1. 勝負をつけろ
《ネタバレ》 「ラ・スクムーン」(1972)は、こちらもベルモンド主演の同原作映画(リメイク版)。 しばしば比較される両作品であり、自分も先週リメイクを観たばかりなので、いろいろと比較しがちなレビューになってしまうのですが、個人的にはオリジナルの本作品の方が良いと思いました。(以下リメイク版のネタバレありますのでご注意を) 本作のベルモンドは当時28歳。やや細身かつ猫背気味の姿勢のせいか威圧感に欠ける印象で、15分で閉店しろと指示を出すシーンでもその場にいたどの客よりも若いために見劣りしてしまう感覚もありました。 ただ、若さによるハンデはそこまででそれ以降は及第点と言えると思いますし、なによりも本作が良いのは登場人物それぞれの心情を丹念に描いたところにあると考えます。 リメイク版は物の破壊やバイオレンスシーンがやたらと多く目立った上にそのそれぞれのシーンもイマイチ迫力に欠けていましたし、爆弾処理のシーンの緊迫感も本作の方が格段に上だったと思います。 本作での終盤では、妹が撃たれるシーンが(無駄な抗争シーン等が少ない分)ストーリー上で際立っており、映画全体で抑揚が感じられたのが好印象。 そのままFINへの流れも、あっさりとしていながらも納得感のある締め方でとても良かったと思いました。 [映画館(字幕)] 7点(2022-09-24 01:22:05) |
2. 華麗なる大泥棒
《ネタバレ》 中盤辺りでのカーチェイスはもちろん凄いのだけど、自分が引き込まれたのは、追い込まれたベルモンドに迫り寄るオマー・シャリフ警察の足元のみを映すカメラ。 「地下室のメロディー」同様、アンリ・ヴェルヌイユ監督は緩急の“緩”の部分を魅せることに関して右に出る者はいないのでは。 その“緩”の極みともいえるのがこの映画最大のハイライト、冒頭の強盗シークエンスでしょう。 金庫の前で淡々と仕事をこなすベルモンド扮するアザドの鮮やかな所作には安心感すら感じさせるにもかかわらず、ドキドキして見入ってしまうのは何故なんだろう。 パトカーが行ってしまったと見せかけといて戻ってきたり、立ち去ろうとした瞬間に金魚鉢の割れる音で再び屋敷に戻ってくる“一度落として上げる”テクニックは、ヴェルヌイユならお手のものといったところでしょうか。 また、この映画のテーマ曲を口笛で吹きながら登場させるユーモラスな演出も大好きです。 おもちゃ倉庫や埠頭での再三にわたる警察との駆け引きも見ごたえがありますし、ベルモンドの体を張ったアクションも必見ですが、ラストが玉にキズ。 犯罪は成功せず、警察も殺さずで、道義的には悪くはない結末ですが、鶏のアップで締めくくるラストショットはちょっとビミョーかと。 しかし、前半の見ごたえのある映像はやはりインパクト大ですし、レストランのシーンではギリシャ料理の説明がさりげなくなされていたり、アテネの観光名所のアナウンスなども挿入されていたりと、異国情緒溢れる雰囲気も感じられ楽しく観ることができたと思います。 [映画館(字幕)] 8点(2022-09-22 14:59:05) |
3. カラミティ・ジェーン
《ネタバレ》 原題も主人公の名前のままだし、邦題もいじりなさすぎてセンスないなぁとか思っていましたが、調べてみるとこのタイトルで舞台やらアニメやらで多くの作品が作られているそうです。 主人公のカラミティ・ジェーンは絵に描いたような鉄火娘。 ホントにそんな奴いたのかよとかツッこみたくなりますが、こちらも調べてみると「平原児」でも同じ名前の役がいて、実在の人物とのこと。 序盤で大物女優を連れてくるくだりから若手女優(オードリー風で可愛かった)がストーリーに加わってラブストーリーに発展する流れは意外にも楽しく、カラミティの家に二人が行って女らしさを取り戻していく時のミュージカルのシークエンスが特に好きです。 誤解が解けるシーンも、観る側が実際の映像により真相を知っていたので素直に受け入れられるところも分かり易くて良いと思いました。 「違う、実は●●なんだよ」とか、セリフのみで誤解を解いてハッピーエンドに結び付けるというありがちな手法をやられてしまうと今ひとつピンと来ないまま終わってしまうのですが、本作はその点においてすっきりと締めてくれて良かったです。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2021-06-05 17:44:43)(良:1票) |
