1. 暗殺の森
《ネタバレ》 町山智浩の解説付き上映で観てきました。 なぜイタリア人のベルトルッチが、フランスや中国やアフリカやインドを舞台にして映画を撮ったのか、以前から疑問に思っているのですが、この映画ではイタリアとフランスが対比されているので、この後にフランスで「ラスト・タンゴ・イン・パリ」が撮られた理由もそのことに関係するのかもしれません。また、町山智浩の解説によれば、この映画は「ラストエンペラー」の構造によく似ているとのこと。つまり、みずからをファシズムの檻の中に閉じ込めた男の物語なのですね。のみならず、同性愛や舞踏会のモチーフの使い方もよく似ているとのことです。 また、町山は「ベルトルッチが師匠ゴダールのような左翼になりきれなかった」との趣旨の話をしていました。たしかにベルトルッチは(思想的にはファシズムに否定的だったとしても)、なんだかんだでファシズムのグロテスクな美しさを浮かび上がらせている面があるし、複雑ながら結果的にファシズムと同性愛の親和性を認めてしまっているようにも見える。つまり、思想的にはファシズムを否定していながら、美学的には肯定しているように見えるし、政治的倒錯が性的倒錯に重なり合うファシズムの美学的誘惑から逃れていないように思えるのよね。逆にいうと、ゴダールは、その種の「美学」に懐疑的だったのでしょう。 これがベルトルッチの最大の魅力であると同時に危うさでもあり、そういうところは日本の鈴木清順にも近い気がします。ヴィットリオ・ストラーロの映像も、そういう側面から批評的に捉えねばならないのでしょうし、坂本龍一の音楽だって、やはりゴダールの批評よりはベルトルッチの美学に近いんじゃないかと思います。さらにいえば、これはベルトルッチのセクハラ問題とも無関係ではないかもしれない。 でも、作品の素晴らしさは傑出しているし、ジョルジュ・ドルリューの音楽もヤバかったし、やっぱり9点はつけたくなります。 [映画館(字幕)] 9点(2023-11-11 10:06:11) |
2. 悪名(1961)
《ネタバレ》 GYAOの無料動画で視聴。とても面白かった。9点! 序盤はケンカばかりで、ただのむさい男たちのチンピラ映画かと思いましたが、女が登場するたびに画面が華やいで色香を増していき、終わってみれば意外なほどモダンな映画だったという印象です。 最初に出てきた中田康子はムンムンと下卑た色気がありすぎでしたが、次に出てきた水谷良重は、不美人ながらも物腰に"しな"があって、とても絵になっていた。とくに二階から屋根づたいに逃げるシーンはスペクタクルとして秀でていました。監督の田中徳三は「手錠無用」でも勝新をピンクのベッドに寝かせていましたが、水谷良重との寝起きのシーンでもピンク色を巧みに使って、勝新を可愛らしく見せていました。中村玉緒も美人じゃないけど可愛かったです。映画のなかでも実生活さながらに婚約してたのね(笑)。 工場の煙突が見える広い空き地の決闘シーンもカッコよかったし、自動車の撮り方なども粋でおシャレだったし、京都嵐山で女二人と別れるシーンも美しかった。 勝新は、同時期の「座頭市」では五十歳前後の貫禄ある中年男を演じてるのに、「悪名」では二十歳そこそこの小柄なあんちゃんを演じてる。まったく別の人間に見えるのがすごいです。角刈りでヒョロっとした田宮二郎はエンピツみたいでした。 シルクハットも含めてヤクザの親分たちはみんな弱っちく、ラストも大乱闘になるかと思いきや、女親分とサシで決着をつけて終幕。それがまた粋な終わり方で洒落ています。なお、地中海を舞台にしたイタリアのマフィア映画みたいに船で島を往来するわけですが、なぜ舞台を因島にしたのか調べてみたら、あの女親分が実在の人物だったのですね。 [インターネット(邦画)] 9点(2023-01-23 22:18:45) |
3. 暗殺のオペラ
《ネタバレ》 GYAOの無料動画で視聴。 非凡でした。これまで観たものはイタリア国外を舞台にした作品が多かったので、あまりベルトルッチに「イタリアらしさ」を感じていませんでしたが、本作では存分にイタリアらしさを味わえました。奇天烈なユーモアとバイタリティ。支離滅裂なエロスの匂い。そこはかとない暴力性。なぜかドキュメンタリーのようになる会話。そして画面が美しいので、いちいちそれに目を奪われて困ってしまいます。 密告・裏切り・陰謀が渦巻き、誰もが加害者にならざるをえないファシズム時代の小さな町の過去へ沈潜していく内容ですが、殺人手法はヒッチコックの「知りすぎていた男」みたいでした。まるで日本の夏のように、蚊取線香が出てきたり、やたらとスイカを食べたりするところも興味深かった。 [インターネット(字幕)] 8点(2022-05-25 05:50:23) |
4. アポロンの地獄
《ネタバレ》 GYAOの無料動画で視聴。パゾリーニを見るのはたぶんこれが初めて。かなりヘンテコな映画だけども抗しがたい魅力を感じる!本来なら繋がるはずのないカットが無理やりに繋がってるし、ギリシャ神話なのに日本の雅楽が流れてくるし、文法的な常識をめちゃくちゃ逸脱してるけど、まるで夢を見てるようなデジャヴに襲われてるうちに、奇天烈なイメージの連続で脳天が麻痺してきて、あれよあれよと最後まで押し切られてしまいました。デタラメな文法がかえって神話の説得力を増してる感じ? このぐらい力技があったら、もう文法とかどうでもいいんだなあと思わせる説得力があります。これぞイタリア映画ってな濃厚な作風に痺れました。 [インターネット(字幕)] 8点(2022-03-29 23:49:23) |
