けてきた作家です。子供の本質は痛みを受けたことがないから他人の痛みが分からない。いじめているんじゃない。ただみんなで笑いあいたいだけなんだ。なんでそんなにショックを受けるんだよ?面白いだろ?笑えるだろ?おそらく悪気はない。それが子供。親にとって子供は天使。しかし子供にとって子供という存在は、時として自分に致命傷を与えるナイフ。大人になるということは傷付くこと。傷付くことによってはじめて他人の傷を理解できる。そしてやさしくなれる。人間ってそんなもの。この先生はそれを教えようとしただけ。子供に反省させようとか、そんなことは本質じゃない。先生が吃音なのは重松さん本人が吃音だったから。そんなことどうでもいい。いっぱい傷付いた人だから描ける物語もあるというだけのこと。子供って明るいし残酷なんです。私が子供の頃、一番恐かったのはやはり子供でした。 
[DVD(邦画)] 5点(2010-03-19 23:15:16)
9.  愛を読むひと 《ネタバレ》 
ポイントは2つ。なぜ彼女は死を選んだのか?なぜ彼女は文盲であることをひたすら隠し通したのか?文盲であることを知られるのが恐くて、裁判で死刑になるかもしれない罪を受け入れてしまう彼女の心理状態がよく分からない人も多いと思います。大抵の人はあの裁判所で偶然彼女を見つけたら「彼女は文盲だから無実だ」と叫んで救おうとするでしょう。しかしあのエロ青年はそれをしなかった。このときはじめて、こいつはただのエロじゃないと見直しました。この監督の「めぐりあう時間たち」をご覧になればさらに理解が深まると思いますが、人間は地雷で手足を失っても頑張って生きている人もいれば、第三者からみればこんな他愛のないことで?という理由で、あっけなく自殺する人もいる。それらの違いは、強い人間と、弱い人間の違いではありません。人が感じる不幸や屈辱は相対的なのです。彼女にとって文盲が他人に知られることは憤死に等しい恥辱であった─。少なくとも男は愛する女性のそういう本質を理解していた。ではなぜ彼女は自分を愛してくれた男と出会った直後に死を決意したのか?1つだけ言えることは、「坊や」と過ごした当時の彼女は、彼を愛していなかったことです。しかし、長い刑務所生活のなかで、男との生活が自分の人生のなかで一番輝いていたことを悟った─。多くの人間は、例外なく、「幸せ」を失ってから「幸せ」だったことに気がつきます。それが人生です。彼女は刑務所のなかで、はじめて彼を愛し始めた。それなのに出所の直前に男と出会った彼女は、もう自分が愛されていないことに気がつく。愛を読んでくれた男はいつのまにかクソジジイになり、自分はクソババアになっている。もう過去には戻れないという事実─。彼女は自分の人生にとって一番輝かしい過去の思い出を守るために死を選んだ。しかし、実は男は彼女を愛していたのである。男自身がその事実に気がついたのは、やはり彼女を失ってからでした。人は失ったあとに、失ったものの大切さに気がつく。これも人生です。
[DVD(字幕)] 7点(2010-03-04 19:38:02)(良:4票)
10.  アメリカン・ギャングスター 《ネタバレ》 
ギャングスターとは思い切ったタイトルをつけたものです。悪事の限りを尽くした男は、本当にスターなのでしょうか?実在したフランクルーカスという醜悪でブサイクな悪党を、ハンサムなデンゼルに演じさせて、まるで一流のビジネスマンに見せかけています。「おれの商品はブランドだから品質を低下させるな」と麻薬の代理店に、のたまう様子は、まるでスイスの高級腕時計でも売りさばいている経営者ではないかと錯覚しそうになる。また、同業者から「おまえんとこの麻薬は安すぎるから相場が崩れる」と苦情を受けても、「私どもの商品は、安いだけではなく、品質も良いので、より多くのお客様に愛用されています」と言ってのける。おまえはダイエーの中内功か。麻薬の流通コストを抑えて、みんなが安いお金で買えるようになったという論調です。ルーカスが平気で人を殺すエピソードはあるものの、基本的には、彼は経営の神様のように撮られている。そのうえ家族想いで、教会でお祈りまで捧げていやがる。アメリカ史上最高の偽善者じゃありませんか。偽善という点ではラッセル刑事も負けていない。自分のことを、正直な男だと思い込んでいるが、平気で愛する妻と子供を裏切って、情事にふける汚い男です。離婚されて子供をとられて当然です。こういうバカ男に息子を愛する資格なんてありません。それとですね、殺人・麻薬など、残虐非道の限りを尽くしたルーカスですが、他人の罪をチクッたことにより、懲役70年の刑が、たった15年でムショから出てこられる司法取引という制度もいかがなものでしょうか?しかもその後、彼はまた罪を犯して逮捕されているというありさま。実は頭が悪いのかもしれません。何よりも驚くのは、まだこの男は生きているという事実。なにゆえに悪党は、こんなにしぶとくて長生きするのでしょうか。右を見回しても左を見回しても、この世の中は偽善者ばかり。本当の正直者は、自殺したあの悪徳刑事かもしれません。