4. 崖の上のポニョ
《ネタバレ》 始まってすぐ、クラゲの柔らかさ、家の壁や柵などの質感からくる画の暖かさにちょっと感動しました。 風に揺れ動く葉の一枚一枚に至るまで丁寧に描き込まれた画のディティールには目を奪われます。 非常に精巧であるばかりでなく、魔法によって命を吹き込まれた波の妖しさなど、ものの動きの表現が非常に豊かで画面を見るだけでも十分満足させられる程です。 ストーリーの中ごろ、海が荒れて大災害になりましたが、とてもメルヘンチックな描き方だったのが特に印象的で、普通の大人ならニュースでよく目にする被害状況や救助の光景などに着目しがちですが、子供の視点で見る災害は何だかとても穏やかでふわふわした気分になれてしまいました。 また、リサの車の運転が荒いようにも見えますが、窓の外の景色が物凄く速く流れているように描かれていたのも、子供の目にはそう映るからかもしれません。 あらゆる場面で子供の目を意識した箇所が見受けられますが、宗助には海水と淡水の違いくらいはちゃんと分かっていてほしかったです。ポニョは鮭の一種か?(←大人目線でスイマセン) [地上波(邦画)] 7点(2015-02-22 17:00:57) |
5. カジノ・ド・パリ
《ネタバレ》 映画のレビューは映画の中身のみで完結させるべきだと考えてきたこともあって、映画の外側、要は時代背景や映画史をレビューに書くのは自分の中では反則なのですが、やはり同年代に作られた「フレンチ・カンカン」と似ているという事もあり、どうしても比較対象として意識してしまいます。 「フレンチ~」の方は、一応ミュージカルにジャンル分けされてはいるもののストーリーの一部に歌の一部が部分的に出てくる程度で、むしろダンスの方がインパクトが強い印象なのですが、本作の方はよりミュージカル色が色濃く出ており、ストーリーの単純明快さも手伝って気楽かつストレートに楽しめる作品だと思います。 劇中に出てくるミュージカル音楽はどれも総じて出来が良く、個人的には秘書を演じていたジルベール・ベコーの歌がどれも好きです。 また、メイン3人のキャスティングが完璧で、特にヒロインのカテリーナ・ヴァランテの陽気で溌剌とした姿が実に良く、会話のシーンでの自然な笑みを浮かべた表情などを見ると、彼女の出演した作品が非常に少ないのが残念に思えてしまいます。 ヴィットリオ・デ・シーカも上記二人に比べると脇役に追いやられてしまいそうですが、彼もまた適役と呼ぶに相応しい存在感を感じさせ、シンプルな内容の作品の中において安定感をもたらしてくれているような感じです。 ハリウッド製のミュージカル映画で見られるような、ここが見せ場だと言わんばかりに大勢で大合唱をしたりといったシーンがなかったのも自分の好みの要因で、それでいてとても晴れやかで楽しさに溢れた雰囲気は随所で感じられ、フランス映画がますます好きになってしまう、そんな一本でした。 [映画館(字幕)] 7点(2014-03-28 23:31:18) |
6. 牡蠣の王女
《ネタバレ》 10点を叩き出したお二方のレビューの後に心苦しいですが正直にコメントさせていただくと、決定的にダメなのが、偶然の出会いが面白くないという事。 ストーリーの中盤まで観れば王女と王子の二人がいずれ出会うというのは100人中100人が予測できているわけで、いつ、どんな出会い方をするのかというのが観る側の我々としての最大の楽しみとなっているにもかかわらず、ここで見事にスベってくれてしまいました。 王女がアル中患者を救済する会に入っていたというのは後付けのこじつけた感があり軽薄さすら覚えさせますし、更に、酒に酔った王子がその会がちょうど開催されている場所にフラッと現れるというのも二人の境遇差を考えるとちょっと難しいでしょうから、この二重の唐突な展開は、どう好意的に考えてもちょっと無理がある印象が拭えません。 話の中に新たなネタを追加して驚きを与えるのは誰にでも出来ますが、二人が出会う事が観る側に予感としてある以上そこからそれを上回る面白さを出すのが一流のストーリーテラーなわけで、この幹の部分でダメとなるとそれ以外の枝の部分で良い箇所があったとしてもちょっと苦しいという気がします。 良かったのは、ルビッチ映画でお馴染みのアヤシイ動きをするオーケストラの指揮者と、「こんな食事を食べるのは久しぶりです」の2箇所くらいなもので、度々出て来た「I'm not impressed.」をラストのオチに使うのもちょっと弱いなぁと思いました。 [映画館(字幕)] 5点(2013-12-29 00:13:23) |
