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1.  アデルの恋の物語 《ネタバレ》 
この映画を見終わって、日本には“馬鹿息子”って言葉があるけど“馬鹿娘”って言わないよなぁとか、しょーもない事を考えてしまった。 さて、この原作や映画は当時のフランスではどういった評価だったのだろう。 美しい一つの愛の物語として受け止められたのか、狂気の女として恐れられたのか、あるいは揶揄されたのか、気になるところです。 映画でいえば、ヒロイン役のイザベル・アジャーニの演技が素晴らしく、下宿先の女主人からピンソン中尉が来たことを聞いて慌ただしく身なりを整えるところからの流れが特に良く、夜の墓場に出て自身の気持ちを訴えるシーンなど、彼女の鬼気迫る演技には魅了され尽くしてしまいました。 また、何度も舞台となった銀行、下宿、本屋などの内装の美術面でも目を見張るものがあり、上記のシーンなども含めた照明やカメラなどのスタッフワークも充実しているのが伺えます。 主人公アデルは、我が道を行くといえば聞こえは良いが、やる事なす事すべてが常軌を逸した激情的女性。 男装して夜会に潜入し、親をも欺き、催眠術をたくらみ、ピンソンの相手の親から金を巻き上げ、男を振り向かせようとする。 終盤にかけては、一張羅のドレスもズタズタになるほどに他のすべてを捨てて愛を突き通さんとするアデル。 その行きつく果て、最終形態は、好きなはずの相手の顔も認識できなくなり暗号で日記を書くまでになってしまうという。なんと恐ろしいラブストーリーだろうかと戦慄するほどです。 ところで、文豪の父ビクトルとは親子関係はどうだったのか。 本屋の男からのプレゼントとしてレ・ミゼラブルを贈られた時の反応を見るに、決して良好ではないように感じられます。 主人公アデルが凄いのは勿論、国葬にもなったユゴーの馬鹿娘をネタにした原作者フランセス・V・ギールという男の度胸もなかなか凄いと思いましたが、あくまでも美しい抒情詩として著された作品であり、そう捉えるべきでしょう。 でないと、国葬に参列した200万人を敵に回すことになりかねませんので。
[映画館(字幕)] 7点(2022-10-07 02:15:14)
2.  アマゾンの男 《ネタバレ》 
「リオの男」「カトマンズの男」でおなじみのフィリップ・ド・ブロカとベルモンドの名コンビが再び観られるということで観てきましたが、オープニングからして上記2作のようなアクションコメディーの雰囲気が・・・ない。 ストーリーはまるでかぐや姫のようなファンタジー映画。 特異な体質をもった少女は落ちてきたその地の者と交流を深め、やがて満月の夜に星に帰るという。 撮影当時のベルモンドは60を過ぎていたということで、アクションはさすがに往年の彼ほどのものは見られず、市街に入ってからのカーアクションや汽車でのシーンなどは全体的なファンタジーの雰囲気を邪魔しない節度ある演出と言えるでしょう。 アクションコメディーもファンタジーも、ストーリーが理にかなっていない所があったとしても許せてしまうという点においては根は同じなんだと考えると、ブロカの映画哲学は一貫していて気持ちがいいですね。
[映画館(字幕)] 7点(2021-06-11 11:06:55)
3.  アンジェリカの微笑み 《ネタバレ》 
オフィシャル見ると、夭逝した美女の最後の写真を撮ったイザクに不思議な出来事が・・・とあるのですが、 そもそも、亡くなった人の写真を撮るという事が行われていいものなのか?(しかも、三脚を使わずに手持ちで撮るなんて・・・) アンジェリカの幻影と空を飛ぶシーンがありましたが、最後に家主が飼っていた小鳥が死んだ時に狂ったように駆け出して行ったのは、小鳥をアンジェリカに見立てていたという事なのでしょうか?その割には、それを暗示させるような描写がなかったように思えますが。 また最初は、機械ではなく人の手で耕すほうが面白いと言っていたにもかかわらず、後の方になってくると機械で耕作するところを撮っていたりする心情の変化も非常に読み取り辛く感じられました。 撮った写真を並べて吊るす事の“映画的な”意味を考察してみると、農民の働く姿とアンジェリカを同系列的に一括りに捉えていると解釈することが出来ますが、接点が見当たらないため的外れな考えなのではと思いましたが、ラストでアンジェリカの手によってイザクが天に召されていて、それに被せるように農民の歌を聞かせてエンディングへと誘っていたところを見るに、やはり農民の存在もこの物語では不可欠なものなのかも知れません。 などなど、非常に難解でいろいろなメタファーに富んだ作品とお見受けしましたが、これはもう自分にとっては完全にお手上げ状態な作品なのでありました。