[DVD(字幕)] 2点(2008-12-11 19:44:04)
11.  アンフィニッシュ・ライフ 《ネタバレ》 
テーマは「赦し」です。一匹の凶暴なクマをとおして、「赦す」ことの意味を問いかけています。熊は好きで人間を襲うのではない、そもそも人間が熊の住む場所を奪っているという事実がある。ある日ミッチを半殺しにしたクマが捕獲される。もし日本だったらすぐに殺される運命でしょうが、本作の舞台であるワイオミング州では動物と人間の「共生」の思想が根付いている。動植物たちの住処を荒らすことなく、自然の摂理に任せて暮らしている。ここを訪れたら、私たち現代人が、失った多くのものを感じ取ることができるでしょう。ミッチが自分を襲ったクマを動物園からこっそり逃がしてくれ、と言った理由は、アイナーに「赦す」ことの意味を教えたかったから。アイナーと孫娘が命がけでクマを逃がしたまでは良かったのですが、クマは逃亡中にミッチとばったり出会う。笑う場面じゃありませんがつい笑ってしまった。自分が逃がしたクマに二度もフルボッコにされたら笑い話にもなりませんね。ミッチとクマのにらみ合いは圧巻でした。素直に感動しました。この「クマさん効果」もあって、ガンコオヤジのアイナーは自分の息子を死なせたジーンを憎んでいましたが、徐々に変化していく。そして彼女の娘(孫娘)と接していくうちに凍った心が氷解していく。1ヶ月の滞在だったはずが、「娘を学校に通わせたい」とまで言うようになる。この話は「赦す」ことだけがテーマじゃない。誰かを赦し、赦したことによって自分自身が救われる物語だ。ワイオミング州の「動物と人間の共生」という精神を背景に、赦した相手との「共生」が描かれている。それから私はあえてここで有名俳優たちの名前を出しませんでした。なぜならアイナー、ミッチ、ジーンという3人の「役名」のみが脳裏に浮かんできたからです。まるで3人が実物の人間であるかのように自然でした。物語のなかで俳優の名前を観客に感じさせない名演技を久しぶりに堪能しました
[DVD(字幕)] 9点(2008-11-18 23:36:14)(良:1票)
12.  アース
人間が感じる孤独などは北極の前では笑い話にすぎません。人間は生きることに意味を求めたがる。自分の存在価値を必死に求めて悩んでどうなる?生きるということは、ただそれだけでも立派なことではないのか?この映画は自殺大国日本には必見です。自殺の本質とは、生きることが当然の権利だと思い込んできた傲慢な人間の反動です。対照的に水を求めるゾウたちの姿をみて命の躍動を感じずにはいられません。もし社会が悪いから自殺が増えていると本気で思っている人間がいるならば、今すぐシロクマのホラ穴にホームスティに行ってこい。死に急ぐ若者にいたっては白クマのエサになって貢献しろ。それが本当のリサイクル精神だ。これは生きる意味の根源を問いかけた名作だ。生きるのが難しい時代こそ、本来の生物ならば生きたいという気持ちは強くなり、生命は輝きを増す!それができない人間は何かを失っている。本能の欠如した動物だと言われても仕方ない。本当の「命」とは、劣悪な環境であるほど燃え上がる。本作品の映像がそれを物語っています。じつにすばらしい・・改めて命の素晴らしさを感じました。 
[DVD(字幕)] 8点(2008-07-16 00:02:40)(良:1票)
13.  アイ・アム・レジェンド 《ネタバレ》 
もうすこしB級色の濃い明るいゾンビ映画を期待していましたが、すごく真面目なゾンビ映画でした。だから息が詰まりそうでした。まずゾンビが頭がいい。主人公が宙吊りのトラップをしかけたのを見てゾンビたちは真似をする。主人公は難しい研究をしているくせにイライラするほどマヌケです。突然マネキンにキレて銃を乱発したあげく、罠にはまって宙吊りにされて気絶してしまう。それなのに飼い犬に「おれは大丈夫だぜ」と余裕をかましておきながらヒモを切った自分のナイフに足を突き刺してしまう。さっさと死ねよ、と真剣に思いました。主人公のドジのせいで死んだイヌがかわいそうです。ところで人間が失望をするときはどういうときでしょうか?