7. 片目のジャック
《ネタバレ》 まぁ、復讐って言っちゃえば幾らかマシではあるんですけども、男の恨みってのは、見ていて余り気持ちの良いものではなくて、ウエスタンでよく見られる男気とか正義感とかはこの映画には全く存在せず、代わりにあるのは遺恨と打算のみ。要はただそれだけの映画って事。 何が腹立たしいかと言えば、マーロン・ブランド扮するリオがダッドの娘を妊娠させるくだりなんですが、映画後半になると情が出て来た描写はあるものの、祭りの夜に海岸に連れ出してネックレスを渡すシーンなんかを見るに、彼の中に愛情なんぞはある筈もなく、つまり、ダッドに対しての復讐故の行為と解釈できるわけ。テラスでのダッドとの二人きりの会話のシーンで、相手の幼稚な嘘も受け入れて和解に向けた気持ちで彼の家族を交えて食事をしていたと思わせておきながら、実はまだ遺恨が残っていましたというネチネチした展開。ホント気持ち悪い。 また、映像に着目しても、1対1での会話のシーンが随所に出ていましたが、ワンショット毎のカメラアングルとか距離感とかがワンパターンで構図を作ることに対しての工夫が感じられませんでしたし、食事中のフォークやイヤリングをむやみやたらに光を反射させていたところを見るに、恐らく照明に対しての意識も乏しいのではないかと容易に想像できます。 脚本に関しても、「ただのシチューよ」とか面白いフレーズはあるけども、台詞の前後の流れでおかしいところが所々にありますし、やはり、部分部分のストーリーで、後半辺りで三人のうちの一人が仲間に撃たれる場面も理由が不明瞭ですし、銀行強盗の後もリオが牢獄に連れて行かれるまでの描写も少なく、濡れ衣を着せられて抵抗するシーンくらいは描くべきなのに、その癖、余計なシーンが多いお陰で140分もの長尺になってしまっているのは編集にも問題ありと言えそうです。 とにかく、ダラダラと書いておきながら一番言いたいのは、ストーリー的な美しさが全くなかったという事。本当に不快な映画。 [映画館(字幕)] 5点(2013-04-20 15:12:14) |
8. 開拓者(1919)
《ネタバレ》 とにかく、クロスカッティングが大好きな作家だという事はよくわかった。 冒頭で、兄が弟を迎えに行く道中の夜営のシーンと船の中の黒人労働者のショットと主人公の弟がポーカーをやっているシーンの3つでクロスさせている場面がありましたが、どうも意図が読み取れない。 後半の、兄が殺人の真実を知るシーンとインディアンが火を囲んで踊るシーンのクロスもこれまた同様。こっちは更に意味が分からない。 タイトルも原題・邦題共に内容とそぐわないですし、よく考えたらポーカーをしているシーンでの登場人物の紹介も特に必要なかったような気がします。 幌馬車隊がわざわざ円陣を組んで夜を明かしてもインディアンが襲撃に来ることもなく、ストーリー的にもイマイチ盛り上がりに欠けていたと言わざるを得ません。 最後のシーンも、新たに旅に出る姿で終わるわけだから後ろ姿が遠ざかっていくショットにすれば良いものの、正面を向いた姿で幕を下ろしてしまうという何ともチグハグなエンディング。 主人公を演じた男も、むしろインディアン役として出た方が良かったんじゃないかというほどの風貌で、どう見ても兄弟で顔が違いすぎるだろとか考えてしまったりと、あらゆる場面で不満を感じさせる映画でした。 [映画館(字幕)] 4点(2013-04-17 00:34:04) |
9. カンサス大平原