[映画館(字幕)] 6点(2016-01-27 23:28:39)
4.  アタラント号 《ネタバレ》 
ミシェル・シモンの出演作を観るのは3本目となるのですが、どうもこの人とは相性が悪いらしい。 どの作品も彼の役柄は似たり寄ったりで、今回の作品に関しては行商の男も含めて楽しく感じられたり共感出来たりという事はなかったと思いました。 ただ、作品の至るところで新たな試みがなされており、ローポジションやクローズアップで多面的に対象物を捉えたり、エア蓄音機や水中撮影はそれまで誰も考え付かなかったアイディアだろうし、ラストの俯瞰撮影も同様で、当時は斬新だったのだと思われますが、現代の感覚で考えると驚きや楽しさを感じることは難しいのではという気がしました。
[映画館(字幕)] 5点(2015-08-30 16:02:39)
5.  赤い河 《ネタバレ》 
ウエスタン+ロードムービーの淡々とした物語という印象。 街へ向かう道中で仲間割れや牛の逃走、赤い河を大挙して渡ったり女と出会ったりと様々な出来事が起こりますが、どれも皆過程の一部にしか感じられず、盛り上がる要素に乏しい感じがしました。 ダンソンは勿論、彼を取り巻く仲間たちも皆悪意のある人物はおらず、仲間割れはあるとはいえ男気プンプン漂う雰囲気は決して悪くはないと思います。 要は、遠路はるばる牛を引き連れて仲間と共に大移動する苦労が伝わって来れば良いわけで、そこはコントロールし切れない牛の大群を追いかけるシーンだったり、インディアンの襲撃を受けるシーンを見れば勿論わかるのですが、キートンやほかのウエスタン映画でも似たようなシーンを見たことがあるからなのか、自分にとってはワクワクドキドキしたり唸らされたりといった事が少なく、楽しさという点では他のウエスタン映画に譲らざるを得ないという評価になってしまいました。
[映画館(字幕)] 6点(2015-01-29 00:02:12)
6.  秋のソナタ 《ネタバレ》 
鑑賞にこんなに体力を使ったのは初めて。 この作品に限らず、“夜中の会話”って、絶対に何かあるから怖い。 ベルイマンの映画はまだ片手で数えられるくらいしか観てませんが、この人はじわじわと少しずつ滲み出るように恐怖感を与えることに特異な才能を持っているに違いありません。 寝ている最中に顔を触られる悪夢に叫びを上げ、落ち着きを取り戻したところで「ママの事好き?」と尋ねる母親。それに対し「愛してるわ」と答える娘。 何気ない会話ですが、少し離れて座る娘が取ったこの距離感に、ただならぬ不穏な空気を感じました。その後の展開は観た人ならお分かりでしょうし、そこいらのホラー映画よりも100倍は怖いあのシーンを振り返るだけで背筋が凍る思いが呼び起される気がするのです。 ラスト、母親に向けて再度手紙を綴る娘に対し、別の男に寄り添い安堵の表情を浮かべる母親。二人の縮まらない距離。 娘が歩く墓地の後ろに広がる湖の黒さが印象的。
[映画館(字幕)] 8点(2014-01-20 23:34:46)
7.  青髭八人目の妻 《ネタバレ》 
離婚をテーマにした映画はルビッチをもってしてもやはり難しかったというのが観終わってからの結論で、更に金が絡んで余計に増長してしまっているのも拙かったのではないかと思います。 おまけに物語に一貫性がなく、と言うかヒロインがダンナにくっついたり離れたりの心変わりに振り回される展開にも辟易するし、主人公の結婚観もコメディとしてみたとしても馬鹿げているとしか思えず、冒頭でパジャマを上下別に買おうとするケチな態度からしても、とてもじゃないが好意が湧いてこない始まり方で、期待感もないまま惰性で観ていたような感じでした。 それよりも、冒頭のパジャマの件で店員が社長に伺いを立てるシーンで、社長がパジャマの上半身だけ着た姿にもかかわらず、許可を出さないというのが全く意味不明。 他のシーンでも出て来たような軽快なテンポで「バラ売りOK!」