4. グラン・トリノ
《ネタバレ》 途中までは満点をつける気などさらさらなかった。 ありきたりの父&息子の成長譚に似すぎていてちと痛いとか、老人の孤独と死にまつわる諸々など個人的に映画館では見たくもないとか、カットのつなぎに性急さがちらほら見られ、にもかかわらず序盤の事件が起きない退屈さを隠蔽しきれていないとか、だいたいアメリカの片田舎でならひょっとしてあるかもしれないギャング話に、なんで日本人である私がわざわざあっちの小市民のふりして感情移入してやらにゃあならんのか、などなど。むろん間違いのない映像の質の高さに安心して身を任せてはいたのだが、そうした小文句が脳内を駆けめぐっていたのだった。 しかしあの、よくぞここまでと書くしかない娘の悲惨な姿が映し出されてからはもう、映像世界に引きずり込まれてどうしようもない。首根っこをつかまれて無理矢理という感じであり、しかも最期を遂げるシーンがあまりにも想像ベタすぎてかえって意外というか、ど真ん中すぎて茫然見逃しというか、こんなのありかという混乱の収まらぬうちにシーンは葬式会場へと移り棺を眼前にしてまるで本当の肉親が死んだかの如き気分をありありと味わい、感動して腰を抜かしていたのであった。あんた、そりゃないよ爺さん。このわけのわからない涙はいったい何なんだベイビー。 俳優イーストウッドは死んだ。映画の主人公でしかなしえない死に方で最後に死んでみせたのだ。そうしてわれわれに、現実と区別の付かぬ混乱の中で悲嘆と嫉妬と羨望の入り交じった涙を流させ、そういう死に方がありうるのだということを示し、スターとしての義務を果たしたのである。 [映画館(字幕)] 10点(2009-04-28 21:33:03) |