1. 紀ノ川
《ネタバレ》 神田神保町シアターにおける「生誕110年記念 - 中村登」特集で初劇場鑑賞。紀ノ川の流れと共に生きた(時代に)殉じた母/抗った娘/添ってゆく孫娘の三代記。なんだけどテーマたる「不変と流転」を表現するのに字幕や多い台詞でいちいち情景を語らせたり、大仰な音楽を流す事で示唆してる:「こうすりゃ観客は理解・感動するでしょ」みたいな大袈裟文藝大作、苦手なんですよね。個人的には中村監督は女性の信念/情念を描き出す事に長けた「松竹版成瀬己喜男」と勝手に思ってたので、彼の作歴中一番の知名度を誇る作品ではあるものの、身の丈合わない感を感じちゃったんですよ。但今回レビューを記載させていただくのは主演司葉子の名演ぶりに対して。昔彼女のトークショーを聞く僥倖にあずかったのですが、によると『・男性主体の企画が多い東宝映画内での自身の立ち位置・10年間女優業を続けマンネリ感・お母さまを亡くされた といった事が重なり、演技者としての自信を無くされた時期にあたっていた。それが成瀬作品「ひき逃げ(’66)」出演後、改めて演技への自信が芽生えた時にいただいたのがこの作品』『夫を早くに亡くし、未亡人として戦後を乗り越えた司さんの母親を表現したのがあの役柄』そりゃぁ名演になるわな、という説得力です。でこの後が成瀬の名作「乱れ雲(’67)」。レビュアー皆様が「作品に恵まれたならば名女優になれた」というのも納得ですよ。(司さんご自身も「小津安二郎/成瀬己喜男の若すぎた逝去は自分にとって大きすぎる位の影響があった」とひたすら残念がってたのが印象的でした) そんな訳で機会があれば。 [映画館(邦画)] 6点(2023-08-20 08:44:33)(良:1票) |
2. 銀河英雄伝説 新たなる戦いの序曲<オーヴァチュア>
《ネタバレ》 OVA第二部(バーミリオンの戦い/銀河帝国の統一)が終わったこのタイミングで何故この作品を制作上映したか考えると多分、今の「鬼滅の刃」的セールスマーケテイング=映画のヒットを狙いOVAの販売促進につなげる+柳ドジョウで映画第2・第3弾も、と目論んだけど思ったよりもヒットしなかった+バブルが弾けて予算も無い、でスクリーン上映機会がこれ以降なかったのは残念でもあり、また当然かなと思ってました。(OVAは物語最後まで完走した点は良かった)だから2022年末にリバイバル上映、ってのはビックリ。この機会もたぶん「(リメイク)銀河英雄伝説 Die Neue These」の販促も兼ねて、何だろうけどおじさんとしては約30年ぶりのスクリーン鑑賞と大音量のクラシックだけで満足。(点数はともかく)あと個人的な感想なんだけど、国家と政治/戦争と平和/民主主義を考えるとっかかりとして、中学生以上の若人にこの作品体験を通過してもらいたい。というわけで順番は小説→OVA:Die Neue These→OVA:石黒版→漫画(道原かつみ版でも藤崎竜版でもOK)かな。てなわけで、小説版の後で興味があれば。 [映画館(邦画)] 5点(2023-01-15 19:35:06) |
3. 教育と愛国