と言っちゃえば何の問題もなくコメディが成立しちゃうのにそうしなかったのは、ヒロインが登場するきっかけを作るためだと思われますが、それならば伺いを立てるシーンをまるごとカットして店員との交渉の途中でヒロインを登場させた方が良いし、更にこの無駄なシーンのお陰で、その後でホテルの一室に居座る男のパジャマのズボンはどうなっているんだろうと思わせるきっかけを作ることになってしまい、せっかくストライプのズボンで出て来たのに2回目のズボンネタということでギャグのインパクトが弱くなってしまっている事に非常に勿体無く感じてしまいました。 また、ダンナをハメようとボクサーを雇い、間違えて元カレを殴り倒してしまった後の展開に一瞬期待したものの面白い展開にはならなかったし、犬の真似をするネタや本を読んで夫人の部屋に殴り込みに行くネタ、最後の「何でもない」×2など、単発ネタが多かったのも一貫性が感じられない要因だったのかもしれません。
[映画館(字幕)] 5点(2014-01-11 21:23:00)(良:1票)
8.  アルコール先生 海水浴の巻 《ネタバレ》 
これは完全に邦題で損をしているパターン。だって、海水浴してないし。 それどころか、帽子が風で飛ばされて取り合いをしているシーンのあの舞台のショボさが気になってしまいました。 ストーリーも、チャップリンがいつものごとく相手に絡んでいってるうちに他人を巻き込んだりというキーストン時代からのお決まりのパターンで、いい加減飽きてきた感じ。 途中、逆光にもかかわらず無理矢理撮っていたシーンがあったし、ラストも全員勢揃いでひっくり返って大団円・・・って、ちょっとアイディア不足であったような気がしました。
[映画館(字幕)] 5点(2012-10-23 00:23:03)
9.  アルコール先生 公園の巻 《ネタバレ》 
冒頭のスリとのワンシーンがアホらしくて笑っちゃう。 舞台は言うまでもなく公園。人ごみに紛れているわけでもなく、1対1であんなに堂々とスリをする方もする方だし、される方もされる方で、余りの馬鹿馬鹿しさに妙にウケてしまいました。 その後でまた同じ人が出てきますが、チャップリンが杖の先で取った水筒みたいなのは何だったんろう。水筒もらってそんなに喜ぶかなぁとか思いながら見ていましたが・・・。 終盤で水辺のシーンになると、これはもうほぼ100%誰かが落ちるんだろうなということが予測できてしまうのですが、自殺志願者がお尻を突き出して蹴られるのを待っているっていうのもこれまた馬鹿っぽい。 この頃のエドナはちょっとぽっちゃりしていましたが、それはそれでまた可愛くて良いです。
[映画館(字幕)] 6点(2012-10-20 22:22:12)
10.  暗黒街の弾痕(1937) 《ネタバレ》 
ヘンリー・フォンダ扮するエディーが好演。なんですが、何故ジョーンが彼に惚れたのかが不明のままで、しかもストーリーの途中で運送屋のボスに暴力を振ったりというシーンが出てきていましたし、おまけに過去に2回も刑務所に入っていたと言うから、その謎は最後まで解消されないままでした。二人の背景が曖昧だから、例えて言うならば、根をちゃんと張っていないまま伸びてしまった木のような印象で、ストーリーに深みが感じられませんでした。 愛し合う過程が描かれない映画はよく観ますが、ストーリーに入っていける映画とそうでない映画とがあり、違いはどんなところにあるのか?これはよくわかりません。 ただ、映像的には確かに格好良いところがいくつかあって、鉄格子の影の造形とか電報の見せ方などは印象に残るものがありました。
[映画館(字幕)] 6点(2012-10-13 22:21:43)
11.  アルコール先生 原始時代の巻 《ネタバレ》 
現代のチャップリンの寝ているベンチがヘタっているのと夢の中とで関連していないのが良くないんじゃないかな?帽子をかぶっていたりパイプをふかしていても夢の中だし、そこはご愛嬌。 女の奪い合いとその中の一人のヒロイン役とのやりとりがメインのストーリーでしたが、やや面白さに欠けていたのが致命的で、弓矢や石斧を使ったアクションも弱いし、オチもイマイチ。キートンなら大勢の女に追いかけられたりしただろうし、などと考えるとどうしてもこのくらいの点数になってしまいます。
[映画館(字幕)] 5点(2012-09-30 02:23:54)
12.  アルコール先生 ピアノの巻 《ネタバレ》 
