1. カップルズ
《ネタバレ》 この監督の並行編集癖は、突出した特徴だ。誰が主人公というのではない、あるとき偶然の切り取りで、とりあえずの主人公が産み落とされる。とはいえ、この映画では、ヤクザに追われる実業家の息子というのが一応中心人物だったはずだ、が、激烈な行為に及んだあと、映画の終わりの段階では妙に除けられる。とにかく、並行編集がこの監督の魅力だ、と再度。 [ビデオ(字幕)] 7点(2015-05-09 23:33:41) |
2. 禍福 前篇
《ネタバレ》 成瀬映画の例外的に強力なシーン!相思相愛の恋人があるにも拘らず親から政略結婚を強要されている男が草原に仰向けになっていて、その憂鬱を馬上の女性の出現が一挙に吹き払う。大蒼穹をバックに圧倒的に爽快に現れ出るこの馬上の魅力的な女性がなんと政略結婚の相手なのである。もはや何も悩む必要はないのであって、洋装で颯爽と馬に股がるこのモダンガールへと一挙に心変わりである、「メソメソする」和装の入江たか子を棄てて! 日本映画史におけるモダンガール像のきわめて政治的な機能を、成瀬映画も担ったのだ。銃後を守るのみならず外地にも乗り出すような積極的な女性像は、求められ利用され、やがて時期が来れば排除もされるだろう。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2015-03-23 16:31:58) |
3. 風花(2000)
《ネタバレ》 フラッシュバックが説明的に煩瑣に入って来て相米には珍しい作りだ。長さ(けだるさ)による不経済な語りという相米流は抑制され気味だが、やはりおおいにある。封切りの映画館ではさっぱり感動しなかったが、いま見直せば良さはある。 [映画館(邦画)] 7点(2015-01-14 11:06:33) |
4. 家族ゲーム
《ネタバレ》 不安を楽しんでいた時代ということをあとで思うだろうなとその時代のなかで先取りさせた不安な映画。伊丹十三と松田優作が奇妙な味を印象づけている(まさか早世の予兆でもあるまいが)。 [映画館(邦画)] 10点(2014-02-03 09:01:02) |
5. 華氏451
《ネタバレ》 ナチのような「消防隊」が本を襲いまさにナチの焚書そのものであるが、ヒトラーの本『我が闘争』も焼かれるのはアイロニカルである。双方向の巨大モニターが各家庭にあり、「コンピュートピア」の息苦しさを先取りしているのは、いい。ただし要するに問題は、概念的な思考をするしないであって、現今のコンピューター・ネットワーク社会がべつに概念的な思考を禁じているわけではない(デジタル書籍もあるわけで)。要するに紙媒体が不要にされていくという現今の傾向と重なるだけだ。 [DVD(字幕)] 6点(2013-03-03 10:40:00) |
6. 彼女について私が知っている二、三の事柄
《ネタバレ》 こういうエッセイ調の映画は、当然ながらスジの緊張感がない、流れがない、そういう「流れ」の楽しみをゴダールが意図的に拒否するのだからもう仕方がない、のだが、 「流れ」が遮断されるからこそ随所にドキッとするような生々しさが滲み出る。物語に奪取されない生々しさが。 [DVD(字幕)] 7点(2012-11-08 18:26:59) |
7. 悲しみよこんにちは
ガキってだめだなあ、なんの魅力も無い。『勝手にしやがれ』の彼女はもうオトナだった。 [DVD(字幕)] 3点(2012-09-02 08:35:48) |
8. 隠された記憶
《ネタバレ》 ストーリー語りにおいてあえて「非経済的な」語りをめざした挑戦的な映画である。「非経済的な」語りだから退屈なシーンも挑発的に長いし、観るにはキツイ衝撃シーンも二つ挟まっているが、これらの衝撃も「非経済的」だ(ふつうに「楽しみ」を求める観客存在にとって)。この映画が主人公の側に視点を寄せているために、妨害する主人公の脇から(いわば主人公の思惑の彼岸に)観客が真相を看取する(これがいまいち不明なのは惜しい)という、興味深い例となっている。 [DVD(字幕)] 7点(2012-07-16 13:05:15) |
9. 花様年華
《ネタバレ》 寄り映像が観客の見晴らしを奪う。これがいい。それとパラレルなのは、お互いの妻と夫同士の不倫関係を特にきちんと見据えようとはしない男と女の姿勢。階段で出逢うこの二人とせつない音楽。 [映画館(字幕)] 7点(2011-03-26 01:32:21) |
10. カッコーの巣の上で
《ネタバレ》 この世のせいで精神を病める人が、この世から病院へ逃亡しても、病院がまたこの世の縮図であるという悪夢。ところで、特定の人物を悪者として描くのはいうまでもなく問題の単純化である。 [映画館(字幕)] 5点(2011-03-25 11:30:50) |
11. 還って来た男
《ネタバレ》 自主上映の催しで、はるばる大阪まで足を運んだ甲斐のある映画だった。この映画にはまさに足を運びたいのであって、路上で人同士が「偶然に」出逢うことの多い映画なのである。「雨男」も居るし、道案内(これが主役の男女カップルの縁、「こっちです」との案内がきっかけ)もある。「こっちです」に観客も引っ張られるしかない。なんともほのぼのとした味の締めくくりとしてラストの石段シーンがある。ここでも「偶然に」出逢ったくだんの男女、男のプロポーズらしきものも含んだ長広舌がだらだらとあるなかで「終」マーク。この終わった感じのしない終わり方が良かった。いい映画だと思う。 [映画館(邦画)] 8点(2011-03-02 19:45:14) |