1. アイアン・スカイ
映画秘宝系キワモノと断じてはならぬ。何の茶番もない、極めて真っ当、真摯かつ志の高い傑作。素晴らしい。つまらぬギャグが玉にきず。 [映画館(字幕)] 10点(2012-10-03 22:27:12) |
2. アンノウン(2011)
例えば写真展のシーンなど、ヒッチコック的なショットを交えながら、決してオマージュにとどまらない自分の画面としているあたり実に大人だし、ブルーノ・ガンツとフランク・ランジェラのやりとりをフルショット主体で捉える、ダイアン・クルーガーのとまどいや恐怖を不意に挿入する等、繊細な演出も光る。「蝋人形」「エスター」に続いて、ジャウム・コレット=セラ、なかなかやる。 [映画館(字幕)] 10点(2011-05-25 10:11:27)(良:1票) |
3. アメリカン・パイ in バンド合宿<OV>
このシリーズが素晴らしいのは、人生のある時期の普遍的な感情を思い起こさせてくれること。しかも、「アメリカンパイ」(意訳すると「こんにゃく」か、古いか)というタイトルがそうであるように「あるある」ギャグの羅列に終始している風でありながら、しかししっかりと映画としてみせてくれること。そしてすべての登場人物たちに向ける視線が優しいこと。■例えば、スティフラー弟に待ちぼうけを食った少女が川床でぽつんと座る、そのシーンはやがて時を経過して、夕暮れから夜へとその光を変えていく。このロングショットの素晴らしさ。あるいは、パーティーに加わらず一人楽器の練習をしている少女、窓越しに彼女を捉えたほんの短いロングショット(この後で「オーボエ挿入」ギャグに変わってしまうのだけれど)。あるいは、スティフラー弟と少女が並んで横たわっている俯瞰ショット。二人の感情が高まっていくのをじっとみつめる長回しの素晴らしさ。■もちろん、ギャグの運びは単調だし、ストーリーは行き当たりばったりではあるけれど、そんなことはどうでもいい。まるで登場人物たちのすべてを愛しているかのように、彼ら彼女らをささやかに見守り続ける映画がそこにあるのだ。そしてラストでは、アメリカ映画ではどんなことだって起こる、その素晴らしさを満喫することができる。■監督はスティーブ・ラッシュ。「キャント・バイ・ミー・ラブ」でもオタクたちに優しい目を向けていた&古典的な技を身につけた手堅い人。もっとがんばってほしいんだけれど。■ちなみに、アリエル・ケベルという新人さんが素晴らしくよい。アリソン・ハニガンを超えアメパイ史上最高の萌え系。ファンになった。がんばってほしい。ジェシカ・アルバによく似てるが。 [DVD(字幕)] 10点(2006-01-03 23:18:22)(良:1票) |
4. 悪の階段
《ネタバレ》 イニシャルKさん、先んじてごめんなさい。■不動産屋とか西村晃とかどうも今村昌平の「果てしなき欲望」を思い起こさせるんだが、こっちは純粋にミステリー、ってのが好感大。後半はほぼ不動産屋だけで展開されるのも、団令子の悪女ぶりも実によい。何の罪も無い女を平気で殺そうとする団令子にしびれてほしい。鈴木英夫のクールなタッチがフランス映画みたいに決まりに決まった傑作。 [映画館(字幕)] 10点(2005-11-07 10:31:35)(良:1票) |
5. 悪魔のいけにえ4/レジェンド・オブ・レザーフェイス
1作目の脚本家による実質リメイク作。主役の娘が義父から性的虐待を受けているといった設定や、レザーフェイスがあくまでも家族の一員でしかないなど、脚本が何をやりたかったのかがよくわかる。わかんないけど。■それにとどまらず、リムジンに乗った政府要人の登場に、変態一家の家長の義足に、セスナ機の老夫婦に私は震えた。何がなんだかわからない、というのはとても恐ろしい。 [映画館(字幕)] 10点(2005-08-25 11:07:06)(良:1票) |
6. “アイデンティティー”
