1. 原子怪獣現わる
7点にしちゃうけど、物語史を考える上では重要な作品だと思う。今日に至るまで見てなかったというのを恥じた逸品でした。 (詳細はブログにて)[DVD(字幕)] 7点(2008-12-21 01:22:55)(良:1票) |
2. ケス
《ネタバレ》 主人公ビル・キャスパーの生き生きした表情、子供っぽい思考。それが微妙に変化していくのが見もの。彼を認めた教師は、最後はほとんど同業者としての対等な立場で彼と話している。 ケスとの出会いが、少年を《親》にし、次に《教師》にする。 最後に苦いラストへ持っていくのはディナーの皿に残ったパセリみたいなモンで、あんまり気にならなかった。 んが! マンチェスター・ユナイテッドのサッカーは、ありゃ何だ(笑)。全体の硬質でクリスタルな感じの展開より、ケン・ローチのユーモアセンスの方が衝撃でした。ローチも結局はモンティ・パイソンの国の人間ですなあァ。 [映画館(字幕)] 8点(2007-05-10 21:17:38) |
3. ゲゲゲの鬼太郎(2007)
蛇口故障。自分でも呆れるほど泣いて、終わりの方では嗚咽も漏らしちゃって…子供がいっぱい観に来てた中で、猛烈に恥ずかしかったというか。 予告で「泣くかもなあ」という予感はあった。 ちゃんとした鬼太郎の物語としてこなれてはいるんだが、今回の鬼太郎は、舞台がちょっと違うのだ。作中で明示はされないしロケ地は全国あちこちに散らばっているんだが、間違いなく東京の霊山・高尾の話。 森・霊園・土地開発・団地・列車の車庫・天狗と狐と烏・トンネル・そしてあの土地独特の霊気に満ちた空気(要するに湿度が高くて霧が出やすいだけなんだが)、そんな高尾周辺のアイテムで覆い尽くされていた。冒頭の森の、あの空気を観ただけで泣くやつは泣くだろう。オイラは1カット目で既に涙が出ていた。 あの特殊な空間と土地の精神を、よくここまで統合して映画に放り込めたモンだと思う。あそこに住んでない人は、映画を観てから一度訪ねてみて頂きたい。本作の空気からすると、桜の咲く頃から梅雨明けの時期までがいいだろう。多分、風景は全く似てないのに、空気だけが激似で驚くと思う。あと、ゲゲゲの森は黒部湖のあたりと見た。ちょっと東京からは離れた感じだ。 小雪はもう少し頑張れないものか。田中麗奈は芸達者に囲まれ、緊張しまくりなのが見えて、逆に楽しい。中村獅童はヤケクソな腹の据わり方がムチャおかしい(ま、いつも通りなんだが)。「獅童さん、大テング役をオネガイしますよ! これができるのは日本中で獅童さんしかいませんよ!」と言われた瞬間の顔を見てみたくなった(笑)。妖狐たちのマトリックスぶりは、CG使ってないんで本家より燃えたかも。西田敏行・谷啓は完璧な出オチですね。 できれば高尾在住の楳図かずお先生にもカメオで御登場頂きたかったが…水木しげる作品に出てもらうのは厳しいだろうからなあ…惜しい! [映画館(邦画)] 9点(2007-05-09 16:10:43)(良:1票) |
4. ケルジェネツの戦い
今まで慎重に避けてきた、とってもとってもおっかないノルシュテイン評。まあ最初は無難な(そうか?)あたりから…。 去年の『ナイトウォッチ』を皮切りに、太陽ソラリス罪罰カラ兄チャイコフスキー…ソ連・ロシア映画をけっこう観ました。で、美術さんの仕事ぶりが他の文化圏と違うのにビックリ。リトアニアの一分アニメも観たんですが、これすら美術がロシアっていた。 本邦みたいにデッサンがカチッと決まって「整理整頓の行き届いた世界」ではなく、様々な色が重層的に折り重なる「玉虫色でグニャグニャした世界」。明らかにロシア圏の美術担当は、同じ美的感覚の下で仕事をしています。 で、最近とても気になっているのがロシア正教。