1. 紙の月
《ネタバレ》 正直なところ、あんなに美人なアラサーの彼女が、あんな頭悪そうな大学生に溺れていくのがちょっと理解に苦しむ。冷静な判断ができないときってどんな人にもあるだろうけど、映画の発端としてはちょっと必然性に欠けるきがする。映画が終わる最後の最後でいいから「ああそうか、だからあの女はあの日大学生についてったのか。そりゃそうだよな、わかるよその気持ち。嗚呼」となれればよかったんだけども。 もちろん映画ではいちおうこれに対する必然性を与えようとして、カトリック系中学校での出来事を織り交ぜている。この出来事があれば確かに大学生への耽溺は説明になるが、必然性とまではいかない。 べつに横領しなくても、あの様子ならば貯蓄とかから渡せただろう。そもそも銀行員なんだから学資ローンとか詳しいんだろうからそういうアドバイスをしてあげればよかっただけではないか。 それともあのエロ高齢者への仕返し?または単純にエロ大学生と不倫したかっただけ? 気になるのは、彼女は不妊だった点。不妊の原因が夫なのか彼女なのかはちょっと聞き逃したけど。 これら数々の心的な歪みの歯車が、持ち前の美人なエロさが導くままに、不幸にもカチッとかみ合って、回りだした不幸な歯車はもう止めることは出来ず。 映画の中で印象的に何度も登場するアイテムとして、腕時計がある。僕は腕時計をしない人間なので、腕時計に自らのステイタスを求める考えが全くない。だけど多くの社会人は、腕時計に自らのステイタスを投影したがっている。横領の歯止めが利かなくなっていけばいくほど、高価でキラキラした腕時計が登場する。まあ映画としては分かりやすい表現だ。 横領によりお金が無尽蔵に手に入るようになって、物質的な自由を手に入れた彼女ではあるが、その腕にはキラキラした腕時計。僕はこの腕時計が、”手枷”(てかせ)にしか見えなかった。すなわち、自由を奪う拘束具。 小林聡美演じる先輩銀行員おばさんは、クライマックスこんな名言を叩きつける。「お金で自由にはなれない。」これはすなわち、腕時計の手錠性ではないか。 我ながら鋭い指摘だ。 [地上波(邦画)] 7点(2018-12-27 23:31:03) |
2. カメラを止めるな!
映画を観終えて池袋から電車で職場に向かいがてら、宇多丸のこの映画の評論を聴く。そして別日の収録で、宇多丸と上田監督のインタビューも見つけて、それも聴く。このインタビューもまた、僕にとって大きなものとなった。 どうやら上田氏、かねてからの宇多丸ラジオのリスナーであって、宇多丸の映画観に多大な影響を受けていて、特に映画の勉強や専門学校に通っていたわけではないとのこと。子供のころから映画のようなものを撮って遊ぶことが大好きだったとのこと。影響を受けた日本人4人、松本人志、吉田戦車、三谷幸喜、そして宇多丸とのこと。なお、映画をみて僕は「三谷幸喜『ショーマストゴーオン』だ!」と思っていたので、合点。『カメラを止めるな!』には、上田氏にとっての宝物をとにかく詰め込んだとのこと。 ここまで聴いて僕は胸が打ち震えた。上田監督こそ、”こーゆーのにワーワーはしゃぐニンゲン”を最上級に拗らせちゃったまさにその人である(にすぎない)。すなわち、映画が好きで、録画して音楽付けて遊んでて、吉田戦車や三谷幸喜にはまって、おおいなる映画の世界に憧れて、宇多丸のラジオを聴いて映画の在り方を学び、ENBUゼミで人を集めて300万円も突っ込んで映画を撮り、自分の赤ちゃんまで出演させ(たぶん監督の実の赤ちゃんだと思う、名字が上田だし)ているそういう生きざま。 だから、とてもおこがましくて申し訳ないんだけれど、僕は我がことの様にうれしい。こうやってうれしい思いを抱いている人は僕以外にも沢山いるはずだ。『カメラを止めるな!』は、まさに僕らの映画なのだ。 ここまで来れば『桐島部活やめるってよ』に話が繋がるのは至極自然である。映画のほう。 僕はこう想像する。上田監督は、『桐島』の前田のその後なのではないか。 だとしたら前田よ、映画をあきらめないでありがとう。君があこがれていた、大いなる映画の世界は今、君のものだ。こうして『桐島』をも補完し、完成させることになった。もうこれ以上の感謝しようにも僕のスキルでは無理だ。 [映画館(邦画)] 10点(2018-12-27 23:01:17)(良:3票) |