それは希望を持っているときです。希望を持っているからこそ失望という感情が芽生えるのだと思います。たとえば主人公が非常に怒ったシーンがありましたよね。その理由は別な場所に人間が生存していると、女性から聞かされたからです。あのときそれを聞かされた主人公は恐くて仕方なかったのだと思います。なぜなら主人公はすでに何度も希望を抱いてそのたび失望してきたからです。治療薬をつくる作業もまさに希望と失望の繰り返しです。あまりにも多くの失望を経験しすぎたため希望を持つことを無意識のうちに避けるようになった。もう二度と希望を抱いてそのために失望を繰り返して傷付きたくなかった。それがあのときの彼の怒りの源泉です。彼は希望を捨てた男だったのです。その男が死ぬ間際になって希望を持った。そのシーンがかなり感動的です。主人公にとって治療薬の完成は、今までずっと沈黙してきた神がようやく姿を見せたということに他になりません。「この治療薬でゾンビになっているおまえたちを救ってやれる!」と涙を流して叫んでいる主人公の様子にもらい泣きしそうになりました。救ってやりたいなら車でひき殺すなよ、と少しだけ思いましたが。いろいろな意味で今回のウィルスミスはヘタレなのか救世主なのか天才のか天然ボケなのかつかみにくいキャラでした。だけどこれが人間の本当の姿なのでしょう。これはけっこうヒューマンドラマです。 
[DVD(字幕)] 7点(2008-05-05 22:44:28)(良:4票)
14.  アポカリプト 《ネタバレ》 
残虐シーンをみせるために作られた映画でした。どれだけ文明が進化しても人間の本能は、無意識のうちに殺戮シーンを好むようにできています。ゲームや漫画の目的もつきつめれば殺し合いです。ただし「殺した」という表現は使わずに「倒した」という言葉でやさしく本質を包み隠している。メルギブソンのつくる映画はそのような人間の隠し持つ根源的な攻撃本能ともいえる欲求を常に満たしている。しかし見せ方が露骨だというだけです。露悪趣味もここまで一貫性があるならばかえって潔い。1つ気になったのは「足」です。カメラはなかなか足をうつさない。しかし主人公は裸足であのデンジャラスな森を疾走していたと思う。カメラの照準をもっと「足」にあわせても良かったのではないか。そして見所はなんといっても逃げるシーン。「ジャガーを連れてきた男に気をつけろ」という予言がありました。連れてきたというより追いかけられているだけやろ!と突っ込むのは野暮なのでやめておきます。あのジャガーは本物だという。すごい存在感だった。視聴率低迷に悩むアカデミー賞なんだから、サプライズでジャガーに助演男優賞を与えるくらいの演出をしても良かったと思う。レッドカーペッドを疾走するジャガーがみたかった。 
[DVD(字幕)] 7点(2008-03-08 19:04:41)(笑:2票)
15.  アビエイター 《ネタバレ》 
ハワードは夢を追いかけた人物として描かれていましたが、彼のやっていたことは、お金を湯水のように使って壮大な自分探しをしていただけのように感じました。経済学者のケインズだったらマクロ的な見地にたってハワードを擁護するでしょうが、さすがに庶民レベルではこの金の使い方は理解しがたい。同じ金持ちでもビルゲイツの金の使い方は、最終的には自分の全財産の95%を寄付すると言っているように社会への還元を目的としている。偉いですね。ただしビルゲイツじゃ映画にならないということです。ハワードの場合はコンプレックスや性格の欠陥が多すぎた。だから逆にヒューマニズムの観点から映画にすることができた。ハワードこそ人間の本質です。だから私はハワードは嫌いじゃない。若造の彼がお金にモノを言わせて、異分野である映画界に殴りこみをかける様子はバカらしくも痛快じゃありませんか。まるでハワードは日本のホリエモンです。ただしアメリカらしいのは、ハワードは吊るし上げられるはずだった上院調査委員会で逆に議員たちを論破して世論から喝采を浴びる。日本のマスコミだったらこういう異邦人の若者はバッシングしてつぶしてしまう。アメリカはだから強いのだと思う  
[DVD(字幕)] 7点(2007-08-29 20:56:48)
16.  アフガン零年 《ネタバレ》 