ピアノが本物のピアノのように見えるのが良い(笑)。ちょっと使い込まれた感じが出ていて本物のような重厚感が出ていても軽々と床を滑りながら動くところが見ていて笑っちゃうし、そのピアノを一人で背負うチャップリンはそれだけで可笑しい。 ピアノを荷台に乗せて移動するシーンを合成なしで撮っているシーンがごく当たり前のようであるのだけど好き。 あと数十年後にこんなシーンが出て来たら人物と背景とを別々に撮って合成したりするケースがよくあるので、役者とカメラを現場に移動させるという労を惜しまない作業が嬉しく思えてきます。 ロバが宙に浮いてジタバタするところなんかは、チャップリン映画では珍しい動物の好演。何で後ろに傾いたのかは原因不明なんだけど(笑)。
[映画館(字幕)] 6点(2012-09-30 01:40:57)
13.  アルコール先生 自動車競走の巻 《ネタバレ》 
この映画のストーリーは?と聞かれても答えられない。 車が出てくるシーンより観客席のシーンの方が多かったので、点数が低くなるのも必然と言えるでしょう。 また、シーンによって光の当たり方に違いが出てしまっていたところがあったのも残念。 
[映画館(字幕)] 4点(2012-09-30 01:10:44)
14.  アーティスト 《ネタバレ》 
3D全盛のこの時代に無声映画がオスカーを取ったという物珍しさもあって、興味半分で観に行ってきました。 本作は自分が大好きなフランス映画の筈でしたが、むしろハリウッド調の誇張されたストーリーや演出が数多く見受けられ、中でも、主人公の活躍したサイレント映画が廃れていき時代の流れに乗れずに絶望感に打ちひしがれる一連のプロットに、何もそこまでしなくても…というやや大袈裟な展開の連続がちょっと鼻につく感じがしました。 ハリウッドへのオマージュというのを考慮してもちょっと行き過ぎた感があり、またサイレントは表情やアクションのみで物語るところはあるにせよ、やや過剰な演出が出すぎていたように思えます。 ついでに、10~20年代の実際のサイレント映画を見ている時はちょうど良いタイミングで、つまり、どんな台詞を喋ってるのだろうと思ったところではしっかりとスポークンタイトルが出て会話の内容を提示してくれるので、それがとても心地よく感じられ、音声なんか必要ないんじゃないかとまで感じさせてくれることが多いのですが、本作の場合はそれが非常に少なく、また、ちょっと細かいところですが、スポークンタイトルの出るタイミングが一瞬遅い事が何度もあり(0.2秒くらい)、ちょっとイラッとすることがありました。 映画の中盤で、階段を昇る女優と降りる男優というメタファーを狙ったようなシーンが出てきましたが、あの突然の傍目ショットはメタファーを撮りたいがためだけに挿入されたとしか思えず、客観視する理由も見出せないため、妙に異質な雰囲気ばかり感じてしまいます。 また、犬を脇役に起用したことやBGMの音楽も、チャップリンの影響を受けているのは明白ですが、犬の演技に関してはしっかりと訓練を積んで演技をした本作よりも御本家の「犬の生活」の方が動物的で自然な振る舞いをしているように思えます。 ストーリーの最後は、新たな境地を開拓してハッピーエンドを装う感じで締められていますが、映画で勝負することから逃げているようなエンディングであるため、ここはまさにご都合主義としか言えないでしょう。 キャスティングについては、主演女優があまり美人ではないのが減点材料で、クラーク・ゲイブルに似た主人公がアステアばりのダンスを踊っていたのは、時代錯誤のような気が…。 ただ、今のこの時代にサイレントで勝負した心意気は買いたいと思うので、オマケしてこの点数。
[映画館(字幕)] 6点(2012-04-14 18:02:03)(良:2票)
15.  赤い子馬 《ネタバレ》 
ロバート・ミッチャムは、自分の中ではLOVE&HATEのイメージだったので、この映画を観てガラッとイメージが変わりました。 また、子役のボー・ブリッジスは初めてですが、学校の友達にいじめられたりしているときも気丈に振る舞う姿を上手に演じていましたし、おじいちゃん子な可愛い一面を見せたりして、こちらも名演だったと思います。 そのロバートとボーの、親子とも見分けがつかないくらいの二人の関係が、馬を通して心を通じ合わせ、また紆余曲折を経ながらもとても丁寧に描かれていて好感が持てました。 一方で、夫婦役の二人は、夫が抱えている問題(兄の手伝いをするために土地を離れる云々)の掘り下げが弱かったり、また登場人物の中で夫が一番存在感が薄いような感じもして、やや手を抜いていた感が見え隠れしている気がします。 主に、人間関係がメインのストーリーでしたが、馬が出てくる事もあり、もう少し多く大自然の雄大さを描いたシーンが出てきてもいいのではと思いました。