「言葉」を最重視して、全ての拠り所を聖書に求めるローマ旧教&新教と違い、ロシア正教では偶像としての聖画も重要な信仰対象になってるからです。画だけではなくステンドグラスも信仰対象で、名作の写真集見ても「なんじゃこりゃ」状態なんですが、函館出身の方に聞くと色ガラスの組合せにも宗教観があるんだとか。そういうガラスの光に包まれてミサなんかをやってる風景を想像すると、ロシア圏の映画美学が判らなくもないような。 ともあれ部外者にはまったくわからない独自の美学が、教会分裂千年の歴史で醸成されてきたのは想像に難くないですな。悟り重視だというその教義も、西側諸宗派のように世界を縦割りにしてしまう暴力感がなく、西とは全く別の宗教観の下で映画人が育っているのを感じます。ソクーロフやタルコフスキーはともかく、あのベクマンベトフですらその美的枠組の中にいる…と思うだけでもそこに分け入って、世界観を覗いてみたくなります。 で、その世界に住む究極の監督と言っていいノルシュテインの、思いっきり宗教じみた本作。ロシア正教的な美術への入口編と言ってもいいし、言葉を換えれば到達点と言っちゃってもいいんじゃないすかね。冒頭なんか、聖画をアニメートさせてる時の宗教的高揚感みたいなモノまで感じちゃうし。本作自身が、20世紀から始まった「動く聖画」の鋳型になるかも(まあロシア建国の物語ですが)てな、そんな気迫に満ちています。こいつを見続ければ、得るモノがあるかもなあ。 まあ彼は同時に《エイゼンシュテイン主義》の最右翼でもありますから、ロシア正教だけでは上手に斬れないだろうとは思いますが。やっぱり彼の作品は恐ろしいな。 [DVD(字幕)] 6点(2007-05-02 22:27:33) |
5. 敬愛なるベートーヴェン
期待してたのに期待してたのに期待してたのに~ッ! …あああああこの悔しさをどうぶちまけてくれよう。とりあえず、交響曲に史上初めて「言葉」が紛れ込んだ第九のオハナシが、原語のドイツ語じゃなく英語で語られるのはどーかと思うんですが。 これは音楽映画ではなかった。少なくともベートーベン映画ではなかった。恋愛なき恋愛映画。クローズアップと超クローズアップを切り替えつつ進行する画面の語法は全編濡れ場の一大ポルノだと思った。 あの時期のベートーベンが「神」を口にするのは構わない。だがそれは「疾風怒濤」や「革命」や「市民」という18世紀末を乗り越えた後にやってきた、彼なりの苦い、猛烈に苦い悟りなんだ。『大フーガ』が、神のみに聞く事を許された最凶の俗悪作品となったのも、希望や挫折を繰り返した彼の前半生があればこそなのだ。 全てを嘘っぱちで固めて無茶苦茶な音楽解釈をした《全編シャレ》の『アマデウス』は罪の程度としては軽かった(けどやっぱりオリジナルの独演舞台でこそ成立する仕掛けだと思う)が、今回のコレは中途半端に現物へ肉薄しているだけに、逆説的に薄っぺらい。 その大作曲家から薫陶を受け(?)た主人公が最後に到達する境地は、なんとベートーベン当人じゃなくマーラーがやろうとした事&ケン・ラッセルが『マーラー』でやってしまっている映像。 監督。時代を100年間違えてます。ベートーベンがインストゥルメントに「言葉」というメッセージを入れたのは、マーラーが和声を崩してまで異質な旋律を立たせたソレとは違うのです。ベートーベンの音楽には《自分》や《人間》や《生命》はあるけど、《自然》はないのです(キッパリ)。 [映画館(字幕)] 3点(2006-12-30 14:09:33) |
6. 幻遊伝