なんで神さまは「女」をつくられたのだろうか?という台詞が一番印象に残りました。これはまさに女たちのジハード。 女性が男たちから人間扱いにされていないという事実に驚かされる。 いや本当に女性は人間以下の犬並みの扱いです。犬(女)は働く必要がない、ご主人様(男)に飼われて、餌を与えてもらうだけで良いということか。 この話は、女が働けないことが1つのテーマになっています。 働けない、ということはそれだけで、自立できないことを意味します。 自立ができないということは、養ってもらう必要があります。もうその時点で女は支配される側にまわっている。 どこの国であっても、多少の男社会を形成していて、女性差別はありますが、タリバン政権における過激なイスラム原理主義は、女性を同じ人間と見ていないほど過酷な差別があります。 女の子の主人公は、男になりすまして生き延びようと試みるのですが、女であることがばれたら本気で殺されると思い込んでいる。 まるで女であることが大きな罪であるかのように感じさせるこの映画の設定は、イスラム原理主義の異常さを鮮明に映し出しているように思う。 その教育を受ける子供たちは、上半身を揺さぶりながら、コーランを唱える・・。唯一主人公のために涙を流したあの男の子も、こういう環境のなかで、いずれは洗脳されていくのでしょう。幼い子供たちが、大人たちから教えられることは、イスラムの教えに反する者に罰を与える方法だった。神を愛することよりも、敵を憎むことに重きをおいて教えている。私は宗教の本質は排除だと思う。 宗教とは人を救うことよりも、人を苦しめることのほうが多いのかもしれない。
[DVD(字幕)] 8点(2006-12-01 22:35:49)
17.  ある子供 《ネタバレ》 
台詞以外に聞こえてくる音といえば車の生々しい排気音のみであり、余計な音楽がまるでなく研ぎ澄まされている。あの突然の幕引き、そして無音のエンドロールをむかえて軽い衝撃を受けたり戸惑いを覚えた人も多いだろうが、あの終わり方だからこそ想像力が刺激されることもある。泣きながら抱き合った夫婦はその後、妻が夫に離婚届の用紙をそっと突き出したのかもしれないし、再びやり直そうと言われたのかもしれない、それは分からないが想像力だけは膨らんでいく。1つの見方としては、男のほうは散々な目にはあっているが、罪の意識や再生の決意は見られないということ。しかし少なくとも監督はこの男の生き方を全面的に否定していないのではないだろうか?やはり最後は男に希望を持たせ再生を促しているように思えてならない。「ある子供」とはブリュノのことだと思うが、子供(ブリュノ)は成長が遅くともいつかは大人になれると信じたい。このブリュノの行動をみて「親失格の駄目人間」というレッテルを貼って、理解できないよと肩をすくめてしまえば、それだけで思考はストップしてしまい、それだったらテレビのワイドショーを眺めるのとなんら変わらない。単純にいい人間と悪い人間に区別できない人間の複雑さがこの映画にはたくさん詰まっている。「子供を売る」というセンセーショナルな話題で観客をひきつけ、「親になりきれない幼い大人」という地味な現実を描く。それが監督の狙いだろう。幼い親の姿を、台詞や音楽や効果音を多用せずに、映像のみで観客に伝えようとしている。まさにそれは映画的手法であり、観る者はそのメッセージをしっかり受けとめ、自分なりの答えを見つけ出そうと必死で想像力を働かせる。「ある子供」は間違いなくダルデンヌ監督の到達点のひとつだと思う。
[映画館(字幕)] 10点(2006-04-22 21:35:28)(良:3票)
18.  アモーレス・ペロス 《ネタバレ》 
これを観てどうしても1つだけ気になることがある。それは犬を虐待していたのではないだろうか?という疑問である。 いい映画だけど、それが犬の犠牲によって成り立っているならばこの映画は最低だ。そこで犬の虐待の真相を確かめるべくDVDのメイキングをみる。すると「残酷な映像がありますが、あれは全て特殊撮影なので私たちはワンちゃんたちにまったく危害を加えていませんよ(笑)」と満面の笑みを浮かべて製作者や俳優たちが説明していたがそれを見て私の疑惑はますます深まるばかり。さらにこんなことを言っている。「犬たちは訓練されていてとても優秀なんです、撮影中はクーラーつきの部屋で快適に過ごしていましたよ(笑)」とまた笑う。どうもあやしい。イヌが血みどろの殺し合いをするシーンは特殊撮影だとしても、イヌに死体の真似やいかにも息も絶え絶えという演技ができるとは到底思えない。一番強烈なシーンはイヌを銃で撃ちぬくところだ。あれは明らかにイヌは痛がっていたぞ!監督よ、何をした?すると彼らはこのように言い放つ。「この撮影のあいだにワンちゃんと私たちは信頼関係を築きあげました(笑)」なぜか笑顔だ。ますますあやしい。疑惑の炎が燃え上がる。犬の安否が気になって映画に集中できないんだっつーの!!  