《ネタバレ》 国民の意思統制という点において「国威掲揚・愛国教育」がどれほど効果的なものであるかを若い頃の駐在経験で何となく認識してる自分でも、このドキュメンタリーで描かれている現在の日本政治と教育/宗教の結びつきを告発してるこの内容にはちょっと驚いてしまった。①度が過ぎるほどの愛国心教育は視野の狭窄化を招き、他国民への偏見を生み出す土壌となりかねない。それを情操教育時に組み込む時点でどうかしてる。(お花畑、と言われるかもしれないが私は「国民あっての国家」を信じたい)②人間の営みが積み重なったものが歴史上の出来事なので、関わる人一人一人に言い分やそれぞれの観方があるはず。なので「歴史教科書に書かれている出来事は100%真実ではない、一つの事象には多面性/多様性があるのだ」という授業・教材こそが歴史教育に絶対必要と思ってる。ところがこの国の教科書検定に携わる方々はそういった多様性/多面性を遮断するような方針に力を注いでいるどころか、「目にすると不快だから」みたいな感覚で戦争の惨禍や他国への侵略の歴史といった出来事を矮小化した記載で済ませてしまってる。そんな出来事すら記載しない、「薄っぺらい」教科書ってなんなのだろうか。③最大の問題は思想と政治が結びつく危険性を全く認識しないまま「得票数と政治資金」の為に喜々としてそういった団体に協力している日本の政治風土・風習、と合わせてそんな彼らに投票してる我々国民なんだろうな。あの事件があった後、報道各社はあら探しに邁進してるけどどうせのど元過ぎれば、であんな事があったよねで終わってしまうんだろう。 その前に皆様、心の防災ベルがぬるま湯につかったまま動かないなんてならない様、良し悪しはともかく鑑賞ください。長文失礼いたしました。 [映画館(邦画)] 8点(2022-09-04 18:48:14)(良:1票) |
4. 恐怖の報酬(1977)
《ネタバレ》 この度2018年11月にデジタルリマスター化した【オリジナル完全版:121分】がスクリーンで上映されたので早速行ってきましたよ。私は監督フリードキンの、くどさというのか余計なショット・演出の羅列が好みでないので「フレンチ・コネクション」も「エクソシスト」も正直苦手。但この作品についてはそのくどさがまさにジャストフィットで、彼の最高傑作という世評もわからなくはない。特に物語佳境の有名な「ブランブランな吊り橋をニトロ積んだトラックでわたる」あのシーンはもう笑うしかない。オリジナルであるクルーゾーの「恐怖の報酬(53年)」の方が好みなのでそれとの差別化、という事でこのレビュー点数にしたが、意外と楽しめたという意味ではもう+1点でもいいくらい。印象的だったのは3つ。1. 53年版オリジナルにおけるラストの「あちゃぁ~」的流れよりもこのリメイク版のラストの方がより良い、という意見には100%同意。2. 原題が53年オリジナルは「THE WAGES OF FEAR(LE SALAIRE DE LA PEUR)」=文字通り直訳/恐怖の報酬なのだがこのリメイクは「SORCERER(ソーサラー)」=魔術師/呪術師なんですよね。ジャングルの熱/呪術に演者・観客も呑みこまれてゆくのか。3. 音楽。これこそまさに「ダサかっこいい」。53年オリジナルを先に見てからの方がいいかも。 [映画館(字幕)] 7点(2018-11-24 19:56:12)(良:1票) |
5. キクとイサム
《ネタバレ》 今井監督映画のテーマにいつも古臭さを感じてしまう私。この作品にも時代との乖離を感じるが、役者の演技力で見せきってしまうからすごい。宮口精二に東野英治郎、滝沢修や三國連太郎といった演者の登場には驚かされたが、やっぱり北林谷栄の凄さ。(約30年後「となりのトトロ」における「メイちゃーん」という呼びかけ、あのまんま。御理解いただけるだろうか)物語の終わり方も「頑張って生きてゆくんだ」と予定調和的なものになっているが彼女が演じたからこそあの説得力が生まれたのだと思う。子役の二人も好印象。これは機会があれば。 [映画館(邦画)] 7点(2018-01-21 20:33:12) |
6. キッスで殺せ!
