1. こんにちは、私のお母さん
テレビで大喜びするシーンがあるのは三丁目の夕日を思い出します。中国人にとって文革が終わった後の時代はちょうど日本の戦後にあたるのでしょうね。基本的なプロットはバック・トゥ・ザ・フューチャーを参考にしてそうですが、中国人の太った娘と母親の物語である点は奇しくも同時期のアメリカ映画エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスとも被ってますね。太っていることを笑いのネタにはしない配慮は良いのですが、ハゲは普通に笑い者にしちゃっているあたり監督が主演を兼ねてるのでそこは避けただけなのかもしれません(笑)。中国は一人っ子政策だから子供への期待が大きく、そして一人っ子政策だからこそ親から子供が大切に育てられていることが反映された物語ではあるんでしょうね。普通に笑って泣ける映画ですが、最終的に単純な母性愛賛歌に収まるのにはなんだか検閲の臭いを感じなくもないです。それにしても父親の影が薄いのですが、そこは東アジアに共通の傾向がありそうです。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-10-14 23:46:08) |
2. 告白(2010)
90年代以降日本で盛り上がりを見せた少年犯罪の凶悪化言説、それが反映された最末期の作品ですね。なぜか2010年代以降この手の作品が全然話題にならなくなった気がします。他に注目すべき問題が出てきて少年犯罪程度で騒ぐ時代ではなくなったのか、あるいは観客やクリエイターの世代交代が進んだおかげでしょうか。アメリカの銃乱射などは現役バリバリの題材なところを見ると実は大して現実を反映した深刻な問題でもなかったんでしょうね。松たか子が殺してやりたいというと教室が静まり返る場面は良かったですね、みんな先生の話を聞いていないように見えて実はちゃんと聞いているんですよね。法律があてにできないにしろ警察の存在を無視しなければ成り立たないような不自然な物語を構築するのはやめるべきだと思います。こんなしょーもない内容で罪と罰を持ち出すとか勘弁してください。 [インターネット(邦画)] 1点(2023-09-24 18:37:05) |
3. コーダ あいのうた
性に対してあっけらかんとしているのはフランス映画のリメイクだからでしょうか。いくらなんでも映像や編集にこだわりがなさすぎるような、なんだかテレビドラマを見ているような気分になります。家族と学校のような狭い世界の問題しか描かれないところもその印象に拍車をかけます。米国の事情には詳しくないですし漁師の生活も勿論大事ですので安易に批判するのも良くないのですが、乱獲の規制がまるで悪いことのように描かれているのも違和感があります。ろうあ者であろうと何一つ特別視するべきではない普通の人間であるというのはその通りだと思います。しかしこの映画はろうあ者を主要な登場人物に据えているところを特別視しなければ目新しいところもない平凡なドラマでしかないと思います。まあ斬新な設定や深刻なテーマ、グロテスクな描写等にうんざりしてベタなドラマを見たい時にはちょうどいいのかもしれません。アカデミー賞の審査員もそういう気分だったのでしょう。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-09-05 22:35:50) |
4. GHOSTBOOK おばけずかん
サニーマックレンドン以外にも教室にはハーフっぽい子がいましたね、こういう特に題材上必要でない場合でも多人種的なキャスティングはこれからどんどん増えていくでしょうしそうあるべきですね。学校の怪談の現代版…と思わせて作品の雰囲気が一番近いのは平成モスラかもしれませんねー。内容は子供向けなんですがその辺りに映画の原体験がある方はすごく楽しめるのではないでしょうか。山崎貴監督は昭和ノスタルジー作品はずっと作ってきたのですが、この頃の懐かしさを感じさせる作品も作れたんだなと感心しました。まあデビュー作がジュブナイルですからね、ようやく初心に帰れたとも言えます。山崎貴監督はこういう作品ばっかり作っていれば誰も不幸にならずに済んだのに、こういう作品ばかり作り続けられないのが不幸な時代ですね。確かに陳腐で新鮮味のない描写だなーと思うところもありますが、劇中に出てきたカレーや麦茶が美味しそうだったり、ところどころでクスリと笑えたり終盤盛り上がるところで盛り上がってちょっと切ない感じで終わる、映画ってのはそれで十分なんです。残念ながらこの映画はあまりヒットしなかったみたいですが、去年劇場で小さなお子さんがお母さんにこの映画のグッズを買ってもらう場面を見かけました。届くべき人に届いたならそれでいいんだと思います。 [DVD(邦画)] 7点(2023-08-12 18:38:56)(良:1票) |
5. 子猫物語