《ネタバレ》 この映画が面白いのは「多重人格者の頭の中」で起こる殺人事件、という設定を途中でバラしていること。この設定がもし結末でバラされていたら「ふざけんなよ」である。頭ん中ならなんだってOKじゃん、って話だ。■しかしこの映画の眼目は「多重人格者の頭の中」で、連続殺人事件の形をとりながら、「多重人格を矯正する」「一つの人格にする」こと。だから途中でネタをばらし、ジョン・キューザックは真犯人を捜す=多重人格を矯正するために、探偵としてモーテルに再登場する。つまり、「多重人格者の頭の中」という新たなルール設定のもとで犯人探しが行われる、いわばSFミステリーの形式をとること。■また、途中までの連続殺人事件もなかなか堂にいっていて、シャツに血が付きジャケットには血の付いていないレイ・リオッタとか、交通事故死した人物のナンバーキーを発見する段取りとか、インディアンの呪いを暗示するとか、ミステリーファンには嬉しい趣向も多く、これはなかなかの佳作、実にワクワクするいい映画だと思う。(記憶が結構薄れているのでディティールに間違いあるかもしれませんが)しかし、あのデブ禿げがキューザックつうのはちょっと厚かましいよな。 [映画館(字幕)] 10点(2005-05-11 00:54:55) |
7. 赤目四十八瀧心中未遂
主人公の青年はただの負け犬で、自分では「死ぬ為に生きてる」などと呟いてはいるが、実はなんとか生きることの口実をつけようとしてるだけのように見える。もちろん映画はこの男をヒーロー然と描こうとはしない。その事務的な毎日を綴るだけだ。そして彼の前に現れる奇妙な人々もまた、なんら象徴的な意味を帯びてはいず、ただ彼のつまらない日常を通り過ぎていく。この前半は、何というか、臓物を串に刺すそのリズムが妙に心地よいように、ただただ面白い。■そして後半、登場する女は、何というか、まとわりつく「死」を一生懸命振り払って、一生懸命生きていこうとする女だ。なにしろ、彼女と「くりそつ」な兄貴は暴力と死に満ちているし、愛人は「刺しちがえる覚悟」で仕事をしているのだから。■このような男と女の「死」への道行きがはじまる。その齟齬から生じる可笑しさと幻想、対比がうみだす「生」の素晴らしさ。■しかし彼女は悟る。「あんたはあかんな」と呟くとき、彼女はすべてを悟ったのだ。この男が「死」に憧れつつも常に「生」の側におり、自分は常に「死」の側にいるのだということを。いくら懸命に振り払っても「死」は自分につきまとっているのだと。自らの存在が「死」をよびこんでいるのだと。それでも生きていこうとする寺島が素晴らしい。■そして男もまた気づく。自分は死ぬことも生きることもできない負け犬であることを。「死の中だからこその悦楽」も「生」もまたただの幻想に過ぎなかったことを。女が生の証として与えたパンティーはなく、自分が社会不適応者だと告知してある明解さんだけが手元に残る。実は少年時代に知っていたはずなのに。彼は美しい蝶をつかまえることはできない。それは悲しく、そして実に可笑しい。合掌。 10点(2004-08-22 10:16:54)(良:4票) |
8. アメリカン・パイ3:ウェディング大作戦
主役が落ち着いちゃったためドラマが構成しにくくなり、脇であったスティフラーが主役となった、そのための違和感はある。しかし、ドラマをかき回すだけの存在であった傍役を見事に主役に据え、結婚式に向かって盛り上げ、細かいネタを積み重ねる力量は、前二作以上ではないかと思う。「チョコレート」「変態バチェラパーティー」なんぞ、ああ、これぞスクリューボールコメディ、よくできたシナリオを見事に演出すること、それを観る幸せ。さらに高校時代から結婚まで、ノスタルジックな感慨に耽るというアメ・パイならではの感動も健在。個人的には、アリソン・ハニガンの天然ぼけをもっと強調して欲しかったのだけど、ひとまず、ほんとに良かった良かった。こいつら成長したなぁ、って思わせてくれるシリーズなんて、そうないすよ。涙涙。 ……でも、映画館で観たかった…。 10点(2004-06-27 00:23:12)(良:1票) |
9. 赤ひげ