《ネタバレ》 オープニングで序文を出すことによる時代背景の解説あり、軍隊から派遣された新鋭技師とベテラン現場監督との衝突の後の結束あり、父と娘の親子愛あり、娘と技師とのロマンスあり、潜入者の破壊工作あり、悪役との銃撃戦あり・・・などなど、教科書のお手本通りな映画という印象であります。 鉄道建設を巡る南北間の争いは、実際にこの映画で語られているようなバトルが至る所であったと思われ、それを考慮し思いを馳せてみると、こういった先人たちの努力のおかげで鉄道列車の中で繰り広げられる様々なサスペンスドラマが作られているのだという事を改めて知ることができ、観終わってみて非常に感慨深く感じられる映画です。 [映画館(字幕)] 6点(2013-03-31 21:20:34) |
10. 勝手に逃げろ/人生
《ネタバレ》 「お尻の割れ目が気持ちいい」や「ゴダールさん、後ろから犯して下さい」とかはまだ序の口。 DVD上映でしたけども、映画のスクリーンで修正のかかっていない性器を見たのは初めてですし、放送禁止用語は勿論、表現の内容まで結構ヤバい映画。 突然F1のマシンが出てきたり、「名前は?」「マリリン」「馬鹿にするな」で、改めてちゃんと自分の名前を言うシーンは地味に面白いです。 全編に渡ってスローモーションが至る所に出ていましたが、特に意味があってやっているようには見えませんでしたし、スローになった所に共通する何かというものも分からなかったです。 新鋭の監督じゃあないんだから、実験作みたいなのを作るのはいかがなものかという気がします。 [映画館(字幕)] 5点(2013-01-26 19:20:41) |
11. 狩人
《ネタバレ》 雪原を歩く狩人たちが発見したもの。それは20年以上も前に起きた民主化運動の市民兵の死体。と言うよりは、彼らが“生み出した”といった方が正しいかもしれません。 何故、あんな所に死体が・・・?ズバリそれは彼らに過去を悔いる気持ちが残っていたからと言えるでしょう。 彼らは死体を持ち帰り、皆それぞれが過去を回想することで忌まわしい過去を清算する。清算という言葉が的確な表現かはわかりませんが、何かしらの気持ちの整理をつけたと解釈しました。 回顧シーンの驚くべき手際の良さ、時の流れを巧みに操るスムーズさにしばしば目を奪われます。皆で囲んで食事をしていた長卓がスッと画面から消え、全く同じ長卓が今度は死体を横たえた出で立ちで瞬く間に姿を現すシーンにゾクゾクさせられます。 極めつけは、パーティー会場の中に市民兵が乱入し、動かないはずの死体も起き上がり彼らを外に出し一列に並ばせるシーン。銃声と同時に倒れる狩人たち。これが彼らが生み出した悔悟の念の最たる部分であったのでは。 そして、懺悔を済ませた彼らは再び雪原に戻り死体を埋める。新年を迎えるべく栄光館に戻る後ろ姿。 何故、アンゲロプロスはこの映画をブルジョア側の視点で撮ったのだろう? 彼自身も狩人たち同様、悔悟の念を抱いていたのかも・・・。読み間違いをしているかもしれませんが。 [映画館(字幕)] 6点(2012-07-01 22:07:44) |
12. カリガリ博士
ストーリーは面白くない。というか、よくわからん。 印象に残ったのは、舞台となっているチープなセットなんですが、ダンボールに絵の具で絵を描いただけというようなお遊戯会レベルのセットで、褒めるつもりで言うならば、この映画の主題にとてもマッチしていて凄く雰囲気が出ていた、という感じでしょうか。 セットがチープ過ぎていたお陰でカメラの動きが制限されてしまっているどころか、一ヶ所に固定し定点からの視点にならざるを得ないという事態が起きてしまっているために、本当に客席から舞台を見ているような印象さえ受けとられるので、どうしても物足りなさが出てきてしまうのは否めません。 まぁ、映画黎明期の頃はカメラを動かそうという発想がまだなかったということもあり、この映画が作られた頃もそうだったかも知れないので、この点を追及するのはやや反則気味のような気もしますが。 セットの細部について言及しますと、自分は表現主義だとかそういったバックグラウンドの知識は持ち合わせておりませんが、異様な形の建物の様相を見るに、体験談を語るという主観的なスタンスで物語が進むわけですから、あのような非現実的な妖しい背景もアリなのかなという気がし、ここは斬新で自由な発想を感じ取る事が出来たと思います。 [DVD(字幕)] 5点(2012-04-03 20:21:29) |