[DVD(字幕)] 6点(2006-03-28 18:42:42)
19.  アメリカン・ラプソディ 《ネタバレ》 
ハンガリーからアメリカに亡命するとき、1人だけ家族から置き去りにされてしまった女の子が、ようやくアメリカで家族と再会したとき、すでに女の子と家族との間に深い亀裂が生じていました。 この女の子は監督自身です。これが監督の自伝映画だということは、DVDのメイキングで知りました。一度壊れた家族の絆は元に戻るのか?家族とは何か? 人にとってふるさととは何か? これは私のツボを直撃した映画でした。 前半の6歳の主人公は、可愛らしい女の子が演じ、後半の16歳になった主人公は、スカーレット・ヨハンソンが演じています。 特に印象的な場面は、このスカーレットが、家族の反対を押し切って、ハンガリーにいる育ての親に会いにいくところです。 美しいブダペストの街並みを、物思いに耽りながら、彼女が歩いていく姿は、まるで美術品を見ている様に、絵になる光景でした。 それと主人公の育ての親は本当に人が良い人たちなのですが、逆にそれが育ての親と、生みの親との狭間で、彼女が悩み続ける原因になっていくのでした。 実の母親と娘の激しい争いも見られます。スカーレットのヤンキー姉ちゃんぶりも必見ですが、母親を演じるナスターシャキンスキーも、娘から愛されない苦悩をうまく演じていました。 娘から愛されないと焦る母親の気持ちが、娘に対する束縛心に変貌し、それが異常な行動を駆り立てて、悲劇へとつながっていきます。 家族のあいだでおこる様々な困難を抱えつつ、スカーレットがブダペストで知った真実とはなにか? 旅を通して1人の少女が大きく成長した様子が伺えます。これは家族の再生の物語。 家族に悩みと救いと希望を抱く人の道しるべになりえる作品。
[DVD(字幕)] 10点(2005-12-06 22:32:45)
20.  アララトの聖母 《ネタバレ》 
日本人がこの映画をみて頭に浮かべることは、いまだに中国から「嘘」か「本当」か分からない南京虐殺事件を責められていることだと思います。 興味深かったのは、アルメニア人大虐殺映画に主演してしまったハーフのトルコ人役者の心の葛藤です。 これは日本人が中国に行って南京虐殺映画に主演するようなもの。たとえ役者としての出世がかかっているにせよ後悔の念や自己嫌悪で苦しんでいる様子が随所に伺えます。 憎しみから何も生まれないとはよく言います。歴史認識に関しては疑問はありましたが、アルメニア人の両親をもつエゴヤン監督にとってこれは、自分のルーツを確認するための映画なのかもしれない。 しかしこの映画は歴史を扱っただけの映画ではなく私は再生の物語だと感じました。 これだけは絶対に言いたいことですが、この映画は時間軸の使い方が非常にうまく、3つの時間の流れと、2つの家族が丁寧に描かれています。 これほど完璧な構成力を持った映画にお目にかかることは1年に1度あるかないかだと思う。 登場人物では、父親の死に対する悲しみを義母への怒りに変えてしまった娘や、どうしてもゲイの息子を認められない堅物の父親(税関の仕事をしている)が特に印象的でした。 娘の悲しみが怒りに変わる心理はアルメニアの歴史と似ている。 そしてこの2つの壊れかかった家族が、アルメニアの主人公をきっかけにして再生していく─。 娘の刑務所のシーンや車のシーンがそれに当たります。 ところで取調室で主人公の少年を救ったのは税関検査官ですが、本当に救われたのは税関検査官だと思う。 赦すという事が理解に変わり自分が変わることもある。 そしてアルメニアの画家ゴーキーが時間軸を越えて現在の義母の前に現れたあの瞬間、監督がこの映画に望んでいた本当の目的が見えてきました。これはアルメニアに深い想いを抱く監督が作った執念の傑作です。なんと素晴らしい構成力を持った映画でしょうか。
[DVD(字幕)] 10点(2005-08-22 19:56:51)(良:1票)
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