3. カルト
《ネタバレ》 前半は良かった。良かった点を列挙する。 隣家の監視の見切れ。あれが一番怖かった。 固定監視カメラの映像。パラノーマルアクテベテーの影響か。 吐瀉物に皿の破片。ブラボー 犬を食べる少女。だけど犬にモザイクは不要。 霊媒師のうさんくささ。あの窮地に、ケータイで師匠に相談して爆笑。 あびる優の演技にも爆笑。 白石監督としては、あえてCGやBGMを使っているんだと思うんだけど、僕はもう裏目に出てしまっていると感じる。ああいうことを一切やめるだけで、かなり高尚な映画になると思うんだが、それをきちんと自覚していてあえてああやってるんだとしたら、監督とワタミで小一時間飲んで説得したい。 今作はギャグだが、『ノロイ』のような正統派ホラーを撮った白石監督には大きく期待している。僕は諦めない。『ノロイ』のような傑作をいつまでも待っている。 [DVD(邦画)] 5点(2014-09-03 01:31:32) |
4. 渇き。(2014)
《ネタバレ》 中島監督ならではの奇抜な映像表現は、しかし目新しさは感じなかった。たとえば大型ショッピングモールの屋上駐車場での凄惨な殺し合いのシーンで、死体を俯瞰で撮りつつ駐車場に放送される「タイムセールのお知らせ」なんかは中島監督のやりそうな悪趣味な演出であるが、もっと悪趣味なものを見たかった。暴行も、そんなに痛そうに感じない。カッターナイフで耳たぶを切り落とそうとしたり、ほっぺに10センチくらいの深い傷をつけたりするんだけど、なんか遠慮がちだ。役所広司にいたってはボッコボコにされて銃で何発か撃たれて、映画が進むにしたがって怪我が増えていくんだけど、全然死にそうな気配がない。ならばいっそ、「あれ絶対死ぬだろ!なんで死なないんだよ!」くらいボッコボコにしてしまってもよかった。 [映画館(邦画)] 8点(2014-07-08 23:46:28) |
5. かぐや姫の物語
《ネタバレ》 牛車の客室の中にいるかぐや姫が目を覚まし外をのぞくシーンなんだが、そう言われないと、現代の女子大生(女子高生にも見える)が一人暮らしアパートの2階の窓から朝、帰っていく彼氏の背中を気付かれないように眺めているようにも見える。見えるように書いてるだろうし、象徴的なこのシーンを宣材に使ってる作為も見逃せない。おはぐろとか、眉毛抜いたりとかしたときのかぐや姫がかわいくないし抵抗する。こんな点からも、かぐや姫は現代を生きる女の子であることがわかる。この映画がリリースされた2013年の女の子が、悠久の時を越えて、昔話の世界に落とされた感じだ。昔と今とで野山や民俗は変化したが、ただひとつ変わらない風景、それは月。 声優が地井武男ってのも泣ける。地井武男の声で、あの翁が、かぐや姫が立ったり微笑んだりするだけで泣きじゃくって喜ぶ姿は、誰がどう我慢したって泣けてしまう。 月からのお迎えのシーンについて、僕はもう胸が締め付けられっぱなしだった。あれは、かぐや姫の“死”である、とするならば、これほど悲しい結末はない。普遍的なものを目の当たりにすると、人はおそれをなす。僕はこの映画におそれをなした。ここ最近のスタディオディブリ作品では傑出する。 [映画館(邦画)] 10点(2013-12-09 21:15:53) |
6. 風立ちぬ(2013)
《ネタバレ》 よって、二郎は、幼い頃からの夢であるパイロットをあきらめるために、perfectな人殺しの道具を作ることに人生をささげた。そこに菜穂子が入る余地はなかった。『風立ちぬ』は、こんな映画。 でもきっと二郎はふと省みるだろう。はたして私の仕事はなんなんだろうかと。それがあのラストシーンのゼロ戦の死骸たち。だけども死骸は美しくない。二郎は美しいものにしか関心がない。 ブログにつらつらと書いたのでそちらもお願いします。 [映画館(邦画)] 7点(2013-08-27 01:56:50) |