《ネタバレ》 カルトムービーとして世界中に愛され、尚且つ様々な映画作家にオマージュを捧げられているこの映画。とはいえ現代の観客目線で再見すると正直粗ばかり目立つのは仕方がない。話の流れが(字幕だけで情報を得る困難もあるのだが)多少わかりづらいし、主演級・とくに女優は魅力に欠ける。にも関わらず私が好きなのは、50年代のアメリカ映画がマッカーシズムとヘイズコードによって規制が多かった中で、監督アルドリッチが「初めてやりたい事が出来た」と述べている=微笑ましいほどのフィルムから溢れる「若さ」なのだと思う。妙にいやらしい・とことん暴力をもりこみショット(=特に階段の上り下り)にこだわりを持ち、奇人変人を愛する。単なる雇われ監督作品「アパッチ」「ヴェラクルス」(共に54年)と比べ、ワクワクぶりが滲み出ているではないか。現在では結末が補完されたプリントがソフト化されているがこの作品に関しては昔の結末が欠けたバージョン(DVDでは特別映像として見る事が出来る)の方がなんじゃぁぁぁ、そりゃぁー!的な感じがして好きなのでマイナス1点。 [映画館(字幕)] 7点(2013-02-24 18:27:18) |
7. 斬る(1968)
《ネタバレ》 「斬る」なんてハードボイルドな題名にしてしまうから「椿三十郎」と比較されてしまうのだ、この映画。これも原案は山本周五郎だしね。別題「いやなこったお城勤め」くらいの気持ちで見た方が得。この映画でもやっぱり喜八映画の肝である「体制への反骨心」が溢れている。主人公源太だけではない、百姓半次だって討伐隊の浪人隊長(岸田森好演!)だって、挙げ句の果てには家老にすら「武士なんてやめた方がいいよ」なんて言わせているんだから。また女性が紛れ込むことで若手志士達の結束力にひびが入る、という展開も男の阿保臭さを表して可笑しさが増す。映像表現でいうなら冒頭の握り飯をとりあう男達のショットや浪人隊と改革志士達の争い+両方の壊滅をもくろむ家老派の動きをテンポ良く見せるところなどにアクション映画の雄、喜八のセンスが感じられる。へたくそな監督ならこれ2時間くらい超えてしまう内容だよ。名作ではないけど快作としてお勧めの一本。 [映画館(邦画)] 7点(2009-09-27 16:40:12) |
8. 君も出世ができる
《ネタバレ》 悲しいかな邦画ミュージカル屈指のこの名作でも、浪花節・演歌・盆踊り風土の日本では「邦画ミュージカルは所詮ハリウッドの二番煎じでしかない」事を感じる一抹の寂しさ。だがこの映画が後々の人々に愛されるのはやはりスクリーンからあふれ出る「幸福感」オーラが放出しまくりだからでしょう。中尾ミエとフランキーが星空の下泥だらけになって唄うあの美しさ・高島忠夫と雪村いづみの熱い恋心ふれあう瞬間/アメリカかぶれの社長令嬢=いづみが朴念仁忠夫の雰囲気に飲まれ踊り出すシーン。素敵じゃないか。最大の功労者は作詞/谷川俊太郎・作曲/黛敏郎の繰り出す音楽そのもの。特にしがないオフィスがあっという間に早変わり!の「アメリカでは~♪」これは必見。 [映画館(邦画)] 8点(2009-01-21 00:35:00) |
9. 飢餓海峡
《ネタバレ》 巨匠内田叶夢による邦画史上屈指の「大作」である。この映画を観て私が感じるのは芥川「蜘蛛の糸」。犬飼多吉にとって津軽海峡の暗い波頭はまさに地獄の血の池であったのだろう。そして娼婦八重はまさにそんな糸を紡ぎ出す蜘蛛であったろうし、八重にとっても犬飼は一時でも娼館を抜け出せるきっかけを作ってくれた、まさに「同じ地獄の境遇」から生還できた同士であったに違いない。だが時が経ち篤志家となった彼にとって彼女の存在は過去の罪を思い起こさせてくれるだけの邪魔者=地獄からの使者に感じられた、という悲しさ。ラスト犬飼が飛び込んだ海。それは「地獄へ墜ちていく」事の意思表示であり愛を捧げてくれた薄幸な娼婦への贖罪であったに違いない。役者は皆好演だがやはりこの映画は人間の持つ清濁性を存分に発揮した役者三国の代表作として挙げておきたい。といって私アジャパーだけではない役者伴淳三郎も、左幸子も凄いと思うんですよね。左演じる八重の犬飼への感情のほとばしり(切った爪を抱きしめ悶えるあのシーン!)、または皆様仰る犬飼との再開(「いぬが~いざ~ん!」)。刑事弓坂が犬飼に指し示す「砂」のシーン。まさに名演のオンパレード。点数は前半の凄まじい展開から後半に進むにつれ観賞疲れを感じてしまう処を考慮して。ここでは健さん、たんなるおまけだな。 [映画館(邦画)] 9点(2008-12-30 14:08:38) |
10. 教授と美女
