1. ギター弾きの恋
障害を持った役柄というのは、役者なら一度はチャレンジしたい役どころであり、また監督も、「純粋」だとか「優しさ」といったメッセージ性を示すために登場人物として盛り込みたがるものだ。ウディアレンが真に凄いところは、チープな人生訓を単純な演出で描く凡百の監督たちとは違い、障害というものを一切ウェットに描かずして観客にメッセージを感じ取らせたことだ。その期待に応えたサマンサモートンの演技力も見事で、これ見よがしに陥っておらず好感が持てる。(ショーンペンの巧さは今に始まったことではないので割愛)細部に至るまで映像全体に決め細やかな配慮が見られ、もはや職人の域に達した感のあるウディアレン。それでいて架空の人物であるエメットを、さも実在したかのように描く「遊び心」までも兼ね備えられては、脱帽と言わずして何と言おう。おそらくハッティとエメットの関係をもっと見せて欲しかったと思う観客もいただろうが、必要以上のことは一切描かず、観客に「抑制」の大切さを示した点も素晴らしい。「僕は何も言わないよ。君たち一人ひとりが感じ取ってね」。ウディアレン、実に大人の監督である。 9点(2003-05-13 23:19:58)(良:1票) |