5. 愛情物語(1984)
《ネタバレ》 GYAOの無料動画で視聴。昔観たつもりでいたのだけど、あらためて初視聴だと気がつきました(笑)。 おじさんと少女の物語に、ミュージカルやらイメージビデオ映像やら怪奇ジュブナイルやらを織り交ぜてゴッタ煮の娯楽作品に仕立てています。冒頭の外国人ミュージカルはダサいし、ヘンテコダンスの振り付けはいかにも80年代ですが、知世の踊り自体はかなりキレキレで目を見張るものがあり、その後の知世がこの能力を活かさなかったのを不思議に感じるくらいです。 中年男が少女をたぶらかす寸前みたいな内容は、80年代アイドル映画にはよくあるパターンで、これは制作側の欲望の投影とも言えるし、角川春樹が妹への愛惜を織り込んだ結果とも言えるのだけど、そうした制作の動機の気持ち悪さに目をつむれば、映像的にはけっこう良く撮れているし、意外なくらい飽きずに楽しめる作品でした。愛すべき駄作として8点つけようかとも思いましたが、はやる心を抑えて7点。 [インターネット(邦画)] 7点(2022-03-17 17:58:25) |
6. あ、春
《ネタバレ》 ここでの相米慎二は、思春期の少年少女が走り回る活劇ではなく、松竹ならではのホームドラマを撮っています。多くのシーンはカットが細かく割られています。しかし、相米らしい長回しも依然として健在です。そして、少女が川に入るような通過儀礼はありませんが、川に散骨するラストシーンはあきらかに死と再生の儀式になっています。そういう点では、十分に相米らしい映画だと感じられます。 斉藤由貴が演じる嫁は抑圧されており、情緒が不安定で、発作を起こしては薬を服用し、セックスレスに苦しんでいるようにも見えます。実父を亡くし、夫にも距離を感じており、その心の隙間を埋めるように義父と心を通わせていく。 義父の山崎努は、鶏を絞めて食べたり、生まれたばかりの雛を溺死させたりするのですが、ついには死の床でヒヨコを孵化させます。じつはヒヨコが孵化しないバージョンも撮影されていたらしいのですが、いずれにせよ死に際の山崎努が卵を温めていたことは重要です。かりに孵化しなくても、そのあとの散骨のシーンを見れば、登場人物の全員が再生して若返り、本来の関係を取り戻したことが分かるからです。斉藤由貴は強くなっているし、鳥小屋もどんどん立派に進化している。もはや鶏が黒猫に襲われる心配もないはずです。 これを「義父と嫁の物語」だととらえれば、かなり小津安二郎的にも思えます。一方、「父と息子の物語」だとすれば、そこには佐藤浩市と三國連太郎の関係が暗示されているようにも思えます。三國は、幼い佐藤浩市を置いて去っていった父親でもあり、かつて松竹を去っていった俳優でもあります。88年から松竹の「釣りバカ日誌」に主演しはじめ、91年には山田洋二の「息子」などにも主演しています。そして94年に(これは松竹ではありませんが)相米慎二の「夏の庭」に主演して、かつて妻のもとを去った老人の役を演じています。 映画のなかで山崎努は、佐藤浩市だけが唯一の血縁者であるかのように語ります。同じ漁師歌を覚えていたことから考えれば、(かりに血縁関係がなかったにせよ)山崎努が「紘」と名づけた息子と5年間を過ごしたことは間違いありません。しかし、不思議なことに、佐藤浩市には実兄(三浦友和)が存在します。富司純子は、山崎努が最初の夫だと語っていますから、彼は連れ子でもなさそうです。そのあたりの設定が、わたしにはいまだに理解ができません。ちなみに原作の場合、実姉と義兄が登場していますが、とくに矛盾はありません。 相米慎二の佳作だとは思いますが、キネマ旬報が1位に選ぶほどの名作と評価されたことが、わたしにはちょっと意外です。あまり自信をもって評価できませんが、とりあえず7点つけておきます。 [DVD(邦画)] 7点(2020-01-18 14:17:53) |
7. アンダーグラウンド(1995)
悲しい。イデオロギーとエゴ、金欲と愛欲にまみれた狂騒のうちに、それぞれの人生は、はかない幻のように終わってしまう。そして気がつけば、彼らの祖国もまた、まるで儚い人生と同じように、夢のように消え去ってしまう。 この映画の悲しみが、祖国愛を強く喚起するためのものだと解釈することはできます。そして、そういう解釈は政治性を帯びずにはいられません。私は、祖国というものは元来、人生と同じようにもろく儚いものなのだろうと思うけど、かりにそう納得したとしても、それはそれで、また逆の意味での政治性を帯びる。 この映画がはらんだ政治的主題を、日本人の自分がどう受け止めるべきかを考えるのは、正直とても難しいけれど、そういったテーマの難しさは措いたとしても、この作品の脚本の見事さと表現の力強さには感嘆せずにいられません。たんにバルカンブラスを聴かせるだけの映画じゃあなかったです。 [DVD(字幕)] 9点(2012-10-03 02:37:35)(良:1票) |