1. 風立ちぬ(2013)
《ネタバレ》 ◆自分がはじめて飛行機に乗ったのは大学2年の帰省の時。羽田から徳島まで、今はもう無くなった日本エアシステム。離陸と着陸の時の独特の感覚は今も覚えている。あの感覚のせいで飛行機嫌いの方も多いと聞くが、自分の場合は、何かわくわくするモノを感じた。◆この物語はそんな飛行機に魅せられた天才青年の半生記。映画内の『現実』と二郎青年の『夢(妄想?)』を行ったり来たりしながら、かけがえない伴侶との出会いと別れを絡めていく作品。◆見る前は評価が分かれていたので不安だったが、見て納得した。評価が分かれるのも致し方ないかな、と。鑑賞者の人生観や経験した事によって、大きく感動のポイントが変わってくるのだろう。自分も独身だと仮定したら、そんなに深く感銘しなかったと思う。が、嫁や幼い息子の事を思い浮かべながら見ていると、本当に感慨深い作品だと思う。◆主人公の二郎にとって、設計の仕事は大空へ飛ぶ事につながる夢。でも、決して平坦な道ではなく、目の前で無残な現実を突きつけられていく。でも、彼は計算尺と鉛筆を離さない。一方、菜穂子との時間も決して平坦なものでなく、現実は厳しい。でも、二人の互いに慈しむ気持ちはスクリーンからダダ漏れしていて、思わず泣けてきた。たとえ、結末が辛く悲しいものであったとしても。◆話の中で特に印象的だったのは、刈り上げ頭がなんだかかわいらしい黒川さん。一見意地悪そうなこの人が実に良い人で、もし叶うなら黒川さんに焦点を当てたスピンアウトを見てみたいくらい。◆仕事の後に楽しそうに議論する光景、特高にねらわれて姿を消すときのやりとり、今の日本の会社からは無くなりつつある光景かもしれない。何でも『数値目標』に置き換え、目標設定と達成に汲汲とし、不要となったらゴミを捨てるかのように仕事仲間を捨ててしまう今の日本。宮崎監督なりの強烈な提言なのかもしれない。◆主人公の声は最初は一瞬驚いたが、後になるにつれ、二郎の『誠実さ』がよく分かるものに思えた。そういう意味では、中々絶妙な人選だったような気がする。◆生きていれば、山もあれば谷もある。でも、その火が自然に消えるまで、前を見て生きる事、それが監督の最後の『遺言』なのだと最後のシーンで思えた。心に残り続ける言葉を全力で投げかけて舞台を降りた宮崎駿監督に、心からの感謝を。 [映画館(邦画)] 10点(2013-09-11 09:47:55)(良:1票) |