1. 月光の夏
太平洋戦争末期、特攻隊の悲劇を取り上げた作品は数多くあるが、本作は実話に基づいて作られているだけにより一層切実なものとして胸に迫ってくる。さらに派手な戦闘シーンや凝った特撮など一切使わずに、戦争の悲惨さと平和の願いを描き切ることに見事成功している。また監督神山征二郎の誠実な人柄が作品によく出ており、しかも渡辺美佐子や仲代達矢を筆頭に、各実力派俳優たちの情感が込められた演技も手伝い作品そのものの完成度もかなり高い。物語は、およそ戦争とは無縁に映る平和な余りにも平和な現代の日本と対比して、爆死することを義務付けられた特攻隊員の姿と戦争の不条理が次第に浮き彫りにさけてゆく。奇跡的に生き残った特攻隊員の語るに語れない地獄のような苦しみ、若き命を捨て駒同様に扱う冷血非道な参謀や軍指令部などなど。《ネタバレ》やはり本作では、ラストに尽きるでしょう。引っぱるだけ引っぱって余りにも衝撃的なシークエンスが、このラストに用意されていたのである。悲哀に満ちたベートーベン作曲「月光」のメロディーが類稀なる効果を収めており、特攻隊員の悲劇と戦争の不条理性を見る者へ強烈に訴えている。その瞬間、彼らは何を思い何を願ったのであろうか。このラストシーンは涙なしではいられなかった、というよりもうボロボロになってしまった。少々くどいようだが、この大どんでん返しとも言えるラストを迎えるまでじっと我慢して見て欲しい。この戦慄すべくエンディングシーンで評価は大きく跳ね上がり、作り手はなぜ坦々とストーリーを進めてきたのか分かるはずです。今の若い世代に、いろんな意味でぜひ見て欲しい名作です。 10点(2005-01-07 22:44:49) |
2. 原爆の子
広島、長崎の原爆投下をテーマとした映画は数多くあるが、進駐軍が睨みを利かす戦後間もない状況下、真っ先に取り上げた姿勢だけでも充分評価に値する。しかもこの映画は原爆投下から7年しか経っていないこともあり、つめ痕が残る被爆地広島の貴重な記録フィルムという側面も持っている。監督と脚本は新藤兼人。監督初作品である前作は小手ならし的な自伝的小品だったが、今作が巨匠新藤兼人の世に問う本格的なデビュー作と言っても良いのではないだろうか。その後も広島の原爆や核の恐怖を取り上げた新藤作品は多いが、それは監督自身が広島出身であると共に人間として許されざる行為であることに他ならない。この映画は原爆投下当事、広島の幼稚園で教師をしていた女性(乙羽信子)が7年後、かつての教え子たちに会いにゆく姿をセミ・ドキュメンタリータッチで描いている。作り手たちの情熱や意気込みが充分過ぎるほど感じられるし、なにより役者陣個々の確かな演技力に支えられており作品そのものの完成度は極めて高い。とりわけ戦争と原爆により我が子と家屋を失い、しかも視力までも奪われてしまった岩吉爺やを演じた滝沢修には文句の付けようがない。その痛々しい姿から放たれる演技は原爆の悲劇性を完璧なまでに具現しており、ただただ悲痛であり見る者は涙なしではいられないほどである。「なんぼでも生きるんじゃ。こないな姿顔を世間の人に見てもらうんじゃ。」など胸に突き刺さる台詞もいくつかあり、それらは原爆でなすすべなく虫けらのように死んでいった二十万人もの市民の声を代弁している。「8月6日は永遠に忘れてはならない」と訴えているこの傑作に、何らためらうことなく10点満点を付けさせて頂きます。 10点(2004-11-29 10:48:54)(良:3票) |
3. 原子怪獣現わる
モデルアニメーションの巨匠、レイ・ハリーハウゼンの特撮映画デビュー作。しかも↓の【鱗歌】さんのおっしゃるとおり、「ゴジラ」の元ネタと思われる記念すべき作品。ちなみに、ハリウッド版「GODZILLA」はこの作品のまんまリメイクですね。初見はずいぶん前なんですが、灯台守がマド越しに怪獣(もっとも巨大化した恐竜なんだが)と目と目が合うシーンがインパクト大で、あれはホントにコワかった。そうそう、怪獣が発散する放射能の影響で人々がバタバタと死んでいくシーンも印象的で、あれもホントにオソロシかった。アイデア、メッセージ性とも素晴らしく、本作は特撮怪獣映画の古典的名作と言い切って良いと思いますよ。 8点(2004-07-08 11:07:08) |
4. ゲーム(1997)
フィンチャー監督らしい独特な映像と不安を煽る演出はさすがなんだが、やはり強引過ぎる展開は説得力に欠ける。こういう方向性のサスペンスは、ラストの“どんでん返し”がすべて。どちらにも落とせる微妙な展開だったので、2パターン数種類ほど視野に入れていたはず。前作が前作だけに意外性を狙い過ぎたのでは? それにしても何だかなあ~。まぁ、大金持ちの半端じゃない“ドッキリカメラ”とでも言えば良いのかも。 6点(2003-09-30 10:32:36) |
5. 汚れなき悪戯
珠玉の名作…という言葉がぴったりの、胸に染み入る人間愛を描いた作品。この映画は手づくり感に満ち溢れており、つくり手の手の温もり、優しい眼差しなどをこれ程感じさせてくれる作品はそうないでしょう。ただ少し視点を変えて見ると、冒頭とラストの少女のシーンにもあるようにゾッとする怖さを描いた民話ともいえると思います。思い出すたびについ“マルセリーノの歌”を口ずさみ、涙腺がゆるんでしまう。やはりマルセリーノ(カルヴォ少年)が神様と言葉をかわし、ラストにつながるシーンまでが最高に美しく感動的。きっと今もスペインのどこかの村で、民話“パンとワインのマルセリーノ”が語り継がれているかも知れませんね。キラキラと輝く真珠のような名作に、文句なしの10点満点。※《追記:ネタバレ》ところで、なぜ神様はマルセリーノを昇天させたのか? 余りにも酷ではないかという意見もあるようですが、私なりの解釈をしたく思います。物語の途中、マルセリーノはサソリに刺されます。実は、この時点でマルセリーノは死んでいたわけなんですよね。しかし神様は死なすには早過ぎるし、まだその時期ではないと判断して特別に生かしてくれたんですよね。神様がマルセリーノに大きくなったら神父になりたいか、と尋ねるシーンがあります。それでもマルセリーノはかたくなにママに会いたいというだけです。もともと無い命、それも良かろうということで昇天させたわけなんですよね。十人十色の受け取り方が出来る典型的な作品ですね。 10点(2003-07-19 23:10:04)(良:2票) |
6. 激突!<TVM>
スピルバーグ監督の代表作であり、サスペンス映画の傑作! 初見は随分前にテレビで見たわけですが、最後の最後まで手に汗握り画面に釘付けでした。凄い恐怖映画があるものだと思いましたね。低予算だがアイデアと脚本、そして監督の演出次第ではこんな傑作が作り得るというお手本みたいなものでしょう。スピルバーグの才能には本当に恐れ入る。不気味なタンクローリーが次第に凶暴な怪物へと変貌し、逃げ場のない獲物を追い詰めていく展開が見事。文句なしの10点満点。 10点(2003-02-24 12:46:57) |