13. 隠された記憶
《ネタバレ》 難解だとかじゃなくて、観終わって本当に何も感じるものはなかったです。 多分、創作意欲とかは恐らく全然ないままでこの映画を作ったんじゃないかな? まず、視点が定まらない感じがするのですが、ラスト3カットで主人公がベッドに入ると夢だか回顧だかのシーンに移行していますが、もしあれが幼い頃の夢だとすれば、あのような第三者的な位置からの映像は不自然なわけで、序盤に出てきたみたいに少年の目線で映すことによって描くべきだと思いますし、また、送られてきたビデオを再生する時の映像も、オープニングはいいとしても、物語の途中で再生する時はビデオを見ているシーンだと分からせるために画面を粗く処理するとかして物語を進めた方がいいのではという気がします。ラストの長回しも、何かしら強調したい部分があって、それを見てもらおうとする意思があるとすればもうちょっと分かるように撮る筈だから、たぶんあのラストショットでは特に注目して欲しい部分などはなく、何の意図も込めずに撮ったのでしょう。 脚本についてもよく練られていないような印象で、初めて昔の同居人を訪ねて部屋に入った時「よくここが分かったな」と言われれば、ビデオの送り主は彼ではない事が明らかになる筈であるにも拘わらず、それを無視してやり取りが続けられているのは勿論、あれっ?という素振りすらしない。最後の方のトイレの中での相手の息子との会話も、大声で呼び出しておきながらも何が言いたいのかハッキリしないし、奥さんを心配させまいとついていた嘘も疑問符がつくような内容。 他にも、本筋とは無関係なシーンが無駄に多いのもダメ。奥さんが夫婦愛を強調するような事を訴えていたにも拘らず他の男に寄り添って涙を見せたりするシーンとか、最初の方で自転車に接触しそうになるシーンに至っては、パーティーの時の作り話の伏線のためだけに挿入されたとしか思えないワンシーンで、サブプロットにも成り得ていない部分に更に無駄を付け加えるという実に馬鹿げたストーリー構成。 自殺のシーンを見たお陰で、息子とエレベーターに乗るシーンが凄く緊張感が出ていて、しかもそれが何の変哲もない撮り方だったのがかえって緊張感を増すように作用していた、と本来ならばそう書くところですが、何も考えずにこんな映画を作った人のことだから、気がついたら緊張感溢れちゃってました(笑)、みたいな事かもしれないですね。 [映画館(字幕)] 3点(2011-10-19 22:47:43)(笑:1票) |
14. 階段通りの人々
《ネタバレ》 盲目の老人が持つ箱なんて大した金が入っているわけでもないのに、周りの人は結構気になっているところがあの階段通りに住む人たちの貧しい暮らしを表しているのでしょう。 あの老人の娘はどうして優しく接してあげられないのだろう。周りの人もからかったり箱を奪ったりと、みんな心の貧しい人ばかり。箱の中身が多くなるにつれイジメがエスカレートするかのような感じでしょうか。 人を虐めるというのは、虐める人自身が弱かったり大人になり切れていないからだと自分は思うのだけど、娘を含めて老人を虐めていた人たちは、そのような要素が一人一人に存在していたからだという気がします。 ところが、あれだけ自分の親に辛くあたっていた彼女も、親を亡くした事が人生の糧となったに違いありません。戻ってきた彼女は、聖人となって現れ道行く人に施しをしていましたが、辛い経験が彼女を成長させたということなのでしょう。 最後、誰もいないであろう自宅に入り、一人過去を省みる彼女を想像すると、ちょっと心が痛くなるような気がしました。 [映画館(字幕)] 6点(2010-10-02 03:14:49) |
15. 過去と現在 昔の恋、今の恋