あれ? この作品の鑑賞環境って「映画館(邦画)」? 「映画館(字幕)」? 悩ましいモン作りやがったなあ…。 さて。この映画は子供向けだし、シナリオ破綻してるし、「時間旅行」ではなく「前世に送られた」という民俗学的設定なので、突っ込む気がなくなるほど大陸的で大味でした。オイラがこの映画を評価するのは「田中麗奈」。この一点のみ。 そもそも彼女が第一目的で観に行ったワケですから…でも冒頭はしっかり裏切られた気分になりました。ま~~ったく可愛くない。演技もかなり大味。対する父親の大杉漣もゆっくり喋るもんだから間が悪いのなんの。心中「絶対3点つけちゃる!」と拳を握り締めたのはまあいいとしまして…複数の主要人物がひとつ屋根の下に集合するまで、失望感でガックリ来ていたのは間違いありません。 でもそこからが違った。いや最初から日→日中バイリンガル→完全中国語…と少しづつ言語面の変化は訪れていたのですが、主人公・小蝶が当時の服装に着替えてから、ガラリと変わりました。 演技が、完全に中華活劇のアレなんです。カンフー映画のヒロイン。口を大きく開けてカツゼツはハッキリ、演技も大振りで、表情に至っては日本人と思えないほどクルクル変わる。そこでやっと冒頭のヘボい演技が「中華活劇の中で描かれる日本人」を演じていたんだ、というのが理解できた次第。 日本の演技メソッドと中華圏の演技メソッドを、一作の中でここまで自在に使い分けた女優は寡聞にして知りません。身振りや顔つきまで中国人になった田中麗奈は、日本的美を離れて、華人として美しい。しかも台湾生まれ台湾育ちの小蝶は「中華~日本の間にあるグレーゾーン」の住人であって、2民族の間に様々な中間点がある事を演技で示してくれている。これでシナリオが大人向けだったら、素晴らしい国際色を出していたと思います…残念ながらコレはキョンシー映画でしたがネ。 田中麗奈なら将来、今までにない劇的な解釈の李香蘭を演れる(断言)。そして彼女を三娘役に迎えれば『一輝まんだら』の実写化だって不可能じゃない(まあ脱ぐ気があれば、ですけど…)。 ふたつの文化に根ざした、ふたつの美学。それを「ふたつ」と見ずに、両極・中間を自由自在に飛び回る彼女の姿こそ、名前通りの小蝶でした。どこまでも自然体で、因習に澱まず、美しかった。次の大きな何かへの予告編でした。 [映画館(邦画)] 7点(2006-09-04 01:30:06)(良:1票) |
7. 月世界旅行
この春、19世紀末ロンドンの大衆演劇界を描いたピーター・アクロイド作『切り裂き魔ゴーレム』を読んだんですが、それ以降、これまでボンヤリと感じていた欧州演劇史に対する考えが明確になりつつあるところ。乱暴を承知で言ってしまえば「19世紀末の演劇界は現在信じられているよりもビジネスとして/メディアとして/芸術として遥かに成熟していた」ってコトですね。 特にギミック演劇に関しては、現代の特撮なんかよりずっと自由度のある表現がされていたんじゃないかと思います。演劇であっても、操演もあったし火薬も使った。大道具職人たちの描いた精密な背景は巨大セットにもCGにも匹敵した。脚本は天界だろうが地底だろうがどこにでも行けたし、そこではスターたちが歌って踊って、恋と殺しに明け暮れて…。 だから、本作が上映される前にメリエス(でなければ他の興行師)がヴェルヌの『月世界旅行』を舞台化しなかったとは到底思えないんです(そして本作以上に有名となった「砲弾の射ち込まれた月の顔」は、必ずや吊りギミックとして舞台に下りてきた…んだと妄想)。いずれ調査してここに追記するつもりですが、いまのところ本作を、爛熟期にあった大衆演劇をリアルタイムに写し取った“ドキュメンタリー”として評価するコトにします。ま、このままの展開で、派手なギミックに置き換えてミュージカルにしたら、ひょっとすると現代でも通用するかもね。 [インターネット(字幕)] 5点(2006-07-15 19:19:54)(良:1票) |
8. 激突!<TVM>
ここのリスト見て、スピルバーグのデビュー作ではなく第3作だというのを知りました。そうか3作目が『激突』か…キューブリックの3作目は『突撃』だったっけ。←睡眠不足 [地上波(吹替)] 7点(2006-05-08 04:07:48) |