すべてが物語に奉仕する。観客はただ黒沢の思惑通り、物語の中に誘導される。江戸の街並みを本物以上に本物らしく再現したセットは、その部分しかみせてはくれない。なぜなら、物語に必要ではないから。雨や風は物語の小道具でしかなく、物語上の意味以外に付与されることはない。役者たちもまた同様である。黒沢は、物語が求める以上の芝居を役者たちに許すことはない。余剰の感じられないことの醜さ、物語ではなく、人間を演じることを禁じられた哀しさ。杉村春子は一世一代の拙い演技を披露する、香川京子は精一杯、醜い様を演じようとする、笠智衆は自分のパロディを演じることに精一杯だ。なぜなら物語がそれを要請しているから。あとは、そのような物語をアップ、ロング、ミドルと、三台の望遠レンズで流し撮りするだけ。距離感を無効にし、ただ役者たちを本物らしく撮ろうとするだけのために使われる望遠ショット。その、なんと醜く、官僚的なことか。そして、1カットが持つ意味、カットの連鎖が与える快感、つなぎの妙など、まったく味わうことも出来ないまま、観客たちは、黒沢によって与えられた教条的な物語を読むばかり。観客には自由はないのだ。こんなものは映画ではない。少なくとも、映画を観る醍醐味や、楽しさは、この映画にはひとかけらもない。黒沢は映画を撮ったのではなく、物語、それも黒沢という独裁者による教条的、説教臭い物語を語っただけだ。 0点(2004-03-30 23:36:21)(良:2票) |
10. 赤い天使
増村保造はあまり好きな作家ではない。あの「ぐいぐい」感がどーも淡泊な私には疲れる。好きな人にはたまらぬだろうし、これぞ映画だ、ってのもわかるが、もちょっと簡潔にいこうよ、って思う。ただし、「情念」ではなく、単に面白い物語を語る際には、その「ぐいぐい」感はたまらぬ魅力となる。この映画もそうだし、「妻は告白する」までの初期作品、「黒」シリーズ、「陸軍中野学校」あたりは大好きだ。まずお話が面白い上、クールでスピーディー、高松英郎や仲村隆らの濃いメンツが「ぐいぐい」押しまくるのを観ると、なんだか無類に昂奮する。若尾文子もいいが、増村の男たちもいい。で、不思議なのは「赤い天使」だ。この映画の無表情は一体なんなのだろう?戦争は人間性を剥奪する、多分、それがこの映画の無表情の理由だ。しかし、だからといって、これほどまでに無表情で、感情の起伏に乏しい人々を並べてしまってもいいのだろうか?ところが、そんな彼らがやってることは、いつもの増村タッチ。きわめて無表情に「ぐいぐい」行動するのだ。変な映画、理屈が映画を制御し、それ以外に余白はない映画。と、言ってしまうと悪口みたいだがそうではなく、この映画の「理屈」の徹底ぶりこそが感動的なのです。こんな映画、そうないっすよ。 10点(2004-01-17 11:41:44) |
11. 藍色夏恋
このタイトルで、台湾映画で、ってなると、自然光を生かしたロングショット、望遠レンズを多用し、長まわし、と、ホウ・シャオ・シェンの縮小再生産かい、って感じで、どーも観る気が起こらず、で、観たら、案の定そうで、しかも、深夜のプールやら、がらんとした体育館やら、自転車の高校生やら、登場するイメージがどうも陳腐で安直。やれやれと思ってみていたら、物語上のある仕掛けが妙に利きはじめ、そうなると、今まで陳腐だと思っていたイメージが俄然普遍性をもちはじめる。うむ、よくできた青春映画だ。よーする、こーゆーの好きな人にはこたえられまへん。「がんばっていきまっしょい」が好きな人は必見ですな。 7点(2004-01-17 02:51:20) |
12. アパートの鍵貸します
ビリー・ワイルダーは飽きる、というのが私の意見です。どう?この小道具の使い方、といったこれみよがし、この話法かっこいいしょ、といったしたり顔が、どーも鼻についてくる。しかし、この映画はいかんともしがたい。中学生の時、深夜テレビの画面に向かって涙し、拍手して以来、どうにもこの映画だけは心のワンオブベスト、恥ずかしながら「傑作」と呟かざるをえない。何が凄いって、「ひびの入ったコンパクト」が凄い。ジャック・レモン、シャーリー・マクレーン、フレッド・マクマレイ、バラバラに描いていた三者の関係がコンパクト一つで一気にまとまり、物語がダイナミックに転回する。物語を語るとはこれだ。この「コンパクト」は凄い。そしてラストのマクレーンの疾走感が凄い。ほんの2、3秒のカットなのだが、静かな物語を解放するかのように、走るマクレーンの横顔を捉えた移動ショットの素晴らしさ!この歓喜に満ちた表情を見るために私は映画を見ているのだ。ビリー・ワイルダーは今ひとつだ、と思う。でもこの映画は忘れられない。 10点(2003-12-07 20:22:06)(良:6票) |