[映画館(吹替)] 7点(2012-01-13 00:44:25)
16.  アメリ 《ネタバレ》 
アバウトに大分すると、この映画でやってることはカレル・ゼマンとかシュヴァンクマイエルの映画と何ら違いはなく、彼ら二人より後に生まれたジュネはCGという武器を使って彼の頭の中を表現しています。 全体的なストーリーは、余り面白くはないです。けど、おもちゃ箱を持ち主に届けようというストーリーだとか、最後の方で、アメリが妄想をしながら料理をしていると背後の縄暖簾(?)を猫がくぐり抜けて来るシーンとか色々とオシャレなシーンが数多くあり、部分部分のアイディアを見ると惹かれるものが多かったような気がします。 コメディが基本路線なので、CGが多用されていることは別に構わないのですが、あくまでも動物や物を描く事にのみ生かすべきであり、人間をありえない距離からズームインしたりカメラ目線の過度のクローズアップなど、CGで人物描写をするというのは余り好ましいとは思えません。
[映画館(字幕)] 6点(2011-11-05 12:47:09)
17.  嵐の孤児 《ネタバレ》 
グリフィスの映画はどの作品を観てもそうなのですが、カメラワークが良い意味で普通すぎていつもコメントするのに困る。 あまり斬新な撮り方をせずに、見る側である自分が、ここが見たいというところにスッとカメラが向いたりする親切さやカットバックのタイミングやテンポの絶妙さなどによって、作り手の思惑通りに素直に感情が伝わってきたりハラハラドキドキしてしまったりと、ごく自然にそういった感情が出てしまうものだから、その当たり前のことを違和感なくサラッとやってのけるテクニックをどうしても無意識のうちにスルーしてしまいがちになってしまいます。 例えばラストシーン。リリアン扮するアンリエットが今まさに処刑されようとしている時、アンリエットが処刑台にセットされるカットと放免状を手にしたダントンの馬群とがクロスカッティングで進行するのですが、ここの場面でハラハラドキドキ感を味わう事が出来るのは、まぁ普通として、実はそれよりもだいぶ前からクロスカッティングが始まっていたことに、家に帰ってレビューを書く時点になってから気がつきました。 また、ルイーズの歌声にアンリエットが耳を澄ませるシーンも、いよいよ再会か!などと思い、気が付いたら普通に胸の鼓動が高まってしまったりするシーンも、互いのカットを上手くクロスさせていて、やはりこのシーンもこの映画を語る上では外せない名シーンでしょう。 生き別れが物語の中に出てくる映画は、自分にとってはかなりの確率で感動を覚えてしまい、このサイトのジャンル区分の一つに付け加えて欲しいくらいなのですが、この映画でもやはりすれ違いでやきもきさせられた上での再会だったので、最後は余計に感動してしまいました。まぁ、いわゆる常套手段ではありますが、この場面でもまた難なくグリフィスにやられたという感じでした。
[映画館(字幕)] 7点(2011-09-19 15:34:43)(良:1票)
18.  アッシャー家の末裔 《ネタバレ》 
この映画、もう何から何まで凄い。 自分が観たサイレントの中でダントツの怖さです。 まず、アッシャー家の当主ロデリックと妻マデリンの妖しさは何とも言えない。特に、ロデリックの方は、映し方によっては至って普通の紳士のようにも見えるのだけど、独特のカメラワーク故のものなのか、ストーリー上の背景がそう見せるからなのかわからないですが、目つきがヤバかったり頬がこけていたりというような“いかにも”という風貌ではなく、内側から滲み出てくるような不穏な雰囲気があり、取り憑かれたような感じになりました。 序盤で、馬車に乗っている付き添いの人がアッシャー邸を指差すワンショットからインパクト絶大で、更に、ロングで捉えた館の恐怖感たるや、本作か「サイコ」かと言える程の様相です。 また、至るところに空や水辺や木々など、自然を撮ったショットがふんだんに使われており、雲の動き、水のざわめく感じ、枝の揺れ方などでただならぬ雰囲気を表現していたり、妻の棺桶を馬車に載せて墓まで運ぶシーンのカメラの揺らし方なんかも抜群で、どのショットを切り取っても凡百の映画とは一線を画す印象です。 妻の絵が完成に近づくにつれて本物の方から生気が失われていくというのもストレートで良い感じに恐怖感が出ているし、岩の間から白い布が見え隠れするのも冗談みたいに怖い。最後に館が燃えてしまうのも古典的なラストで良い。 レア物なので、機会があるかはわかりませんが、是非また観てみたいです。