9. けだもの組合
《ネタバレ》 マルクス初体験でやんす(かんたーたさん、映画のセレクトがかぶりますねえ)。さてオイラも叫ばせて欲しいですね。なんだよあの結末はッ! 生まれてこの方あんなの見たことねーよ! しかも時代性を考えてみて、最後のアレって何となく毒ガスを暗示してるんじゃないかと言う気がするんですが…ブラックすぎ。シーンのつなぎ方やセットの数を考えると、元々マルクス兄弟がNYで上演してた舞台版をそのまま映画にしたんだと思いますが、やっぱあのエンディングだったのかなあ…だったんだろうなあ(笑)。特筆しなきゃなんない事として、噂に聞いていた長男チコのピアノ演奏。コレは涙が出るほど素晴らしかったです。あの指運びの柔らかさ、的確さ、右手の滅茶苦茶な遊びっぷり。至福の3分間、とんでもないピアノ芸を見せて頂きやした。その他は…まあドリフの原点、て感じでしょうかねえ。笑いようがない(意味がわからない)時事ネタが多いみたいなんでこの点数で行きますが、彼らの代表作は一通りチェックせねば、と思わせるだけの力はありました。 [DVD(字幕)] 6点(2006-01-03 03:06:20) |
10. 決断の3時10分
《ネタバレ》 まあいつもは映画の嗜好がオイラと異なってる元みかんさんのレビューですが、ここまで熱く語られると手に取らないわけには行きませんにゃあ(笑)。で、ここのレビューを読まなかったら存在すら知らずに一生を終えた (詳細はブログにて)[DVD(字幕)] 8点(2005-06-19 03:21:26)(良:1票) |
11. ケン・ラッセルの 白蛇伝説
おんや、いつの間にか登録されてる…いつも登録しようと思って後回しにしちゃってたんだよなあ。なんせへちょちょさんの仰る通り、思いっきり退きまくる映画ですからねー。でもでもケン・ラッセルといえばコレでしょう(超偏見)! ストーリー展開に従って、画面の構図が「通常モード」と「蛇SMモード」に分かれてるんですが、蛇SMモードに移行した時のパワーがとんでもない! 「はっはっはー俺様の世界によく来たなーッ!」とばかり、監督の脳からほとばしるギトギトの血まみれパンクロックが展開されます。ここだけ、60年代のドラッグ系ムービー+ゴア・ムービーの世界なんです。通常モードがあまりに地味だからギャップの凄さにひっくり返っちゃうんですよね。脳内皇帝ケン・ラッセルがリミッターを外し、事象の地平線までノリノリで突っ走って行く有様は、あの『鉄男』ですら勝てないと思う。『ザ・セル』? 『アイデンティティ』? メじゃないね。比べるなら『ポゼッション』だ(ちょっと違う気はするが)。イッちゃった人の脳内世界を覗いてみたいなら、迷わずこの作品を推します。あ、ストーリーとかアクションには期待しないで頂きたいですが。 7点(2004-12-13 23:51:22)(笑:1票) |
12. 現金に体を張れ
とても『非情の罠』を作った後にこの映画を撮ったとは思えない! これはキューブリック映画とは思わないようにしてます。先の展開が読める読める。スターリング・ヘイドンも後の『博士の異常な愛情』での怪演を思うとなあ。 2点(2004-10-30 19:18:06) |
13. 刑事コロンボ/策謀の結末<TVM>
コロンボもので1作挙げるとすれば、やっぱこれかな。ミステリとしては凡だけど、スケールがねえ。武器密輸にアイルランド革命だからねえ。この事件と『パイルD-3』と『祝砲の挽歌』の3事件解決してりゃ、普通ならFBIから引き抜かれるとか署でデスクワーク待遇になるとかしてるはずなんだが…昇進を阻むよほどの欠点があるのか? どうよコロンボさん。 8点(2004-02-23 07:04:28) |