ロマンティック・コメディの方式・【自分の魅力をわかっていない、初心な(美)男+世渡りに長けた、でも自分の事となるとからきし駄目な(美)女】×人の良い野次馬とありえないシチュエーション=恋。ゲーリー・クーパーも良いけどやっぱりこれはスタンウィックでしょう。 [ビデオ(字幕)] 8点(2007-12-22 22:03:53) |
11. 北国の帝王
《ネタバレ》 この映画で描かれるのは「暴力」ではなく「心意気」である。ホーボーも車掌も絶対悪ではなく、ただ不況下の中で生きていく事に全力を傾けた漢達の熱い話なのだ(それにしてもボーグナイン史上最高の悪役!)そしてエースの叫び。「お前には人の心がわからねぇ!」男なら必見の一本。やっとこさDVD販売。長かった~ぁ。 [ビデオ(字幕)] 7点(2007-03-11 15:58:45) |
12. CUTIE HONEY キューティーハニー
《ネタバレ》 知り合い宅で見なけりゃ多分見る機会の無かったであろうこの映画、率直に言うと思ったよりも悪くなく特に「熱演」というくらいの出演者の頑張りがある意味この映画を支えているのかな、というところか。(佐藤江梨子も与えられた役柄を何とかこなそうとしているのはわかるし)だから肩の力を抜いて、ボーっと見てる分にはいいでしょうと。個人的にはこの映画のマイナスポイントは2点ほど。1つはアクション映画における重要な点は「いかに観客の緊張感を高めるか」にあるのに監督の演出が妙にだる~いのでメリハリを付けられずに最後まで続いてしまったこと。あとはいろんな意味で奥が深い永井豪先生の作品を「映画で表現する」という企画自体の間抜けぶり、これにつきる。(個人的には永井先生作品の映画化で最高と思うのは馬鹿馬鹿しすぎ、という意味で「けっこう仮面」と思っているくらいだからね)「ススムちゃん大ショック」なんか見てみなさい、驚くよ。あと永井先生、お願いですから御自作の価値を下げるような企画に関しては駄目だしして下さい。ゲスト出演してもらっても困っちゃいますよ。 [地上波(邦画)] 4点(2006-10-31 22:15:10) |
13. 侠女
《ネタバレ》 改めて見直すと少々のかったるさも感じてしまうけど、ラストの竹林での死闘は世界アクションシーンの中でも屈指の名場面でしょう。京劇と映画の幸福な結びつき。グリーン何チャラより30年前にはキン・フーがアジアの剣戟の素晴しさを世界に伝えていたんだぞ!これだからハリウッドってのは。 [ビデオ(字幕)] 9点(2006-10-29 13:00:10) |
14. 木を植えた男
地球上の生命の中で人間だけが本能以上のエゴをむき出しにし、自分の首を絞めるような愚かな行為を行っている。とは逆に理性と情熱、信念を持ち行動する事で他の生物には成しえない素晴しい創造を生み出せる事ができるのもまた人間。フレデリック・バックの描き出す世界は実現不可能な理想郷かもしれませんが、冒頭の灰色の世界が色彩溢れる画面に変わってゆくたびに心にはぬくもりが残ります。色鉛筆によって描き出された、印象派絵画のアニメーション化。光の暖かさと柔らかさに感動。(映画館のスクリーンでぜひ見たかった) [DVD(吹替)] 9点(2006-05-21 20:51:31) |
15. ギャラクシー・クエスト
《ネタバレ》 アイディア元の「サボテン・ブラザース」と比べてこちらの方がラストに「感動」がプラスされるのはひとえにファンやサーミアン星人が持っているヒーローへの愛情の大きさによるものでしょう。ダメダメヒーローが周りの期待に応えるべく勇気を振り絞り、強敵に立ち向かうその様はまさに「のび太、ジャイアンに負けるな」みたいなものでありクェレックの死、それに応えるラザラスの「リベンジぃ」に涙止まらないのですよ、本当に。映画館で再映の機会があれば、そのときはぜひダガート艦長に応えて叫びたい!ネバーギブアップ、ネバーサレンダー! ご清聴、有難う御座いましたっ! [DVD(字幕)] 9点(2006-04-16 17:36:10)(良:1票) |
16. 霧につつまれたハリネズミ
《ネタバレ》 ああ私もヨージックを導く蛍や犬、魚みたいな大人でいたいなぁと思うのですが一番近いのは食いしん坊のくまさんである事に気づきました。絵本としても出版されていますが、ここはぜひ、アニメ版を。【追記:2017年5月に2Kリマスター版のBD/DVDが再発され遅ればせながら鑑賞。こりゃ本当に素晴らしい。映画館鑑賞→ビデオ→LD→DVDを購入済でくまさん&ハリネズミのぬいぐるみまで持っている私だが今回のバージョンはまさに宝物。DVDとはいわずBDで見て欲しい。】 [ブルーレイ(字幕)] 10点(2006-04-14 21:55:23) |