[映画館(吹替)] 8点(2011-09-13 23:54:51)(良:2票)
19.  アリス(1988) 《ネタバレ》 
この映画のような妄想系やシュールレアリズム的な作品を観るたびにいつも思うのですが、感性を試されているとか、フィーリングがマッチするかどうかというよりも、観る側の心の広さ(キャパシティー)を推し量られているような気がして、映画そのものをバッサリ斬るような事が出来ず、面白く感じられずにいる自分に失望してしまったりします。 うんと子供の頃、この人形がこっちを見て自分に話しかけて来たらどうしようとか、この剥製がいきなり動き出したらどうしようとかっていう想像を膨らましていた頃も確かにあったような気がするので、この映画の本質的な部分は何となく理解することは出来たと思います。 面白いなと感じたのが、蛙の長い舌や生肉の質感などの異質な感じを出した描き方なのですが、蛙の舌で蝿を的確に捕らえるところに妙に爽快感を感じてしまったり、普段はまな板の上だとかお店で白いトレイに乗っかっていたりというところしか見たことがない生肉も、撮る人が撮れば全く違ったモノになるんだなぁと、捉え方に凄く個性が出ていて良かったと思います。 また、兎の胸元からおがくずが出てきていたと思ったら、お鍋の中のおがくずをスプーンですくって“補給”していたりして、ストレートというか単純というか、とても素直な発想だな~と思いました。
[映画館(字幕)] 6点(2011-09-03 23:31:33)
20.  嵐ケ丘(1939) 《ネタバレ》 
物語が重いし、おまけに画面が暗い。いつの時代の話かはわかりませんが、身分や家柄が絶対という世の中で起こる雇い主の娘キャシーと使用人ヒースクリフの恋愛物語。 物心付く前は身分だの家柄だのという基準なんて当然気にするわけもなく、純粋に相手の人柄や外見のみが判断基準となるため、身分違いのままお互いが成長すれば当然周囲から反発を食うことになってしまったり同じ身分の異性に魅かれていったりという事が起こりそうですが、そういった部分の葛藤の気持ちだったり、またはお互いに乗り越えていく様をどのように描くのかというのが、古今東西いつの時代も変わらぬ“身分違いの恋愛モノ”における重要な部分になってくると思います。 自分がこの映画を好きなところは、幼少期と青年期の描き方が素晴らしく、それがストーリーのバックグラウンドにしっかりと根を張っているところです。 丘の上にある大きな岩を城に見立てて、王様とその僕(しもべ)のような台詞回しで愛を誓い合うシーンが非常に美しく、そのため、エドガーと結婚する際やパーティー会場のテラスのシーンなど、心が離れてゆくような描写があっても違和感なく最後まで観る事ができました。 また、パーティー会場にヒースクリフが入ってきてキャシーと出会う瞬間のキャシーの表情の絶妙、そして極めつけの最後、ベッドで寝ているキャシーの元にヒースクリフが現れた時、キャシーがゆっくりと目を開いていく表情は、他にどんな映画を探しても決してあのような印象深いショットはお目にかかれないと思います。 映画の終盤になって回想シーンが終わった後も、依然として暗い雰囲気でありながらもとてもロマンティックな雰囲気で締めくくられ、岩に向かって歩く二人の後姿で幕を閉じるラストシーンが凄く良かったです。
[映画館(字幕)] 9点(2011-04-21 23:28:59)(良:2票)
010.18%
120.37%
230.55%
391.66%
4295.35%
58515.68%
614426.57%
716630.63%
87313.47%
9234.24%
1071.29%

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