《ネタバレ》 今から約40年前の映画ですが、オリヴェイラ監督の2000年以降のここ数年に作られた作品と似たような作風で、特に室内の映像での派手さを抑えた重厚な雰囲気(上手く説明できない)や、登場人物の息遣いまで伝わってくるかのような撮り方(本当に説明下手でスミマセン)が出ていて、映像を見ているだけでも満足してしまいそうです。 一つ一つのシーンを見るとカットを割る回数が少なく、ワンシーンワンショットまではいかないにしても3~5くらいのカット数で一つの場面を作っているため、非常にゆったりとしたテンポで進行していたのがいかにもオリヴェイラらしいといった感じで、映画全体のこのスローな雰囲気が自分は好きです。 問題はストーリーなのですが、最初の方で主人公のヴァルダが前夫リカルド(交通事故以前)と結婚していた時もそれ以前に亡くした夫のことを崇拝していた、ということが語られるシーンがあったため、映画後半でリカルドと“再婚”した後も同じことが繰り返されるだろうという事は容易に想像できてしまうので、その過去の事実を明かす会話さえなければ良かったのにと思いましたが、再婚するたびに亡くなった前夫を愛することを繰り返すというアイディア自体は悪くないと思います。 また、この頃のオリヴェイラは人の死を茶化すのが好きだったのでしょうか? 夫が飛び降り自殺を図る際、庭師に飛び降りるのを見られてしまい窓の上淵を触ってごまかすシーンの直後に本当に飛び降りてしまうというシーンがあり、笑いと死が隣り合わさってしまったこの有り得なさに、驚きと笑いの両方が同時に込み上げてくるという何か異様な感情が自分の中に出てきてしまいました。 他にも「もう死んだ?」「いや、まだ。」といった会話が廊下ですれ違いざまにサラッと交わされていたり、生きてるうちに棺桶を用意して、しかもそれをビリヤード台に斜めに立て掛けて置いておくという非常にアブノーマルなシーンがあったりと、脚本から映像からあらゆる方法でブラックな笑いを仕掛けてきて、いろんな意味で面白い映画でした。 [映画館(字幕)] 7点(2010-09-26 23:22:19) |
16. カニバイシュ
《ネタバレ》 この映画ほど「寝ないでよかった~」と思った映画はないです(笑)。 映画の前半と後半でこんなにも調子が変わってしまった映画を他に私は知りません。しかし、全く別の映画になってしまったかのようなこの展開がもう最高! 前半では子爵の苦悩やマルガリータの一途な想いをオペラ調で語り合うシーンが多少しつこい程に繰り返されるので睡魔が襲ってくることもあったのですが、もし前半だけで寝てしまったとしたら、最後の方で出てくるマルガリータの父親と兄弟の変貌ぶりや池の周りで繰り広げられるアレは、もう訳がわからなくなっていたことでしょう。 何て恐ろしくおぞましい映画なんだろうという気持ちと、何て×××な映画なんだろうという気持ち(観た人ならわかりますよね?)という、一つの映画の中で複数の感情を体感できる凄く貴重な映画とも言えます。 私は、劇場でこの映画を観るという大変ありがたい経験をさせていただいたのですが、この映画こそが劇場で多くの観客と共に観るべき映画だと思います。 壮大なスケールで描かれる一大スペクタクル叙事詩のような映画でこのようなことがよく言われますが、大勢の観客と一緒になって後半のアレを体感するのはこの上なく幸せなことです。自宅のDVDでこの映画を鑑賞すると、後半に差し掛かった辺りのあの微妙な感覚、「この映画ってもしかして×××な映画なの???」という疑念を抱きながらの鑑賞になってしまいそうですが、劇場ですと周りの人がしっかりとリアクション取ってくれますからね。 ラスト10分で「ああこの映画はやっぱり×××なんだ」という体験を皆さんも是非味わって下さい。 [映画館(字幕)] 8点(2010-09-19 23:12:51) |
17. 海底王キートン
