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1.  クラッシュ(2004) 《ネタバレ》 
 スクリーンを観ているときにずっと考えていたことは「この作品も先日観た『ミュンヘン』と同じように(日本民族の)日本人には理解しにくいだろうな」ということでした。ですから僕も本質的な部分ではよくわかっていないんです。表面上はわかったつもりでも、日本民族のアイデンティティが99%を超える日本に住んでいる日本民族が、この問題を理解できるわけはないのです。   僕が『クラッシュ』を観ていて何度も何度も『ミュンヘン』を連想してしまったのは、この作品にもやはり完璧な善と悪とが存在していないからです。観賞している誰もが嫌悪感を抱くであろう黒人蔑視の白人警察官が映画の後半にどんな行動を起こすのか。また逆にそんな彼の差別的言動に嫌気が差した、相棒の若い白人警察官の行動は悲劇を招いてしまいます。黒人の自動車泥棒が素晴らしい行いもします。事件に巻き込まれる善良だと思われたアジア系男性の本性は…。物語が進んでいくほど分けがわからなくなって、そして「この人物はこういう性格だ」と色眼鏡を掛けようとしていた観客全てを嘲笑うのです。   私たちが生きている社会はつらいことがたくさんあって、面倒くさいこともたくさんあります。人は自分の経験が蓄積してくると、それに基づいた考え方や行動を取るようになります。ある一定の自分の中の法則を作り上げ、従って、そう考えて行動した方が楽だからです。全てを単純化して系統立てて考えた方が、自分の強さ弱さや善悪の判断基準をより明確にでき、揺るがない自信を得られると信じているからです。当たり前のことですが、人はステレオタイプの考えを持たないことは難しいです。けれど、自分の知らないことを知ろうとする努力と、自分のルール以外のことを考え考察する手間と、正しいと思い信じているものを再度検証してみることを怠けてはいけません。   人種や民族といったアイデンティティの違いから、他者を差別することはあってはならないことです。しかしアイデンティティを消して同質化を図ることも許されることではありません。『クラッシュ』はアメリカの物語であり、世界の物語です。日本のようなひとつが大部分の地域を取り出せば見えてこないような問題も、アメリカのように混ざり合うことで浮き彫りになるのです。他者をより尊重し、そして問題提起をする「人種のサラダボウル」をこの映画に見た気がしました。
[映画館(字幕)] 8点(2006-02-18 23:53:05)(良:2票)
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