1. 風立ちぬ(2013)
《ネタバレ》 この映画の試写で宮崎監督は涙し引退を決意したという。「風立ちぬ」は、これまでの活劇やその時々の考えを映像化してきた宮崎監督が撮った最初で最後の極私的作品だと思います。 人間なんて矛盾に満ちたいきもので、褒めそやされる宮崎監督だって勿論そう。その"矛盾だらけの生き方"をありのままにさらけ出し、「(それでも)生きねば」と肯定している。 彼女が肺病やみなのに、隣で煙草を吸う、その彼女もキスしたら伝染してしまうかもしれないのにキスをせがむ。大好きだから一緒にいたいのに仕事が楽しくて逢いにもいかない。療養所で治さないといけないのに、逢いたいから抜けだす。お腹の空いた子供に施しをする一方で、性能のいい飛行機を作る欲望に勝てず若者を死地に送る手助けをしてしまう…。 宮崎監督も戦争は嫌いだといいつつ戦闘機を始め軍用兵器が大好き。そういった矛盾する自分を肯定し作品として発表してしまったら、もう何を作っても一面的な描き方しかできない。そういう意味で今回の引退宣言は至極当然かもと思いました。 庵野秀明の声もアニメ声でない、ある意味作品に花を添えるものではなく、これもまた自分勝手な(自分を変えられない)声。アニメ声に慣れたアニメ好きのファンには、容認しがたいものでしょうが、主人公の自分勝手さを表現するのにこれほど適した声はないと思います。 ただ、そんな極私的感情の発露的な映画が万人に受ける訳もなく、賛否両論なのは当然の事。だれも自分の生き方を矛盾したものなどと思いたくないし。 それでもあえてこの作品を発表した宮崎監督は改めてすごいと思うし、それを決断させた鈴木プロデューサーの手腕は更にすごいと思いました。 観客を想定しない、裸の宮崎駿そのものがこの作品に描かれている、そう感じました。 [映画館(邦画)] 7点(2013-09-28 08:36:51) |