《ネタバレ》 チャップリンの映画になくてキートンの映画にあるものと言えば、主演女優とのドタバタの連係プレーですが、この映画でも女優キャサリン・マクガイアとの共演により非常に完成度の高いコメディ作品に仕上がっていると思います。 いつもの事ながら、共演している女優がウッカリ者でおっちょこちょいで、キートンの足を引っ張ってばかりというお決まりの役柄なのですが、いつものようにこれがまた面白い。 ギャグの一つ一つも面白かったと思うのですが、それにも劣らず、序盤での二人の追いかけっこしているシーンとか、その少し前のお互いの存在を察知するくだりなんかは、ちょっとしたメロドラマなんかに出てきそうな演出で、コメディ以外の要素でも楽しめるポイントがあったと思います。 火のついた煙草で女は他に人がいることに気づき(煙草で連想されるのは男)、人を呼ぶ声で男はその存在を知る。何とお洒落なすれ違いだろう。 映画の後半は水中撮影を行ったり、人食い人種(何で見ただけでわかるんだ??)役の大勢のエキストラを使ったりと大変な労力を注いでいるところをみると、キートンの映画製作に対する情熱が伝わってくるような印象です。 最後、海の中に沈んでいってしまうのかと思いきや、潜水艦の上に乗っかって再び上がってくるというお決まりのパターンはこの映画がオリジナルだったりするのかも。 [映画館(字幕)] 8点(2010-06-17 02:03:38) |
18. 崖
《ネタバレ》 この映画の一番の肝はやはり、後半に出てくる半身麻痺の少女なのでしょうか。 この頃の他のフェリーニの作品で本作同様、汚れのない子供に接することで人生をリセットするチャンスを与えられるシーンが見られますが、いずれの作品の主人公も結局立ち直れないままで物語が終了してしまっています。 全体的なストーリーは面白かったのですが、どうもアウグストの行動に疑問が残る。 少女の純粋さや気丈に振舞う健気な姿を見て、何もしてあげられない自分を恥じ、胸の詰まる思いをした事は事実。しかし、そこで改心したと思いきや、アウグストの体のあちこちからお金が出てきたのは、一体何が言いたかったのだろうと不思議に思った。最後、悪事から抜け出そうと道行く農民にすがろうとするアウグストを再び崖から突き落とすかのような結末に、本当に救いようのなさを感じました。 少女が懸命に松葉杖を使ってアウグストに近づき救いを乞う姿と、ラストシーンでの崖の地肌の乾いた感じが特に印象的。 [ビデオ(字幕)] 7点(2009-12-30 14:47:22) |
19. 狩人の夜
《ネタバレ》 人形の中に収まる程度のお金に何でそこまで必死になってんだろうと考えてしまうと、急激につまらなくなってくる。 それに、もともとはあのお金って銀行強盗してかっぱらって来たお金でしょ。劇中でも言われてる通り“汚れたお金”のはず。それを親子の絆とか男同士の約束といったもので本質を誤魔化して見せているところがあまり好きになれないです。 子供は好きですし、どんな子供でもかわいいと思うけど、いくら父親でも、いくら将来の子供の為だとしても、悪事に加担させて騙しちゃいけないでしょ。少なくとも、映画というメディアを通じて観客に見せちゃいけないと思う。 あと、マネキンを使って水死体を撮ったのは大幅減点。リアリティーを追求するのが困難なら他にも方法があった筈。 まぁ、モノクロ映像における水面の月の光の乱反射なんかはモノクロの長所を最大限引き出しているし、野生の動物たちの息吹を感じ取れたことだし、リリアン・ギッシュも綺麗に撮られていたし・・・・・ギリギリの及第点という事で、6点。 [映画館(字幕)] 6点(2008-05-29 00:42:06) |
20. 外套と短剣
《ネタバレ》 まぁ、面白くないわけではなかった。 エンターテイメント作品として、ラブロマンスをストーリー中に組み込むのは間違いではないとは思いますが、如何せん本題のストーリーが薄まりすぎな感がありました。 病院にいる女研究者を尋ね、イタリアの初老の研究者に会いに行き、娘と会わせてくれるならという条件を受けたジェスパーですが、そこからのストーリーが本来の任務とはやや離れてしまい、男女の恋愛もののストーリーにガラッと変わってしまったのは、あまり面白い展開ではないような気がします。 初めてヒロイン役のリリー・パルマーを見ましたが、最初に登場したときの男勝りな雰囲気から一転、鏡の前でブラッシングをしている頃になると、何故か不思議と女の色気が出てきてしまうところなんかは思わず感心してしまいました。 また、エンターテイナーのフリッツ・ラングらしく、やはりラストの銃撃戦や取っ組み合いのハラハラ感がとても見応えがあって、さすがだなぁと改めて感じさせられます。 [映画館(字幕)] 6点(2008-05-22 01:47:36) |