7. 鍵泥棒のメソッド
《ネタバレ》 広末に魅力を感じない。それよりも、ちょいちょい登場する女性達のほうが魅力的。まあ確かに地味な女性という役柄ではあるものの、はっとするような色気というか、『おくりびと』の奥さんのような、実家に帰られたら死にたくなるような女には見えなかった。そんな広末に惚れる立場の香川照之ってのも、おまえが広末と結婚かよって首を傾げてしまう。 そんな香川はさすが役者!この前テレビで市川中車襲名披露口上を見たが、歌舞伎の伝統的口上でさえしれっとやってのけられるくらい上手な役者だなあと感じたものだ。堺雅人はいつも以上にあの顔の皺に頼っていた。 内田作品の醍醐味は、なんといっても巧妙に仕組まれた脚本だろう。序盤まき散らした写真が、ラストのきっかけになるとか、車の警告音が胸キュンの音に重ねられていくとか、とにかく巧妙。 これはまるでピタゴラ装置を見ているときのような、神々しささえ感じる。どうやって考えればこんな台本が考えつくのだろう。制作過程を見てみたい。 [映画館(邦画)] 7点(2012-11-11 18:41:59) |
8. カーズ2
《ネタバレ》 。『カーズ』について僕は車に興味はないのだけどもかなり好きな映画であって、だから続編は歓迎。 ピクサーにしてみれば普通の映画。メーターの知恵遅れっぷりに微笑むことができず、結局邪魔者扱いのまま。あの手紙のシーンで泣けたはず。 [映画館(吹替)] 6点(2011-08-08 22:27:48) |
9. カラフル(2010)
《ネタバレ》 『カラフル』における避けて通ってはいけないものの一つに“背景画”があると思う。手書きとは思えないまるで実写のような絵の上でアニメの人物が動く。『スカイクロウラー』においては背景と人物のコントラストが濃かった。いま思えば押井は背景に対していかにかっこいいかを追及していたようないんしょうだが、『カラフル』の背景はまるで人物のように能弁に語る。 平田オリザ先生はその著書等で「人は環境によって喋らせられている」と主張している。まさにその摂理にこの背景画は従っている。この背景にこのセリフありと言わんばかり。シーンが切り替わり、背景が更新された瞬間にそのシーンの主張がスクリーン全面から高濃度に飛び出てくる。 『カラフル』がアニメという方法を選択したのは、原恵一がアニメしか撮れないのかもしれないけども、この背景の能弁さを活かしたかったからだと受け止めた。それにしてもあんなに精巧な絵、どうやって描くんだろう。 いつまでも心に残るあの鍋のシーンでの父の演技も素晴らしい。兄貴がティッシュを父にだけ渡さないあの間合いと、実はそのあとにちょっとだけ涙がにじんでいた父。『息もできない』においてサンフンが泣いた時よりもぐっときた。たったあれだけの涙なのに。たった。映画って難しいね、沢山泣けばいいってもんじゃない。 [映画館(邦画)] 9点(2010-08-30 00:24:50)(良:2票) |
10. 借りぐらしのアリエッティ
《ネタバレ》 記念すべき600レブー! 最後猫とアリエッティが見つめあい意気投合するが、あれも納得いかない。あの時猫がアリエッティを一飲みするんじゃないかとひやひやした。無言でただ見つめあう。何かテレパシーだったのか。 で少年が生きる希望を持つのだが、あれも不思議。我々映画を観るモノには分からない、何か大きなものを少年はアリエッティから得たのだろうきっと。よかったね。 とまあ『トイストーリー3』にはまだ遥か及ばない感じであったけれども、ステュディオディヴリにおかれましては、こんな感じで若き才能をどんどん開花させていって、ハイペースで作品を送り出してほしい。なにもかの大作クラスは欲しない、今回みたいなさっぱり味の小品、試作品でいいから、2年に3本ペースがいい。もちろん宮崎五郎の新作、日本人は首を長くして待っている! [映画館(邦画)] 7点(2010-08-17 21:02:04)(良:1票) |