興行収入98億、配給収入54億の大ヒット作でありながらある種の異様さを漂わせる作品でどうせくだらない映画だろうと侮っていたのですが、これが意外と楽しめましたね。全く人間が画面に映らないのはこれはこれでプリミティブな映画体験で貴重です。坂本龍一が音楽を担当しているからどうしたという感じではありますが(笑)。美しく雄大な自然の中での動物たちの冒険劇はジブリアニメのような雰囲気もあって悪くないですよ、そういえば豚も出てきますしね。確かに動物虐待にはなるのでしょうが、もし人間がやっていたらかなり危険なスタントですのでハラハラドキドキする迫力のあるシーンを作れていると思います。そこには映画を面白くするためなら何だってする昔の活動屋精神のようなものを感じますね。種族の違う動物同士が仲良くするシーンもよく撮れたものだと感心します。ドキュメンタリーではなくやらせという点が評価を下げているのでしょうが、演技のできない動物で劇映画を構成するにはかなりの労苦があったでしょうしむしろその点を評価してもいいのではないでしょうか。まあ実は心温まるファミリー向け映画というよりグァルティエロ・ヤコペッティのような作家と並べて語るべき作品なのかもしれません。 [DVD(邦画)] 6点(2023-07-20 23:58:49) |
6. 5時から7時までのクレオ
ヌーヴェルヴァーグとか今更見てもたいていつまらないしヌーヴェルヴァーグ左岸派とかなんのこっちゃという感じでsight&soundの2022年版オールタイムベストに見慣れない映画があったからという非常に軽薄な動機で見たのですが、これは今も古びてないどころか現代的なセンスでかなり楽しめる作品でした。日本の女性作者のエッセイ漫画みたいな感覚です。ヌーヴェルヴァーグらしい自由な軽快さがありながら死という現実に向き合うことをテーマに据えたちゃんとした構成があるところが頭一つ抜けています。ああいう口うるさい世話焼きおばさんみたいな人いるよなあ、人の目を過剰に気にしてしまうような時ってある、お互い理解がずれた微妙に噛み合わない会話、街の人々の会話や振る舞いもどこかで見聞きしたことがあるような既視感があります。自分に関係なく世界は流れてゆき何にも変わっていないのになんとなく何かがわかったような気がして生きていく、まさにこれこそが人生そのものではないでしょうか。 [インターネット(字幕)] 8点(2023-06-03 20:28:50) |
7. こちらあみ子
物語自体は暗いものでもシュールでコミカルと感じさせるバランス感覚が絶妙ですね。序盤から何となく相米慎二監督のお引越しを思い出しながら見ていたんですが、ラストの水場のシーンを見る限りこれは明確にオマージュしているのではないでしょうか。カメラワークもロングショットの長回しが目立ちますが技巧そのものが突出しているわけではなく好感を持てる一方、もうちょっと凝った演出も見たかったと物足りなさを感じなくもないです。大沢一菜の演技は田畑智子を超えてるかもしれませんね。お引越しのラストは少女の成長を象徴したシーンという見解が有力なようですが、この映画はそれとは真逆のどんな経験を経てもそれを糧とすることができず成長することができない性質として生まれた人間の至る悲劇と言えます。そしてそれを正当化するわけでも悪いものと糾弾するわけでもなく、自分は自分なのだからただそういうものとして受け入れて生きていくしかないのです。 [DVD(邦画)] 7点(2023-05-21 23:14:51)(良:1票) |
8. GOEMON
これはまともな映画だと思います。リーマンショックの次の年にこの映画を公開できた紀里谷和明は悪くない勘の持ち主です、CASSHERNもイラク戦争開戦の次の年ですからね。CGを使った派手なアクションシーンばかり注目されますが、蛍が飛び交う水場、年少時代の五右衛門と茶々の寝室でのシーン、オルゴールの音が流れる五右衛門と秀吉の最期の会話シーン、こうした静のシーンもちゃんと作られていて静と動のリズム感があります。映画は蛍の光に始まり、中盤で蛍の水場での茶々との再会のシーンが挿入され、最後は空の蛍の光で終わる。物語の時間軸としては信長の兜を五右衛門が投げ渡されることで始まり、最後には信長の鎧兜を身に付けて終わる。反復構造による演出も考えられています。単にCGを多用するからダメだとは思いません、我々はCGアニメで描かれる物語にもリアリティを感じることができます。CGによってリアリティが損なわれるのは映像に統一感がなくなることが一番の原因です。この映画の映像には統一性があります、まあ確かにアクションシーンはやりすぎなんですが。惜しむらくは叩かれすぎたのか後の作品ではCGを多用した映像美を捨ててしまったことです。上手く手綱を握れる人間さえいれば実写映画で新海誠と庵野秀明を足して割らないような監督になっていた可能性すらあると思います。結局宇多田ヒカルと別れちゃったのが一番の失敗だったのかもしれません。 [インターネット(邦画)] 7点(2023-04-27 23:50:18) |
9. 恋するトマト
この映画はタイトルで損をしていますね。もう少し深刻さを感じさせるタイトルだったら注目度も評価も上がったはずです、少なくとも副題のクマインカナバーをメインタイトルにするべきでした。しかしちゃんと御覧になった方々は高く評価されてるようで何よりです。①非現実的な設定がなく、善人でも悪人でもない平凡な人間の物語である。②登場人物が日本人に限られず多国籍である。③現代社会に対する批判性がある。④その上で作家性を押し出したような作風ではなく親しみやすいエンターテインメントとして成立している。現代の日本映画でこの四つの条件すべてを満たす作品を見つけることは困難ではないでしょうか。やや主人公に都合の良い展開や安易なオリエンタリズムのきらいがあるのは認めざるを得ませんが、それでも前述の①②③④の観点から見直される価値がある映画だと思います。このような美点を持つ作品が増えれば日本映画の状況はずっと良くなることでしょう。 [インターネット(邦画)] 8点(2023-03-05 22:08:58)(良:2票) |